内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第20話「意思」
1 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 15:58:51.31 ID:FKnyIzeg0
ザンギエフとのストリートファイトに勝利し、>>1の座を守ったガイル。
勝利の喜びに浸っているガイルの背後に、何者かが接近ッ―――!!


(//‰ ゚)「あ、どうも、日本から来たイボ太郎と申します!
      サイボーグとはいえ長時間のフライトはキツかったです!」

ガイル「帰れ! ボストンから出てけ!! あっちに帰れ!!」

(//‰ ゚)「私、気味悪がられて仕事に困っ」

ガイル「タコ部屋に帰れよおおおおお!! ここは俺のスペースなんだから!!」

(//‰ ゚)「私、頑張ってギコさんの代役を務めさせて頂きます!!
      これがキッカケになって色んなお仕事来るといいな〜!」

ガイル「ああもうそれ以上喋るな! 読者さんが感情移入しづらくなるだろうが!!」

( ^ω^)「そういや、ガイルさんって街狩り以外じゃ仕事無いんだっけかお」

ガイル「まぁそりゃそうだが……というより非AAキャラが出るのも珍しいくらいで……
     ……ってか、そういう寂しい事言わないでくれよ、ブーン……」


4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:00:37.13 ID:FKnyIzeg0

ガイル「ええい、仕切りなおしだ! 行くぜいつものやつ!!」

     __,, , , , _ 、 ,,,  ..,_


    ー=、 、ー-、`ヽ、、ヽ`!i' , ,i"=ミ
     //`ヽ`ヾ`、 ! ヽ ! l! i! /ノヽ
     .│/ ii /、," ◇ヾiiソヽ
       .ゝ::。:ッィ -o=-ヾif'')ヾ
       ('''' /;;!i、   ソ”:丿__,_,
    .    { ┃ii”ヽ ;;;;丿 ソi /   ”"ヽ ( ^ω^)は街で狩りをするようです 第20話 投下します
     /"""i┃=ii  iノミ//'/      } まとめはコチラ! 内藤エスカルゴさん
     { ◇  ヽ--"ィ"'' ソi ヾ      i http://www.geocities.jp/local_boon/
     i  /”/'''ヘ:   /ソ .|ゞ..   ソ
     f  i /''''/''''''}-ソ ヽ ii  #  i
      .| .|ii /''/''''''}  へ i  ''''  ノ
       { i r i /''''     i    /

ガイル「ふざけんな! もっとカッコいいAA載せろよ!!」

(//‰ ゚)「いよいよ撮影です! 台本は飛行機の中でばっちり暗記してきましたから!」

ガイル「いい加減にしろよこのイボイb……クソ!俺の方がブサイクに見える!!」

5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:02:01.90 ID:FKnyIzeg0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、若いの。本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      セカンド化したアニーを殺害しようとしたが、偶然的にシーケルトを
      殺してしまった。その結果、怒りと絶望に狂った「セカンド・ギコ」を生み出してしまう。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      父親サイボーグ技術の権威であるフィレンクト・ディレイクを父に持つ。
      チーム・アルドリッチにボストン救助作戦の協力を得る。

6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:03:35.07 ID:FKnyIzeg0
――― ボストンの人々 ―――

(´<_` )オットー・サスガ:24歳。サイボーグ技師。
     ウィルスに感染したアニーを利用し、アニー・サスガを名乗る。
     その目的は「人類の進化」という夢の実現と、何よりもシーケルトの愛を手に入れたい為だった。
     スネークとブーンにより、全て破綻する。

( ´_ゝ`)アニー・サスガ:26歳。元サイボーグ技師。セカンド
      5年前、セカンドウィルス拡大に備え、ハーバード大学の地下研究区域を改造。
      だが、セカンドウィルスに感染し、セカンドとなる。
      実弟のオットーの研究材料となってしまった。

(*゚ー゚)シーケルト・ゴソウ:26歳。サイボーグ技師。通称しぃ。
    学生時代、生物工学においてサイボーグ技術を学んだ美しき秀才。
    地下実験室の感染者が恋人のアニーである事を知る。
    偶然か、はたまた彼女がアニーを庇いたかったのか、ブーンの弾丸を受けて死亡した。

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:04:39.98 ID:FKnyIzeg0

(,,゚Д゚)⇒(//‰゚)ギコ・アモット:26歳。セカンド。
    オットーの設計したサイバーウェア“System-Hollow”によって、感情と自立を失ったサイボーグ。
    ギコはオットーの指示で行動し続け、結果的にオットーの研究を補助していた。
    シーケルトの死を切欠に感情を取り戻すが、深い悲しみと絶望、怒りに狂い、
    自らアニーのウィルスを取り込んでセカンドとなる。

( ><)ビロード・ハリス:9歳。
     アニー達と地下研究区域で生活してきた孤児。
     過去、セカンド蠢くボストンにて、スネークによって助けられる。
     ブーンとは異なる強力な免疫細胞を持っており、ウィルス感染予防などに役立たれている。

ソリッド・スネーク:本名、年齢共に不明。通称スネーク、オッサン。サイボーグ。
          元傭兵という事以外に正体不明の男。
          オットーとギコを疑い、オットーの企みを暴いた。
          ギコのセカンド化を食い止めようとするが、失敗する。
          ブーンと共にセカンド・ギコと対峙する。

9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:06:20.62 ID:FKnyIzeg0
第20話「意思」


 炎のような紅蓮の色とも、血のような深紅の色とも言える。
 その者のシンボルカラーであった燃え盛る赤の色は、
 変異を完了した今もなお、健在である。

 いや、より一層色濃くなったのかもしれない。
 比喩ではなく、実際に血が全身を塗っているのだから。
 彼の着ていた赤い戦闘用スーツを覆うように拭き出た真っ赤な血肉は、
 大柄で奇怪な肉体において最も目を引く部分だろう。

 血の赤を基調に、内臓されていた無骨な黒のプレートや銃器、
 そして細胞が急速的に生んだ骨が刃となり。
 それらがギコの体の随所を飾っている。
 しかし、それは装飾を目的としているのではない。

 言うなれば、鎧――。

 有機物の血肉、無機物のプレートやメカニック……正反対の物を一対一で混同した「鎧」。
 復讐の為に戦おうとする男に誂えられた、「血肉と機械の鎧」である。
 体を破るように吹き出た血肉と共に装甲プレートが露出し、
 その上を血管や筋がメッシュのように覆っている。


スネーク「貴様……何故、感情を持っている!?」

電磁ナイフを構え、スネークが叫んだ。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:07:44.40 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚) 《……しぃが殺されたのを切欠に、俺は感情を取り戻した。
      人口の視神経を通して得た情報が俺の脳に強く作用し、
      “System-Hollow”をも上回る信号を発生したとしか、考えられん》

 ギコは、調子を確かめるようにゆっくりと腕を動かし、
 肘から先にかけて、じっくりと目でなぞって行った。
 左腕には手首が無く、代わりに花の蕾のように亀裂の入った肉の塊がある。

スネーク「その事を聞いているんじゃない!
      何故、貴様はセカンド化しても尚、感情が、自我があるんだ!?」

(//‰゚) 《セカンドにも感情はあるだろう。そう考えた事は無いのか?
      奴等にも肉親や仲間の意識はあるはず……そう感じたことは無いのか?
      それを感情と言わずに、何を感情と言うのだ、スネーク?》

依然として不可解な表情を浮かべるスネーク。

 ギコの右腕。ブーンによって奪われた部位であるが、肉と骨で新たに形成されていた。
 膨れ上がった前腕……肘の前後から、長く太い骨の刃が伸びている。
 刃というより槍というべき長さを誇り、肘を曲げて持ち上げていなければ地面に支えてしまうだろう。

(//‰゚) 《……なあ、ブーン。お前には心当たりが無いか?
      セカンドとはいえど親と子の間に絆たる何かがあるのを、感じた事が?》

14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:11:12.31 ID:FKnyIzeg0

(;^ω^)「…………」

ブーンには思い当たる節があった。
一番新しい記憶では、ニューヨークで狩ったGネズミ。
「子を庇うように絶命した」あのセカンドは、やはり親、あるいは仲間であったのだろう。

(//‰゚) 《しかし何故、自我があるのか……恐らくであるが、》

 右足もまた、肉と骨で作られている。
 腿、膝、脛、爪にあたる部位から刃が突き出しており、
 丸太のような太さの足をより攻撃的な外観へと飾っている。


(//‰゚) 《――俺が自らウィルスを取り込んだ事にある》


スネーク「……?」

(;^ω^)「……ウィルスを……自ら取り込んだから……?」

ブーンとスネークは、息を呑んだ。
人口の骨格と筋繊維が「信じられん、何を言っている」という人間的な顔を作っている。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:13:38.93 ID:FKnyIzeg0
(//‰゚) 《俺は、力が欲しいと願った。何者にも負けない力が欲しいと。
      アニーを喰いながら俺は描いた。何者にも負けない体のイメージを》

 アニーと同じく、背から骨が扇状に伸びて、後輪を成している。
 しかし形が歪だ。それは、骨が特殊な構造を持っているからだ。。
 帷子のように畳める作りをしている為、伸縮と柔軟を可能にしているのだ。
 骨の触手、といったところか。

 人口骨格とは別の骨が作られているのは、
 セカンドであるアニーのDNAと骨を摂取した為であろう。
 構成成分が骨のそれと同等ではなく、血肉などの有機的物質で代用されているが。

 機械の左目が飛び出し、右目は骨と肉で隠されている。
 骨と肉から垣間見える目が放つ赤は、機械の光だ。
 口元と鼻は削げ、そのまま骨格の形で露出している。
 剥き出しのそれは強化骨格であるが、やはり血で赤に染められていた。

(//‰゚) 《ビロードの抗体はウィルスを殺そうとしたが、しかしウィルスは俺の願い……
      いや、意思に呼応してくれたのか、俺の思い通りに体を駆け巡ってくれた》

 全長3メートル近くにまで成長した体を、足元から指先にかけて見てゆくギコ。
 一定の表情から変わる事の無い顔だが、口元から出る息は充実を意味している。

(;^ω^)(……まさか……)

――ミルナ・アルドリッチもそうだったのか?
彼は自らウィルスを取り込み、そして顔と声を残したのだろうか?
しかし荒れ狂う感情を制御出来ず、セカンドとして生きたのか?
しかし、何故ギコはコントロールを可能にしているのか。
ミルナ・アルドリッチとの差異は何だ? 分からない。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:15:22.22 ID:FKnyIzeg0
「ふ、ふははははははははははははははッ!!!」

突然、甲高い笑い声が室内を響かせた。オットーだ。
立ち上がって見せたオットーの顔は、
それまで絶望し切っていた顔とはまるで間逆のもの。

(゚<_゚  )「そ、そんな簡単な事で良かったのか!
      自ら力を望めば、セカンドウィルスは人間に力を与えてくれたのか!!」

オットーの顔は、歓喜と狂気に満ちていた。
シーケルトの死という絶望よりも、彼の求める進化系を目の当たりにした事により、
ある種の達成感から生まれる歓喜という感情が、胸中にて泉の如く湧き上がる。
そして、歓喜は口から止め処なく溢れて行く。

(゚<_゚ )「フハ、ハハハ! 素晴らしいぞギコ!
      お前は人類を――いや、セカンドをも超越したんだ!」

気絶しているビロードを除き、
その場の全員が黙ってオットーの話を聞く。ギコもだ。

(゚<_゚  )「生物は更にステップアップした! 更なる進化を可能にしたのだ!」

(゚<_゚  )「そうだ、名付ける必要がある……名……新しい名を!
      セカンドではなく新しい呼称を考えなくては! ギコ、お前は――」

(//‰゚) 《黙れ》

突然、銃声が鳴り響くと、オットーの声は聞こえなくなった。
ギコの左腕の蕾が開き、そこから煙が上がっている。
“銃口”の直線上の床に、首の無いオットーが横たわっていた。

17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:17:42.30 ID:FKnyIzeg0

スネーク「貴様……」

(//‰゚)《オットーは生かす価値が無い……そう思わないか?》

オットーの頭部は無残に飛び散り、そして夥しい血を撒き散らしたのだ。
特殊な金属の弾丸を何発も受け、瞬時にミンチに。
どの欠片が目なのか口なのか分からない程、グチャグチャに。

(//‰゚) 《……感情を持ち、言葉を使い、記憶もする俺を何と呼ぶべきなのだろうか?
      馬鹿馬鹿しい。俺とお前達に違いなんかあるものか!》

(//‰゚)《俺は人間……姿こそ異形であるが、俺は人間なんだ!》

太く纏まったドレッドヘアーが揺れ動く。
ギコは首を回して大きくゴキゴキと鳴らした後、右腕の長槍をブーンに突きつける。

(//‰゚)《お前を殺す……殺したい。憎い、お前が憎くて堪らない!》

ギコは右腕を真横に突き出し、特殊金属の壁をぶち抜く。
やはりウィルスが作用し、異常なまでの強靭さを得ている。
化物染みた行為であるが、ギコにとっては壁を殴って苛立ちを緩和させたいだけだった。

しかし息遣いは荒々しいまま。ギコの激情は冷めようとしない。


スネーク「……待つんだ、ギコ」

スネークは、一先ずギコを制しようと口を開く。
彼に人間の部分が残っているのなら……そう考えたのだ。

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:18:53.63 ID:FKnyIzeg0

スネーク「……シーケルトの死は偶然だったとしか思えない。
      偶然、若いのが撃った弾丸に当ってしまった、そうとしか思えん。
      コイツは何も、故意でシーケルトを殺した訳じゃない……」

スネーク「ギコ、お前のやってる事は……ただの逆恨みだ。
      とても人間らしいとは、少なくとも俺には思えん」

間を置いた後、スネークは諭すように言った。
ギコの息遣いや動悸が、次第に正常の範囲内に収まろうとしてゆく。

(//‰゚)《……ああ、そうかもしれない。しかし、ブーンがしぃを殺した事は事実。
     俺はここでブーンを殺し、ブーンの大切な人間達を殺しにニューヨークへ行く。
     勿論、お前とビロードもここで殺す》

ギコは、そのまま冷静な様子で言葉を返した。
しかしながら、その内容は到底まともな人間の言う物ではない。
少なくとも、スネークにはそう思え、

スネーク「ふざけるな! 何の為にそんな――」

ギコに強い憤りを感じ、思わず言葉を荒げてしまった。
しかし、ギコに言葉が被せられる。

(//‰゚) 《この行き場の無い怒りは、悲しみは、どうすればいい!?
      何にぶつけろと言うのだ!?》

咆哮とも言える巨大な声が、スネークの言葉を遮ったのだ。
ギコの血肉の瞼が大きく開き、不気味な機械の目がスネークを睨みつける。

22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:20:36.38 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚) 《そいつはしぃの命を奪ったんだ!
      俺が、最も愛していた人を、殺した……殺したんだ……!》

ブーンに向ける右腕の切っ先をわなわなと震わせて、ギコは叫んだ。

スネークが何か言おうとしたが、ブーンがさっと腕を出して止めた。
ブーンは、至って冷静な口調で話し始める。

(  ω )「いいんだお、オッサン。
      ギコさんの感情を全部受け止めて、殺――」

「殺す」と言い掛けた時、ブーンの脳裏にギコの言葉が走った。
“俺は人間……姿こそ異形であるが、俺は人間なんだ!”


……僕は、また――

(//‰゚)《お前は、また人間を殺すのか》


(; ω )「あ……う……」

ブーンが発していた張り詰めるような殺気、緊張が消え失せる。
それは隙と同等の、戦いにおける緩みでもある。

(//‰゚)(復讐を終えたら俺も死ぬつもりだ。だから死ね。ぶっ殺してやる)

ブーンの隙を逃さず、ギコが跳躍した。
彼の愛する者、シーケルトの亡骸を越え、憎きサイボーグに向かって――。

24 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:22:53.68 ID:FKnyIzeg0
右腕の、骨と肉で構成された長槍を引いて、ギコは襲い掛かる。

左目で目標であるブーンを捉え、非生物的な速度で跳躍。
距離を一瞬で詰めつつ、ギコは引き付けた槍を一気に押し出す。
槍は風を裂き、真っ直ぐに目標の頭部へと奔る。
異常発達した筋肉と神経で繰り出される攻撃は、
以前のギコの身体能力では成し得なかった速度を伴っている。

ブーンは、回避する為に地を蹴った。
しかし、思考に雁字搦めとなっているブーンは今、戦いの意思が弱い。
優れたプログラムと神経系統に支配されているとは言えど、動作は全て完全なるマニュアル操作。

つまり、今のブーンの動作は鈍重なのだ。
ギコにはブーンが止まっているように見える。
槍がブーンの頭部を的確に貫き、原型なく破壊するヴィジョンが見えている。

(//‰゚)(お前が彼女にしたように、頭を破壊して殺してやる……!)

ブーンは跳躍しながら首を捻り、腰を曲げ、槍の先端から逃れようとする。
だが、槍の先はブーンの視界から消えようとしない。

――近づく、近づいてくる、ああ、右目を、頭を貫かれてしまう!
死への恐怖が、瞬間的に全身を駆け巡るのを、ブーンは感じた。

同時、左から何か巨大な物が強烈にぶつかったのを認識した。
ブーンは吹き飛び、端の壁に激突する。
槍が貫いたのは虚空。風が斬られる音が、遅れて空気を震わす。

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:24:39.75 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚)《スネエエエ―――――クッ!!》

ギコの左目がギョロりと動き、目標を切り替える。
彼の人口網膜が結ぶ像は、スネークである。

太く、そして長すぎる右腕の槍が、床と平行方向に振るわれる。
切先は広範囲に渡って走ったが、後ろに飛んだスネークの胸板を数ミリ斬ったのみ。
間合いが大きくあったのが、スネークにとって幸いしていた。

(//‰゚)《……だが、俺の攻撃に恐怖したな、スネーク。
     お前の身体に大きな変化が起きたぞ》

ギコの左目が見るのは、単なる像ではない。
熱量、発汗と心拍数を捉え、更に体内をスキャンして筋肉の変化を見る。
そうして得た獲物に関するあらゆる情報は瞬時に処理され、解析に変わって提示される。

(//‰゚)《今ので分かったろう。俺の攻撃を避ける事は出来ないと!》

スネーク「チッ……」

情報収集と解析を行っているのは、スネークも同様である。
提示された解析情報は、至ってシンプルだった。
「ギコの攻撃は回避不可能、これ以上の試行も不要」。

28 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:26:10.10 ID:FKnyIzeg0
槍が、ゆらりと動く。

――データなど知るか。もう一度、いや、何度でも避けてやる。
己のサイバーウェアが勝敗を予想しようとも、スネークは決して諦めようとしない。
電磁ナイフを握る手に力を込め、更に集中を高めた。

(//‰゚)(先に死ね、スネーク。そしてブーンを絶望させろ!)

ギコは槍を振る――いや、振ると意思決定した。
スネークは、視覚情報が完全に脳に伝わるよりも早く、予測で身を躍動させる。

強烈な破壊音。
槍は、巨大な亀裂と隆起を床一面に作り上げた。
だが、そこにスネークの串刺し死体は無い。

(;//‰゚) 《……流石、自称傭兵といったところか?》

ギコの僅かな筋肉の動作や目の動き、呼吸を察知し、攻撃タイミングを予測したのだ。
攻撃を繰り出される前に動くのなら、直撃は回避可能のようだ。
それでも槍は、スネークの左大腿をほんの少し抉ったが。

スネーク「これがキャリアの差ってやつだ、青二才」

半ば、虚勢。回避できたのは紙一重だった。
しかし、長年傭兵として戦闘を続けて来たスネークにとって、
ワンオンワンの近接戦闘が得意分野であるのは、紛れも無い事実である。
ただし“対人”に限った話ではあるが。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:28:14.54 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚) 《これならどうするんだ!?》

突如、ギコの左腕の肉蕾が開き、隠れていた“マシンガン”が露に。
血肉の花の中心にある銃口が、スネークに向けられる。

スネーク「――――ッ!」

咄嗟に両腕で急所を隠す。恐らくは無駄であろうが。
発砲音が鳴り響く――――。



しかし、弾丸を受けたのはギコだった。

被弾した左上腕部が既に溶解を始めている。
傷口が沸騰するようにゴポゴポと沸いており、
やがて液状化した血肉が腕を伝い、床にドロりと落ちる。

抗体を含んだ血肉が左腕の上を流れて焼いてゆく。
そして腕部から侵入した抗体が、じわじわとギコの全身に広がってゆく。

(;//‰゚) 《貴様ッ――》

続く言葉は無い。
BlueBulletGunは発砲音を延々と鳴らし、
巨大な蒼い光の塊をギコの頭部と心臓を除いて、ぶつけ続けてゆく。

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:31:03.81 ID:FKnyIzeg0

スネーク「若いの!」

光弾の軌道を逆に追う。
口を僅かに動かしながら、引き金をひたすら引くブーンの姿があった。

(; ω )「死なせない……誰も死なせたくないお……!」

《ギャアあ――ああッガああア――アッアああ――あアああアあ!!》

痛烈な叫び声が研究室内を埋める。
化物の声であるが、確かにそれはギコの声。
だが、ブーンはまるで聞こえていないかのように、弾丸を撃ち続けた。

弾丸が命中する毎に、皮膚が破裂し、筋肉繊維は焼け、もしくは裂ける。
毛細血管はたちまちに蒸発し、頑丈であるはずの血管の数々は
抗体により外壁を破壊され、出血と抗体侵入を同時に許してしまう。

体外を飾る骨刃が爆ぜる。
勢いよく飛び散ったそれらは、金属製の壁にぶつかって突き刺さったかと思えば、
抗体に塗れている為に、粘性のある液体と化す。

ギコの体に潜伏した抗体は、血液の流れに乗って巡ってゆく。
そしてギコに、気絶してしまうような痛覚を味あわせるのだ。
しかし気絶する事は、ウィルスによって尚も活性を続けている細胞が許さない。
「生物捕食」というウィルスの性質と存在理由。
それが、宿主に倒れる事を許さないのかもしれない。

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:32:57.23 ID:FKnyIzeg0

《ああああああ……ああ……が…………は……》

だが、やがてギコは段々と声を落とし、
自身の血液で出来た血溜まりの中に倒れた。研究室が振動で大きく揺れる。
同時に、BlueBulletGunの発砲音も止む。

スネーク「何をしているんだ若いの!
      ギコとウィルスはまだ死んでいないぞ!」

ブーンの不可解な攻撃停止に、スネークは思わず声を発した。
2人のサイボーグには、ギコの状態は手に取るように把握している。
もはやギコは瀕死、ウィルスも大半が死滅してしまっている……しかし、死んではいないのだ。

(;゚ω゚)「ハァ……ハァ……」

未だ、銃は両手で強く握っている。
目も、ギコにしっかりと向けられている。
だが、引き金に掛かった指を動かそうとはしない。

(  ω )「知ってるおオッサン。だから、もう、撃てないんだお……」

ブーンには、最後の一撃を撃てずにいた。

撃てば、ブーンはまた人を殺してしまう。
シーケルトを殺害してしまった時の罪悪感、そしてギコの「俺は人間だ」という言葉。
その両方が何度もフラッシュバックされ、ブーンをせき止めている。

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:34:59.96 ID:FKnyIzeg0
撃つべきであるとは、ブーンも自覚している。
だが、ブーンの体は決して動こうとしない。
身はブルブルと振るえ、歯は小さく鳴り散らしているが、引き金を引こうとはしない。

スネーク「銃を寄こせ!」

(;゚ω゚)「お、オッサン……」

スネークはブーンから銃を引っ手繰ろうと、歩み寄る。


――スネークが、ブーンの銃に手をかけた時である。
2人の視界に映っている熱量を表示するモニターに、急激な変化が現れたのは。

ギコの背部に生えている触手が伸びる。
触手の如く曲がりくねり、研究室内を縦横無尽に駆け巡る。
金属製の壁を擦り削って火花を散らせ、あるいは裂き、周辺の機械を貫いて。

スネーク「ビロードッ!!」

骨の触手は、離れた所で横たわっているビロードにも向かって、走る。

ビロードに向かう触手を目掛けて、スネークがナイフを右手に飛び掛る。
その触手にしがみ付き、渾身の力で何度もナイフを突き立てた。
しかしキンという硬質な音を散らすのみ。ヒビ一つとて入る気配が無い。

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:37:19.23 ID:FKnyIzeg0
スネークがしがみ付く触手が大きくしなり始める。
ぶん、という鈍く重い音が金属製の壁を震わせる。触手の風切り音だ。
スネークは天井と地に叩き付けられ、振り落とされた。

スネーク「くっ!」

今の攻撃で生じた損傷は無し。すぐにスネークは立ち上がって駆けた。
ビロードを襲う触手を両腕でガッシリと抱え、動きを止めんとする。

だが、もう1本、骨の触手がビロードに襲い掛かろうとしていた。

(;゚ω゚)「ビロード!!」

ブーンは、BlueBulletGunでビロードを襲う触手に照準を合わせる。
刹那、上下左右から触手が素早く迫り、銃を持つブーンの左腕が滅多刺しになる。
触手の尖った切先に強化皮膚を裂かれるが、プレートに刃を通す程の硬度は無かったようだ。

(;゚ω゚)「ビローッ――――」

それでも、照準を外すくらいの力は十分にある。
ビロードの右肩に、触手の切先が突き刺さった。

41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:38:58.92 ID:FKnyIzeg0

(;><)「う、ああああああああああああああああ!!」

鋭い痛みを感じて気絶から覚醒したビロードが、絶叫した。

――しかし、突き刺したかと思えば。
火の中に手を入れた人間の反応のように、触手は切先をさっと引っ込める。
恐らく、ビロードの免疫に反応したのだろう。

スネーク「ビロード! 無事か!?」

腕で押さえつけている触手を放し、ビロードの元へ向かう。
が、スネークに数多の触手が伸びてゆき、行く手を阻もうとする。
蹴りや拳で迫る切先を跳ね除けるが、如何せん数が多すぎる。
迎撃と回避で手一杯、ビロードを救出する事が許されない。

スネーク「……なんだ?」

しかしどういう訳か分からないが、それは束の間だった。
前触れもなく、骨の触手が勢いを落としていったのだ。
スネークは疑問しながらもビロードのもとへ駆け寄る。

(;゚ω゚)「あれは……!?」

目だけを動かし、研究室内を見る。

他の触手――ブーン達3人を襲っていなかった触手――が、
辺りに散らばったギコの肉片を突き刺しているのだ。
骨刃は肉片を突き刺すと高速で縮み、器用に主の傷口に肉片を押し当てている。

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:41:09.40 ID:FKnyIzeg0
無数の骨の触手は、我武者羅に蹂躙しているのではなかった。
暴風雨のような激しい攻撃を繰り出している一方で、
研究室内の有機的生命体と有機物を捕食せんとしていたのだ。

スネーク「しまった……奴の狙いは、死骸か!」

ビロードの肩を自分のバンダナで圧迫しながら、スネークは培養管の方を見て呟いた。
触手は、アニーの死骸に突き刺さり、オットーの死骸を刺し――、
そしてシーケルトをも、捕食対象として突き刺していたのだ。


ギコが、ゆっくりと顔を上げた。
血塗れになった顔面は、より禍々しく見える。

(//‰゚) 《俺は……セカンド……ウィルスを得た……人間だ。
     そう易、々と……殺されてたまる、かよ……!》

(//‰゚) 《お前を……殺すま……で、俺は決し、て……!》

ギコの背部が血飛沫をあげて大きく開いた。
背の中に出来ている窪みに、オットーが強引に入れられてゆく。
オットーの全身の骨が軋み、そして不快な音を立てながら折れ、
体が小さく折り畳まれてしまうと、窪み一杯に収まったのだ。

ギコの背部の肉がバシンと閉じる。
するとギコは痛々しい叫び声を上げて、上半身を起こした。

44 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:42:17.03 ID:FKnyIzeg0
次に胸部が開かれる。
ギコと真正面に対峙していた2人は、一瞬だが体内を直視してしまった。

見たのは、不可思議な肉の動き。
人工的に作られた神経やサイバーウェアやらが、服を編む棒のように動く「肉」に運ばれているのだ。
適材適所にパーツを置き、埋め、または切り離して運び、体内を修繕しているように見えた。
それも、高速再生しているような不自然な速度でいて、全く淀みの無い動きであったのだ。

しかし、身の毛の弥立つセカンドの体内が見えたのは、一瞬だった。
何故なら、シーケルトとアニーの亡骸が、ギコの胸部の前に掲げられたからだ。

(//‰ )《ごめん、しぃ……せめてアニーと一緒に……》

シーケルトとアニーの亡骸を、ギコは体内へと運んでいった。
愛する者の亡骸だとしても、回復と変異のマテリアルとして。
全ては己の復讐の為……ギコは、人口の歯を食い縛った。

スネーク「ギコを撃て! 死骸でもいい! 撃て!」

スネークの叫び声が木霊す。
今のスネークには有効な兵器は持ち合わせておらず、また、ビロードを保護する役目がある。
対抗できるのは、ブーンただ1人。

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:43:47.99 ID:FKnyIzeg0

(;゚ω゚)「あ……し、しかし……」

分かっている、分かっているのだ。
撃たなければ、どういう事になるのか。

スネーク「若いの!!」

だが、ブーンは人を撃つ事が出来ない。
それが死骸であっても、背徳感がブーンに引き金を引かせない。
ギコに対しても撃つ事は出来ない。人は殺したくない。

背部の触手が一斉に動き出した。
無理矢理にシーケルトを詰め込み、アニーを数本の骨刃で小さく切り刻み、

――――そして胸が閉じた。

(//‰ )《うぐ、ああああ、がああああああああ――――》

身を裂かされたような痛烈な叫喚。
しかしそれは、破損した肉体回復と更なる変異開始のサインを指す。

スネーク「今がチャンスだ! ギコを殺すんだ!」

(; ω )「……ギコさんは姿こそ違えど、やっぱり人間だお!
      オッサン……僕には、人は殺せないみたいだお……」

俯いて目を逸らし、長い髪をおろして顔を隠している。
直接的に映る視界を遮断して作った暗闇中、ブーンはジョルジュに申し訳なく思うのだった。
自分には、セカンド化した人間を撃つような勇気は持っていなかった、と。

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:45:36.74 ID:FKnyIzeg0

スネーク「ビロードを『セントラル』に連れて行くんじゃなかったのか!?」

ブーンを怒鳴りつけて、スネークはBlueBulletGunを奪った。
ゆっくりと暗闇から顔を上げ、ブーンはスネークを見る。

スネークが左腕で抱えている小さなビロードは、鬱血して再び気を失っていた。
ビロードの衣服が傷口にキツく巻かれているようだが、手当てする必要がある。
すぐに止血しなければ、危険な状態に陥る事は明白である。

(; ω )「ビロード、そうだ、ビロードを……」

――――そう……良かった……良かったね、ビロード!
今朝見た、ビロードに向けられたシーケルトの幸せそうな顔をブーンは思い出し、

――誰かを守りたいと思うのなら、セカンドを撃つ事を躊躇うな。
今一度、胸に刻んでいたジョルジュの言葉を繰り返し、


“ビロードを守る事が、シーケルトに対するせめてもの罪滅ぼしになる”と考える。


ブーンはBlueMachingunをホルダーから取り出し、スネークの横に立つ。
サイトにギコの上半身を収め、トリガーに指を掛ける。
スネークが一瞬だけ目を横に流した後、前方のギコに集中した。

スネーク「おおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」(゚ω゚ )

狙いは頭部、心臓。
2人は同時に声を張り上げ、トリガーを思い切り引き付けた。

49 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:47:34.56 ID:FKnyIzeg0
刹那、ギコの背部に生える骨の触手が反応する。
計10の触手が、膝付くギコを覆い隠す。
形成された隙間の無い防壁に、ブルーエネルギーの弾丸が弾かれる。

防壁の中、苦しみを訴える声は続いている。
抗体の痛みに叫んでいるのではない、変異と回復に伴う痛みだ。

( ゚ω゚)「それならBBBladeで――」

攻撃手段を変更しようとした矢先、ギコの背部から血が吹き上がる。
血の飛沫と共に上がるは、体液と血で生々しく光る肉の触手。数は6本。
新たに生まれた触手は防御ではなく、3人への攻撃に転じる。

だが、冷静にブーンとスネークは対処した。
触手を斬り、あるいは撃って短くし、ギコから距離を取る。
これで触手は我々に触れることも出来ないはず――そう2人は思った。

――思わず、目を疑った。
人口網膜が結ぶのは、再生してゆく触手の映像。
ギコが背部から更なる触手を作り出した映像。
そして、故障したかのように真っ赤なサーモグラフィ。

スネーク「抗体が効いていないのか!?」

2人は不可解なまま、激化した攻撃に巻き込まれた。
この決して広くはない研究室内で、竜巻でも発生したかのようである。
一定の場に立つ事など出来そうも無い――いや、してはならない。
足を止めてしまえば、瞬き数回の間に全身がバラバラにされてしまうだろう。

52 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:49:26.80 ID:FKnyIzeg0

(;゚ω゚)「おおおおおおおおおおおお!!」

ブーンは己を奮い立たせ、敢えて竜巻の目へ向かっていった。
触手が放つ熱量、動く度に伴う軋みとしなりの音から、全ての触手の
速度や角度を算出し、予想される数手先の動きまで情報処理システムに割り出させる。
更にシステムは解析情報を元に、最適な回避と攻撃方法を提示する。

提示された戦闘方法は、真綿が水を吸うように、一瞬でブーンの脳に理解される。
大脳の一部が作り変えられたブーンの伝達速度は、常人のそれを凌駕するのだ。

そして、人口の基底核から神経部分へ伝わり、「動き」として出力される
蒼の光刃を袈裟に2度振り、その隙に空いている左手にも別の柄を握らせる。
二刀の剣を手に持ったブーンは、触手を悉く斬り落としながらギコへ向かってゆく。

斬る、斬る、何度も斬る。
床に肉塊が無造作に積まれてゆく。

だがしかし。再生と増加は更に加速度的に行われている。
遂にはブーンの情報処理システムをも凌駕する速度となり、
ブーンは後退せざるを得なくなってしまった。

(;゚ω゚)(僕のスペックでも無理なのかお!)

――このような再生と変異が可能なのは、何故だ?
5年の戦闘経験において類似する例は無い。

53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:50:46.57 ID:FKnyIzeg0

スネーク「サーモグラフィに変化が無い。
      確かに抗体は注入こそされているが、ウィルスに殺されているように見える」

触手を撃ち落としてスネークが、述べた。
では、その原因は何なのだろうか? BBBladeを振り回しながらブーンは考える。

(;゚ω゚)「……アニーかお!」

原因は、恐らくセカンドのアニーを取り込んだ為か。

アニーはウィルスの活動を抑制されていた。
しかし培養管から出られた事で、セカンドウィルスは抑制から解放されのだ。
だから、ギコは変異する事が出来たのだ。

恐らくギコ自身も抗体を打っていたはずだが、
摂取したウィルスの量が多かった、としか言いようが無い。


《……それ、だけでは……ない……もう、一つだ、ブーン。
 ウィルスは……俺の、殺意に……強く、反応、している……》

突然響いたギコの声。だが、途切れ途切れだ。

増加を続けた触手は、ギコを繭のように覆ってゆく。
あの中で、ギコは回復と変異を行っているのか。

54 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:52:17.55 ID:FKnyIzeg0

《言った、だろう……俺の意思に、呼応すると……!
 セカンド……ウィルスはもはや……俺の意識下に、ある……!》

竜巻のようだった触手の動きが徐々に収まってゆく。
先程が嘘のように静寂するが、しかし研究室内は見るも無残な姿へ変わり果てていた。
中心に蠢くのは、赤黒く血生臭い巨大な肉の「繭」。
「繭」から飛び出ている余分な触手が、血を垂らしながら宙を揺らめいていた。

スネーク『若いの、ビロードの出血が酷い』

スネークが無声通信でブーンに声を掛けた。

スネーク『奴が襲ってくる気配は無い……この隙に一度、エレベータまで退避したい。
      エレベータにはバイクを停めてあるだろ?
      俺のバイク中に医療器具と薬剤がある。こいつの手当てが出来る』

ブーンはちらりとビロードを見る。
蒼白くなった肌に、鮮血の血が滴っている。
機械の目で見ずとも早急な止血が必要であると、ブーンは判断した。

コクりと、ブーンは頷いて了解した。スネークも頷いて返す。
2人は決して銃口や剣を下ろさず、繭を見据えながら外へ近づく。
ギコが襲ってくる気配は窺えない。


2人は一気に、研究室の外へ出た――――。

56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:57:34.07 ID:FKnyIzeg0

LOG 「セカンドウィルス実態調査 ツン・ディレイク 2055年」


結論から述べると、セカンドの進化に制限は無い。
捕食した有機的生命体の身体的特徴を吸収し、それを自分の強力な能力へと昇華させるのだ。

人型のセカンド……SF映画に出てくるようなゾンビを想像してもらいたい。
例えばゾンビが、鳥類などの羽を持つ動物を喰らうと、鳥類の特徴である羽を取り込む。
鳥類を捕食したゾンビは、背に羽を生やし、胸筋が異常発達する傾向にあるようだ。

もう少し例を挙げたい。魚を摂取すれば水中での呼吸が可能となるだろう。
毒を持つ生物を、毒をうまく除けて喰らえば毒という攻撃手段を得る事も可能だろう。
これは、全て捕食した生物のDNAを取り込んでいると考えられる。

更に、生物を単に食物として喰らう例も非常に多く報告されている。
有機的生命体(死骸を含むので有機物とも言える)を喰らった際に、必ずしも変異するとは限らないのだ。
セカンドは必要な遺伝子情報を選別しているのではないだろうか?

以上より、本研究室では、進化の為に有機的生命体を喰らう事を、捕食と定義した。
また、生物のDNAを取り込み、捕食した生物の身体的特徴を強力に発達させる事でもある。

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 16:59:26.64 ID:FKnyIzeg0
LOG 「セカンドウィルス実態調査2 ツン・ディレイク 2055年」

捕食とは有機的生命体を喰らい、遺伝子情報を取り込む事と定義した。
しかし、B00N-D1の調査により、また新たな捕食例の発見に成功した。

B00N-D1のメモリーに、傷を負った大型セカンドが、近辺に転がっていた
有機的生命体の死骸を喰らった映像があった。
その大型セカンドは見る見る内に傷口を回復させ、そして体格が一回り増した。
新しいDNAを得た為、自身をより攻撃に適した姿へと変貌させたのだ。

タンパク質、鉄分、カルシウム……肉体を構成する栄養分を摂取すると、
セカンドウィルスは生物の細胞を強く活性化させる。
これが、セカンドの急速的な肉体再生と、変異の原因であると考えられる。
また、栄養分の補給は再生と変異に必要な素材であり、
生物が生命活動をするのに必要となる栄養分とは、別と考えて欲しい。


資料として、当該の映像を添付する。







59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:00:18.65 ID:FKnyIzeg0


スネーク『バイクに乗り次第、すぐに学外へ出るぞ。
      まずはギコから身を隠さなければ』

(;^ω^)『了解したお! エレベータまでの道案内、頼んだお!』

暗い階段を上ってゆく2人。
悠長に一段ずつ上がっている場合ではないのだが、ビロードに掛かるショックを考慮する必要がある。
素早くも慎重に、2人は階段を駆けねばならない。

スネーク『若いの。もう、お前を信頼していいんだな?』

突然のスネークの問い――戦闘における信頼を問うているのだ。
即ちギコをセカンドと捉え、躊躇わずに殺せるか、その確認である。

( ^ω^)『……お。もう躊躇ったりしないお』

生きる事を否定され、死ぬ事のみを肯定され……。
ギコから浴びせられた「人殺し」と「死ね」という罵声は、ブーンにとってこの上無く辛い言葉だった。
被害者であるギコの言い分は、ブーンの常識の範疇では「当たり前」な事であった。

だからこそ、一時的だったとはいえブーンは絶望の淵を彷徨ったのだ。
殺した相手は「セカンド」ではなく「普通の人間」。
ギコも姿形は異なるとはいえ、心を持った人間なのだから。

ビロードを『セントラル』へ連れて行くという約束。
それだけが、ブーンの闘志を何とか保たせていた――――

61 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:02:16.69 ID:FKnyIzeg0

――下階で、野獣の咆哮が反響した。

大気と金属を震わす声量と共に、
セカンドの熱量としてギコはブーン達の真下に現れた。

研究室の小さな扉部分を破壊し、強引に廊下へ出たギコ。
外形に差ほど変化は無いが、銃撃を受けて破壊されたサイバーウェアを、筋肉や骨で代替している。
そして背部で蠢く無数の触手。
肩から腰にかけてビッシリと、今は短縮した触手が生えている。

(//‰゚) (奴らの向かう先は分かっている)

ビロードが深い傷を負っていたのをギコは知っている。
スネークの思考が、敵を倒す事よりもビロードに優先されているのは、
5年の共同生活を続けていたギコには良く分かっていた。

応急手当が出来るメディケーションが置いてあるのは、ギコの部屋の階。
更に、スネークのバイクには止血剤などの薬品が積まれていたを、ギコは覚えている。

(//‰゚) (更に上階へ移動した……バイクか!)

サイボーグでもあるギコは、ブーン達の位置を耳の集音機能で特定できるのだ。
足音を追う――――やはり、エレベータの方へ向っているようだ。
ブーン達の向かう先を断定すると、ギコが階段に足を掛けた。

63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:03:29.88 ID:FKnyIzeg0
ギコは、一段目に掛けた右足に力を入れ、宙へ浮いた。
次に背部の触手を壁や手すりに伸ばし、体を上方向に移動させる。

蹴るよりも触手で伝って行く方がずっと速いらしい。
証拠に、セカンド・ギコはほぼ一瞬にして1階を駆け上がっている。
計5つのフロアから成る階層の最上階へ到達するのも、時間の問題である。


――そして、到達。

(//‰゚)

セカンドの熱量が、2人のサイバーウェアに感知される。

スネーク「煙草を吸う暇もくれないか……チッ、完全に回復してやがる」

後ろを振り向いて、スネークが呟いた。
スネークとブーンは、とうにエレベータの乗り場があるフロアに出ていた。
後は、目の前に伸びているこの長く広い道を突き進むだけであるというのに。

ギコの移動速度は恐ろしいまでに速いと、予想していた。
だからスネークは、ギコを猛進させない為に足止めを用意しておいたのだ。

スネークは、空いている手に握らせたスイッチを、押した。
カチリと、乾いた音が鳴る。

数個の“リモートコントロール式の小型爆弾”が起爆する。
小さな爆弾だが、塵も積もれば、とやらだ。
ギコのいる出入り口で、爆発が波状的に発生する。

64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:05:12.88 ID:FKnyIzeg0
爆風が、廊下ならぬ大通りを駆け抜ける。
スネークはビロードを抱え、熱風が顔や喉を焼かないように庇った。
とはいえ、大した爆発ではない。
黒い炎が立ち上るのは大通りのごく一部でのみ、ブーン達に火の手などかかっていない。

(;^ω^)「どうなったお……?」

走りながら、遠めに見える炎と煙、粉塵の中に注目する。

灰色の煙の中を、ゆらりと動く黒い影。
地に広がる炎の上を覚束無い足取りで歩いて、ギコは姿を見せた。
両足は、炭化には至らなかったが重度の火傷を負っている。
とはいえ、零距離で爆発に巻き込まれたにも関わらず、その程度で済んだという事は。


(;^ω^)「再生してるお……何なんだお、ギコさんの体は……」

一向に好転しない状況を、ブーンが嘆くように呟いた。

まるで糸が衣服を編むかのように、破損した血管や筋肉、神経、皮膚を作っている。
早送りで見るオペの映像でも見ているようだ、とブーンは思う。
こうして眺めている間にも、ギコの体は正確に復元されてゆくのだ。

同時にこれは、セカンドウィルスによる細胞活性が持続しているという事の表れでもある。

「やはり、ギコを倒すには、多量の抗体を用いながらの肉体の徹底破壊しかない」、
そう判断したブーンは、BlueBulletGunを撃った。
銃口を頭部へ向けてトリガーを引く姿は、躊躇いなどスネークに感じさせなかった。

65 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:06:38.46 ID:FKnyIzeg0
3発の弾丸は頭部へ真っ直ぐ疾行する。
ドレッドの太い髪を残した頭をブチ抜こうと。

瞬く間に弾丸はギコに直撃し、肉混じりの鮮血を迸らせる。
が、それは頭部から出た物ではない。
背部の触手――それも多数――が頭部を庇って被弾したのだ。

弾丸で焼かれたかと思えば、触手は再生を始めていた。
肉体の直接破壊どころか、抗体での弱体化すら出来ないというのか。
「クソ!」とブーンは思わず口走った。

その言葉を、ギコが聞き漏らすはずがなかった。

(//‰゚) 《ブーン、俺を殺そうというのか!
      お前は死して罪を贖うべき存在だろう!?》

怒りと痛みに身を震わせ、ギコはブーンを怒罵した。

(;^ω^)「しぃさんと約束したつもりなんだお!
      皆を……ビロードとスネークを『セントラル』へ連れて行くんだお!」

(//‰ ) 《黙れ……黙れ黙れッ!!
      お前が彼女の名を呼ぶんじゃねえ!》

喉が擦り切れるくらい巨大な声でギコが叫ぶと同時、
ギコの両足は健康的な赤を輝かせ、千切れたはずの触手が何処までも伸長する――再生の完了だ。
憎悪が爆発的に増幅し、それがウィルスと強く作用したのだろうか?
定かではないが、少なくともギコから言わせれば、そうなのだろう。

68 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:09:15.68 ID:FKnyIzeg0
地を足と触手で蹴りつけ、ギコが虚空を疾走する。
血液がこびり付いた長い槍を構えた、全身に血化粧を施したおぞましい姿。
不気味に光る剥き出しの機械の瞳、骸骨さながらの鼻と口。
ブーンの目には、空を駆るギコが死神のように映った。

それでもブーンに恐れは無い。むしろチャンスであると見る。
空中ならば大きな回避行動は取れない。弾丸を撃ち込む絶好の機会だ。
高速で迫り来るギコをBlueBulletGunを撃つ。
だが、やはり触手が防弾を担い、弾丸とギコの急所を悉く遮断させる。

「BlueBulletGunでは怯ませる事も出来ないのか」、ブーンは銃を撃ち続けるも、
圧倒的な威圧感を放ちながら迫るギコから、素早く遠ざかる。
ギコの槍が地面に落とされる。
雷鳴の如く轟音と共に地割れが発生し、ブーンとスネークは体勢を崩した。

触手を使い、隆起した地面に着地せず空に浮くギコ。
突き刺した右腕はそのままに、左腕の赤い蕾を咲かせて銃口を露出する。
しかし、蒼い光弾が、ギコの左腕を貫いた。
ツンの設計した身体とプログラムは、この程度でバランスを欠くことなど有り得ない。
むしろ地形と体勢から、最適な攻撃と回避のみを計算するのを優先する。

仕込み銃が爆発し、左腕は肘から先から消し飛んだ。
同時に再生は始まる。繊維がシュルシュルと音を立てて腕を編み始める。

(;^ω^)「まだだお! オッサン! 撃つお!」

乱射。蒼い光の弾幕がギコを襲う。
再び触手を使って繭を形成し、自分の身を守り始めたギコは、
ひたすらブーンに対する殺意を燃やして再生速度を速めようとした。

69 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:10:17.22 ID:FKnyIzeg0
状況は均衡するかと思えば、幾らかブーン達の方に利が傾いた。
ただ弾丸に耐えるのみのギコは足止めを喰らっているのだ。
対しブーン達は移動が可能、攻撃を継続しながらエレベータへ向かえる。


(//‰゚) (ク……あいつ等……エレベータに……!)

――獲物は遠ざかっているようだが、攻撃は何故か激化する一方。
触手の繭から出る事が出来ない。
高速再生が可能であるとはいえ、まともに攻撃を受け続ければ
また瀕死に陥ってしまう……いや、次は確実に生命を絶たれるだろう。

赤く暗い空間の中で、ギコは更なる殺人の衝動に身を震わせる他なかった。



……やがて、横殴りに叩き付ける暴風雨のような攻撃が治まる。
ギコは2人に追いつく為に、繭を開いた。

――瞬間、遠方のエレベータの巨大な扉が開く。
中央に立っているのはブーン。手首の無い右腕を、ギコに向けている。
右腕からグレネードを射出した後、スネークにエレベータの扉を閉じさせた。

(//‰゚) 《――――ッ》

緩やかな放物線を描き、砲丸はギコの数メートル手前の地面に落下。
落下地点から空間が湾曲し、ギコの目の前に蒼色が広がる。
蒼色の光は瞬間的に拡大し、フロア諸共ギコを飲み込もうとする。

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:11:09.18 ID:FKnyIzeg0
反射的に全ての触手が動き、繭を作り上げる。
同時に蒼い爆炎に包まれ、繭の外壁が焼かれ始めた。
触手の細胞が死滅しては分裂・再生を繰り返す。
そして周囲の壁や天井は脆い炭と化し、爆風で消し飛ばされる。

ギコのいる地点を除き、炎は上階と下階とに分ける鉄を貫く。
エレベータから見て数十メートル先の地面は全て炭化し、下階へ落ちていった。
ギコの立っている地点も、ギコの足元から破壊されて同様に落下する。

(;//‰゚) 《クソッタレ……何て攻撃だ……》

炭化した瓦礫に埋もれた中でギコは呟いた。
高出力でエネルギーが発生するが故、グレネードはフロアすら破壊してしまった。
つまり、蒼炎は破壊した箇所に向って拡散し、ギコを焼く為の威力を削いでしまったのだ。
結果、ギコは触手を失うだけであって、何ら致命傷を受けていない。

ギコは、瓦礫を槍で除けて立ち上がる。
出鼻を挫かれたような気分を感じたが、殺意は決して途切れず。
そればかりか、更に燃え上がるのを、ギコは感じている。
活性化された細胞が超高速で分裂を開始し、左腕と触手を完全に復元させた。

上のフロアを見据え、残っている地面に向かって跳躍する。
着地した先には、焼き焦げたエレベータの扉。
視線を横に流して制御スイッチ確認するが、やはり破壊されている。

ギコは舌打ちした後に、扉を槍で切りつけた。
四角形に斬った箇所を蹴り飛ばし、エレベータ内部への侵入口を作った。

71 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:12:25.11 ID:FKnyIzeg0
しかし扉の先はエレベータ室内ではなく、エレベータが昇降する為の空間だ。
空間を埋めるのは質量をも感じる暗闇。
上を仰ごうが下を見下ろそうが、一筋の光すら存在しない。
ギコは暗視に切り替え、中の様子を探る。

(//‰゚) (地上へ出たか)

遥か上にある天井、それはエレベータの「底」だ。
エレベータの位置から計算し、最上階層――地上に停止したとギコは推測する。

(//‰゚) (早く奴等を追わなければ、見失う可能性もある)

骨の触手を2本伸ばし、中の壁に突き刺す。
触手を軽く動かして奥深くまで刺さっている事を確認すると、ギコは暗闇の空間へ飛び込み、
上へ上へと触手突き刺して壁に沿って昇ってゆく。
その速度はエレベータのそれを遥かに上回っている。

(//‰゚) (このボストンを、ブーン、貴様の墓にしてやる)

ギコの意思は、無数の触手全てに伝わってゆく。
触手は一瞬たりとも止まる事無く動き続け、ギコを上に運んでゆく。
この日得た「触手」という新たな器官は、
既に自分の手足を操るのと同じ感覚で動かされているのだ。

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:13:28.04 ID:FKnyIzeg0
本来、エレベータを使用すれば数分を要するところを、
ギコは一分足らずで最上階層に到着した。
左腕は再生こそしたが、仕込んでいた銃はブーンに破壊されている。
その為ギコは、右腕の長槍を使ってエレベータ内に侵入する事にした。

触手がしっかりと壁に固定されているのを確認し、右腕を大きく振るう。
槍は5回エレベータの底を突き、ギコの体が通れるくらいの巨大な穴を作った。
使用していない肉の触手を穴に通して、先端をエレベータの床に突き刺す。
触手に持ち上げられるようにして、穴を通る。

エレベータ内に侵入して最初にギコが目にしたのは、彼が見慣れていた機械だ。
それは彼の愛機である、深紅の輝きを放つ可変型バイクである。

(//‰゚) 《SCORPION……》

ギコは、愛機の名を呟いた。
SCORPION(スコーピオン)と呼んだバイクに歩み寄ると、そっと左手でボディを撫でる。
ギコ自身は気づいていないが、光沢のあるボディに反射して映った彼の瞳は、
ほんの少しだけ穏やかであった。

(//‰゚) 《SCORPION、俺を乗せてくれ》

はっきりとした口調でバイクにそう乞い、ギコは肉の触手をバイクに伸ばした。
まるでバイクの構造を熟知しているテクニックの如く、触手は的確にバイクをバラし始める

そして、ギコの下半身が大きく変異し始めた――――

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:15:23.37 ID:FKnyIzeg0


3人はエレベータで地上へ昇り終え、構外へ出ていた。
地上……ここに来てまだ3日目であるが、ブーンには久方ぶりの地上のような気がした。
一日一日が途方も無く長いのは、その日々全てを戦いで過ごしているからだろうと、ブーンは思う。

密着して聳える塔の塊、その隙間から見える青の空。
朝から戦いっぱなしであるというのに、日は真上を少し過ぎた所にある。

「まだ、今日の戦いは終わらないのか」、疑問がブーンの脳をかすめる。
しかし終わらせたくはもないのだ。
そんな矛盾を自覚しながらも、次のギコの襲来に向けて準備を進める。

( ^ω^)『オッサン、どうするんだお? バイクでボストンを抜けるかお?』

スネーク『いや、このままボストンを出ようとしてギコに見つかるのもマズい。
      生きているのかどうか分からんがな。それに、他のセカンドも活動している……。
      まずは安全な場所を見つけ、ビロードを手当てしよう』

( ^ω^)『同感、だお』

サイドカーに揺らされているビロードは、ただ「ママ、ママ」と呟いている。
先ほど目を覚ましたのだが、まともに喋る元気すら残っていないようだ。
ただビロードは、首にかけた母親のペンダントをぎゅっと握り締めていた。

(  ω )(しぃさんを殺した僕を、この子はどう思っているんだお……)

考えようとしたが、首を振って気を切り替える。
「今は安全確保に集中しなくては」と、機械の目を動かした。

83 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:26:48.79 ID:FKnyIzeg0

スネーク「若いの、校舎の屋上へ行くぞ」

( ^ω^)「屋上?」

聞き返しながら、ブーンは校舎を見上げた。
そういえば、こうしてハーバードの全貌を見るのは初めてだ、とブーンは思う。
洗練された造りと超高層を誇る校舎は、科学都市の名に相応しい建造物の一つである。

瞳の倍率を上げて様子を窺うと、確かに屋上らしき構造を備えているのを確認できた。
セカンドの熱量反応や、不審な物音も聞こえない。

スネーク「これだけ高ければ、セカンドも滅多に来ないだろう」

( ^ω^)「飛行タイプの“でっていう”がいるお。
      飛べなくとも校舎をよじ登る奴等もいるかも」

スネーク「物音と熱反応に注意すればいいだけだ。
      何かが来てもお前が迎撃すればいい。ビロードの手当てを急ぐぞ。
      それに、考えている時間は少ないはずだ」

ブーンは遠くに見える校舎内のエレベータ乗り場を一度見る、
確かにあまり悩んでいる時間は無い、と思い改める。

――ギコは生きている。
グレネードはフロアを破壊し、威力を拡散してしまったはずだ。
ギコの作る「繭」の反応速度と耐久力ならば、致命傷まで至らせなかっただろう。

85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:30:55.86 ID:FKnyIzeg0
それに、ギコに対しては抗体のダメージが期待できないようだ。
原因不明であるが、あの再生速度は何よりも厄介だ。

ギコを倒すには、頭部や心臓部を破壊するしか無い。
その為には、どうにかして触手の防壁を突破しなければ――。

戦いを組み立てている最中、「おい若いの!」という大きな呼びかけで、
ブーンの意識はスネークへと移った。

スネーク「さっきから『行くぞ』と言っているんだが。
      耳でも故障したのか? ん?」

相変わらず皮肉っぽいスネーク。
しかし、顔は真剣そのもの。

(;^ω^)「すまんお。行こうお、オッサン」

今はビロードの手当てが優先される状況。
再び当初の目的から気を移していた事を、ブーンは詫び、反省した。


2機のバイクが軽く助走した後、タイヤ周りを大きく変形させ、空中へ。
壁面に対し平行方向に沿って上昇し、瞬く間に屋上へと到達する。
ボストンの閉塞的な空間を抜けると、一面の空が現れた。

86 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:33:12.50 ID:FKnyIzeg0
予想通り――勿論、走行中は反応に注意していたが――屋上にセカンドはいない。
安全である事に、一先ず2人は安堵する。

校内と同様で広々とした屋上である。
白線が円形で描かれている事から、ここはヘリポートでもあるようだ。
別にその事を意識している訳ではないが、2人は白円の中央にバイクを停める。

スネーク「セカンドの接近に気をつけるぞ」

( ^ω^)「分かってるお……それにギコさんにも」

スネーク「やはり生きていると思うのか?」

バイクの右ボディを開きながら、スネークは尋ねた。
右ボディは段階的に展開し、羽のように大きく開いた。
ブーンの“BLACK DOG”と同じ仕様である。

( ^ω^)「生きているお……あの程度じゃ致命傷にならないはずだお」

スネーク「正直に、ギコを倒せそうか?」

治療器具や薬剤を用意しながら、スネークが尋ねた。

( ^ω^)「いや……自信は無いお。単純に、戦闘能力で……」

スネークの表情が曇る。
単純な身体能力をギコと比較すると、明らかに自分は劣っている。
にも関わらず、頼みの綱であるブーンの返答も、そう明るくはないからだ。

87 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:35:40.37 ID:FKnyIzeg0

スネークの不安を汲み取り、ブーンが続けた。

( ^ω^)「オッサン。僕は絶対にビロードを守るお」

スネークは軽く頷いただけで声を返さなかったが、
スネークの表情は少しだけ軽くなったように、ブーンには見えた。
信頼の証し、ということなのだろうか……ブーンはそう思った。

思考を切り替える。
重傷者が一人、自分とスネークも非常に危険な戦闘状態にある事から、
ブーンは支援を要請すべきだと考え、ツンに通信した。
すぐに、応答。ツンの声が久しくブーンの耳に通る。

ξ゚听)ξ『はいはい、いきなり通話なんてどうしたのよ? 』

( ^ω^)「すまんお、悠長に話してる場合じゃないんだお、ツン。
      バトルスーツをすぐに向わせて欲しいんだお」

ξ;゚听)ξ『は!? 何よ急に!? ちょっとハイン、ハイン来て!!』

ブーンの携帯端末のスピーカーから『なんだなんだ!?』と慌しいざわめきが流れる。
『ブーン!? どうしたんだ!?」という声はドクオだ。

( ^ω^)「ツン! のっぴきならない状況なんだお! ケガ人もいるんだお!
       いいから応援を寄こせって言ってるんだお!」

ξ;゚听)ξ『お、怒らないでよ! 今、ハインとガイルさんが準備に行ったから!
       すぐにボストンに到着するはずよ! それまで持ち堪えて!』

89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:38:34.23 ID:FKnyIzeg0
そこでブーンは通信を切る。
少し冷ややかなスネークの視線に気づき、ブーンは狼狽する。

(;^ω^)「あ、『セントラル』から迎えを呼んだんだお」

スネーク「随分騒がしい連中なんだな。何時間後に到着する?」

( ^ω^)「迎えの足は速いお。2時間後には恐らく」

スネーク「そうか……何とか持ち堪えねばな……おい、ビロード、しっかりしろ」

スネークは、サイドカーに乗ったビロードを慎重に抱きかかえ、地に降ろす。
用意した物の中から、まだ開けていないボトルを手に取り、内容物の水を傷口に流す。
澄んだ水は濃い赤色を宿して、隈なく周囲に広がってゆく。
伴い、ビロードが悲痛な唸りを喉奥から上げた。

スネークは消毒液で両手を洗った後、多量の脱脂綿に同じ物を含む。
アルコールの臭いがビロードの鼻を突き、顔を僅かに歪ませる。

(;><)「ぎゃあああ―――――っ!」

肩の傷口を拭われ、ビロードは激痛に悲鳴を上げた。
ビロードの顔は苦痛により歪む。
「我慢しろ」と呟き、今度は注射器を傷口に押し当てようとした。

91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:40:12.32 ID:FKnyIzeg0

――その時、極小であるが金属的な破壊音が2人の耳に入る。

位置はハーバード校内、地下研究区画向けの物資運搬用エレベータ。
2人のサイボーグはセカンドの熱量を感知されていないが、ギコが上がって来たと断定する。

ブーンは、耳を欹てる感覚で次のギコの物音を待った。
スネークも、悲鳴を上げさせないようにとビロードの口を手で塞ぎ、今は処置を行う手を止めている。
水を打ったように、屋上は静まり返る。

唸るような音が、2人の耳に入った。
徐々にボリュームを増す高鳴りは、走行中のバイクが出すあらゆる音だ。
エンジン、排気、そしてバイク下部から噴出されるブースト……。
すぐにブーンとスネークは不可解な顔を浮かべるが、疑問の声が口から出るのを堪えた。

(;^ω^)『とてもバイクに乗れるような体の大きさじゃなかったお』

優に3メートルを越す巨体であり、その随所に刃や触手を
生やしたギコの体では、バイクなど乗れないはずだ。

――音源が校外に現れる。

2人は物音を立てずに、じっと目と耳の機器に集中する。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:42:58.11 ID:FKnyIzeg0

スネーク『姿は見えんが、まさかバイクと同化しているのか?
      奴のバイクと身体の熱量が被さって表示されているが……』

無声による通話が、ブーンに受信される。
返すよりもまず、「その通りだ」と胸中で同意した。
下方から飛んでくる熱量反応は、スネークの言うような「像」を作っているのだ。

( ^ω^)『……サイボーグが変異した例なら、あるお。
      でも、変異を始めれば各種機器は破損して、全く別の身体へ変貌するお。
      機械と同化しているセカンドなんて、聞いた事も見た事も無いお』

ギコさんを除いて、と言い足す。

スネーク『待て、確かギコの身体は――』

ブーンの脳裏に、同じ予想が同時に浮かぶ。
今も尚、正常にギコの持つ各サイバーウェアが動いているとしたら?
――確実に聞かれている、見られている。2つのバイクのエンジン音を、熱を。

ブーンとスネークが気づいた時と同時、ギコは校舎に方向を転換させる。
バイクのエンジンを一気に加速させて上昇――10秒を満たさずに「塔」を駆け上がってくるだろう。

「早く臨戦態勢を整えなければ!」、ブーンはBLACK DOGに跨り、武器庫を開く。
グレネードのカートリッジを補充し、Sniperを2挺取り出す。

94 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:44:53.23 ID:FKnyIzeg0
ブーンとスネークの目が作っていた「熱の像」が、直接その姿を現した。

今のギコを形容するならば、差し詰め神話に登場するケンタウルス、といったところか。
ただし、半人半馬ならぬ、「半人半機械」である。
腰から下にあるのは、ギコの深紅のバイク“SCORPION”。
触手などの肉に少しばかり包まれてはいるが、肉から垣間見える赤色のボディはギコの愛機のそれ。

ちょうどハンドル部の辺りが、ギコの腰と接続されている。
そこから後方へバイクのボディが伸びている。
ギコの両足は失われず、フロントボディの両側面に移動されたようだ。

破壊したはずの左腕が、また花の蕾のようになっている。
そしてバイクのボディに接続する形で、背部の触手に似た太い管が肘から伸びている。
その存在感から左腕を懸念した思ったブーンは、スキャンする。
銃器と、バイクから伸ばした給弾ベルトが腕の中を通っているらしい。

腰と接続するハンドル部も、それと同様の作りになっている。
バイク操作の為に肉体改造を行ったようで、特にギコの身体の内部構造は
人間や動物とはかけ離れた物となっている。

ハンドルに掛かる肉と骨。
タッチパネルやボタンを押す為に生えた、指の形に似た突起。
その他、バイクのあらゆるオプションを使用する為の器官。

バイクの構造を知り尽くしていなければ出来ない芸当だ。
「やはり、ギコの意思によってウィルスが作用している、という事なのか」、
今までに無い例に、ブーンは戸惑いながらも現実として受け止める他無かった。

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:47:17.52 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚) 《馬鹿な奴等だ。もっと遠くに逃げればよかったのにな》

屋上を見下ろす形で周囲をゆっくりと旋回し、ギコは不敵に言う。
SCORPIONの両サイドが肉のメッシュをぶちぶちと千切って開き、
銀に鈍く光る砲門を4基展開する。砲門は流血で染まりながら、鳴動する。

(;^ω^)『オッサン! ビロードを頼んだお!』

スネークの足元にSniper1挺と対応するカートリッジを投げ、ブーンはバイクを変形させる。
いざ離陸せんとした時、ギコのバイクから小型ミサイルが4つ発射された。

ブーンとスネークはSniperを構え、それぞれ2つずつミサイルを爆破させる。
屋上を叩き付ける爆風が、ビロードの為の治療器具を吹き飛ばしてしまった。

スネーク『ギコをここから離してくれ! 治療を終えたらすぐに向う!』

スネークは無声通信でブーンと意思疎通を試みる。
しかし、既にその場にブーンの姿は無い。
会話をせずとも、2人の意思はスネークの言う通りに共通していた。

熱気と共に漂う黒煙の中へ突入し、ブーンはギコに接近する。
ギコの正面ではなく、やや角度を付けて突撃した。
だがしかし、音で探知される為、煙程度ではカムフラージュにはならない。

(//‰゚) 《死ね!》

ギコは至って冷静に、接近する獲物に左腕を向ける。
咲いた蕾の中心――大口径のライフルの銃身だ。
弾丸ならぬ砲弾が、撃ち込まれる。

98 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 17:49:19.51 ID:FKnyIzeg0
BLACK DOGのスピードでは避けきれない射出速度と距離関係だ。
情報処理システムが解析した情報を、瞬間的に理解したブーンは、
淀みの無い動きでSniperの引き金を引き、まず砲弾を消滅させた。
Sniperの光弾は、そのまま射線上にあったギコの左腕を消し飛ばすかに見えた。
しかし、それを予想していたのだろうか、骨製の触手がギコの腕部を覆っており、代わりに破裂した。

ギコの腕にダメージは無い。
そして折れた触手は、既に元通りの姿へと再生を終えている。

(;^ω^)(どうにかして致命傷を与えないと……!)

ブーンは焦りを感じながら、カートリッジを補給する。
Sniperのカートリッジはいずれ底をつく。
Sniperが唯一の有効兵器であると考えると、早期に戦いを決する必要がある。

ブーンの左腕の付近で蒼の輝き――BlueMachingunだ。

距離を大きく保って、空を旋回し続ける両者。
ブーンはギコからの銃撃に備え、BlueMachingunを撃ち続けて弾幕を張る。
その弾幕から外れた角度へと、ギコが走ってゆく。
そこをSniperで狙い撃つ――しかし、やはりと言うべきか、防御されてしまう。

(//‰゚) 《無駄なんだよ! 諦めて死ね!》

ギコの声が、数多の発射音に紛れてブーンの耳に届いた。
それとほぼ同時、ギコの“下半身”が左右に開かれる。
武装ヘリなどでよく目にする、2基の機関砲だ。

105 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:03:49.13 ID:FKnyIzeg0
一度に6発、計12の弾丸を速射し続ける機関砲。
対しBlueMachingunのそれは、完全に劣っている。

攻防が入れ替わった。
機関砲の射線上から逃れようと、ブーンは回避に徹する。
ハンドルは握らないが、BLACK DOGを最高速度で空を駆けさせている。

急激な上昇と降下を繰り返し、または錐揉みの状態で下方向に旋回。
無論、ギコもバイクを走らせている。
黒の影と金髪の靡きを目印に、弾丸がその後を追い続ける――。


バイクチェイスは、都市の奥――建造物の密集地帯へ移ってゆく。

ビルの隙間に入れば、必然的に動きは直線を描がく物となる。
ブーンは、なるべく広いストリートの上を走る事を心がける。

ブーンとBLACK DOGは地面すれすれを高速で行く。
金属製の地面にブースターの痕が続き、その上に無数の弾痕が出来上がってゆく。
突貫性のある弾丸は、地面に内臓されているオートメーションにまで届き、爆破させる。

(;^ω^)「うおッ!?」

一箇所の爆破が他所の誘爆を誘い、噴火の如くストリートが爆発する。
爆発は大規模。その破壊力が周囲に伝わる。
倒壊する信号、落下する看板広告。
窓枠から破裂して散ってゆくガラスに紛れ、建造物の骨組みである金属が降り注ぐ。

107 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:07:31.45 ID:FKnyIzeg0
BLACK DOGに乗るブーンには、ガラスと金属が浮いているように見えた。
スローモーで落下する物体の間を、縫うようにして走行する。
その後ろから弾丸が飛んでくるが、幸いにも落下する物体にある程度は遮られている。

情報処理システムが提示するルートを通り、スコールを最速で抜けるが、
ギコはブーンの後方から離れようとしない。
若干、距離が広がっている程度だ。

速度はブーンのBLACK DOGが上回るが、その差は僅かな物。
歴然とした優劣ではない。

(;^ω^)(クソッ! なかなか距離が取れない!)

その為、Sniperを構える余裕が生まれないのだ。
状況は一変せず、ブーンは防戦を強いられている。

(//‰゚) 《そろそろ墜ちろ!》

ギコが左腕のライフルを使用した。
紙一重で回避可能な距離を飛ぶブーンは、BLACK DOGを急上昇させた。
しかし、砲弾はBLACK DOGのリアボディの先端を掠め取り、爆発こそしなかったが震動を起こした。

(;゚ω゚)「しまっ――――!」

リアボディから発生した「震動」は、車体全体を揺さぶった。
揺れて安定を欠いたBLACK DOGは、一瞬速度を落とした。
機を見逃さず、ギコが追撃を放った。
ブーンの情報処理システムは回避行動を提示しない――回避不能、まずい。

109 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:11:22.61 ID:FKnyIzeg0
中空を一条の光が蒼に染める。
軌道に僅かながら蒼色の粒子が残った光景は、一瞬ギコの目を奪った。
刹那、2箇所で爆発が起きる。

飛来した先の地面のオートメーションが一つ。
そして光の軌道上にあった砲弾が一つだ。


スネーク「待たせたな!」


1キロ以上離れたビルの屋上に、Sniperを構えるスネークがいた。
ブーン達を見下ろす形での、遠距離狙撃だった。

(;//‰゚) 《スネーク! 何処だ!?》

Sniperの発射音と軌道を辿り、スネークの位置を特定するギコ。
目のズーム機能を使用し、今も尚ライフルの銃口を向けるスネークの姿を見た。
骨の触手で分厚い盾を形成し、弾丸の飛来に備える。

――中空に浮かぶ、黒い煙と炎の塊。
それを断ち割るかのように、弾丸が走った。
予想していない別方向からの射撃に成す術は無く、ギコは「下半身」に被弾する。

弾丸はエンジン部を貫き、“SCORPION”を爆発させた。
セカンドウィルスによって強化されている肉体とはいえ、
剥き出しの内臓器官を焼かれるのは激痛のようだ。

炎に包まれながら落下するギコ。
それまで怒りに歪んでいた表情が、苦痛のそれへと変わっている。

111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:14:45.79 ID:FKnyIzeg0

だが、ウィルス細胞は活性している。
炎の中、皮膚を焼かれ神経を炙られる激痛を感じようとも、
次々に細胞は分裂を繰り返し、新たな皮膚と神経を作り上げてゆく。

( ^ω^)(ここで、倒すお……!)

BLACK DOGのタッチパネルが輝き、落ちてゆくギコに向って高速で駆ける。
案の定、ギコは繭に包まって追撃に備えた。

( ^ω^)『撃ってくれお! オッサン!』

無声通信による合図を切欠に、2方向から弾丸が放たれる。
ギコを覆う触手は木っ端微塵に破裂し、包容していたギコを露にさせる。
同時に、ブーンは接近を終え、射程距離に入る。

BBBladeを振るう為の距離に。

(#^ω^)「おおおおおおおおおおおおおッ!」

BBBladeをギコの腹に突き刺し、真横に払う。
人間で言うヘソから大きく引き裂かれ、夥しい血液が腸と共に吹き出る。
ギコは痛みに狂いかけるが、炎が顔を燃やす今、口を開ける事は堪えたい。
その拷問から脱したいのか、骨の触手が数本再生し、ブーンを襲う。

114 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:16:48.49 ID:FKnyIzeg0
一閃し、斬り払う。
抗体で硬度を落としているらしく、ブーンの手に手応えが伝わらない。
再びBBBladeを持ち上げ、今度は左胸に突き刺した。
左の肺が潰れ、太い頚動脈が切断される。

(;//‰゚) 「――――――ッ!」

歯を食いしばって激痛に耐え、右腕の長槍を振るう。
ブーンの頭部目掛けて切先が走る。
無意識的に起動させたプログラム、“Booster”で、
運動性能と右腕の攻撃力を向上させ、迎撃に向わせる。

超高速で振るった右拳が、槍を粉々に破壊する。
槍から飛ぶ血漿が、落下スピードを得て燃え盛る炎によって蒸発する。

BBBladeを刺されたまま、ギコは地に落下し、
2、3バウンドした後にビルの外壁に衝突する。
左胸に突き刺さったBBBladeが壁を貫き、ギコを外壁に釘付けにする形となった。

(;//‰ ) 《さ……再生が……》

身体を焼く炎は鎮火したが、それでも再生が始まらないのは、
左胸のBBBladeが抗体を流しているから。というのが一つ。
更に、度重なる再生を経た事で、ギコは枯渇しているのだ。
肉体を構成するタンパク質、鉄分、水分などの養分が。

ギコは激痛と共に、強い飢餓感に襲われているはずだ。

116 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:19:25.56 ID:FKnyIzeg0
ブーンはギコを追って地上へ降下した。
バイクを降り、BlueBulletGunを構えてギコに歩み寄る。

目は虚ろで表情は芳しくない。
肌は健康的な赤を失っている。
何より、失った下半身や触手の再生が始まっていない。


――――殺すなら、今しかない。


(;^ω^)(撃つんだ……撃つんだお……!)

さあ撃て! 撃つんだ、ブーン!
そう言い聞かせても指は動かない。
銃口はピタりとギコの頭部を捉えて外れようとしない。

だが、何故また、トドメの一撃を撃てないというのだ。

いや、思えば、先ほどのチェイスでも殺す機会はあった。
触手を突破しがら空きになったのは腹や胸だけじゃない。
頭部を貫く事も出来た。肺ではなく心臓を切断する事も出来た。

どうして、どうして何だ。
何故、ギコさんを殺せないのだ。
ビロードを守ると、オッサンにも誓ったじゃないか。

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:22:35.97 ID:FKnyIzeg0



(*゚ー゚) ( ´_ゝ`)


(;゚ω゚)「い、今のは……」

幻覚か? とブーンは疑ったが、違うらしい。
確かにブーンの目には映ったのだ、シーケルトとアニー(セカンドの)の顔が。

それは、一種のバグであった。
人口ではないブーン自身の脳の部分が強い感情を発生させ、
シーケルトという記憶を脳から引き起こし――、

――人口の神経核を通り、
結果、ブーンの人口網膜にフィードバックされたのだ。


そしてブーンは気づく。
何故、このような像を見たのかを。


(; ω )(ビロードを守るというのは、僕の……)

自分の甘え、逃げ――つまり現実からの逃避。
シーケルトを殺したという現実から目を背けていたという事を。
ビロードを守る事で罪を滅ぼせると言い聞かせ、
ブーンはシーケルト殺害という事実から背けていたのだ。

118 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:26:39.94 ID:FKnyIzeg0
では、真にやるべき罪滅ぼしとは?
少なくとも、シーケルトはきっとギコが死ぬ事を望んでいないはずだ。

シーケルトは、セカンドとはいえどアニーを庇おうと死んでいった。
弾丸を受けた事そのものは偶然だったが、確かに庇おうとしたのだ。
アニーを殺さないで欲しいという一心での、行為だったのだ。

(; ω )「う……これは……」

再びフィードバックが起きた。
先ほどと同様にはっきりとした映像。


( ゚д゚ ) 从 ゚∀从

クォッチと名乗ったセカンド、ミルナ・アルドリッチと、その実妹ハインリッヒ。
像が残ったまま、今度は幻聴……いや、確かに声がブーンの頭に木霊したのだ。


ξ;゚听)ξ『彼に記憶と理性が残っていれば、戦わずに済むかもしれないわ!』

それは、ツンの声だった。
クイーンズ区でのミッション中、ブーンは彼女の言葉を否定し、
ミルナ・アルドリッチを“セカンドとして”殺害した。

何故か? それは彼が人間ではない、そう判断したからだ。
人間と街を蹂躙する姿は、セカンドそのものだった。
ましてや自らを「クォッチ」という“セカンドの名”を名乗ったから、そう判断した。

120 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:30:34.27 ID:FKnyIzeg0


(;//‰゚) 《お前……何を……している……?
       殺すなら……さっさと殺せ……よ……!》


(; ω )「ぼ、僕は…………」


――シーケルトを殺した自分が出来る、彼女への罪滅ぼし。
それは、ギコと戦わずに全てを収めるという事なのだろう。


(;^ω^)「僕は……僕は貴方を撃てませんお!
      貴方を殺す事なんて、できませんお!」

ブーンの叫び声が、荒廃した大都市の中で響いた。


(//‰ ) 《ブーン……俺は……俺は……》

123 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:33:07.32 ID:FKnyIzeg0


スネーク「ビロード、傷は痛むか?」

(;><)「ちょっと痛いんです」

スネークは深く息を吐いた。
鎮痛剤の効きもだが、スネークは自分の行った処置が適切であった事に安堵した。

彼等はまだ、先ほどの狙撃ポイントから移動していなかった。
これまでの騒ぎを聞きつけた大勢のセカンドが動いている。
ビロードもいる、迂闊に移動すれば危険と、スネークは判断したのだ。

しかし、苛立ちを隠せずにいられなかった。

スネーク「クソッタレ……何をやっているんだアイツは……!」

ズームでブーンの様子を窺っていた。
銃口を突き付けたかと思えば、中々撃とうとしない。
まだ、迷っているというのか。

(;><)「スネーク……何でブーンはしぃを殺したんですか?」

子供ながらに疑問に思っていたか。
そうスネークは思ったが、ビロードはもう10歳になる少年である事を思い出した。

127 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:34:57.29 ID:FKnyIzeg0

スネーク「ブーンは人殺しなんかじゃない。
      皆を守ろうとしていた。お前の事も……だが」

ビロードは黙って続きを待った。
スネークは少し考えた後、続けた。

スネーク「……あれはきっと、どうしようもない事だったとしか言えん。
      あのセカンドがアニーだと分かっていれば、
      若いのはきっと引き金を引かなかっただろう」

オットーに罪滅ぼしを迫り、ギコのサイバーウェア
“System-Hollow”を解除する……それが最善だったはずだ。

スネーク「シーケルトも、アニーを守ろうとして死んでしまった。
      ビロード。ブーンは今、お前の事を守ろうとして戦っている」

(;><)「ギコは、僕達の事を殺そうとしてるんですか……?」

スネークはビロードの目を見て頷く。

スネーク「皆が皆、誰かを守ろうとして戦うんだ。
      そして誰かが死に、誰かが憎しみを抱く。それが戦争。憎しみの連鎖だ」


スネーク(迷っていてはお前が殺されるぞ、若いの)

128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:36:26.69 ID:FKnyIzeg0


(;^ω^)「お願いですお、ギコさん。もう止めましょう。
      シーケルトさんも、こんな事望んでいないはずですお」

銃口を下ろすどころか銃をホルダーに仕舞い、
こちらに戦いの意思は無いのを示す。

(//‰ ) 《……ブーン……》

無防備の状態で、互いの手が届く位置までギコに近づくと、胸を刺すBBBladeの柄を握った。
出力を0に落とすにつれ刃は消えたが、血管を焼いている為に胸から血は流れない。

(;^ω^)「もう、止めましょう……他の方法を考えましょう、ギコさん)

BBBladeの柄をホルダーに収め、ブーンは言った。


(//‰ ) 《お、俺は……ブーン……》

ギコが絶え絶えに声を発す。
深く息を吸い込み、吐き出す。


(//‰ ) 《ああ、そうかも……しれない。優しい……しぃの事、だ、
      こんな事……望んでいない……アニーを庇ったのも、そういう理由から……》


( ^ω^)「ギコさん……」

132 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:37:50.61 ID:FKnyIzeg0


(//‰゚) 《だけ……ど、俺はど……しても……お前……を殺したいッ――!》


BBBladeが抜けた事により、動かせなかった左半身の感覚が僅かに戻る。
蕾が割れ、ライフルの銃口を露出させると、すぐにブーンに向けて撃った。
ブーンは、ギコの攻撃動作から反射的に回避を取っていたが、如何せん距離が近すぎた。

直撃は免れなかった。
左腕に直撃した砲弾は爆発し、左腕の肘から先を破裂させた。

砲弾は、特殊な金属で作られている。
爆発のパワーを得て微粒となった砲弾は、ブーンの左腕を中心に飛び散り、
主にブーンの左半身の耐久力と機能を減少させた。

数メートル、後ろに吹き飛ぶ。
倒れはしなかったが、ブーンの左半身は強化皮膚が剥けてプレートが露になっている。
プレートをも破壊され、内部の機構まで見え隠れしている部分も。

(; ω )「おあ、うおえ、え……!」

臓器を散々に痛めつけられ、ブーンは耐えようも無く血を吐いた。
腹部の亀裂からも血が――どうやら割れたプレートが突き刺さっているようだ。

ギコの追撃は無い。ライフルに込められる弾丸は一発限りなのだ。
しかし、次なる手を着々と進めていた。

133 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:39:40.67 ID:FKnyIzeg0
ギコの背凭れとなっている壁。
そこに墜落した際の衝撃は建物一階に広がり、そしてギコの背へ返る。
それはソナーのように、内部の構造や物の位置を探知し、ギコに伝えたのだ。

情報の中に、形状に違和感のある物体が2つ、すぐ近くに――。
無機物ではなく生命体、セカンドが――食料がある。

(;//‰゚) 《がああああああああ!!》

最後の力を振り絞り、残った触手を操る。
井戸の底に溜まった僅かな水分を飲むように、枯渇した体に
残る微量の養分を触手に回し、硬度の再生を図る。

壁が破壊され、セカンド特有の熱量反応が現れる。
ギコの想像したとおり、その生命体は見知った存在であった。

“でっていう”。ギコ自身も散々手を焼いた化物だ。
突然の衝撃音を気にかけ、ギコの背後に位置する部屋に集まっていたようだ。
更に壁が破壊され、2匹の野獣は泡を食って固まる。

2匹は触手に捉えられる。
目や鼻から触手を侵入されて脳をかき回された後、
大きく開いたギコの胸部に無理矢理詰め込まれた。

(;//‰ ) 《ああああああああああああああああああああ!!!》

胸を閉じ、消化を開始する。
いや、既に細胞レベルで反応を始めているらしく、
ギコの全身がグネグネと動いている。

135 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:41:26.33 ID:FKnyIzeg0

(;゚ω゚)「何で……ギコさん――――」

問いかけは喧噪によって掻き消される。
上階に潜んでいた“でっていう”が降りてきたのだ。
ギコに問い詰める余裕が奪われる。

降りてきた“でっていう”の数は3。
先頭の1匹目が迷わずギコを喰らおうと飛びかかるが、蠢く触手の中に引きずり込まれる。
黒々とした血液を、叫び声と共に上げた。

強敵であると認知した残りの2匹は、触手を避けて外に出ようとした。
背を向けて逃げている獲物――ブーンを喰ってしまおうと。

(;゚ω゚)「なんで、こんな奴等が潜んでいるんだお!!」

ブーンは動きの悪い足で懸命に地を蹴り、BLACK DOGに辿り着く。
直ちにバイクを発進させるが、強烈な打撃がブーンの背後を襲った。
“でっていう”の頭突きだ。
座席から叩き落されたブーンは、地を転がる。

転がりまわる獲物を蹂躙すべく、“でっていう”が跳躍してバイクを乗り越える。
飛ぶ感覚で地を行き、2匹はブーンを眼下に捉えた。
重力に身を任せて落下しながら、いざ喰らおうと首を擡げると、
上空からの狙撃を受け、頭部を木っ端微塵に破裂してしまった。

スネークが降りてくる。

138 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:43:41.92 ID:FKnyIzeg0

(;><)「ブーン!!」

スネーク「若いの! 立てるか!?」

バイクから降りて来たスネークとビロードがブーンに駆け寄る。
スネークの手を借りてブーンは立ち上がる。

(;^ω^)「そ、それより……すまないお、オッサン」

小さな声で、トドメを刺さなかった事を謝るブーン。
ダメージで声が出せない訳ではなく、スネークに顔向けが出来ないのだ。

スネーク「言い訳は後で聞く! それよりライフルの弾丸を――」

BLACK DOGの方へ視線を向けたと同時、スネークの口が止まる。
視線の直線上――つまりバイクの向こう側にいるはずのギコが、いない。
ビルの一室には、夥しい血液で描かれた血の痕しか見られない。

2人の左目に一瞬、熱量反応が現れ、そして消えた。
相次いで熱量が現れては姿を消す。
しかし位置は分かる、上空だ。

(;^ω^)「ギコさん! もう止め――」

反応が出ていた辺りを見上げてみるが、何もいない。
再び熱量反応が現れる。地上――BLACK DOGの付近。
セカンドの熱量反応が現れているそこで、爆発が生じた。

141 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:46:10.27 ID:FKnyIzeg0
BLACK DOGが踏み潰されて巻き起こった爆炎の中、
変異を完了したセカンド・ギコが毅然と歩いていた。

頭部と右腕を除いて、もはや姿は原型を止めていない。
“でっていう”のDNAを読み取って構築したその姿は、まるで伝奇上の悪魔だ。
10の尾と6の翼。皮膚の上を覆い尽くす青々とした鱗。
下半身は分厚い筋肉で作られた両足を生やし、先端には長い鉤爪がある。
左腕の銃器を捨て、腕を足と酷似した形へ変えていた。

僅かに残ったドレッドヘアーと機械の瞳が、
かろうじてギコという人物を特徴付けていた。

(//‰゚) 《俺は、ブーン、お前の事が憎くて堪らない……!
      俺を止めたかったら……しぃを返せよ! しぃを!》

2人の視界から、ギコの姿が消える。
音を頼りに位置を特定するが、気づいた時には2人は地を転がっていた。
長槍が、スネークをブーン諸共殴り飛ばしたのだ。

スネーク「がはぁっ!」

スネークは右腕を圧し折られ、脇腹を凹まされた。
右腕のクッションだけではショックを吸収しきれず、臓器を痛めてしまったらしい。

(;゚ω゚)「サイドカーの中に隠れてろ! ビロード!」

ダメージの小さいブーンはBBBladeを閃かせ、前に出た。
ギコの不気味な顔が余裕に満ちている。
その表情通りの態度なのか、ギコはブーンの攻撃を待つように直立不動する。

145 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:49:00.72 ID:FKnyIzeg0
ギコが避け難いように、斜めに剣を振るう。
高速の剣がギコの胸を斬り裂いたように見えたが、斬ったのは仄かに揺らめく像だった。
避けられた――そして熱量反応が消失している。音を、音を探れ。

(;゚ω゚)「上ッ――――」

一瞬、ギコが熱反応と共に見えた。
かと思えば、その1メートル半ほど下の空間に、再び姿を現している。
耳鳴りに似た音と残像を追い続ける。

ギコは、ブーンの真後ろに回る。
ブーンは、背後を取られた事を感知したと同じタイミングで踵を回し、剣を振るった。
しかし手応えは無し――だが熱量の反応は残っている。

視点を右回りに移動させると、ギコが立っていた。
その大きな体を使ってブーンを見下ろし、長槍を思い切り引き付けて。
「死ね」という冷たいトーンと共に、槍が振り落される。

(;><)「ブ――――ンッ!!」

サイドカーから覗くビロードが、叫んだ。


「決定的な死」がブーンの頭を過ぎったが、長槍は振り落されない。
傍で見ていたスネークが、電磁ナイフをギコの脇腹目掛けて投げ、動きを止めたのだ。

148 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:52:04.74 ID:FKnyIzeg0
それにより生じたラグを使って、ブーンは“Booster”を起動する。
身体に流れる電流の痛みに耐え、ギコが槍を振り落した。

(;//‰゚) 《なっ――――!?》

長槍と拳が衝突。
ブーンの拳が、長槍の中ほどまで粉々にした。

(;゚ω゚)(死ぬべきなのは……僕なのか……!?)

ギコは、「少し遊びが過ぎた、すぐに頭を貫くべきだった」と心内で悔いた。
しかし、こちらの――ギコの優位は揺るがない。
基本的な身体能力は完全にブーンを上回っているのだ。
この至近距離での攻撃をかわす事は出来まい。

(; ω )「あ゙ッ――――」

ギコの思惑通り、左の爪3本が、ブーンの左の胸から腹に掛けて拳大の穴を開けた。
背まで貫かれ、血と機械の部品が飛び散った。

スネークが形振り構わず飛び出す。
最後のナイフを握り、ギコの頭に向かって跳躍する。
しかしながら腕を振るう間も無く、ギコの尻尾に叩き落される。

(//‰゚) 《お前は引っ込んでろ! スネーク!》

再生を終えようとする右腕の槍を、引く。
左腕はこのまま刺したままに、ブーンの動きをロックする。

151 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:53:51.80 ID:FKnyIzeg0
だが、ブーンは怯まなかった。
「“Booster”が持続している内に、ギコの動きを止めなければ」と、
身体を貫かれている事など構いもせず、一歩踏み出す。
そして無意識に、いや、偶然なのだろうか、突き出された蒼く輝く右腕がギコの心臓を狙って走る。

(;゚ω゚)「―――――ッ!!」

――殺すつもりは、最後まで無かった。でも、ビロードとスネークを死なせたくない。
それだけが、今は怖い。死んで罪を償えるなら、そうするよ、ギコさん。

ギコの鱗を破り、硬い骨格を割り、肉と血管を裂き、
右腕が心臓部に到達する。指が心臓に掛かり、握り潰す。

(;//‰゚) 《ッ―――――――!!》

声にならないギコの絶叫と共に噴出す鮮血が、ブーンの顔に降りかかる。
が、それと同時に槍は振られていた。
腕が身体を貫いてゆく痛みに悶絶しながらも、ギコは槍を落としたのだ。

だがしかし、心臓を握り潰された痛みは想像を絶し、
ブーンの頭部天辺に向かっていた切先は僅かに逸れた。

切先は、ブーンの右脳を守る人口骨格――髪の生え際の右辺り――を削り、
滑るようにして右目を奪い、頬を抉っては唇の右端を剃り落し、肩に刺さる。
それから切先は右肩のプレートを骨格を断ち割ると、肺の一部を斬って脇から出た。

右腕が切断されたブーンは、声も無く後ろに倒れた。
心臓を潰されたギコも、数歩後ずさりして、膝を付いた。

153 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:56:02.41 ID:FKnyIzeg0
――……ドクン……――

(; ω゚)(……そんな……)

朦朧とした意識の中で、ギコの生命反応を確認する。
一度は途切れた心音が、再び鳴り始めている。
微弱なパルスだが、確かに聞こえる。心臓は確かに握り潰したはずなのに――。

無理矢理、首を動かしてギコをスキャンする。
思わず、ブーンは目を疑った。
心臓部が、低速度でありながらも再生を始めていたのだ。

(//‰ ) 《ま、まだ……だ……》

口絶え絶えに紡がれる言葉が、ブーンを恐怖させた。
これまでに比べれば、再生速度は雲泥の差がある。
しかし、時間さえ経てばギコは完全に回復する。

――スネークでは太刀打ちできない。
自分も完膚なきまでに破壊された。



(; ω゚)(全員……殺されるのかお……?)

ブーンがそう思った時、身体が浮き上がる感覚を覚えた。

155 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:57:36.90 ID:FKnyIzeg0
血で赤く染められた視界に映るのは、スネークの顔だった。
すぐ傍にある。どうやら腕で持ち上げられているようだ。

スネークは何も言おうとはせず、自分のバイクにブーンを運んだ。
ビロードの乗る大きなサイドカーの中にブーンを寝かせると、
スネークは腰のバックパックから煙草を一つ取り出し、咥えて火をつけた。

スネーク「フー……若いの、くれてやる」

煙を満足そうに吐き出した後、額に巻いていた黒いバンダナを外した。
少し焦げ目もあって、ボロボロで、古びた黒いバンダナ。
しかしそれはスネークによく似合っていた、いわばトレードマーク。

そのバンダナを、スネークはビロードに手渡した。

スネーク「ビロード、後でブーンに渡してやってくれ」


(; ω゚)「お、オ……」

声を出そうと思ったが、うまく出せない。
ブーンは無声通信に切り替えて、大声を出した。

(; ω゚)『オッサン、こんな時に何言ってんだお!
      何やってんだお! このままじゃ殺されるお!』

スネークは何も返さず、バイクのタッチパネルを操作した。
独りでにバイクは唸りを上げ、エンジンの回転数を増す。
今にも、走りそうなくらいに。

159 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 18:59:06.75 ID:FKnyIzeg0

スネーク「俺が生きている限り、バイクは走り続ける。
      なに、安心しろ。ちゃんとニューヨークまで連れて行ってやるさ」

(; ω゚)『オッサン、何を言って――』

スネーク『俺もすぐに追いつく。必ずニューヨークに向かう』

声が被る。ブーンには話させないかのように。

スネーク『ところで俺はオッサンでもソリッド・スネークでもない。
      俺の名前はデイビッド。お前の名前を教えてくれ、相棒よ』


(  ω゚)『……ホライゾン・ナイトウ』


スネーク『ホライゾン……いい名前だ。
      その名にちなんで、地平線に向かって走らせてやるさ!』

バイクが、走り出した。
躊躇無く速度を上げて、その場から離れようとする。

(;><)「スネーク! 何でスネークも乗らないんですか!?」

ビロードは、遠ざかるスネークに向かって必死に叫んだ。
もう既にビロードには見えないだろうが、
スネークはいつものように、口の端を上げた笑みを、返した。

166 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:01:17.94 ID:FKnyIzeg0


スネーク『一時パートナーは休止だ、若いの』

(; ω゚)『オッサン! バイクを戻せ! ふざけんなお!』



スネーク『ビロードを、頼むぞ』



ブーンの網膜に、文字が表記される。

「無声通信が切れた」、と。



(;゚><)「スネーク! スネ――――ク!!」

(; ω゚)「オ……オッサ……」


2人の叫びなど構わずに、バイクは街を行く。
ニューヨークに向かう為、このボストン市を抜けようと――。

169 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:02:49.84 ID:FKnyIzeg0


(;//‰゚) 《き、貴様……ぶ、ブーンを……!》

遠ざかってゆく我が敵を目に、ギコは怒り狂った。
怒りの矛先が、ブーンからスネークへと移る。

今にも襲い掛かりそうな、鋭くも澱んで見える機械の目。
大きく剥かれた目は、ギコの怒りそのものを表している。
しかし意志とは反して、身体はまだ言う事を聞かない。
心臓の破壊は想像以上のダメージであり、慎重な再生を必要とするらしい。

スネーク「フー……」

長さの半分程まで煙草を吸うと、
バックパックから小さな銀箱を取り出し、その中に吸殻を入れた。
それから煙草の箱を手に取り、銀箱と一緒に、足元に捨てた。

スネーク「ギコ、お前がニューヨークに行く事は無くなった。
       お前は今ここで俺に倒されてしまうんだからなぁ」

スネークが、依然膝を付くギコにゆっくりと近づく。

(;//‰ ) 《スネーク……殺す、ぶっ殺してやる……》

――憎い。憎い、殺してやる、喰ってやるぞスネーク!
すぐにブーンを追いに行ってやる!

173 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:04:16.43 ID:FKnyIzeg0

(//‰゚) 《死ね!》

心臓の再生を終え、ギコが立ち上がる。
渾身の力で地を蹴ると、一気にスネークの背後に回った。
スネークには、ギコの動作が一つとて見えていない。
胸を開きながら、スネークの身体中に尻尾を突き刺し、動きを奪う。

(//‰゚) 《ハハハ! 口ほどにもないじゃないか、スネーク!》

ギコは捕食しやすいように、スネークの四肢を切断した。
達磨のような姿になったサイボーグ。
しかし、声の一つも上げない。

(;//‰゚) 《…………強がるんじゃねえ!》

これから殺されるというのに、恐怖しない様子がつまらないのだ。
絶望感。そう、シーケルトが死んだ時の絶望感を味あわせねば。

ギコは、スネークの背を左腕の爪で何度も突き刺した。
抜き刺しする毎に血が吹き、ギコの身体を鮮血で潤わす。

スネーク「がはっ! ぐお……っがあ…………」

(//‰゚) 《ハハ、いいぞいいぞ! そろそろ喰らってやる!
      恐ろしいだろうスネーク! こんな経験は傭兵時代にも無かっただろう!?》

尻尾が、スネークを胸に押し込もうと動く。

177 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:06:33.91 ID:FKnyIzeg0

スネーク「……真に……恐ろしいのは……友を失う事だ。
      俺は昔、大事な友を失った。だから、もう死なせたりは――」

(//‰゚) 《黙れ! お前もブーンも……俺に殺されるんだよ!》

スネークが、ギコの胸に閉じ込められた。


(//‰゚) 《……フ、フハハハハハッ!!》

後は、スネークが自分の血肉となるのをゆっくりと待つのみ。
これでまず1人、ブーンの大切な人間を殺った。
ギコは、込み上げる充足感で高笑いせずにいられなかった。

(//‰゚) 《ハハハハハハ! ハハハハッ……は……?》

突然、網膜内に展開した一枚のサーモグラフィが、急激な変化を示している。
ぐんぐんと熱量を上昇し続けているのは、自分の胸の中。

(;//‰゚) 《胸の中……何だ……?》

――何だ、これは? どうなっている? 奴の機器がオーバーヒートしたのか?
ギコは不可解な数値に戸惑っていると、視界に文字が浮かび上がった。

「スネークからの無声通信、そしてその応答か拒否の選択」だ。

ギコは迷わず応答する。

215 名前:訂正です ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:36:52.57 ID:FKnyIzeg0

(;//‰゚) 『貴様! 何をやっている!?』

スネーク『通信良好で何よりだ……教えてやる、ギコ。
      抗体の効きの悪いお前をどうやって殺せばいいのか、少し考えた結果が、これだ』

(;//‰゚) 『何を……するつもりだ……?』

――不気味だ。ウィルスよ! 早く喰ってしまえ!


スネーク『俺は国に作られた兵士であり、抑止力でもある。
      巧みに組み込まれた“とある機関”を除去するには、国家機密レベルの
      パスワードを入力する必要がある。探したんだが見つからなくてな、このままだ』

(;//‰゚) 『何を言っている!?』

スネーク『そう質問ばっかりじゃ成績は1だな、元大学生。
      そろそろタイムオーバーだ。さあ、答えられるかな?』



(;//‰゚) 『ま、まさか……抑止力とは……?』


国家間戦争の激しい30〜40年代で生まれたのなら。
このサイボーグの言う「抑止力」とは恐らく――、

182 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:09:59.54 ID:FKnyIzeg0

スネーク「“それ”を起爆させるのは、俺の意思でも可能でな」


(;//‰゚) 『うおおおおおおおおおおおおおお!!』


すぐにスネークを吐き出さなければ。
そして、ここから離れなければ。

ギコは胸を開き、中のスネークに触手を突き刺すが、






スネーク『時間切れ。そして焼却処分のお時間だ』




スネークに埋め込まれた“機関”が爆発する――――

185 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:12:00.82 ID:FKnyIzeg0


途中、物音に気づいた多量のセカンドが追ってきたが、
スネークのバイクは後続を寄せ付けなかった。
無事に2人は機械仕掛け塔が成す森を抜け、市外へ出た。

( ><)「ブーン、街を出たんです……わあ、海なんです!!」

数日前にブーンが通った道を走るバイクは、ビロードに海景色を眺めさせてやった。
こうして外の空気を吸うのもビロードにとって5年ぶりだが、
海なんて何年ぶりだろうと彼は思う。

ビロードの左手方向に広がる海。
そこに落ちかけた日が、海と空に赤色を広げ、壮麗な夕景色を作っていた。

(; ω゚)「う……ぐ……」

ブーンが、残っている左肘と2本足を使って体を起こす。
生命維持装置により止血と鎮痛は出来たが、思い通りに身体は動こうとしなかった。
まるで別の人間の身体を操っているような感覚だ。

穏やかで美しい夕景色の中に、バイクの鋭い回転音が染みてゆく。
相変わらず、バイクだけは元気に走っている。ボストンの巨大都市はすっかり遠ざかっていた。
それはスネークがまだ生きているという事でもある。

(  ω゚)(お願いだお……止まらないでくれお……)

景色から目を離して、乗り手のいないハンドル部を見る。
タッチパネルが透明感のある緑色を発している。

188 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:13:31.22 ID:FKnyIzeg0


しかし、その光は何の前触れも無く消えてしまった。


それまで元気よく走っていたスネークのバイクが、徐々にスピードを落とす。


(  ω゚)「―――――――」

ブーンはボストンの方を見た。

唯一残っている左目に、膨大な熱量が表示される。
遅れて、巨大な爆発音――ブーン達のいる空間をも微弱に揺らす程の――が鳴った。


そして。

高い透過度で描かれたグラフや計算式を通して見えたのは。


ボストン市街の一部から溢れ出す、赤い光であった。

189 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:14:34.29 ID:FKnyIzeg0


(; ω゚)(まさか……まさか、そんな……!)


バイクは、数メートル進んだところで完全に停止してしまった。

(;><)「止まっちゃ……た……んです……」

ビロードが、小さく呟いた。




(; ω゚)「お、おお……お……っさん……」


(;><)「スネ―――――――――クッ!!」


(; ω゚)『オッサン! 返事しろ! 返事してくれお!!』

「通信エラー」の文字。
返事が帰ってこないどころか、通信が成立しない。

194 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:16:56.48 ID:FKnyIzeg0


(  ω゚)「な……でだ……お」

(  ω゚)「なん……で、こんな……ぐっ、ことに……うう……」


(  ω゚)「うお、ううう……うああ……」

機械の目から涙は出ない。
その代わりなのか、嗚咽が溢れるように続いてゆく。
ブーンの意思とは反し、機械も制御しようとせず、嗚咽は止まらない。

(  ω゚)「ぼくが……ううああ……ぼくが、トドメを……刺さな……から!」

――何度も、チャンスはあった。
その度に躊躇し、迷い、そして一つの最悪の結果に辿り着いてしまった。
僕が、僕がギコさんを殺せなかったから。

( ><)「ブーン……」

(  ω゚)「僕は……うあああああ僕が――」


(#><)「ブーン! 泣くな!! 弱虫!!」

ビロードが、喚くブーンを一喝した。
幼さの残る高い声がブーンの耳を貫き、ピタりと泣き止ました。

196 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:18:25.89 ID:FKnyIzeg0

( ><)「スネークは死んでないんです!!」

そう言ってブーンに突き出したのは、黒いバンダナだった。
もはや見慣れたスネークの黒い、ボロボロのバンダナだ。

ビロードの目に、涙が滲んだ。
ビロードは袖で荒々しく目を拭って、大声で続けた。


( ><)「スネークは言ってたんです!!
      物には“いし”が宿るって! だから、これがスネークなんです!!
      スネークも僕のママも、この中に生きてるんです!!」

ビロードは、バンダナと自分の十字架を突きつけた。

(; ω゚)「ビ……ロード……」


(  ω゚)「オッサンの……意思……」

ブーンは、ビロードが握るバンダナを見つめて、そう呟いた。

199 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:19:55.80 ID:FKnyIzeg0


スネーク『ビロードを頼むぞ、若いの』

また、バグが発生する。
ブーンには、スネーク本人が喋ったかのように聞こえた。

(  ω゚)「……オッサン……」



『ブーン! 無事か!? おい!!』

――また、声が聞こえたような気がした。
しかし、ビロードが「何か近づいてきてるんです!」と慌てている様子から察すると、
どうやら今度こそ幻聴ではないようだ。

(;><)「ひええええええ! なんなんですアレは―――!?」

音声の発生源に目を向ける。
目を向けずとも熱源の形から、何が来たのか分かるのだが。
ともかく、ブーンは安堵の息を吐いた。
夕陽をバックに飛行するシルエットは、バトルスーツの物だ。

(  ω゚)『ええ……かろうじて、生きていますお……』

ブーンは、無声通信でガイルにそう伝えた。
「よかった! さっきの爆発の後だ……心配だった」と返って来る。

201 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:21:46.67 ID:FKnyIzeg0
バトルスーツがバイクから少し離れた場所に、ゆっくりと着陸した。
その時の震動が、ビロードをひどく怯えさせた。

すぐにコクピットが開き、そこからガイルがロープを使って降りた。
ガイルは急ぎ足でバイクに駆け寄る。

ガイル「生き残りは5人と聞いていたが……
     ここまで来れたのは、その子だけなのか……」

(  ω゚)「す……すみま……せん……」

ガイル「あ、いや……すまない……察するよ、すまなかった」


ガイル「バトルスーツまで運ぶ……っと、やっぱり重いな、ブーンは」

ブーンを両手で持ち上げて、抱える。
サイドカーを降りたビロードは、得体の知れない男を警戒しつつ、その後を着いて行った。

(;><)「だ、誰なんですか……?」

ガイル「俺はガイル、『セントラル』のパイロットさ。
     君がビロードだな? ブーンの仲間から聞いてるよ」

(;><)「うー……変な頭なんです……」

202 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:23:00.95 ID:FKnyIzeg0


バトルスーツのコクピットに乗り込んだ3人。
操縦席こそ多量の機器で乱雑しているが、その周りは意外にも広々としている。
ブーンとビロードは操縦席の左右に座り、急遽設けられたであろう手すりに捕まっている。

ガイル「そういえば、さっきの爆発から放射能の反応を拾ったが……。
     この辺りにまで放射能は届いていないようだ」

発進準備を進めながら、ガイルが小さな声で言った。

(  ω゚)(……スネークが……核爆弾を……?)

ブーンは、スクリーンに映るボストン市街を眺めていた。
特に、最後の爆発が起こった辺りを。
核兵器破壊をしていたスネークが何故、核を所有していたのだろう?

ガイル「よし……帰ろう、『セントラル』に」

バトルスーツが脚を動かし、180度方向を転換する。
脚腰と背部から噴射されるブースターで上空に上昇すると、
ブースターの角度だけ変えて、真っ直ぐに飛んでいった。

204 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:24:22.26 ID:FKnyIzeg0
ガイルは何となく、サブスクリーンにボストンの街並みを映した。
巨大なボストン市街の全体像が、左右のスクリーンに映る。

(  ω゚)「…………」

ブーンは無言で、スクリーンの中のボストン市街を眺めた。
荒廃した巨大都市は夕陽を浴び、荘厳さを欠いたように見える。
ああ、何と悲しげに見えるのだろうか――いや、自分の心がそう映しているだけだ。


――ブーンは、再び迷い始めていた。


何が何でもビロードを守ろうとしたスネークは、正しいのだろうか?
セカンド・ギコと話し合って決着を着けようとした自分は、正しいのだろうか?
シーケルトを殺した罪を、どうやって償えばいいのだろうか?――と。

ビロードと、彼の握る黒いバンダナを見る。

(  ω゚)(この先、どうやってビロードを、皆を守ればいいんだお?
      僕はどうやって生きていけばいいんだお?
      オッサン……どういうつもりでバンダナを渡したんだお……分からないお……)

(  ω゚)(なんだか皆に会いたくない……合わせる顔が無いお……。
      『セントラル』に……帰りたくないお……)


                                   第20話「意思」終

205 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:25:52.36 ID:FKnyIzeg0
以上、20話でした。
長時間、お疲れ様でした! 支援ありがとうございました!

とりあえずここで一度区切りを・・・
一応、おまけがあるのですが雰囲気クラッシャーすぎるので。

207 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:26:49.19 ID:FKnyIzeg0
おまけ

(//‰ ゚) 《私、少し顔が違うでしょう!? ヴォヴォヴォ
      メイクさんが頑張って細顔にしてくれたんですよ》 ヴォヴォヴォ

ガイル「1,2・・・よし! 5回くらい喋ってるぞ!! やっぱり自分の出てるシーンはいいなぁ!」

(//‰ ゚) 「ヴォヴォ・・・おっと、セカンドっぽいデス声はもうやめていいんだった!
      いやー疲れました! ブルースクリーンの前で演技するのって難しいですね!!」

ガイル「おい、黙れよイボ。早く荷物まとめて退魔師稼業のオマケに帰りな」

(//‰ ゚) 「え!? ギコさんは生きてるんじゃないんですか!?
      この後、最終話とかで出てきたら激熱ですよ!!」


(//‰ ゚) 「・・・・なんですか、この封筒・・・金一封と・・・契約書のコピー・・・?」

( ^ω^)「今回で契約切れだお。じゃあの」

(;//‰ ゚) 「ええー!? 本当に私、用済みってことですかァー!?」

大塚「ごほん!」

(;^ω^)「――あ、すんません! おめーら突っ立ってねーでどけ!!
      お疲れっしたスネークさん! 最高の演技でした!
      大塚さん、本当に素晴らしいお声でした! お疲れ様でした!」

213 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:34:30.28 ID:FKnyIzeg0

(;^ω^)「おら! ご挨拶しろよカスども!!
      ホテルに帰られるそうだ!!」

ガイル「お、お疲れっした!!」

(//‰ ;) 「うう・・・お疲れさまでした・・・」



ガイル「んじゃ、イボも早く帰れよ。ここ俺が人気あげる為のスペースだから」

(//‰ ;) 「そ、そんなあ!!」

( ^ω^)「ってか、最近イボ太郎って人気だお。
      作品には登場しないけど、大麻効果で凄い注目浴びてると思うお」

( ^ω^)「ガイルとは比較にするのも可哀そうなほど」

ガイル「なんだと!?」

( ^ω^)「ってことで、胸張って帰るといいお! イボ太郎! お疲れ!!」

(//‰ ;) 「街狩りのブーンさん・・・ありがとうございました! わたし、頑張ります!」

214 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:35:48.16 ID:FKnyIzeg0
ガイル「うう・・・ひでえよ・・・俺だって2chでよく注目浴びてたんだぜ?
     いっぱいAAだって作ってもらったし・・・」


( ^ω^)「あ、そうだ」


( ^ω^)「実は、次から版権物のキャラ出す予定ないんだお」


ガイル「マジ!? ktkr!! もし阿部さんが死ねば、俺の天下じゃないか!!!」

(#^ω^)「黙れよ天パ・・・・・・」

ガイル「はい」

――ということで、1人ライバルがいなくなったガイル。
このまま街狩りのマスコットキャラとして活躍できるのだろうか!?


「やらないか」

だがしかし、いい男の影が!! 〜〜続〜〜

218 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/04/12(日) 19:38:24.17 ID:FKnyIzeg0
>>215>>179の訂正です


これで今回の投下全て終了です!
お疲れ様でした。

途中、何度もサルってすみませんでした。
ではまた次回!

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