69 :作者 :2007/01/28(日) 09:28:32.43 ID:4kZj/Pv50
閑話2

低く、そして長くエンジンの音が響いている。
それはまるで猛獣の唸り声のようにも聞こえた。
(´・ω・`)「準備は出来たかい?」
マイク越しに男の声がする。
( ^ω^)b「おk」
指を立てて準備完了の旨を伝えた。
男はふぅ、と一息つき、手を上げる。
(´・ω・`)「じゃあ始めようか。まずはコースを1周してみようか」

男が腕を振り下ろすまでの数秒間、静寂が支配する。
内心内藤は心配していた。自分に、操れるのかと。

大丈夫だ。いくら100ccといえど比べ物にならないほど難しいというわけでもあるまい。
そう自分に言い聞かせる。いつもどおりの楽観的思考で。

やがて、男の手が動く。
それは真直ぐ、下に振り下ろされた。

(´・ω・`)「スタート!」

70 :作者 :2007/01/28(日) 09:29:34.70 ID:4kZj/Pv50
アクセルを踏む。刹那、エンジン音が一気に高まり、タイヤが高速回転を始めた。
体は重力によって椅子に押し付けられ、顔はこれでもかというくらいに風が当たる。
そして少し落ち着いたころにはスタート地点は遥か後方となっていた。

これが、100ccカート。

甘く見すぎていたかもしれない。想像以上に速かった。
だけど、扱いきれないレベルではない。
( ^ω^)「――っ!」
まずは最初のカーブ。ハンドルを切る。
黒板を引っ掻いた音を何倍にもしたような甲高い音が響いた。
その様子を見ていた男は一言、
(´・ω・`)「遅いね」

( ;^ω^)「!?」
何だ、これは。
内藤は焦った。確かに“いつもどおり”ハンドルを切ったのに、カーブを曲がりきれず壁に接触してしまった。
決して急なカーブではない。ルイージサーキット並の、緩やかなカーブだ。
なのに、何故。
(´・ω・`)「君、まだ50ccの癖が抜け切ってないようだね」
轟音の最中男の声がする。
50ccの癖? 一体、何のことだ。
(´・ω・`)「100ccはね、とても速いんだよ。 カーブだって早めに始めなければ曲がりきれないのは当然だろう?」
そうか、成程な。
つまりは“いつもどおり”では駄目なんだ。
今までよりもっと早く、そして綺麗に曲がらないと。
厄介だ。とてつもなく。
( ^ω^)「だけど……これでコツは掴んだお!」
内藤はすぐさま、次なるカーブ目掛けて走り出した。

71 :作者 :2007/01/28(日) 09:30:22.61 ID:4kZj/Pv50
(´・ω・`)「ふぅん。飲み込みはいいみたいだね」
開始から1分。まだぎこちなさが残るとはいえ、内藤はよく100ccのカートを操っていた。
流石はハインリッヒを苦戦させた奴ということか。
(´・ω・`)「……さて、もういいかな」
男は懐から携帯電話を取り出し、何処かへと電話をかけた。
4回ほど呼び出し音が鳴っただろうか。やがて誰かがそれに出る。
(´・ω・`)「もしもし。……うん、うん、そう。頼むよ」
男は電話を切る。そして再び、走り続けている内藤を見た。
(´・ω・`)「さて、君の腕前、もっとよく見せてもらおうか」

73 :作者 :2007/01/28(日) 09:32:26.90 ID:4kZj/Pv50

( ^ω^)「うはwwwか・い・か・んwwww」
最早、100ccのカートに恐怖は感じなかった。
むしろこの風、この重力圧、とても心地いい。
と同時に、自分はこんなにもレースの才能があったのかと驚きも覚えていた。
もうすぐ1週だ。
( ^ω^)「これで晴れて100ccに出れるんだお!」
そして満面の笑みを浮かべ、ゴールへと――

「そうはいかない」
( ;^ω^)「!?」
刹那、レース場の外壁を飛び越して、1台のカートが乱入してきた。
一体誰だ。
そんな内藤の疑問に答えるかのように、あの男が言った。
(´・ω・`)「まずは1周おめでとう。さぁ、次は本格的なレースをしてみようか」

74 :作者 :2007/01/28(日) 09:34:03.54 ID:4kZj/Pv50

乱入してきた車、それに乗っているのは若い男だった。
内藤と同い年、または少し上か。黒の中にアクセントとして、赤の模様が施されたレーサー服に身を包み、こちらを見ている。
(´<_` )「あんたが内藤ホライゾンか」
外見に似合った澄んだ声だ。
( ;^ω^)「そ、そうだお」
ちょっとだけ劣等感に襲われた内藤だが、すぐにそれを振り払う。
若い男は自らを弟者、と名乗った。
(´<_` )「早速ですまないが、俺とレースをしてもらおうか」
本当に早速だ。
何故レースなどしなくてはならないのか。
疑問に思うが、その答えはすぐにわかった。1つしかないではないか。
( ^ω^)「腕試し……ですかお」
(´<_` )「そうだ。なぁに、3周もする必要はない。1周でいいぞ」
やっぱり。
コースを1周したくらいで出場できるなど流石に甘すぎたか。

それにしても対戦相手まで出してくるとは、本格的なことだ。
これでアイテムボックスまで出たとしたらもう本番と変わりないだろう。
勿論内藤はその挑戦を、快く承った。
( ^ω^)「受けて立つお!」
(´<_` )「そうこなくてはな」

75 :作者 :2007/01/28(日) 09:34:30.62 ID:4kZj/Pv50

その様子を見ていたバーの男。そんな彼に別の人物が近寄ってきた。
(´・ω・`)「生憎だけど、今日は得意技は無しだよ」
そちらを見もせずに、唐突に男が言う。釘を刺しているような言い方だ。
( ´_ゝ`)「わかっとる。むしろラッキーだ」
(´・ω・`)「? 何故だい」
(*´_ゝ`)「誰にも邪魔されずソニンタソの画像収集が出来るからな」
近寄ってきたのは弟者に瓜二つの男。
だがその性格は大分違うようだ。
男は暫く黙っていたが、やがて口を開く。
(´・ω・`)「やらないか?」
( ´_ゝ`)「だが断る」

そして、レースは始まった。

76 :作者 :2007/01/28(日) 09:35:15.37 ID:4kZj/Pv50
練習コース

コース名:くそみそサーキット
コース難易度:☆

出場者一覧

・( ^ω^) 内藤ホライゾン
スピード・☆☆☆
テクニック・☆☆
アイテム運・☆☆☆

・(´<_` ) 弟者
スピード・☆☆☆☆
テクニック・☆☆☆☆
アイテム運・☆☆

77 :作者 :2007/01/28(日) 09:37:10.44 ID:4kZj/Pv50
( `ω´)「一気にいくお!」
数秒もたたずに加速する。慣れてみれば感心するほどの、素晴らしい加速性能だ。
弟者との差をつけ、そのままゴールする気で走る。

コースの形状は長細い円状、ただそれだけ。
構造ならルイージサーキットよりも単純である。

さて、弟者のほうではあるが、差をつけられたというのに特に追う素振りも見せなかった。
( ;^ω^)「え」
(´<_` )「ハンデだよハンデ」
(#^ω^)「ビキビキ」
随分となめられたものだ。
こうなれば意地でも本気を出させてやる。内藤は決意した。
(#^ω^)「これでどうだお!」
コースの橋から端までを蛇行運転で走行し始める内藤。
挑発のつもりか。
しかし弟者は全く怒る様子も見せない。
(#^ω^)「どうしたお? 抜かせないのかおー」
調子に乗った内藤はピョンピョンとカートを跳ねさせ始めた。
何というか、とても子供じみた挑発だ。
(´<_` )「………」
それを冷たい目で見つめる弟者。
ここまで挑発に乗ってくれないと、している方が逆に参ってしまう。
( ;^ω^)「ちょww少しは反応汁wwww」
2度目のカーブ。このままでいいのだろうか。
もう4分の1ほど終ってしまっているというのに。


78 :作者 :2007/01/28(日) 09:38:28.43 ID:4kZj/Pv50
と、そこで弟者がついに動いた。
(´<_` )「……もう飽きたな」
( ^ω^)「え?」
刹那、弟者のカートが加速し始める。
何というスピードだ。信じられない。
弟者はそのまま蛇行運転で道を塞ごうとしている内藤に目もくれず、壁を蔦って走行、抜かした。
その間僅か2、3秒。んな馬鹿な。
( ;^ω^)「ちょwwww壁を蔦って走行とか反則wwwww」
自分のした一連の行動は何だったのか。まるで意味を成していないではないか。
このままでは駄目だ。そう思った内藤は全速力で弟者を追い越そうとする。
が、追いつけない。
途中自分も弟者のやったように壁の上を走行しようとしたが見事に失敗、こけた。
おかげで更に差が広がってしまう。

3度目のカーブ。ここで何とかして弟者よりも内側に入り、抜かさないと。
だがそれも無理だった。
弟者はまだカーブが始まっていないような段階でハンドルを切り始める。
同時に甲高い音が響き、タイヤとコースの隙間から火花が散った。

79 :作者 :2007/01/28(日) 09:39:28.59 ID:4kZj/Pv50
――ドリフトカーブ!

かつてちんぽっぽもやったカーブ方法。
カートを横滑りさせることで、どんな急なカーブでも速度を落とさずに曲がりきれるという上級テクニック。

だが、弟者のそれはちんぽっぽのそれよりも遥かに上手く、美しい。
しかも弟者の走っているのはカーブの内側ギリギリのところだ。これ以上内側には入れない。
それ以前に内藤はドリフトすらできないのだ。勝てるわけがない。

その後も弟者との距離はどんどん広がって行き、最早取り返しのつかないところまで来てしまった。
(´<_` )「……この程度か」
落胆の色を隠しきれない弟者。
もう少し楽しめると思っていたが、無理な注文だったようだ。
ならばこのまま、一気に勝負をつけることにしよう。

81 :作者 :2007/01/28(日) 09:40:15.99 ID:4kZj/Pv50
( ω)「………お」
? 何だ、何か言っている。
まぁいい。大方悔しくて泣いてるんだろう。
安心しろ。これ以上悔しい思いなどしなくて済むよう、圧倒的な差で勝利してやる。




( ゜ω゜)「おぉぉぉぉぉぉおおおお!」
(´<_`; )「!?」

な、何だ? あいつ、いきなり叫びやがった。
泣いてるのではない。これは――闘志?
馬鹿な。ここまで差が開いてるというのに、まだやる気を持てるのか。

刹那。内藤のカートが加速する。
信じられない。何だあのスピードは。限界速度を超えている。

まさか――!

82 :作者 :2007/01/28(日) 09:40:40.85 ID:4kZj/Pv50
(´<_`; )「ミニ……ターボか!?」

弟者は驚愕した。
自分でもよくやり方のわからない、未知なるテクニック。
それを、自分よりも圧倒的に経験不足の内藤が、やったというのか?
そんな、そんなはずはない。
(´<_`; )「くそっ!」
一気に縮まった差を再び取り返すべく、弟者は更にスピードを上げようとした。
だが無理だった。もう既に最高速度に達している。

ゴールは目の前、だが内藤もすぐ後ろ。
糞、負けるわけにはいかない。こんな、こんな素人に!


そして、2つの影がアーチを潜り抜けた――。


83 :作者 :2007/01/28(日) 09:41:25.89 ID:4kZj/Pv50

(´・ω・`)「……凄いね」
男がポツリ、と呟いた。
( ;´_ゝ`)「う、うむ……。弟者をあそこまで追い詰めるとはな……」

勝負の結果は、弟者の勝ちだった。
だがそれは圧倒的な差でのものではなく、僅差での勝利。
正直、2人はその結果を素直には信じられなかった。

(´・ω・`)「……流石、彼女をムカつかせた奴だけのことはあるよ」
男は、目下で落胆のあまりしょぼくれている内藤に目を向けた。
暫く黙って見ていたが、やがて振り返り、呟く。

(´・ω・`)「合格だ。……君の更なる力は、本番で見せてもらうことにするよ」

そして、男は去った。




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