9.お嬢様
354 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:10:10.15 ID:VHaj8j5o0
9.お嬢様

夜通しで歩き続けたお嬢様とブーン。

ショボンの家で船が出せるようになるまで、少し眠ることにしました。
倉庫のような小屋の中の、少し薄汚いベッドでまどろむ様に二人は眠りに付きます。


(;´・ω・)「おい、起きろ! 非常にまずいことになった!」


(  -ω-)「・・・お?」

川う -゚)「・・・船が出せるようになったのか?」

お嬢様たちには寝る前にかかってなかった毛布がかかっていました。
タールの匂いが染み込んだ少し汚い毛布。

ショボンがかけてくれていたのでしょう。


355 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:12:02.32 ID:VHaj8j5o0
(;´・ω・)「窓の外を見ろ!」


ショボンは非常に焦った様子でブーンたちを捲し立てます。

まだ寝ぼけた様な目をした二人は、ベッドのすぐそばにある窓を覗きました。


(; ゚ω゚)「・・・!!」

川;゚ -゚)「町が燃えている・・・」

逃げまとう民衆。
目に付く家々に火をつけていく男たち。

ついに町は戦場と化したのです。


357 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:15:04.80 ID:VHaj8j5o0
(;´・ω・)「いつかはこうなると恐れていたが・・・」


(; ゚ω゚)

(; ゚ω゚)「・・・今日は風が強かったはずだお! こんなのすぐに燃え広がっちゃうお!」

川;゚ -゚)


室内でもわかるほど大きな音を立てて燃える町。

民衆の悲鳴が町を覆いつくします。
お嬢様とブーンはその地獄のような光景を放心したような顔つきで見つめていました。


358 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:17:17.24 ID:VHaj8j5o0
(;´・ω・)「ボーっとしてる場合じゃないぞ! いつここに火が移るかわからない。
       ここから速く出ないと・・・」


二人はショボンの声で我に返りました。

ショボンに連れられて小屋の外に出ます。
外に出ると、夏の夜の暑さとは違った熱が襲いました。
窓からでは判らなかった熱、蹄の音、そして戦場の空気。


川;゚ -゚)「・・・ブーン! みんなが、みんなが死んでしまう!」

お嬢様は胸の内が焼き付けるような気持ちです。

自分たちのせいで町が焼け落ちてしまう。
町の人々が死んでしまう。

頭の中は焦りでいっぱいでした。


359 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:19:40.53 ID:VHaj8j5o0
(; ゚ω゚)

(; ゚ω゚)「・・・・・・で、出来るだけ火を消して、みんなを助けるお」

(;´・ω・)「ラウンジを離れるのは良いのかい?」

(; ゚ω゚)「そんなこと言ってる場合じゃ無くなったお!」

(;´・ω・)「それもそうか・・・。そしたら、とりあえず水辺まで行こう」

(; ゚ω゚)「い、急ぐお!」


ブーンは急いで船着場まで走りました。
お嬢様とショボンもそれを追います。


361 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:21:56.46 ID:VHaj8j5o0
船着場には何個かバケツがおいてあります。

ブーンたちはそれに海水を汲んで火を消そうと考えていました。
しかし、そんなことをしても焼け石に水。

燃え広がる火の海を押さえることなど出来やしないのです。

それでも、ただ見てることはできません。


(;´・ω・)「あの甲冑は王国軍か。ずいぶん早いお出ましだったな」

川;゚ -゚)(けど紋章はヴィップ・・・?)

(;´・ω・)「消火作業を手伝ってる兵士もいるか・・・」

戦場と化した町は王国軍の到着をもって、いよいよ激化しました。
剣と剣が擦れ合うような金属の音。

民衆の不安と混乱は頂点に達しています。


362 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:24:13.20 ID:VHaj8j5o0
ようやく到着した船着場も炎に包まれていました。
船も幾つかは燃えており、涼しげな水面は火を映して幻想的な赤に煌いています。

しかし、目当てのバケツやバケツに変わるものは思ったよりもありませんでした。


(;´・ω・)

(;^ω^)「あんまり無いお・・・」

(;´・ω・)「足らないな・・・。僕の家にバケツがまだ何個かあるはずだ。家に火が移ってなければいいが」

(;^ω^)「取りにいってくるお。ショボンさんはクーをよろしく頼むお」

川;゚ -゚)

(;´・ω・)「頼んだ。危なかったらすぐに戻るんだぞ」


365 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:06:49.93 ID:VHaj8j5o0
ブーンはすぐに駆け出していきました。

ブーンにとっても大切なこの町。
親を亡くして、くじけていた自分を支えてくれた町です。

自分が冷静でないのはわかります。
わかるのですがこの気持ちを抑えることができないのです。



(; ゚ω゚)「もう火が回ってるのかお?!」

小屋の中は煙でいっぱいでした。

煙が入って涙目になった目を見開き、棚を見回ります。
ごちゃごちゃと物で溢れかえった部屋が、このときばかりは憎く思ったのでした。


366 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:09:16.18 ID:VHaj8j5o0
小屋の煙が濃すぎて周りの様子が把握できません。

もやもやと体の回りにまとわり付くそれは、この戦火を治めるのを阻止しているかの様です。


(;うω゚)「ぜんぜん見えないお・・・。煙も強くなってきたしあきらめるしかないかお」

あきらめて小屋から出ようとした時でした。





ミシッ、ミシリ。
奇怪な音が小さく呻きました。


367 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:13:08.75 ID:VHaj8j5o0
そこからはまさに一瞬でした。





棚が傾き、乱雑に積まれていた物が一気になだれ落ちます。
それに導かれるかのように他の棚も崩れて落ちました。
ガラガラとにぎやかな音。





(; ゚ω゚)「――――――!!」


369 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:17:42.90 ID:VHaj8j5o0
(; ω )「ぐあっ・・・・・・」


煙が凄くて目視できなかった小屋の中。

火は確実に棚を蝕んでいて、棚が力なく倒れるとあっという間に火が広がります。
パキパキと音をたてて灰を撒き散らす炎。


目の前が見えなくなるほどの煙が、崩壊しかけている小屋を支配しました。


ブーンはなす術もなく、下敷きになりました。
地獄のような光景を前に、いつ火が自分に襲い掛かるかわからない恐怖感が自分の胸を締め付けていきます。

371 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:22:15.06 ID:VHaj8j5o0
(; ω )(熱っ・・・! 火が僕に移ったのかお・・・?)




下敷きになってから、少ししか経っていないにも関わらず時間が長く感じました。

力を入れても全く動くことの出来ない状況。
燃される足に脳が悲鳴を上げます。


ブーンは死を覚悟しました。

死ぬとわかると不思議と落ち着いた気持ちが湧き出て、緊張感をほぐします。
奇妙な心情。


372 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:26:02.44 ID:VHaj8j5o0
遠のく意識の中で扉が開く音がしました。

煙に赤い光跡が走り、外の空気が煙を巻きます。


川;゚ -゚)「ブーン・・・!」

(;´・ω・)「遅いと思って来てみれば・・・! 大丈夫か?!」



(; ω )「おっおっ・・・。大丈夫ではないかもしれないお」

二人は急いでブーンに駆け寄りました。

ショボンはブーンを押さえつけている棚や道具を退かそうとします。
しかし、火の手が強く、なかなか退かすことができません。


374 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:29:17.62 ID:VHaj8j5o0
(; ω )「・・・多分、小屋はもう崩れるお。ショボンさん、クー、速く逃げるお」


川;゚ -゚)「な、何を言って・・・」

(; ω )「僕はもう死ぬってことだお。二人を巻き込むことはできないお」

(;´・ω・)「あきらめるんじゃない!」


ぽつぽつと喋り始めたブーン。
すすだらけの顔を上げて続けます。




(;^ω^)「クー。お前は生きろお」


375 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:31:45.81 ID:VHaj8j5o0
この状況下の中でまじめな声色。

何よりも真剣な表情がクーの胸に突き刺さりました。


川; - )「だから何を言っている」

川  - )

川  - )





川  - )「・・・・・・もし。もし、君がここで死ぬって言うのなら、私も・・・」

(; ゚ω゚)「馬鹿言ってんじゃないお!」


376 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:35:13.64 ID:VHaj8j5o0
川  - )


搾り出したかのような怒鳴り声。

そして、人の焦げたような匂いが、すすの匂いに混じって漂い始めました。



(; ω )「・・・どんな思いで、お兄さんがクーのいる家を守ろうとしたお?
       どんな思いで、ドクオさんはクーに家を捨てさせたお?」

(; ω )「こんな僕のために捨てるような命じゃねぇんだお」


川  - )

川  - )「・・・私には愛する人を見捨てることはできん」


377 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 08:37:47.14 ID:VHaj8j5o0
(; ω )

(; ω )「だから一緒に死ぬお?」



川  - )

川  - )

(; ω )「馬鹿かお。僕はクーと一緒に死にたいなんて思ってないお」



川 う- )「でもっ・・・」

お嬢様は、顔を手で覆いました。
今にも涙が零れそうだったから。

378 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:03:01.84 ID:VHaj8j5o0
(; ω )

(; ω )「この世のどこに愛する人に死を願う人がいるお?」

川 う- )

川∩-∩)


川∩-∩)「理解はできる」

川∩-∩)「理解はできるよ・・・」

覆った手をどける事が出来ません。

ここでぼろぼろと泣いてしまえば挫けてしまう。
挫けてしまえば、ここでブーンと一緒に死んで、全部を終わりにしたくなる。

必死に、必死に涙を堪えました。

380 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:05:13.08 ID:VHaj8j5o0
(; ω )「わかってお。僕の、最期の願いだお」





( <●><●>)『わかってくれるね、クー』





('∀`)『どうかそれまで私の言うことを聞いてください』


381 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:07:50.78 ID:VHaj8j5o0
不意に、頭によぎりました。

家を守るために父を殺そうとした兄が。

父の様に慕った優しい使用人が。


川∩-∩)


(;´・ω・)「別嬪さん・・・。君は一体・・・」


(; ω )

川∩-∩)


ミシリ、ミシリ、と柱が悲鳴を上げ始めました。
今にも小屋は崩れそうです。


382 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:11:45.67 ID:VHaj8j5o0
(;´・ω・)「ゴホッ・・・。まずいな・・・」


川∩-∩)

(; ω )



川∩-∩)

川∩-∩)「わかった」

震えた声。
小屋中がパキパキと悲鳴を上げる中で、その芯のある小さな声はしっかりとブーンに届いていました。

川う-∩)

川 ゚ -゚)

目に溜まった涙をクイっと拭ってブーンの顔を見ます。
腫れた目で、まっすぐに。

384 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:15:11.50 ID:VHaj8j5o0

川 ゚ -゚)

川 ゚ -゚)「生きるよ。私」


(; ω )

(; ω )「よかったお」


(; ω )「・・・ショボンさん。クーをラウンジから出してあげてお。」

(;´・ω・)「わ、わかった。この別嬪さんを生きて他の地に移せば良いんだな?」

ショボンの問いに対してブーンはしっかりと頷きました。


385 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:18:01.43 ID:VHaj8j5o0
そして、ブーンは思い出したかのように顔を上げてお嬢様の顔を見つめます。


(; ω )「クー、これを」


ブーンは唯一動かせる左手で、首に巻かれたスカーフをシュルシュルと解きました。

今は亡き、父の形見。
薄い桃色をしたスカーフです。
生地の薄い、肌触りの良いスカーフ。

(; ω )「持っててお」

ぷるぷるとした手でお嬢様にそれを渡しました。
お嬢様は両手でそれを受け取り、力強く握ります。


387 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:25:24.31 ID:VHaj8j5o0
川 - )


先が少し焦げたそれは、ブーンの体温がほんのりと残っていました。
そのぬくもりが愛おしくて、お嬢様はスカーフを胸に押し当てます。



肉の焦げる匂いが充満した小屋。

ほとんど目視することができないほど煙が立ち込めていました。


柱がバキバキと音をたてます。

小屋は限界に近づいていました。
今にも崩れそうな音を小屋全体が惜しげもなく鳴らし始めます。

388 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:28:17.29 ID:VHaj8j5o0
(; ω )

(; ω )「小屋は限界かお」

(;´・ω・)「もうまずいな。出よう別嬪さん!」


川  - )

川  - )「ブーン」



(;^ω^)「お?」


川 ゚ー゚)「好きだよ」

さっき拭ったはずの涙がまた目に溜まっていました。
涙が零れ落ちるのを堪えるかのように引きつらせた笑み。

一見不自然な顔でも、ブーンにとっては一番素敵な笑顔に感じました。


389 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:32:17.99 ID:VHaj8j5o0
( ^ω^)「僕もだお」


痛みや熱さなんて忘れてしまうくらいの笑顔。
そんな笑顔を受けて、死んでいく。

( ^ω^)(悪くないもんだお)


川 ゚ -゚)「じゃあ」

川  - )「さようなら」


( ^ω^)「さようならだお」

ショボンに連れられて足早に小屋を出るお嬢様。

その後姿を見ていたら、涙がこぼれ始めました。
ぽろぽろ、ぽろぽろと。

悲しいわけではありません。
悲しいわけでは、ないのです。

(  ;ω;)「・・・さようならだお」


391 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 09:35:24.81 ID:VHaj8j5o0
――――ショボンは燃えていない船を捜すのに苦労しました。

なんとか見つけた一隻。
日に焼けて黒ずんだ小さな船でした。


(´・ω・`)「・・・・・・ブーンのか」

川  - )


さっき来たときよりも大きな炎を上げて燃え広がっていました。

水面に反射する赤が幻想的な光景を演出します。
皮肉にも先ほどより、美しく、感動的に。


410 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:19:14.51 ID:CAHqgM540
(´・ω・`)「さぁ、早く乗り込もう。船が燃えないうちに」


ショボンはお嬢様の手を取りバランスを崩さないように船に乗せようとします。

お嬢様が船に足をかけたときでした。

突如背後から少女の悲鳴が聞こえたのです。


*( ;;)* 「おかああああさああああん」

从´-`从


振り向けば瓦礫に押しつぶされて動かない女性とその側で泣き叫ぶ少女。

混乱する民衆は誰一人として助けようとしません。
少女の悲痛な叫びが二人の耳に痛いほど届きました。


411 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:22:17.51 ID:CAHqgM540
(;´・ω・)「っく・・・!」


川  - )

川  - )「行って上げて」

(;´・ω・)「だが・・・」


船を見るとすでに火の手は迫っていました。
一刻も早く船を出さなければ燃え移ってしまいます。


後ろには泣き叫ぶ少女。


412 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:25:20.81 ID:CAHqgM540

川  - )

川;゚ -゚)「私は大丈夫だから! 早く!」



(;´・ω・)「・・・!」


俯いていたお嬢様が叫びました。
真剣な表情で、ショボンを捲し立てます。


目の前で人が死んでいくのはもう見たくない。
その思いが強く表情に出ていました。


413 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:29:26.67 ID:CAHqgM540
(;´・ω・)


(;´・ω・)「・・・・・・わかった。陸を西に進んでいけばサロン、もっと行けばヴィップだ!」

(;´・ω・)「助けたら必ず追いかける!」


お嬢様は小船に乗り込み、縄を解きます。
そして、ショボンが船を蹴り押しました。

燃え盛る船着場で、お嬢様を乗せた小さな小船がゆっくりと水面を走り始めます。
水面に移る炎を歪ませながら。


荒れた波が小さな船を大きく揺らします。
ゆらゆらと頼りなさげに進んでいく小船。


414 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 19:31:57.45 ID:CAHqgM540
川  - )


初めて恋におちた男が目の前で死に、
そして、産まれて育ったラウンジが焼け落ちる様を見ながら、
お嬢様は何を思ったでしょうか。


この先、お嬢様が見つかることはありませんでした。
海の藻屑となったか、はたまた名の知れぬ島に上陸したか。


かつて、ラウンジを守っていた一つの家族。

そのたった一人の生き残りは、
存在を隠し通された生き残りは、
小さくなっていく赤い光を見つめながら、
闇の中へ消えていったのでした。


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