( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―第十七話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録― 〜その3、真心〜

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/30(日) 21:31:14.29 ID:QWohf3920
前回のあらすじ

暇を持て余した猫又・でぃは、弁当を届けるためにツンの通う女子高にやってきた。
ツンが所属する演劇部はこの日から校内合宿。
でぃはツンと宿舎に泊まることにする。

その晩、禍々しい瘴気に高校が包まれる。
不穏な気配を感じたツンとでぃは何者かの手により、自分たちが建物ごと地獄に堕とされた事を悟る。
ツン達はこの事態を引き起こした本人を倒し、この場所から出ることを誓う。

学校内の探索の末、ツンの友人、ヒートと渡辺の生存を確認。
一先ず2人を安全な場所に避難させ、ツン達は再び探索に向かった。

その時校内に何者かの侵入を告げる破壊音が響き渡った。
でぃは侵入者を迎え撃つため単身向かう。
そしてツンは、ある事実を受け入れ家庭課室へと向かった。

地獄堕ちを引き起こした友人、渡辺を倒すために・・・・・・


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/30(日) 21:32:27.78 ID:QWohf3920

表情を失ったままケタケタと笑い続ける渡辺。
ツンはそこから目を離さずに、静かにヒートの側に歩み寄る。

ξ゚听)ξ「ヒート!!意識はある!?」

ノハ;゚听)「なん……と…か… 」

ξ゚听)ξ「逃げなさい!!」

ノハ;゚听)「え?ツンは?」

ξ#゚听)ξ「いいから早くっ!!」

それ以外の選択肢を与えるつもりは毛頭ない。
強い言い方ではあったが、そこにはツンのヒートに対する思いやりが込められている。
それが、嫉妬に狂う渡辺を更なる嫉妬に駆り立てた。

从’―’从「ふふふふふふ……。私が指咥えて逃げるの眺めてるとでも思ってるのぉ〜?」

絶対強者の余裕を見せながら、瞬きもせずに見つめる渡辺。
自分の超能力を見せつければ、ツンは大人しく言う事を聞くだろう。


渡辺はそう思っていた……


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/30(日) 21:33:29.39 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「その言葉そっくりそのままお返しするわ。
       私が大人しくアンタの妨害を眺めてるとでも思ってるの?」

ξ゚听)ξ「聞くところによると、私の中にはとんでもない力が眠ってるらしいわよ。
      火傷したくなきゃ、大人しくぶちのめされる事をお勧めするわ 」

1人の退魔師として魔に堕ちた友人を粛正する。
ツンの目には揺るぎない意志の光が宿る。

从’―’从「冗談ww。死ぬまで付き合ってあげる。もちろん死んでからもねww」

渡辺は嬉しかった。
恋い焦がれるツンが今まさに、自分だけを見ている事が。

ξ゚听)ξ「交渉決裂ね。1つだけ忠告しとくわ 」

从’―’从「やっぱり止めて欲しいなんてのは受け付けないよぉ〜?
       死んで?ね?それが1番良いよ。私とツンちゃんにとって 」

その狂った言動を聞いてもツンは動じない。
却って冷静になる自分に驚く。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/30(日) 21:34:40.80 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「実際にここまで歪んだ人間を見ると現実味が無いわね。
       友達だったのに何も感じないわ 」


ツンが両手を大きく広げる。



―――最初に感じたのは熱だった。



膨大な熱量が肌を焦がす。
同時に室内が炎の赤に照らされた。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/12/30(日) 21:36:30.81 ID:QWohf3920

炎はカーテンのようにツンと渡辺の周囲を囲い、2人はヒートと炎の赤壁によって完全に分断された。

ノハ;゚听)「熱っ!!」

从;’―’从「何なの、これは?」

炎のカーテンの内と外。
突然訪れた想定しなかった事態に、ヒートと渡辺はそれぞれ驚愕する。

ツンは咆哮の様な溜息を1つ。
そして自分と渡辺を囲んでいた炎を納める。
上手く逃げてくれたのか、ヒートの姿は既に室内に無い。

人差し指を立てる。

一瞬の爆音と共にそこに灯る1つの灯火。
小さいが、周囲の温度を急上昇させるその強烈な熱を弄びながら、ツンは渡辺に叫んだ。


12 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:38:28.55 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「私戦うの初めてだから、怪我させても悪く思わないでよねっ!!」




        ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十七話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録―――

 
              〜その3、真心〜


15 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:39:32.35 ID:QWohf3920

一方その頃―――

∧_∧
(*゚;;-゚)「おうおう、そのような馬面に成り下がりおって、哀れなものよのぅww。
     で、鬼よ。ワシを食らうか?責め苛むか?それとも血の池地獄に放り込むか?」

でぃはどう好意的に解釈しても頭脳がマヌケに見える鬼を、からかって楽しんでいた。
単純な脳細胞でも、自分が馬鹿にされている事くらいは理解出来るようだ。

( ゚∋゚)「お、おま、え、ぇ、ぇ、ぇ、ぇ、ぇ、ぇ、!!あ、あの、の男の臭い、臭い臭い、がするスルスルスルぞ!!
     コートの男!!コッ、コ、コ、コートのぉぉ、おぉぉぉぉとぉぉぉぉこぉぉぉぉぉ!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「コートの男?知らんな 」

( ゚∋゚)「ししし知て知て知てってる!!お前、は、知ってる!!知、知、知!!」

酷い臭いのする口を大きく開け、鬼はでぃと『コートの男』を関連付けようとする。
怒りと共に鬼の吃音は激しくなる。

最初は楽しんでいたでぃも、次第に不快に感じるようになっていた。


18 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:41:08.90 ID:QWohf3920

コートの男、コートの男、コートの男・・・・・・


コートの男!!コートの男!!コートの男!!

∧_∧
(*゚;;-゚)「黙れ。話が噛み合わぬ。それに臭い。
     ワシは高貴な猫又でな、己のような不潔で下賤で愚かで無能で不潔な輩は本来口もきけぬのじゃぞ?
     この一時の逢瀬を存分に感謝し……」

その猫又はとうとう痺れを切らした。
嘲り笑うような口調は、もう完全になりを潜めてしまった。
背中の毛を逆立て、二又に別れた尾を普段の何倍にも膨らませ、白く鋭い牙を剥いた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「滅びるが良い!!来世は人に迷惑を掛けぬよう、小鳥にでも生まれ変わるのじゃな!!」



大妖怪が宣告したのは滅びの運命だった・・・・・・・。




     ・     ・     ・     ・     ・


20 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:41:59.38 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・


从#’―’从「はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」

両手を膝に付き、肩で息をする渡辺。
圧倒的熱量の前に身を晒しているため、何もしなくても全力で走る事と大差無い程に体力を消耗している。
それを見下ろすのは、この熱の中、凍りつく程に冷たい眼差しのツン。

ξ゚听)ξ「もう終わり?あっけないのね 」

从#’―’从「うるさいっ!!ウルサイ、ウルサイ、ウルサイッ!!
         何なのよっ!!私にはこんなに凄い力があるのよ!?
         私に屈しなさいよ!!この私が好きだって言ってやってんのよ!?」

軽蔑されている。
大好きなツンに。
その事実は渡辺を激しく苛立たせ、暴言の類の言葉を浴びせる。
絶対だと思っていた自分の力が、ツンには一切通用しない事もそれを助長した。


23 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:43:11.31 ID:QWohf3920

しかし当のツンは、その言葉に全く動じる事なく、目を閉じて首を振る。
うんざりしている、とでも言うかのように。

ξ--)ξ「あーあーあーあー。何言ってんのこの馬鹿は…… 」

从#’―’从「バッ……!!」

ξ#゚听)ξ「馬鹿に馬鹿って言ってんのよ!!悪い!?」

从;’―’从「え……なに……?」

ツンが声を張り上げると、皮膚を焦がしていた炎が突然消えた。
突然頬を撫でた冷たい空気に渡辺は困惑する。

ξ゚听)ξ「この力を恐れて私が自分の殻に閉じこもってた時、救い出してくれた人がいたの。
       その人は私にこう言ったわ 」

ツンの口調が変わった。
小さな子供に言って聞かせるような優しい口調に。
ツンは柔らかい表情で両手を胸の前で組む。
胸の中にある大切な言葉を慈しむように。


25 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:45:05.04 ID:QWohf3920

ξ--)ξ「『力の持ち主には責任があるんだ』って。
        だから『力がある事を自分で認めてコントロール出来るように練習するんだ』って。」

優しい表情は意識したわけではない。
しかし、ツンはこの言葉を思い出すとき、本人も知らないうちにそう言う顔をする。
言った本人を思い出すからだ。

ξ゚听)ξ「私の中で今1番大切な言葉になってるわ。
      力を持ったからってそれをこれ見よがしに使うなんて、馬鹿の他に言い方なんてないわ。
      ……こんな風にねっ!!」

ツンが言葉に力を込める。
禍々しい、紅蓮の炎が視界を覆い尽くしたのはその瞬間だった。

見ている世界が炎に染まる。
今までにツンが見せていた炎とは明らかに異なるその火炎。


――本気になった阿修羅の業火


渡辺を焼き焦がさんと赤い舌を伸ばす。


28 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:46:38.16 ID:QWohf3920

从;’―’从「あ……あ……」

ξ゚听)ξ「どう?怖いでしょ?アンタの力がどれだけちっぽけか分かる?」

ツンは腕を組んだまま動こうとしない。
この灼熱の中にあってツンの視線だけは変わらず冷たい。

从;’―’从「ひっ、ひぃっ!!」

渡辺は恐怖した。
ツンが表情を変えず1歩ずつ自分に近づいてくるからだ。

ツンも炎も見るのが怖い・・・・・・。
渡辺は目を瞑るしかなかった。

それでも感じる。

炎の中でも感じる。

手の届く距離にツンが近づいてきてしまった事を・・・・・・。


30 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:48:23.21 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「でもね、私はもっと怖い。アンタが怖いと思ってるのよりずっとね。
       この力がいつ暴走して、私の大切な人達を襲うかって思ったら……」

固い何かが額に軽く当たった。
それと同時に、おぞましい程に身を包んでいた高温が引く。

从;’―’从「ふぇ?」

ξ゚ー゚)ξ「だから練習してんのよ。アンタのやった事は許されることじゃない。
      でも過ちは直せばいいじゃない。アンタラッキーよ。そういうのに詳しい人知ってるから 」

恐る恐る目を開けた渡辺は、自分の額を小突いた物がツンの握り拳だった事に気付いた。
そして顔のすぐ近くにあるツンの笑顔を見た。

从 ― 从「私を許してくれるの?」

ξ゚ー゚)ξ「えぇ、いつかはね 」

ツンの顔には屈託のない笑顔が浮かんでいる。
渡辺が心から憧れた、誰をも惹き付けて止まない笑顔だ。


32 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:50:06.82 ID:QWohf3920

从 ― 从「また私を好きになってくれる?」

ξ;゚ー゚)ξ「ま、まぁ、友達として、ね 」


―――最初は憧れていただけだった。
     いつも人の中心にいたツンを、遠巻きに見ているだけで満たされた。
     それで充分だった。


从 ― 从「それじゃ……駄目だよ……」

ξ;゚听)ξ「え?」


34 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:50:29.01 ID:QWohf3920

―――しかしいつの頃からか渡辺の心の中に芽生えた感情。
    ツンに対する恋心。
     芽吹いたその感情は、瞬く間に大木となり、さらに深く広く根を張った。


从 ― 从「それじゃ駄目だって……」


―――その感情は許さない。


从゚―゚从「言ってんのよぉぉぉぉぉー―――――!!」     

ξ;><)ξ「きゃぁー―――――っ!!」





―――ツンに自分の物になる以外の選択を許さない―――





     ・     ・     ・     ・     ・


36 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:51:13.25 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

高校の敷地の外。
つまり地獄の外側。
1人の男が上機嫌でワルツのようなステップを踏んでいる。

( <●><●>)「クククククww。くるくるくるくるww」

軽快で優美、そしてそれを踊る本人は心から楽しんでいる。
しかし、もしこのダンスを見るものがいるとしても、とても楽しい気分にはならないだろう。

( <●><●>)「そろそろ私が植えた魔の種、発芽する頃でしょうか。クククククww」

本人だけは何よりも楽しそう笑う。

( <●><●>)「くるくるくるくるww。ふふふふふww」

パートナーは闇。
男は闇を腕に抱き旋回する。

( <●><●>)「あれだけの苗床に植えた種です。さぞかし綺麗な芽が出たでしょう」


39 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:52:42.35 ID:QWohf3920

不意にステップを止め、目を細める。
そして咲き誇るであろう花に思いを馳せる。

闇の花、魔の花に。

( <●><●>)「ふふふふふww、ふふふふふふふふふふww」

凍てつくような笑みと共に、再び始まる男の輪舞。
月下の怪人は、愉悦に染まる笑い声を上げた。

( <●><●>)「もしかしたら阿修羅を食うかも……。
         どっちにしろ面白い事になるのは分かっていますよ。ククククククww」

くるくるくるくる……







狂 狂 狂 狂 ……





     ・     ・     ・     ・     ・


42 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:54:29.68 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

ノハ;--)「・・・・・・」

ξ;゚听)ξ「ヒート!!」

ツンは突き飛ばされた先で、砕けた自分が立っていた場所、そして自身に突進してきたヒートを交互に見た。
全力で駆けつけ、見えない力からツンを守ったヒートは、倒れ込んで目を瞑ったまま動かない。
ツンは即座に駆け寄り膝に抱え上げる。

ξ゚听)ξ「良かった、気を失ってるだけだわ。それにしてもまだ逃げてなかったなんて、この子は……」

ツッ、っと頬を汗が流れ落ちる。
ツンが感じる威圧感。圧迫感。

ξ;゚听)ξ「問題はこっちね 」

从#゚―゚#从「あ、あ、あ……、あぁぁぁぁぁぁー――――っ!!」

形相は一変。
額にはメロンの筋のように無数の血管を浮かべ、焦点の定まらない瞳は裏返り白目を剥いている。


それでも自分を見ている事は認識できた。



44 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:55:47.99 ID:QWohf3920

ξ;゚听)ξ「どう見ても正気を失ってる。さて、最悪の事態が訪れちゃったみたいね 」

从#゚―゚#从「気゛持゛ち゛イ゛イ゛ー――――っ!!」

ξ゚听)ξ「意外ね、意味の通じる言葉を喋ったわ。お陰で状況は良くないって事がハッキリしたわね 」

从#゚―゚#从「清゛々゛し゛い゛気゛分゛。気゛分゛そ゛う゛か゛〜い゛」

不自然に痙攣する渡辺。
その部屋――家庭課室の備品が次々と折れ曲がり、破裂し、砕けていく。
その都度上がる渡辺の狂気を孕んだ歓声。

ξ゚听)ξ「あの子の中で、急に何かが弾けるのを感じたわ。原因はそれかしら?」

渡辺の暴走を冷静に分析しようとするツン。
不意に渡辺の痙攣が止まる。

次の瞬間、不自然に体を捻り、ツンを白目で見据えた。


47 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:57:32.96 ID:QWohf3920

从#゚―゚#从「ツンちゃ〜ん。ふふっ、ふふふふふふふ!!好きよツンちゃん!!」

ξ゚听)ξ「焼き殺すのは簡単だろうけど……」



―――それでは納得がいかない。ツン自身がだ。



ξ゚听)ξ「オーケー、助けてあげるから!!」


     ・     ・     ・     ・     ・


49 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 21:58:56.30 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

大袈裟な振動と共に崩れ行く巨体。
至る所から血を噴き出し、骨は折れ、内臓が損傷している。
満身創痍の鬼は、息1つ切らさず、余裕で欠伸を1つかましている小さな黒猫を信じられぬ思いで眺めていた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ふむ、鬼というものは何ともしつこいのぅ。これだけ切り刻んでやったのにまだ生きておるのか 」

( メ∋;’)「ぷ……げ……」
∧_∧
(*゚;;-゚)「この者も苦しかろうがのぅ。何故じゃろう?なぜ楽になろうとせぬ?」

( メ∋;’)「が……ひゅぅー、ひゅー 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「何じゃ?しっかり喋らんか 」

( メ∋;’)「ひゅー、ひゅー、ひゅー……」

空気が狭い管を通り抜けるような音。
鬼の口から聞こえるのはそれだけで、拙いながらも発していた言葉が出ない。


52 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:00:16.76 ID:QWohf3920

∧_∧
(*゚;;-゚)「あぁ!!そうじゃった、そうじゃった!!」

必死に何かを訴えようとする鬼を見て、でぃは遂に察し、ニィッと笑った。
鬼の咽喉を見る。
内側の気道まで深く抉られた真っ赤な傷口が、ぽっかりと穴を開けていた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「己の咽喉はさっきワシが食い千切ってやったんじゃったなww。
    すまんすまん。喋れる道理がなかったのぅww」

( メ∋;’)「がぼぉっ!!ガボガボガボッ!!」

傷を負わせた当事者の理不尽な物言い。
鬼は怒りに狂い猛烈な突進を見せる。

その1歩は床を踏み砕き、その猛進は空間を震わす。
自らの流血で通った道を黒く染め、食い破られた咽喉からは、声の代わりに血飛沫が上がる。
満身創痍の鬼は、その力の全てをたった1つの目的の為に突き進む。




――しかしその対象は悠然と笑う。





54 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:01:24.18 ID:QWohf3920

∧_∧
(*゚;;-゚)「見上げたものよ。そのような体になって尚ワシに立ち向かおうとは。じゃが……」

( メ∋;’)「っっ!!」

咆哮一閃。
小さな黒猫の体から発せられた雄叫びが持つ力は、鬼に猛進を躊躇させる。


気が付くと鬼は顎を上げていた。

目を大きく見開いた。

1歩足を下げた。


―――そして振り向いて逃げ出した―――


猫又の首には堂々たる漆黒の鬣が生え揃い、その四肢は力強く、爪は長く鋭く、その眼光は滔々と光を宿す。

∧_∧
ミ*゚;;-゚)「 ど こ へ 行 く ?」


56 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:02:39.65 ID:QWohf3920

そしてその体。
巨大にして強大。
さらに全身の毛を殺気と共に逆立て、はち切れんほどに膨張している。
廊下の天井を突き破る程に巨大化した猫又。


この世のあらゆる猛獣を遙かに凌いでなお余りある妖獣がそこに現れた。


逃げ出した鬼の背中にでぃが叫ぶ。

∧_∧
ミ*゚;;-゚)「身の程知らずの畜生めが!!このワシを何と心得る!?悠久を生きる猫又ぞ!!」

でぃはその場から1歩も動かずに、前足だけを伸ばす。

長い―――、長い長い長い長い。

巨大な体躯のでぃの規格外のリーチは、逃げる鬼の背中を捉える。
そして・・・・・・

( メ∋;’)「ぷぎぇっ!!」

潰した。

単純に、

造作もなく。


58 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:03:14.19 ID:QWohf3920

∧_∧
ミ*゚;;-゚)「1000年早かったのぅ、小童!!ww」

ニヤリ、としたり顔で笑い飛ばすでぃ。
途端にシュルシュルと縮み始め元のサイズになる。
たった今までそこに巨大な獣が居たことなど夢か幻のようだ。

満足そうに目を細めるでぃ。
ふと1つだけ疑問に思い物思いに耽る。

∧_∧
(*゚;;-゚)「それにしてもこれ程の深い恨みを買うとは。コートの男のぅ……、酷い奴じゃろのぅ。
    ん?そう言えばウチのドクオはコートを着ておった様な気が……」
∧_∧
(*゚;;-゚)「いや、ドクオは違うな。アレはまだまだ修行中の身じゃ。
     こんな大それた事は出来ぬ……よな?」

     ・     ・     ・     ・     ・


60 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:05:45.98 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

从#゚―゚#从「あはははははっ!!好きっ!!好き好きすきすき!!スキスキスキスキ……」

ξ゚听)ξ「可哀想……。やるせないわ。曲がりなりにも私を好きだって言ってた子が…… 」

家庭課室のツンは机を横に倒し、その後ろで様子を伺っていた。
調理用に誂えられた机は、その大きさ故に今の所は格好の盾となっていた。
ツンは気を失ったヒートをそこに引っ張り込んでいる。

ξ゚听)ξ「それにしても何なのかしらね……。この力はっ!?」

机の淵から少しだけ顔を出し、慌てて引っ込める。

ξ゚听)ξ「見えない力に押し潰されてるような……。何か飛ばしてるの?」

試しに、粉々になった何かの残骸を空中に巻き上げる。

ξ゚听)ξ「うわっ!!いきなり花瓶が砕けた!!でも軌道上には何も通ってない……?」
      これは映画とかでよくある……おっとっ!!」

粉塵には一切構うことなく、すぐ傍の花瓶が破壊された。
飛び散った破片がツンに降り注ぐ。


62 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:07:36.89 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「『サイコキネシス』ってヤツかしら?見えないのは厄介ね……」

信じ難い事であってもそれを受け入れなければならない。
そうでなければ自分が死ぬからだ。
ツンは渡辺の力を念力だと結論付け、更なる考察に進む。

ξ゚听)ξ「……?ちょっと待てよ……。見えないのにヒートはどうして私を庇えたの?」

と、いう事はつまり・・・・・・

ξ゚听)ξ「見える何かが……ある?」

ノハ;--)「・・・・・・」

ツンは依然として意識を取り戻さないヒートを見る。

ξ゚听)ξ「ヒート、アンタ一体何を見たって言うの?」

ツンは手鏡を取り出し、渡辺の様子を伺う。
当の渡辺はケタケタと笑いながら破壊に興じていた。

64 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:08:35.95 ID:QWohf3920

从#゚―゚#从「フフフフフフフフフフフフッ!!フッ!!フフフッ!!」

ξ゚听)ξ「あの顔……」

その時――

ξ゚听)ξ「血管が一瞬大きく浮かび上がる!!タイミングはこれね!!」

力むように笑い声が途切れる瞬間、事実力んでいるのだろう。
一際強く顔面の血管が浮き出た瞬間に、対象の何かが破壊される。

ξ゚听)ξ「そして……」

更にもう1つの事実に気づくツン。

从#゚―゚#从「ツンちゃぁ〜んww。出ていらっしゃぁ〜いww」

ξ゚听)ξ「自分が見てる物にしか、力をぶつけられないみたいね 」


67 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:10:42.73 ID:QWohf3920

その事実は、机の後ろに隠れている自分達に直接被害が及んでいない事からも裏付けされた。
ツンはもう1度、傍らのヒートを見る。

ξ゚ー゚)ξ「愛してる愛してるって普段は鬱陶しいけど、いざという時には助けてくれたわね、ヒート 」

ノハ;--)「・・・・・・」

依然として目を覚まさないこの親友に、ツンは感謝の念を込めて微笑んだ。

ツンは目を瞑り、自分に言い聞かせる。

ξ--)ξ「私の炎は阿修羅の炎。全てを焼き尽くす地獄の業火。でも……」

ξ゚听)ξ「聞いてる、私の中の阿修羅!?アンタ炎に関しては誰よりも凄いんでしょ!?」

ξ゚听)ξ「だったら……。だったら、燃やしたいものだけ燃やす事くらい簡単よね!?」

ツンは微かに記憶の中でに鮮明に残る事柄を思い返す。
かつて阿修羅に支配されそうになったとき、自分が救われた瞬間を。


69 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:12:09.94 ID:QWohf3920

ξ--)ξ「うっすらと覚えてる……。ブーンが私を助けてくれた時、阿修羅だけを攻撃したあの法力 」

決意と共にすっと立ち上がる。
その視線は、狂気に歪む渡辺の姿を見据える。

ξ゚听)ξ「私にも出来る!!今助けてあげるからねっ、渡辺さん!!」

从#゚―゚#从「やっと出てきてくれたぁ〜♪」

直接視界の中に映った渡辺は、これまで以上に禍々しい形相をしている。
顔に浮いた血管は所々ボコボコと浮き沈みしている。
真っ赤に茹で上がってしまったかのような顔色で、渡辺は狂った理論を展開した。

从#゚―゚#从「もう〜、だ〜い好きよぉ〜。そうねぇ、まずは可愛いお洋服に着替えさせてあげる。
       一緒にお風呂にも入りましょうねぇ。その前に殺してあげなくちゃ。
       1人で歩いて行ったりしたら大変だもの。
       嬉しいでしょ?ツ゛ン゛ちゃ゛ぁ゛〜ん゛ 」


71 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:14:03.36 ID:QWohf3920

それを見て、ツンの中では静かにある感情が生まれた。

怒り。

それを遙かに超える激怒。

その対象は決して渡辺自身ではない。

ξ#゚听)ξ「どこのどいつか知らないけど、私の友達に手を出してくれちゃって、もぅっ!!」

そして名乗り上げる。

ξ゚听)ξ「内藤退魔師事務所、退魔師見習いツン。初仕事にしちゃ少々ヘビーだけど……」

勝手に自分で付けた肩書だが、ここにはそれを咎める者はいない。
例え彼らがいたとしても、笑って許してくれるだろう。

ξ゚听)ξ「助けてあげる。ちょっとだけ熱いわよ!!」


74 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:17:03.46 ID:QWohf3920

ツンは右手を顔の前に挙げた。
途端に上がる室内の温度。

从#゚―゚#从「ツンちゃん!!ツンちゃんツンちゃんツンちゃんっ!!」

渡辺の、のぼせてしまったように真っ赤な顔面が歪む。
口から白い息を吐く。
冷気に触れて変色した息ではなく、明らかに蒸気。
過剰に力を使ったことで体内がオーバーヒートしているように見えた。

ξ゚听)ξ「見せてあげる・・・・・・」

ツンの右手に炎が宿る。
そしてそれを力任せに、床に叩き付けた。

ξ゚听)ξ「私の炎を!!」


75 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:18:46.39 ID:QWohf3920

炎が床に触れた瞬間、強烈な爆音。

まばゆい程の発光。

身を焦がす熱。

そこから火柱が噴き上がる。
1本の火柱は2本目の火柱を生み、そして3本目の火柱が渡辺に届く。

从#゚―゚#从「GYぃぃぃぃぃぃYAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!!」

耳を劈く悲鳴。
火柱の中からおぞましい大絶叫が聞こえる。

ξ゚听)ξ「・・・・・・」

ツンは黙ってそれを見つめていた。
手を離れた炎は、ツンの意思をくみ取り望んだように相手を焼く。
渡辺の髪や皮膚、その衣服は燃えてはいないように見える。

それでも苦しむ渡辺。
渡辺の中の決定的な何かを、ツンの炎が焼いている証拠だった。


77 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:20:30.46 ID:QWohf3920

ふと炎の中の渡辺が押し黙った。
すがるような目付きでツンを見る。
その表情は落ち着き、目からは涙を流している。

从;ー;从「やめ……て……。熱いよぅ……」

ξ;゚听)ξ「渡辺さん!!帰ってきたのね!?」

それを見てツンは炎を解放しようとした。

しかし!!

ノパ听)「ダメよ、ツン!!そいつはまだ、渡辺さんじゃない!!」

突如としてヒートがツンの腕を掴む。
ハッ、と思い直し炎の解放を今一度思い留まるツン。



その瞬間・・・・・・



从#゚Д゚#从「GEHYAAAAAAAAAAHHHHHHH!!」

渡辺は再び醜悪に表情を歪め、憎悪と愛情と苦しみの込められた悲鳴を上げた。


81 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:24:47.86 ID:QWohf3920

ξ;゚听)ξ「危なかった……。助かったわ、ヒート!!」

完全に気を許しそうになっていたツンは、背筋に冷たいものを感じ思わず身を震わせた。
恐怖の中、無理やり身を奮い起していたのだろう。
ヒートはその場に座り込んで、か細い声を出した。

ノパ听)「ツン……。助けてあげて……」

ツンは改めて思い直した。




 渡 辺 は 自 分 の 手 で 救 う と 。




ξ゚听)ξ「渡辺さん……。今からでもやり直せるわ。きっとよ……」

ツンはもう1度腕を振る。
一筋の炎が火柱に向かう。

願いを……、友人を救うという願いを込めた炎が煌々と燃え上がった。

     ・     ・     ・     ・     ・

84 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:25:41.46 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

ノハ--)「・・・・・・」

从-―-从「・・・・・・」

高校は穏やかな夜を取り戻した。
窓の外の瘴気は消え、代わりに暗いいつも通りの闇が見える。
その何の変哲もない闇が、今はどこか懐かしさと愛おしさを感じさせた。

ξ;゚听)ξ「ハッ、ゼェッ、ハァッ、ゼェッ―――!!」

片膝を付き、額に玉のような汗を浮かばせたツンの肺は、呼吸を整えようと躍起になっていた。
そこにスルリと小さな黒い毛玉が近付き、トンとツンの膝の上に軽く前足を乗せた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ツン、中々やるのぅww」

ξ゚听)ξ「どんなもんよ、現世に戻ったわ。鬼の方はどうだった?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「余裕じゃ余裕。ワシを何と心得る?悠ky―――」

ξ゚ー゚)ξ「『悠久を生きる猫又ぞ』、でしょ?分かった分かったww」


88 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:26:56.34 ID:QWohf3920

幾分か呼吸も楽になり、ツンは笑った。
それを見たでぃは満足そうに尻尾をツンに絡ませた。

不意にツンは沈んだ表情を見せる。

ξ゚听)ξ「いっぱい、死んじゃったね……」

涙は見せないが、最上級の悲観が声に込められていた。
ふと、思い出したかのように呟く。

ξ゚听)ξ「でもどうしてヒートだけ体育館に行かなかったのかしら?」

地獄落ちを引き起こした当事者である渡辺は分かる。
しかし、一介の少女であるヒートが何故生き残ったのか。

∧_∧
(*゚;;-゚)「これは推測じゃが……」

その推測に100%の自信が持てないのか、でぃが重そうに口を開いた。


91 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:28:39.54 ID:QWohf3920

∧_∧
(*゚;;-゚)「この娘、お主を好いて付き纏っておったじゃろう?
     阿修羅の力を日常的に近くで受け続け、意識せずとも魔への耐性が出来ておったのじゃろう 」

ξ゚听)ξ「知らないうちに助けてたって事?……でも他の子達は……」
∧_∧
(*゚;;-゚)「何を言うか。お主がおらねばこの2人も死んでおった。
    守れなかった命を悔やむより、救った命を誇りに思え 」

それはツンの心の奥底に重く沈んだ暗い気持ちを、幾分か和らげる言葉だった。
自分が生きている事に、多少なりとも負い目を感じていたのだ。

少しだけ口元が綻ぶ。

ξ゚ー゚)ξ「……うん。ありがと 」

( <●><●>)「その通りですよ。まったく、私の魔を巣食わせた人間を殺さずに、ましてや救ってしまうとは。
        流石は阿修羅の力……。
         あわ良くば食えるかも、とも思っていたんですが……。浅はかでしたww」
∧_∧
(*゚;;-゚)ξ゚听)ξ「「っ!?」」


92 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:30:47.59 ID:QWohf3920


唐突・・・・・・。


いつ入ってきたのか全く気付かなかった。
でぃの鼻にも何も臭わなかった。
気配さえも感じなかった。


今入ってきたのか?

まさか最初からそこにいたのでは?


半分闇に溶け込んでいるかのような、本当にそこにいるのかすらも疑わしい存在感を持つ男。
実際に目の前にしても、その気配は霧に包まれているかのようにハッキリしない。


闇よりも暗く、奈落よりも底の深い瞳の男が、じっとツン達を見つめていた。


94 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:32:29.98 ID:QWohf3920

( <●><●>)「そう怖がらずに。連れて帰れとの命令ですが……、今日はお顔を拝見するだけです。……おや?」

ツンから足元の猫に視線を移す男。
そこにいる者を見て何かに気付く。

ゾワリと全身の毛を逆立て、大きく開いた眼の瞳孔は、縦の一本線に縮まってしまった黒猫。

∧_∧
(*゚;;-゚)「キ……サ……マ……!!」

( <●><●>)「ふふっ!!ふふふふふふふっ!!お前が阿修羅に憑いているとは!!
        運命とは面白い!!実に面白い!!この私をして読めぬとはね!!」

ξ;゚听)ξ「でぃさん?」

お互いを知っているかのような物言い。
ツンは気押されながらでぃの名を呼ぶ。
でぃは、ツンが今までに見た事のない程に、怒りを露わに全身を震わせていた。


95 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:34:47.10 ID:QWohf3920

∧_∧
(*゚;;-゚)「白々しいぞ!!貴様の……、貴様のせいでワシは……!!」

( <●><●>)「恨みは晴らしただろう?……2度も 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「今すぐ3度目を受けよ!!」

有無を言わさず飛びかかるでぃ。
ツンの目に映ったのは、黒い線が空間を駆け抜けていった様だけだった。


その線の最先端が、男の喉元に届こうとしたとき・・・・・・


( <●><●>)「小賢しいな……」

男は無造作に左手を翳した。

そこで黒い線は止まる。
線は尾を縮め、1匹の黒猫に変わった。


97 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:36:30.53 ID:QWohf3920

黒猫、でぃが喰い付かんと飛びかかった顎先に翳された男の左手。

でぃの鼻先と男の左手の間には空間があった。
その空間には不気味に渦巻く黒い気体のような物が浮かんでいる。
その黒い何かが、でぃの突進を抑え、今もなおその小さな体を空中に留めている。


男は無言で1度開いた掌を閉じ、直後に弾けるように開いた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ギャウッ!!」

ξ;゚听)ξ「でぃさんっ!!」

その瞬間、でぃの鼻先にあった物は急激に弾け、でぃを強烈に弾き飛ばした。

( <●><●>)「これは失礼。そこの猫又から身を守るために仕方がなかったのです。
        あなたに危害を加えるつもりは毛頭ありませんよ。……今はね 」

ξ;゚听)ξ「あ……あ……」

衝撃で力無く横たわるでぃは眼中にないかのように、ツンの横を通り過ぎる男。
ツンは為す術もなく言葉にならない声を出した。


99 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:38:55.15 ID:QWohf3920

男は渡辺を造作もなく持ち上げ、肩に担いだ。

从-―-从「ん……」

( <●><●>)「この娘は貰っていきますよ。中々に面白い素材でね。手放すのは少々惜しい……」

元々薄かった気配がさらに薄くなる。

渡辺が連れ去られる。

ツンの脳はそう認識した。
次の瞬間、今まで働かなかったツンの声帯が大きく震えた。

ξ#゚听)ξ「待ちなさいよ!!させないわ!!」

その声を聞き、以外だ、とでも言いたげに男はツンの顔を見た。
しかしその顔は、ツンの勇気を嘲笑う不敵な笑みを浮かべていた。

( <●><●>)「ふふふ……。本当に可愛らしいお嬢さんだww。
         でも分かってますよ。貴女に余力は残っていない。……それに 」

男はツンの足に視線を下げる。

( <●><●>)「足が震えていますよww。私が怖いですか?ww」


101 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:41:34.11 ID:QWohf3920

男の口元が左右に大きく伸びた。
しかしその両眼は、変わることなく見開いたままだ。

( <●><●>)「私は『ワカッテマス』。もっとも、今そう名乗っているだけですがね。
         そこで伸びている猫にもよろしくお伝えください 」

男が名乗ったその名を、ツンは一生忘れられないだろうと思った。

( <●><●>)「阿修羅。いずれ『パンゲア』は貴女を迎えに行く。その時まで御機嫌よう 」

そして今度は完全に闇に溶け込んでしまった。
ツンの目の前で渡辺諸共。

ツンの耳にはワカッテマスの嘲笑だけが残った。

握りしめた拳を力任せに床に叩きつける。

ξ 凵@)ξ「ク……」

もう1度、更にもう1度。
ツンの小さな拳が何度か床を叩いた後、感情のやり場を見失ったツンは叫んだ。

ξ;凵G)ξ「くそぉぉー――――!!」

     ・     ・     ・     ・     ・


103 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:43:08.60 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・

(´・ω・`)「出来れば、土産話に花を咲かせたかったんだがな 」

ξ゚听)ξ「うん。私もM王町の事、本当は聞きたかったわ 」

事の次第を説明し終わったツンに対し、ショボンが言った言葉はこうだった。

( ^ω^)「・・・・・・」

('A`)「チッ……」

(´・ω・`)「M王町に続き、ここ二経路市でもか。パンゲアの動きが活発になってる 」


パンゲア・・・・・・


ブーンとドクオがつい最近まで知らなかったこの言葉は、2人にとって早くも日常に溶け込もうとしていた。
もっとも、出来ることなら受け入れたくはない存在ではあったが。


108 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:46:33.20 ID:QWohf3920

( ^ω^)「ショボン。奴らの目的は何だお?」

(´・ω・`)「分からん。奴らが狙ったのは、黄泉路を開く鍵『エイジャの赤石』。煉獄の魔王『阿修羅』。
       これだけでは何とも……」

(#'A`)「んなもん予想したって意味ねぇぜ!!」

埒の明かない議論に声を荒げるドクオ。
そして表情を満面の笑顔にして続けた。

('∀`)「ウチの大事な姫さんを泣かせたんだ。ムカつくからぶっ潰す!!それだけだろ?」

( ^ω^)(´・ω・`)ξ゚听)ξ「「「キメェwwww」」」

(;'A`)「ちょ、ツン!!お前もかよ!?」

笑顔が瞬時に引き攣る。
ドクオとしては「少し臭い位のセリフを言えば感動を誘えるんじゃないかな」と思っていた。
しかしコイツラにそんなお涙頂戴劇は効果は無い。


109 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:48:14.14 ID:QWohf3920

(´・ω・`)「だが良い事も言ったな、ドクオ。概ね同意だ 」

(#^ω^)「ムカつくからぶっ潰す!!普段は温厚で大人なブーンさんだけど、久々に頭に来てるお!!」

ξ゚ー゚)ξ「ありがと。ドクオさん 」

ツンの顔に笑顔が浮かんだ。
これを見てドクオは思わずニヤケそうになる顔を、慌てて引き締めた。

(*'A`)「へっ!!良いって事よ!!」

そしてもう1つの存在も、のそりと歩み出す。
負傷した体を心無しか重そうにしている黒猫。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ワシも手を貸そう 」

(´・ω・`)「ほぅ……、面倒臭がりのあなたが。これはどういう風の吹き回しかな?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「茶化すでない。それに面倒臭がりはお主も同じじゃろう?」

(´・ω・`)「ふっww。これは1本取られたかな?」


113 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:49:33.49 ID:QWohf3920

ニヒルに笑うショボン。
その顔はでぃに話の続きを促す。

∧_∧
(*゚;;-゚)「あの男……。今はワカッテマスと言ったか。あれはな、ワシの最初の主人じゃった 」

( ^ω^)「最初の?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「うむ。ワシがただの猫だった頃の話じゃ。遠い昔の話よ 」

知らない間にパンゲアとの繋がりがそこにあった。


――唐突に舞い込んだM王町の以来。


――阿修羅ツン。


――そして猫又でぃ。


短期間での3つの接点は果たして偶然なのか。
ブーンは、これらの繋がりから運命めいた何かを感じつつあった。


115 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:50:33.85 ID:QWohf3920

思考に入り、言葉を発しなくなってしまったブーンの代わりに、ドクオがでぃに聞く。

('A`)「何があったんだ?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「いずれ話す事もあろう。1200年の因縁じゃ。長くなろうがな 」

今はまだ話す気にはならない。
でぃの言葉の節々からは、そのような意思を自然と感じ取ることができた。


押し黙ったまま、それぞれ思い思いに考えを巡らせている。
そんな中、第一声を発したのはブーンだった。

( ^ω^)「ツン、ちょっといいかお?」

ξ゚听)ξ「え?うん……」

ブーンはツンを促し、バーボンハウスの外に出る。
大人しくツンはそれに従った。

     ・     ・     ・     ・     ・


118 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:52:21.77 ID:QWohf3920

     ・     ・     ・     ・     ・


( ^ω^)「ツン。僕はM王町でパンゲアのヤツらと戦ってきたお 」

ξ゚听)ξ「うん、聞いたわ。大変だったんでしょ?」

言葉を選び選び、話を始めるブーン。
ブーンはどこか気落ちしているように見えるツンを、何とか元気付けたい一心だった。

( ^ω^)「僕達は慣れてるから……。初めてだったツンに比べたら、何て事は無いお 」

ξ゚听)ξ「本当に大変だったわww。アンタ達、いっつもあんな事やってたのね 」

( ^ω^)「おっおっおww。凄いかお?」

ξ゚ー゚)ξ「ふふっ。凄いわね 」

他愛もないブーンの強がりに、ツンは笑って答えてくれた。
しかしブーンにとってこれが逆に苦しい。


無理をしている・・・・・・


ブーンは改めてそれを確認した。


120 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:53:23.39 ID:QWohf3920

一方、バーボンハウスの入り口のドアの内側。
ぴったりと張り付き、息を殺して様子を伺っている2人と1匹。

('A`)( ちょっと押すなって!!バレるだろ!!)

(´・ω・`)( うるせぇぞ、チンピラ。お前、そこどけよ )
∧_∧
(*゚;;-゚)( やかましいぞお主ら!!ホレ、ワシを担ぎ上げんか!!)

('A`)( 猫が人間様の恋路を気にしてんじゃねぇよ!!)
∧_∧
(*゚;;-゚)( 言いおったな小僧!!そこに直れ!!成敗してくれる!!)

(´・ω・`)( しめしめww。スペースが確保出来たぞ。ナニナニ?)  くらえ〜  ぎゃぁ〜

ドクオが虐待されている隙に大きくスペースをゲットしたショボン。
悠然と外の会話に耳を澄ませ、わずかに開けたドアの隙間から視姦を開始する。


122 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:55:17.77 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「アイツ、また来るんだってさ。私を迎えに。どうしよう……、私、何も出来なかったよ……」

( ^ω^)「ツン……」

ツンの本音が垣間見える。
ブーンはただツンの名を呼びながら、ツンの気持ちを深く噛み締めようとした。

ξ )ξ「怖かったわ。本当に怖かった。だからアイツが居なくなった時、私、ホッとしたの……」

( ^ω^)「ツン……」

顔を伏せてしまったツン。
ブーンはツンの悲しみ、そして落胆の念を痛いほど感じる事が出来た。

ξ;凵G)ξ「友達が連れて行かれたのに!!いっぱい友達が死んだのに、私は助かったと思ってホッとしたの!!」

( ^ω^)「ツン。聞くんだお 」

顔を上げたツンの両目からは、真珠のような涙が零れていた。
それがきっかけだったのか、感情的に言葉を紡ぎ始めるツン。

内に秘めた力がどれだけ強大であろうとも、ツン自身は17歳の少女だ。
その小さな体に、一連の出来事はあまりにも過酷すぎた。


124 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:56:10.95 ID:QWohf3920

ξ;凵G)ξ「私っ!!私……」

両手で顔を覆い、泣き崩れてしまったツン。
ブーンはツンを包み込むように両手を拡げた。

(´・ω・`)。o ○(おぉっ!!抱きしめるか!?抱きしめるのか!?)   まだまだ〜  もう止め……

(;^ω^)「ツ、ツン 」

ξ )ξ「・・・・・・」

しかし広げた両手は閉じることなく、ブーンは固まってしまった。
ブルブルと頭を振り、意を決して、かろうじてツンの小さな手を両手で優しく覆った。

(´・ω・`)。o ○( チッ!!チキンのチェリーボーイめ )   ほれほれ〜   あれ?ばぁちゃん死んだはずじゃぁ……

あまりのヘタレっぷりに、ショボンの舌打ちが聞こえる。
その後ろでは、尊い1つの命がその役目を終えようとしていた。


128 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:58:19.43 ID:QWohf3920

( ^ω^)「ツン……、僕が戦ったパンゲアは強かったお。今まであんなに強い敵とは中々やる機会は無かったお 」

そして心持ち、強い口調で次の言葉を続ける。

( ^ω^)「でも勝ったお。僕も結構強いんだお 」

ξ )ξ「・・・・・・」

じっと聞いているツン。
ブーンは意を決し、ツンに対する心からの思いを伝える。

( ^ω^)「だからツン。もしパンゲアがツンを攫いに来たら、絶対僕が守ってやるお 」

ξ )ξ「本当に?」

( ^ω^)「本当だお 」



     『 僕 が 君 の ナ イ ト に な る 』



ブーンはこの言葉を、心臓が口から飛び出してしまいそうな思いで言った。
髪に隠れてツンの表情は見えない。
ブーンは自分の気持ちがどう伝わっているのか、それに対するツンの返事はどうなのかと気が気ではない。


132 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 22:59:27.01 ID:QWohf3920

ξ )ξ「何回も来るかもよ?」

( ^ω^)「100回来たら100回守るお!!」

ξ )ξ「アンタがいない時に来るかも 」

( ^ω^)「5秒で助けに行くお!!」

ξ゚听)ξ「まぁ、ショボンさんがいれば大丈夫ね 」

(;^ω^)「ちょww」

突然あっけらかんと言い放つツン。
あまりにも予想外な展開にブーンは戸惑う。



僕の気持は?



完全にスルーですか?



136 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:00:41.86 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「はぁー、そうだった。ショボンさんも、でぃさんだっているんだった。
       心配する事なんて特に無かったわね。さぁーて、中に入ろ 」

キュッ、っと背伸びをしてブーンに背中を向けるツン。
足は既にバーボンハウスの方へ向かっている。


取り残されたブーンは・・・・・・


(;^ω^)「えー――っ。僕、今かなり頑張ったやーん 」

ツンの背中を眺めながら軽く放心していた。

ξ゚听)ξ「ブーン、いつまで外にいんの?」

(;^ω^)「あ、今行くおー 」

煤i´・ω・`)。o ○(ヤベッ!!戻ってくる!!ん?ツンのあの顔……)

帰ってくる2人を見て、慌ててその場を離れようとするショボン。

そういえばそろそろドクオを助けてやらないと可哀相なことになるな。

そう思いながら最後にチラッと見たツンの顔。
ショボンは『ニヤリ』と笑うと、ドクオの救出に向かった。


140 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:02:16.20 ID:QWohf3920

ξ゚听)ξ「・・・・・・」













ξ゚ー゚)ξ









145 名前:十七話 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:04:42.01 ID:QWohf3920

        ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十七話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録―――

 
                〜その3、真心〜終


                    第一部・完
  

148 名前:元ネタ解説 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:05:38.37 ID:QWohf3920
元ネタ解説

馬頭……
牛の頭をもつ鬼、牛頭とセットになっている。
死にかけた人間や、葬儀後、極楽浄土へ登ろうとする魂を攫い地獄に連れ去る。
その際、魂の護送車として使用するのは『火車』。


152 名前:元ネタ解説 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:08:18.50 ID:QWohf3920

実は黒幕が渡辺さんだという伏線を貼ってました。
十五話でヒートはツンに「愛してる」、渡辺さんは「恋してる」と。
漢字の形で、愛は真心、恋は下心、と言う事でww。
誰も分からないようなヒントを、人知れず散りばめておくのがオレのジャスティス。

>>105
ズバリ正解
半分クリス、半分京
「見せてやる・・・草薙の拳をぉぉーーー!!」
って奴をちょこっと変えてみた


153 名前:感謝と謝罪 ◆FnO7DEzKDs :2007/12/30(日) 23:10:26.61 ID:QWohf3920
これで『( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです』第1部終了です。
年を越さずにすんでホッとしています。
応援してくださった読者の皆様、絵を描いてくださった絵師の皆様。
絵師様の絵は見つけた物は全て保存させていただいています。
そしてまとめてくださったエスカルゴ様には感謝以外の言葉が見つかりません。

そういえばナギさんが復活したということで見に行ってみたら、俺の携帯の待ち受けがww
まさかナギさんが描いてくれていたとは。
因みにその前はほかの絵師様のクーを待ち受けにしてました。

実は申し訳ないのですが、これから三月ほどまとまった時間を取れない状況です。
第二部の開始までは少し間が空いてしまうと思います。
第二部はブーンの出生の秘密、流石兄弟の日本上陸、ドクオパワーアップイベント、でぃの過去、クーの試練などを予定しています。
この辺の話は大方プロットは出来ています。

今まで投下の遅さでご迷惑おかけしたことを反省し、第二部はかなり書き溜めてから短期間で一気に投下したいと思っています。
それでは、しばらくの間失礼します。

あ、そうそう。


今夜の退魔師祭りはもうちょっとだけ続くんぢゃ。




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