内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は騎手のようです - 第6R - 『決着』
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:17:09.88 ID:q24J2wu6O

第6R - 『決着』


(実#・з・)「さぁ最後の直線!勝つのは前4頭に絞られたかっ!!!」

(実#・з・)「メイクイット、フルシーズンが並んで先頭!!少し遅れたシルバーコレクターも余力は十分、前を捉える勢いっ!!」

(実#・з・)「バンキッシュはちょっと後退!少し苦しいかっ!??」

(実#・з・)「後続は伸びない、その差は5馬身っ!!
ナウインストールはようやく外に出た、しかしこの差は絶望的だっ!!」


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:21:41.81 ID:q24J2wu6O

直線に入る前、一息、入れた。
前には三頭のライバルが走る、しかし、これでいいのだ。

( ^ω^)oO(勝負所で遅れるのは仕方がないお)

今までのレースでも、それは解りきっていることだ、ならばそれは仕方がない。

一息入った、そう考えよう。どうせ坂を登るのだ、かえって都合が良い。

前を走る三頭の、その外へと馬体を導いた。

導いたのにも、訳がある。バンキッシュは仕掛けても反応が遅い、それは別に反応が悪い訳ではない。

臆病なのだ、前の馬は追えるが後ろから来る馬には怯んでいる印象を、レース振りから僕は思ったのだ。

残りは400m、賭けと言えば賭けなのだ。

その矢先、前を行くシルバーコレクターに鞭が入り、素晴らしい切れ味を見せる。

しかし、僕にも確信がある。

( ^ω^)「ぶっ飛ぶおっ!!」

反応してくれる、という確信が。そして、鞭を放った。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:25:31.11 ID:q24J2wu6O

彼の目は、圧倒的一番人気で送り出したナウインストールでは無く、伏兵のバンキッシュだけを見つめていた。
馬群に沈んでいるナウインストールより、先頭争いを繰り広げる管理馬を見つめている。

少し遅れてはいるが、鞍上は天才・内藤地平線。

( ・∀・)oO(裏切ってくれるなよッ!!)

そして残り400m、内藤は鞭を振り上げた。

( ・∀・)「伸びろっ!!」

思わず叫ぶ、前との差は僅か。
しかし、ここで離されては馬の意気にも関わる。
不安はあった、今までのレース振りから、仕掛けてからの反応が悪いこと。
それがこの舞台でも出てしまえば、それは致命的な要素である。

しかし─────
その不安を吹っ飛ばしながら、バンキッシュの馬体がグンと伸びる。

(;・∀・)「な………っ!!」

嬉しい誤算だった、今までにない抜群の反応で、バンキッシュが脚を伸ばしたのだから────

勝負は、これからだ。
力強く手を握った。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:28:27.87 ID:q24J2wu6O

残り400m、まだ余裕は有る。
ドクオはそう踏んでいた。

最大の勝負は横を走る3頭に、バンキッシュが並んだ時だ。

苦しいのは誰も同じ、先に抜け出しては持たないかも知れないからだ。

そして、その勝負時は残り200mから。
何故なら、それまでバンキッシュは追いついてこない。これも確信だ。

バンキッシュには、仕掛けてからの反応の悪さ、その弱点がある。
同じレースを、ほぼ同じ位置取りからレースを進め、じっくりと見たので解りきっている。

('A`)oO(バンキッシュが並んで来てからだ、そこから突き放す)

並びかけるのにバンキッシュは脚を使う、並びかけられる寸前に仕掛け突き放し、後は横の2頭との力比べだ。


10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:31:03.39 ID:q24J2wu6O

バンキッシュが並んで来る直前に仕掛ける。
その考えは、ジョルジュも同じだった。

だからこそ、驚いたのは内を走るシルバーコレクターが突き抜けたこと。
 _
(;゚∀゚)「なっ……」

自分がそう言うと同時に、ドクオも驚いた様で間抜けな声を出す。

(#´∀`)「モナァァァッ!!」

モナーの叫びと共に、抜群の反応を見せたシルバーコレクターが遠くなる。

この時、残りはまだ300m。
出し抜かれた、と同時に、後ろを待つか前を追いかけるか…
後ろを待てば前に届かない可能性がある、前を追いかければ後ろに差される可能性も有る。
二人の騎手に、一瞬の迷いが生じた。

その時─────


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:35:04.80 ID:q24J2wu6O
  _
(;゚∀゚)「「なんだとっ!?」」('A`;)

メイクイットの外から、シルバーコレクターに続けと更に突き抜ける影。

(#`ω´)「おおおおッ!!!!」

その影は、
ラスト200mまで来ない、そう踏んでいたバンキッシュとブーンのものだった。

一瞬にして、モナーとブーンの背が遠く。

完全に読み違えた。
二人の頭がそう理解し、反射的に鞭を振り上げる。
それでも、その行為は既に遅かった。

一瞬の切れ味を持たないメイクイットとフルシーズンは、食らい付くのが精一杯である。

良い末脚は使えるが、エンジンの掛かりが遅いことを今までの経験から解っていたことなのだ。

前を捉えきれない事を理解した二人は、横を走るライバルとの3着争いに標準を切り替えた。

('A`)oO(やられた……)
  _
(#゚∀゚)「クソガァァッ!!」

二人は天才と謳われた男を、嘗めきっていた。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:38:10.44 ID:q24J2wu6O

勝った。
残り300m、バンキッシュとブーンを待つドクオとジョルジュを尻目に、愛馬に鞭を入れ突き抜けた。

馬の力を信じているからこそ、最後まで踏ん張れると思ったからの仕掛けである。

(#´∀`)「モナァァァッ!!」

バンキッシュはまだ伸びて来ないだろう、一瞬でこれだけの差を付ければ、フルシーズンとメイクイットにその差を詰める瞬発力は無い。

セーフティーリード、これなら勝った。

そう思っていた。


(#`ω´)「おおおおッ!!」


が、
外から聞こえる、声。

思わず、後ろを見る。



そこには、

猛然と追い上げ、一馬身差ほどにまで迫るバンキッシュとブーンの姿があった。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:40:05.09 ID:q24J2wu6O

(実#・з・)「シルバーコレクター!!シルバーコレクターが突き抜けたッ!!」

(実#・з・)「残り300m、シルバーコレクターが先頭ッ!!
さらに外からバンキッシュッ!!バンキッシュが伸びる!!
メイクイットとフルシーズンは少し伸びない、先頭はシルバーコレクターだッ!!」

(実#・з・)「シルバーコレクター!!バンキッシュ!!
外からじわじわとバンキッシュ!!
シルバーコレクター一杯か!?バンキッシュがじわじわと、確実に差を詰める!!」

(実 ・з・)「さぁ、ゴールは目…ぜん…だ…が……」



(実;・з・)「あ、あ……あ…………」


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:42:08.99 ID:q24J2wu6O

突然と、実況が声を出せなくなったのは残り200m。

シルバーコレクターとバンキッシュの息を飲む先頭争い。
そして、熾烈を極めるメイクイットとフルシーズンの3着争いだけを、カメラは映している。

テレビ越しにレースを見守る者に、実況の動揺は伝わらない。


しかし、現地で観戦している観衆は、実況の動揺の訳に気づいていた。
何故なら彼らは、先頭争いになど目も向けず、唖然としながら…

大外から一気に突っ込んでくる──────




ナウインストールと、津出麗羅。
それだけを見ていた。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:45:16.71 ID:q24J2wu6O

絶対に負けない、最高の相棒と共に過去を断ち切る。

その想いは強い、明らかに脚色で上回るバンキッシュを横目に見ながら、モナーは必死に鞭を振っていた。

強い想いは馬にも伝わったか、抜かされまいと馬も必死だった。

自然と漏れる叫び。

(#´∀`)「モナモナモナァァァッッ!!!」

その叫びは、確固たる決意の叫び。相棒を勝ちに導くための、己の過去を断ち切るための、叫び。

残りは200mもない、

「あと少しだけ」

だがしかし、そのあと少しは、異様な程に長い。

妙に静かなスタンド前には、モナーの叫びが響いていた。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:48:40.57 ID:q24J2wu6O

抜けそうで、抜けなかった。
馬体を合わすまで、脚色は完全に上回っていたはずだった、それでも…交わせない。

シルバーコレクターは限界だろう、それでも…交わせない。

(;^ω^)「……くっ」

モナーの叫びが頭の中に響く、その気迫は相当なものであった。

自分も負けられない、勝利は目前なのだ、後一歩分の差なのだ。

絶対に負けられない。

だが、解っていた。
いくら自分がそう思い、鞭を振っても、馬が既に限界だということに。
気力だけで粘る前を交わす気力も無いくらいに、限界まで力を出しきってしまったのだ。

(; ω )「お疲れ様……だお……」

自分の要望に応え、最高の走りを見せた馬に一言述べる。
残り100m、負けを認めた。
それでも、騎手として、腕だけは馬を押し続けていた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:51:36.37 ID:q24J2wu6O

前を走る二頭を見ながら、ドクオとジョルジュは激戦を繰り広げていた。

ドクオもジョルジュも、デビューから手綱を取り続けた愛馬の限界を、既に悟っていた。

それでいて、鞭を叩くのを止めないのは意地だ。

愛馬が、強いということを証明したいがための、意地である。

(#'A`)oO(頼む!!頼むッ!!!!)

今まで愛馬を持ったことの無いドクオは、ただ馬を信じ鞭を振り。
  _
(#゚∀゚)「うおおおおッ!!」

ジョルジュは気迫を叫び馬に乗せていた。

彼等は互いに横の馬を意識し過ぎていた、だからだろう、並ぶ間も無く大外から彼等を抜き去った影に気付かなかった。

既に失った3着の座を目指し、二人は愛馬の意地のため叩き合っていた。
誰から見ても、騎手と騎手の名勝負であった。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:54:19.26 ID:q24J2wu6O

ゴール板は目の前だ、先頭のシルバーコレクターも既に目の前だ。
残りが後どのくらいあるかなど解らない、気にしていない、先頭のシルバーコレクターをゴール板を駆け抜ける前に交わす。
それだけしか考えていなかった。

交わせる、この馬なら交わせる。
もう何も疑ってはいない、この馬なら交わせる。

ξ#゚听)ξoO(ぶち抜くわよッッ!!)

この馬を、信じている。
先頭でゴールすると。


もう何も疑わない、間違い無い、先頭でゴールするのは……

ξ#゚听)ξ「あなたッよ!!」

私が保証する、その想いをステッキに乗せ振り、叩き、手綱をしごく。



ゴール板は、
目の前だ────


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 22:58:18.94 ID:q24J2wu6O

(実#・з・)「そ、外からナウインストール!だ!ナウインストールが目にも止まらぬ豪脚!!」

(実#・з・)「残りは僅かだが、メイクイットとフルシーズンを交わした!!
先頭はシルバーコレクター!!そしてナウインストールが猛追!!」

(実#・з・)「並ぶか!?並ぶか!?並ぶかッ!?」

(実#・з・)「内シルバーコレクター!!外ナウインストール!!」

(実#・з・)「どっちだ!どっちだ!!どっちだあぁぁッッ!!!」

(実#・з・)「並んだままゴオォォォルインッッッ!!」

(実#・з・)「内シルバーコレクター外ナウインストールッ!!」

(実#・з・)「解りませんッ!!まったく解りません!!並んだままゴールです!!」

(実#・з・)「3着はバンキッシュ、その後ろにメイクイットとフルシーズンです!!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:02:10.04 ID:q24J2wu6O

( ^ω^)「おめでとうだお、モナー」

レースから戻り、汗が滴る中モナーに言った。

( ´∀`)「………モナ」

しかし、その祝福にもモナーは喜びの声を上げない。
勝ちは勝ちでも、やはり釈然としないのだろう。

結局レースは、写真判定の結果ハナ差シルバーコレクターが先着していた。
最後に大外から猛追したツンのナウインストールが2着、半馬身遅れて3着にバンキッシュ。
メイクイットとフルシーズンの4着争いは未だ続いている。

( ´∀`)「ブーン……」

( ^ω^)「……お?」

静かな声でモナーは言う、それはダービージョッキーが発する声では無い。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:04:20.98 ID:q24J2wu6O

( ´∀`)「シルバーコレクターは凄く強いモナ、僕が乗った馬の中で一番良い馬モナ」

( ^ω^)「…………」

( ´∀`)「だから僕が願ったのは完全勝利、でも……結果はどうモナ?」

難しい問いであった、確かに勝ったのはシルバーコレクターであるが、一番強かったのはナウインストールだからだ。

( ^ω^)「勝ちは……勝ちだお」

僕は月並みの言葉しか出せない。

( ´∀`)「そうだけれど、一番強かったのはナウインストールだモナ」

( ´∀`)「決して、僕の馬じゃないモナ」

モナーの語尾は震えていた、何かを隠す様にモナーは顔を洗う。

( ´∀`)「だから……僕は悔しいモナ」


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:07:40.49 ID:q24J2wu6O

モナーの言うことはごもっともだろう、想い入れの強い愛馬が故に、完全勝利を望むが故に当然の想いだろう。

だが、

( ^ω^)「それは違うお、競馬は馬が全てじゃないお」

何時かの僕に言い聞かせるように、僕は言う。

( ^ω^)「騎手がいるから、競馬が成り立つお。
ナウインストールが一番強かったかも知れないけど、モナーとシルバーコレクターが勝ったんだお」

( ´∀`)「モナ………」

( ^ω^)「ツンとナウインストールの実力を合わせても、モナーとシルバーコレクターには敵わなかった」

( ^ω^)「だからこその、結果だお」

( ´∀`)「………」

それを聞いたモナーは、何を思ったか知らぬが無言のまま、再び顔を洗った。

( ^ω^)「勝利ジョッキーインタビュー、期待してるお」

そう言って僕は笑ったが、モナーは無言で顔を洗い続けた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:10:34.91 ID:q24J2wu6O

日本ダービー 勝利ジョッキーインタビュー


(ア ・з・)「勝利ジョッキーインタビューです」

(ア ・з・)「シルバーコレクターで日本ダービーを制した、茂名好二さんです」

( ´∀`)「どうも、ありがとうございます」

(ア ・з・)「ギリギリの勝利でしたが、ご感想は?」

( ´∀`)「馬の力を出し切れば勝てると思ってましたから、ギリギリでも勝てて嬉しいです」

(ア ・з・)「近走は惜しい競馬が続いていましたが、そのことについて」

( ´∀`)「不利等がありましたから、僕がもう少し上手く乗っていれば結果は違ったかもしれませんね」



29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:12:42.07 ID:q24J2wu6O

(ア ・з・)「茂名好二騎手自身も、惜しい競馬が続いていましたね」

( ´∀`)「そうですね、歯痒い気持ちで一杯でしたが、この大舞台で鬱憤を晴らせました」

(ア ・з・)「では、秋に向けての抱負と、ファンの皆様に一言」

( ´∀`)「えー……はい、世代チャンプとして恥ずかしくない競馬をしたいです、応援よろしくお願いします」

(ア ・з・)「はい、ありがとうございます」

(ア ・з・)「以上、勝利ジョッキーインタビューでした」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:21:23.43 ID:q24J2wu6O

( ^ω^)「………」

ξ − )ξ「……」

人気の無いところで、モナーの勝利ジョッキーインタビューを聞きながらツンは震えていた。

相当ショックなのだろう、騎乗の間違えではない、勝てなかったという事実がだ。
誰もツンを責めはしない、むしろ僕は誉めたいくらいだ。
彼女は勝ちにこだわったのだ

それでもツンは、小刻みに震えていた。

ξ − )ξ「………」

( ^ω^)「………」
勝利の裏にある敗北、必然であるが故に堪えきれないのだろう。

喧騒に包まれた空間から独立し、ツンと僕だけの空間に沈黙が流れ続けた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/18(木) 23:23:22.97 ID:q24J2wu6O

ツンは押し黙り、目を伏せている。

僕はそんなツンに掛ける言葉等見つからず、小さく震える彼女を力強く抱きしめることしか、出来なかった。



フライデーには載りたくないな。と思い、小さく笑う。

それでもツンは、泣いていた。

  
  
                                           


..........end

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