内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は騎手のようです - 第5R - 『そして激流へ』
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:06:04.01 ID:K6zYZIb4O

第五話 - 『そして激流へ』


(実 ・з・)「各馬綺麗に揃いました、チャンプを目指して先行争い」

(実 ・з・)「フルシーズン、メイクイットはやや後ろから」

(実 ・з・)「おおっと、果敢にハナを切ったのはバンキッシュ。真ん中からバンキッシュが楽に先頭に立ちました」

(実 ・з・)「その後ろおよそ1馬身差でシルバーコレクター、いつも通りの定位置2番手」

(実 ・з・)「そしてここにいました、馬群の真ん中から圧倒的1馬人気ナウインストール」

(実 ・з・)「その後ろにメイクイット、外からフルシーズンが追走して18頭、やや縦長の展開になりました」


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:09:04.42 ID:K6zYZIb4O

抜群のスタート、そう言っても過言ではないほど綺麗なスタートを切った。

右、左と真ん中から他馬を見る。押して、押してハナにこだわる馬はいない。

更には、逃げを予想していたドクオまでが下げるようだ、ならば……

( ^ω^)oO(行ってみるかお…)

少しばかり気合いを付け、ハナへと誘導する。反応は抜群に良い、サッとハナへと立った。

先頭に立ち、後ろを確認すると少し離れた2番手にモナーが付け、ツンは中段、後方にジョルジュとドクオが控える展開だ。

ただ、切れる脚を使えないフルシーズンが後ろと言うことは、ドクオが何かを企んでいるのだろうか。

まぁ何にせよ、前からなら後ろを見て勧める。

( ^ω^)「落ち着いていくお…」

諭すように言い聞かせ、バンキッシュの首筋を優しく撫でた。


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:12:10.00 ID:K6zYZIb4O

スタートはいつも通り、ほぼ完璧だ。外から各馬を確認するが、押して行くような馬は見当たらない。
皐月賞ではフルシーズンが逃げたほどなのだ、当然と言えば当然だろう。
スローの流れになる、レース展開をそう読んだ。

('A`)oO(スローの切れ味勝負じゃまず勝てねぇ……)

ハナを切るのも良いか。
とも思ったのだが、テンからハイペースに持ち込んだとしても、差されては仕方がない。

ならば、と前半ドスローから後半超ハイペースの流れに持ち込もう。
そう考えをまとめるより先に、ドクオの手は馬を制し後方へと下げていた。

('A`)oO(ナウインストールよ、天才のメッキ…剥がしてやるぜ……)

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:15:07.53 ID:K6zYZIb4O

スタートは完璧であった、大外から見れば解る横一線である。
そんな中、ジョルジュは迷わず馬を下げた。
そこにあるのは、決意。
 _
( ゚∀゚)oO(東京の直線は長い……、だが競馬は直線だけじゃない)

日本ダービーを勝つためだけの馬、メイクイット。
しかしジョルジュがメイクイットに求めたレースは、
府中の舞台らしい直線勝負では無く、どの競馬場でもGTを狙えるその存在能力に任せたレース。

ジョルジュが思い描くレースは、決して奇襲ではない。
馬の能力を信じた、正攻法なのだ。

奇にもそれは、ドクオが思い描く奇襲と、全く同じ内容であることには驚きだが。
  _
( ゚∀゚)oO(お前の能力には、期待してるぜっ……)

手綱はまだ、抑えたままだ。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:18:18.43 ID:K6zYZIb4O

競馬学校時代から常々思っていたこと、それは同期の4人に比べると自分には才能が足りない。
と言う事実であった。

( ´∀`)oO(ブーンは……どう動くモナ?)

ブーンとジョルジュは文句無しの天才、
ツンも牝馬を操る術は完璧であったし、
ドクオは奇策を練り、成功させてしまう天才であった。

対する自分には、何のセンスもない。勝負勘など無に等しく、臨機応変な対応も苦手だ。
ならば自分に出来ることは…そう、馬にベストの競馬をさせること、それだけなのだ。

ブーンの動きを外から見ていてモナーは、その事を思い出すと迷わずに、ブーンの後ろ、2番手の定位置を取りに行った。

( ´∀`)oO(全力を発揮出来れば……、誰にも負けないモナ)

紛れも無い天才、努力の天才・茂名好二は静かに闘志を燃やした。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:21:49.21 ID:K6zYZIb4O

自信を持っていた、ゲートに出遅れても、信じていた。
スタートも何も、全て関係無い。この馬のポテンシャルは、位置取りすらも関係無い。
そうに信じている。

ξ゚ー゚)ξoO(あんたに……任せるわ)

今までツンが騎乗した馬の中で、最高の一頭ナウインストール。
不利があっても、前を塞がれても、勝つ自信がある。

だからこそ、目標に定める物、それは──────────圧倒的な能力差での完勝

ξ゚听)ξoO(どんな競馬でも、一蹴してやるわ)

金色の女帝・津出麗羅は秘めた強い思いを胸に留め、相棒を中段で折り合わせた。

どんな展開でも、真っ向から立ち向かおうとする覚悟は、確かなものへと固まった。

ξ゚ー゚)ξoO(格の違いってやつを……知らしめてあげる)

念願の日本ダービー制覇は、もう目の前であった。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:24:44.37 ID:K6zYZIb4O

(実 ・з・)「前半1000m通過タイムは、1,05,2。
なんと、とてもスローな展開です」

(実 ・з・)「楽に逃げるのはバンキッシュ、後続を2馬身引き離しての単騎逃げ」

(実 ・з・)「後続集団を引っ張るのはシルバーコレクター、2番手絶好のポジションから栄光を狙います」

(実 ・з・)「そしてまだ動かない、中団で脚を溜めるのはナウインストール、今日は中団からの競馬です」

(実 ・з・)「おおっと!ここで外からスルスルとスルスルと、メイクイットとフルシーズンが上がって行く」

(実 ・з・)「それを見た後方馬も一気に追い上げて参りました」

(実 ・з・)「一気に展開が早くなります、外の二頭が大まくりですっ!!」


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:27:11.60 ID:K6zYZIb4O

優雅な一人旅、道中は津出先生が言っていたことを頭で反芻していた。


( ・∀・)『位置取りは何処でも構わない、落ち着いて脚を溜めてくれれば大丈夫だ。
ブリンカーも効果があるだろうしね、全力を出しきってくれ』

超スローペースでの逃げ、脚は溜めに溜まっている。
師の注目通りの展開だ、ブリンカーも効果を発揮し集中している。

チラチラ、と後方を伺いながら機を計る。

( ^ω^)oO(……来たッ!!)

見えた、外から馬なりで進出を始めたドクオとジョルジュが。
更には、釣られてその他の馬も一気にペースを上げる。

( ^ω^)oO(ドクオ、作戦パクらせてもらうお)

本当の地力勝負に向け、力強く手綱を押した。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:31:17.09 ID:K6zYZIb4O

ブーンが後ろを気にしているのを見て、モナーも薄々勘付いていた。
ドクオが仕掛けてくると。

切れる脚を持たないフルシーズンで後方からの競馬、ならばロングスパートしか無いだろう。

そして………

( ´∀`)oO(ドクオが仕掛けた時が、ブーンが動く時モナ……!!)

デビュー前から競馬を共にしてきた仲だ、確信にも近いその予想は的中する。

前を走るブーンが、手綱を押すのが見える。
後ろを確認すると、ドクオとジョルジュが外からマクリ気味にペースを上げていた。
それに合わせてモナーも愛馬を押す。

( ´∀`)oO(溜めれば勝てるかもしれないモナ、ただここで退いたら…負け犬モナッ!)

少し差の離れた前を、一睨みすると同時に差はグングンと縮めた。

完全勝利、モナーはそれにこだわった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:33:47.59 ID:K6zYZIb4O

勝った。残り1000m以上を残してツンは小さく笑った。

ξ゚ー゚)ξoO(展開は極端なスローペース、切れ味勝負なら負けないッ)

その時、満員の観衆はどよめいた。

残り1000mも残しているのに関わらず、ツンは小さくガッツポーズをしたのだ。

しかし、観衆が見ていてのはそこでは無い。
ツンはまだ気付いていなかったが、観衆は怒涛の勢いで追い上げる後方勢を見ていてのだ。

そのどよめきと同時に、外からナウインストールに被さる二つの影。

ξ;゚听)ξ「えっ?」

('A`)「天才のメッキ、剥がしてやるぜ」

  _
( ゚∀゚)「よお、地力勝負だ」

いつの間にか差を詰めていたドクオとジョルジュが一気に捲っていった。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:37:15.32 ID:K6zYZIb4O

残り1200m、前半のペースは超スロー。
ならば頃合いだ。

二人の騎手は、まったく同じ考えのもと、愛馬を外へと振った。

('A`)「ハッ、お前もか」
  _
( ゚∀゚)「偶然だ」

同期デビューの三人の天才。
名実共に天才であるジョルジュ、実力だけの天才ドクオ。

二人が考えていたのは、同じ作戦であった。
それは、天才ことナウインストールを打ち破るための、もう一人の天才ブーンを打ち破るための、

奇策にして、最上の策であった。
二つの風により、レースが激流へと変わる。

決して無理なペースでは無い、最後の直線でしっかり余力が残る勢いでマクルのだ。

前を走っていたツンとナウインストールに、一気に並び交わす。

('A`)「天才のメッキ、剥がしてやるぜ」
  _
( ゚∀゚)「よお、地力勝負だ」

馬を一頭挟み横を走っていたツンを、一気に振り切った。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:39:48.35 ID:K6zYZIb4O

迷ってる暇は無かった、圧倒的な能力差で捩じ伏せると決意をしたのだ。
ここで動かねば、何処で仕掛ける?

しかし、しかし……
手は動かなかった、掌にはじっとりと汗が這っている。ここで動いても勝てるだろう、ただ、絶対では無い。

ダービー制覇は目前なのだ、ここは我慢の時のハズだ。
ここで耐えれば差しきれる、が、それでいいのか?

相手に勝負を挑まれている、私はそこから逃げ出していいのか?

ξ; )ξ「……くッ」


やはり、手は動かなかった。
ブーン、モナー、ジョルジュ、ドクオ。その背が遠くに見える。

負けた訳では無いが、悔しさが込み上げる。
それでもやはり、動けなかった。日本ダービーの栄冠は、そこまでして手に入れたかった。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:42:31.25 ID:K6zYZIb4O

(実 ・з・)「残り1000m!!ここで一気にレースが動いたっ!!」

(実 ・з・)「先頭は未だバンキッシュ、半馬身後ろに馬体を合わせてシルバーコレクター」

(実 ・з・)「後続との差は2馬身程か、外から上がって来たフルシーズンとメイクイットが先頭集団を捉える勢いッ!!」

(実 ・з・)「後方集団も差を詰めて一塊だ、ナウインストールはちょっと遅れたか!?先頭争いから遅れたッ!!」

(実 ・з・)「なんと最後方、最後方だ。
馬群に包まれてナウインストールは最後方」

(実 ・з・)「大丈夫なのか、この位置で大丈夫なのかっ!?」

(実 ・з・)「先頭集団はフルシーズンとメイクイットが加わって4頭一団!!」


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:45:43.16 ID:K6zYZIb4O

後ろのペースアップに合わせ、前でもペースアップ。
前を目標にペースアップをした後続は、更に激しい流れに身を投じることになるのだ。

超スローから激流へ、その作戦は完璧にハマッた。
ただ、楽に先頭に立てないのは相手が相手だからか。

( ^ω^)「いいのかお?最後まで持たないかもしれないお」

横に馬体を合わせて来た影に、一つ忠告をした。

( ´∀`)「大丈夫モナ、僕は馬の力を信じてるモナ」

ニヤニヤしながら、余力を残しながら前を見る。
足音がさらに増えた、頃合いを見計らって声を出す。

( ^ω^)「やっぱり皆、思ってることは一緒かお?」

その問いには先程答えたモナーに代わって、後方から猛追して来た二つの風が応える。

('A`)「馬の力を信じてるんだ」
  _
( ゚∀゚)「ま、そう言うこった」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:48:04.46 ID:K6zYZIb4O

ペースは落ちない、前半は流して走ったようなものなのだ、落ちてたまるか。
そこまで弱い馬では無い。

そのままの勢いでコーナーへと突入する。

( ^ω^)「余力は?」

横を走る三人に向かって、声を張り上げる。

( ´∀`)「モナモナ」

('A`)「抜群だよ」
  _
( ゚∀゚)「弾けるぜ」

思い思いの返答がまとめて返って来る、もちろん僕も━━━━

( `ω´)「十分だお」

ここに馬体を並べていない、ナウインストールのことなど、皆眼中になかった。

自分達に出来る、ベストの騎乗を、ベストのレースをするだけなのだから。

その時、彼等の瞳は輝いていた。今でも昔と変わらない輝き、それが瞳には宿っていた。

4人は、さも楽しそうに競馬をしていた。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:51:23.38 ID:K6zYZIb4O

焦りが、後悔が、胸の中を蠢いていた。
一気にレースのペースが上がり、力の無い馬からバテる展開。

脱落する馬は早々と脱落する中で、ナウインストールは、手綱を緩めれば弾ける手応えだ。
前を一瞬で捉えられるような、最高の、抜群の手応えだ。

しかし━━━━

ξ;゚听)ξ「う、動けない……」

動ける場面で、絶対の勝ちのために動かなかったがために、栄冠に慎重になりすぎたがために……


動けなかった。

前は開かず、内にはラチという名の境界線、外には何頭もの馬による壁だ。
絶望的なまでに、道が無かった。

爆発的な末脚を持っていても、前が詰まっていてはそれを披露することは出来ない。
解っていても、どうしようもなかった。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:54:05.17 ID:K6zYZIb4O

馬の力を信じきれなかった、だからこそのこの状況。
父が、馬主が、馬が信頼をしてくれて、今の私はナウインストールと共に走っている。

にも関わらず、私は馬を信じきれなかった、意識せずとも不甲斐無さから涙が頬を伝う。

ξ ー )ξoO(バカだなぁ……大事なこと、忘れてたなんて………)

そして頭に響くのは、若き日に父が言った言葉。

( ・∀・)『麗羅、馬を信じなければ、レースは勝てない。
能力を引き出すんじゃない、信頼している分を、発揮させるんだ。
そうすれば、勝てる』


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 18:57:27.54 ID:K6zYZIb4O

馬のことを、これっぽっちも信じてやれて無かった、だからこその結果だ。
信じている、信じている、と思ってはいたが結局は上辺だけなのだ。

騎手の仕事は馬を勝ちに導くこと、馬の力を信頼してやることだった。

騎手がレースを勝ちに行くのではない、馬の能力を引き出すのが騎手なのだ。

このままでは、勝てるレースも勝てない。
前を走る同期生はしっかり自分の馬を信じている、だからあの様な競馬が出来るのだ。

ならば私はどうする……?

ξ゚听)ξ「私も、馬を信じる……ッ!!」

ナウインストールを制し更に後方へと下げる、既に最終コーナーの中ほど、ここから外に出しても400mは有る。

それなら……

ξ゚听)ξ「あんたを信じるわよッ!!」

差しきれる、迷うな、大外だ。

後方から更に、馬二頭分後ろに下げる。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 19:00:04.94 ID:K6zYZIb4O

残りは600mか?
前との差は20馬身程度。
ここから外に出して、400mで20馬身、普通の馬なら絶望的だ。

だけど、私の乗ってる馬は………



天才だ。


もう迷わない、勝つのは、私達だ。


大外に出し前が開けた時、もう、涙は乾いていた。

迷い無く、鞭を振り上げる。

ξ#゚听)ξ「行けえぇぇぇッッ!!!」

残り400m、お願い、弾けて。


と願えば、妙にクリアな視界が一気に吹っ飛んだ。

                                                  

..........end


前へ 次へ
内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は騎手のようです - 第5R - 『そして激流へ』
inserted by FC2 system