10.行方不明になったお嬢様が帰ってきた
415 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:41:15.91 ID:CAHqgM540
10.行方不明になったお嬢様が帰ってきた


――――空はどこまでも透き通ったような透明な青。


馬車に乗る二人は冷たい風を受けて、依然、屋敷へと向かっています。
蹄が心地よいリズムを打ち鳴らして。


('A`)「ショボンという船着場の男が教えてくれたよ。お嬢様は暗い海の先へ消えて行ったって」

('A`)「泣きながら謝ってくれた。なんも悪くないのにな」


(´<_` )

(´<_` )「・・・・・・そうか」


416 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:45:56.75 ID:CAHqgM540
('A`)「このブローチはロマネスク卿が拾ってくれてた。ひびが入っていたよ。大切なのに気づけなかったんだよな」


そういって中年の男は手に持っていたブローチに目をやりました。
深い深い緑色のブローチ。

日に当ててよく見れば、修復した後の薄い線が刻まれています。


('A`)

('A`)「あのあとロマネスク卿は全ての罪を被った。普通は死罪ものらしい。
    けど、爵位の剥奪で許された。モララー卿が狂っていたから、とのことだそうだ」

('A`)「それで今はロマネスク卿に拾われ、なんとかおまんま食ってるってわけだ」


418 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:02:08.57 ID:CAHqgM540
(´<_` )「もう一人のダイオード卿ってのは?」

('A`)「ロマネスク卿が罪を被ったおかげで特に罪には問われなかった。いまもヴィップを
    統治してるよ。ヴィップにロマネスク卿の屋敷があるのはそのせいだ」


(´<_` )「爵位を失っているのにロマネスク『卿』なのかい?」

('A`)「尊敬の意をこめて、な」

(´<_` )「そうか」



('A`)

('A`)「・・・ほんの半年前の話だ」


420 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:04:54.56 ID:CAHqgM540
どこまでも続くまっすぐな道を馬車が走ります。


遠くに分かれ道が見えてきました。
サスガはかじかんだ手をキュッと握り、手綱を引きます。

大きな栗毛色の馬が失速し、緩やかなスピードで分かれ道に差し掛かります。
速さが落ちたて、さっきよりも冷たい風が優しく体を撫でました。


相変わらず頭上に広がる透明な青に柔らかな赤色が混ざり始めます。

日はゆっくりと大きくなり、西に落ちて。
影が長くなるのを目で感じながら。




422 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:22:15.44 ID:CAHqgM540
――――ロマネスク卿の屋敷では使用人たちが慌しく動き回っていました。

それは少し前に一人の伝令がダイオード卿から来たためです。

一刻前、息を切らしながらやってきた伝令。


(;><)「伝令なんです!はぁはぁ・・・」

( ´∀`)「どうしたモナ。こんなに焦って・・・。事件モナ?」


使用人は大きな扉を開けて顔を出します。
焦った様子の伝令を見て、胸に挿していたハンカチを渡します。



伝令は渡されたハンカチをお礼も言わずに受け取ると、早速、汗ばんだ額をくしゃくしゃと拭きます。

そして、ふぅ、と息を吐き、先ほどより落ち着いた様子で話し始めました。


424 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:25:38.75 ID:CAHqgM540
(;><)「ロマネスク卿に、クール・スナオ・ラウンジ=ラウンジって人が、
      近くで見つかったと言うことを知らせてほしいんです!」

使用人はその名前を聞いてもピンときませんでした。
首をかしげながら伝令に尋ねます。


(;´∀`)「だ、誰モナ?」

(;><)「・・・わかんないです」



伝令から早くロマネスク卿に伝えるように言われた使用人は、ロマネスク卿の自室まで走ります。

伝令があれだけ急いでいたのだから、なにかとても大切な人物に違いない。
そう思って使用人も急ぎました。


425 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:31:03.58 ID:CAHqgM540
使用人は息を整えてから、ロマネスク卿の自室の扉を二回ノックをして丁寧に扉を開けます。


(;´∀`)「失礼しますモナ」

(;ФωФ)「ん?こんなに急いでどうしたである」


広い屋敷を走ってきた使用人の額には汗。
先ほどの伝令にハンカチを返してもらうのを忘れてしまったものですから、主に会う前に顔を拭けずにいたのです。

この様子を見て、ロマネスク卿は白髪交じりの短髪を掻きます。


きょとんとした顔のロマネスク卿。
読んでいた本を一旦置いて、使用人に目を合わせます。


426 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:34:16.00 ID:CAHqgM540
(;´∀`)「なんでも、クール・スナオ・ラウンジ=ラウンジという人物がみつかったとか・・・」

( ФωФ)「・・・・・・本当か?」


きょとんとした顔から急に険しい顔に変わったロマネスク卿を見て、使用人は少し焦ります。


(;´∀`)「本当ですモナ」

( ФωФ)「今すぐ馬車を用意させろ。それとモナーもついて来るである」

慌しく屋敷から飛び出す使用人とロマネスク卿。

半年前、暗い荒波に消えたお嬢様が見つかったというのです。
どういうわけか、ヴィップの民家に倒れているところを拾われたということでした。

まさか、ラウンジからヴィップまで自力でやってきたのか。
ロマネスク卿は焦る気持ちを抑えて、民家まで向かいます。


429 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:40:23.44 ID:CAHqgM540
民家は屋敷からそう遠くない場所にありました。


この民家の周りにはほかの民家は無く、幾つかの畑がぽつぽつと点在しています。
ヴィップでは珍しい平野部で、なだらかな丘がいくつも重なっています。

民家の近くを走っていると、牛や馬が飼われているのか、動物の匂いがしました。


遠くにはなだらかな低い山が見え、もっと遠くにはヒロユキ山脈。
山頂の白いキャンパスに、ほんのりと赤が混じっています。


この雄大な自然の中でお嬢様は倒れていた、というのです。


431 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:46:32.70 ID:CAHqgM540
( ゚д゚ )「こっち、こっちだぁ!」

民家の近くまで行くと男が出迎えてくれました。
ロマネスク卿が来ると聞いてか、農民らしくない召し物を身に着けていました。

その男は、大きく手を拱いて、早く早くと捲し立てます。


( ФωФ)「・・・!」

川  - )


中に入ってすぐに目に付いたベッドに横たわる女性。

ロマネスク卿は一度も見たことが無い故、わかりません。
わかりませんが、黒ずんでしまった洋服、気品に満ちた横顔。

それらがお嬢様だと確信させるのです。


432 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:51:37.90 ID:CAHqgM540
( ФωФ)「・・・この娘は我輩が引き取るのである」

( ゚д゚ )「ああ。かまわんだぁ。ここじゃあなんもしてやれねぇ」


男はロマネスク卿にそう答えると、お嬢様が持っていた荷物をモナーに渡しました。
荷物と思わしき、少し大きめの麻袋は軽く、ほとんど空の様なものでした。


ロマネスク卿はお嬢様を抱き寄せ、馬車へと向かいます。


ロマネスク卿が、外に出たことを確認すると、扉を押さえていたモナーは男に、お騒がせしましたモナ、
と謝罪を入れます。
そして、ロマネスク卿を追うように、足早に馬車へと乗り込みました。


433 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 20:54:39.95 ID:CAHqgM540
( ´∀`)「では、走らせますモナ」

( ФωФ)「うむ」

川  - )


モナーは手綱を引き馬を走らせました。
主人とお嬢様を刺激しないように緩やかに馬を走らせます。


ゆっくりと自然が流れる中、お嬢様は静かに目を覚ましました。


川  - )

川  - )「・・・ここは?」


436 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:17:57.24 ID:CAHqgM540
川  - )

川  - )「・・・ここは?」


( ФωФ)

( ФωФ)「ヴィップである」

( ФωФ)「今から我輩の屋敷に向かうが、よいな」


川  - )

川  - )「・・・サロンを歩いていたはずなのが」

川  - )

川  - )「・・・私は倒れたのか」


( ФωФ)「うむ」


438 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:24:25.06 ID:CAHqgM540
これ以上会話はありませんでした。

そのまま力尽きたようにお嬢様は眠りにつきます。

一定のスピードで走っていく馬車。
薄汚れた娘と小奇麗な白髪の男性をのせて屋敷へとゆっくり進んでいきます。


( ФωФ)「すまぬ・・・」

( ФωФ)「・・・すまぬ。我輩が早くに兵を進めていれば・・・」


ロマネスク卿は寝てしまったお嬢様の顔を撫でながら、何度も何度も謝り続けていました。

お嬢様の安らかな寝顔は、いままで何も無かったかの様な優しい顔色をしていました。
少し扱けているものも、半年前の美しい顔立ちを十分に残して。


439 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:28:40.94 ID:CAHqgM540
――――サスガたちは無事ロマネスク卿の屋敷へとたどり着きました。

サスガは、かじかんだ手を息で温めながら、馬車を降ります。
大きな馬はその場で疲れたように首を下げて立っていました。


(´<_` )「おぉ・・・」

(´<_` )「信じられんな」

屋敷と呼ばれる大きな家を、始めて間近でみたサスガは言葉を失いました。
こんな大きな家に住んでる人がいるのか。

ただただ、ため息が漏れるばかりです。


441 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:35:00.00 ID:CAHqgM540
('A`)「こうした屋敷は初めてか」

(´<_` )「すごいな、ほんとに」

('A`)「見とれるのも良いが、外も寒いだろう。良ければ上がってくれ」


そう行ってドクオはサスガを玄関まで案内します。
馬車を置いた場所から少し歩きました。
立派な屋敷の庭の広さにサスガはただただ驚くばかり。


自宅のの古ぼけた扉とは違う、立派な赤い扉がサスガを出迎えました。
重い扉を開ければ広い廊下が顔を見せます。

サスガは玄関に入る前に靴の泥を少し取ってから入りました。
サスガなりの気の使い方です。


442 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:38:30.03 ID:CAHqgM540
(´<_`;)「うーむ。本当にいいのかい?」

('A`)「そう緊張することも無いさ」


サスガは自分が場違いなのではないかと思い始めました。
身なり、風格、教養。その全てが。

現にこうして立っているだけでもそわそわと落ち着きません。

少しと経たないうちに奥から小走りで使用人がやってきました。


(’e’)「お帰りなさいませだんなさ・・・・・・」

(’e’)「うわぁ、ドクオか」


444 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:42:58.00 ID:CAHqgM540
奥から出てきた使用人は、玄関にいたのがドクオだと確認すると姿勢を屈めました。
ドクオはその使用人と目を合わせ、きょとんとした顔で話します。


('A`)「ん? だんな様はお出かけになっているのか」

(’e’)「忙しなく出て行かれたな。後ろのは客人か?」

('A`)「そうだ。困ったところを助けていただいてな」



(´<_`;)

('A`)「どうした?」

サスガは完全に屋敷の空気に飲み込まれてしまいました。
声を出そうにもなかなか声が出せません。

445 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:49:34.27 ID:CAHqgM540
('A`)「うん、まとりあえずあがってく・・・」



そのとき玄関の大きな扉が開きました。
玄関に夕暮れの冷たい空気が流れ込みます。



( ´∀`)

入ってきたのは使用人の男。
白い手袋をした手で、扉を押さえて道を作ります。


(´<_`;)(あっ)

それを見たサスガもとっさに反対側の扉を押さえに走りました。
この屋敷に来た、何ともいえない申し訳なさから勝手に体が動いてしまったのです。

扉は思っていたよりもズシリと重く、グッと、体を使って押さえました。


448 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:54:52.21 ID:CAHqgM540



( ФωФ)


川  - )




扉から入ってきたのは白髪の男性と今にも倒れそうな薄汚い娘。
ロマネスク卿はお嬢様の肩をしっかりと押さえて、倒れないようにゆっくりと歩いてきました。

一歩ずつ、一歩ずつ。


玄関に入るのと同時にひんやりとした冬の風が玄関に吹き付けました。
お嬢様の美しい髪が、ふわりと浮きます。


その、のっぺりとした光景をこの場にいた誰もが黙って見つめていました。


450 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 21:58:04.73 ID:CAHqgM540
('A`)

('A`)「お嬢様・・・?」


川  - )

川  - )

川 ゚ -゚)



ドクオの声を聞いて、
何かに気づいたように、
まるで、さりげなく、
ゆっくりと顔を上げました。


('A`)


薄汚い洋服と、首に巻かれた、薄桃色のスカーフ。
お嬢様に今の今まで何があったか。


言葉を交わさずとも、その身なりが全てを物語っていました。

452 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:03:27.88 ID:CAHqgM540
川 ゚ -゚)

川  - )



川 ;-;)


今まで我慢していたものが、お嬢様の目から、一粒、二粒とこぼれて落ちました。



肩を押さえていたロマネスク卿から離れ、ふらふらとドクオに向かっていきます。

今にも崩れてしまいそうなほど頼りない足。
一歩、一歩、長年ツタの塔で共に歩んだ父との距離が近づいていきます。



そして、フッと、吸い込まれるようにドクオの胸に寄りかかりました。


454 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:06:13.51 ID:CAHqgM540
('A`)


ドクオはお嬢様を包み込むように腕を回しました。

力なく、空気のように。


川 ;-;)

川 ;-;)「ヒィ―――・・・・・・」

川 ;-;)「ヒィ――――――・・・・・・」


堪えていたものが出てしまったような、窮屈そうで、長い泣き声が屋敷に響きました。

肩を震わせて、崩れ落ちます。


456 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:13:20.33 ID:CAHqgM540
( A )

(;A;)

(;A;)「おぉ・・・・・・おぉぉ・・・・・・」



崩れ落ちたお嬢様を抱えるようにして、ドクオもまた、膝を地に着きます。

二人は肩を震わせながら、小さく小さくなりました。


川 ;-;)

(;A;)


力なく抱き合うように崩れ落ちた二人。


457 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:18:09.84 ID:CAHqgM540
誰もこの光景から目を離そうとする者はいませんでした。



二人の窮屈そうな嗚咽だけがこの屋敷を響かせていて、


そしていつまでもいつまでも、二人は抱き合っていました。





誰もがその場から動こうとはしませんでした。

誰もが、その場から動こうとはしませんでした。



川 ゚ -゚)行方不明のお嬢様が帰ってきたようです おわり


459 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 22:20:43.68 ID:CAHqgM540
P.グレインジャー作曲 組曲「リンカンシャーの花束」をヒントに

※歌詞等は参考にしておりません



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