二話 “ぼっちは部活に入れ。それでも駄目ならもう知らん”
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:10:06.41 ID:pz8TmGm10
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二話 “ぼっちは部活に入れ。それでも駄目ならもう知らん”
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:15:29.07 ID:pz8TmGm10
- 高校生になると、これまでの学校生活とは大きく違った意識を持つことになる。
地元の公立高校に入学して一週間、俺はそのことを大いに肌で感じていた。
('A`)「友達できねぇ……」
まず第一に、疎外感が半端じゃない。
同じ中学だった友人たちは、揃いも揃って都心部にある有名私立校へ行ってしまった。
頭があまりよろしくなく、将来のことも特に考えていなかった俺は、家から自転車で数十分の高校へ進学した。
('A`)「このままじゃ、便所飯までそう遠くないな」
そして高校には部活が多い。
設備も呆れるほど充実している。
ここは公立の高校だが、珍しいくらいに部活動に力を注いでいる。
運動部はどれも全国大会の常連で、文化系の部活ですら各々にちゃんとした部室が与えられていた。
('A`)「部活入らなきゃ………」
入学から一週間が経った。
そろそろ部活動を決めなくてはならない。
帰宅部でもいいが、どうせなら一度きりの高校生活、有意義な活動をして過ごしてみたい。
そう決心した俺は、この日の放課後、ビクビクしながら渡り廊下を歩いていた。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:20:22.84 ID:pz8TmGm10
- ('A`)「この廊下の一番奥だな」
部室棟と呼ばれている離れ校舎。
文化系の部活の活動拠点が寄せ集められた棟だ。
廊下は薄暗く、湿っぽく、足を踏み出す度に靴底の下でリノリウムの床がきゅっと鳴いた。
('A`)「人気ねえな」
数々の部室の前を素通りしていく。
文芸部、天文部、写真部、映像研究部………百人一首部なんてふざけたものまである。
('A`)「ここか」
たどり着いた、一枚の扉の前。
上を見ると、『軽音楽部』と書かれたプレートが貼り付けてあった。
事前に目星をつけておいた部活だ。
手の震えを抑え、ドアノブに手を掛ける。
('A`)「押すのか………引くのか……」
('A`)「……押すッ!」
最初は勢いが肝心である。
その考え方が、間違っていた。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:24:43.45 ID:pz8TmGm10
- ('A`)「失礼しまっす!」
( ・∀・)「んん?」
( ^Д^)「あ?」
ミ,,゚Д゚彡「んだコラ」
(’e’)「誰だてめぇ」
ミセ*゚ー゚)リ「なにアンタ」
('A`)「……」
('A`)「失礼しました」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:28:30.09 ID:pz8TmGm10
- 間違いない。
これは部活動漫画の王道。
『部室のドアをあけたら不良の巣窟だった』
鼻を突く煙草の臭い。
スプレーアートの壁。
酒の空き缶。
ぼろいソファー。
某あひるの空とか、某ルーキーズの初期に見られる現象だ。
('A`)「まさか自分の身に降りかかるとは……」
( ・∀・)「おい」
('A`)「いや、そんなはずはない。この俺が、そんなレアな状況に遭遇するはずが……」
( ・∀・)「シカトしてんじゃねえぞ」
('A`)「はい?」
( ・∀・)「中入れよ」
('A`)「え?」
( ・∀・)「入れっつってんだよ」
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:33:22.58 ID:pz8TmGm10
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( ・∀・)「名前は」
('A`)「……」
( ・∀・)「おい、無視か?無視なのか?」
('A`)「鬱田毒男です」
( ・∀・)「クラスは」
('A`)「1年B組」
( ・∀・)「なんでここに来た」
('A`)「軽音楽部に………入部しようと思って」
( ^Д^)「はぁ?」
ミセ*゚ー゚)リ「こいつマジウケルんだけどwww」
ミ,,゚Д゚彡「なに、ギターとか弾けんの?」
( ^Д^)「バンドやろーぜ!ってか?」
(’e’)「馬鹿じゃねえのwwww」
ミセ*゚ー゚)リ「キモいwww今時バンドとかwwww」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:37:51.69 ID:pz8TmGm10
- ('A`)「あの」
( ・∀・)「あ?」
('A`)「ここ、軽音楽部ですよね?」
( ^Д^)「は?なに勝手に口聞いてんの?」
壁際の床に座らされた俺を、半円を描いて取り囲む先輩方。
彼らが座る錆ついたパイプ椅子が、ギシギシと悲鳴を上げている。
俺をこの部室に連れ込んだ先輩が、煙草の灰を床に落として言った。
( ・∀・)「そうだよ。軽音楽部だよ」
('A`)「活動はしてるんですか?」
ミセ*゚ー゚)リ「なにこいつ」
ミ,,゚Д゚彡「調子乗ってね?」
(’e’)「根性焼きすんぞ?コラ」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:40:17.87 ID:pz8TmGm10
- ( ・∀・)「俺たちがバンドしてると思うか?」
('A`)「いえ」
( ・∀・)「そういうこと。残念だったな」
('A`)「どういうことですか?」
( ^Д^)「おいガキ、調子乗んなよ」
ミ,,゚Д゚彡「俺らキレるとマジで何するか分かんねぇぞ」
俺が訊くたびに、周りの不良たちは語気を荒げて俺を罵った。
立ちあがって俺につめ寄り、脅しをかける者までいる。
どうとでも言え。
( ・∀・)「だせぇーじゃん。バンドとか」
('A`)「……」
( ・∀・)「特技はギターです、とか平気で言える人間はな」
( ・∀・)「自分の痛さに気づいてない目立ちたがり屋の根暗野郎なんだよ」
( ・∀・)「お前みたいな」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:43:06.52 ID:pz8TmGm10
- 否定できない自分が恨めしい。
だけどちょっと待ってくれ。
('A`)「じゃあなんで先輩方は軽音楽部に?」
( ^Д^)「お前マジ何様だよ」
ミ,,゚Д゚彡「いい加減にしねえと本当に殺すぞ、おい」
殺せよ。
( ・∀・)「自由な空間と部費の横領」
( ・∀・)「他になにがあるんだよ」
('A`)「三年生ですよね?」
(#^Д^)「おいゴラァッ!!」
( ・∀・)「そうだ」
('A`)「顧問は?」
(#^Д^)「―――」
( ・∀・)「名前だけの糞教師が一人」
('A`)「なるほど」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:50:03.96 ID:pz8TmGm10
- (#^Д^)「シカト決めやがって!ぶっ殺すからなッ!!てめぇ、もう逃げられねえぞッ!!」
( ・∀・)「うるせぇな、耳元で叫ぶなよ」
( ・∀・)「殺すぞボケ」
(#^Д^)「あぁ……!?」
( ・∀・)「もう行けよ」
('A`)「はい」
( ・∀・)「二度と近づくな」
('A`)「分かりました………」
立ちあがって、出口へ向かう。
ドアを開けて、振り返った。
顔を赤くした男、歪んだ笑いを浮かべる男、目を細くして睨む女。
抑えていた感情が喉から込み上げ、口をこじ開けてこぼれ出た。
気づいた時にはもう遅い。
右手の中指が、ニコチンで黄ばんだ天井を指していた。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:54:42.10 ID:pz8TmGm10
- (゚A゚)「ファック・オフ。てめーら全員死んじまえ」
――――渡り廊下を、叫びながら全力で駆ける。
足を止めてはいけない。
背後には、悪魔の軍団が迫っている。
(#^Д^)「待てやゴラアアアアアアアアアア!!!」
(#゚A゚)「待つかボケエエエエエエエ!!!」
横を流れていく教室から響くトランペットが、呑気な音で俺たちを煽る。
廊下を三段飛ばしで駆けおり、驚く生徒たちを追い抜いた。
(,,゚Д゚)「廊下を走るなァッ!!」
すれ違った体育教師の怒鳴り声は、不良たちには掛けられなかった。
理不尽だ。あまりに理不尽だ。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 22:59:43.72 ID:pz8TmGm10
- (#゚A゚)「ちくしょう――――――」
高校に入ったら、バンドをやろう。
それが俺の希望だった。
いままで音楽の話が合う友達は一人もいなかった。
皆が聴くのは、ハウスにテクノ、トランスにR&B HIPHOP。
俺にだってお気に入りのディスク・ジョッキーが一人や二人はいる。
だけど今時の中高生は、ガンズ&ローゼスの名前すら知らない。
(#゚A゚)「うるああああああああああ!!!!」
軽音楽部に入れば、もう自分の部屋で一人、ギターを弾くこともないんだ。
ロック好きな友達を作って、飽きるまで音楽トークをして、ノリでバンドを結成して、あの曲やこの曲をコピーしたりアレンジしたり………
もしかしたら、オリジナルの曲なんか作っちゃったりして………
――――そんな幻想は、見事にぶち殺されたわけだ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:03:42.40 ID:pz8TmGm10
- この高校の軽音楽部は、三年生の不良たちの溜まり場で有名だった。
数年前から、正式な活動など一切行っていない。
現在では、授業をサボる時の休憩所、もしくは喫煙所として幅広く利用されている。
顧問はいるが、名前だけ軽音部に貸し与えているような状態だ。
その教師も、部室に足を踏み入れた事は一度もない。
教師たちでさえ、軽音楽部の悪行に関しては見て見ぬ振りである。
あの不良たちが来年卒業すると同時に、軽音楽部は廃部になる。
部室は綺麗に掃除され、新たな部活動のネームプレートが貼り付けられるだろう。
先輩方にボコボコにリンチされた次の日、俺はようやくそのことを知った。