一話 “きっかけとか、こんなもん”
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 21:51:06.75 ID:pz8TmGm10
- *注意書き*
・このスレには、>>1の独断と偏見に満ち満ちたレスが多数投下されます
・知識不足にも拘らず、分かったような口ぶりで音楽論を語ったりします
・機材やバンド、アーティストに関連する固有名詞が多く登場しますが、それについての説明は一切行いません
・この物語はフィクションです。実在する機材名、会社名、団体名、グループ名、個人名とは一切関係ありません
・ハインは俺の嫁
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 21:53:24.20 ID:pz8TmGm10
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一話 “きっかけとか、こんなもん”
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 21:58:20.04 ID:pz8TmGm10
- 俺が小学生の頃だった。
俺が小学生だったある日の夜。
俺は夕飯を食い終わって、親父と一緒にテレビを見ていた。
(・A・)『ねー、おやじー』
『なんだ』
(・A・)『おやじって、ギター弾けるの?』
『なんだいきなり』
俺は立ち上がって、居間を出た。
親父の部屋に入って、古びたアコースティック・ギターを手に取る。
居間に戻ると、親父は相変わらず寝転がってテレビ画面を眺めていた。
(・A・)『これ、おやじのだろ』
『持ってくるなよ』
親父はこちらに向けた顔を迷惑そうに歪め、それから台所で皿を洗っているお袋の後姿に視線を送った。
『怒られるだろ』
(・A・)『なんか弾いてよ』
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:02:23.40 ID:pz8TmGm10
- 俺の頼みを断り続ける親父の、鯔のようにでっぷりとした体を揺する。
親父は時折唸り、時折屁を放出して俺に抗い続けた。
そのうちにお袋がやってきて、親父に言った。
『いいじゃない、一曲くらい』
『私も聞きたい』
その言葉で嫌々ながらも起き上った親父は、俺からギターを受け取った。
お袋には逆らえない。当然のことだった。
『一曲だけな』
親父は6本の弦をひとつずつ弾いて、チューニングを始めた。
そのときの俺には、親父がなにをしているのか見当もつかなかった。
ただ映画を見る直前のような、ワクワクした気持ちだけが俺の胸の中を覆っていた。
『失敗しても笑うなよ』
居間に響き渡る、Eメジャースケール。
柔らかくて、透き通っていた。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:06:07.34 ID:pz8TmGm10
- 『知ってるか』
(・A・)『なに?』
『エリック・クラプトン』
その日聴いた“チェンジ・ザ・ワールド”は――――
確かに、俺の世界を変えた。
テレビのスピーカーから流れ出る欠伸の出るような歌謡曲をかき消して。
俺の脳みそを、革新的なサウンドで突き刺した。
曲が終わった時、俺は照れ臭そうにギターを壁に立て掛ける親父に向かって、無意識のうちに言った。
心臓はまだ熱く、強く鼓動していた。
(*・A・)『かっこいいじゃんか………おやじ』