内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第3話「復讐」

第3話「復讐」

2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 17:48:19.29 ID:MxrdXbq10

第3話「復讐」


時間が経つのは早いもので、また一年が終わろうとしていた。
「セントラル」が出来てからは科学技術が急速的に成長を遂げたが、その勢いをこの2058年も保つ事が出来た。

特に主立っていたのが、強化人間システム・ディレイクのB00N-D1ことブーンと、
対セカンド人型戦闘兵器バトルスーツによる競合だった。
両チームによるトップ争いは結果として両チームの成長を促し、「セントラル」にも良い結果をもたらして来たのだ。

もっとも、セカンドを狩るという点ではチーム・ディレイクが群を抜いた活躍を見せている。
その事が原因となり、両チームの争いは更にヒートアップしたのであった。

バトルスーツのチーム・アルドリッチも、セカンドを狩るという活動ではないが、非常に優秀な結果をこれまで見せている。
ここ数年、チーム・ディレイクがセカンドの掃討をしている裏で、
地球軌道上小型衛星の開発と、その打ち上げのプロジェクトを進行させていたのであった。

衛星は人類がセカンドに抵抗する上で不可欠な存在になるという事は、
ライバルチームのリーダーであるツン・ディレイクも悔しいが認めていた。

3 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 17:52:07.91 ID:MxrdXbq10
この衛星は、地球上の全セカンドの位置の特定という目的で開発された。
対セカンド兵器開発部のハインリッヒ・アルドリッチがこのような衛星を開発したのか、
その理由は定かではないが、人々の間ではこう噂されていた。

「衛星を使って大型セカンドの発見し、それをバトルスーツ部隊で叩いて手柄を挙げたい」のではないか、と。

ハインリッヒが議会で進言した内容が何処からか漏れ、そしてこのような噂に転じたとも言われているのだが、
実際の所「セントラル議会」がハインリッヒの衛星打ち上げの目的に対して多大な関心を集めたというのは、
物資や施設などを提供する議会の様子から、それが事実だと判断するべきなのだ。

しかし、「セントラル議会」は衛星打ち上げをより確実にする為に、チーム・ディレイクにB00N-D1の同行を命じたのだ。
議会の決定は両チームがどう言おうと覆されるものではなく、
衛星打ち上げは因縁のライバルチーム同士による協同任務となってしまった。


そして運命の日は明日に迫った―――

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:25:09.87 ID:MxrdXbq10


大晦日の夜だというのに「セントラル」内は慌しかった。
特に兵器研究開発チームの根城である第3階層は殺伐とした雰囲気に包まれている。

その原因は両チームのリーダーにあるようで、互いのリーダーは自分のチームが最も優れている事を証明したいが為に、
研究員に休み無しで働かせているのがいけないようだ。

ξ#゚听)ξ「ドクオ! 煙草吸う暇があるんなら武器の一つでも作りやがれ!!」

(;'A`)「もう作戦まで12時間くらいしかないのに?
     いい加減もう寝かせてくれよ」

既に12時を周ろうとしていた。
ミッションスタートまで残り僅か12時間を迫っているにも関わらず、ツンはより良い結果を出す為に鞭を振るっていた。
ツンの元で働く研究員は激務に追われ、もはや疲労困憊の状態にまで追い込まれていた。

そのくらい、ツンの人使いは荒い時は荒い。
決して人を使う事がヘタな訳ではないのだが、いかんせん強気で負けず嫌いの不安定な性格の為に業務にも影響があるようだ。

ブーンはというと、トレーニング室で明日のシミュレーションを何度も行っていた。
唯一の戦闘員である彼もまた、ツンの“しごき”を受けていた。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:28:28.05 ID:MxrdXbq10

(;^ω^)「い、いつまでやらせるんだお…もう20回は衛星打ち上げてるお……」

ξ#゚听)ξ「まだ終わりじゃないわよ!
       次は全く別のパターンを想定したシミュレーションを行ってもらうわ!
       いい!? バトルスーツなんかよりウチが優れている事を証明しなきゃダメなのよ!」

ツンの気持ちが分からなくないブーンは、口答えする事を止めた。
その代わりにツンを宥める為の別の言葉を考えてみた。
何故ツンがハインリッヒに勝つ事に拘るのか、その理由をブーンは良く知っている。

( ^ω^)「それには賛成だお。
       ツンと、ツンのお父さんが作った理論が一番だって事を必ず証明するお」

右耳に飛び込んでいた怒号が止まり、しばらくの沈黙の後に弱弱しい声で「そうね…」とツンは一言返した。
それまで怒りに身を任せていたツンだったが、やっと冷静さを取り戻してくれたようだ。

冷静でなくとも彼女の計算は完璧であるので、その点では何の心配も無かったが、こう五月蝿いのでは敵わないし、
ストイックすぎる扱いの為に皆のモチベーションが逆に下がってしまうのは問題だ。

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:32:11.59 ID:MxrdXbq10
しかし、次に通信されてきた声は今日一番の怒号であった。

ξ#゚听)ξ「今更証明する必要なんか無いわ! 今回のは確認よ! 確認なのよ!!
       あたしとお父さんの理論が一番正しいのは昔からそうよ!
       アンタに言われなくても分かってるわよ! このバカ!」

最後に「もう寝るわ!」と言って、ツンの通信が切れた。

(;^ω^)「(まぁ、結果オーライだお)」

自分のデスクでへばっていたドクオは、その様子を聞いて一人で笑っていた。
他チームの兵器に勝つ為に今頃躍起になって作業しなくても、元々ディレイク親子のシステムが最も優れているのという事は、
ドクオやブーンをはじめとするチーム・ディレイクの面々が思っている事なのだ。
その事にツンが気づいてくれたのが、ドクオは嬉しかったのだ。

('A`)「(だから、俺はこのチームに入ったんだぜ?)」

ドクオは自分の子供の頃を思い出した。
自ら強化人間となって戦ったディレイク夫妻の勇敢な姿を見て、自分も共に戦いたいと拳を握って夢見ていた頃を。
残念ながらセカンドに対する免疫が無い彼は非戦闘員になってしまったが、
自分の作った武器がセカンド討伐に役立っていると思えば、今の自分の仕事に気高い誇りを感じられるのだ。

19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:35:53.65 ID:MxrdXbq10

ξ゚听)ξ「何ニヤついてるのよ? 気持ち悪いわね」



('A`)「お前の髪が巻きグソみたいで面白いんだ。改めてツボだわ、それ」



冗談であっても言ってはならない言葉が存在する。
ツンにとって「巻きグソ」「ジャリ」「まな板」「ひんぬー」がそれに当るらしいが、
他にも逆鱗に触れる言葉が多々あるようだ。
彼女と長くいるブーンもドクオの二人も、その“地雷”を見極めていないのだと言う。


ξ# )ξ「あー……ムカつくわ……腹が立つわ………」


もっとも、ドクオが発したような暴言を言えば、彼女が腹を立てるのは当然の事である。
2058年の夜、ドクオは鬼の顔を目の当たりにし、その後の記憶を無くしたまま新年を迎えたのであった。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:39:55.75 ID:MxrdXbq10



トレーニングを終えたブーンはラボで倒れているドクオを横目に素通りし、バーボンハウスへ向かおうとしていた。
ラボに誰かが倒れているのは日常茶飯事ですっかり慣れてしまった。
そんな自分の感覚も日々おかしくなっているのだなと、ブーンは何故か感慨深く感じた。

元旦の深夜なので一人も歩いている人がおらず、道路に目をやってもアクセサーが動いている様子も無い。
ツンのラボから一番近いアクセサー乗り場へ到着すると、アクセサーに乗り込んでいるツンの姿があった。
ブーンはツンを驚かしたくなり、背後から飛んでいきなりツンの隣に座ってみせた。

ξ;゚听)ξ「きゃあっ!? ブ、ブーン!?」

( ^ω^)「やったおwwwww驚いてるおwwwwwwwwww
       ってか、ツン。二人の時は“ナイトウ”って呼ぶ約束だお!」


  ないとおおおだいすけえええええ ξ#゚听)三○)ω^) そうきたかあああああああ

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:42:11.64 ID:MxrdXbq10
ツンはアクセサーの行き先を入力するのを止め、溜息を付いた。
ブーンは隣に座っているツンを見ると、その横顔の表情はどこか不安そうで、悲しげで、そして寂しさが浮かんでいた。

ξ゚听)ξ「……ナイトウ。
      お父さん達が死んで、もう6年目になったのね」

アクセサーのモニターを見ると、新年を記念した派手な文字やイラストが画面一杯に書かれていた。
時間が過ぎるのに気づく間も無く、もう新しい年がやってきたのだとブーンは感慨深く思う。
同時に、大切な人達を失ってから随分と長い時間が経ってしまったのだと改めて気づいたのだった。

( ^ω^)「あッ。トーチャンとカーチャン、今年で結婚30年目だお」

ξ゚ー゚)ξ「……そっか。じゃあ今年はお祝いしなくっちゃね」

( ^ω^)「だおだお!」

――僕とツンの両親はセカンドに殺されたのだ。
僕の両親は「セントラル」が出来る前にセカンドに殺されてしまった。
セカンドに対する強い免疫を持っていた僕は、深手の傷を負うも何とか逃げる事が出来たが
両親や多くの友人をその時に失ってしまったのである。

両親を殺した大型セカンドの事は今も鮮明に思い出せる。
醜い容姿、両親を喰った時の悦の声、奴の全てを―――。

25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:45:04.02 ID:MxrdXbq10
( ^ω^)「強化人間になって5年経ったというのに……
       僕は奴等を見つけ出せられなかったお……ごめんお、ツン」

ブーンは無意識に拳を握り込んだ。
自身の力で頑丈な両拳がミシミシと軋ませているのを、美しい幼馴染が機械の手を拳にそっと乗せて制した。
機械の手と機械の手は互いに熱も冷たさも感じなかったが、確かな気持ちはしっかりと伝わり合っている。

ξ゚听)ξ「今度の衛星打ち上げは絶対に成功させなくっちゃね。
       作ったのがアルドリッチってのがムカつくけど、衛星は超高性能なのよ!
       屋内だろうと海底だろうと正確な映像を送ってくれるわ……つまり……」

――ツンのご両親は聡明な科学者で、彼女の父は僕と同様にウィルスに対する強い免疫を持っていた。
自分の理論を自身の体で実験し、勇敢にセカンドと戦いながら「セントラル」の建設に力を注いでいたのを、今でもよく覚えている。
その時にシステム・ディレイクの理論は完成されていたが、完全に体に積載させる設備と時間が無かったのだ。

「セントラル」が出来る直前にツンの父親はセカンドに殺されてしまった。
襲ってきたセカンドを全て撃退させ、死ぬ寸前まで「セントラル」と自分の娘を守ったのである。
システム・ディレイクではないが、彼女の母親もまた果敢に戦って命を落としたのだった。

ツンの父親が今の僕のように完璧な状態だったのなら、2人が死ぬ事も無かったかもしれない。
ツンは免疫を持っていたのでウィルス感染する事は無かったが、機械の腕を着ける事になってしまったのだ―――。

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:47:46.37 ID:MxrdXbq10
( ^ω^)「……つまり、衛星があれば奴等の位置が分かるお。
       位置さえ分かれば、この手で奴等を殺しに行ってくるお」

――そして僕達は、復讐の為に生きる事を決めたのだ。
ツンは必死に勉強を積んで、両親の提唱したシステム・ディレイクを更に実戦向けへ改良した。
僕は自らその実験台になる事で、セカンドに対抗できる体を得たのだ―――。

ξ゚听)ξ「よし、景気付けに今夜は飲むわよ。前祝いよ!」

( ^ω^)「えっ」

ξ゚听)ξ「えっ、じゃないわよ! 飲みに行くわよ!」

( ;ω;)「(し、しんだ………)」

ツンの酒癖は最低なまでに酷い。
ブーンは彼女とは二度と一緒に飲まないと誓っていたのだが、これは流れ的に行かざるを得ない状況である。
ブーンは覚悟し、アクセサーの行き先をバーボンハウス近くのアクセサー乗り場へ指定した。

アクセサーが2人を乗せて行ってしまった後、意識を取り戻したドクオもバーボンハウスへ行ってしまったのは全くの偶然だ。
この日の時のバーボンハウスの荒れ模様は、開店6年目にして過去最高だとショボンは後に語るのだった。

28 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:50:56.11 ID:MxrdXbq10


アルドリッチ・チームは年が変わった事に気付く様子も見せずに作業に没頭していた。
疲れが伺える研究員達の表情の中に、仕事の達成を目前としたある種の希望が見え隠れしている。

多くの科学者の中でも極めて忙しくパネルを叩き、マイクを使って指示を出しているのは
リーダーのハインリッヒ・アルドリッチである。

从 ゚∀从「次、衛星射出までの施設護衛シミュレーションに移る」

巨大モニターには、明日の目的地である荒廃したクイーンズ区の街並みが映し出されている。
そこを何体ものバトルスーツが機動している。
ある者は衛星の打ち上げ準備を進めており、一方では強力な火力を持ってセカンドを仕留めている。

バトルスーツの主な武器はレーザー砲やその他の実弾と爆薬となっている。
システム・ディレイクのように免疫を混入させた特殊エネルギーの放出によるウィルス消滅ではなく、
バトルスーツの戦い方は強大な火力を用いた力技を主体としている。
この兵器一体で街の1つ2つを吹き飛ばせる程の火力を有しているのだ。

29 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:55:08.53 ID:MxrdXbq10

システム・ディレイクとの違いは、広範囲の攻撃が可能な事と、大型セカンドとの戦闘に対応している事だ。
バトルスーツは全長10メートル程ある巨大兵器なので、必然的に大型種との戦闘が限られてしまう。
それはアルドリッチの技術力が及ばないからではなく、故意にそうしたのだ。


「大型セカンドを討ち取る事が、チーム・アルドリッチの存在意義なのだ!」――Byハイン从*゚∀从


ハインリッヒ・アルドリッチの掲げる理論には、そのようなテーマが裏付けされているのだ。
その単純且つ派手で豪快な研究の虜になる若者は意外にも多い。

議会での彼女の進言においても、このような事を言っていたと噂されるのも無理はなく、
衛星開発の理由とチームの存在理由の2つは決して逸れていないと言える。

元陸軍大尉であるジョルジュ・ジグラードも、彼女の研究方針に惹かれた者の一人であった。
それに元々は戦闘機乗りだった彼にとって、パイロットを必要とするバトルスーツに愛着が沸いたのかもしれない。

( ゚∀゚)「対大型セカンドレーザー砲、エネルギーチャージ完了まで残り6%!
     ……95、96、97、98%……発射!」

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 18:59:39.32 ID:MxrdXbq10

ジョルジュのバトルスーツが右手に構えた巨大な兵器は、膨大なレーザーを放ってクイーンズ区の
主要建設物と大型のセカンドを一気に文字通り消滅させてしまった。
その兵器の開発を担ったハインリッヒは、圧倒的破壊力の実現に成功した事に対して感嘆の声を上げた。

从*゚∀从「うっひょおー―――!! なんちゅーアホな威力だこと!
      だけど威力だけを見れば、まさしく最強の兵器だぜ!
      名前はそうだなぁ………ハイパーハインちゃん砲が良いと思うんだけど、どう!?」

( ゚∀゚)「対大型セカンドレーザー砲なんだが」

从 ゚∀从「ハイパーハインちゃん砲……」

何としてでも自分の名前を兵器に着けたがっているハインリッヒの言う事は聞こえないフリをして、ジョルジュが続ける。

( ゚∀゚)「自分で設計したのにアレなんだが、エネルギーチャージ中をもっと早く出来ねーのか?
     それに身動きもできねーと来た。これじゃあ撃つ前にコッチがやられちまうぜ」

从 ゚∀从「無理だ。どうしても出力の大部分をハイパーハインちゃん砲に回す必要があるんだ。
      バルカンくらいなら撃てるぞ」

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:02:32.22 ID:MxrdXbq10

( ゚∀゚)「まぁ、そんな事だろうと思ったけどな。
     もう一度同じシミュレーションプログラムを出してくれ」

从 ゚∀从「分かった。ところでジョルジュ、超絶☆ハインちゃん砲ってのはどうk……
     あっ、おいジョルジュ! 通信を切るなよ!!」
     
从 ;∀从「……いいもん! 今度は自分で兵器作って名前付けてやるんだもん!」

ジョルジュは通信を遮断した静かなコクピットの中で、自らがレーザー砲で消し飛ばした空虚な景色を眺めながら思い耽っていた。
大都市の一部が一瞬で空虚になってしまう非現実的な兵器の破壊力に、ジョルジュは歓喜するのだった。

(;゚∀゚)「ふ、フッフフ……フハハハハッ!!!
     これこそ俺が求めていた兵器だ! どんな奴にも負ける気がしねーぜ!
     圧倒的差を思い知るのはどうやら貴様の方のようだ! B00N-D1!!」

コクピットの中には、狂喜に満ちた笑い声だけが響いていた。
元軍人である彼が求めるのは、最強という名の称号や勲章なのだろうか。
はたまた、圧倒的な力による破壊の限りなのか。

33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:05:10.64 ID:MxrdXbq10


作戦当日の朝。

ラボの前で優れない表情を浮かべるのは、ブーンとドクオであった。
死人のような顔色と目で、ラボの前でぐったりと煙草を吸っていた。
とても重大任務を行う前とは思えない覇気の無さだ。

(ヽ^ω^)「き、気持ち悪いお……」

(ヽ'A`)「ツンにウイスキー何度も一気させられた後から覚えてないんだが……」

(ヽ^ω^)「教えてやろうかお?」

(ヽ'A`)「言わないでよろしい! どーせロクな事じゃないんだろうからな。
     あー水! 水が欲しい!」

ドクオの持っている携帯灰皿に煙草を捨て、水を求めラボの中に入って行った。
2人はラボに入るや否や、異常に明るい挨拶で迎えられた。

ξ*゚听)ξ「おっはよー―――ッ!」

その声の主は、鬱陶しくなるほど上機嫌なツンだった。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:06:40.64 ID:MxrdXbq10
ラボの大モニター全面に青空が映し出されている。
ツンは「セントラル」周辺を見る事が出来る外部カメラを見ていたようだ。
NYの空はどこまで見渡しても青色が広がっており、その優れた空模様はまるでツンの気分を反映させているかのように見える。
しかし、既に来ている他の研究員は困惑した表情を浮かべていた。

(;^ω^)「あ、おはようだお」

(;'A`)「お、おはよう」

ξ*゚听)ξ「2人とも今日の任務は頑張りましょうね♪
      アルドリッチなんかぶっ飛ばせなんだから! エヘッ☆」

踵を軸にしてクルリとモデルのように体を回すツンだが、全く可愛くない。
清々しいと思ったその笑顔も、よく見れば酔いの赤みが残っており、まだ目が据わっている。
髪も四方八方に乱れており、彼女の自慢のふわふわの巻き毛もすっかり崩れてしまっている。

(;'A`)「あのー、ツンさん?」

(;^ω^)「リアルに頭大丈夫っすか?」

ξ*゚听)ξ「アハハハハハハハハハッ! ご覧の通り最高のコンディションよ!
      天気も最高に良いわね! ブーン! アタシも外に連れてって欲しいわ!」

気持ち悪い程上機嫌なツンはおぼつか無い足取りでブーンに近づき、いきなり抱きついたのだ。
ツンの体中から強烈なアルコールの匂いが漂ってきて、それを嗅いだだけでブーンは吐き気を催した。


35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:09:29.29 ID:MxrdXbq10
気づけば自分の胸の中でツンは寝息を立てて寝てしまっている。
ブーンは彼女を近くの椅子に座らせようとしたが、ツンは寝ぼけて暴れて床に寝転がってしまった。
見るに耐えない醜態である。

ξ*--)ξ「カァー…カァー……」

(ヽ'A`)「あぁ……思い出したわブーン。
     俺、さっきまでコイツと飲んでたんだ」

(ヽ^ω^)「そうだお。中々帰してくれないから結局朝までコースだお。
      作戦前だってのに非常識だったお……」


「ブーン、ドクオ。ちょいと失礼するよ」

とても聞き慣れている声と共にラボに入ってきたのは、バーボンハウスのガチムチダンディ店長ショボンだった。
しかし、そのダンディな風貌も朝は優れないようで、髪形や服装は酷く乱れ、立派な髭が生えた口元も無精髭で台無しになっている。
目は完全に据わっており、そしてツンと同じアルコールの匂いが彼からプンプンと伝わってきた。

(;^ω^)「しょ、ショボン?
      こんな所までどうしたんだお?」

(´゚ω゚`)「小娘をぶち殺s……いや、なんでもない。
      任務だってのに二日酔いじゃ、たまったもんじゃないだろう?」

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:12:09.42 ID:MxrdXbq10
ショボンはビニール袋を手渡してきた。
袋の中で瓶がぶつかり合う音が鳴っており、ブーンはその中から一本取り出して見てみた。
茶色の小さな小瓶で、ラベルなども何も書いておらず、中身が何なのか分からなかった。

(ヽ'A`)「ちょ、もう飲めねえよ俺達」

(´゚ω゚`)「ぶち殺すぞ。酒じゃねえ。それはショボン特製ウコン汁だ。
      飲めばアーラ不思議! あっという間に二日酔いから全回復さ」

(ヽ^ω^)「おお! 有り難いおショボン!」

(´゚ω゚`)「315セントラ頂くよ」  ※注 1セントラ=現在の日本紙幣の1円に相当

(ヽ'A`)「金取るのかよ! ま、しょうがねぇか」

互いの携帯端末で通信し合い、金銭のやり取りを行う。
個人同士での金銭のやり取りはこのように行うが、店に行けば現代のようにレジが存在し、そこで金銭を支払うのだ。

(´゚ω゚`)「じゃあな! 当分ツンをウチに連れて来ないでくれよな!」

親切をしに来てくれたショボンだったが、最後まで怒りの形相であった。
記憶が曖昧なドクオはそれが不思議で、買ったウコンを飲みながらブーンに何があったのか聞いてみた。
ウコンは甘苦くてスッキリした飲み口で、確かに二日酔いに良さそうだ。

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:16:04.19 ID:MxrdXbq10
( ^ω^)「ウコンうめえwwwwwwwwwwwww
      ……あぁ、ショボンかお。ツンに店の酒を大量に飲みつ飲まされつ、だお。
      しかもツンは大酒飲みの上に酔っ払って暴れまわるから、店がメチャクチャになったんだお」

('A`)「全く覚えちゃいねーけど、手に取るように分かるわ」

気分が落ち着いたところでブーンとドクオは液体化食料と水で簡単な朝食を取り、ラボの床で寝ているツンを叩き起こした。
寝起きが非常に悪いようで、何度起こしてもすぐに眠りに戻ってしまうので2人は苦労を強いられた。
15回目の呼びかけでツンはやっと起き上がったが、彼女の表情は朝とは正反対の物であった。
彼女のその顔色を比喩するならば、この場合は「鉛色の雲空」が一番当てはまるかもしれない。

ξ゚o゚)ξ「き、気持ち悪い……」

( ^ω^)「ほら、これ飲むとすっきりするお」

ショボンが差し入れしてくれたウコンの瓶と、水がなみなみ入ったコップを手渡してやると、
ツンはゆっくりと片方ずつ飲み干していった。
深い溜息を付きながら再びデスクに頭を埋め、気持ち悪さを訴えるように呻き声を上げていた。

見かねたブーンは水道で水を汲んできてやってツンのデスクに置いてあげたのだが、不意にツンは椅子から立ち上がり、
口を手で押さえながらラボ内のトイレ目指して走り始めたのだ。
しかし、彼女はトイレに間に合わないと判断したのか、ドクオのデスクまで行くとそこに手を付いて背を丸めたのだ。
――すなわち、吐く体勢に入ったのである。

40 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:18:43.66 ID:MxrdXbq10


('A`)「ら、らめえええええええええええええええええええええ!!!!」


ξ ゚o゚)ξ「お、おええええええええええッ!!!」



ξ ゚o゚)ξ「ゲハッ! ゲハッウオェッウォオエッ!!」



('A`)「いやああああああああああああああああああああああ」


ドクオのデスクは水浸し、もといゲロ浸しになってしまった。
相当胃に溜め込んでいたらしく、夥しい量の嘔吐物がその小さな体から流れ出たのであった。
酒と水ばかりでその内容に固形物が無いのが幸いで、拭き取るのに苦労はしなかったが、それから発生した酒の甘い臭いが強烈であり、
しばらく換気に専念せざるを得なかった。


41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2008/02/17(日) 19:20:48.25 ID:MxrdXbq10
ξ゚听)ξ「あースッキリした! 天才少女ツンちゃん完全復活よ!」

当の本人は別にバツの悪い表情をする様子も無く、気分が回復したことに喜んでいるばかりであった。
そして無駄に過ごした時間を一気に取り戻そうと、ラボの研究員達に檄を飛ばし始めた。

今までゴミのように寝て転がっていた人物が、このような的確で素早い指示を行っている事は信じ難いが、
彼女の言う通り天才少女は完全復活したようだ。
ちなみにドクオはというと、わざわざ自室から持ってきた芳香剤をひたすらデスクに拭き掛けながら、懸命に雑巾掛けするのであった。



一方、バーボンハウスでもドクオと同様に芳香剤をひたすら吹き掛けて臭いを取ろうとしている店主の姿があった。
右手に雑巾、左手に芳香剤と、丹念にテーブルを拭いている。
瓶の残骸などは袋にまとめ終えたのだが、店の床やテーブルは酒と嘔吐物で溢れていた。

(´゚ω゚`)「クソがあああああああああ!!!
      いくら拭いても臭いが取れやしねぇッ!!
      ぶち殺す! ぶち殺す! ぶち殺す!」

1月1日、午前8時の事だった。
現代では新年の朝も酒臭くなるのは普通な事かもしれないが、年中働き詰めの「セントラル」では珍しい事だった。

                                        第3話「復讐」終


前へ 次へ

内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第3話「復讐」

inserted by FC2 system