第28話「ビロードの決意」
1 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:06:01 ID:TdktQRVo0
          ィ'ト―-イ、
           以`゚益゚以      イトーイ増井だお! 規制されたから避難所デビューだお!
        ,ノ      ヽ、_,,,   あらすじだお!
     /´`''" '"´``Y'""``'j   ヽ  色々あってセントラルが独裁体制になった!
    { ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l  モナーが総統になった!
    '、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ  あと、フォックスっていう怪しげな男が登場した!
     ヽ、,  ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/   フォックスはセカンドウィルスを利用し、セントラルの人間を
      `''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r'   新たな生物「サード」に進化させる事で人類存続を図ろうとしている!
        ,ノ  ヾ  ,, ''";l     ……ねえ、イトーイは人間なの? セカンドなの? サードなの?

2 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:07:21 ID:TdktQRVo0




   ______
  ||// ィ'ト―-イ、|ィ'ト―-イ、
  ||/  以`゚益゚以 以   以    ( ^ω^)は街で狩りをするようです 第28話
  ||   (    )  | (    )    まとめはコチラ「内藤ホライゾン」 ttp://localboon.web.fc2.com/
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ u―u'


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           イトーイは一体……何者なの……?


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3 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:09:25 ID:TdktQRVo0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ、「システム・ディレイク」。
      ボストンでの失態から続く襲撃事件は、全て己の弱さが引き起こしたと考える。
      その唯一の贖罪方法が「セカンドを狩る事」だと信じる。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
      先の演説で、セントラルが直面している危機と、一致団結の必要性を説いた。
      幼馴染であるブーンに恋心を抱いている。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ショボン、阿部と共に、「クー・ルーレイロ」なる人物とクローンシステムの真相を暴こうと企む。

( ><)ビロード・ハリス:年齢9歳。
     ウィルス騒動の孤児。セカンドに対する強力な免疫を持っている。
     彼の面倒はツン・ディレイクが見ることに。

4 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:10:22 ID:TdktQRVo0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
     新型バトルスーツ開発プロジェクトを着手している。本格的な開発は予算会後。
     ジョルジュに恋心を抱いている。


( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルスに感染してしまった。
    「IRON MAIDEN」と抗体によりセカンド化を抑えこむが、無情にも変異は始まろうとしている。
    しかし、もし人の心を保つ出来るのなら、人として生きていたいと考える。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
     バトルスーツ隊隊長。
     先の戦いでは数多のセカンドを駆逐した。お調子者。

春麗:年齢25才。戦闘員パイロット。
    バトルスーツ隊隊員。
    チーム内ではハインリッヒと双璧を成す美貌の持ち主である。

5 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:11:03 ID:TdktQRVo0
――― 新旧セントラル議会議員 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:享年63歳。セントラル議会・議会長。
   白髪の男にウィルス実験の被験者にされる。 生死は不明。
   63歳で人としての人生に幕を閉じる事になった。

( ´∀`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。
      あくまで現状を維持しようとする荒巻に反感を覚えていた彼は、
      市民の為ならばとモララーによる荒巻謀殺を容認する。
      モララーと共に独裁制の「新セントラル議会」を設立し、独裁者となる。
      カリスマ性を発揮し、市民を一つにまとめた。


――― セントラルの人々 ―――

(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
     現在は、不味いと不評のバー「バーボンハウス」の店主であるダンディな男。
     2040年代に量産された戦闘用サイボーグらしいが、詳しい経歴は不明。
     ドクオに仕事を依頼されるが単独では困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。

阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
      ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
      その実態はサイボーグで、ショボン曰く高性能ガチホモ型インターフェースらしい。
      ハッキングなどに長けているようだ。

7 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:12:00 ID:TdktQRVo0
――― ラウンジ ―――

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。
     バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
     自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。
     フォックスに従い、彼の為にモナーとセントラルをコントロールしようとする。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出された超人。
     クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。
     先の総力戦で全滅したかに見えたが、フォックスらの武力としてストックが残っていた。

( ^Д^)プギャー・ボンジョヴィ:年齢不明。プギャー総合病院の院長。
     フォックスに従事している模様。
     ビロード・ハリスの免疫について研究を進める。
     彼の使う医療器具がラウンジ社製であるが、社との関係は不明。

爪'ー`)y‐:フォックス・ラウンジ・オズボーン年齢不明。経歴不明。
       元ラウンジ社の男。クローンを用いた抗老処置を施している。
       人類の知恵と可能性に限界を感じ、セカンドウィルスをコントロールしようと考える。
       フォックスは、彼が思い描く新たな人類を「サード」と名づけた。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:16:35 ID:TdktQRVo0
第28話「ビロードの決意」

  ―――西暦2059年、1月9日。

 新セントラル議会とチーム・ディレイクによる謝罪会見と演説から二日が経った。
 モナーら新議会は不要なチームの解体準備を前日までに終え、
 全兵器開発チームを中央議会堂・第一会議室に否応にも召集させた。
 話し合いに応じようとしないチームもいると予想したモナーは、早速独裁者としての権限を行使したのである。
 
 「召集に応じないチームに対しては、責任者を一ヶ月の禁固刑に処す」。
 手っ取り早い手段であったものの、発足から間もなく、またその強引さ故に、世間からの批判の声は大きい。
 各メディアの報道も様々。
 しかし、モナー総統は怯まず、断固として今回の解体を敢行しようとしている。

 10メートル四方の広々とした会議室は重苦しい。
 肌をヒリつかせる緊張の原因は、会議参加チームの半数以上が解体対象であり、
 その殆どが解体を好ましく思わない為であろう。
 この中で最も優遇された立場にあるツンとハインリッヒが、一番それをよく理解している。

 そもそも、私達が肘を立てている重厚な円卓も大仰なんだ。
 こういう場所に用意されてる物って、不必要なまでに何かと立派で大仰なんだよな、息が詰まるわ!
 ハインは胸中で一人ごち、円卓の中心から投影された巨大ホロが
 マイペースに低速回転する様を、羨むようにしてボーっと見つめる。
 言うまでも無く、この巨大ホロには本会議における資料が羅列している。

11 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:19:26 ID:TdktQRVo0
 巨大ホロ以外の資料として、A4サイズ程度の資料モニターが各人に配布されている。
 どちらも「チーム解体」に関する内容が綴られており、その事細かさから
 作製に手間と時間を要した事を伺えるが、字とグラフの羅列にツンとハインは目眩を覚えた。

ダルシム「突然チームを縮小するだなんて、絶対に認めないヨガ!!」

 頑丈そうな機械仕掛けの円卓を殴りつけて、褐色の肌を持つ男が泡を飛ばして叫ぶ。
 
从;゚∀从「わ、わぁーったから机にツバ飛ばすんじゃねーよ!」

ダルシム「アルドリッチ嬢! ちゃんと資料を読んでるヨガか!?」

从;゚∀从「ちゃんと読んでるからツバ飛ばすんじゃねーよハゲ!」

 そう目を回してばかりもいられないのだ。
 全員が巨大ホロと配布された手元の資料パネルに視線を転々とさせているのは、
 総統モナーと、チーム・YOGAの最高責任者ダルシムによる激しい舌戦を
 第三者として平等に酌めるよう、状況を漏れなく把握する為である。

 現在の議題はチーム・YOGAの縮小。
 殆どのチームが完全解体される中、縮小という処置は優遇されているように思えるが、
 ダルシムという男は中々食い下がろうとしなかった。

 当初、ツンは彼の様や言い分が傲慢なように感じたが、
 資料にある彼及びチームの経歴を見て鑑みると、その態度も納得出来た。

13 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:22:59 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ(そういえば、お父さんもYOGAに技術提供してもらった事があったっけ)

 科学技術の高度成長期であった2040年代、インドのドロイドメーカー「YOGA」は、
 当時流行した地下都市開発の手伝いもあり、建設向けのAI搭載作業用ドロイドで一躍大手へと成長した。
 ダルシムは、「YOGA」アメリカ支社の技術開発部の統括者であったのだ。

 彼は、セカンド騒動後の世界『セントラル』にて、その器量と要領の良さ、
 そして「YOGA」で培ったナレッジを発揮し、巧妙に都市開発の重要ポストに座した。
 しかしチーム・YOGAの地位を更に押し上げた要因は、荒巻スカルチノフ傘下であった事だ。

 保守・現状維持、いわゆる「穴倉の中」を好む荒巻の方針は、『セントラル』を下と横方向へ広げていった。
 まるで蟻の巣のように拡大していった『セントラル』であるが、その成長模様は2040年代時の地下都市開発に共通する部分が非常に多い。
 荒巻の信用を勝ち取り、チーム・ダルシムが抜きん出たのも、こういった理由があったのだ。

 更に「YOGA」は地下都市開発の第一人者なのだが、実はセントラルパークの
 地下エンタメ施設工事の陣頭指揮を執っていたのも他ならぬ「YOGA」なのだ――後に
 未完の『セントラル』の建設工事を指導したのは“フィレンクト・ディレイク”である事を補足――。

 ダルシムのような実力者、あるいは科学者がセカンド騒動を生き残ったのも、
 こういった背景がある。生き残りには「セントラル開発」に携った者が多数いるという訳だ。
 つまりダルシムにだけ限った話ではない。
 この円卓の半分以上が、地位が消失すると困る者で占められているのだ。
 
 特にダルシム。誇るべき十年来の実績に加え、『セントラル』都市開発での寡占的企業運営……。
 荒巻政権と共に資本主義構造が消滅するのは、企業とダルシム自身の
 地位が脅かされるのと直結する事になる。
 だからダルシムは先頭を切ってモナーに反撃したのだ。

14 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:25:53 ID:TdktQRVo0

ダルシム「資料にもある通り、我々YOGAは『セントラル』に無くてはならない存在ヨガ!
      何故それを理解しないヨガ!? 絶対に後悔するヨガよ!?」
 
( ´Д`)「……うむ。君の言うとおり、チーム・YOGAはこれまで『セントラル』の、
      特に開発に尽くしてくれてはいたが、資料に挙がっているチームは例外無く
      縮小か解散の対象とする。これは覆さないよ」

 だが、モナーは顔色一つ変えず、ダルシムの激昂を受けて返す。


ξ;゚听)ξ(な、なんか、思ったよりズバッと言うわよね……)ボソボソ

从;゚∀从(だな。おっかねー……)ヒソヒソ

 いつものように灰色のスーツに身を包んでいるモナーだが。
 普段の温和なイメージは何処へ行ったのやら、そう思える程に声は事務的である。 
 新議会発足から第一回目となるこの会議で、多くの者が
 モナーの新たな一面である厳格な物腰に圧倒されてばかりだった。

ξ;゚听)ξ(立場が立場だもん。ああいう態度を取るのも仕方ないんじゃないかしら)ボッソボッソ

 その一方で皆、総統という多大な責任を背負っているからこそ、
 このような恨まれ口を叩くのだろうと、そう理解していた。
 
 何よりモナー自身が人命を最優先すると断言したのだ。
 シビアになりすぎるのが当然なのかもしれない。
 断固として武力増強を成功させる!
 そんな彼の確固たる意思を、ツンは言葉の端々から感じていた。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:28:08 ID:TdktQRVo0

ダルシム「何を仰るヨガ! 体制が変わろうとも、今後もYOGAは必要とされるヨガ!」

 「ダルシム氏を支持する!」
 「チーム・YOGAの言う通りだ! 我々は今まで通り必要とされるはずだ!」

 ダルシムのように異議を唱える者も少なからず居る。
 大抵の者が「これから、今後」と口にし、己のチームが『セントラル』にとって
 大きな力になる事を自負しつつ、どう転んでも良いように自社及び自チームの
 能力の高さをアピールしているのである。

 モナーという独裁権を持つ男を前に、卓上での権力争いが行われているのが、現状だ。
 尤もモナー本人もこの醜い争いには気づいているが、好きに言わせておく事にしていた。
 彼等が何と喚きようが決定は覆さないと心に決めていたからだ。


( ・∀・)「静粛に。会議の場ですぞ」


 場を宥めるのはモララー・スタンレーの役目であった。
 彼が鋭くそう言えば、皆は目線やり場すら一時的に見失う。
 それ程の制圧力を彼の言葉に持たせたのは、会議室の周囲で陣取る銃を持った兵士達の他ならない。
 モララーが所有するHollow-Soldierという武力が、
 会議の場においてもこの上無い抑制となって働いているのだ。

( ´Д`)(穏やかに進めたいものだが……しかし、やりやすいな)

 元々は穏健な政治家であるモナー。だが、効果覿面である事を実感すると、
 武力をちらつかすのもまた重要なのかもしれない、と認識を改めた。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:30:35 ID:TdktQRVo0

 場が一気に沈着すると、モナーは再び口を開いた。

( ´Д`)「諸君らのように可能性という観点で見るのなら、我々が期待しているのは
      ディレイク、アルドリッチ、スタンレーの3チームのみだ。
      この際はっきり言ってしまうが、君達のような弱小チームの為に
      時間とコストを割く余裕など『セントラル』には残っていない!」

ダルシム「じゃ、弱小だと!? 冗談じゃ――」

 プライドの高いダルシムは聞き捨てならなず、反論しようとするが、

( ´Д`)「私は戦闘における程度を言っているのだ」
 
 モナーの一言に口を噤む。
 他者からの提言を受けての発言だろうか、とツンは一瞬思うが、
 冷徹な声色を反芻してすぐに思いなおす。
 モナーは断固として完璧な整備を進めようとしている、と。

 事実、モナーはそのつもりであった。
 勿論チーム・YOGAを始めとする都市開発チームの成果を
 忘れた訳ではないが、ブーンやモララーが説いた「セカンドの脅威」を思えばこその、切捨てである。

 
( ´Д`)「これは命令だ。総統の権限を行使した、ね」

ダルシム「お、横暴ヨガ! 独裁制だとしても、あまりにも横暴すぎるヨガ!」

 横暴、か。よく言うものだ。モナーですら、思わず舌を打ちそうになる。
 君達は、私という独裁者に何とか取り付いて地位を守ろうとしていたように見えたが。

17 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:33:28 ID:TdktQRVo0

 モナーは一息深く吐いて、

( ´Д`)「そう、これは独裁制だ。君達がいくら何を言おうと、
      最終的な決定は我々が下せるのだ。市民もそれを認めてくれた」

ダルシム「市民が……認めた……」

 ダルシムは昨日の事を思い出す。
 モナーを支持する市民の大歓声……。
 年を幾ら重ねようとも、この記憶は色褪せないだろう。
 それほど屈強な団結力があったと、ダルシムのような反対者ですら思わざるを得ないのだ。


 モナーは、やはり高圧的な声で続ける。

( ´Д`)「しかし、私も慣れぬやり方だ。だから今日、
      君達が納得してもらう為にこの場を設けたのだ」

 そこで一度切り、次は口調を穏やかにして、

( ´Д`)「……いいかねダルシム君、反対する諸君。
      なにもずっと、君達の自由を取り上げたままにならないはずなんだ。
      時期がくれば必ず、君達の手で再び奴等を討てるようになるだろう」

ダルシム「時期とは、一体……例えばどのような……?」

 半ば権力という物を諦めていた為、ダルシムは興味を示す。

18 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:35:06 ID:TdktQRVo0

( ´Д`)「具体的に言うのは現段階では難しい……が、
      そのような未来に辿り着けるバイタルと知恵を君達は持っているはずだ」

( ´Д`)「――だから、頼む。今は私の言う事を信じて欲しい!
      今の我々が奴等をねじ伏せるには、一致団結するしか無いんだ!」

 モナーが放った力強い言葉が余韻として残る程、場は静まり返る。
 皆、モナーの言葉を反芻しつつ、思案を巡らせているのだ。


ダルシム「…………今やれる事に尽力しますヨガフレイム」


 反対者の先頭であるダルシムが遂に折れる。
 他の者も押し黙り、屈服の意を示した。

「――ああ、そういえば一つ大事なことを言い忘れた。これは朗報だ」

( ´∀`)「プギャー院長先生が、ビロード君の免疫細胞から抗体を作ってくれている。
      この抗体を体内に注入する事でセカンド化を防いでくれるらしい。
      モララー君のチームも協力してくれている。市民に普及するのも、そう遠くないだろう」

从 ゚∀从(そうなの?)

ξ゚听)ξ(ええ。話を聞いたのは昨日。抗体精製の技術はウチにあるんだから
      ウチでやっちゃおーと思ってたけど、手間が省けていいわ。
      それに、プギャー先生なら信用できるし)

19 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:36:51 ID:TdktQRVo0
  ※


 今日の会議を終え、ツンとハインは議会堂から近くのカフェに立ち寄った。
 ちょうど昼時で店内は満席、彼女達は店外のテーブルに座る事になったのだが、
 生憎ここは『セントラル』、快適な温度なので料理と茶はすぐには冷めない。

 一方でモナーとモララーらは続けて都市開発チームとの話し合いがあるらしく、
 「悪いが今日は一日中ここから出られそうもない」と、ツンの食事の誘いを断っている。


ξ゚听)ξ「その未来に辿り着けるバイタルと知恵……ねぇ」

 マスタードたっぷりのホットドッグを口元に運びながら、ツンは呟いた。


从 ゚∀从「あーん?」

ξ゚〜゚)ξ「……いや、そういえば昨日の演説で
     ナイトウも同じような事を言ってたな、って」モグモグ

从 ゚∀从キリッ「人間の可能性は無限大。そして今日まで
      僕達が生きてこれたのは人間の知恵があったからです」

 「そうそう」と、ツンが相槌する。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:38:51 ID:TdktQRVo0

从 ゚∀从「ま、確かにね。こんな世界でこうしてホットドッグが食えるのはすげーよ。
     なんだかんだで荒巻による穴倉整備の恩恵を授かってんだよね。
     ボストンのような強力なセカンドが襲ってくりゃ、一溜まりもねーけど」

 幾つもの道路を伸ばす中央エレベータを、ハインは思い耽るように眺める。

ξ゚听)ξ「襲撃事件の時は流石にヒヤリとしたけど、お陰で
     『セントラル』の戦力不足を確認する事が出来たし」

从 ゚∀从「犠牲はあれど、結果的に良い方向に向いたとな。
     でも依然として気を許せない状況だ。残存する戦力はクローン兵くらいだもん。
     攻め込まれちゃあ、今度こそ終わりだぜ?」

 大雑把で乱暴なイメージを持たれがちなハインだが、考え方は意外に慎重なのだ。
 ツンは、ハインらしい冷静な見解だ、と思う。

ξ゚听)ξ「アルドボールで見る限り、マンハッタン近辺は静かなもんらしいわよ。
     ボストンの連中もブーンにビビって逃げ帰っちゃったし、しばらく安全よ。
     クイーンズ区のセカンドは『セントラル』にビビってるのか、近づこうとしないし」

 「まぁそうだな」と、ハインは返して、

22 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:43:02 ID:TdktQRVo0

从 ゚∀从「……んで、ブーンの修理はいつ終わるの?」

 最重要、最強の戦力であるB00N-D1の容態を、
 その鍵を握るツン・ディレイクに、神妙な表情で尋ねる。

ξ゚听)ξ「夕飯前には終わるわ。むしろ今日終わらせておきたいのよね。
      近い内に新スタッフが配属されるって話でしょ?
      大勢のスタッフを手持ち無沙汰にしない為にも、今からやる事が一杯ってわけ」

 「さすが、仕事が速いようで」と、ハインは皮肉ったような言い方をしつつも安堵して、

从 ゚∀从「そういう話で議会は進めてるもんな。
      っつっても、ツンのチームにそこまで人員が必要なのか?」

ξ゚听)ξ「実はね、モナーさんの提案もあって、システム・ディレイクの量産化を考えてるの」

从 ゚∀从「ビロードの免疫細胞を利用したサイボーグの増員だな?
      量産化となると、ブーンよか性能は劣りそうなもんだが」

ξ゚ー゚)ξ「ご名答! アンタと話してるのって楽でいいわねー。
      んでね、早速モニターになってくれる人がいるのよ! 今日はその面接」

从 ゚∀从「ブーンに続く、システム・ディレイク第二号、ってわけか」

ξ゚听)ξ「で、アンタの所はどうすんの? スケジュールが随分変わるんじゃない?」

从 ゚∀从「うーん……どの程度の人材と資材を回してくれるのか分からないから何とも……。
      教育する必要の無い人材だったら嬉しいね。
      一々教鞭振ったり教育マニュアル作んなきゃってんじゃ、面倒くせえじゃん」

23 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:44:39 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ「まさか。回ってくるのは学生じゃなくって技術者よ?
      設計図とマニュアルさえあれば機能するわよ」

从 ゚∀从「そうだといいけど……まあ、それもそれで不安もあるんだけどね」

 一致団結という言葉を思い返すと、不安を覚える。
 絶対的権力が屈服させたような連中が、果たして能動的に協力してくれるのだろうか?
 昨日の集会で見せた一体感は、ひょっとするとモナーに乗せられて生まれた瞬間的な物であるかもしれない。
 現に、昨日の今日なのにも関わらず、批判の声が大きい。

从 ゚∀从「……お、あれショボンじゃん?」

 物思いに耽りながら適当に視線を泳がせていると、大袋を抱えたショボンを捉えた。
 ツンが「あ、ホントだ」と確認したのち、すかさずハインはショボンを呼び止める。

 ショボンは歩道の中の人ごみから脱出して、彼女達の席へと歩み寄り、
 生身の人間ではとても抱えきれない大荷物を抱えたまま、平然と会釈した。

从 ゚∀从「よう、クソミソXことショボン。昨日は美味いメシ、ごちそーさん」

(´・ω・`)「どうもどうも。確か今日は二人とも会議に出席するんだったよね。
      もう終わって、遅めのランチってところかい?」

ξ゚听)ξ「うん。なんだか皆殺気立ってて、少し疲れちゃったわ。
      ショボンは大荷物抱えてどーしたの?」

(´・ω・`)「買出しの帰り。今日からさっそく営業再開したいし、今日は
      ドクオ・アーランドソン様から貸切の御予約が入ってるから、その準備ってわけ」

25 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:46:49 ID:TdktQRVo0

从 ゚∀从「祝勝会やるんだっけ」

(;´・ω・`)「祝勝会と題するのは不謹慎じゃないかな?
      元はと言えば、僕とドクオとブーンとで飲む約束をしてたってだけだし」

从*゚∀从「アタシ達も行っていいんだったよね!?」

(´・ω・`)「ああ勿論さ。だからこんな大荷物抱えてるんだって。
      しかも店の奢りだ、飲み食いしてぶっ倒れてくれ。腕を振るうよ!」

ξ゚听)ξ「あら、楽しそうねショボン。あ、普段そんなに材料使う程お客さん来ないからか」

(´・ω・`)「ぶち殺されてーのか」

ξ゚听)ξ「ってかアンタ、料理は上手なんだからランチ営業すりゃいいのに」

(´・ω・`)「うーん、一人じゃ手が回らない……バイト募集しようかなぁ」

ξ゚听)ξ「アルバイトじゃなくって、ドロイドは?」

(´・ω・`)「クソ高い購入費を考えると、元を取れるかどうか不安なんだよね」

从;゚∀从(そういやブーンの本にも酒が不味い店って書いてあったっけ。
      ……ま、酔えりゃいいか。タダだしな)

26 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:51:28 ID:TdktQRVo0
(´・ω・`)「それにしてもツン、君達は僕が思っている以上に嫌われてるようだな」

ξ゚听)ξ「え?」

 ショボンは顎をくいと動かして、自分の背後に注目させた。
 何事かと首を傾げて示された方に目をやると、ここから少し離れた位置から
 なんとも白い目で自分を見て、ひそひそと話している者達が居る事に気づいた。

 そういった者達が一つだけでなく、複数存在する事も。
 思えば、ホットドックのマスタードの量も尋常ではなかった。
 嫌がらせだろうか? 好きだから別にいいんだけれど。

 彼等はツンに気づかれたと知るや、目を逸らした。

(´・ω・`)「彼等が何を言っていたのかは教えないでおくが、
      ああいった輩がいるって事は心に留めておいてくれよ。
      恨みを買われてるんだから、用心した方がいい」

ξ゚听)ξ「……そうね、気をつける」

ξ;゚听)ξ「ねえハイン……その、ラボの評判を落としたくなかったら、
       アタシと一緒に居るのは控えた方が……」

从 ゚∀从「バーカ、水臭いぞツンちゃん。アタシ達、もう友達だろ?」

ξ*゚听)ξ「ハイン……あ、ありがとう……」

从 ゚∀从「圧倒的に美しく聡明なのはアタシだけどね」

ξ゚听)ξ「アタシのありがとうを今すぐ返してくれ」

27 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:52:20 ID:TdktQRVo0

(´・ω・`)「まぁ、ああいうのは一部の連中だけだと思うけどね。
      彼等にも色々事情があるんだろうし、こうした状況に陥った原因である
      君達が蔑まれるのは仕方のない事だろう」

ξ゚听)ξ「……別に平気よ。辛くはないわ。それに、覚悟はしてたからね。
       それより、アタシやブーンなんかより……」

ξ;--)ξ「……ビロードが心配よ。あの子がボストンから来たって事は報道されちゃったし。
        皆、ボストンについて良いイメージ持ってるはずが無いもの。
        学校でイジメられたりしないかしら……」

从;゚∀从「……そうだな、そりゃ心配だ」

(´・ω・`)「確か、ガイルさんと一緒に入学手続きに行ってるんだっけ」

ξ゚听)ξ「うん。通うのは明日からかな……」


  __

28 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:54:51 ID:TdktQRVo0
  ※


ガイル「にゅ、入学を断るって……校長先生、冗談でしょう!?」


 応接間に自分の驚声が響いた後、ハッとして口を手で覆った。
 すんなりと入学させてくれるものとばかり思っていたので、動揺してしまった。
 ドアに目を向けて気配を探るも、物音はしない。彼が、ドアの向こうで待っているのだ。
 
 白髪が目立つ女校長もそれを確認した後、理由を静かに述べ始めた。

川 ´益`)「先日の襲撃事件を引き起こした原因の地……ボストンの子だという事を
      同年代の子供も理解しているはずです。
      中には先の戦いで家族を失った子供もいるのです……」

ガイル「ビロードは学校に行った事が無いんだ。
     い、いや学校に住んでたんだけどよぉ…… ああ、んな事はどうでもいい!
     とにかく、俺達はアイツにも子供らしい生活をさせてやりたいんです!」

川 ´益`)「仮に入学しても、子供達はビロード君を怖がって友達になろうとしないでしょう」


川 ´益`)「子供らしい生活をさせるのなら、いっそ入学させるべきではないと私は考えます。
      子供達の保護者方も良く思わないでしょうし……」

29 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:55:52 ID:TdktQRVo0

ガイル「そこをなんとか……その、先生方に守って頂ければ……」

川 ´益`)「……申し訳ありませんが……。皆と同じ教材は差し上げますので……」


ガイル(……なんて事だ……)

 暗い表情でガイルは席を立ち、重たい足取りでドアに向った。
 ドアの向こうで待つビロードに何と言おうか、そう思うと、ドアノブを捻るのを躊躇ってしまう。
 ガイルは振り返って哀願の眼差しを校長に送るが、彼女は無言で首を横に振るった。

 『セントラル』唯一の小学校に入学を拒否されてしまうなんて……。
 
 彼女の意思は固い。
 何度頼み込もうと、恐らく考えを曲げようとしないだろう。

ガイル(ビロードに合わす顔がねえよ……)

 ドアの向こうで待つビロードは、これから始まる輝かしい
 学生生活に胸を馳せているに違いない。
 そんな少年に対し、一体どんな顔と言い訳を持っていけばいいのか……。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:57:06 ID:TdktQRVo0
 しかしガイルは、ビロードの屈託無い笑顔を思い返している内に、
 校長の言い分が正しいのではないか、とも思い始める。
 先の戦いで家族を失った者の中には、ビロードを災いの種と疎む者もいるはず。
 同窓の子供がビロードを徹底的に虐めるという事も有り得るのだ。

ガイル(ボストンからコッチ、そんな暗い生活させたくねえ……。
     ボストンに居た時の方がマシだとさえ思われちまうぞ)


ガイル(だけど、なんて声かけりゃいいんだ……)


 ビロードを慰める言葉が思い浮かばないまま、ガイルドアを開けた。
 ドアの真正面の壁に背を凭れて、少年は待っていた。


( ><)「……」


ガイル「ビロード?」

 目を輝かせているものとガイルは思ったが、ビロードは項垂れていた。
 黒髪から覗ける表情は芳しくない。

32 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 03:58:26 ID:TdktQRVo0


( ><)「入学、出来ないんですか……」

ガイル「……すまん、聞こえたんだな……」


 ビロードに辛い思いをさせてしまったのは、自分の失態が招いたせいだ。
 入学出来ると確信していても、もう少し離れた場所で待たせておくべきだった。
 もしくは、時間が掛かるから、とでも言ってラボに残すべきだった。
 よく考えれば、入学拒否は十分有り得る事だった。

 ブーンやツン博士に何と言おうか。
 何より、目の前の小さなビロードをどう慰めるべきか。

 ショックで頭が真っ白になっているガイルには、見目がつかなかった。


ガイル「その、な、ビロード、」


( ><)「いいんです。何となく、こうなるんじゃないかって思ってましたから」


ガイル「ビロード……」

34 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:00:49 ID:TdktQRVo0

 ビロードは壁から背を離して、踵の音を廊下に響かせ始めた。
 ガイルは後を付きながら、ビロードの言葉を待つ。

( ><)「勉強は何処でも出来るんです。
      ボストンではしぃさんとアニー……じゃなくて、オットーが勉強を教えてくれてたんです。
      スネークとギコは、よく一緒に遊んでくれましたし……」

ガイル「……なら、俺やブーン達が友達で先生だな!」

( ><)「僕もそうだと思ってるんで寂しくないんです。
      それに、勉強くらい一人で出来ますから!」

 ビロードは出入り口に向って軽やかに走り出した。
 ガイルには何故か、その姿が空元気であるように思えたのだ。


ガイル「……情けねえ」


 ふと立ち止まり、窓に目を向ける。
 思い詰めた表情、酷い顔だ。
 子供に気を掛けられてしまうのも無理は無い。


ガイル(元気づけられてるの、俺じゃねえか……ああ、情けねえ……)

35 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:04:15 ID:TdktQRVo0
ガイル「……おーい! 待ってくれビロード!
     ラボに帰る前にアイスでも食ってこう!」

(*><)「うっひょう! アイスですか! ななな、何年ぶりかわかんないです!」

ガイル「ったく、アイスが何年ぶりかなんて9歳児のセリフじゃねえなぁ。
     これから美味いもん沢山食わしてやるよ!」

(*><)「それは楽しみなんです!」


( ><)「…………」
 
  しぃさんやスネークにも食べさせてあげたかったんです。

 その思いを、ビロードは声に出すまいとぐっと堪えた。
 辛さは絶対に見せないと、昨日のブーンの演説を見て誓ったのだ。

 今後、ブーンが外で戦い続けるのだから、心配をさせたくない。
 心配させるようなら、僕はブーンの足手まといになってしまう。
 そして僕だって、皆の為に何かが出来るんじゃないだろうか。

 スネークの勇敢なる死。
 弱さ故に暴走してしまったギコ。
 迷いを断ち、傷つきながら必死に戦ったブーン。

( ><)(そうだ……僕だって、僕だって……!)

 彼等の姿を見てきたビロードは、一つ決意する。
  __

36 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:07:06 ID:TdktQRVo0
  ※


 チーム・ディレイクのラボは広大なスペースを保有している。
 幾つもの作業室、武器を収納する格納庫、トレーニング室、
 幾つもの会議室、仮眠室や談話室、チーフ専用の一室、ドクオを閉じ込めて反省させる独房まで。

 スタッフの数も少ないが、特に戦闘員の数――ブーンただ一人――の割りに合わぬ待遇であると、
 チーム・ディレイクをライバル視する者達は常々口にしているのだ。
 それはツンやブーンを始めとする当人らも自覚している事である。

 この不必要な拡大は、ツンの「何かとあった方が便利」という安易な考えと、
 「他のチームに力の差を見せ付けるのよ」という傲慢な考え方が招いた結果である。


( ^ω^)「このアホみたいに広いラボが意味を持つようになるとは……」

 細道にブーンの低い声が通る。
 まだ両足を付けられていないブーンは、車椅子でゆっくりと移動している。
 補足しておくと、四肢以外のダメージについては修復作業を終えており、
 後は腕の装着を残すのみとなっている。

('A`)「たくさんのスタッフが配属されて来るって話だからなー。
    ラボの改装はあるとしても移転しなくて済むのは有難いね。
    ツンの負けず嫌いに感謝すべきか」

37 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:08:16 ID:TdktQRVo0

( ^ω^)「それにしても、戦闘員の増加ねえ……」

ξ'∀`)ξ「安心してナイトウ! アタシはアンタ一人を見続けてあげるから!」

(;^ω^)「おい、別に焼きもちとかそんなんじゃ――」


『はい! そうですそうなんです! 私、昨日のブーンの演説を聞いて、
 私も戦うべきだと思って! 戦闘員として再起すべきだと思ったんです!!』


(;^ω^)(;'A`) ビクウッ!!

 とある会議室の前を通りかかった時である。
 ドアや壁が防音の役割を果たせない程巨大な女性の声が、ブーンの言葉を遮ったのだ。
 ドクオに至っては驚きの余り呼吸を忘れてしまっている。


(;^ω^)「い、今の叫び声は……?」

(;'A`)「はあ……ビックリして漏らしそうになっちまったぜ。
     そういや、急遽面接を行うとかツンが言ってたっけ」

38 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:11:10 ID:TdktQRVo0

( ^ω^)「面接? ツンが面接やってんのかお」

 「ああ」と、ドクオは肯定して続ける。

('A`)「戦闘員兼モニターの面接。戦闘員の公募はまだずっと先の予定だけど、
    ウチのスタッフからその子にモニターを探してる、って話が伝わったとかでさ。
    推薦、って形になるのかな」

(;^ω^)「へえ……って、その子って事は!
      今の声聞いて思ったけど、やっぱり女の子なのかお!?」

('A`)「そうだな。おまけにフィレンクト氏作のサイボーグって話だ」

(;^ω^)「フィレンクトさんの? ふーむ……」

('A`)「40年代の兵士かなんかだろうな。
    っつー事は女の子じゃあねえな……20代後半以上の大人の女性だ」

('∀`)「ブーンから見ると、サイボーグの先輩、ってとこだな」

( ^ω^)「ふーむ……サイボーグの先輩かお。少し話してみたいもんだお」

('A`)「なに、近々会えんだろう。行こうぜ」

 二人は名残惜しそうに会議室の前から立ち去る。

39 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:14:13 ID:TdktQRVo0

「元々、私は陸軍のサイボーグ隊に所属していまして!
 しかも私のサイボーグ化を担当したのは、フィレンクト氏です!
 もっとも、今のシステム設計とは全く異なる物だと思いますけど!!」

ξ;゚∀゚)ξ「あ、あの、ヒートさん? もうちょい静かに喋ってくれます?」


ノパ听)「了オオオオオ解ッ! しましたアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


ξ# )ξ「うるさいっつってんの、分かりません……?」
     て
ノハ;゚听) そ「す、すみません! 良い所見せようと思って、つい気合が……」


 彼女の名はヒート・バックダレル。
 赤茶の髪と美しい顔立ち、豊満に膨らんだ胸――中身がナマか金属か、
 それは資料を見たツンとヒート自身のみが知る――が魅力の26歳だ。
 そんな彼女に対するツンの第一印象は、26歳児である。

 針金を通したかのような真っ直ぐな姿勢と
 度が過ぎるほどオーバーな受け答えは、実は元軍人の名残り。

 現に彼女はすっかり戦場から遠ざかっており、今は――いや、昨日までは
 第4階層に看板を構える携帯端末会社で広報として活躍するオフィスレディだったのだ。
 元気で器量良しと評判の彼女が、よもや戦場を駆ける戦士だったとは、社員の誰もが夢にも見ない。

 そうして彼女の軍人の気質は、社会という中で潜んでいた。
 しかし今日、再び姿を現したのは先日の演説が切欠であった。

41 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:17:58 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ「戦闘経験は実に豊富のようですね……」

 資料を携帯端末に読み込ませ、同じく携帯端末で投影されたホロに指を這わせて、
 ツンは次々と文章を読んでゆく。
 これはヒート自身が一夜かけて纏めた資料である。

 彼女がサイボーグに転化したのは2048年、18歳の時。
 初めて戦場に立ったのも同年、18歳の時だ。
 彼女が20歳の時にセカンド騒動が勃発した為、実際に軍務に就いていたのは僅か3年となるが、
 3年間で挙げた功績は目を張るべきものである。

 ここではヒートの戦闘センスを讃えるのが正しいのかもしれないが、
 ツンは彼女をデザインした父の手腕を、つい誇らしく思ってしまった。

ξ゚听)ξ「前世代の物とは言え、父のサイボーグシステムを搭載しているのは好都合、と言いますか……。
       貴方が量産型システム・ディレイクのモニターに立候補してくれたのは、
       非常に有難い事ですよ。新型のシステムに転化しやすいですから」

ノパ听)「ありがとうございます!」

ξ゚听)ξ「それより、個人的な興味でお聞きしますけど、
      ブーンの演説に感化されて、戦士として再起したいと仰いましたよね?
      再起とは、つまりどういう事なんです?」

42 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:19:04 ID:TdktQRVo0

ノパ听)「……よくある話ですよ。
     当時のセカンド騒動で精神的傷害を負ったりってのは」

ノパ听)「要するに私もトラウマになっちゃったんです……セカンドが怖かった。
     情けないと思われるかもしれませんが、当時の街は戦場なんかよりも、
     もっと無慈悲で、恐ろしい所のように私には思えました」

ξ;゚听)ξ「そんな、情けないだなんて……」

ノパ听)「いえ、情けないのはこの後になりましょうか……」

 そう言ってヒートはシャツをはだけて、銀の光を放つ肌をツンに見せる。
 肩や二の腕の一部、胸を覆う装甲が父のデザインした物であると、ツンには一目で分かった。

ノパ听)「この身体のお陰で何とか生き延びる事は出来ましたけど、
     『セントラル』の為に戦う気は起きなくって……怖かったんです。
     それ以来、誰かが代わりに戦ってくれる事を良しと思っていました」

 “ブーンのような誰かが、自分の代わりに戦ってくれる”
 市民の多くがそうであったのを、ツンは昨日確認している。

43 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:21:55 ID:TdktQRVo0

ノパ听)「それじゃダメだって、昨日目が覚めたんです!
     戦える私が戦うべきだったって!
     でも、私の身体はセカンドと対等に戦えるレベルの物ではないッ!」

ノハ )「力とが欲しくってモニターになりたかったんです!
     ブーン程じゃなくっていいから力が! 本当は私も奴等をこの手で殺したいんです!
     両親や友人の仇であるセカンドを滅したいんですッ!!」

 ヒートは機械の身体を震わせながら、心の内をツンに打ち明けた。

 残酷且つ暗い一面を他人に話す事は容易ではない。
 包み隠さず自分の本当の気持ちを素直に吐き出せるヒートを、ツンは感心すると同時に少し羨んだ。
 しかし、モニターを務める以上、彼女には相応の態度で臨んで欲しい。
 そう思い、ここは警告すべきだと考えた。

ξ゚听)ξ「……貴方にモニターを頼むのは、貴方自身に力を与える為ではありません。
       今度の量産型システムのテストの為であり、『セントラル』の戦力増強の為なのです」

ノパ听)「それを理解した上での立候補です。
     会社は辞めましたし、毎日このラボと『セントラル』に尽くすつもりです」

 意外にもヒートの返答は早く、一瞬ツンは目を丸くする反応を見せた。

44 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:24:16 ID:TdktQRVo0

 だが、彼女が嘘をつくような人間でない事は、この数分のやり取りで分かっている。
 恐らく恐怖を克服し、勇敢に戦える人間である事も。

 ツンは安心して、彼女の張り詰めた気を楽にする為にも、微笑んで返した。

ξ゚ー゚)ξ「でも、早急に貴方が街に行けるように、我々も努力します。
       もっとも、モニターなのですから、テストを兼ねた実戦の機会も少なくないでしょう。
       かなり危険な仕事になると思いますが、よろしいですか?」

ノパ听)「構いません! むしろ有難いくらいです!
     私は一日も早く奴等に銃弾を浴びせたいのです!」

ξ゚ー゚)ξ「……貴方ならそう言うと思いましたよ。
      では後日、手術のご連絡を致します」


ノハ*゚听)「了オオオオオオオオ解ッ! しましたアアアアアアアアアアアッ!!!」


 腹の底から全力で生み出されるヒートの声は実にでかい。
 真正面から直撃を受けたツンだが、耳に感じる軽度の痛みより、暑苦しさに嫌気を射して、
 実に冷ややかに「それ、もうやめてください」と26歳児に言い放った。

__

__

45 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:25:29 ID:TdktQRVo0
  ※


('A`)「さて、後は腕をくっ付けるだけだ。
    さすが我等チーム・ディレイク、仕事が早いぜ」

( ^ω^)『皆にはいつも感謝してるお』

 お互い防護ガラスで隔てられている為、ブーンとドクオは通信で会話をする。
 そうしている間にも、ブーンが寝る作業台の周囲では幾十もの
 機器が意思を持っているかのように各自せっせと動いている。

 千切れたのは肘から先だが、ドクオらスタッフは肩を取り外し、
 肩から指先まで新しい物へ交換する事に決めたのだ。

 これはブーンの両腕のサイバネティクス(人口の神経)の根元が
 肩にある為、装着しやすい、というのが一つ。
 もう一つは、左腕もグレネードランチャー搭載型にしようという、以前からのドクオの考えであった。

 勿論、右腕同様に攻撃支援機能“Booster”も備えている。
 左腕のランチャーやBoosterの起動プログラムも既に書き終えており、
 この後、ドクオがインストール作業も行う予定だ。

 皆の事を褒めているが、ドクオ自身の仕事は特に早い、とブーンは思う。
 よく見れば、元々色の悪い顔はより蒼っぽく、油っこい髪が拍車を掛けて光っている。

( ^ω^)「ちゃんとメシ食って寝てんのかお、ドクオ?」

 「ん、ああ、まあ適当に」と、痒そうに頭を掻いて返すドクオ。

46 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:26:56 ID:TdktQRVo0

('A`)「なーに、気にするもんじゃねーよ。
    俺はお前を全面的にバックアップしなければならないスタッフだ。
    給料の為でもあるし、何よりお前が戦ってくれてるんだからな……」

( ^ω^)『そういう事なら、それはこっちのセリフだお。
      気にするもんじゃねーお、ドクオ』


('A`)「……でもよ、遂に俺達も戦えるようになるんだよな」


 ドクオが意味するのは、ビロードの免疫とシステム量産化の二つであろう。
 声色からして思い詰めているドクオに対し、ブーンは予め用意していた答えを飛ばした。

( ^ω^)『バックアップはバックアップ、戦闘員は戦闘員。
      今までのスタンスでいいじゃないかお。
      ドクオ達がいなかったら、誰が僕をを直すんだお?』

( ^ω^)『まぁ、ドクオが戦いたいって言うなら、僕は止めないお』

(;'A`)「あー……スマン。正直なところ、セカンドと戦う勇気はねえや。
    そりゃ、お前の戦闘能力を一番よく知ってるのは俺だけどよ、
    同じ身体と武器を持ったところで奴等を倒す自信は無い。100%無いね」

 心配して損した、と思うと同時に安心する。
 いつも通りのドクオだ。それにドクオらしい答えだと思う。

47 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:28:29 ID:TdktQRVo0

('A`)「それに俺は昔から機械弄りが好きだ!
    武器開発は天職だと思っている!」キリッ

( ^ω^)『それが役割と思うんなら、それに集中すべきだお。
      それに、僕がドクオ達の分まで奴等を狩るから万事OKなんだお』

( ^ω^)『こんな事で悩んでないで、ちゃちゃっと直してくれおっお。
      僕も自分の役割を早く再開したいお』

('A`)「……そうだな、悪い悪い」

 ボストンでの悲劇、先日のギコの襲撃を経て。
 一度折れた闘志は、贖罪という明確な目的を持った事で蘇ったかのように思える。
 が、その実。戦う上では危険な精神状態にあるのではないだろうか?


  まるで生き急いでいるような――。


 この時ドクオは、自分の心配性な性格による勝手な思い込みだと判断し、
 ブーンに何らかの忠告をしようとは頭に無かった。

48 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:30:12 ID:TdktQRVo0

ξ;゚听)ξ「あー疲れた。とても26とは思えない元気なお姉さんだったわ」

 愚痴を零しながら、ツンが入室する。
 右手には湯気を立たせたマグカップがある。
 すぐにココアの濃厚な香りがドクオの鼻を擽った。

('A`)「よう。例のモニターの彼女、どうだった?」

ξ゚听)ξ「ええ、ヒートさんはとても協力的な人よ。彼女自身、セカンドに対して
      強い恨みを持ってるみたいだし、時期が来ればブーンと同じ仕様に
      変えてあげたいわね。モニターを務めてくれるお礼としてね」

(;'A`)「そうやって戦闘意欲を促進させていいのかぁ? しかも女性に!」

ξ゚听)ξ「そりゃ……まぁ。でも、彼女の意思を汲んで上げたいし。
       戦わせる以上、強力な身体の方が安全でしょ?」

('A`)「ヒートさん一個人の話だろ? 基本的には品質の水準を下げて量産するってのに、
    安全を云々言うのは矛盾しているような気がするがね」

49 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:32:12 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ「それは違うわね。品質に多少の劣化があるとしても、
       多人数で編成されたシステム・ディレイク部隊なら十分すぎる戦力になるわよ。
       ブーンが戦っても敵わないでしょうね」

('A`)「なるほど、分かりやすい例えだ。納得も出来る。
    尤も、常に多人数の編隊を維持している事が前提になっちまうがな」

ξ゚听)ξ「……まぁ、どの程度のレベルの物が出来るか、まだ分からないけどね。
      とにかく今はブーンの修理に集中集中!」

 マグカップを傍らのボードに置いて、ヘッドセットを手に取るツン。
 それを頭に装着するや否や、ブーンが声を掛けた。

( ^ω^)『おいすー。会議に面接、お疲れさんだお』

ξ゚听)ξ「『セントラル』とココア代の為と思えばへっちゃらよ。
      今日の夜には修理を終わらせるわ。ほら、ショボンの店で飲むんでしょ?」

( ^ω^)『おお、そういえば約束の酒盛りは今晩だったお』

('∀`)「さっさと直さないとな。主役が欠席ってんじゃ意味がねえ」

50 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:35:15 ID:TdktQRVo0

ξ゚ー゚)ξ「ショボンとも話したんだけど、ビロードの歓迎会も兼ねようと思ってて。
      こっちに来てから入院やら何やらで、まともに歓迎できなかったじゃない?」

( ^ω^)『それは良いアイディアだお! なら、今日の主役はビロードだお!』

 と、会話を弾ませている最中、
 自動ドアのスライド音が3人に入室者を知らせる。


ガイル「忙しいところ悪い……ちょっと話がある」

 
 ガイルだ。
 表情豊かな彼だが、こうまで表情と声を沈ませるのは珍しい事だ。
 ツンとドクオは、ただ事ではないのだろうと瞬時に悟った。

ξ゚听)ξ「これ、ブーンにも聞こえるように。ビロードはどうしたんです?」


ガイル「ビロードは談話室で待たせてある。実は、そのビロードの事でな……」

 __

52 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:36:53 ID:TdktQRVo0

ξ;゚听)ξ「そんな……悪い冗談なんか止してよ!」

ガイル「俺も必死に頼んだんだが、校長は頑なにビロードの入学を拒否してな……すまん」

( ^ω^)『いえ、ガイルさんが謝る事じゃないですお。
      こうなってしまったのも、僕の失態が原因なんですから……』

(;'A`)「馬鹿言うなって……でも、たとえそうだとしても酷すぎるよ。
    境遇がどうあれ、ビロードは他の子と同じように学ぶ権利がある」

ガイル「しかしな、あながち校長の言い分も間違いじゃないのかもしれない。
     襲撃事件の原因とも言えるボストンから来たんだ、
     ビロードを悪く思うのは、何も大人に限った事じゃない」

ガイル「イジメられたり、そんな暗い生活になるくらいだったら、
     俺達でビロードの面倒を見てやるべきだと、俺も思うんだよなぁ……」

(;'A`)「確かに……そうかもしれませんね」

ξ゚听)ξ「でも、アタシ達も仕事がありますし、四六時中
       ビロードの相手をする事は難しいと思います。
       十分な教育を受けさせたり、子供らしく遊ばせてあげるのは、ちょっと……」

53 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:37:38 ID:TdktQRVo0

('A`)「お前の家に住まわせるんだろ?
    昼はともかく、夜は夕飯くらい作ったり寝かしつけたりしてやれよ」

ξ#゚听)ξ「そんな事分かってるわよ!
       昼間はどうすんだって話よ! 家で待たせておけって言うの!?」

(;'A`)「あ、いや、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃない。
    俺もとにかく心配で、つい」

ξ;゚听)ξ「……ごめんなさい。でも、本当にどうしようかしら?
       これから忙しくなるでしょうから、昼間に相手なんてとても無理よ……」

ガイル「なに、バトルスーツが出来るまで俺は暇だ!
     訓練は夜中に済ませりゃいい。春麗も協力してくれるだろうよ。
     っつっても、勉強は教えられねーけどな! ハッハッハッハ!!」

ガイル「まぁ……子供らしく遊ばせてやれるか、わかんねえけどよ。
     やっぱり同年代の友達と遊ぶのが一番なんだろうなぁ……」

( ^ω^)『すみません、ガイルさん……僕も任務が無い時は
      常に一緒にいてやろうと思いますので。元々、僕が任された事ですから。
      ツン、お前も無理に面倒見てやる事は無いんだお?』

ξ゚听)ξ「でも……アンタ、料理なんて出来ないでしょ?」

( ^ω^)『お前に言われたくねーお』

   なんですってー!?ξ#゚听)三●)A`) がっはぁ、どうして俺を殴る!?

55 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:40:00 ID:TdktQRVo0


「あの、僕は大丈夫ですから、心配しないでいいんです」


 不意に話題の中心人物たるビロードが来たものだから、
 皆が肩を浮かせて驚いた。
 彼の声は毅然としながらも穏やかで、それは面持ちも同様だ。


ξ;゚听)ξ「ビロード……」('A`;)

ガイル「び、ビロード、どうしてここに……」


( ><)「ガイルが不安そうな顔だったので、心配で」


ガイル(ああ、またやっちまった……)

(;><)「そんな顔しないでください。僕、平気ですから」


( ^ω^)『ビロードが来たのかお。僕も話したいお』

ξ゚听)ξ「え、ええ……ちょっと待ってて、今ヘッドセット渡すから」

57 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:41:20 ID:TdktQRVo0


( ^ω^)『ビロード、学校に行けないんだってお?』

( ><)「はい。でも、別にいいんです。
       ラボの皆がよくしてくれるってガイルは言ってくれましたし……
       それに勉強は一人でやっていこうと思うんです」

( ^ω^)『学校に行けない理由は分かるかお?』

(;'A`)(んな事聞いて大丈夫なのかよ、ブーン……)

 皆がドクオと同じように案じたが、誰一人口を挟もうとしなかった。
 ブーンなりに何か意図があるのだろう。

( ><)「はい。きっと皆、ボストンに悪いイメージを持っているんです。
      そんな所から来たんだから、僕が一昨日の戦いの原因だと思われても
      仕方ないんです。きっと学校の先生も同じ気持ちなんだと思います」

 現状をぴたりと言い当てるビロードに、皆が声を出さずに驚いた。
 同時に、ブーンの名を一切出さずに庇おうとする彼の健気さに、
 胸を締め付けられるような気分を覚えた。

( ^ω^)『僕もそうだと思うお。でも、僕達がいるお。
       僕は責任持ってお前を一人前にさせてあげたいと思ってるお』

( ><)「ブーン……ありがとうなんです」

58 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:43:42 ID:TdktQRVo0

( ^ω^)『ただ、ビロード」

( ^ω^)『……あんまり強がるもんじゃないお。
      まだ辛さを抱え込んだりするもんじゃない。なんたってお前は、子供だお』

( ><)「でも! 僕は!」


( ><)「僕は……僕は確かに子供です!
      だからって皆に心配させたくないんです! 面倒かけさせたくないんです!」


(;^ω^)『ビロード、んな事言われたら僕達は余計心配するお』

(;><)「僕の事は心配しなくていいんです!」

( ^ω^)『……ヒステリーを起こしているように見えるお。孤独になろうとしてどうする? ビロード』

(#><)「こ、孤独になろうなんて思ってないです!」

('A`)「孤立無援、が正しいかな。ま、同じ事だがね」

59 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:46:24 ID:TdktQRVo0

(;><)「……別に、それでも構わないんです」

ξ;゚听)ξ「それが間違いって言ってるのよ?」

(;^ω^)『そうだお。ビロード、人ってのは支え合って生きていくもんだお。
      特にこの世の中そうだお。子供も大人も関係無しにだお。……だからビロード、
      お前が成長した時、それまで頼ってきた分を僕達に少しずつ返してくれりゃいいんだお』

('A`)b「そうそう。なんなら、将来は俺と一緒に銃でも作ろうぜ」

( ^ω^)『ただし、焦るなお。ドクオもヘタに煽るなお』

ガイル「そうだぞビロード。さっき、お前も皆がいるから平気だって言ってくれたじゃないか」

(;><)「違うんです! 僕は、本当は面倒なんか見て欲しくないんです!
      僕だって自分の事くらい自分で出来るんです!
      だって今! 皆はやらなきゃいけない事で一杯なんじゃないですか!」

 ビロードは問い掛けた答えを待たぬまま、走り去ってしまった。
 ボストンでどのように育てられたのか、ともかく彼は頑固者。
 僕の面倒を見る暇すら惜しいはずだ、ビロードはそう決め付けていたのだった。

ξ;゚听)ξ「ビロード! 何処行くの!? 待ちなさい!」

(;'A`)「ツン! 一人にさせておけって! ……ああ、行っちまった」

60 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:48:11 ID:TdktQRVo0

('A`)「しっかしアイツ、随分と大人びてんだな。少しホッとしちまったよ俺。
   ホッとしちゃいけねえ、ってのは分かってるんだけどさ……」

ガイル「同感だが、いくらなんでも子供らしくない……。
    戦いってのは、子供すらこうまで変えちまうものなのか」

(;^ω^)『僕もそれが心配ですお、ガイルさん』

 そうは言うものの、ブーンもまた不安と安堵が入り混じった奇妙な気分であった。
 少年としては危なげな考え方であるのは間違いない。
 それでも、ゲームばかりに夢中だったあのビロードが、成長しようとしているだ。

 ただ、願わくば誤った方へ成長して欲しくないものだ。
 いや、そうではない。ビロードの道を正すのも、自分の使命だろう。

 異形の化物の血と油を浴び続ける戦いの道など、ビロードに進んで欲しくない。
 正しき方向、本来歩むべき未来へ進ませるのが、
 あの日スネークから言い渡された罪人としての責務なのだ。
 
 四方が洗練された白の空間で一人、ブーンは今一度そう胸に誓う。

 
  ――それがエゴだと気づかずに。

 死人(しびと)の遺志だと決め付け、継ごうとするのは、
 自分自身が納得する為の行為に過ぎないのかもしれないのだ。

61 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:49:26 ID:TdktQRVo0


 そう、事実、少年の心は違うのだ。

 ブーンが差し向けようとする方向とは真逆に向き、
 あたかも自分の使命であるかのように、ビロードは突き進もうとしている――



ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと待ちなさいってビロード!
       話くらい聞かせなさいよ!」

 小さなビロードをとっ捕まえるなんて簡単だとツンは思っていたが、
 意外にもビロードはすばしっこく走り回った。
 しかも、我武者羅に逃げていたかと思えば、追いつくとそこはアクセサー乗り場だった。

 幸いにも彼は、アクセサーの乗り方が分かっていなかったらしく、
 ようやく観念してツンと面を合わせる。

ξ;゚听)ξ「はぁ、はぁ……あー、おかげで良い運動になったわい。
       ……で、どこ行こうとしてたの?」

( ><)「ちょっと、下の公園にでも……」

ξ゚听)ξ(ブーンが逃げ込んだ公園か……)

ξ゚听)ξ「一緒に行きましょうか」

62 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:51:13 ID:TdktQRVo0

 駅のプラットホーム、あるいは遊園地のコースター乗り場を彷彿させるのが、
 『セントラル』の主要交通機関アクセサーターミナルの構造である。

 昨日の混雑が嘘だったかのように、本日のアクセサーターミナルは
 閑散としていて、二人はすんなりと乗車できた。
 時刻は4時と、働き蟻のセントラル市民の定時には程遠い事もある。

ξ゚听)ξ「覚えておきなさい、こうやって操作するのよ。簡単でしょ?
      ターミナルを入力すれば周辺の案内も出るし、
      目的のお店なんかを検索すれば最寄のターミナルを教えてくれるから」

( ><)「あ、はい、分かったんです……」

 ツンは手馴れた手つきでアクセサーのモニターをタッチした。
 行き先を「第4階層―第2ターミナル」と入力すると、アクセサーは
 到着までの所要時間を「10分」と提示した。

 アクセサーがターミナルを抜けて市街に出る。
 高いようで低い“セントラルの空”に向って伸びるビル群、その間に
 張り巡らされた空中道路を、アクセサーは颯爽と走ってゆく。
 BGMはそんなシティ感にマッチした、古いフュージョンだ。

63 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:52:44 ID:TdktQRVo0

 ここが自然とは無縁の世界であっても、頬を撫ぜる風が気持ち良いとビロードは感じる。
 加え、洗練された街並みも彼の怒気を緩ませて、ビロードの口を開く事を許した。
 それに、ビロードから見るツンの横顔は穏やかだったのだ。

( ><)「ツンさん、僕、」

 ビロードが咄嗟に小さく言ったので、ツンはスピーカーの音量を落とした。


( ><)「僕も戦いたいです。ブーンみたいなサイボーグになって」


ξ;゚听)ξ「…………へ? ど、どうしてそんな事を?」

 余りにも素っ頓狂な言葉が出てきたので、ツンは聞き返すのに時間を要した。
 本当は「何を馬鹿な事を!」と叱咤してやりたかったのだが、何せ相手は子供。
 それにビロードにも考えがあるだろう。
 いきなり叱咤するのは大人げ無いというものだ。

( ><)「だって……僕はずっと面倒かけさせてばっかりだからです。
      あの日だって、僕が戦えていればブーンは傷付かずに、
      スネークは死なないで済んだかもしれなかったんです……」

ξ゚听)ξ「……後悔して反省出来るのは立派よ、ビロード」

 ビロードに促すように、ツンは首を回して街並みを一望した。
 それに釣られて、ビロードも同様に街を見た。

64 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:57:00 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ「この街にはね、まだ危機感を感じていない人が少なからずいるの。
      反省してるようで、心の奥底ではそうじゃなかったり」

ξ゚听)ξ「これから始まる節制……我慢する生活が嫌だって言う大人が
      いるのに、子供の貴方が他人の事を考えられるなんて、
      私やブーンは誇りに思うわ。スネークさんもきっとそう思ってらっしゃるわ」

( ><)「当たり前なんです。僕、ギコとブーンの戦いを見て
      ようやく気づいたんです。皆に甘やかされちゃダメだって」

( ><)「学校に行けて、友達が出来るのは嬉しいです。
      でも、行けないなら行けないで、自分でどうにかします」

ξ゚听)ξ「でも、どうして今戦いたいなんて思うのよ?」

( ><)「迷惑をかけないのと役に立つのは全然違うからです。
      僕だって皆の役に立ちたいんです」

ξ;゚听)ξ(サイボーグになれば何でも出来ると思ってるのかしら……。
       面倒かけたくないって言うけど、アンタを改造するのはアタシなんだよね)

 と思うも、子供相手に揚げ足を取って黙らせるのは余りにも大人気無いので、胸中に秘める。

ξ゚听)ξ「気持ちは嬉しいわ、凄く。だからビロード、嘘は言わない。
       ここにはね、15歳以上じゃないと戦場に出れないってルールがあるの。
       9歳のアンタを戦わせる事は出来ないのよ」

65 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 04:59:27 ID:TdktQRVo0

(;><)「ば、バレなきゃいいんです! だから僕をサイボーグにしてください!」

 やんわりと返したのにも関わらず、これだ。
 こんな我儘を言うのだから、やっぱり子供らしい。というか子供だ。
 呆れながらツンは返す。

ξ;゚听)ξ「あのねぇ……どうやってもバレるのよ。バレたら当分アタシは
      謹慎処分を受けるか、メカニックの資格を剥奪されちゃうわ」

 「大体、身体が小さすぎるわ」とは、言葉に出さなかった。

(;><)「えっ? って事は、ツンさんはブーンの修理をやれなくなるんですか?」

ξ;゚听)ξ「そうよ。……ビロード、分かった? アンタのしたい事って、
      色んな人に迷惑をかける事になるのよ?」

(;><)「そんな……」

 皆の役に立ちたい。
 その一心で頼み込んだ事が、皆の邪魔になるだけとは。

66 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:00:22 ID:TdktQRVo0


(;><)「…………」


ξ;゚听)ξ(ちょっと言いすぎちゃったかしら)

 幼いながら、頭を捻って考えたアイディアだったのだろう。
 隣で項垂れて沈んでいるビロードを見て、ツンは少し居た堪れなくなる。
 この調子で歓迎会に招いてもきっと楽しめないだろうから、
 何か気の利いた事を言えないものか、と模索し、

 
ξ;゚听)ξ「あっ! ねえ、アンタ誕生日いつなのよ?」

( ><)「誕生日、ですか?」

ξ゚听)ξ「そうよ。いつ?」

67 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:01:02 ID:TdktQRVo0

( ><)「えっと、本当の誕生日は分からなかったので、しぃさん達は
      9月2日になると僕の誕生日だって言ってお祝いしてくれたんです……」

ξ;゚听)ξ「あ……そっか……ごめん、ビロード。
       辛い事思い出させちゃったわよね? ごめんなさい」

( ><)「いえ、いいんです」

ξ゚听)ξ「……んじゃ、5年後の9月2日になったらアンタを最強のサイボーグにしてやるわ!
      ブーンよりも強いサイボーグよ! アンタ今年10歳でしょ?」

(;><)「えっ!?」

ξ゚听)ξ「えっ、じゃないわい。なりたいんでしょ? 5年経ったら15歳じゃない。
      15になった瞬間にアンタをこの手で改造してやるわ」

ξ゚听)ξ「必ずアタシはこのプレゼントを贈るから、アンタは受け取りなさい。
      それまでは必死に勉強して、食べて、寝て、遊んで、んで生き残りなさい。
      アタシも同じ事をするわ。必死に勉強して、ココアがぶ飲みして、んで生き残る」

ξ゚听)ξ「約束よ。絶対に5年後、アンタの誕生日を皆で一緒に迎えるの。
      でもね、アンタが勉強して食って寝て遊ばなかったら、この誕生日プレゼントは無し!
      約束を守れない子はサイボーグなんかになれませんから!」

(;><)「ツンさん……」

68 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:08:07 ID:TdktQRVo0

ξ゚听)ξ「わかった? いいわね?」

( ><)「……はいなんです!」

ξ゚ー゚)ξ「……よし、良い返事よビロード。……あら、ちょうどターミナルに着いたわね。
      ちょっくらお姉さんと公園で遊んで、皆の所に帰りましょうか。
      飛び出して来ちゃった事、ちゃんと謝りなさいよ? 皆心配してるわ」

( ><)「はいなんです!」

ξ゚听)ξ(そういえば、9月2日って終戦記念日よね……。
      ボストンの人達は何を思ってこの子の誕生日をそう決めたんだろ……。
      何にしても、そんな日に戦闘用サイボーグにしてあげるのを
      誕生日プレゼントにするなんて、やるせないわね)

ξ--)ξ(スネークさんにこの子を託されたブーンは、なんて言うでしょうね。
       でも……)

  今だけ彼を慰めようとして、思いつきで取り付けた約束だが――

   何か役割を見つけなければ、この世界において彼は
   「セカンド化を抑える免疫を持つ人間」、としか見なされなくなるかもしれない。
   いや、クローン技術を用いた細胞の培養を行えば、その価値すら……。
   だけど、奴等に銃を向ける勇気と決意があるのなら……。

ξ--)ξ「ビロード。アンタって、ブーンに少し似てるわ」

 力など無く唯一持つのは免疫のみ……“すぐに戦えるようにしろ!”と
 喚いていた昔のブーンを、ツンはふと思い出した。

69 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:09:26 ID:TdktQRVo0
  ※


( ^Д^)「ビロード・ハリス君の免疫細胞についてなのですが」

爪'ー`)y‐「何か新たな発見を?」

( ^Д^)「やはりと言いますか、彼の細胞はセカンドウィルスから人体を守るのに
      非常に優れていますが、ウィルスを攻撃するのも実に優秀でして」

爪'ー`)y‐「へえ。すると、既に実験済みで?」

( ^Д^)「ええ。一度抗体が侵入すればホライゾン・ナイトウの
     抗体の約3倍以上の速度でウィルスを死滅させる働きを見せてくれました。
     詳細なデータは後ほどお送り致します」

爪'ー`)y-「ほう……まさに天敵って訳だ。強力な対セカンド兵器になるな」

( ^Д^)「はい……ですが」

70 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:10:06 ID:TdktQRVo0


爪'ー`)y-「サード化を拒んだ者に所有されては、厄介な事になるかもしれん」


爪'ー`)y-「となればだ……『セントラル』で“アウトブレイク”を巻き起こした後も
      徹底して管理しなければならない。
      ビロード君の免疫細胞を……いや、ビロード君を、我々でね」

( ^Д^)「指示された通り、議会には釘を刺しましたが……」

爪'ー`)y-「細胞実験と称して、ビロード君に入院してもらおうじゃないか」


爪'ー`)y-「チーム・ディレイクからビロード君の細胞について研究開発している、という
      報告はまだ無い。細胞の効力に感づかれる前に、彼を保護するぞ」



                                  第28話「ビロードの決意」終

71 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:16:48 ID:TdktQRVo0
お久しぶりですイトーイです。
例の合作書いたり仕事で忙しかったりで随分放置してしまいました。
着々とラストに近づいてるので、もうちっと気合いれて書いていきます。

これで今日の投下は終了です。今日はイトーイタイムは無しデス。
夜中なのに付き合ってくれた方、感謝です!
避難所だからヒッソリ投下だと思ってたけど、意外に見てる人いるんですねー。
おかげさまで楽しく投下できましヨガフレイム。

んではオヤスミなさい!

72 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/09/01(水) 05:24:54 ID:zol3p6x20
乙な感じ!

久々の街狩りはやはりいい

73 名前: ◆jVEgVW6U6s:2010/09/01(水) 05:33:12 ID:TdktQRVo0
>>72
お付き合いありがとうございました!
ひっさびさの投下で自分も楽しかったー

次回の投下は未定ですが、
血生臭いバトルに戻るまでもう一クッション挟む予定です
最近まったく街で狩ってない街狩りですがヨロシクたのんます

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