内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第19話「真実」
1 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 15:44:45.40 ID:v+grNBt90
           r,''ヘ_ ))
         _,,,,_⊂-くノ`ヽ,
        〆_゙'ir''⌒"  )      グラグラ ))
    ξ⊂!  っ》`   く ∠___
    .''\ノ''''‐`` i、 ,ノ  │,-ヽ7=、、 ,,rー'"`-、
      \_゙l、,,,_,/i゙、 ,ノ 〈 ゛  `ヌ⌒ )/=i、 l
          `゙゙'''"`'ミ--/-,_  ´ /"  `''
                  \ .,,、`lニン-゛
                \__ノ__
    ((         ,. -─rヘ. |__/ /5Tヽ
            /   ,.ィ'Tヽ.{_`|`ヾァ . | ( ^ω^)は街で狩りをするようです 第19話 投下します
              |  l ヽ ,ノ   `二´ リ  まとめはコチラ! 内藤エスカルゴさん
               |.   ` - _,>─‐r‐-- イ  http://www.geocities.jp/local_boon/boon/Hunt/top.html
             j`'ー一'゙L.._   └ 、__ノ
  ((  グラグラ  {        `'
             ',     l_     ヽ
             >、     !`7'´   /
            _/  ` _,ノ  !`丶/
          /´ Y ""´   .r'7 (´
         \f三ヽ    `丶(二コ   ))

ガイル「いま、溜めてます」

ザンギ「てめえ! 溜めんなカス!!」

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/03/03(火) 15:47:14.69 ID:v+grNBt90
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン、若いの。本名不明。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つ強化人間「システム・ディレイク」。
      人類が発見されたボストンに到着し、現地の人々と接触する。
      スネークと共に地下倉庫に蔓延するセカンドを駆除する。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを強化人間に改造した弱冠19歳の天才科学少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      父親サイボーグ技術の権威であるフィレンクト・ディレイクを父に持つ。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
   ショボン、阿部と共に、「クー・ルーレイロ」なる人物とクローンシステムの真相を暴こうと企む。

4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 15:50:00.84 ID:v+grNBt90
――― ボストンの人々 ―――

( ´_ゝ`)アニー・サスガ:26歳。サイボーグ技師。
      セカンドウィルス拡大に備え、ハーバード大学の地下研究区域を改造。
      ボストンにウィルスが蔓延して以来、5年の時を地下で過ごす。
      セカンド化した弟「オットー」に対し、“System-Hollow”と抗体で治療を試みている。

(*゚ー゚)シーケルト・ゴソウ:26歳。サイボーグ技師。通称しぃ。
    学生時代、生物工学においてサイボーグ技術を学んだ美しき秀才。
    地下生活前から同期のアニーとは恋人の関係にあるが、
    オットー、ギコらを含めた複雑な四角関係の中心人物であった。

(,,゚Д゚)ギコ・アモット:26歳。戦闘用サイボーグ。
    元シーケルトの恋人であるが、現在はサイバーウェアによって心を失った戦闘用サイボーグ。
    サイバーウェア“System-Hollow”を搭載し、感情に囚われない合理的戦闘を可能にするが、
    いずれ自立的な行動を取れなくなるという弊害があるのでは、というスネークの推測もある。

( ><)ビロード・ハリス:9歳。
     アニー達と地下研究区域で生活してきた孤児。
     過去、セカンド蠢くボストンにて、スネークによって助けられる。
     ブーンとは異なる強力な免疫細胞を持っており、免疫はウィルス感染予防などに役立たれている。

ソリッド・スネーク:本名、年齢共に不明。通称スネーク。戦闘用サイボーグ。
          元傭兵という事以外に不明な男。
          唯一の喫煙者である彼は煙たがられ、追いやられている。
          ブーンと共にセカンドを駆除する。

5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 15:52:38.87 ID:v+grNBt90

第19話「真実」

倉庫と呼ぶには余りにも広すぎる、その空間。
そこには“ムカデ”に似た姿を持つ異形の存在が繁栄していた。
上階には少数の人間達が生活を営んでいたが、まさか異形が1つの生態系を
形成しているとは、アニー達は想像だにしていなかったのである。

現に、この倉庫に調査にやってきた狩人、ソリッド・スネークもそうだった。
冷静沈着であるのを忘れずに心掛けていたが、
内心、“ムカデ”の驚異的な繁殖力に驚くばかりだったのだ。


(;^ω^)「これで100匹目!」

狩りのパートナーであるB00N-D1ことブーンは、
バイクを遠隔操作しつつマシンガンで蟲どもを銃殺している。
スネークもまた、彼のバイクの後部座席に座り、残党狩りを行っていた。

スネーク「俺のと合わせれば、200匹目だな。
      一体何匹いるんだコイツら……」

( ^ω^)「最初にやったのと合わせれば、1000いきそうだお」

2人は、同時に深く吐息した。
残党とはいえど、まだまだ数多く生存していたのだ。

9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 15:55:47.55 ID:v+grNBt90

スネーク「まぁ、長かった害虫駆除も、もうすぐ終わりだな」

右腕の砲でアシッド弾を発射し、スネークが言う。
スネークの右手方向では、十数匹の“ムカデ”が断末魔を上げながら溶解を始めていた。

( ^ω^)「さっさと終わらせてメシ食いたいお!」

左手のマシンガンを連射し、ブーンは愚痴った。
弾丸の飛んでいった先では、十数匹の“ムカデ”が体を沸騰させて絶命した。

スネーク「何を言っている若いの。害虫駆除が終わったら次はコンテナのチェックだ。
      まだ食い物や使える物が残っているかもしれん」

( ^ω^)「何を言っているって、コッチのセリフだおオッサン。
      いくつかコンテナも見て回ったけど、散々だったじゃないかお」

2人はまだ巣に潜んでいる“ムカデ”を追い、幾つかのコンテナに侵入したのである。
コンテナ内は“ムカデ”の死骸と糞尿が放つ悪臭で満ちているくらいで、
食料は欠片すら残っていない状況であったのだ。

そんな阿鼻叫喚の中にあっては、クローン栽培に使用する為の物資も当然汚染されている。
もはや使える物資など、この倉庫には残っていないというのが、ブーンの見解だった。

スネーク「物を大事にするのが俺のポリシーでな。
      たとえ一枚のダンボールであっても、それは敵の目を欺くアイテムとなる」

( ^ω^)「嘘付け。そんなもんでどうにかなったら世話ないお」

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 15:58:10.52 ID:v+grNBt90


スネーク「ふむ、やはりどのコンテナも汚染が酷かったな」

(#^ω^)「だから言ったお! 見ても無駄だって!」

半ば強引なスネークに連れられ、ブーンは止むを得なく全コンテナを見て回ったのだ。
そのせいか、お気に入りの黒いレザージャケットは腐乱臭が染み付いてしまったし、
煙草臭かった髪まで匂いが変わってしまったほど。

BLACK DOGは倉庫の入り口まで戻ると、停止した。
2人はバイクを降りて、煙草を口に咥える。

スネーク「煙草が少なくなってきた。若いの、一箱よこせ」

(;^ω^)「……今度街から煙草漁りに行ってもらう事にするお!」

ブーンはまだ開けていない煙草を、スネークに投げ付けた。
勢い良く顔面を狙ったのだが、やはりサイボーグ、難なくキャッチされてしまう。
ドクオだったら間抜けな声の一つも出しているだろうから、
ブーンはスネークのつまらない反応にますます苛立ってしまう。

スネーク「おいおい怒るなよ! 俺達はパートナーだろう?」

スネークは苛立っているブーンを呆れるようにして笑った。
ブーンは瞼を引く付かせてスネークを睨む。
どこか皮肉屋なスネークの性格は、ブーンにとっては苛立ちの種となってしまうようだ。
特に人の煙草を厚かましく消費される事が、最大の原因であった。

12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:01:48.27 ID:v+grNBt90
しかし、頼れるサイボーグである事は確かである。
誰に言われずとも的確な判断をし、実行に移すのは、ブーンも流石と思わざるを得なかった。
戦闘中は勿論、何気無い場面でも、その片鱗を伺えるのだ。

スネークはサーモグラフィで倉庫を隈なく点検し終えると、携帯端末を取り出した。
通信先は、倉庫外で待機しているギコだ。

スネーク「こちらスネーク。セカンドを駆除し終えた。
      扉のロックを解除してくれ」

『了解した』

ホログラムに映るギコが返答すると、すぐに扉は音を立てた。
ガコン、という重い響きが数回鳴って扉は開かれ、倉庫よりも俄然暗い通路が現れた。
BLACK DOGのヘッドライトを照らすが、奥がまるで見えない。

とはいえ恐怖する必要は無い。
単なる帰り道、ここを通れば液体化食料と暖かいコーヒーにありつけるのだ。

( ^ω^)「よし、帰るおオッサン」

スネーク「ああ。早くシーケルトが淹れたコーヒーを飲みつつ、一服したいもんだ」

14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:06:19.85 ID:v+grNBt90


長い通路を通過し、倉庫外へ出る。
倉庫外へ出ると、すぐに重層扉が閉じてしまった。

(,,゚Д゚)「駆除は成功したのか?」

結果を聞いていれば扉を閉めずにいただろうか?
それについてブーンには分からなかったが、ギコとしては最適な判断だったのだろう。
しかし、ブーンの癪に障った事は間違いなかった。
何故なら、ブーンもスネークも体中が血や体液に汚れていたからだ。

( ^ω^)「だから出て来たんですお」

(,,゚Д゚)「そうか。すまなかった」

謝罪の時も、やはり抑揚を感じない声。
感情が篭っていない“ただの言葉”のような気がするが、ブーンは致し方ないと思い、
「いや、いいんですお」と短く返しておいた。

(,,゚Д゚)「物資は無事か?」

ブーンの気遣いなど構わず、ギコはすぐに質問した。
今度はあからさまにムッとした表情を浮かべるブーンに気づき、スネークが代弁する。

スネーク「ダメだ。どのコンテナも汚染が酷かった。
      使える物も食える物も残っちゃいなかった」

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:09:30.68 ID:v+grNBt90

(,,゚Д゚)「全てのコンテナ内にあるボックスを確認したんだろうな?」

スネーク「当たり前だ。若いのは確認せずとも無駄だと言っていたが」

(#^ω^)「あんだけセカンドが住んでりゃ、確認する必要が無いお。
       これは長い間セカンド狩りをしていた僕の経験だお、経験!」

自分の判断は間違っていなかった!
その旨をブーンは主張しておきたく、声を大にしてギコに述べた。
熱くなっているブーンとは対照的に、やはりギコの表情は張り付いて動かない。

(,,゚Д゚)「そう……か」

スネーク(……なんだ?)

しかし、ほんの僅かであるが、ギコには通常考えられない違和が生じたのを、スネークは気づいた。
その違和の真意を、スネークはギコに追求しようとはしなかった。
違和感を感じた素振りも見せないまま、スネークは話題を切り替えた。

スネーク「とにかく戻ろう。腹が減った」

(,,゚Д゚)「先に行け。俺は倉庫内をチェックしに行く」

(#^ω^)「どうせ行っても、仕留め損なった奴も食料も、無いですお」

あえて、棘をつけて言った。
感情を失っているとはいえ、やはり命懸けで生還した者に対する態度ではない。
仕方の無い事と割り切るのは、ブーンには難しかったのだ。

17 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:12:34.87 ID:v+grNBt90

(,,゚Д゚)「疑ってなんかいないさ、ブーン。アニーの指示だ。
     最後はお前が、ギコが確認してくれってな」

わざとらしく、ブーンは溜息をついた。
そして腰に下げたパックからマルボロを取り、咥えて火をつけ、多量の煙を吐き出す。
そのようにして、おもむろに邪険な態度を露にし、

(#^ω^)「そうですかお! じゃあ戻りますお!」

BLACK DOGのアクセルを捻り込む。
スネークを呼ぶ声を発す代わりにエンジンを吹かし、スネークを急かせた。
スネークは、しかめた顔を浮かべて――ブーンに呆れている――、バイクの後部に座り込んだ。

あっという間に、2人はギコから離れてゆく。
再び、ギコは静寂した空間に一人取り残されるのだった。


するとギコは、すぐに携帯端末を取り出す。

(,,゚Д゚)「アニー、今話しても平気か?」

『ああ? 平気だ。すると、もう駆除は終わったのか?』

すぐに通信先の相手は応答した。
ホログラム内のアニーはマグカップを片手に、相変わらず明るい表情を浮かべている。

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:15:35.69 ID:v+grNBt90

(,,゚Д゚)「駆除は無事に完了した。だが問題が」

『……どうした?』

一気に、アニーの表情が曇る。


(,,゚Д゚)「汚染が酷いようだ。使えそうな物資は残っていないらしい。
     流石に金属などパーツになる物は使えるだろうが」

『……それでは実験が……それにセントラルも受け入れてくれるかどうか……クソッ!!』

携帯端末から、アニーのがなり声とガラスが弾ける音が一緒に飛んだ。
ホログラムからは伺う事は出来なかったが、恐らくコーヒーの入ったカップでも投げたのだろう。
感情を荒立てるアニーとは正反対に、ギコは相変わらず冷めた表情を浮かべている。

(,,゚Д゚)「どうする」

その無機質な声を聞き、アニーは冷静さを取り戻した。
顔にかかる長い前髪をかき上げ、一息つき、抑えたトーンで話し始める。

『……ブーンに交渉してもらうしかない。
 “あいつ”を受け入れてくれないのであれば、セントラルからの救助もいらん。
 俺が今欲しいのは、必要なのは援助だ。物資さえあれば他に何もいらん』


(,,゚Д゚)「しかし、恐らくしぃは」

『……ああ……』

19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:19:14.66 ID:v+grNBt90



(#^ω^)「何だお、あの態度! ギコさんもアニーも酷いお!」

ブーンは床を蹴り、悪態を吐く。
何処までも伸びる通路に、ブーンの声が隈なく広がっていった。

ブーンとスネークは、地下研究区画の「アニーの居住区」に戻っていた。
シャワーを済ませ、今は食堂へ向かっている最中だ。
しかも2人は面倒だと言い、戦闘用スーツのままシャワーを浴びて、そのまま上がってきたのである。

スネーク「俺もお前も信用されてないのかも、な」

ぽつりと、スネークが言った。
その呟きの内容に、ブーンは疑問する。

( ^ω^)「昨日今日来た僕は分かるけど、何でオッサンまで?」

何故そのような事をスネークが疑うのか、妙である。
5年も共同生活を続けてきたスネークが信用されていないのは、おかしな話だ。
スネークは、耳をそばたてなければ聞こえないくらい小さな声でブーンに返答する。

スネーク「いいか若いの。信用を形成するには2通りある。
      1つは実績、2つは直接的な人間関係を築く事だ」

( ^ω^)「お? まぁ、その通りだと思うお」

スネークの言う信用については全く同意であるが、ブーンの顔は晴れやかではない。

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:22:51.24 ID:v+grNBt90

スネーク「更に信用というのは便利でな、自分の都合によって
      信用するか否かを自由に決める事が出来るのさ」

スネークは続ける。

スネーク「つまり、俺は戦闘用サイボーグとしての実績があり、
      その実績はアニーも多少なり認めているかもしれない。
      しかし、人間関係という面で見たらどうだろうか?」

( ^ω^)「??」

その問い掛けの真意が理解できず、ブーンは首を傾げる。
スネークが後を続けた。

スネーク「ギコと俺、それぞれのアニーとの人間関係を比べた時、
      差異となっている点は何だ?」

より具体性を帯びた問い掛け。
数秒、思考を巡らせた後、ブーンは恐る恐る返答する。

(;^ω^)「下の階に匿ってる…………オットー……?」

スネークは無言で返した。
張り詰めた空気が一瞬流れた後、スネークが切り出す。

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:26:21.07 ID:v+grNBt90

スネーク「どうもアニーは、俺やシーケルト、ビロードに隠し事があるようだ……。
       問題無く話せるのは、治療実験の助手であるギコのみ。
       だから今さっき、ギコは俺達を先に行かせたのかもしれん」

( ^ω^)「……ギコさんがSystem-Hollowで自立性を失っていたとしたら」

スネーク「さぞ使い勝手の良い駒だろう。そうだとしたら、もはや信用もクソも無いな。
      機械の如く、指示の通りに動いてくれる人間の方が信用できるのかもしれないが」

スネークは最後に「アニーはな」と付ける。
再び、2人は暗い表情で押し黙る。


( ^ω^)「……なら、さっき僕達を先に行かせたのは、
      オットー絡みの事があって、そうしたのかお?」

先に切り出すのは、今度はブーンだった。
「恐らくな」と、スネークは短く返す。

( ^ω^)「でも、本当にギコさんとアニーはコンテナをチェックしたかっただけなのかも」


「確かにそうかもしれんが……」、
そうスネークは呟き、更に言葉を続けた。

スネーク「ギコに違和感を感じたんだが、気づいたか?」

22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:30:32.31 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「違和感?」

2人の声は、狭い非常階段の中を上ってゆく。
エコーのように響く声は、硬い踵の音が連続して掻き消されてゆく。

スネーク「ギコが、コンテナの物資を妙に気にしているような気がした」

「そりゃ、物資不足が死活問題になってるからだお?」と、
言葉が出かけるが、それを飲み込むようにして留め、

( ^ω^)「『セントラル』から救助が来るから、物資の問題は解決されるんだお。
      じゃあ何で、ギコさんが妙に物資を気にしてるって思ったんだお?」

ブーンは別の質問を吐き出した。
スネークは低く唸った後、思い返すように話し始める。

スネーク「あいつの口調だ」

ブーンは声を出さずに、渋い表情を浮かべて耳を傾ける。
違和感などあっただろうか? 少なくとも自分はそうは思わなかったが。

スネーク「ギコは物資の安否について尋ねて来ただろ?
      そして俺達は、物資が一つ残らず汚染されている事をギコに伝えた。
      その時のギコは表情こそ変えなかったが、口調に変化があった」

( ^ω^)「変化……?」

ブーンは記録ではなく記憶を掘り返す。
戦闘以外では、必要な場合を除いてメモリに留める事は無いからだ。

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:33:57.48 ID:v+grNBt90
しかし、スネークの言い示す場面は思い当たらない。
無数に間違いのある間違い探しをやっているような、
そんな気分をブーンが味わっている途中、スネークが先に答えを述べてしまう。

スネーク「奴は俺達にこう返したんだ。――――『そう……か』……と。
      ギコが一息にパッと言わず、濁した喋り方をする事は、初めてだ」

(;^ω^)「ぜ、全然そんな事気づかなかったお……」

スネーク「お前は腹を立たせていたみたいだからな」

まさか、自分の感情まで見透かしていたとは思わなかった。
ブーンは改めてスネークの冷静さと洞察力に驚く。


階段が途切れる。
スネーク達の部屋と食堂のあるフロアまで上がってきたのだ。

スネーク「……ギコは動揺したのかもしれないな。
      食料や物資が無ければ、アニーはここで実験を継続する事が不可能となる。
      若いの、お前に言わせればオットーは『セントラル』に受け入れてくれないらしいが」

「なるほど」と、ブーンはまず自分が納得する為の間を空けた。
ちなみに2人は食堂に向かわず、まず喫煙所の方へ向かっていった。

24 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:37:13.67 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「オットーを受け入れるのは『セントラル』にとって難しい問題だお。
      多分、受け入れてくれないと思うんだお……」

ブーンはオットーを直接見た訳ではない。
しかし、シーケルトの言っていた事は一字一句記憶していた。


「アニーは私を手伝わせようとしないの。危険だからって」、

「……それと、オットーを見せたくないからって」

「でも、アニーが言うには、変異の信仰は止まったみたいなの。
 後は自我をどう回復させるか……」


シーケルトの発言から考えると、オットーは「完全にセカンド化」しているのだ。
従って、ジョルジュ――自我もあり、正常な精神と人の姿を保っている感染者――と比べ、
オットーは全く異なったケースと言える。
ジョルジュは『セントラル』の審議に掛けられていないが、それでもオットーよりは「人」として扱うべき状態にあると言える。

アニー達は、オットーの変異を食い止め、かつ自我を回復させる実験を行っている。
セカンドに対しそのような実験を行っても彼等――シーケルト達を含む――は無事であるが、
しかしその事が安全性を示しているようには、ブーンには思えない。

そんなブーンの予想は――スネークにも、みなまで言っていないが――、
『セントラル』はオットー拒絶する、という内容である。

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:40:42.07 ID:v+grNBt90
喫煙所もといスネークの部屋の扉を、スネークが開く。
真っ先にスネークはベッドに座り、煙草に火をつけた。
ブーンは銃器の掛かっていない壁を見つけると、そこを背もたれに煙草を吸い始めた。

一度、煙草を口から離し、スネークが言う。

スネーク「アニーはお前に、こう提案してくるだろう。
      オットーを受け入れてくれるよう、『セントラル』に頼んでくれないか? とな。
      だが、『セントラル』は拒絶する。アニーは、オットーの治療研究を断念せざるを得なくなる」

スネークは煙草を静かに吸った。

スネーク「次にアニーは、ここハーバードに居座る事を思いつく。
      しかし、もはや肝心の食料と資材は尽きている。そこで――」

( ^ω^)「救助ではなく、物資援助を『セントラル』に申請する、と?」

割り込んでブーンが述べた。
スネークは頷き、肯定する。

スネーク「俺達の感じている疑念が本当であるのなら、恐らくそうなるだろう」

ブーンは、まだシャワーを浴び水気のある髪をかき上げた。
髪で隠れていた渋い顔が、くっきりと現れる。

( ^ω^)(……物資援助かお。
      難しいけど、それも何とかチームでやるしかないかお)

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:43:36.13 ID:v+grNBt90

――その時、静寂した場に2つの電子音が鳴り響く。
透明感のある音質で暖かな音階で上昇するフレーズはブーンの、
一方はありふれたコール音で、こちらはスネークの携帯端末の音。

スネーク「む……」

スネークは電話がかかって来たらしく、煙草を灰皿に置いて喫煙所から出て行った。
わざわざ外に出なくてもいいのでは? とブーンは思うが、
とやかく言う理由も無いので、呼び止めはしなかった。

( ^ω^)「こっちは『セントラル』からのメールだお」

ブーンは携帯端末のディスプレイにタッチし、ホログラムのタッチパネルを投影する。
開かれたのはメールソフトであり、受信ボックスには新着のメールが1つ。
送り主は、セントラル議会だ。

メールを読もうとした瞬間に、また1つ受信。
加わったのはツンからのメールだ。

ブーンは先に議会からのメールを読む事にした。

――
―――
 ボストン調査,ご苦労である.本書は,ボストンの生き残り救出に関する返答である.
 貴殿のレポートを元に議会で検討した結果,救出作戦は計画しない事に決定した.
 その理由を以下に示す.
   1.NY〜ボストン間の長距離往復におけるセカンド遭遇と,戦闘における危険性の考慮
   2.戦闘員及び兵器が不足しており,救助にあたる適正な戦闘チーム編成が不可能なため

29 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:47:08.92 ID:v+grNBt90

 ただし,アルドボール打ち上げ時の,貴殿の所属するチーム・ディレイク及び
 チーム・アルドリッチによる功績を評価し,そのチームに限り救出作戦の計画と実行を許可する.
 なお,その際の物資・資金・人員・戦闘員及び兵器は各チームで負担し,議会及び他チームの援助は無しとする.

 この救出は現地市民(非感染者)をセントラルへ移送する事を指しており,食料等の物資を援助する事とは異なる.
 また,彼等に対する援助行動に関して,セントラル議会は立案計画を一切しないと決定した.
 各チーム,ラボ,その他諸団体による援助行動も一切許可をしないと決定した.
 この理由は,上記の理由1.と同様である.

 また,セカンドオットーは感染者と見なし,判断を貴殿とチーム・ディレイクに委任する.

 以上  セントラル議会
―――
――

ほぼ、ブーンの予想通りの内容である。
だが、議会からチーム・ディレイクとチーム・アルドリッチに作戦実行の許可が下りるのは、意外だった。

しかし矛盾した内容の文書だと、ブーンは思う。
適正な戦闘チームの編成は不可能とあるにも関わらず、ディレイク・アルドリッチの2チームに
救出――計画から実行まで――を押し付けているのだから。


( ^ω^)「何なんだお! クソ! 言われなくても、そうするお!」

ブーンは歯噛みする。
ヘタな理由をこじつけず、端からそう書けばいいのに、と。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:50:05.38 ID:v+grNBt90

( ^ω^)(物資の援助はダメかお……じゃあ、どうすれば……)

文書には、ブーンに釘を刺す為に書かれたような文章が、2つある。
1つは「この救出は現地市民(非感染者)をセントラルへ移送する事を指しており」という文。
もう1つは「セカンドオットーは感染者と見なし,判断を貴殿とチーム・ディレイクに委任する」という文。

2つの文は符号し、1つの指示を下しているように、ブーンには感じられるのだ。
つまり、「オットーを殺害するべきだ」と言っているのでは?――と。

短くなった煙草を指先で摘んで、そっと唇へ。
軽く煙を吸い、灰皿に煙草を押し付けた。

( ^ω^)(……アニー次第だお……)

確かにブーンは、オットーを殺す事も決意している。
ただ、ブーンには理由が無いのだ。オットーを殺害する理由が。
つまるところ、全てはアニーの決断にかかっているのだ。
無理矢理にでも、この地下研究区域に残ろうと言うのであれば、その時は――


スネーク「若いの」

突然、ドアの開かれる音と共に、スネークの低い声が。
スネークは吸いかけの煙草を指に挟み、ブーンの目を見る。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:52:17.34 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「なんだお?」

スネーク「アニーがすぐに食堂まで来て欲しいと。話したい事があるそうだ」

( ^ω^)「分かったお」

スネーク「ああ、その前に……俺もお前に話しておきたい事がある。
      さっきのアニーとギコが秘密裏に何かしているのでは? って話の続きだ」

ブーンは、お互いの携帯端末に、話を中断されていた事を思い出した。
ドサリと、勢い良くベッドに腰を落とすスネーク。
スネークの両手の中からジッポの石が擦られる音が小さく鳴り、一筋の煙が上がる。煙草だ。

スネーク「何故、アニーはギコ以外の者にオットーを見せないか……?
      オットーの変異が酷いから? 危険だから?
      俺達は今までこの2つの理由を聞かされ続けていたが、恐らく真実は異なる」

( ^ω^)「何でそう思ったんだお?」

ブーンは、すぐに質問した。
これ以上自分は考えても無駄、早く答えが欲しいと思ったのだ。


スネーク「若いの。お前、アニーか誰かに『下』に行かないようにと言われなかったか?」

(;^ω^)「アニーに言われたお……理由は、しぃさんから聞いたお……」

この質問は、記録せずとも簡単に掘り起こせる記憶だった。

34 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 16:57:35.67 ID:v+grNBt90

スネーク「変異が酷い、危険だから……ふむ。
      アニーの恋人であるシーケルトなら、まず鵜呑みにするだろう」

スネーク「だが、お前ほどの戦闘能力を持ち、
      長年セカンドを見続けてきた人間に、何の危険がある?
      お前が『下』の立入りを禁止されるには弱すぎる理由だ」

息を呑んで聞いていたブーンは、一度大きな溜息を吐いた。
何か重大な事実をアニーとギコが隠蔽していると思うと、心臓が拳を握って胸を打つような感覚を感じた。
実際、ブーンの胸の中では、緊張と不安で心臓が大きく鼓動している。

(;^ω^)「ただ、弟を見られたくないからじゃ……?」

「ずばり、そこだ」とスネークは煙草の先をブーンに向ける。
スネークは煙草を、思い切り吸い込み、


スネーク「オットーそのものに秘密があるから見られたくないのかも、な。
      だから俺達に『下』の立入りを禁止したのかもしれない」


重苦しい声を、多量の煙と共に吐き出した。

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:00:31.52 ID:v+grNBt90


(;^ω^)「オットーそのものに……秘密……?」


ブーンはスネークの目を見て、上ずった声で反芻した。
スネークは頷きもせず、ブーンの目を鋭い目付きで見返す。


(;^ω^)「本当に弟の治療をしたいってだけかもしれないお」

スネーク「そうだと思いたいが、不審な点が多い。俺はアニーを信用できん」

(;^ω^)「……まぁ、確かに……」

言葉とは裏腹に、ブーンの顔は怪訝な顔付きをしていた。


スネーク「若いの、この件はまだ誰にも話すな……。
      一応調べたが、この部屋と近辺には盗聴器の類は無かった。
      もう食堂に行け、若いの」


ブーンは頷くと、喫煙所を出て行った。

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:03:04.04 ID:v+grNBt90


喫煙所を出、廊下へ。
喫煙所の近くに位置する各人の部屋には、気配が無い。
アニーが全員を食堂に集めたのだろうか。

右耳の集音をオン状態にし、まだ遠く離れている食堂の音に気を配った。
人の声は聞こえてこない。
異なる呼吸が1つ、2つ、3つ、4つ――スネーク以外の全員が集まっているようだ。

何故、静かなのだろうか。
アニーは重要な話があるとでも言って、全員を集めたのだろう。
アニーの放つ緊張感――恐らく珍しい雰囲気なのだろう――から、
シーケルトと元気なビロードまでも押し黙ってしまったのかもしれない。


食堂の近くまで歩くと、ガラス越しに全員が椅子に座っているのが見えた。
シーケルトはきちんと座っており、口を閉じている。
ビロードはつまらなそうに足をブラブラとさせている。
ギコは相変わらず、眉1つ動かそうとしない。

そしてアニーは、珍しく険しい表情を浮かべて、腕を組んでいた。

ブーンの足音に気づいた全員が、一斉に視線をブーンに注ぐ。
その様子に少し戸惑いながら、ブーンは食堂の扉を開いた。

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:09:39.61 ID:v+grNBt90


( ^ω^)「アニー、遅れてすみませんお」

( ´_ゝ`)「いや、いいんだ。疲れているだろうに呼び出してすまない」

先ほどとは打って変わって、アニーの表情が和らぐ。


( ^ω^)「それで話というのは?」

( ´_ゝ`)「……倉庫の物資について、スネークとギコから聞いたよ」

表情は穏やかなままだが、反して声は低く抑えられている。
ブーンは、一瞬心臓が揺れるのを感じた。

( ´_ゝ`)「ブーン、我々の救助について進展は?」

( ^ω^)「ああ、その事でしたら……ちょっと時間を貰っていいですかお?
      先ほど、『セントラル』からの返答が届いたんですお」

「今確認しますお」と言い、携帯端末を操作するブーン。
その様子を固唾を呑んで見守るのは、シーケルトだった。

ブーンは、ツンからのメールを開いた。
議会の文書は、当然ツンも目を通している。
文書内容をツンはどう思ったのか、恐らく書いてくれたはずだ。

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:12:15.38 ID:v+grNBt90
――
―――

ξ#゚听)ξ クアアあああああああああああっああああああああああ!!

ξ# )ξ あああああ議会マジUZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!
       あいつらマジファックだわ! ちくしょおおおおおおおおおおイライラするわ!
       ブルーデイよりイライラするわ! ドクオよりもムカつくわああああああああ!!

 いいじゃない、アタシ達でボストンの人達を助けようじゃないの!
 もうハインにも協力の了承を得たわ! 从 ゚∀从

 今のところ、ガイルさんがバトルスーツで迎えに行く手筈になってるの。
 バトルスーツなら大型セカンドが来ても対抗出来るし。

 バトルスーツのコクピットって結構広くってね(コクピットの中に入れてもらったのっ!)、
 アレなら5,6人くらい押し込めるわ、キツイけど。実際に押し込んで検証したから安心して。

 ボストンまで護衛は無し。帰りはアンタが護衛してやんなさい。
 落ち合うポイントはアンタに決めてもらうわ。
 それと、いつ救出作戦を実行するか、現地の人と話し合って決めて頂戴!

 決まったらさっさと連絡しなさいよね! コッチはいつでもイケるわ!
 イエス、ウィーキャン。 キュートでセクシーなツンちゃんよりξ*゚听)ξ

   PS:オットーさんの事は、アンタに任せるわ。

―――
――

41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:15:11.77 ID:v+grNBt90

( ^ω^)(アンタに任せる、かお…………しかし、流石ツンだお)

ツンらしい迅速な対応に、ブーンは安心した。
また、使用する兵器がバトルスーツである事が、何より良い。
これなら安全にNY『セントラル』へ辿り着けるだろう。

(;゚ー゚)「あの、ブーン……どう、かな?」

シーケルトの弱弱しい声に、ブーンは思考から呼び戻される。
ブーンはハッと驚いた表情を持ってシーケルトの方を向き、

(;^ω^)「す、すみませんお! ちょっと読むのに時間かかって。
      えーとですね、それで救出に関してなのですが――」

シーケルトは思わず身を乗り出している。
ビロードも少し緊張した面持ちだ。
そんな2人を見てブーンは笑顔を見せて、続きを述べた。

( ^ω^)「コチラはいつでも救出作戦を実行できますお!
      ご安心くださいお、安全にNY『セントラル』へ皆さんをお連れしますお」

(*゚ー゚)「ほ、本当!?」

( ^ω^)「ええ。皆さんさえ良ければ、
      数日後の朝は『セントラル』でサラダでも突いていると思いますお」

42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:17:49.88 ID:v+grNBt90
シーケルトは静かに涙を流した。
声を詰らせながら何度も「良かった」と呟き、華奢な身を嬉しさで震わせている。
涙を拭っても拭っても、中々止まろうせず、シーケルトは顔から片手を離し、

(*;ー;)「そう……良かった……良かったね、ビロード!」

ビロードの黒髪を豪快に撫で回してやるのだった。
5年間、母親の代わりを務めていたと言っておかしくな彼女なのだから、
ビロードが『セントラル』に行ける事を人一倍嬉しく思うのだった。

(;><)「え、えっと、げ、ゲーム沢山やれるんですか!?」

(*;ー;)「あ、あはははっ!ビロードったら!」

ビロードの予想外の発言に、シーケルトは腹を抱えて笑う。
片手でバシバシとビロードの背中を叩き、ビロードは「痛いんです!」と叫んでいる。

( ^ω^)「おまwwwwwwwwwwwwww
      そりゃゲームは山ほどあるお! それにビロード、友達が出来るお!」

(*><)「が、学校に行けるんですか!?」

身を乗り出し、パァっと明るくなった表情をブーンに見せるビロード。
目はいつも以上に輝きを増し、少年らしい笑顔を見せている。

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:20:41.09 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「当たり前だお! ちゃんと学校もあるお!」

(*><)「い、い、いい今すぐ荷物まとめてくるんです!!!!」

そう言ってビロードは椅子から飛び降り、
風のような速さで食堂から出て行ってしまった。

(*゚ー゚)「あはは……あー、もうあの子ったら、気が早いんだから」

半開きになった扉の隙間から、ビロードの駆け足の音が抜けてくる。
その様子に、シーケルトとブーンはクスりと笑った。


「それで、ブーン」

( ^ω^)「アニー……何ですかお?」


まるで頭の天辺から冷や水をかけられたような気分を、ブーンとシーケルトは味わう。
つい、さっきまで幸福な雰囲気が流れていたというのに、
また重苦しい空気に戻ってしまった。

それほど、アニーの声は冷たく、重かったのだ。
シーケルトから可愛らしい笑顔が消え、強張った表情に変わってしまった。

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:23:26.79 ID:v+grNBt90


( ´_ゝ`)「弟は……オットーは、『セントラル』に連れて行ってくれるのか?」

やはり、それか。
ブーンの心臓が再び拳を作り、胸を殴り始めた。
冷静さを保とうと、ブーンはテーブルの下で両手を握り合わせて努める。

( ^ω^)「……非常に申し訳難いのですが、残念ながら無理ですお」

( ´_ゝ`)「何故だ?」

冷たい顔と声。
今朝まで、ずっと温和な表情を浮かべていたのが嘘のようだ。
とても目を合わせていられなくなり、ブーンは不自然ではないように目線を他へ移す。

( ^ω^)「やはり、『セントラル』としては感染者を入れたくない、というのが総意のようですお。
      僕個人も、感染者を入れる事は余りにも危険だと判断しますお。
      そして恐らく、感染者を入れてしまえば、たちまち市民はパニックを起こしてしまうお」

一息つき、指を組みなおす。

( ^ω^)「ここ、地下研究区画では5年間何事も無かったかもしれませんが、
      『セントラル』では感染者を特に危険視しているんですお、アニー」

「そうか」と、聞き取るのが困難なくらい小さく、アニーは返した。

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:26:35.55 ID:v+grNBt90


身を縮こまらせて黙っていたシーケルトが、突然口を開く。

(*゚−゚)「ブーン……本当にどうにもならないの?
     アニーとギコ君は、オットーの治療法を研究しているんだから……
     何とか、『セントラル』でも継続させてくれないかしら?」

( ^ω^)(全くだお……議会め……クソッ)

シーケルトの言い分に、ブーンは同感する。
治療法の研究をしているのだから、それを酌んでやるべきだ。
――もっとも、純粋に治療法を研究していれば、の話であるが。

ブーンがシーケルトの質問に答えようとした時、アニーが割って入った。

( ´_ゝ`)「ならばブーン、頼みがある。
      『セントラル』に物資を援助してくれるように頼んでくれないか?」

(;^ω^)「――ッ!」

ブーンの椅子の足が、床を強く擦る音が鳴った。
スネークの予想通りの展開に、思わず大きく反応してしまったのだ。
アニーの表情が険しくなる。それを見てブーンは、軽く咳払いをして取り繕おうとした。

49 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:29:14.48 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「……アニー、『セントラル』は援助等も不可だと決定しましたお……。
      NYとボストン間の長距離を往復するのは危険なんですお。分かってくださいお」

( ´_ゝ`)「君の進言で、何とかならないのか?」

( ^ω^)「……僕はただの一戦闘員であり、一市民ですお。
      『セントラル』にも法律や規則、ルールがあるんですお。
      それに従わなければ、僕は戦う資格を剥奪され、友人を守る事が出来なくなってしまうお……」


( ´_ゝ`)「……そうか……」

深く吐息し、アニーは席を立つ。
どうするかと思えば、アニーは食堂の出入り口に近づき、
ビロードが半開きにしてしまった扉に手をかけた。


( ´_ゝ`)「ブーン、着いて来てくれ。ギコも。
      しぃ……すまないが、ここに居てくれ」

( ´_ゝ`)「危険だからな」

(;^ω^)「アニ、下って――」

(  _ゝ )「来るんだ」

その声は、これまでで一番冷たく、鋭かった。

52 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:31:56.99 ID:v+grNBt90



食堂から階段までの長い通路。
薄暗く、肉眼では奥には暗闇の吹き溜まりがあるように見えてしまうだろう。
人気の無い通路に、3人の踵の音が乱打する。

( ><)「どこ行くんですか?」

その音に気づき、自室から首をひょっこりと出したビロード。
楽しく荷造りをしていただろうに、アニーは、

( ´_ゝ`)「下だ。危ないから来るなよ、ビロード」

やはり冷たいトーンを浴びせてしまう。
そして表情は張り付いたように動かず、無表情である。

(;><)「は、はいなんです!」

そんなアニーを見たビロードは怖くなり、首を引っ込めてしまった。


一向は、喫煙所の前を通り過ぎる。
ブーンは中にいるであろうスネークに、無声通信を発する。

(;^ω^)『オッサン、大変な事になったお!
      これからアニーとギコとで、下に行くんだお! どうすればいいかお!?」

すぐに、ブーンの頭の中に声が広がった。

55 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:36:29.23 ID:v+grNBt90

スネーク『若いの、行く先は間違いなくアニーの研究室だ。
      研究室に入る直前になったら、俺に無声通信で知らせろ。
      すぐに俺も駆けつける……と言っても、研究室の外で待機するつもりだが』

スネーク『5年前に見た限りだが、研究室の扉や壁は分厚く、特殊な金属で作られている。
      無声通信、携帯端末による通信も不可能となる。中の音は絶対に漏れない
      作りになっている……のっぴきならない状況になった場合、どうにかして俺に知らせろ』

ブーンは、周りの2人に気づかれないよう、所持している武器を確認した。
右腿のホルダーにはBlueBulletGunにBBBlade。
左腿のホルダーにはBlueMachinGunにBBBlade。
そして右腕の中に球状エネルギーカートリッジが2つ。

スネークに知らせる為の、音と振動を生み出すにはきっと十分なはずだ。


( ^ω^)『……まさか、オッサンの言ってた展開になるとは思わなかったお』

スネーク『そうか……アニーは物資援助を要求したか……。
      やはり奴等、何か妙だ。気をつけろよ、若いの』

そこで、通信が途切れる。
スネークから必要な指示を仰ぎ、ブーンは安堵感を覚えたが、
「階段」を目にすると、焦燥と緊張が全身を強張らせるような感覚を感じるのだった。
口内が乾き、ネバつく。飲み込む物など無かったが、ブーンはゴクリと喉を鳴らした。

56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:38:42.77 ID:v+grNBt90


ゆっくりと、ゆっくりと階段を下ってゆく。
一歩踏み出すごとに、踵の無機質なスタッカートが上下に伸びる空間へ飛んで行く。
スタッカートは壁に跳ね返ってエコーを纏い、重厚に響く。

冷気が喉をスッと通って肺を振るわせ、何処からか漂ってくる黴臭さが鼻を突く。
手摺から下を見下ろすと、下の方は暗闇が溜まっているばかりで何も見えない。
アニーが立入りを禁止する下のフロアの不気味さに、ブーンは冷静を保つのが精一杯だった。


「ブーン」

不意に、アニーの肉声が木霊す。
ブーンは肩を跳ね上がらせて驚いた。


( ´_ゝ`)「俺の弟は5年前に感染した」

(;^ω^)「……」

ブーンは受け答えせず、黙ってアニーの言葉を聞いた。

( ´_ゝ`)「この地下研究区画に逃げ込もうと、家族と打ち合わせていたのだが、
      皆は中々来なかったんだ。次第に連絡もまちまちに、やがて途切れた」

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:42:24.82 ID:v+grNBt90

( ´_ゝ`)「俺とオットーは家族を探しに、車で街へ出た。
      セカンドウィルスが拡大しつつあった街にな」

( ´_ゝ`)「俺達はカマキリのようなセカンドに追われ、全力で逃げる事にした。
      ……しかしふと、バックミラーを見てみると、信じられない事に、
      カマキリが俺の家族を襲おうとしている光景が映っていたんだ。
      俺とオットーはすぐに車をUターンさせたが――」

アニーは続ける。

( ´_ゝ`)「着いた頃には、家族は皆、殺されていた。
      父と母はバラバラに切られ喰われ、姉は首を喰われながら死姦され……
      俺達の目の前で、セカンドは妹の首を噛み砕いた」

( ´_ゝ`)「激情した俺達はマシンガンを持ち、カマキリを殺そうとした。
      しかし想像出来るだろうが、マシンガン程度じゃ奴等は死なん。
      オットーはカマキリに腹を切られ、感染してしまった」

( ´_ゝ`)「俺の唯一無二の相棒、オットー……いや、弟者はウィルス感染したんだ。
      俺は、その時どんな気分だったのか覚えていない。
      ただ我武者羅にマシンガンのトリガーを引いていたんだ」

( ´_ゝ`)「俺は、ただひたすら泣き叫び、マシンガンを浴びせていた。
      尻を地に着かせ、後退りして……俺は怯えていたのか?
      そして、その時だった、スネークとビロードに出会ったのは」

62 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:45:03.73 ID:v+grNBt90

( ´_ゝ`)「俺と弟者は、スネークに命を救われ、そしてチャンスを貰った。
      ビロードの存在は、俺と弟者にとってチャンスのような存在だと思ったんだ。
      弟者を治療する為の、チャンスだ」


( ´_ゝ`)「俺達は地下研究区画へ向かった。弟者も連れてな」


――ここまでは、スネークの言っていた通りだ。

アニーが階段を下りるのを止め、フロアに出る。
「居住区」から数えて4つ下のフロアだ。
たかが4階下りただけだったが、異様に時間が掛かったようにブーンは思えた。

アニーは続ける。

( ´_ゝ`)「しぃは驚いていた。無事に戻ってきたのは俺だけ。
      家族の代わりに来たのは見知らぬサイボーグと幼児。
      そして弟者は感染してしまったというのだから」

( ´_ゝ`)「俺だって驚いた。まさかこんな事になるなんて。
       想像もつかない事態だったさ……フフ」

その笑みは自虐なのか、他の意味を指しているのか、ブーンには分からなかった。
街へ行く事に決めてしまった判断を、悔いているのだろうか。

65 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:48:01.31 ID:v+grNBt90
そこは、上で見たような通路が続いていた。
ただ、上のフロアよりも光が少なく、視界はうんと悪い。
ブーンは暗視に切り替えてフロアの様子を伺う事にした。

目を覆うフィルターが代わり、視界は黒から緑へ。
良好となった視界でブーンが見たのは、「実験室」という小さな表札だった。
表札の下に、薄汚れた白塗りの扉がある。

( ´_ゝ`)「俺は、すぐにビロードの血液を分析した。
      弟者は強力な麻酔で眠らせ、その日は寝ずに血液分析を進めた。
      しぃとギコも作業を手伝ってくれてな……分析は一日で終わった」

アニーは言葉を続けながら、扉の制御盤をキーで開いた。
現れたタッチパネルに、パスワードを打ち込んでゆく。
その後ろで、ブーンは『これから研究室に入る』とスネークに通信するのを忘れなかった。

( ´_ゝ`)「結果、セカンドウィルスを死滅させる免疫がある事が判明した。
      俺はビロードの血液から抗体を作り、しぃがそれをクローンで培養した。
      抗体開発は上手く行ったが、既に弟者は……」

その扉は、重層の扉だった。
一枚スライドし終えると、もう一枚、もう一枚……と開かれてゆく。
そして、最後の一枚がスライドし終え、研究室は開かれた。


( ´_ゝ`)「ブーン、あれが……弟者、オットーだ」

69 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:51:35.76 ID:v+grNBt90


スネーク『了解した、若いの』

ブーンが扉の前に到達したのと同時刻、スネークはブーンからの連絡を受けた。
今日何本目か分からない煙草を灰皿に捨てると、額に黒のバンダナを硬く巻いた。

“ムカデ”狩りを終えたばかりであるので、念の為に体の損傷率を確認するが、
戦闘行為において問題となるようなダメージは無い。
準備を終え、部屋を出る――

――部屋を出ると、シーケルトが部屋の前に立っていた。
何故か怯えた顔をしており、両目は涙で溢れている。

スネーク「シーケルト、そこで何を――」

(*;−;)「スネーク! 彼は、彼は本当に……!!」

スネークの声が遮られる。
シーケルトはスネークの両肩を掴んで、スネークを揺さぶって激しく問いかけた。

スネーク「落ち着け! 一体何があった!?」


(*;−;)「グスッ……彼のあんな恐ろしい顔……初めて見たわ……」

スネーク「彼……アニーだな?」

シーケルトは頭を小さく上下させて答えた。

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:53:52.25 ID:v+grNBt90

(*;−;)「グスッ……5年間……いえ、初めて会った時から彼は優しかった。
      いつも明るい笑顔を、グスッ、振りまいてて……。
      あんな恐ろしい表情と声を、グスッ、した彼は見た事無い……」

「ぼ、僕も初めて見たんです!」

スネーク「ビロード」

廊下での喧噪を聞きつけたビロードが、リュックサックを背負って自室から飛び出してきた。
何故リュックサックを背負っているのかスネークには分からなかったが、
今はビロードのやんちゃに付き合っている場合ではないと思い、

スネーク「何を見たんだ、ビロード?」

( ><)「アニーの怖い顔です! あと凄く怖い声してたんです!
       まるで別人みたいだったんです! 何でですか!? わかんないんです!!」

スネーク「うーむ、月日が経てば人だって変わるもんさ」

(*;−;)「ビロードの、グスッ、言う通りよ、スネーク。
      あの人、本当に人が変わったみたいに、凄く怖かった……」

スネーク「…………ふむ」

スネークは顎に手をやって、難しい顔で彼女達の話を聞いた。

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:57:29.36 ID:v+grNBt90
シーケルトは涙を拭い、顔を上げた。
泣き止んだばかりでまだ顔が歪んでいるが、彼女の美しさはちっとも損なわれていない。
嗚咽も止まり、だいぶ落ち着きを取り戻すと、口を開いた。

(*゚−゚)「聞いてスネーク。さっきブーンが下に連れて行かれたの」

スネーク「ああ……実は、その事についてなんだが――」

( ><)「なんですか??」


――スネークは2人に語った。
自分がアニーとギコに感じる疑念、ブーンに対するアニーの不審な発言……。
シーケルトとビロードは、息を呑んで話を聞く。

(;゚ー゚)「……か、考えすぎよ、スネーク。
     アニーは、ただオットーを救いたいだけよ!!」

スネークの話に惑わされているのか、シーケルトの口調は不安定。
目の前のスネークと目を合わそうとはせず、俯いている。

スネーク「そうだと良い。しかし、しぃ。
      俺もまた、アニーとギコを信用する事が出来ない」

75 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 17:59:38.91 ID:v+grNBt90

(;゚ー゚)「でも、ギコ君は自分の意思で行動しているわ!
     アニーに操られているなんて……それにアニーがそんな事をするなんて思えない!」

大きな声に、ビロードの両肩が飛び跳ねた。
暗闇で見えなくなっている廊下の方まで、シーケルトの甲高い言葉が広がってゆく。

スネーク「ギコのSystem-Hollowを調整しているのは、アニーじゃなかったか?
      そしてギコは、俺が見る限りでは、アニーの指示でしか行動を取っていない」

(;゚ー゚)「それは……」

言い返せなかった。スネークの発言を否定する事が出来なかった。
何故なら、彼女にも、思い当たる節があったのだ。

スネーク「とにかく、俺も下まで行ってみる」


(;゚ー゚)「私も行くわ。もし自分の目で確かめられるのなら……確かめたいもの!」

( ><)「僕も行くんです!」

威勢の良い声が2つ。
スネークは「やれやれ」と溜息を付いたが、

スネーク「わかった。万が一危険が生じた場合は、ビロードを頼んだぞ」

80 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:02:38.45 ID:v+grNBt90



実験室は、培養管から放たれている蒼い光だけが、光源となっていた。
薄暗い中で、水泡がこぽこぽと湧く音と作動音のみが鳴っている。

ブーンは寒気を感じていた。
あんな“化物”が、我々の足の下に存在していたなんて――と。

(;^ω^)「あれが、オットー……」

人間の丈を遥かに越える巨大な培養管。
その中では、手足や腰、首など、あらゆる箇所を鎖で繋がれた異形が、
蒼い水の中で浮かんでいた。

口元にはボンベが着けられている。
胸や肩に注目すると、それらが一定のリズムで動いているのが分かる。
やはり生きているのだ、オットーは。

( ´_ゝ`)「安心しろ。抗体と麻酔で常時大人しくしている。
      培養管は特殊な強化ガラスを使用しており、
      弟者に殴られようがヒビ一筋とて入った事は無い」

( ´_ゝ`)「――俺はビロードの免疫で作った抗体と、
      フィレンクト氏の開発したSystem-Hollowを併用し、
      変異の抑止と精神の安定を試みたのだ」

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:05:31.03 ID:v+grNBt90

( ´_ゝ`)「しかし、5年にも渡る研究と実験は、一向に成果が出ない。
      最初の1年は、全員がマスクと防護スーツを常時着用して生活していた事もあった。
      なあ、ブーン……俺は諦めない、諦めたくないんだ。
      頼む、弟を救う為なのだ。もう一度、『セントラル』に交渉して欲しい」


(;´_ゝ`)「援助を! 頼む!」

(;^ω^)「アニー……」

アニーはやっと、張り詰めた顔を解いた。
必死な表情と声をもって、ブーンに頼み込む姿は、
やはり弟を思う兄の姿なのだろうとブーンは思う。

しかし、

( ^ω^)「アニー、アンタは凄い科学者だお……でも、もうやめるお」

( ´_ゝ`)「え……?」

拒否でも無く、意外な言葉がアニーを貫いた。
呆然とするアニーに向って、ブーンは言葉を紡ぐ。

84 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:09:15.30 ID:v+grNBt90

( ^ω^)「5年間、『セントラル』も総力を挙げてウィルスの研究に臨んだお。
       でも、具体的な治療法は見つからなかった……無理なんだお。
       セカンドウィルスは、人知を遥かに超えた存在なんだお」

( ´_ゝ`)「何が、言いたい……?」


( ^ω^)「アンタも、ギコも、僕も、ウィルスに人生を狂わされたお。
      セカンドウィルスは人を不幸にする……
      連鎖を、蔓延を断ち切るべきなんだお、アニー」



(#´_ゝ`)「何が言いたい!?」



鉄鋼の壁に、拳を横殴りに叩きつけ、アニーが怒りを露にした。
ブーンは僅かにたじろいだが、負けじと声を大にする。

(#^ω^)「――オットーを殺し、僕と『セントラル』に来るんだお!
       そこでしぃさん達と幸せに暮らせお!
       ギコさんも感情を元に戻せばいいんだお!」


――間が開く。アニーからの返答が、無い。
アニーは俯き、長い髪で顔を覆い隠してしまっている。

88 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:11:56.92 ID:v+grNBt90


(  _ゝ )「弟を……殺せだと……」

長い間の末、やっとアニーは言葉を発した。
弱弱しい声……しかし、その声はわなわなと震え、しわがれている。

アニーは、体を震わせていた。



(  _ゝ )「ふざけるな、貴様」


そして、はっきりと言った。
顔を上げ、髪の隙間からブーンを垣間見る目は、
人間の目とは思えない程、邪悪に混濁していた。

そのように、ブーンには見えた。

90 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:15:00.95 ID:v+grNBt90


(  _ゝ )「俺はここを出て行かん! そしてアイツを殺す事など許さん!
      俺の研究を、ここで断念させる事など、あってはならんのだ!」

アニーの言葉が反響する。
短いエコーが途絶え、再び培養管から鳴る水泡と作動音が静かに流れる。
水泡のこぽこぽという音と、培養管周りの機械の低い作動音、
その2つのみで構成される、静かな背景の音。


(  _ゝ )「俺は出て行かん! 俺は続ける! 研究を続けなければならないのだ!」


その中でブーンは、うるさい心臓の音だけを聞いていた。
血液が全身を高速で駆け巡り、ブーンを怒りという感情で滾らせる。
頭と腹の中が急激に熱を上げるような感覚に、視界がぐらつく。
歯の形をした特殊金属が擂りあう、不快な音にも気づかぬ程に、怒りに燃える。

怒りに伴い、頭の中でイメージされるのは、ジョルジュの顔。
そして、ハインリッヒの兄クォッチ……ミルナ・アルドリッチである。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:19:05.86 ID:v+grNBt90


(  ω )「アニー、僕は何人もセカンドを殺してきた……セカンド化した人間を!」

(  ω )「妹の見ている中、その妹の兄を殺した事もあるお。
      だけどその妹は言ったお……兄を天国に送ってくれと!」

(  ω )「天国に送るなんて都合の良い理由、言い訳かもしれないお。
      でも、セカンド化した人間を元の姿に戻す事なんて、無理なんだお。

(  ω )「とある感染者は言ってたお……自分は必ずセカンド化する、
      そしてセカンド化したら……殺してくれと!」

――覚悟はある。ジョルジュを殺す覚悟は。
オットーを殺す覚悟も、勇気も。

(  ω )「……シーケルトさんを不幸にさせてはいけないお。
      『セントラル』に行って、ギコさんに人間の感情を返してやるんだお!」

ブーンは、アニーの隣に立っているギコの顔を一瞬見る。

(  ω )「殆どゼロの可能性を追うより、アンタはもう幸せに生きるべきだお。
      もう“治療方法の研究”なんて、諦めるべきなんだお」


( ゚ω゚)「……オットーを天国に送り、感染と悲しみの連鎖を断ち切るお!
      そこをどけお! アニー!」

BlueBulletGunをホルダーから取り出し、ゆっくりとした足取りで進む。
銃を持った右腕を徐々に上げ、銃口を正面の培養管――いや、アニーへ向けた。

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:22:01.24 ID:v+grNBt90


「……く、くう、クククク」


(  _ゝ )「クハハハハハハハハッ! ハハッハハハッ!」

乾いた笑い声が、響く。


(;゚ω゚)「何がおかしい!」

(  _ゝ )「クク……いや、すまない。つい、おかしくてな」


(#゚ω゚)「だから何がおかしいと――」



( ゚_ゝ゚)「俺はな、ブーン。実は“治療方法”を研究しているんじゃないんだ。
      アイツを治そうなんて気は毛頭無い。さっき話したのは、全て嘘だ」

(;゚ω゚)「何を言って――」

( ゚_ゝ゚)「殺れ」

脱力し、銃口を下げたブーン。
その瞬間、赤色の何か風の如く素早く駆け、ブーンを殴り付けた。
衝撃で吹っ飛び、出入り口の強固な扉に叩きつけられる。
指の力が抜けて手から離れてしまった銃が、床を滑ってゆく。

97 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:26:40.47 ID:v+grNBt90


(,,゚Д゚)「アニーの指示だ。殺す」


(;゚ω゚)「ぎ、ギコさん……!?」

ギコは、ブーンとの間を瞬時に詰める。
そして素早く腰を回し、右足で蹴りを放った。
尻餅を着いているブーンの顔面目掛け、金属製の踵が襲い掛かる。
――速い。体勢を整えたり、回避する時間がブーンには無い。

首を傾けて蹴りを避けようと試みるが、ギコの踵が割れ、そこから刃が伸びたのだ。
リーチが伸び、攻撃直撃までの時間が短縮される。

鼓膜を引き裂くような、硬い金属音が鳴り響く。

真っ白い扉に、一文字のキズが描かれるが、そこに赤の配色は無い。
宙に舞うのは血液などの液体ではなく、少量の金の髪だ。

踵の刃が収容され、半回転すると同時に着地。
同時に繰り出されるのは、左足での蹴り。
遠心力を伴ったそれは、一撃目よりも更に速い。

刃が伸び、切っ先がブーンの顔に走る――。

98 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:28:55.89 ID:v+grNBt90


(;゚ω゚)「ぐう……」

宙に舞ったのは、ギコが繰り出した短い刃だった。
ブーンは咄嗟にBoosterを起動し、刃をぶち折って直撃は免れた。
しかし、眉間から右頬に掛けて切り削られ、その部分だけ銀のプレートが剥き出しになる。

ギコは止まろうとしない。
左手を突き出したかと思えば、掌から銃口が飛び出、そして銃身が光り輝いた。


――その瞬間、ブーンはBoosterオン状態の右腕を、銃口を目掛けて振るい、
ギコの手を手首から叩き斬る。
同時に、空いている左手で宙から落下する刃をキャッチした。
折れた刃の根元を握り、渾身の力で投げる。

目標は培養管のオットー。
しかし、ギコに軽々と叩き落されてしまう。

だが、その際に生まれた間隙を突き、ブーンは横転してギコから距離を取った。
立ち上がり、ファイティングポーズを構えるが、ギコは追ってこない。

ブーンを睨んでいたのは、口径の大きい銃口だった。
巨大な発砲音が実験室を包む――

100 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:31:24.14 ID:v+grNBt90
――穴が開いたのは、実験室の壁。

標的であったブーンは無傷で立っており――顔の傷を除いて――、
そして左手にはBBBladeが握られている。

蒼い光刃を放出する柄を、ギコの下半身を狙ってぶん投げる。
放られた刃は高速でギコに迫るが、ギコには十分避けられる程度である。
ギコは地を蹴って宙に逃れる――浮遊中、ギコは回避方法を誤った事を思い知る。

視線の先には、銃を握ったブーンが。
地に足が着くよりもずっと早く、無数の弾丸がギコを襲う。狙いは右足だ。
宙で足を振り上げ、または下げるが、弾丸は獲物を逃がそうとしない。
敢え無く、ギコの右足に弾丸が直撃する。

破裂音、亀裂音、爆発音の後、空間に電流が散る音。
右膝から下を破壊されたギコは、片足で着地した。

更に、発砲音。
ギコの右腕が、蒼い弾丸と共に吹き飛ぶ。
右腕、右足を失い、バランスを欠いたギコが地に伏した。

(,,゚Д゚)「くっ」

残った左腕でブーンを銃撃しようとしたが、
既にBlueMachingunの銃口がアニーに向けられていた。

104 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:36:28.37 ID:v+grNBt90


(#^ω^)「アニー、動くなお」

(;´_ゝ`)「チィ……役立たずめ……!」


――突如、爆音が轟いた。
たちまち多量の煙と粉塵が、実験室に充満する。
煙と粉塵を吸ったアニーが激しく咳き込む他、誰かが実験室に入ってくる足音が響く。

煙と粉塵が徐々に薄れてゆく。
現れたのは、茶色の頭髪と髭を除いては全身黒尽くめの、中年のサイボーグだ。

(;^ω^)「お、オッサン!」

(;´_ゝ`)「貴様、何故ここに!?」


スネークは鼻で笑う。

スネーク「凄い音が聞こえてきたもんでな……扉を爆破させて貰った。
      しかし一体こりゃ、どういう状況なんだ? アニー?」

続いて、甲高い咳の音が2つ実験室に入ってくる。
1つは女性、2つは子供のもの。

106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:40:22.90 ID:v+grNBt90

(;゚ー゚)「ゴホッゴホッ……ギコ君!?」

(;><)「ギコ! 大丈夫なんですか!?」

足と腕を一本ずつ失い、倒れているギコを見つけるや否や、
シーケルトとビロードはギコに駆け寄った。

(;゚ー゚)「な、何で……こんな……」

(,,‐Д‐)「……」

ギコは目を瞑り、何も喋らなかった。
その様子を見たシーケルト、スネーク、ブーンが、同時にアニーへ視線を集める。

スネーク「さあ、説明してもらおうか、アニー」

スネークは変哲の無いハンドガンをアニーに突きつける。
ブーンはBlueMachingunをホルダーに収め、
BlueBulletGunを拾い、アニーを狙って構えた。

(; _ゝ )「……クッ……」

スネーク「お前とギコが俺達に隠し事をしているのは、分かってる!
      何を企んでいる、アニー!」

107 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:43:05.47 ID:v+grNBt90

(; _ゝ )「…………」

場に沈黙が流れる。
培養管の水泡と作動音のみが鳴っているが、
緊張が張り詰めて全員を支配している為、誰の耳にも届いていない。
その場にいる者――アニーを除く――には、無音状態が続いているように感じるのだ。

アニーは頭を垂れ、髪で顔を隠している。
一向に、アニーが喋る気配は無い。

(#^ω^)「……治療方法を研究してなかったって、どういう事だお!」

痺れを切らし、ブーンが口を開いた。
ブーンの発言で、一気に場がざわつく。

(;゚ー゚)「……ブーン、何言ってるの?」

スネーク「オットーをどうするつもりだったんだ、アニー」


再び沈黙が場を覆おうとしたが、

スネーク「答えろ!」

スネークの怒鳴り声が、それを許さなかった。
いつになく厳格な雰囲気を身に纏い、スネークは問い詰めた。

111 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:45:33.95 ID:v+grNBt90
ついに観念したのか、アニーがボソボソと声を発し始める。
全員が、それに耳を傾けた。

(  _ゝ )「……ああ、ブーンの言う通りだ。
      治療方法なんて研究していなかった」

シーケルトが、呆然とした表情で、地に膝を着いた。
アニーは、構わず続ける。

(  _ゝ )「 確かに俺は自我を回復させる研究を行っていたが、
      本当の目的は“セカンドウィルスの制御方法”だ」

( ^ω^)「制御……方法?」

ブーンが聞き返した。
アニーは、培養管の前をウロウロと歩き始める。

(  _ゝ )「ああ。ビロードの血液から精製した抗体と、System-Hollowを併用し、
      ウィルス感染者の感情をコントロール……あるいは、
      自我を保つ事が可能か、俺は研究した。しかし、それも治療が目的ではない」

(  _ゝ )「更に外部操作……ブレイン・マシン・インターフェースの理論を用い、
      外部から感染者をコントロールする実験も試みたのだ。
      だが、いずれも成功に至っていない……しかし、成功させる必要がある」

スネーク「一体何の為に……?」

(  _ゝ )「……人類の進化の為だ」

115 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:48:20.62 ID:v+grNBt90

(  _ゝ )「……太古、人間が火を扱えなかったように、人類はステップを踏み、
      その叡智を高めていった。やがては宇宙空間をも克服し、
      更には太陽系外までに進出するに至った」

(  _ゝ )「そして人類は新たな試練に直面する。そう、セカンドウィルスだ……
      未曾有のウィルスに人類の歴史は閉ざされんとした」

(  _ゝ )「しかしだ。俺は逆に、人類が更なる進化をする機会だと認識した。
      火や光を操ったように、セカンドウィルスも自在にコントロールすべきだと!
      いずれ人類はスーパーマン、X-MENのような超人になれると!」

(  _ゝ )「俺はセカンドウィルスをコントロールしたいんだ!
      そして俺は生物として次のステップ、次元に到達してみたい!」


スネーク「――だがもう、お前の夢……企みはここで潰える。
      5年に渡った実験のデータは全てオットーと共に消え、
      お前は『セントラル』の牢獄にでもぶち込まれるだろう」

スネーク「そこを……どけ!」

銃口を構え直し、威嚇するスネーク。
アニーは、その場に力無く座り込んだ。

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:51:21.73 ID:v+grNBt90

スネーク「若いの」

目配せすると、ブーンはコクリと頷いた。
スネークは銃の照準をアニーからオットーへ変え、発砲する。
数発の弾丸は培養管の分厚いガラスにヒビを入れた。
脆くなったガラスは水圧に耐え切れなくなり、音を立てて決壊する。

培養管を満たしていた液体が全て流れ出る。
培養管の前に座り込むアニーに、液体が降りかかり、
アニーの白衣が蒼に染め上げられる。

そして浮力を失ったオットーが、膝を突いた。
鎖に繋がれ、倒れる事を許されないオットーは、前傾した状態を保っている。
胸が呼吸で動いている以外に、オットーが動く気配は無い。


(  ω )「ごめんお……オットーさん……」

BlueBulletGunを、オットーの頭部に向け、
引き金に指を掛けた――
                     、、
(  _ゝ )「いいのか、ブーン、しぃさん」

――トリガーが引かれる。



( <_  )「それは、アニーだが」

121 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:56:32.48 ID:v+grNBt90


「真実」が告げられるよりも早く、既にトリガーは引かれていた。



弾丸は、オットー……いや、アニーに届かなかった。
突然飛び出してきたシーケルトの後頭部に……そして、



シーケルトの美しい顔を、この世から消し去ってしまったのだった。



( ゚ω゚)「うあ……あああ……ああああああああああ!!」


頭を失ったシーケルトが、アニーの方へ倒れてゆく。
その様は、死してもなお足を動かしているようである。
そう、まるで愛する者へ駆けているかのように――首から真紅の花を咲かせて。


( ゚ω゚)「ああああああああああああああああああああああ!!!」


項垂れるアニーに、シーケルトは倒れ込み、
シーケルトの両腕は、抱きかかえるようにアニーの首に回されるのだった。

123 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 18:58:53.34 ID:v+grNBt90

( <_  )「――――何故だ」


(;<_; )「何故しぃが死ななければ……何故……。
      こんなつもりは……こんなつもりでは……」

オットーは涙を流しながら後悔を言葉を繰り返し続けた。
両手を床に着き、額を床に押し付けて。

( ゚ω゚)「あああ……ああああああ……ああ……
     ぼ、僕は……し、しぃさんを……ひ、ひ人を……」

スネーク「しっかりしろ! 若いの!!」

ブーンは銃と共に、膝を落とした。
ガクガクと全身を震わせ、ガチガチと歯を鳴らし、
機械の両目は涙を流す事無く、ただシーケルトを見つめていた。

ドサリと、倒れこむ音。

スネーク「ビロード!」

スネークはビロードの元へ駆け込む。
ビロードを腕で抱きかかえ、覗き込むようにして様子を窺う。
ケガは無い、気を失っているだけだ。

124 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:02:27.70 ID:v+grNBt90

スネーク「――ギコッ……お前……」


電流が迸る音を立て、ズルズルと這う音。
残った腕と足で床を懸命に押し、向うのは培養管。

涙を流しながら、愛する者のもとへ。


スネーク「まさか感情が……戻ったのか……?」


(,,;Д;)「しぃ……! しぃ……!」

辿り着き、片腕片足で立ち上がり、そして培養管の中へ。
ギコは、ゆっくりとシーケルトの体に寄り添い、
ひたすらシーケルトの愛称を繰り返す。

(,,;Д;)「しぃ……しぃ……」

愛する者の死に、絶望した男の声だった。
寂しげで、悲壮な、何とも感情的な声が、室内に響き渡る。

128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:05:17.50 ID:v+grNBt90

「スネーク」

ただ一人、冷静を保つ事が出来ているスネークを呼ぶ声。
その無機質な声の主は、オットーである。

( <_  )「殺してくれ」


( <_  )「俺を殺してくれ」

愛する者を失ったオットーは、死を乞うた。
もはや流す涙も無く、ただ、生きる事に絶望してしまったのだ。


スネーク「その前に聞かせろ。何故、お前はアニーを騙った?」

スネークは、残る最後の疑問を問いかけた。
するとオットーは自嘲するように鼻で笑い、

( <_  )「目の前に都合の良いサンプルができ、
      実験するのに有効そうな免疫もあり……。
      俺の夢を実現するピースが揃ったと、思ったんだ」

そこでオットーは息を深く吸った。

130 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:07:30.59 ID:v+grNBt90

( <_  )「だが……本当は……そんな事よりも……
      俺は、しぃさんの事が好きで仕方が無かったんだ……。
      だから俺は尊敬する兄者になった。
      そして5年間兄者を演じ、皆を欺き、しぃさんと愛した」

( <_  )「俺は……兄者になりたかったんだ」


「そうか」と、スネークは呟いて返す。
スネークは抱きかかえたビロードを優しく寝かせ、立ち上がる。

立ち上がり、オットーの方を見ると、



スネーク「何を――」




培養管の中で、アニーの血肉を喰らおうとするギコの姿があった。
気づいた頃には、遅かった。
腕の中に仕込んだブレードで肉をぶつ切りにし、真っ赤な塊を貪り始め、
口から零れるアニーの血で全身を染め上げ――。
そしてギコは、アニーの頭部を切り落とし、頭から滴る血を浴びるように飲んだのだ。

136 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:11:40.40 ID:v+grNBt90
シーケルトの遺体は、指を組んでアニーの前で横たわっていた。
アニーの血がシーケルトの遺体にも降り注ぎ、
シーケルトの純白の白衣を赤に塗り替えてゆく。

死体がセカンド化する事は無い。
正確に言えば、死体がセカンドとして生き返る事は無い。

変異し、セカンドとして生まれ変わろうとしているのは、ギコ。
セカンドウィルスを含んだ血をたらふくに飲み、肉を腹一杯に喰ったのだ。

ビロードの免疫を注入されていたとはいえ、それはオットーによって
ウィルス全てを死滅させないように制御していたのだ。
セカンドウィルスは、アニーの肉体に間違いなく潜伏していた。

ギコは変異する……抗体でも打たない限り――。


スネーク「若いの! 何をしている!!」

そんな状況を目の前にしていても、ブーンは動かなかった。
目線がギコに向けられているのにも関わらずだ。
スネークの大声にピクリとも反応しようともせず、

( ゚ω゚)「あああ……僕は……人を……」

ブーンは、ただ虚ろな声を出しているだけであった。

140 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:15:27.42 ID:v+grNBt90

スネーク「くそったれ……ッ!」

スネークはブーンのもとへ走った。
そしてブーンの手元に転がっているBlueBulletGunを拾い上げ、
照準をギコに向ける。

ギコは喰らう事を止め、培養管の中で倒れていた。
しかし、動悸が激しい。呼吸も異常な速度だ。
強化皮膚とプレートに保護されているというのに、
胸が激しく上下しているのは、異常なのである。

スネーク「セカンド化してやがる……!」

サーモグラフィで見るギコは、体の芯まで真っ赤に燃えていた。
人間の体温でも、メカニックの放出する熱でも無い。
セカンドウィルス独特の熱量を提示しているのだ。

《グ……グオオオオオオ――――――――ッ》

ギコの口から野獣のような咆哮が出る。
同時にギコの体を、真っ赤な骨刃が突き破り、伸びる。
背から、胸から、足から、腕から、無数の骨刃が突出する。
だがあれは人の骨ではなく、人口骨格を構成する物質だ。

左腕はぶくぶくと膨れ上がれ、破裂し、再生を繰り返す。
腕の中に仕込んでいた銃に、取り込むように肉と骨が覆い包む。
また左腕は再生してゆく――人ならざる者の腕に。

142 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:18:21.10 ID:v+grNBt90
変異が速い――。
まるで高速再生された映像のように、ギコが変形してゆく。

《ガアああ! あアアあああ! あああアあがあああアアアアアアあああああ》

体が変形する度に、ギコは絶叫する。
全身の8割が機械で構成されていたというのに、今は多く肉が体を覆っている。
プレートと、外部骨格であったスーツを、増大した血肉が覆い包み、
あるいは取り込み、無機的物質と有機的物質が絶妙に編みこまれてゆく。


スネーク「うおおおおおおおおおおッ!」

スネークは撃つ、何度も蒼い光弾を撃つ。
放つ弾丸は全てギコに命中し、肉や骨刃を消し飛ばす。

しかし、ギコの変異は止まらず、熱量も下がらない。
それどころか、変異は激しさを増し、ギコを別の生物へと変えてゆくのだ。

スネーク「おおおおおおおおおおおおッ!!」

銃を捨て、代わりに持つは注射器。
スネークは叫んで自分を奮い立たせ、ギコへ向っていった。
シーケルトを飛び越え、血みどろの培養管へ。

143 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:20:44.26 ID:v+grNBt90
スネークはギコの首に注射器を押し付けるが、

スネーク「抗体が流れん!?」

注射器の内容物が、ギコの体に流れて行かないのだ。
皮膚が硬いからなのか――?
スネークは首ではなく別の部位で試みようとするが、ギコに吹っ飛ばされてしまう。

スネーク「がはッ!」

スネークは、呆然と項垂れているブーンに激突する。
ブーンは頭を打ち、その強い衝撃でやっと我に帰るのだった。
先に起き上がったのは、ブーンである。

(; ω )「お、オッサン……」

スネーク「ぐ……あ……やっと……目が覚めたか、若いの」


(; ω )「オッサン!」

ブーンは、腹を押さえて蹲るスネークに、駆け寄った。
スネークの口元から、血が滴っている。
腹の辺りに大きな凹みが出来ているのを確認し、すぐにスキャンを起動する。
メカニックに損傷は無い、内臓に少々のダメージが与えられただけだ。

145 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:23:46.31 ID:v+grNBt90

スネーク「問題無い……それより若いの、お前……」

スネークはゆっくりと立ち上がる。
ブーンは肩を貸し、スネークを支えてやる。

(  ω )「……もう、平気だお……」

力無く、スネークにそう答えた。


( ^ω^)「……連鎖を断ち切らなければ」

正面を見据え、そう呟いた。


2人の視線の先にいるのは、変異を終えた異形の存在。
しかも、今までに無かったタイプの、セカンドである。
サイボーグが変異して生まれた、新種のセカンドなのである。


《……殺してやる……》


スネーク「なッ――!?」

150 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:27:31.29 ID:v+grNBt90



《殺してやる。シーケルトの命を奪ったように、貴様を。
 殺す、殺してやる……貴様を殺し、貴様の大切な人間も殺してやる》


(;゚ω゚)「どうして……言葉を…………?」


スネーク「何故、感情がある!?」




(//‰ ゚) 《ブーン……しぃを奪った貴様を、俺は絶対に許さん。》



ミルナ・アルドリッチ――クォッチとは、全く異なるセカンドである。

アニー・サスガの血肉を喰らい、新たに誕生したセカンド「ギコ・アモット」は、
セカンドの強大な力を手にしながらも、自我を、記憶を、感情を持ち合わせ――
――――それら全てを、自分の意思でコントロールしているのだ。


                             第19話「真実」終

154 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:30:27.59 ID:v+grNBt90
>>1のつづき
             ┏┓┏┳┓
           ┏┛┗┻╋┛               \  i
           ┗┓┏┓┃                ── + ─ ←ザンギ
             ┃┃┃┃ ┏┳┳┓          // | \
             ┗┛┗┛ ┗╋┛┃        /  / |
                        ┗━┛      /   /
                       ̄ 二─ _
                          ̄ 、  - 、
                           -、\   \
          /                  \\   \
         //                  \ヾ ヽ     ヽ
        ///                 \ ヾ、 |       i
     /__(                     |! `i        |
    <_,へ >- 、       ,.-、_         |         |
       \ノ人\    / 、 }! \        |         |
         \へ〃\/ヾ\_ノ、ノ人 ,.-、    |         |
          \|\rj\ヾ /   \_フ ,/   |! リ        |
          rm\ノ _  Y     Lノ      /    |    |
         |ヽ-r< ̄`ヾr' ̄ヽ           / /  /    /
        | └、ノ/ ̄`,-`┐ {         _/ / /  //
       レ⌒\!_  ー -{ ノ }         /  / /
             ̄`ー一 '゙        _//_ /
                       _二─ "

ガイル「サマーソルトキイイイック!!!」

ガイルは首の力だけで、超重量級のザンギエフを宙に浮かすと、
全身に溜めた力を一気に解放し、必殺の蹴り技「サマーソルトキック」を繰り出すのだった。
ザンギエフの虚ろな魂はロシアの雄大な大陸を越え、やがてお星様になったの☆ミ

157 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:33:10.60 ID:v+grNBt90

( ━┏) ザンギへ げんきですか。いま溜めてます
 п
(`Д)   うるさい死ね 溜めるな殺すぞ

( ━┏) ごめんね。ガイルはじめて溜めたから、ごめんね
 п
(`Д)   うるさいくたばれ、溜めんな

( ━┏) ソニック撃っておきました。ガードしてね 飛び込みはしますか?
 п
(`Д)   死ねくそガイル

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄o ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
__        ゚
 残 |   ____
 儀 |   \   /
 墓 |  ∴ (┓━) ヘッ、おれにけんかをうるなんて100ねんはやいぜ
──┐ ∀  << )

――ガイルは、かつての空軍時代の記憶を、ザンギエフの墓の前で辿っていた。
顔を合わす度にいがみ合い、気づけば血を見る大喧嘩をやらかし……
最後は笑って飲み明かしていた、そんな最良のライバルだった。

159 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:35:30.26 ID:v+grNBt90

ガイル「これで>>1の座は俺のもの! ザンギなんて知りません!」

( ^ω^)「本音はそれですか。ってか物凄く速くて投げやりな展開だったお」

ガイル「おまけだからいいんだよ!! さあ、いよいよ俺の人気は上昇するぞ!
     ガイル系小説の始まりだ!」






と、その時、2人の背後に忍び寄る影がッ――!

〜続く〜

164 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/03/03(火) 19:43:24.26 ID:v+grNBt90
長時間に渡りありがとうございました。支援お疲れ様でした!
みんな、留年すると筆が早くなるぞ。

ギコの感情状態がどうなってるのかは、次回にでも。
あと色々謎が残ってるので(オットーがどうやって入れ替わったのかとか)、
その辺はLOGとかで処理していく、かもしれません

そういや先月で、街狩り一周年でした。
今年は一ヶ月に2話くらいは投下していきたい。

あと、イボ太郎おめでとう!
ということで、また次回!

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