43 :作者 :2007/01/27(土) 20:03:57.27 ID:ljEbP3WJ0
閑話1

昼だというのに薄暗く、それでいて青白い光に包まれた一室。
(´・ω・`)「………」
奥のカウンターで20代後半から30代くらいの男がせわしなくグラスを洗っている。
慣れた手つき。ここの主人だろうか。

やがて、扉が開かれ今日最初の客が入ってきた。
从 ゚∀从「……」
主人は表情一つ変えずそれを迎える。
(´・ω・`)「やぁ、ようこそバーボンハウスへ。このテキーラはサービスだからまず飲んで落ち着いてほしい」
从 ゚∀从「……たまには変わったこと言えないのか。まぁいい」
入ってきた客――ハインリッヒは、挨拶もそこそこにカウンター席へ腰掛ける。
差し出されたテキーラを受け取り、一口でぐいっと飲み干す。
その間主人は何も言わず、またグラスを洗う作業に戻っていた。


44 :作者 :2007/01/27(土) 20:04:14.78 ID:ljEbP3WJ0
从 ゚∀从「なぁ」
客が声をかける。
(´・ω・`)「なんだい」
客との会話だというのに随分と親しげな口調だ。
それもそのはず。2人は古くからの知り合いなのだから。
从 ゚∀从「以前のレース、話は聞いてるのか」
そこで主人の表情が少しだけ変わる。穏やかな笑みだ。
(´・ω・`)「うん。最後のコースでは最下位だってね。君らしくもない」
その言葉に感情はこもっていない。まるで台詞の棒読みだ。
しかしハインリッヒは特に気にする素振りも見せない。
(´・ω・`)「話はそれだけかい?」
いや、ハインリッヒは応える。
从 ゚∀从「ちょっとムカツク奴がいて、ね」
(´・ω・`)「へぇ……」
少しだけ、主人は興味をそそられた様子を見せた。
グラスを洗う手を止め、ハインリッヒの話に耳を傾ける。
(´・ω・`)「それで、そのムカツク奴って?」
彼女は暫くの間答えなかった。
だが暫くして、主人に1枚の写真を差し出す。
从 ゚∀从「……こいつだ」

45 :作者 :2007/01/27(土) 20:04:48.10 ID:ljEbP3WJ0
目を細めてその写真をしばし眺める主人。
暫くして意外そうな表情で顔を上げた。
(´・ω・`)「あまりパッとしない男だね。こんなのが君を?」
从 ゚∀从「パッとしないって……お前が言うか。……まぁ、そうだ」
ふーん、と主人は写真をハインリッヒに返した。
(´・ω・`)「で? まだ言いたいことがあるんだろう?」
全てを見透かしたような口調だった。
ハインリッヒはフッ、と笑みをこぼす。
从 ゚∀从「あぁ、そいつを、150ccランクに出場できるよう手配してほしい」
(´・ω・`)「……でも、彼はまだ50ccを1回経験しただけだよ? それなのにいきなり150ccだなんて……」
从 ゚∀从「嘘をつけ。アタイがこう頼むことを知ってたんだろう?」
そうでなきゃ、とハインリッヒは続ける。
从 ゚∀从「あんな変な2人組を表彰式に送り込んでくる筈がない」
しばしの沈黙。やがて、店主はハハハ、と軽く笑った。
(´・ω・`)「全てお見通しというわけか。……うん、いいよ。やってみる」
从 ゚∀从「感謝するよ」
感謝の意を示すハインリッヒ。
だが主人はあ、だけどねと付け足しをした。
(´・ω・`)「暫く時間をもらうよ。まずは100ccをクリアさせなきゃいけないし」
続ける。
(´・ω・`)「それに、君だって150ccには出場したことがないんだろう?」

46 :作者 :2007/01/27(土) 20:05:20.23 ID:ljEbP3WJ0
立ちかけていた席を、その言葉を聞いてまた座りなおすハインリッヒ。
流石だな、と主人に言った。
从 ゚∀从「だからアイツが来るまでには出場できるようにしておくさ」
(´・ω・`)「まぁ、君なら容易いだろうね」
話は終わりだ。
ハインリッヒはそう言って、席を立った。
そのまま出口へと向かう。
(´・ω・`)「あ、御代……」
从 ゚∀从「サービスなんじゃなかったのか?」
黙り込む主人。
その間にハインリッヒは外に出て行ってしまった。
(´・ω・`)「やれやれ、またやられた」
頭を掻きながら主人は去っていく彼女を見つめていた。
やがて店を見渡しながら、
(´・ω・`)「さて、仕事に取り掛かるか」
独り言を呟いて、カウンターの奥へと消えていった。


47 :作者 :2007/01/27(土) 20:06:46.50 ID:ljEbP3WJ0
( ;^ω^)「仕事テラメンドクサス」
夕刻。
すっかり疲れきった顔をして帰ってきた内藤は、自分が住んでいるアパートの一室を目指して階段を登っていく。
そして部屋の前までたどり着くと、ドアの郵便受けに新聞と、何か手紙のような物が入っていることに気がついた。
( ^ω^)「?」
ドクオからだろうか。もしくは以前の活躍を聞いたツンからか?
そんな期待に胸を膨らましながら部屋に入り、あて先を見る。だが内藤宅の住所以外何も書かれていなかった。
仕方なく封を破る。中に入っていた手紙には、極短い文で要件とどこかの住所のようなものが書かれてあった。

“レースはまだ、終っていない”

( ;^ω^)「な、何なんだお?」
そして目を下の住所に移す。知らない場所だ。
( ^ω^)「………」
普段の内藤ならすぐに破り捨て、特に気にしないで済ませるだろう。
だが今回はそうはしなかった。何かが彼の動きを止めたのだ。

( ^ω^)「レースはまだ……終ってない、かお」


48 :作者 :2007/01/27(土) 20:07:10.66 ID:ljEbP3WJ0
(´・ω・`)「……来たね」
遠くから向かってくる、1台のタクシー。
それは彼、バーの主人の前で止まり、そのドアを開けた。
出てきたのはハインリッヒが見せた写真の男。
彼は金を支払ってお礼を述べた後、主人の方を向いた。
( ^ω^)「あなたですかお? 僕を呼んだのは」
(´・ω・`)「うん、急用なんだ、すまない。仏の顔もって言うしね。謝って許してもらうとは思わない」
( ;^ω^)「………」
何か話しにくい人だ。内藤はそう思った。
主人は早く事を済ませよう、と言って内藤を奥の建物へと招く。

49 :作者 :2007/01/27(土) 20:09:02.27 ID:ljEbP3WJ0
( ^ω^)「うはwwwテラスゴスwww」
内藤は思わず感嘆の声を上げた。
建物の中、そこはとても広い、レース場だ。
(´・ω・`)「こっちだよ」
主人の方へと歩み寄る。
そこには1台のカートが置いてあった。
( ^ω^)「カート?」
(´・ω・`)「そうだよ」
何故、こんなところにカートが。
主人はそんな内藤の疑問を知ってか知らずか、1人で喋り始めた。
(´・ω・`)「君は知ってるかい?」
( ^ω^)「? 何が、ですかお?」
やっぱ知らないか、と男は言う。
(´・ω・`)「君の出場したあのレースはね。ほんの、お遊びなんだよ」


50 :作者 :2007/01/27(土) 20:09:29.04 ID:ljEbP3WJ0
( ;^ω^)「……は?」
何を言い出すのだ、この男。
あの激闘がお遊びだと? そんなことがあるわけが
(´・ω・`)「あるわけがない、と思ってるだろうね。でも、本当なんだ」
内藤は黙る。こいつ、只者じゃない。そんな予感がしたからだ。
男は気にせず続ける。
(´・ω・`)「レースには3つのランクがある。50cc、100cc、そして150cc。君の出場したのはその内の最低ランクである50ccなんだ」
そう言うことか。
そう言えばジュゲムも50ccランクとか言ってたっけ。
(´・ω・`)「元は50ccなんて存在しなかったんだけどね。ほら、今回から一般人の参加も可能になっただろう? だから急遽新設されたんだ」
( ^ω^)「どうしてですかお?」
どうして? 男は呆れた様子で答えた。
(´・ω・`)「そりゃだって君、プロのレーサーと一般人が戦って勝てると思ってるのかい?」
( ;^ω^)「あ……」
そうか、そうだったのか。
だからあのランクではレーサーらしき人物がいなかったのか。

51 :作者 :2007/01/27(土) 20:09:47.57 ID:ljEbP3WJ0
( ^ω^)「で、でもハインリッヒは強かったお。一般人とは思えなかったお」
(´・ω・`)「彼女は特別さ」
……特別? 一体、何が。
この男、ハインリッヒを知ってるのか。
(´・ω・`)「まぁそんなことはどうでもいいんだ。僕の聞きたいことはただ1つ」
少しの間を空けて、男は少し強めの口調で言った。
(´・ω・`)「君は、またレースをする気があるかい?」
( ^ω^)「――!」
それはつまり、100ccもしくは150ccに出場しろ、と言うことか。
内藤は悩む。
あの50ccとは比べ物にならないほどの戦い。
自分に、それが制覇できるのか?

……いや、制覇できるできないの問題ではない。
やるかやらないか。今聞かれてるのはそれだけだ。
( ^ω^)「………」
内藤に、あのレース中の感情が蘇ってくる。
喜びや怒り、悔しさや優越感、そして今までに味わったことのない、興奮。
あれを再び感じたい。そんな想いが渦巻いていた。

52 :作者 :2007/01/27(土) 20:10:06.97 ID:ljEbP3WJ0
( ^ω^)「……るお」
(´・ω・`)「? 聞こえないよ」
間が空く。すっと息を吸い込み、よく聞こえるように、言った。
( ^ω^)「やるお!」
男はにやり、と笑った。つられて内藤も笑い返す。
(´・ω・`)「そう言うと思ってたよ。――さぁ、まずは50ccと上位ランクの違いについて説明しておこうか」

それから暫く話が続いた。
産業説明ばかりに頼っていた内藤にとって、それは実に覚えにくかった。
だが何とか飲み込み、確認する。
( ^ω^)「つまり、産業でまとめるとこういうことかお?

・50cc、100cc、150ccでは数字が上がるにつれてカートの基本性能が上がる。
・しかしその一方で操作することが難しくなる。
・勿論コースの難易度や選手の強さなどは段違いに高くなる。

(´・ω・`)「うん、そんなところだね」
そこで男は手を叩き、後ろのカートを指差した。
(´・ω・`)「さぁ、説明し終わった所で実際に100ccカートを操ってみようか」
( ;^ω^)「え!? いきなりですかお!」
(´・ω・`)「当然だよ。さっ、早く」
( ;^ω^)「え、でも」
内藤がためらっていると、男の声が急に凄みのある声に変わった。
(´・ω・`)「早くしろ、ぶち殺すぞ」
( ;^ω^)「ハヒィッ!」
内藤は慌ててカートに乗り込んだ。

(´・ω・`)「(やれやれ……手数のかかることだね)」
男は内藤に聞こえないように、独り言を呟いた。


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