- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:18:13.06 ID:SJmuwUvVO
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第9R - 『殺るか…』
阪神MR―――
ポストSS戦国時代、とも呼ばれる2010年以降の生産界は混沌としていた。
輸入馬と、SSの血を持たない馬との交配で勢力を維持する、ポストSS筆頭種馬アグネスタキオン。
母父SSとの交配で爆発的に勢力を伸ばすミスプロ系、その代表格であるキングカメハメハ。
更に、日本に普及していないBR系種馬として、ミスプロやSSの血を持つ馬との交配で勢力を伸ばすカジノドライブ。
筆頭種馬の座をアグネスタキオンに譲ったものの、しっかりと結果を残すディープインパクト。
これらの馬は、日本種馬四天王と呼ばれるほどの活躍を見せた。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:21:08.23 ID:SJmuwUvVO
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しかしその影で、日本競馬界は確かに変わりつつあった。
芝は欧州寄りの重たいものへと変わり、砂もアメリカ寄りへと変革して行った。
何よりも日本競馬界で変わったことと言えば、小〜中規模な生産牧場であろう。
それらの牧場は、スピードを持つ高価な種馬を肌馬に種付けすることが出来ず。
パラダイスクリークを初めとし、ヒシミラクルやメイショウサムソンと言ったスタミナ色の強い馬を種付けすることが余儀なくされた。
当然、産まれてくる馬は豊かなスピード等は無縁で、スタミナ色の強い馬が誕生していった。
スピードを持つ馬を生産出来なくては、スピードが必要とされる中距離以下のレースでは勝てないのだ。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:24:05.38 ID:SJmuwUvVO
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結果、社台やダーレーを代表とする、スピード色の強い種馬を持つ生産者は大活躍を見せ、スタミナ色の強い種馬でしか生産の出来ない小規模牧場達は、更に勢力を縮小していく。
その事態を重くみたJRAは、春夏秋冬を問わず長距離レースを数多く新設し、更にはステイヤーズSをGTへと格上げし、長距離戦線の充実を図った。
その産物が、阪神MR――
阪神マラソンレースである。
阪神3600mという舞台で行われ、菊花賞の5週前ということもあり、菊花賞のステップレースとしても扱われるレースだ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:27:00.55 ID:SJmuwUvVO
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神戸新聞杯が、有力3歳馬が古馬王道路線に挑むための試金石として古馬へと解放されたのをきっかけにして。
セントライト記念も、有力3歳馬が古馬マイル〜中距離路線で名を挙げるために中山1800mへと改修、更にこちらも古馬へと解放された。
そのため菊花賞は、夏の上がり馬最強決定戦として使われるようになり、GTの威厳を失いかけていた時。
それを救ったのは阪神MRであった。
長距離経験の無い3歳馬達にとって、翌春の天皇賞春を射程圏内に入れるためにも、古馬と初の長距離対決が出来るレースは魅力的なのである。
そして今年は、2頭の有力3歳馬が参戦した―――
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:28:57.42 ID:SJmuwUvVO
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阪神MR、回し馬
( ^ω^)「久しぶりだおwwww」
本当に久しぶりに、悪友の死相漂う顔を見た。
('A`)「ローカルの帝王じゃねぇかwww」
夏競馬の最中、北海道に主戦場を置いていたドクオ。
( ^ω^)「そういうドクオは、函館・札幌リーディングをジョルジュに奪われ涙目www」
夏の激戦区でもある北海道で、ジョルジュはおろかモナーにまで上をいかれ3位止まりであった、ドクオだ。
(;'A`)「う、うるせぇな。ちょ調子が悪かったんだ……よ…」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:32:09.43 ID:SJmuwUvVO
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馬を歩ませながらドクオは、余裕のない表情で弁明する。
キモい。
( ^ω^)「それにひきかえ、フルシーズンは大した活躍だったお」
ドクオを背にゆっくりと歩くフルシーズンを見ながら言う。
('A`)「まぁな、馬がどんどん良くなってんだ。当然だよ」
ポンポン。
と、馬の首を叩きながらドクオは上機嫌であった。
ニヤケが貼り付いて剥がれないのだろう、キモい。
でも確かに、ニヤケ面になるのも解る。
ダービーで見た時から数段と馬は成長し、まるで違う馬のようだった。
( ^ω^)oO(こりゃ…やっぱり要注意だお)
見ていて惚れ惚れするほどに成長し、言うならば風格を漂わせていた。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:36:34.31 ID:SJmuwUvVO
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('A`)「そお言うお前のホライゾンも、ダービーの時とはえらい違いだな」
おお、それが解るかねドクオ君、顔は悪くても目は良いのだね。
(*^ω^)「おっおっ、夏の間でかなりパワーアップしたおwww」
('A`)「あぁ、本当に別の馬みてぇだもんなwww」
一夏を越したホライゾンは、歩いているだけでも成長が感じられるほど良くなっていた。
成長の具合で言うならば、今年の夏に一番成長したのは間違いなく、この馬だろう。
( ^ω^)「まぁ今回は、あのなめ腐ったオースミのオッサンに負けないように頑張るお」
('A`)「ん、ラスカルか?
まぁ斤量差でこっちが有利だが、あいつもGT馬だからな……」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:39:12.34 ID:SJmuwUvVO
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そう言って僕等が見る馬は、今年の天春馬オースミラスカルだ。
流石はGT馬だけあり、実力は確かである。
昨年のこのレースを皮切りに、長距離路線で連戦連勝を続ける長距離界の帝王である。
ホライゾンは、賞金的には菊花賞への出走は十分であるが敢えてこのレースを使うことにした。
それは、未知なる距離への経験を積むためでもある。
2600mまで走らせたホライゾンならば3000mは血統的にも不安は無いが、気性の不安から3000mをリラックスして走れるかは問題である。
今回は、それを見極めるためのレースなのだが…
フルシーズンに負けても、あの馬にだけは負けられない理由があるのだ。
実は………
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:42:04.77 ID:SJmuwUvVO
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―――――回想―――――
ホライゾン、阪神MR最終追い切り後
(,,゚Д゚)「2600は走れたからな、長距離に不安は無いがもし揉まれた時に…大丈夫かどうか。
それを確認してくれ」
( ^ω^)「はい、解りましたお」
阪神MRの追い切りを終了した後に、僕は師とレース内容の打ち合わせをしていた。
レースまではまだ時間はあるが、調整ルームに入る前に先生はレースでやるべきことを告げるのだ。
(,,゚Д゚)「実力的に言えば、良い勝負は出来る。相手はフルシーズンだけだ」
「念には念を」その言葉を大切にする師だからこその、行動だろう。
( ^ω^)「解りましたお、作戦としては中団待機で良いですかお?」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:45:08.50 ID:SJmuwUvVO
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(,,゚Д゚)「あぁ、構わん。負けても構わないから直線勝負に徹してくれ。
馬をあまり疲れさせないようにな、菊花賞に向けての一叩きだ」
師の言う言葉一つ一つを頭へと刷り込む、普段ならば勝ちにこだわる師ではあるが、ホライゾンに寄せる期待の大きさからか、内容重視の注文だ。
( ^ω^)「はい、わかr………
「聞き捨てなりませんね、猫山先生」
立ち話をする僕等の横から、ダンディーな声がし、僕等は同じタイミングで声のした方に振り向く。
( ,_ノ` )「うちの馬が、負けるとでも?」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:48:48.81 ID:SJmuwUvVO
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そこに居たのは、師とは犬猿の仲にある渋澤高太調教師。
( ^ω^)「トレードマークの煙草を持ってないけど、渋澤さんだお」
(,,゚Д゚)「おい、誰に言ってんだ内藤」
君達です。
栗東の津出・猫山・渋澤と言えばリーディングで常に上位争いを繰り広げる若き名伯楽である。
その一角を担う渋澤調教師が、目の前にいた。
( ,_ノ` )「聞いていれば、相手はフルシーズン?
ははは、笑止。うちのラスカルを忘れてもらっては困りますね」
(,,゚Д゚)「よく言いますな、賞金のために馬を走らせる渋澤先生の馬等、怖くないですよ」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:51:08.27 ID:SJmuwUvVO
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何やら二人は、火花を散らせ言い合いを始め、僕は完全に蚊帳の外だ。
しかし、基本的には対人関係を大切にする師がここまで渋澤調教師を嫌うのには、理由がある。
( ,_ノ` )「何を言っておられます、走らぬ馬など馬ではないのです、賞金を持ち帰らない馬はサラブレッドと違います」
(#,,゚Д゚)「そう言う割りには、未勝利馬が多いですよね、渋澤厩舎は……」
そう、この渋澤調教師は、馬を金稼ぎの道具としか見ていないのだ。
賞金のために馬を酷使し、勝てない――金にならない馬は切り捨てる。
それがこの人のやり方なのだ。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:54:09.83 ID:SJmuwUvVO
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師は、馬を一番に思い行動する主義であるので、反りが合わないのは当然であろう。
(# ,_ノ` )「ははは、そんなことを言いましても、猫山厩舎の方が勝ち鞍は少ないでしょう、調教の仕方が悪いのでは?」
(#,,^Д^)「ははは、うちの方が重賞勝ちは断然上なのに、よくそんなことが言えますね」
( ^ω^)oO(帰っていいかな…)
何を隠そう、モナーも昔は渋澤厩舎に所属していたが、渋澤先生との考えの違いから2年目にしてフリー騎手になってしまった程だ。
「扱いが酷い」と、何度も調整ルームで愚痴をこぼしていたのを覚えている。
実力こそは確かだが、調教師仲間からは煙たがられている存在である。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 20:57:07.43 ID:SJmuwUvVO
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(# ,_ノ` )「まぁ、私のラスカルがあなたの厩舎の"駄馬"に負ける訳ありません、運が悪かったですなぁ。ハハハハ」
(#,,^Д^)「ははは、またまたご冗談を、あなたの馬に負けるようなら、未勝利戦も勝てませんよ」
(# ゚ω゚)oO(ホライゾンを…駄馬扱いかッ!!)
(# ,_ノ` )「まぁ何はともあれ、負けはしませんよ、ハハハ。
それではご機嫌よう、せいぜい"駄馬"に付きっきりで足掻くと良い、ハハハハハハ」
一通りホライゾンのことわ駄馬呼ばわりすると、高笑いと共に渋澤調教師は去っていった。
転べばいいのに…
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 21:00:04.38 ID:SJmuwUvVO
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(#,, Д )「なぁ、内藤……」
(# ω )「はい?」
怒りが溢れる声で、師は目から光を消す。
思うことは、同じだろう。
(#,, Д )「あいつ…」
(# ω )「あの人…」
(#,, Д )「「殺そう」」( ω #)
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 21:03:15.89 ID:SJmuwUvVO
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―――――現在―――――
(# ゚ω゚)「ふふっ、ふっ…ふっ…フヒヒッ」
(;'A`)「ぶ、ブーン?」
( ^ω゚)「お…」
( ^ω^)「おっおっ、なんだお」
(;'A`)「だ、大丈夫か?
変な笑い方してたけど…」
あぁ、僕としたことがついうっかり。オースミラスカルを見ているうちに、自分の世界へと浸っていたみたいだ。
( ^ω^)「ちょっとエキサイトしてたお、大丈夫だおwwww」
(;'A`)「そ、そうか…それより早くしろよ、ゲート入りだぞ」
( ^ω^)「お?」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/03(土) 21:06:20.09 ID:SJmuwUvVO
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辺りを見回すと、既にゲート前へと僕はいた。
興奮しすぎて周りが見えていなかったらしい、ふがいない。
('A`)「オースミの次だ、早く行けよ」
( ^ω^)「おぉ、解ったお。
じゃ良いレースを」
('∀`)「あぁ、良いレースを!!」
笑った顔もキモい。
それを口には出さず、僕はオースミラスカルの後ろ姿を見る。
確かに良い尻はしてるが…絶対、負けない。
( ゚ω゚)「ヒヒ、フヒヒヒヒッ」
と思うと、心の炎が燃え上がり、奇声を上げているのに僕は気付いた。
...........end