( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―第十一話・吸血鬼の家に遊びに行こう― 〜その4、ダンピール〜

3 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:44:51.46 ID:E8PSa4mN0
美しかった玄関ホールは破壊の限りを尽くされ見る影は無い。
さらにそこには20の人狼の死体が無造作に転がっており、鼻を突く獣と血と臓物の不快な臭いが充満していた。
しかしブーンとドクオが最初に見たのはそのどちらでもない。

2人の目に最重要事項として飛び込んできたのは、痛めつけられ横たわる吸血鬼兄弟の姿だった。
次に見たのは、突然現れた自分達に苦虫を噛み潰したような表情を向ける両目を閉じた白い少年。
そして無表情のまま冗談のような殺気を放つ黒い男だった。

( ^ω^)「弟者さん!兄者さん!無事ですかお!?」

(´<_`;)「この有様だよ。気を付けるんだ。ヤツ等、一筋縄ではいかないぞ 」

('A`)「無事みてぇだな。あ〜、間に合って良かった良かった 」

(;´_ゝ`)「ヘイッ、DOC!これが無事に見えるんか!?お前には無事に見えるんか!?」

('A`)「そんだけ悪態が付けりゃ大丈夫だろw」

白い襲撃者、ショーンはイラついていた。
たった今まで絶望に沈んでいた2人の吸血鬼が、現れた2人の登場で再び希望を持ち始めている事が分かる。

嬲って嬲って嬲り尽くしてこの世の全てに絶望させる。
それがショーンの生きがいであり喜びだった。

9割方完成していたというのに……

4 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:46:11.37 ID:E8PSa4mN0

ノ||-∀-||「あ〜ぁ、また仕切り直しかよ。赤石も探さないといけねぇってのによ 」

余計な仕事が増えたという嫌悪。
新たに獲物が増えた歓喜。
正反対の2つの感情が絡み合い、ショーンは複雑な表情を浮かべた。

ブーンにはそれが悔しさから来る表情だと思い込み、ちょっと茶目っ気を出してしまった。

( ^ω^)「残念だったお!赤石ならショボンが地下道通って運んでるお!!ばーかばーかww」

(;'A`)「あ・・・・・・」

(;´_ゝ`)(´<_`;)「・・・・・・・・・」

ノ||-∀-;|| ノ)) - 从「・・・・・・・・・」

(;^ω^)「お?」

(;´_ゝ`)「……流石のオレもそれは引くわ 」

ノ||-∀-||「行け、ノーマンw赤石は地下道だってよww」


5 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:47:22.37 ID:E8PSa4mN0
それを聞き終わる前に、ノーマンはその巨体からは信じ難い速さでブーン達が入ってきた入り口に猛進した。
黒い残像が尾を引き室内を横切る。

しかしその正面に敢然と立ちはだかるドクオ。

('A`)「オレを忘れてもらっちゃ困――」

ノ)) - 从「邪魔だ 」

(#)A`)「ぶりゃっ!!」

しかしノーマンは他の全ての物に目も向けず、ドクオはあっさりと跳ね飛ばされた。

(;'A`)「痛つつつつ……まるでトラックだ…チッ、もう行っちまった 」

打ち付けられた全身を竦めながらドクオは呻く。
顔を上げたときノーマンは既に見えなくなってしまっていた。
あまりの速さにブーンでさえ反応する事ができず、ショボン達の下に1人の刺客が向かう結果となってしまった。


6 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:48:32.11 ID:E8PSa4mN0
ノーマンの離脱を機にショーンのせせら笑いが聞こえ始める。
この男は人の失敗が楽しくて仕方ないらしい。

ノ||-∀-||「あーあーあーあwノーマンは怖いぜぇwwお前らのお仲間もアウトかな?
      いい事教えてやろうか?wアイツは半分はそこに転がってる吸血鬼と同じなんだぜww」

( ^ω^)「弟者さん達と半分同じ?どういう意味だお?」

(´<_`;)「そのままの意味さ。ヤツはダンピールだ 」

('A`)「ダンピール?何それ?」

(;´_ゝ`)「お前退魔師のくせにそんな事も知らないの?吸血鬼と人間のハーフってこと 」

そんな者がいるのかと感心するドクオ。
そんなドクオに気を良くしたのか、ショーンはケラケラ笑いながら、頼みもしないのにある事を語り始めた。

7 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:50:17.14 ID:E8PSa4mN0

ノ||-∀-||「あいつは昔なぁ………ww」



      ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十一話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――


          〜その4、ダンピール〜



8 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:51:55.17 ID:E8PSa4mN0

中世、東ヨーロッパ。
人口約100人程の、農耕と牧畜を生業とする名も無き小さな村があった。

そこに住む人々は、明るい間はそれぞれの仕事を精力的に、しかし裕福な生活は望まず、少しだけ蓄えが出来る程度に取り組む。
日が暮れれば自宅に帰り、家族と、時には友人同士と暖かい食卓を囲む。

この村には、ゆったりと流れる時間の中で貧しくも幸福な生活があった。

ただ1つだけ通常と異なる点があるとすれば……







9 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:52:50.05 ID:E8PSa4mN0
(^ゝ^)「お〜い、ノーマン。岩が邪魔で畑をこれ以上広げられねぇや。悪いけど頼めるかい?」

1人の村人が開墾している土地に大きな岩石があった。
その岩石は恐らくこの土地が出来たときからこの場所にあったのだろう。
我が物顔で『どかせるものならどかしてみろ』と言わんばかりに鎮座していた。

ノ))^ー^从「お安い御用だ。ちょっと待ってろよ 」

その場に居たもう1人は手にしていた農具をその場に置き、大岩の方に歩いて行った。
そして悠然と鎮座している大岩に触れると

ノ))^ー^从「ほ〜らよっ!」

おもむろに放り投げた。

10 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:53:34.35 ID:E8PSa4mN0
農耕に携わっているため、多少はがっしりとした体付きをしてはいるがあくまでも『多少』の話。
そんな男が数100キロはあろうかという巨岩を涼しい顔をして遥か彼方へ投げ飛ばした。
しかし農民はそれを見ても驚く事はない。

(^ゝ^)「助かったよ、ノーマン。礼に今夜パンとぶどう酒でも持って行ってやっから 」

ノ))^ー^从「だったら一緒に飲ろうか?大勢の方が楽しいだろ?」

この村は人間と吸血鬼が共に暮らす村だった。
いつからそうなったのかは誰も知らない。
しかし人も吸血鬼も互いに助け合いながら平和に暮らし、時には極稀にではあったが両者の間に子供すら生まれることもある。
ノーマンはそんなバンパイアハーフの1人だった。

ノ))^ー^从「丁度今夜鶏を1羽絞めようかと思ってたんだ 」

(^ゝ^)「おう、じゃ妹も連れて行っていいかい?お前さんに会いたがっててよ 」

ノ)) //// 从「エリィがっ!?どっ、どうしてもって言うんなら……」

(^ゝ^)「な〜に赤くなってるんだよ。じゃ今夜な 」

村は平和だった。
この数年後、領主が変わるまでは……

     ・     

11 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:55:26.56 ID:E8PSa4mN0
     ・     

ノ))^ー^从「おや?あれは領主様の兵じゃないか?」

爪^-^)「珍しいわね。収穫前だし領主様の激励の言葉を下さるんじゃないかしら?」

畑仕事に精を出すノーマンと大きくなった下腹部を労わるその妻エリィは、視界に領主の騎馬兵達の姿を捕らえた。
この地方は名君と名高い領主によって治められていた。
領主は人外である吸血鬼との親交も厚く、時々単身この村に訪れては酒盛りに興じて、次の朝慌てて村を訪れる家来に大目玉を食らっていた。

村の広場に到達する領主の騎馬兵。
ノーマンを始めとした村人達も何事かとそこに集まる。
ある程度の数が集まった事を確認して騎馬兵長は書簡を取り出し大声で読み上げた。

(゜3゜)「この度、領主様ご逝去に伴い、ご子息が新たな領主様に就任された!!」

ノ))^ー^从「領主様が亡くなった……」

広場は騒然となる。
温厚で人当たりの良かった領主は村人全員に慕われていた。
亡き領主の冥福を祈る村人達の頭上に、更に言葉が被せられる。


12 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:56:58.15 ID:E8PSa4mN0
(゜3゜)「新しい領主様就任に当たり、最初の通達である!!
      我は人以外の領民を認めず!我が領地から即刻退去を命ずる!猶予として1月を与える!以上!!」

それだけを告げると騎馬兵達は広場から急ぎ足で去って行く。
それは村人達から上がる抗議の声を避けているかのようだった。

ノ))^ー^从「そんな……どうしてこんな事が……?」

爪^-^)「何かワケがあるんだわ。大丈夫よノーマン!あの領主様のお子様ですもの。話せばきっと分かってくださるわ 」

(^ゝ^)「そうだぜノーマン。オレ達は何があってもお前達を放り出したりさせねぇ。まずは意見書を領主様に届けよう 」

ノ))^ー^从「……ありがとう!」

村人達の力強い励ましにノーマンは奮い立った。
妻エリィの言う通りだ。
皆に好かれる名君だった先代の血を引いた領主だ。

必ず人道的な解決策を取ってくれるはず……

13 名前:十一話:2007/10/12(金) 23:58:27.26 ID:E8PSa4mN0

―――2週間後―――

秋の収穫を終えた村は、例年以上の大豊作に沸いていた。
それに加えその年はチーズやぶどうの質も良く、村だけで消費し得る量を大きく超えていた。
その為、ノーマンは収穫物を近くの町で金銭に代え、必要な物を買う事にした。

ノ))^ー^从「行って来るよ、エリィ。1人の体じゃないんだ。くれぐれも大事にしてくれよ 」

爪^-^)「大丈夫よ、兄さんだっているもの。あなたも道中気を付けてね。
     そう言えば例の意見書、今日提出に行くらしいわ。あなたが帰ってくる頃には何もかも解決してるはずよ 」

ノ))^ー^从「あぁ、きっとそうなる!出来るだけ急いで帰ってくるよ 」

ノーマンは頭の中で、町で何を買うか考えながら嬉しそうに家を出た。
まずはいくつかの生活必需品を買う。
そしてもし余裕があれば生まれてくる子供の為に、何か町のおもちゃでも1つ買ってやりたい。

そしてそれでもまだ余裕があれば、最愛の妻に何か喜びそうな物を1つ……

ノ))^ー^从「〜〜♪」

ノーマンは明るい表情と軽い足取りで町に続く街道を進んだ。


     ・    

16 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:00:20.44 ID:poAEMaD20
     ・     

ノーマンが町へと向かったその日の夜。
領主の部屋には領主ともう1人の男が居た。
領主は村から届けられた意見書を見て男に指示を仰ぐ。

('―`)「例の村から不服申し立てが来ております。主よ、私はいかがすべきでしょう?」

( <●><●>)「村人が反対するのは分かってました……」

主と呼ばれた男は、決して瞬きする事の無い爛と大きく見開いた目を領主に向けた。
その双眸は全ての光を反射させる事なく黒く佇んでいる。

取り込まれそうになるような目。
その目には妖しいまでの安心感があり、領主を心酔させる。

( <●><●>)「吸血鬼は人間にとって恐ろしい敵です。このままにしていてはあなたの領民が根絶やしにされることは分かっています。
        御覧なさい、その意見書を。この村の住民は完全に吸血鬼に取り込まれてしまいました 」

('―`)「……ハイ 」

( <●><●>)「最早彼らを救えるのは死のみ。吸血鬼諸共彼らを救う。それが貴方に与えられた領主としての使命です 」

('―`)「……ハイ 」


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/13(土) 00:01:55.15 ID:poAEMaD20
焦点の定まらない視線を湛え、領主は部屋から出て行く。
しばらくすると屋敷内に慌しい物音が響き渡った。
金属のぶつかり合う音は甲冑を着込んだ兵が走り回って発せられた音だろう。

それを聞く暗い双眸を持った男は、喉を鳴らしながら呟いた。

( <●><●>)「まったく、吸血鬼という者は扱い難い……無駄に誇り高いところが特に。
        戦力としては惜しいですが、私の意に従わないならば邪魔なだけです……」

ふと窓の外に目を遣ると、そこには領主の兵達が整然と整列していた。
男は窓から顔を出し静かに言う。

( <●><●>)「吸血鬼は強力な魔物です。寝静まった後で速やかに首を切り落としなさい。人はその後で構いません 」

男と兵達の間にはかなりの距離があり、さらに男は決して声を張り上げてはいない。
しかし男の声は全ての兵に響いた。
そしてその全ての兵にとって、男の声は神の啓示であるかのように唯一の真実となる。

兵達は領主と同じく虚ろな表情で出立した。
その姿を見送り、男は笑いをかみ殺しながら誰に言うでもなく声を漏らした。

( <●><●>)「ククク……愚かな人間共。自らの手で長年の友人を葬るのです……」

     ・    

19 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:03:21.21 ID:poAEMaD20
     ・    

ノ))^ー^从「〜〜♪」

ノーマンは出かけたときと同じように嬉しそうな顔で夜の帰路に着いていた。
今年の収穫物は非常に質が良く、思った以上の儲けになった。
ノーマンは必要な物に加えて、もうじき生まれる子供とエリィの為の物も手に入れることができた。

あの丘を越えると村が見える。
夜も遅いから寝てしまっているだろうが、明日の朝、買ってきた物を見たエリィはどんな顔をするだろう。
それを思うと幸せな笑みが込み上げてくる。

そしてノーマンは丘の頂上まで登った。

ノ));^ー^从「なっ!?」

ノーマンの目に飛び込んできたのはオレンジ色に焦がされる夜空……

そしてその下で燃え盛る自分の村だった……

ノ));^ー^从「エリィ!!」

ノーマンは持っていたもの全てをその場に放り出し、全力で斜面を下った。
暗い下り坂に足を取られ、何度も何度も転倒しながら、良き友人達と愛する妻の元へ走った。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/13(土) 00:04:29.11 ID:poAEMaD20
ノ));^ー^从「そ……んな……」

炎に舐められ、火の粉が粉雪のように舞い落ちる村に着いたノーマンが目にしたもの。
それは気の良い村人達の変わり果てた姿だった。

ほとんどの者が火に飲まれてしまっているが、それを免れた道で横たわっている村人だったモノ達から何が起こったのか想像が付く。

あるモノは刃物で肩口から腰まで切り付けられ―――

あるモノは頭を馬に踏み潰され―――

あるモノは矢が針山のように突き刺さり―――

あるモノは抱いた我が子共々槍で貫かれ―――

村は明らかに軍隊によって蹂躙されており、その場に残された矢やいくつかの武器には領主の紋章が刻まれていた。

ノ));ー;从「酷い……領主様、どうして!?」

そしてノーマンの脳裏に妻の顔が浮かんだ。
ノーマンは走る。
妻が待つはずの自分の家へと。

23 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:05:18.91 ID:poAEMaD20
ノ));ー;从「がぁぁぁぁー―――っ!!」

自宅の前に到着したノーマンは、視界に飛び込んできたモノを確認し絶叫を上げた。

決して大きくはないが、慎ましやかに、そして幸せに暮らしていた我が家。

子供が生まれたら少し家を増築しようと、妻や義兄と笑いながら話していた我が家。

妻が自分の為に寝床を整えてくれていたはずの我が家。

それは他の民家と同様に火に飲まれていた。


25 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:06:21.48 ID:poAEMaD20
そしてその粗末な外壁に張り付いているモノ。

両手を広げ十字架のような形のまま、剣や槍で四肢を貫かれ貼り付けになっているモノ。

爪 - )「・・・・・・」

ノ));ー;从「エリィ……」

ソレは腹部を裂かれ、真下に真っ赤な水溜りを作っていた。
その深い傷口からは1本の紐のようなものが下に向けて垂れ下がっている。
ノーマンはその紐に沿って視線を下に移した。

そして気付く。
その真紅の水溜りの中に同じ色をした小さな肉塊がある事を。

27 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:07:03.53 ID:poAEMaD20
ノーマンは覚束ない足取りで、妻だった死体の下にある肉塊に近付いた。
両手に収まるほどの大きさのソレには、丸みを帯びた頭と4本の手足が付いている。

ノ));ー;从「フフフ…女の子だったのか……」

ノーマンは家を焼く炎に焦がされる身を省みることなく、妻を壁から優しく下ろした。
そして妻と娘になるはずだった肉塊を両手に抱く。

ノーマンの全身は血と羊水に濡れ、深い赤に染まっていた。
ノーマンは天を仰ぎ声にならない声を上げた。
どれだけ泣いても両手に抱く者達はノーマンを慰める事は無い。

炎に身を焼かれても、焼けた先から治癒していく。
体内に流れる吸血鬼の血は自分を簡単に殺す事は無い。
ノーマンは死んで楽になる事も許されない自身を呪った。

30 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:08:13.16 ID:poAEMaD20
ノ)) - 从「…るさん……」

不意に泣き止んだノーマンはぼそりと呟いた。
その声はゾッとするような冷たさを湛えており、明るく陽気だった農夫のノーマンが発した事の無い声だった。

ノーマンは無言のまま、両手に抱えていた家族を静かにその場に寝かせ立ち上がる。
明確な目的を持った両足は地面を踏み締め、踏み出す1歩は鬼神のように力強い。

ノ)) - 从「絶対に許さん……」

これがノーマンが生まれ育った村に残した最後の言葉となった。

この晩、東ヨーロッパのある地方を治める領主と使用人、私兵の全てが殺された。
後に現場に赴いた国王の騎兵隊はこう報告している。

『その惨状、決して人の手によるものに非ず。かの地方に悪魔の出現を確信せり。早急に対策を練るべし』


     ・    

31 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:08:57.89 ID:poAEMaD20
     ・    


( <●><●>)「美しい旋律です。あそこにあるのは理解し難い者に対する恐怖。
        それを生み出すは憤怒、憎悪、そして果てしない悲しみだと言う事は分かっています 」

領主の屋敷から少し離れた場所で、1人の男が響き続ける断末魔の阿鼻叫喚を心地好さ気に聞いていた。
人間はこれほどまでに大きな声を出す事ができるのだろうか。
そう思わせるような大絶叫の度に命が刈り取られていく。

男にはそれが、名のある楽団が奏でる極上のクラシックよりも美しく感じらる。

( <●><●>)「それにしても混血のダンピール如きがこれほどの力を秘めているとは。あの男、使えますね 」

最後の絶叫が辺りに響き静かな夜が戻ってくる。
男はそれをいささか残念に思いながらも、領主の屋敷から出て来たノーマンを確認した。
ノーマンは俯きながら、しっかりしない足取りで男の側を通り過ぎる。

( <●><●>)。o ○(ほぅ……これはこれは……)

元々血に赤く染まっていたノーマンの身体は、たった今浴びた100人以上の返り血により真っ黒に染め上げられていた。


34 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:10:20.81 ID:poAEMaD20
( <●><●>)「待ちなさい 」

男がノーマンを呼び止める。
幽鬼のように虚ろな目をしたノーマンはゆっくりと男の方を向き一言だけ返した。

ノ)) - 从「お前も死にたいのか?」

その答えに男はほくそ笑まずにはいられない。
幸せのぬるま湯に浸かっていた男がよくぞここまで邪悪になったものだ。
男は笑みを隠しながらノーマンに言う。

( <●><●>)「私の名はワカッテマス。パンゲアという組織から来ました。
        こちらの領主に不穏な動きがあると聞きつけて助けに来たのですが……間に合わなかった事を何と詫びればいいか……」

ノ)) - 从「・・・・・・」

( <●><●>)「あなたの悲しみは分かっています。私達パンゲアは魔に仇成す人間から魔を守るための組織です。
        魔であるという理由だけであなたのような思いをする事など許すわけにはいきません。
        あなたの力を貸して下さい 」

ノ)) - 从「人を…殺すのか……?」

35 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:11:31.57 ID:poAEMaD20
ワカッテマスはノーマンの返答の微妙なニュアンスに含まれた意味を探った。

( <●><●>)。o ○(この男は人と共に暮らしてきた…どうやらまだ人間に未練があるようですね。ここは正直に言うのは愚作でしょう)

( <●><●>)「いいえ、そんな事はありませんよ。危害を加えられない限り、こちらから人に手を出す事はありえません。
        私達の目的はあくまでも魔の住み易い世の中を作る事なんですから 」

ノ)) - 从「・・・・・・」

ノーマンは耳を傾けたまま黙っている。
しかしワカッテマスにはノーマンが何と返事をするか確信していた。
この男は恐らく正義感の強い男だ。
何より自分と同じ境遇の仲間を作る事を嫌うだろう。

ノ)) - 从「いいだろう」

よく笑っていた男は表情を失ってしまった。
その代わりに底の無い悲しみ、そして無尽蔵の怒りを得た。

『パンゲアの死神』

かつての気の良い農夫は、この後こう呼ばれる事となる。


     ・     ・     ・     ・     ・


36 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:12:49.72 ID:poAEMaD20

     ・     ・     ・     ・     ・


(´・ω・`)川 ゚ -゚)「「――――っっ!!」」

疾走していたショボンとクーが同時に振り向いたのは、後ろから恐ろしい勢いで近付く巨大な殺気の圧力に気付いたからだった。
顔を後ろに向けた時、殺気の主は既に視認出来る所にまで迫っており、何かを装着した左腕をこちらに向けていた。
ショボン達2人が左右に別れて飛んだのは、元いた場所が数十本のボウガンの矢で針山になる一瞬前の事だった。

(´・ω・`)「1、2、3……30本か。瞬間に30本の矢を連射できるボウガンとは馬鹿げた武器もあったものだな 」

ショボンは地面に突き立っている矢の数をカウントし、それを発射した者に視線を移す。
暴力的なまでに強烈な殺気を纏うボロボロの黒いマントを着た男がそこに立っていた。

マント以外にも衣服やボサボサの髪は全て黒。
その風貌は死神を連想させた。

ノ)) - 从「エイジャの赤石を渡してもらおう 」

男は背に負っていた無骨な鉄の塊を右手一本でゆっくりと引き抜いた。
その鉄塊は男の巨体と同程度の長さ、40〜50センチはあろうかという幅、そして電話帳程の厚みを持っていた。
その一端から生えている柄を持つ男。

その様から巨大な鉄塊が剣である事が分かる。
途方も無い重量を持つ剣だ。


38 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:13:17.47 ID:poAEMaD20
(´・ω・`)「嫌だと言ったら?」

川 ゚ -゚)「残念だがパンゲアに渡す物などない 」

対してショボンは持っていた刀を抜く。
鞘から抜かれ空気に身を晒した刀身は怪しく煌く百足の姿を思わせる。
クーもまた刀を構える。
それはデビルサマナー葛葉家の歴代当主が使用し、数々の魔を降伏させてきた退魔刀。

そして両者共に刀を持っていない方の手に持つのは破魔の弾丸を装填した拳銃。

刀と銃。

男女は全く同じスタイルで聳える巨剣を構える死神を迎え撃つ。

(´・ω・`)「悪いがオレはこの赤石を誰にも渡さないと決めてるんでね。
        それにこれは個人的な意見だが、お前達の都合が良い様に事が運ぶのは気に食わない 」

川 ゚ -゚)「一応言っておくが私達は強いぞ。2人の愛の前には何者であれ無力だ 」

(#´・ω・)「お前、ドサクサに紛れて何言ってくれちゃってるの?」


39 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:14:06.13 ID:poAEMaD20
抑えることなく周囲に振り撒かれていた死神の殺気が性質を変えた。
無差別で暴圧的な殺気から鋭い針のような殺気へ。
それが向かう先はショボンとクーの2人。

ノ)) - 从「……ならば倒して奪うまでだ 」

静かに、しかし絶対的な強制力を含んだ低い声が響いた。
それを機に場は静まり返る。

ショボンとクーは背中を合わせ、共に銃口を相手に向けている。
その相手は信じ難いサイズの剣を正眼に構える。
3人はこの姿勢のまま微動だにしない。

互いに声も発しないまま時間ばかりが沈殿していく。

纏わり付く時を先に動かしたのは黒い死神だった。
右手1本で巨剣を構えながら、ボウガンを備えた左手をショボン達に向けた。

(´・ω・`)「来るぞ!!」

41 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:14:57.34 ID:poAEMaD20
死神は数十の矢の発射と共に猛然と突進してくる。
明らかに矢はショボン達の銃に対する牽制。
あくまでも勝負は身の丈に及ぶ巨剣で決める腹積もりのようだ。

それを承知しているショボン達は、近寄らせまいと銃身が焼けるほどに破魔弾丸を打ち込む。
死神が放った矢のほとんどは、ショボン達が打った弾丸に弾かれ空中で砕ける。
矢を砕いた弾丸はそのまま死神に届くが、盾の代わりを勤める巨剣に阻まれて体を穿つ事は叶わない。

そして遂に死神がその巨剣の間合いにショボン達を捕らえる。

ノ)) - 从「ふっ!!」

全身の筋肉を瞬時に絞ったことによって肺から空気が漏れる音が口から出る。
共に放つのは渾身の一撃。
しかし……

川 ゚ -゚)「それでは当たらない!」

超重量ゆえの大振りの斬撃はショボンとクーにとって脅威ではなかった。
太刀筋を完全に見切られた巨剣は虚しく地面を叩く……


……筈だった。

43 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:15:46.83 ID:poAEMaD20
川 ゚ -゚)「これはっ!?」

石床を叩いた巨剣はそこで止まることなく激しく地にめり込んだ。
剣自体の質量、死神の筋力から生み出されるスピード。
その斬撃のパワーは地という対象を捕らえ拡散する。

急激に加えられた力は、地面が緩和させ得る臨界を越え地表に飛び出す。
その様は活火山の噴火を彷彿とさせた。
暴力の噴火により巨剣が突き刺さる地面は爆ぜ、同時に粉砕された石床が散弾となって襲い来る。

その光景をスローモーションのように目の当たりにしたクー。
ほとんどが石の散弾に覆われた視界に不意に何者かが飛び込んできた。
クーと散弾の間に割り込んだ何者かは、そのままクーを抱き後方に倒れるように飛び込む。

(;´・ω・)「ぐっ……女性に何てことするんだ……」

川;゚ -゚)「ショボン!!」

クーは無傷だったが、庇ったショボンの背中には多数の石が突き刺さっていた。
グレーのスーツにじわじわと血が滲み始める。

早急に応急処置が必要だ。
そう判断したクーはそれを行うために障害を取り除く事を選択する。

44 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:16:32.96 ID:poAEMaD20
川 ゚ -゚)「私の婿殿を傷付けた罪は重い 」

(;´・ω・)「いや、こんな時にまだ言ってるの?」

ノ)) - 从「・・・・・・」

クーはショボンを静かに横にすると押し黙ったまま巨剣を持つ死神に視線を移した。
表情こそ大した変化は見られないが、その双眸には怒りの燐光が燈る。

川 ゚ -゚)「ショボン、お前は大事な身だ。しばらく休んでいてくれ 」

(;´・ω・)「じゃ遠慮なく休ませて貰うけど、大事な身って深い意味は無いだろうな?な?」

ノ)) - 从「・・・・・・」

クーは外套の内側から1本の銀色に光る金属の筒を取り出した。
それはただの筒でしかない。
しかしその内側から発せられる何かの存在感は、腹に深く重く響くプレッシャーを持っていた。

川 ゚ -゚)「妻として夫の身を守る!!」

/(;´・ω・)\「やっぱり深い意味有るんじゃないか!!」

ノ)) - 从「・・・・・・」

46 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:17:09.41 ID:poAEMaD20
死神はその間、鋭い殺気は衰える事は無いが微動だにせず待っていた。
畳み込むには絶好のチャンスだった。
それが分からないような三下ではないはず。

一抹の違和感を覚えはしたが、今成すべき事は目の前の敵を倒すこと。
クーは持っていた銀筒を前方に翳す。

川 ゚ -゚)「我は欲する。世の果ての獣、汝の力を 」

クーが言葉を紡ぐと同時に銀筒の蓋が開き中から薄い緑の光が漏れる。
その光は始めは弱々しかったが、クーの言葉と共に次第に強さを増す。

川 ゚ -゚)「我、葛葉ライドウの名において命ずる!猛々しき魔獣よ、我に従いて共に戦え!!」

銀筒から漏れる光は直視できないほどに強く輝く。
そして光の増大と共に五感に訴えるのは強力な魔の気配。

川 ゚ -゚)「双頭の魔犬『オルトロス』!!」

(´・ω-`)「うおっ、眩し!」

光は急速にクーが持つ銀筒に収束し、その1点の光の密度は直視する事が難しいほどに眩い。
突如として光が銀筒から飛び出した。

48 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:18:01.45 ID:poAEMaD20
眩い緑の光は、身を打ち振るわせる荒々しい咆哮と共に死神の側に放出され、何かの形を形成する。

ノ)) - 从「っ!!」

光の中から突如として現れた分厚い筋肉に覆われた獣の前足が死神を襲った。
鋭く尖った爪の一撃が、死神の体をガードした腕ごと切り裂く。
さらにそれだけに止まらず、100キロはあろうかという巨体をその数倍の質量を持つ巨剣と共に吹き飛ばした。

(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「久々ノ現世ダ……ライドウ、アレトソレガ獲物カ?」」

2つの首がそれぞれ自身が吹き飛ばした土煙の奥に沈んでいるであろう死神と、クーの横で涼しい顔をして寛いでいたショボンを見ながら言う。

(;´・ω・)「え?オレも?」

川 ゚ -゚)「こっちは私の夫だ。獲物はあっち 」

(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「グゥゥ……餌ハ1匹ダケカ……」」

(#´・ω・)。o ○(チッ!すっかり婚約者から夫に格上げされてる!でも無闇に否定したら大変な事になりそうだ!!)


49 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:18:58.67 ID:poAEMaD20
現れたのは雄々しい鬣を靡かせる2つの頭と、大型の肉食獣より更に巨大な、金色に輝く体を持つ獣だった。
その身体は隅々に至るまで、余す所無く強靭な筋肉に包まれている事が見て取れる。

クーはその魔獣を『オルトロス』と呼んだ。

(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「頭ガ2ツアルンダカラ2デ割レル数ノ獲物ガイルトキニ呼ンデ欲シイ……」」

川 ゚ -゚)「スマンな。今度から気を付ける 」

(;´・ω・)。o ○(身体は1つだからどっちから食っても結局は同じなんじゃないの?)

ツッコんだら負けだと思ったショボンは寸での所でその疑問を飲み込んだ。
今はそれよりも重要な事がある。

土煙の中から発せられる衰える事を知らない殺気の主だ。

ショボンとクー、そしてオルトロスの合計8つの目は朦々と立ち込める土煙の中を見る。
その中から2つの目が、その意気を失う事無くこちらを見返していた。


51 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:21:05.70 ID:poAEMaD20
ノ)) - 从「・・・・・・」

腕の裂傷から流れる血は地面を赤く濡らし、体に深く刻まれた爪痕から溢れる血は黒い衣服を更に黒く染める。
しかしその双眸は未だに力を保っており、殺気は前にも増して研ぎ澄まされていた。

川 ゚ -゚)「その傷で動くとはやはり人ではないか。何者だ?」

ノ)) - 从「・・・・・・」

クーの問いかけに答える代わりに死神は再び剣を構える。

力を込めた腕の傷口から一瞬血が吹き出した。
しかし次第にその勢いは衰え、遂には地面に絶えず落ちていた流血さえも無くなった。
切り裂かれた衣服の奥から覗く死神の地肌には早くも瘡蓋が出来始めている。

川 ゚ -゚)「おい、オルトロス。ちゃんと真面目にやってるんだろうな?傷がもう治っているぞ 」

(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「ソンナ事知ラナイ。イツモ通リダ 」」

(´・ω・`)b「血を流すのなら倒せる!!byシュワちゃんinプレデター 」

地面に寝そべったままショボンが口を出す。
死神は意に介することなく剣を正眼に構え、両眼から痛みを伴う程の殺気を向け続けていた。

53 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:22:09.60 ID:poAEMaD20
クーとオルトロスは横たわるショボンをそこに置き、ゆっくりと死神の元へと歩み寄る。
巨剣の間合いの1歩外まで近付くとクーは刀を肩に担ぐ構えを取る。
死神はその一部始終を微動だにせず黙って見ていた。

川 ゚ -゚)「不思議なヤツだなお前は。それだけの殺気を放ち続けながらも、こちらが攻撃しない限り手を出そうとしない 」

ノ)) - 从「・・・・・・」

川 ゚ -゚)「何か訳があるのだろうが、生憎それを聞くつもりはない。お前も言う気はないだろう?」

ノ)) - 从「・・・・・・」

川 ゚ -゚)「力で組み伏せる!行くぞ!!」

ノ)) - 从「……来い 」

沈黙の死神は短く答えた。
互いに気は剣に満ち、魔獣は唸る。

デビルサマナー・クーと魔獣オルトロス、対するは静かなる死神。

54 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:22:53.43 ID:poAEMaD20
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「GAUAAAAAAAHHHHHHHHHH!!!!」」

地下道を振動させる咆哮と共に、オルトロスの2つの口から炎が噴き出す。
2つだった燃え盛る炎は死神の元に届く寸前1つに重なり、炎の渦を形成する。
渦は高く燃え上がり業火の竜巻となって熱の暴風を生み出した。

火炎のサイクロンは巨剣を構えたままの死神を包み込んだ。
熱の壁は分厚く、死神の姿は完全に炎に飲み込まれる。

川 ゚ -゚)「ダメ押しというヤツだ!!」

そこにクーが刀を担いだまま飛び込んだ。
灼熱の竜巻の直前で高く跳躍し、その頂点から重力に身を任せ自身の体重を乗せた一撃を振り下ろす。



――正確には振り下ろそうとした――




55 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:23:53.70 ID:poAEMaD20
跳躍の頂点でクーが炎の竜巻の中で見たもの。

それは竜巻と逆向きに身を回転させる死神の姿だった。
巨体を包み込んでいる巨大な黒いマントが炎を絡め取りその身体に纏う。
身を焦がしているのではない。

死神は文字通り炎をその身に纏い、上空から迫るクーを見据えていた。

纏った炎は体から剣に移行する。
無骨な鉄の塊だった巨剣は炎の大剣となりクーに振るわれる。

攻撃の為に振り下ろされたクーの刀は反射的に防御に回される。
クーの刀は折れることなくその一撃を受け止めた。
しかし衝撃は確かにそこに存在する。
足場のない空中でそれを受け止めたクーの身体はショボンの方向に吹き飛ばされた。

(´・ω・`)「おっと、危ない 」

川;゚ -゚)「ナイスキャッチだショボン。しかし何という攻撃だ。腕の感覚が無い 」

自分の方に飛んできたクーを受け止め、ショボンは燃え盛る炎の竜巻を見た。
そして竜巻から飛び出す一陣の黒い影。

58 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:24:27.57 ID:poAEMaD20
(叉)゚,, >|<,,゚(叉)「「っ!!」」

黒い影は最も近くにいた敵、炎を吐く双頭のオルトロスに突進する。
両手には業火を纏う炎の巨剣。
それが頭上高く持ち上げられた。

死神は既に、業火の中で黒焦げになっていると思っていたオルトロスは反応が遅れた。
その2つの頭の間に振り下ろされるのは全てを否定する灼熱の一撃。

ノ)) - 从「むんっ!!」

(叉)゚,, >|三|<,,゚(叉)「「グ…ガ……ガ!!」」

地面を爆ぜさせた一撃が、今度は魔獣の身体を貫いた。
加えて巨剣に渦巻く炎の熱が切り裂いた傷口を焼く。

元々離れていた2つの頭が更に離れたオルトロスはその場にドウと沈み、
パックリと開いた傷口から体液と臓器のような物を零しながら痙攣を繰り返した。
直ぐに現れた時と同じように緑の光になる。
光はクーの下に集まり、元居た銀筒の中に戻った。

59 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:25:39.79 ID:poAEMaD20
川;゚ -゚)「クッ!オルトロス!」

(´・ω・`)「死んだのか?」

川;゚ -゚)「いや、この中に戻れば死にはしない。しかし本家に帰って治療しなければ戦えない 」

(´・ω・`)「想像以上に強いな……腕は大丈夫か、クー?」

川;゚ -゚)「まだ痺れが抜けない。こんな時にっ!」

大きく息を吸い込みショボンは立ち上がる。
未だに背中の傷からの出血は止まっていないが、それを全く問題にしないかのように表情は涼しい。
しかし涼しい表情の中心には、凄まじいばかりの眼光を宿らせた双眸があった。

(´・ω・`)「十分に休ませて貰った。ここからはオレがやる 」

川;゚ -゚)「ショボン!その傷で無茶だ!!」

62 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:26:33.75 ID:poAEMaD20
クーの言葉を受けたショボンは一旦眼の力を緩めた。
そして優しい声音で言う。

(´・ω・`)「オレの妻になるんだろう?少しはオレを信頼しろ 」

川 ゚ -゚)「ショボン……?」

再び強い光を宿らせた眼を向けた先は纏っていた炎が消えてしまった死神。
やはり死神はその場から動く事無く、ショボンが訪れるのをただただ静かに待ち続けている。
それを承知しているショボンは力強く1歩1歩近付いて行った。

(´・ω・`)「待たせてすまない。さぁ、やろうか 」

ノ)) - 从「……あぁ 」

死神は炎を失った巨剣を両手で正眼に構えるとそのまま頭上に持ち上げた。
大上段の構え。
その間合いに入る事は即ち死を意味する。

64 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:27:16.26 ID:poAEMaD20
ショボンは歩きながら先程刀を抜いたときに放置していた鞘を拾った。
その中に刀を納める。
死神の大上段の間合いの外で足を止めたショボンは、右肩を前に半身になり、納刀した刀を左腰に構える。
右手は刀の柄に添えていた。

(´・ω・`)「知っているか?かつてこの国に存在した侍は『居合い』という技を生み出した。
        超高速の技だ。1つ勝負といこうじゃないか 」

ノ)) - 从「・・・・・・」

沈黙の中に同意の意を込める死神。
ショボンもまたその意志を汲み取る。


当たれば即ち死―――

間合いに入れば即ち死―――

仕損じれば即ち死―――


剛の剣と速の刀。
互いに一撃はあれど二撃目は無し。


65 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:28:08.26 ID:poAEMaD20
ノ));- 从「・・・・・・」

(´・ω・`)「・・・・・・」

死神はここにきて初めて汗を流す。
原因は目の前の男の眼だった。
間違いなくその男は目の前にいる。

その眼で見える自分の像は、相対している限り正面のみに限られているはず……

しかし真後ろから、真下から、真上から、真横から男の視線を感じる。
何もかも見透かされているような視線を。

その視線は体の表面だけに止まらず、心臓の鼓動、流れる血潮、筋肉の挙動、自分の全てを見ているようだ。

67 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:29:05.06 ID:poAEMaD20
ノ)) - 从「・・・・・・」

(´・ω・`)「・・・・・・」

死神はその考えを振り払う。
眼という器官以外に見る能力を備えている物はない。
今感じているのは目の前の男が達人の域に達している事による気迫に過ぎない。

死神は巨剣を大上段に構えたままジリジリと間合いを詰める。
対するショボンは鋭い眼光のままその場に止まり続けた。

息を飲み、それを見るクーの耳には死神が地面を擦る音だけが聞こえていた。

68 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:30:03.14 ID:poAEMaD20
ノ)) - 从「っ!!」

巨剣の間合いに相手を捕らえる寸前、死神は片足を蹴り上げた。
同時に舞うのは最初に叩いた一撃で粉砕されていた地面の残骸。
細かい砂礫はダメージにはならなくとも目潰しにはなる。

生き残れば勝ちの状況において、これは決して卑怯な行為ではない。
死神は何よりも纏わり付く視線を嫌った。
一気に踏み込み大上段から必殺の一撃を振り下ろす。

しかしここで違和感に気付く。

(´・ω・`)「・・・・・・」

目潰しを食らったはずのショボンは目を瞑っていない。
寧ろ、『目潰しされた事に気付いていない』と言った方がしっくり来る。

死神は重大なミスに気付いた。

相手は自分を『見て』いたのではない。

『視て』いたのだ。

70 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:30:47.75 ID:poAEMaD20
ショボンは耳で、鼻で、肌で、舌で、全身の感覚器の全てを用いて死神『だけ』を視ていた。
目に向かって飛散する砂礫など初めから視界に入っていなかったのだ。

ショボンが使った見の技法。
時に『心眼』とも呼ばれる膨大な視線の中で死神は巨剣を振り下ろす。



・・・・・キー―――――――――ン・・・・・



しかし死神の巨剣は振り下ろされることなく途中で静止し、辺りには甲高い金属音が響いた。
それ以外に音はない。
動きも無い。
そこは完全な静寂に包まれた。


71 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:32:13.38 ID:poAEMaD20
ノ)) - 从「……1ついいか?」

静寂がヘソを曲げない程度の声で死神が呟く。

(´・ω・`)「あぁ 」

同じような声でショボンは答える。

ノ)) - 从「オレはノーマン。ダンピールのノーマンだ。お前の名を教えてくれないか?」

ほとんど言葉を発する事のなかったノーマンがショボンの名を聞く。

(´・ω・`)「ショボンだ 」

相手の聞きたい事だけを返すショボン。
ノーマンはそれを聞き満足気に頷くと、そのままバランスを崩し地面に倒れこんだ。

その巨体を中心に、灰色の石の床に赤い染みが広がる。


72 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:33:06.97 ID:poAEMaD20
場に響いた甲高い金属音はショボンが納刀した時の鍔鳴りの音だった。



超速で抜刀されたショボンの刀は、ノーマンの身体を切り裂き再び同じ速度で納刀された。



居合いは抜刀した瞬間に大きな隙が生ずる。
それは多勢を相手にする場合が多い魔との戦闘において致命的と言って良い。

しかしその攻撃力は一撃必殺。
致命的な欠陥を抱えつつも捨て置くのは惜しい。
ショボンは思った。

『隙があるのならばそれを無くしてしまおう』

納刀の昇華。
これは居合いを諦めなかったショボンによって編み出された技だった。

息を大きく吐くと、ショボンは倒れているノーマンに言葉を1つ向けた。

74 名前:十一話:2007/10/13(土) 00:34:30.05 ID:poAEMaD20

(´・ω・`)「ダンピールのノーマン……覚えておこう 」



      ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十一話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――


           〜その4、ダンピール〜終


76 名前:元ネタ解説:2007/10/13(土) 00:35:53.50 ID:poAEMaD20
元ネタ解説

ダンピール:
東欧やロシアの伝説に登場する、人間と吸血鬼のハーフ。
吸血鬼を殺す力がある。
参考に見た『吸血鬼ハンターD』のあまりのかっこ良さに、ウッカリ過去を掘り下げるほどに思い入れる。
元々はあくまでもクルースニクの前座の予定だったんですけど。


オルトロス:
世界の果てにあるというゲリュオンというバケモノの牧場を守護する双頭の番犬。
2つの首の付け根からは蛇の鬣が生えている。
ヘラクレスの12の難行の1つにオルトロスの討伐がある。
神話では泣きたくなるほどあっさりとヘラクレスに殺される運命。
マザーファッカーだがギリシャ神話にはよくある事。多分。

78 名前:元ネタ解説:2007/10/13(土) 00:36:58.00 ID:poAEMaD20
次回予告

次こそ
ちゃんと
終わらせます



      ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十二話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――


           〜その5、クルースニク〜



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