( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―第十話・吸血鬼の家に遊びに行こう― 〜その3、天敵〜
- 94 名前:退魔師:2007/09/28(金) 21:26:24.04 ID:e766rkQN0
- 赤い月が照らす吸血鬼屋敷。
幻想的にさえ見えたその光は今は鮮血のように禍々しい。
美しく整備された庭園には獣の臭いと唸り声が充満していた。
満月に高揚したライカンスロープの群れは、抑え難い破壊衝動を本能のままに発揮していた。
木々は薙ぎ倒され、大理石の彫像は粉砕される。
無残に踏みにじられる花々は最早蝶を呼ぶことはないだろう。
屋敷の者の寵愛を一身に受けてきた全ての物は、その一方的な暴力に抗議の声を上げる事すらできずただただ破壊されていく。
狂気の光を目に宿したライカンスロープ達は、破壊の快感に身を震わせ遠吠えを上げた。
だがその快感も次第に薄れていく。
何の抵抗もしない物を破壊し続けることに魅力を感じなくなっているのだ。
彼らが今欲するのは熱い血を体内に流す獲物。
引き裂いたときに断末魔の叫びを上げる獲物だった。
- 97 名前:退魔師:2007/09/28(金) 21:27:27.89 ID:e766rkQN0
- 通った後には全ての物が原形を留めない。
ライカンスロープの行進は遂に屋敷入り口に及んだ。
扉の中から鼻を突く獲物の臭いで獣人達の口から間断なく唾液が垂れる。
ミ,,゚(▼)「臭う…臭うぞ!獲物の臭いだ!血の臭いだ!」
斥候の一言で他の者達は歓声を上げる。
その爪で皮膚を引き裂きたい。
その牙で肉を千切る感触を味わいたい。
その舌で獲物の甘さを堪能したい。
1秒でも早く!1瞬でも早く!
目の前に迫る快楽を待ちきれず、獲物と自分達を隔てる2枚の扉を叩き壊す。
身を仰け反らせ快楽の波に痙攣しながら獣人たちは遠吠えを上げ、優美な玄関ホールに進入する。
最初の獲物がそこにいた。
- 100 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:29:03.92 ID:e766rkQN0
-
( ´_ゝ`)「何とも醜悪だな。オレが知るライカンスロープはもう少し上品だった気がするが……どう思う、弟者?」
(´<_` )「同感だ兄者。彼らは誇り高い戦士だった。大方これはパンゲアの造魔といったところか。
仮初めの力に酔っているのだろう。哀れな者達だ 」
ホールの中央に静かに立つ2人の吸血鬼は、やはり静かに言った。
いつもはニヤニヤと変態的で、しかしどこか心地良さを感じさせる笑顔を持つ兄。
普段は朗らかに優しく、見るもの全てを包み込む笑顔を持つ弟。
しかし今の2人の顔にその笑顔はない。
有るのは分不相応の力を得て正気を失った者達に対する哀れみ。
そして彼らの魂を死を以って救済しようという冷たい覚悟。
- 103 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:29:42.68 ID:e766rkQN0
- ミ,,゚(▼)「WWWWWWOOOOOOOOO
ミ,,メ(▽) OOOOOOOoooooooo
ミ,,゚(▽) oooooー――――――――!!」
人狼の群れが一斉に雄叫びを上げる。
雄叫びは空気を伝いガラスを激しく振動させる。
空気の振動は風を生み出し、殺気を運ぶその風は2人の吸血鬼に届く。
それを受けた兄弟は唇を吊り上げ牙を覗かせた。
( ´_ゝ`)「あー、怖い怖い。あいつ等なんか大袈裟に叫んでるぞ、弟者」
(´<_` )「我ら2人を同時に相手にするには少々数が足りないようだが?」
20の獣人がたった2人の相手に一斉に飛び掛る。
飢えと渇きと欲望を満たす為だけに。
獲物の数に対して圧倒的に狩人が過多。
全員がより多くの自分の取り分を得るため、
仲間同士でさえも食い合う狂宴が、今…
…始まる。
- 105 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:30:40.75 ID:e766rkQN0
-
(#´_ゝ`)(´<_`#)「「WWWWWRRRRRYYYYYYYYYYY!!」」
( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです
―――第十話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――
〜その3、天敵〜
- 107 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:31:37.45 ID:e766rkQN0
-
・ ・ ・ ・ ・
(´<_` )「よし、では作戦を話そう 」
1時間前、弟者は屋敷の食堂にて自身の中で出した結論を話した。
領主としての責任感がそうさせるのか、それとも生来そういう男だったのか。
人の人生の10倍の長さを連れ立ってきた実の兄は、そんな弟が出す提案など初めから分かっていたようだ。
それを聞いても笑うだけだった。
しかし4人の助っ人は動揺を隠せなかった。
4人は4人ともこの戦い、守るべきは赤石と吸血鬼兄弟だと思っていた。
(;^ω^)「弟者さん!それじゃ僕達が何のために来たのか分かりませんお!」
ブーンが声を荒げる。
弟者の提案はこうだった。
――自分達2人が時間を稼ぐから赤石を持って逃げろ――
- 109 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:32:26.54 ID:e766rkQN0
- ('A`)「なぁ、そりゃあんたらにしてみればオレなんかひよっこかも知れねぇ……
でも戦う力はある。そんな事は分かってるんだろ……?」
(´<_` )「勿論だよ、ドクオ君。君達は強い。長年生きてきたが人の身でそこまで昇華した者はそうそういないよ 」
(-A-)「…だったら一緒に戦わせてくれよ……
オレはあんたらが…気に入ってるんだ……」
消え入りそうな声でドクオは言った。
普段のドスの利いた声ではなく、懇願するような声で。
弟者はドクオの言葉に心底嬉しそうに微笑んだ。
しかし首を縦に振ることはしない。
(´・ω・`)「……考えを聞かせてもらおうか?」
下を向いて押し黙っていたショボンが視線を弟者に移した。
ショボンの目にも若干悲しげな光が宿っている。
- 112 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:33:31.36 ID:e766rkQN0
- ( ´_ゝ`)「戦争ってモンはな、必ずしも大将がやられたら負けって事は無い。
今回オレ達はパンゲアから赤石を守り通す事が出来れば勝ちだ 」
(´<_` )「君達なら分かるはずだ。最も重要な事が何なのかを。
そして君達ならその選択が出来るということを私は知っている 」
僅か数日しか共に過ごしていない相手に既に全幅の信頼を寄せている兄弟。
過ごした時間は短くとも兄弟にはこれが間違いではないという確信がある。
川 ゚ -゚)「ふっ、そんな顔も出来るのか兄者?もっと早く私に見せておくべきだったな 」
( ´_ゝ`)「おい、聞いたか弟者?遂にフラグが立ったぞ 」
(´<_` )「知っているか兄者?フラグには時間経過によって折れるものもある。とっくの昔に期限切れだよ 」
少しだけ軽くなった空気。
それはほんの僅かだったがその場の全員にとって何よりも有難かった。
- 114 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:34:26.84 ID:e766rkQN0
- (´<_` )「私達はね、紳士なんだ。生来のね 」
弟者は笑う。
(´<_` )「紳士として自分の問題を1番に他人に任せてしまっては恥だからね 」
見るもの全てを包み込む優しい笑顔で。
( ´_ゝ`)「オレ達はな、領主様なんだよ。何百年もな 」
兄者が笑う。
( ´_ゝ`)「自ら進んで矢面に立つ。そうでなければ民衆は付いては来んよ 」
その場に心地良い風を運ぶ健やかな笑顔で。
彼らが彼らである限り決して他人を危険の最前線に送る事はない。
迫り来る脅威に最初に立ちはだかるべきは自分達だ。
2人の顔にはそう書いていた。
- 116 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:35:11.54 ID:e766rkQN0
- (´・ω・`)「……承知した。この赤石、我々が命をかけて守ろう 」
兄者達の真意を汲み取り、ショボンもまたそれに同調した。
その目に悲しみの光は最早無い。
有るのは静かに燃える使命感のみだ。
(´<_` )「この屋敷の地下には秘密の地下道がある。君達はそこを言ってくれ。
途中2又に分かれている箇所が1つだけある。そこは右を行け。外に繋がっている。
左は行き止まりだ。必ず右に行ってくれ 」
弟者は簡潔に説明を終えると兄者と共に食堂を出る。
その背中に向かってドクオが声を上げた。
はっきりと。
強く。
('A`)「明日一緒に朝飯を食うんだからな!」
2人の吸血鬼は足を止め同時に振り向いた。
いつもと変わらない、それぞれの笑顔を顔に浮かべて。
・ ・ ・ ・ ・
- 119 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:36:26.34 ID:e766rkQN0
- ・ ・ ・ ・ ・
吸血鬼屋敷玄関ホール。
人狼の1匹は僅かに残る理性でこう考えていた。
ミ,,`(▼)(……ありえない……)
この空間に無傷の物は既に存在しない。
ここは人狼達の破壊衝動によって凄惨たる状況だった。
壁には穴が開き、装飾品は粉々にされ、その残骸は破られた絨毯の上に転がる。
仲間達が傷付け合いながら我先にとその顎を食い込ませようとするのは2人の吸血鬼。
人狼となり馬鹿げたレベルにまで昇華した動体視力は確かに仲間の大顎が2人を挟むのを確認した。
しかし吹き出す血と裂ける肉は確認できない。
噛み砕かれたはずの2人は、ガッチリと噛み合った口にはもういないのだ。
信じ難いほどに早いのか。
それとも幻術か何かの類か。
とにかく2人の獲物は仲間が攻撃する度にその場から霧のように消え失せる。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/28(金) 21:37:06.80 ID:e766rkQN0
- そして途方もない場所から現れ、たまたまそこにいた不運な仲間が倒される。
ある者は首を折られ、ある者は体を貫かれ、ある者は屋外に吹き飛ばされた。
人狼は本能的にその場を逃げ出した。
拙い脳が悟ったのだ。
自分は捕食者ではない。
被捕食者であると。
しかし外には半数以上の仲間が室内に入ろうと押し寄せていた。
まだこの中には食い物があると思い込んでいる仲間達は目の色を変え次から次へと進入しようとしてくる。
その流れに再び室内に押し戻され絶望する。
そして聞こえた。
(´<_` )「ど こ へ 行 く ?」
それがこの世で聞いた最後の声となった。
- 122 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:38:01.30 ID:e766rkQN0
- 依然としてホールの入り口からは不快な奇声を上げながら人狼達が侵入してくる。
しかしここにきて急に敵の襲撃が止む。
床に伏せるライカンスロープの死体は既に10に近かった。
嫌でも目に入るその姿を見た人狼達が慎重になり距離を置き始めたからだった。
( ´_ゝ`)「見ろよ弟者。どうやらヤツ等にも知恵があるらしいぜ?」
(´<_` )「そのようだな兄者。単純に攻めるだけでは無駄な事を学習したようだ 」
( ´_ゝ`)「しかし打開策は永遠に出んのだろうな弟者。こんな頭の悪そうな顔してるような連中じゃw」
(´<_` )「だがこのまま睨み合っているのも考え物だな兄者。彼らに期待は出来そうも無い。こちらで考えるとしようか 」
双方動きの無いまま睨み合いだけが続く。
外の人狼達も全て入ってきているようだ。
いきり立って入ってきた者達も無残な姿で転がる半数の仲間を見て、打つ手が無く唸るだけの立っている仲間と同じ状態になる。
完全にこう着状態となった。
- 124 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:39:08.89 ID:e766rkQN0
- ( ´_ゝ`)「もしかしてこれで全部じゃね?」
(´<_` )「と、いうことはこいつらを片付ければ終幕か。どうする?早い方と遅い方があるが?」
( ´_ゝ`)b「当然早い方で 」
ふむ、と弟者は指で顎をなぞる。
兄者はこれを了解の合図だと判断した。
ミ,,メ(▽)「何だ!?ヤツ等が消えていく!」
ミ,,゚(▽)「どういうことだ!?匂いはまだあるが 」
人狼達は唖然とした顔でこの様子を見ていた。
目の前に確かに存在している2人の男が消えていく。
このあまりにも不可思議な現象を目の前に人狼達は唸るのも忘れていた。
静寂に包まれる室内。
- 126 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:39:58.99 ID:e766rkQN0
- ミ,,゚(▼)「ぎゃぁぁぁぁぁー―――――っ!!」
静寂は1匹の人狼によって引き裂かれる。
ミ,,゚(▽)「どうした!?―――?何だアレは?」
その仲間は白い霧に包まれていた。
そして目の前で白い霧は赤に変わる。
赤は濃度を増し、空中に絵の具で塗りたくったような濃い赤がただ浮かんでいた。
その赤からドサリと崩れ落ちる仲間。
ミ,,メ(▽) 「大丈――っ!?死んでる!」
ミ,,゚(▽)「何だこの死に方は!?どうすればこんな風に殺せるんだ!?」
その人狼は体中の全ての水分を搾り取られたかのようにカラカラに乾いていた。
- 128 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:40:27.94 ID:e766rkQN0
- 低い知能では何が起こったのか理解するのに時間がかかる。
人狼達は空中にぷかぷかと浮かぶ赤い気体を見た。
突如、それは大きく震える。
そしてそこから大量の赤い液体が弾き出された。
その赤い液体を全身に浴びたとき、人狼達は初めてそれが何なのかを理解する。
その臭い。
その粘度。
その味。
それは紛れも無く、たった今ミイラにされた仲間の血液だった。
『 ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ハ 』
室内に2人の吸血鬼の笑い声が充満する。
同時に漂っていた白い霧が渦を巻き始める。
霧の通り道にいた人狼は血を吸い取られ干からびていく。
赤く染まった霧は雲となり、血の雨を降らせた。
- 130 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:41:38.30 ID:e766rkQN0
- ミ,,メ(▽)「ひぃぃぃぃぃー――――!!」
その場の全ての人狼に許されるのはたった1つ。
即ち、恐怖の内に死ぬ。
阿鼻叫喚の中、最後に残った人狼は消え行く意識の中でようやく理解した。
2人の吸血鬼は霧に姿を変え、自分達の血を吸っていたのだと。
・
・
全てのライカンスロープが崩れ落ちた室内で、白い霧が一箇所に集まる。
霧は人の形を作り、白に色が入り始めた。
質感の無い気体が人体へ変貌する。
そこには2人の吸血鬼が現れた。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/28(金) 21:42:02.15 ID:e766rkQN0
- ( ´_ゝ`)「不味い。なんて味だ。これだから血は嫌いなんだよ 」
(´<_` )「同感だよ、兄者。口直しが必要だな 」
( ´_ゝ`)「まぁ、敵は綺麗に片付いたか。客人の手を煩わせる事が無くて良かったんじゃね?」
(´<_` )「その点に関しては私もホッとしている。だがコレ、後片付けが大変だぞ 」
そう言いながら目の前に積み上げられた20強の人狼の死体を見てウンザリする。
どうやって処理しようかと考えていると兄者と目が合った。
途端に吹き出してしまう。
そして2人は図ったかのように声を合わせて言った。
( ´_ゝ`)b d(´<_` )「「正義(ジャスティス)は勝つ!!」」
・ ・ ・ ・ ・
- 133 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:42:40.54 ID:e766rkQN0
- ・ ・ ・ ・ ・
吸血鬼屋敷・秘密の地下道。
ブーン達4人は一心にこの道を走り続けていた。
これまでのところ追っ手は無い。
それは吸血鬼の兄弟が善戦している事を意味していた。
目の前に見えたものに4人は足を止める。
左右に伸びる2つの道。
弟者が言っていた分かれ道だった。
(´・ω・`)「分かれ道、か。ここは右だったな。先を急ごう 」
そして右の道に足を踏み出したショボン。
しかし違和感に気付き振り返った。
( ^ω^)「・・・・・・」
ブーンが無言で立ち尽くしている。
ただ呆けて立っているのではない。
その表情は何らかの決意を感じさせた。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/28(金) 21:43:38.61 ID:e766rkQN0
- ( ^ω^)「ショボン。行ってくれお。僕は今から屋敷に戻るお 」
(´・ω・`)「馬鹿を言うんじゃない。兄弟はオレ達を信頼して任せてくれた。
オレ達の方も残ると言った彼らを信頼するんだ 」
( ^ω^)「妙な胸騒ぎがするお……何も無かったら謝れば済むだけの話だお。
でももし何かあったら僕はここで戻らなかったことを一生後悔するお 」
('A`)「オレも付き合うぜ、ブーン。何かこのままじゃいけねぇ気がする 」
(´・ω・`)「……全く 」
ブーンの顔を見たショボンは説得が無駄な事を悟っていた。
こういう顔をしたとき、ブーンは梃子でも動かない。
(´・ω・`)「行け。赤石はオレとクーで安全な場所まで運ぶ 」
( ^ω^)「ありがとうだお!帰ったら店の掃除するお!」
(;'A`)「え、掃除?オレも?」
- 138 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:44:42.50 ID:e766rkQN0
- ショボンは来た道を引き返す2人の背中を見送った。
ショボン自身も走りながらこのまま脱出する自分にもどかしさを感じていたのは確かだ。
年長者としてブーン達を導かねばならない。
その責任感がショボンのそういった感情を抑えていた。
(´・ω・`)「物分りのいい振りをして自分を誤魔化しても結局はこうする事を選択してしまった。馬鹿らしい事をしていたな 」
川 ゚ -゚)「大丈夫。ヤツ等もお前の本当の気持ちなど分かっているさ 」
(´・ω・`)「どうだろうな。果たしてそこまで頭が回るかどうか 」
川 ゚ -゚)「私でも分かるんだ。お前とずっと一緒にいるあの2人が分からないはずは無い 」
ショボンは返事をすることなく出発を促した。
クーは頷き、2人は再び出口まで走り出した。
ショボンは願う。
もしブーンの直感が正しいのであればどうか間に合ってくれと。
・ ・ ・ ・ ・
- 140 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:45:36.07 ID:e766rkQN0
- ・ ・ ・ ・ ・
( ´_ゝ`)「あー、残念だ。実に萎える展開だ 」
(´<_` )「その点に関しては同意せざるを得ないな兄者。
テストが終わったと思ったら裏にまだ問題が残っていたと言うのはこういう状況を言うのだろうな 」
( ´_ゝ`)「え?弟者テスト受けたことなんてあるの?」
(´<_` )「ない。多分そうだろうなと思っているだけだ 」
吸血鬼兄弟は血と獣の臭いが充満する玄関ホールで溜息をついた。
その原因は屍の山となっている人狼が破った入り口に立っていた2つの人影だった。
人狼たちの仲間であることは間違いないだろう。
しかし全滅したそれらを見ても眉一つ動かさない。
それどころか1人はせせら笑っていた。
- 142 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:46:39.80 ID:e766rkQN0
- ノ||-∀-||「おーおーおーおー。人狼部隊も大した事ねえよなー。
これだけ数いてたったの2人に歯が立たないの?何のために人間止めたんだよw
それにしても臭っさいわw汚物はさっさと消毒しないとww」
肌もその長い髪も、眉毛や睫毛さえも真っ白なその少年は目を瞑ったままニヤケた顔でそう言った。
仲間であるはずの者達の死を目の当たりにしてもそれを悼む態度は微塵も無い。
寧ろ死んでくれて良かったと思っているようにすら見える。
ノ)) - 从「おい……」
もう1人は黒をイメージさせる巨漢だった。
黒いマントで包んだその巨体に相応しい太く低い声で嘲笑する白い少年を制する。
真っ黒なボサボサの長髪で顔の上半分が隠れているため表情は読み取りにくい。
ノ||-∀-||「ちぇっ、全くお堅いねぇwさっきも『目的の物以外には構うな』なんて言いやがって。
こいつら殺されちゃうんだったら町人の1匹くらい食わせてやっても良かったのにw」
- 144 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:47:38.50 ID:e766rkQN0
- 悪びれた様子も無く舌を出す白い少年。
黒い男もこれ以上は何も言わない。
両者に共通している事は1つ。
どちらも強烈な力の圧力を感じさせることだけだった。
ノ||-∀-||「オレはショーン。こっちのデカブツはノーマン。『パンゲア』から来た 」
白い少年、ショーンと名乗った方は飄々と名を名乗った。
そのまま1人ツカツカと室内に歩を進める。
一方黒い男、ノーマンは依然として入り口に佇んでいた。
(´<_` )「こちらの自己紹介はいらないだろう?赤石はある場所に隠してある。持って帰りたかったら我々を倒すんだな 」
( ´_ゝ`)「おいおい、ちょいと無用心すぎるんじゃあないか?そこら中に転がってるお仲間はオレ達があっさり片付けたんだぜ?」
- 146 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:48:05.15 ID:e766rkQN0
- 兄者は乾き始めた血漿をべっとりと全身に浴びたまま横たわるライカンスロープの死体群を指して言った。
ショーンは『あぁ、これ?』と足元を指差す。
そこには苦悶の表情を浮かべたまま横たわる人狼の亡骸があった。
・
・
・
グシャッ
ノ||-∀-||「綺麗に殺すなぁwどうせやるならこれくらいやらないとww」
ショーンは飛び散った脳漿から足を抜きながら言った。
その表情は心底楽しそうだ。
- 148 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:48:26.51 ID:e766rkQN0
- (´<_` )「……不快だな……」
( ´_ゝ`)「コイツ生きてても百害あって一利無しだな。ここでぶっ殺そう 」
部屋の中心にまで単身入り込んだショーンを排除すべき敵と認識する吸血鬼兄弟。
2人は一陣の風と共に霧へと姿を変える。
霧は高速で室内を舞い、次の瞬間ショーンを覆った。
ノ||-∀-||「おい、ノーマン。手ぇ出すなよ 」
多数の人狼を葬った吸血の霧に身を晒しながらもショーンは表情を変えなかった。
そしてノーマンもまた言われるまでも無く微動だにしない。
ノ||-∀-||「吸血鬼風情が……」
白い体を白い霧に包まれ、その場は全くの白となる。
しかし唐突に2つの小さな赤が浮かんだ。
ノ||゚∀゚||「芸がねぇんだよ!」
- 150 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:49:34.10 ID:e766rkQN0
- 赤は見開かれたショーンの双眸だった。
ショーンは無造作に霧の中に両手を入れる。
そこから何かを掴み出し無造作に放り投げた。
投げられた2つの何かは人狼達の死体を弾き、壁面にしこたま打ち付けられて止まった。
(´<_`;)「ぐふっ!馬鹿な!?」
(#´_ゝ`)「痛ぇなコノヤロウ!何すんだテメェ!!」
戸惑う弟者。
痛みに怒る兄者。
2人は霧となった自分達が攻撃を受けるなど想定していなかった。
しかし現にこうして攻撃を受けている。
2人は攻撃者であるショーンを見る。
ノ||゚∀゚||「そうか痛いかw痛みを感じるのも久しぶりだろう?安心しろよ。直ぐに癖になるw」
ショーンの両腕の肘から先は白く発光していた。
そこには白い輝く体毛が生え揃い、両手には一様に長く鋭い鉤爪を備えている。
- 152 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:50:50.69 ID:e766rkQN0
- 姿を変えた吸血鬼を造作も無く攻撃する。
そして体を白く光る獣の姿に変える。
弟者の脳裏にふとある者の存在が浮かんだ。
(´<_`;)「貴様まさか!?『パンゲア』に与するなどありえない!その全ては法王庁に帰属しているはず!!」
( ´_ゝ`)「心当たりでもあるのか弟者!?」
今だ消えぬ苦痛に表情を強張らせながら弟者は叫ぶ。
脳裏に浮かぶのは最悪の事態。
ショーンは2人がうずくまる場所へと歩み寄る。
ニヤニヤと嘲り笑いながら。
ノ||゚∀゚||「いい顔だw嬉しいねぇwwオレが何なのか分かったかい?」
その時、弟者の四肢を4本の杭が貫いた。
それは物理的な武器が通用するはずのない弟者の体に深々と突き刺さり体を床に磔にする。
(;´_ゝ`)「弟者!!」
- 155 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:51:53.57 ID:e766rkQN0
- (´<_`;)「これはヴァチカンの聖杭!やはり貴様っ!!」
開いた穴から血を流しながら弟者は確信した。
―――勝てるはずが無い―――
(;´_ゝ`)「弟者!しっかりしないか!!」
ノ||゚∀゚||「おいおい、コイツ分かってないようだぜ?w聞かせてやりなよ、オ・レ・が・な・に・かww」
愉悦に酔いしれた声でショーンは言う。
尊厳を踏みにじられた弟者は唇を噛みながら渾身の叫びを上げた。
(´<_`;)「そいつは『ク ル ー ス ニ ク』だ!逃げろ兄者!!」
- 157 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:53:27.08 ID:e766rkQN0
- 身の自由を奪われた自分は最早逃走は不可能。
せめて兄だけでも、そう思った。
(#´_ゝ`)「ふざけた事を言うなぁぁぁー―っ!!」
しかし兄者という人格は弟を残して逃げる事を許さなかった。
兄者の頭の中では目の前のクルースニクをぶっ飛ばし、弟者の体を縛る杭を抜く。
そしてその後2人で逃走するというシナリオが出来上がっていた。
しかしそこに1つだけ盲点がある。
ノ)) - 从「甘いな 」
いつの間にか間合いに入ってきたもう1人、ノーマンの太い右腕に反対方向の壁まで吹き飛ばされた。
このなぎ払われた腕の攻撃からもダメージを受け兄者は困惑する。
ノ||゚∀゚||「いい事教えてやろうか?」
ショーンのせせら笑いを最上級の侮辱に感じた兄者は怒りに震える。
しかし被せられたショーンの言葉に重大な事柄があった。
ノ||゚∀゚||「ノーマンは『ダンピール』だwお前らの天敵が2人もいるんだぜw
絶望ォー――に身をよじれィ虫けらどもォオオー――ッ!!ってかww」
- 159 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:54:06.12 ID:e766rkQN0
- 吸血鬼と戦う為に生まれる者『クルースニク』
人間と吸血鬼の間に生まれる者『ダンピール』
2つの天敵が敵として目の前にいる事実。
それは人生の暗幕として暗い影を兄者と弟者に落とす。
(´<_`;)「何故……だ?何故パンゲアに加担する……?
アレは人を滅ぼそうとする組織だぞ!本来ならば貴様らは人間側の存在だろう!?」
激痛に耐えながら叫び上げる弟者。
それを聞いたショーンはその狂気に満ちた赤い瞳を輝かせながら言った。
ノ||゚∀゚||「蟻っているよなぁ?あの小さい虫だよ。オレはアレを踏み潰すのが大好きなんだ。
笑えるぜ?体と同じサイズの餌を運ぶ蟻を巣の寸前で踏み殺すんだw
あいつらがどれだけ一生懸命働いてもオレにはその全てを否定する力があるww」
ノ)) - 从「・・・・・・」
ノ||゚∀゚||「お前ら吸血鬼を踏み潰す力も神から与えられたwオレは歓喜しながらお前の仲間をぶっ殺してきたよw
普段でかい顔しててもオレの前じゃ何も出来ずに死ぬだけだwwこんなに愉快な事は
- 162 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:54:55.52 ID:e766rkQN0
- 狂気の演説を展開するショーンに為す術のない兄弟は、この時ほど自分達が吸血鬼である事を呪った事はなかった。
吸血鬼であるが故にこの腐った男に制裁を加えることができない。
ノ||゚∀゚||「まぁ、やりすぎてヴァチカンから追い出されちまったけどよw
そうそう、どうしてパンゲアにいるかだったよな?」
なおもショーンの狂演は止まらない。
ダンピール、ノーマンは無表情のままただ立っていた。
ノ||゚∀゚||「ここだとお前らみたいな獲物をどれだけ痛めつけても文句も言われねぇww
それどころか次から次へと獲物を紹介してくれるんだwwこんなに楽しい事はないぜwww」
下品な笑い声を上げながら恍惚の表情を浮かべるショーン。
ただただ無表情に事の成り行きを見守るノーマン。
吐き気を催すほどの外道に対して為す術を持たない屈辱に耐える兄者と弟者。
- 164 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:55:32.30 ID:e766rkQN0
- ノ||゚∀゚||「安心しろよwお前らは直ぐには殺さねぇww連れ帰ってたっぷりと楽しんでやるからよww
吸血鬼なんだから最低でも10年くらいはオレを喜ばせてくれよwww」
ノ)) - 从「ショーン……」
ノ||゚∀゚||「あぁ、そうだったな。趣味の話は一先ず置いといて、だ。
おい、エイジャの赤石はどこだ?何やっても無駄なんだからさっさと出せよ 」
ノーマンの一言でようやくショーンの演説は終わった。
兄者と弟者は屈辱に耐え続けていたが赤石の言葉を聞き再び自尊心を蘇らせた。
確かにこの2人の天敵に自分達は為す術はない。
しかし目的の物を手に入れさせることはない。
今頃は信頼すべきショボン達の手により地下道を進んでいるはずだ。
そしてかすかに聞こえるのはここに近付いてくる2つの足音。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/28(金) 21:56:09.41 ID:e766rkQN0
- 吸血鬼の聴覚は常人には聞こえない音をも捉える。
弟者は兄者を見る。
兄者も弟者を見てニヤリと笑った。
(;´_ゝ`)(聞こえるか弟者?あの足音が?)
(´<_`;)(聞こえるよ兄者。全く……私の言う事をキチンと聞いてくれないものかな?)
( ´_ゝ`)(その点については期待できないな )
(´<_` )(ふっ。だがこの点については期待できる )
吸血鬼にのみ聞こえる小声で部屋の両端に別れた2人は会話する。
そしてこのいけ好かないクルースニクに鉄槌を下す存在がホールに駆け込んできた。
- 168 名前:第十話:2007/09/28(金) 21:57:25.12 ID:e766rkQN0
-
(#^ω^)(#'A`)「「ブーンとドクオ、ただいま参上!!トウッ!!」」
( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです
―――第十話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――
〜その3、天敵〜終
- 170 名前:次回予告:2007/09/28(金) 21:58:54.12 ID:e766rkQN0
- 第十一、十二話、予告
乱入者ブーンとドクオ。この2人を見てクルースニクは苦々しく口走る。
ノ||-∀-||「チッ……こっちはさっさと赤石持って帰りてぇってのによ……」
それを見てブーンはさも得意気に言った。
( ^ω^)「残念だったお!赤石ならショボンが地下道通って運んでるお!!ばーかばーかww」
(;'A`)(;´_ゝ`)(´<_`;)ノ||-∀-;|| ノ)) - 从「・・・・・・・・・」
(;^ω^)「お?」
(;´_ゝ`)「……流石のオレもそれは引くわ 」
ノ||-∀-||「行け、ノーマンw赤石は地下道だってよww」
地下に下りる黒い影。
地上に残る白い光。
次回
( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです
―――第十一、十二話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――
〜その4、ダンピール〜
〜その5、クルースニク〜
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