内藤エスカルゴ - ( ^ω^)ブーン島のようです - -1- 島

-1- 島

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:42:01.17 ID:oNGrT0ca0

 -1- 島


(´・ω・`)「ずっと昔。この雑弐区に『VIP』は確かに存在していました」


ニュー速市。

垂れ眉毛の男は両脇に大量の資料を抱えて。
目上と思われる人物を前に、『同じことを何度も言わせるな』と言わんばかりの溜息をついた。


/ ,' 3「存在していたかもしれない板。確かに惹きつけられる案件だ」


しかし、と淹れたばかりのお茶を啜りながら言葉を遮った。
胃に流れ込んだお茶に体の温まりを感じながら、こう続けた。


/ ,' 3「それを私に話して、どうするんだね?」

(´・ω・`)「荒巻教授に、是非を力をお貸しいただきたいと」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:43:58.83 ID:oNGrT0ca0

男の真っ直ぐな視線に目を合わせようともせず、
湿気った煎餅に手を伸ばしては口まで運ぶ作業を繰り返す。


/ ,' 3「発見は素晴らしいと思うよ」

/ ,' 3「過去の者が見つけられなかった、ましてや気付くことすら出来なかったことを追求し、発見する。至福だね」


老人は小さなテレビに向けて、リモコンのスイッチを押す。
一瞬の時間差を置いてブラウン管は司会者と数人のゲストが話し合う姿を映像が映し出す。
議題は、現代における食生活の難点。


/ ,' 3「けど、それは可能性があればの話。存在を裏付ける決定的なものがなければね」

(´・ω・`)「存在を証明する資料はこうして……」


テレビの中の彼らがいくら討論を続けたところで、現代の食生活が変わることはない。
しかし仕事であるということを差し引いても彼らは真剣だった。

テレビの前の二人とはまるで違った。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:47:43.31 ID:oNGrT0ca0

/ ,' 3「前に見せてもらったアレだろう? 決め手にはならないさ」

(´・ω・`)「いえ、ですが」

/ ,' 3「それに時間の経過も激しい」


自信ありげに鞄の中の資料を掴み、取り出そうとして、それを止める。
意味がない。これ以上の会話は不毛だと感じたからだ。


(´・ω・`)「……ご理解頂ける日は近いと信じております」


彼が一礼してその場を立ち去ると、老人は同様に溜息をつきながらその後姿を眺めていた。
どこか懐かしいものを見つめるような暖かな視線。


/ ,' 3「若いな、ショボン君」

/ ,' 3「さて。もう一眠りするとしようか」


そう言って老人は部屋に戻ると辺りに敷き詰められたゴミを蹴飛ばし
敷布団を取り出しそれに包まって目を瞑った。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:50:24.15 ID:oNGrT0ca0

从 ゚∀从「そんで?」


今年の新作、と手書きのポップが通り過ぎようとする客の視線をひきつけるが、
会話に夢中の彼女には全く効果が無いようだった。


从'ー'从「あ、これ可愛い……」

从 ゚∀从「おーい」

从'ー'从「あ、ごめん」


無意識に手に取っていた帽子をもとあった場所へと戻すと、言葉の続きを口にする。


从'ー'从「次の週末、海に行きたいなーって。どうかな?」


満面の笑み。言葉には、一応聞いてるけど何があっても絶対に行くから、と言わんばかりの強みがあった。


从 ゚∀从「まぁ、いいんじゃないか?」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:52:16.76 ID:oNGrT0ca0

从'ー'从「さっすが! ハインは話が分かる!」

从;゚∀从「ですよねー」


話が分かっても、分からなくても。結果的にはどうせ強制的に連れられていくことになるのだ。
要は自分の意思で行くかどうか。その違いだった。


从 ゚∀从「何でまた海なんかに」

从'ー'从「海だよ! だって海だよ!」


何がそこまで彼女を、渡辺を海に駆り立てるのか。
ハインには分からなかった。


从 ゚∀从「男でも欲しいのか? お前は可愛いからいくらでも選べるだろうに」

从'ー'从「分かってるよ! けどハインは分かってないよ!」


一言目の分かってる、はおそらくハインの言った渡辺は可愛いに対してだった。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:55:17.01 ID:oNGrT0ca0

二言目の分かってない、はおそらくハインと渡辺の間に見解の違いがあったのだ。
それはきっと、渡辺にとっては決定的な違い。


从'ー'从「学校の男と海の男じゃ違った魅力があるんだよ!」


確かに違った。


从 ゚∀从「興味ないなぁ……」

从'ー'从「ハインは本当に異性に関心ないよね」

从 ゚∀从「まぁ確かにそうだな」


渡辺の言うとおり、彼女にはそう言われても不思議ではない節があった。

凛々しく顔立ちの整った彼女に言い寄る男は決して少なくないのだが、それをことごとく断っていく。
理由を聞いても「何となく」で片付けてしまうのだ。


从'ー'从「まさかレズですか」

从 ゚∀从「よーし、今からオジサンと一緒に気持ちいいことしよう」

从*'ー'从「キャーwwwww」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:57:10.60 ID:oNGrT0ca0

从;'ー'从「…………」

从 ゚∀从「いや、違うから。ホントに」


うねうねと動くハインの指先に思わず数歩後退する。
これは本当に冗談なのか。


从'ー'从「とりあえず、来週は空けておいてね」

从 ゚∀从「了解。でも何で一人で行かないんだ? フェロモン撒き散らしたいなら俺はいないほうが……」

从'ー'从「何かあったら大変でしょ」


ハインの男前は外見だけでなく、喧嘩の腕に関しても男以上の持ち主だ。

フェロモンを撒き散らすだけ撒き散らして相手は一切せず、
何かあればハインに助けてもらおうというのが渡辺の考えだった。厚かましい限りである。


从 ゚∀从「……まぁいいか」

从'ー'从「それじゃ、そろそろ帰ろ」

从 ゚∀从「おう」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:57:36.59 ID:oNGrT0ca0

(`・ω・´)「成果はどうだ、ショボン」

(´・ω・`)「難しいよ」


落ち着いた雰囲気が取り巻く、そこは小さなバーボンハウス。


(´・ω・`)「教授がロクに話を聞いてくれない。この手のことには詳しい筈なんだけどね」


サービスに差し出されたバーボンを軽く口に含む。
それと同時に口周りを伝うように流れ出る液体。


(´・ω・`)「キツ過ぎるだろ、兄貴」

(`・ω・´)「そうか。スマンな」


差し出したグラスを引き戻す店主。
本人曰く『マスター』と呼ばれるのが夢なのだが、そう呼ぶものは決して多くない。
少なくとも、兄弟仲である彼らに、そんなやりとりはなかった。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 19:59:32.60 ID:oNGrT0ca0

(´・ω・`)「『VIP』は絶対にあったんだ。こうして、資料だって……」

(`・ω・´)「素人目にはただの小説にしか見えないけどな」

(´・ω・`)「小説として扱うかどうか、判断に困るけどね」


はは、と笑いながら頁を少しずつ捲っていく。
それは何人もの登場人物によって描かれた、小さな小さな物語。


(`・ω・´)「お前がその、なんだ。『VIP』か。それを追ってもう何年だ」

(´・ω・`)「人を年寄りみたいに言うな。まだ二年も経ってない」

(`・ω・´)「そんなものか。いや、そんなにか」

(´・ω・`)「一年、二年で解決するようなものじゃないさ。この調子で先のことを考えると、憂鬱だよ」


持っていたグラスを磨き終えると、またすぐに次のグラスへと手を伸ばす。
その手際の良さだけは、ショボンも一目置いていた。

ただ拭くという作業においてのみ尊敬される兄、シャキン。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:01:45.42 ID:oNGrT0ca0

(`・ω・´)「熱心なことだな。そんなことだから彼女の一人も出来ない」

(´・ω・`)「お前もだろう」

(`・ω・´)「マスターだぞ? 渋いだろ? 何でモテないんだ?」

(´・ω・`)「お前だからだろう」


的確かつ素早い突っ込みにマスターは涙した。


(´・ω・`)「それじゃ、もう行くよ」

(`・ω・´)「たまには金払ってけよな。マジでこの店危ないんだから」

(´・ω・`)「これはサービスだろ」


出入りのベルがカランと鳴り、ショボンは店を出る。

以前、開店前の昼頃に男女二人組みの客が入ってきたことがあったらしい。
こんなものがついているから喫茶店と間違われてしまうのだろう、とショボンは思った。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:04:07.67 ID:oNGrT0ca0

(´・ω・`)「さて、と」

(´・ω・`)「気合を入れたところで立ち往生だな。どうしたものか」


最寄の駅周辺を歩き回ったり、知り合いのいる近場の図書館に顔を出してみるが
行く当てがなくなると大学に立ち戻っていた。
結局のところ、ここにいることが、彼の追い求めることに対しては一番の近道だったからだ。

教授である荒巻の待つ教室へと向かっていく。


/ ,' 3「おかえり。何か見つかったかね」

(´・ω・`)「一時間で新しい発見なんて、出来ないですよ」

/ ,' 3「発見したその瞬間で言えば、時間なんてものは関係ないさ」


お茶を啜りながら、老人は笑う。
しかしその眼差しにはショボンを見下しているようなものがあった。


(´・ω・`)「教授が言っているのは結果論ですよ」

/ ,' 3「なら君が言っているのは経過論だろう」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:06:12.17 ID:oNGrT0ca0

ショボンが口を開き、批判の言葉を口に含む。
それを吐き出すよりも先に、その場のピリッとした空気を破ったのは第三者の登場だった。


川 ゚ -゚)「……お邪魔でしたか?」

(´・ω・`)「いや、そんなことはないよ。クーさん」

川 ゚ -゚)「それでは、こちらを」


クーと呼ばれた女性が一冊のノートを手渡す。外見は先ほどのバーでショボンが鞄から出したものと酷似していた。
それを見たショボンは勢いよく椅子から立ち上がりクーを問い詰めた。


(´・ω・`)「これは……!」

川 ゚ -゚)「どうやら、そのようですね」


零れる笑みを隠そうともせず、ショボンは喜びに震えていた。
対して荒巻はショボンの受け取ったそれを眺めるばかり。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:08:36.31 ID:oNGrT0ca0

/ ,' 3「またそれかね?」


荒巻がリモコン手に取ると、ずっと点けたままだったテレビの電源を切る。


(´・ω・`)「この雑弐区で最も統制のとれた板、それがニュー速です」

/ ,' 3「……我々住民としても、自慢の街だな」


興奮した彼の耳には荒巻の言葉は届かなかったようだ。
もしくは、彼の返答には回りくどい説明が必要だと言わんばかりのスルーだった。

荒巻もショボンの言葉に耳だけ傾け、片手で急須に入ったお茶を湯飲みに注ぐ。


(´・ω・`)「そのニュー速の南沿岸部で発見されたもので、同じようにいくつも発見されています」

/ ,' 3「ほう」

川 ゚ -゚)「海岸に流れ着いたものがほとんどですが、中には海底に沈んでいたものもありますね」

/ ,' 3「質量に違いがあるということかな」


手渡されたそれに目を通す荒巻を眺めつつ、ショボンは言葉を続けた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:11:40.18 ID:oNGrT0ca0

(´・ω・`)「記載された文書に共通して言えることは、ある一人の主人公を中心に展開する物語ということです」

/ ,' 3「小説であるならば、主人公を中心に物語が展開、というのはよくある事ではないのかね」

(´・ω・`)「全ての主人公が、同一人物なのです」


閉め切ったカーテンを引き、ガタついた窓をクーが開ける。
気持ちのいい風と日差しが入り込んできたが、同時にいくつかの資料が飛ばされてしまった。
慌ててそれを追いかける。


(´・ω・`)「それはファンタジーやホラー、SFに雑記であったりと様々ですが……」

(´・ω・`)「いずれも、『VIP』という単語が見え隠れしてきます」

/ ,' 3「そこから取ってつけた架空の板の名前が『VIP』かね」


ショボンが『VIP』についてを荒巻に話したのはこれが初めてではない。
逆に、一度や二度というレベルでもなかった。
数え切れないほど、荒巻の協力を得ようと何度も説明しては熱弁を振るった。


(´・ω・`)「前にも話しましたが、僕はこう考えているんです」

(´・ω・`)「『VIP』は一つの島だと」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:15:08.23 ID:oNGrT0ca0

/ ,' 3「……そんなことを言っていたね」

(´・ω・`)「海に沈んでしまった島。そう考えれば、分かりやすいかもしれません」


ショボンは鞄の中を漁ると、数冊のノートを取り出した。
先ほどクーから渡され、荒巻に渡したものと同様のものであることが見て分かる。


川 ゚ -゚)「今ので、ちょうど五冊目です」

/ ,' 3「おや、もうそんなに集めたのかね。随分とハイペースじゃないか」

(´・ω・`)「その五冊の主人公が、同一人物なのです」


荒巻は手渡され、少し眺めただけで湯飲みとの天秤に負けて机に置かれてしまったそれをもう一度手に取る。
表紙はボヤけてしまって確認できないほどに古びた一冊のノート。
数ページ読み進めると、一人の主人公と思われる人物が浮かび上がった。


(´・ω・`)「主人公の名前はブーン」


独特な作風。登場人物の特徴的な口調。
小説とは違う、一つの文書だった。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:18:18.21 ID:oNGrT0ca0

(´・ω・`)「僕は『VIP』という板であり、『ブーン』という島であると考えています」


掴んで放さなかった湯飲みを机に置き、ショボンを見据える荒巻。
伸び放題の髭を数度撫でて、口を開いた。


/ ,' 3「ややこしいな」

(´・ω・`)「そうですね。まぁ、どちらにせよ。両方とも仮称ですから」


二人の間では極めて珍しく、少しだけ和やかな空気だった。

そこに、いつの間にか姿の見えなかったクーが、お盆に三つの湯飲みを乗せてやってきた。
しかし荒巻の目の前に既に一つ置いてあることに気付く。


川 ゚ -゚)「あ、不要でしたか」

/ ,' 3「いただくよ」

(´・ω・`)「ありがとう」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:22:17.80 ID:oNGrT0ca0

無差別にゴミの散らばった部屋の中心に置かれた大きな机。
その大半が荒巻によって作成されたよく分からない書類やプリントされた資料に埋め尽くされていたが、
ショボンの勢い余る思い切りのいい行動によって、久々に露呈した。


/ ,' 3「あ、あぁ。あぁぁ……」

川 ゚ -゚)「普段から整理していないからですよ」


それぞれが席に着き、粗い木目の上に置かれた湯飲みに手を伸ばす。
素直に美味しい、とショボンは感じた。


(´・ω・`)「……『ブーン』に何かが起こったのは間違いないんです」

/ ,' 3「あんなボロボロのノートに、それだけの情報が含まれていると思うのかね?」


湯飲みを啜るペースが自身が淹れたときよりも早いのは誰の目にも明らかで
淹れた方も心なしか嬉しそうだ。


(´・ω・`)「著者は僕たちに何かを伝えようとしているんじゃないかと思うんです」

/ ,' 3「ブーンが、かね?」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/26(水) 20:23:59.37 ID:oNGrT0ca0

(´・ω・`)「ブーンが……そうかもしれません」


実際に一人の人物として『ブーン』と口にしてみると、なんとも笑える。
どこか滑稽で、間抜けな感じだ。


(´・ω・`)「前にも言いましたが、ノートの内容には一貫性がありません」

/ ,' 3「ジャンルのことかね」

(´・ω・`)「それが冒険譚であるのか、事実を記した日記であるのか」


湯飲みに残っていたお茶は時間が経ち、適度に温度の下がっていた。
それを一気に飲み干すと、ゆっくりと机に置いて言った。


(´・ω・`)「これをそう呼ぶかは、今でも判断に困るところがあるのですが」

(´・ω・`)「主人公『ブーン』を中心に展開する物語」


(´・ω・`)「僕はこれを『ブーン小説』と呼んでいます」







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