参幕────上弦  後篇
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:08:36.61 ID:Qr99zqkR0


     /.: ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ \
    /: : :             \
  /: : : :            \
/: : : : : :               \    菓子姫を推しているのに……
: : : : : : : :.._        _      \   だれも見向きもしない…… 
: : : : : : : ´⌒\,, ;、、、/⌒`        l
: : : : ::;;( ● )::::ノヽ::::::( ● );;:::    |   菓子姫という愛称は駄目なのか……
: : : : : : ´"''",       "''"´       l   一体何が駄目なのか……
: : : : : : . . (    j    )/       /  可愛いじゃないか……
\: : : : : : :.`ー-‐'´`ー-‐'′    /     むしろかわいすぎて駄目なのか……    
/ヽ: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : イ\     
: : : : : : : : : :.``ー- -‐'"´        \      
: : : : . : : . : : .                   \



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:09:07.64 ID:Qr99zqkR0


江戸より遠く離れた奥羽の地。
そこで一人の赤子が生まれた。

神の血筋として生まれたはずのその子は、悪魔と罵られることとなる。
生まれると同時に、傍にいた多くの人間の命を奪ったのだから。
小さな産声は誰の耳にも届かない。

赤く、ただひたすらに赤く、世界を染め上げる。

その時を知る村人はいない。
ただただ、事実だけが歴史書に記されることとなる。



――――火の中より赤子生まれ出でたる、と。

  

        【月ノ封印】


参幕────上弦  後篇



5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:11:11.48 ID:Qr99zqkR0



<_ノ::`゚フ「近場の人間の里がよいか?」

目を覚ました内藤に、艶尾が行く先を尋ねる。
問いに即答することはできなかった。

人里に行けば少女の存在を知られてしまうことになる。
桃源の地は他の集落との交流を断っていたから寄ることができたのだ。

( ^ω^)(どうすれば……)

ξ゚听)ξ「内藤……」

ξ゚听)ξ「ここって富士の麓よね……? 箱根や江の島に行ってみたいのだけれど……」

( ^ω^)「それはなりませんお……」

少女は江戸の近くの観光地にはやけに詳しかった。
原因は姉である空姫の旅行記なのだが。

青年とて少女の望みを叶えてやりたかったが、立場上彼女の身の安全を優先しなければならない。

(//^ω^)(そ、それに混浴なんて……けけけ、けしからんお)

少女の身体を横目で流し見る。



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:12:25.88 ID:Qr99zqkR0

今は泥だらけだが、肌は白く滑らかであるのを知っている。
衣服の下にある年相応の膨らみを想像しようとしたところで、少女と目が合う

ξ#゚听)ξ「覚悟はいい?」

燃え盛る火炎が少女の小さな拳に宿る。
その威力を身をもって体感した内藤は、すぐさま頭を下げた。

( ^ω^)「申し訳ありませんでしたおっ」

ξ゚听)ξ「箱根はやっぱりなしね」

白い髪では目立ちすぎて街道をゆくこともままならない。
何とか手段を講じなければならなかった。

自尊心の強い彼女が、髪を泥で染めるなどの行為をするはずもない。
そこで内藤が思い至ったのは人外の力である。

( ^ω^)「……艶尾、雪姫様の髪を黒くすることはできないかお?」

<_ノ::`゚フ「黒くすることはできぬ。ただ黒く見せることはできる」

言うが早く、彼はその力を行使した。
艶尾の妖力が少女の白い髪を包み込む。

<_ノ::`゚フ「これでよいか……?」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:14:57.73 ID:Qr99zqkR0

見た目が一般的な少女のそれになる。
そこに雪姫と呼ばれる所以の特異はない。

ξ゚听)ξ「え? え?」

夜に紛れてしまいそうな緑の黒髪。
少女の望む日常の象徴がそこにあった。

<_ノ::`゚フ「三日三晩ほどで解けるであろう。それ以上は抑えが効かない」

( ^ω^)「すまんお……艶尾」

ξ*゚听)ξ「すごいすごい。内藤、江の島に行くわよ!」

( ^ω^)「姫様……、京に向かいますお。荒巻様に新たな住み家を用意していただかなければ……」

少女を連れて京に入ることは禁止されていた。
ただその理由が取り除かれたのなら、内藤は問題ないと判断する。

ξ゚听)ξ「え? じゃあ、父上に会うの?」

( ^ω^)「御目通りが叶うかどうかは分かりませんが……。
      私達が追われていると理解していただけましたら、きっと荒巻様が助けてくださるでしょう」

ξ゚ -゚)ξ「……それなら、京に向かうわ」



9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:16:16.21 ID:Qr99zqkR0

<_ノ::`゚フ「京か……近淡海の東端くらいまでだな……。それ以上は近寄れん」

( ^ω^)「感謝するお、艶尾」

<_ノ::`゚フ「行くぞっ」

翼をはためかせ、西へ飛ぶ。
二人が今までに経験した空の旅の中では最も快適なものだった。

一つ、はっきりさせておかなければならないことがあった。
背の上で内藤は問う。

( ^ω^)「ところで艶尾。子安貝って知ってるかお?」

<_ノ::`゚フ「子安貝……? それはなんだ?」

( ^ω^)「いや……、わからないならいいお」

結局、はっきりとその存在を確認できたのは龍の頸の珠だけ。
それも今は失われてしまい、物語の宝の証明はできない。

( ^ω^)(空姫様にはお伝えするべきだお……)


五つほどの時をかけ、目的の地に辿り着く。



11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:17:45.40 ID:Qr99zqkR0

<_ノ::`゚フ「何かあれば呼ぶがよい。さらば」

来た時よりもずっと速く飛び去って行く。
その姿が見えなくなってから、内藤は妖怪という存在の恐ろしさを思い出す。

( ^ω^)(敵じゃなくてよかったお……)

ξ゚听)ξ「ここからどうするの……?」

( ^ω^)「向こうに見える船着き場から夜が明ければ向こう岸まで船が出ますお」

ξ゚听)ξ「お金は……?」

( ^ω^)「何とかなると思いますお」

服の裏に縫い付けてある通行証を千切る様にして取る。
一枚の薄い布切れであるが、その効力は抜群だ。

むしろ問題なのは二人の服装だった。
泥と緑があちこちにこびりついている格好では、通行証に疑いが持たれかねない。

ξ゚听)ξ「どうするの……?」

( ^ω^)「湖の水で少しでも落としておきたいですお……」



ξ;゚听)ξ「はぁ……そうだと思ってたわよ……」


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:19:54.28 ID:Qr99zqkR0

内藤に向けて片手を軽く振る。
その意味はあちらを向いておけ、だ。

( ^ω^)(お……)

東の空がゆっくりと照らされていく。
内藤の後ろから聞こえる水の音は、頭の中に大きく響く。


ξ゚听)ξ「内藤、あなたもさっさと準備しなさい」

着物はすっかりと元の色を取り戻していた。
水に濡た衣服が、少女の身体にぴったりとくっついている姿を見て思わず目をそらしてしまう。


ξ#゚听)ξ「なっ……さっさとあんたもしなさい、馬鹿」

その反応で自分の姿を再確認し、少女もまた顔を染める。
ついついと罵詈雑言を浴びせてしまうのであった。


(; ^ω^)「はっ、ただいま」

顔の火照りを冷やすかのように、頭から水に飛び込む。
肌を洗い、服についた汚れを落とす。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:21:06.75 ID:Qr99zqkR0

雨に降られたかのようにびしょびしょになったものの、二人はそれなりに『らしく』なる。

( ^ω^)「船着き場に向かいましょうお……」

僅かに人の動きが見える。
既に作業しているのだろう。

「乗船予定の方ですって……どうされたんです?」

びしょ濡れになっている男女を見れば誰でも驚くだろう。

( ^ω^)「す、すいません。温まれる場所は無いでしょうかお?」

「こちらにどうぞ。身体を拭ける物を用意します。少々お待ちください」

( ^ω^)「助かりますお」

湖の縁に立つ小さな木造建築は待ち合いの場所だろうか。
多くの椅子が順序良く並べてある。

「お待たせしました」

男が持ってきたのは十分な量の手ぬぐい。
それで体の水分を拭き取る。



15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:23:14.83 ID:Qr99zqkR0

ξ゚听)ξ「で、いつになったら船が出るわけ?」

見ず知らずの男からすれば生意気な少女に見えただろう。
否定できないわけだが。

「はぁ、もう二、三刻ほどかかりますね」

( ^ω^)「ありがとうだお。ところで船に乗るにはどのくらいかかるお」

「三匁でございます」

( ^ω^)「乗せてくれないかお。後、向こうで馬が一頭おしいお」

内藤の頼みは話も聞かずに一蹴されて然るべきものであった。
そうしなかったのは単に男の人柄か。

「えっと、そのようなことはしていないのですが……」

( ^ω^)「そこをなんとか頼むお……」

服の裏に縫い付けていた通行証を渡す。
それを受け取った男は顔色を変えて、地に伏せた。



<※ 一匁 は現在の貨幣価値でおよそ1000円>


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:25:22.78 ID:Qr99zqkR0

「ももも、申し訳ございません。皇族の方とは露知らず」

( ^ω^)「頭を上げてくれお。用意できるかお?」

「すぐにでもっ」

( ^ω^)「あと、私達のことは黙っていてほしいお」

同じ船に乗船していることが知れたら、ひどく気まずい船旅になるだろう。
内藤達にとっても、他の客にとっても。

「わかりました。それでは失礼します」

ξ*゚听)ξ「これで京に行けるのね……もしかして初めてじゃないかしら……」

( ^ω^)「はい。雪姫様は初めてになると思いますお」

少女は生まれてから京に入ったことが無い。
閉じ込められるように、忌避されるように、奥羽の地で暮らすことを余儀なくされてきた。

ξ゚听)ξ「私の……お父上がいる場所……」

「準備ができました。どうぞ御乗船ください」

( ^ω^)「御苦労だお。これは後で京に持って行くといいお」

渡した通行証は京に持って行けば十分な金と交換しているはずだ。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:28:21.22 ID:Qr99zqkR0

ξ*゚听)ξ「楽しみね」

小型の船に乗っている人数はたいして多くは無かった。
朝一の便であるからだ。

風は上々。
つつがなく船は陸を離れた。
問題事が起きる要素など一切ないように思われていたのだが。



(´・ω・`)「まさか……こんなところで会うとは……」

(; ´ー`)「ひぃぃ!!」

その二人の男に少女はおろか内藤すら全く見覚えがなかった。
ただその声に聞き覚えがあった。

男は腰の刀に手をかける内藤を制する。


(´・ω・`)「待て待て。ここで争うのはやめよう。僕らとしても公にしたくは無い」

(; ^ω^)「……っ!」



24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:29:46.72 ID:Qr99zqkR0

男に理があるのは明白であった。
この場所が戦場となり炎や氷や雷が吹き荒べば、木造の船はもたない。
柄から手を離し、正面に向き直る。

(´・ω・`)「それにしても驚いた。その髪はどうしたんだ?」

その質問で内藤は男達の正体に気付いた。
といっても、素顔の方が正体であろうから、いささか表現に問題があるかもしれない。

( ^ω^)「別に話すようなことじゃないお……」

龍のいた島で襲ってきた仮面の男達。
それぞれが雷と氷の力を使う。

(´・ω・`)「まぁ、それもそうか」

(; ´ー`)「ど、どうするんだーよ?」

怯えている白根は指示を仰ぐ。

(´・ω・`)「どうもしない。というか、何もできないでしょ」

男の言うとおりだ。
内藤達よりも彼らの方がずっと力の存在を明らかにされたくない。
それならば、内藤は人通りの多い道を選んで進めばよい。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:31:39.74 ID:Qr99zqkR0

( ^ω^)「分かってるみたいだおね」

ξ#゚听)ξ「なによっ。こんな奴ら何か私が倒してやるのに!」

(´・ω・`)「姫君は阿呆なのか?」

安い挑発を受けて少女の髪が逆巻く。
周囲の温度が上昇していくのを肌に感じた内藤は、少女の前に立つ。


ξ#゚听)ξ「退きなさいよっ!」

( ^ω^)「姫様、落ち着いてください。それよりも……」

言葉の前半は少女に向けて。
後半は、仮面をしていた男達に向けられている。

( ^ω^)「なぜ……雪姫様の身分を知ってるお?」

内藤が先の戦いで少女を姫とは呼んでいない。
それなのになぜ、少女の身の上を知っているのか。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:33:49.89 ID:Qr99zqkR0

(´・ω・`)「ああ、それならあなたの父上に直接お聞きになるがいい。
      どうせ僕らも同じ道程なんだ。御一緒しよう。
      僕の名前は 眉木 諸盆。 諸盆と呼んでくれ」

(#^ω^)「何を馴れ馴れしくっ! お前ら仮面の仲間だおっ!?」

( ´ー`)「そ、そうは言われても……ぼくらも仕事だーよ……」

(´・ω・`)「こいつは 白根 江夜。 白根と呼んでやってくれ。名は好きじゃないらしくてね」

船縁にもたれる男達が各々自己紹介をする。
それに対し、内藤はこたえることにした。

一つには、礼儀として。

そして、今の彼らから敵意を見いだせなかったから。

( ^ω^)「内藤 武運。 武運とでも、内藤とでも呼んでくれお。
      今は雪姫様のお世話役を任されているお」

(´・ω・`)「巻き込まれたのか。不運な奴だ、名前だけにね……」

ξ゚听)ξ「つまらないわね。私はっもがもが」

大声で名乗ろうとした少女の口を抑える内藤。
少女は何のために先程口止めをしたのかわかっていなかった。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:35:05.68 ID:Qr99zqkR0

( ^ω^)「無用な騒ぎを起こしますゆえ、御控下さい」

ξ#゚〜゚)ξ「むーむー!」

( ^ω^)「お前らはこんなところで何をしてるんだお?」

(´・ω・`)「仕事帰りさ。君達と別れてからまだそれほど経っていないだろ?」


仕事、とは先の龍に関することだろうと予想がつく。
分からないことは他にもあった。

( ^ω^)「お前らは京に何の用だお?」

(´・ω・`)「んー……言えないな。まぁ、着けばわかると思うよ。
      姫様こそ何の用だい?」

( ^ω^)「荒巻様にお話しがあるんだお。
      新しい姫様の居場所を作ってもらわないと」

(´・ω・`)「ああ……。荒巻様に会うのであれば、僕たちが襲った事を黙っててくれると嬉しいんだけど」

薄い笑いを顔に張り付けた諸盆。

( ^ω^)「何を。私は事実を伝えるだけだお」


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:37:43.69 ID:Qr99zqkR0

内藤は敵の人間の頼みを聞くつもりなど毛頭ない。
それで困ろうものなら、むしろ嬉々として伝える覚悟であった。

(´・ω・`)「そうなるよなぁ……。これが下っ端の辛いところだ……」

( ^ω^)「そもそも、お前らはどんな集団なんだお?」

(´・ω・`)「詳しくは荒巻様から聞いてくれ。僕ら構成員は話してはいけないことになっているしね」

ξ゚听)ξ「この前、変な爺さんが話してたわよ。神様がなんだかんだって」

やっと内藤の手から脱出した少女は会話に割って入る。
変な爺さんとは、少女が消し炭にした石榴のこと。
それを彼らはまだ知らなかった。

(´・ω・`)「ああ……石榴さんに会ったんだ……。何もされなかった?」

( ^ω^)「姫様には指一本触れさせなかったお」

( ´ー`)「お前なんかが石榴さんの相手になるわけがないだろ。
      あの人は……ひぃっ」

内藤が一睨みするだけで白根は口を噤んだ。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:40:19.81 ID:Qr99zqkR0

(´・ω・`)「どうやってあの人から逃げたの?」

( ^ω^)「……」

黙っていようとしていた内藤の思惑を少女がぶち壊した。

ξ゚ー゚)ξ「私が倒してやったわ! あんな変態!」

( ´ー`)「石榴さんを……?」

(´・ω・`)「あの人、また油断でもしていたんだろうね」

少女の言は思わぬ勘違いを与えたようだった。
実際には石榴は既に亡き人になっている。
それを分かっていても倒した、と少女が言ったのはただの偶然か。

いつの間にか対岸が目の前に見えていた。
船はゆっくりと速度を緩め軽い揺れとともに着岸した。

( ^ω^)「私達は馬で行かせてもらうお」

仕事中の男が奥に既に用意されていると教える。
指差す先には何故か三頭の馬が繋がれていた。

( ^ω^)「まさか……」

(´・ω・`)「残念、僕らも馬だ」


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:42:18.15 ID:Qr99zqkR0

わずかな距離とはいえ、道中を共にすることに嘆息する内藤。
轡を並べようとする諸盆を牽制しつつ、京への道を往く。

( ^ω^)「何処までついてくるつもりだお……」

(´・ω・`)「だから言ってるじゃないか。
      目的地は同じ。僕らも荒巻様に報告があるのさ」

ξ゚听)ξ「あんた達みたいな怪しい集団が御目通り叶うはずないでしょ!」

(´・ω・`)「まぁ、そう思うよね。話してみればわかると思うよ。
      教えてくれるかどうかは知らないけどね」

自信満々の諸盆。
その真意が内藤には読めなかった。

(´・ω・`)「ところで、どうしてお姫様は文言無しに力を使えるんだい?」

ξ゚听)ξ「文言? 知らないわよ、そんなの」

内藤は指摘されて初めて気づいた。
敵方の能力と少女の能力が同じであるならば、石榴戦で見つけ出した弱点があるはずなのだ。

ξ゚听)ξ(あの時は逃げるので頭いっぱいだったからお……)



33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:43:18.35 ID:Qr99zqkR0

(´・ω・`)「僕らもさ、まぁできないことは無いんだ。
      鍛練すればより短い言葉で力を発生させることができる。
      でも、あれだけの力を鍛練なしに放つなんて規格外すぎる」

そういいつつ諸盆は右手を手綱から離す。
付近に人がいないのを確認し、その力を発した。

細氷が太陽の光を受け、小さく輝く。

ξ゚听)ξ「私が特別ってことでしょ。王族なんだから、当たり前じゃない」

(´・ω・`)「まぁいいや……続けてもどうやら無駄なようだし」

目の前に見えてきたのは整った街並みを持つこの国の都の一つ。
もっとも尊く、もっとも雅な地。

黒光りする瓦屋根が街を覆い、外側からも美しく見えるように統一されており、
道は全て碁盤の目のように直角に交わっている。
漆喰が丁寧に塗られている高い門をくぐり、内藤は告げた。

( ^ω^)「京に入りましたお」



35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:45:11.49 ID:Qr99zqkR0

入ってからの道は容易い。
最も大きい建物に向かえばいいからだ。

その屋敷には見張りが立っている。
門をしているのは二人の男。
阿吽を想像させるかのような強靭な肉体を持つ。

「これより先は荒巻様の居である。用無き者はすぐに立ち去れ」

その声の大きさは鼓膜が破れるかと思うほど。
負けず劣らず大きな声で答える。

( ^ω^)「我が名は内藤 武運。荒巻様に申し出があって遠路はるばる参上した。
      どうか、御目通りを願いたい」

堂々と啖呵を切ったものの、内藤は未だ迷っていた。
隣にいる少女をどのように説明するべきか。

案の定、少女の身を説明せよとの無言の圧力がかかる。

/ ,' 3「通せ」

答えあぐねている内藤を救うかのように、門の中から声がかけられた。



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:47:30.97 ID:Qr99zqkR0

背中に菊花紋の刺繍がある山吹色の外套。
それを羽織っているのは小柄な老人。
出迎えに来たのは荒巻本人であった。


突然の会合に動けなくなる内藤。

/ ,' 3「早く入ってこい。中で話をする」

背を向けて歩き出した荒巻の後を追う。
気づけば、一緒に歩いていたはずの諸盆と白根の姿は無かった。

案内されたのは応接の間。
以前、奥羽の任を言い渡された時に来た部屋だ。

その時から何も変わっていなかった。
広い部屋に調度品は一つもなく、ただ荒巻が座す一角だけが一段高くなっているだけ。

/ ,' 3「何の用だ? 連れているのは我が娘か……?
   京に立ち入るのは禁じたはずだが?」

髪が黒くなろうとも、そこは娘か。
それとも何かを感じ取ったのだろうか。

全く目にしていないはずなのだが、荒巻は一目で娘と見抜いた。




40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:50:45.27 ID:Qr99zqkR0


( ^ω^)「申し訳ありません、荒巻様。奥羽の屋敷を何者かに襲撃され、この地まで逃げてきたのです」

/ ,' 3「……」

いささか驚いたようだ。
荒巻の瞼が僅かに動く。

/ ,' 3「まさかそれは……仮面をつけた者ではあるまいな?」

今度は内藤が驚く番だった。
そして、一つの可能性に辿り着く。

( ^ω^)「はい。そうでございます。空姫様からお聞きになられたのですか……?」

/ ,' 3「空姫は行方不明だ……。現在調べさせているが、いつもの気紛れだといいのだがな」

( ^ω^)(空姫様が……? いつからのことだお……もしかして……)

内藤が考え込んでいる隙に、雪姫が口を開いた。
震える声で、ゆっくりと問う。

ξ゚听)ξ「御父様なのですか……?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:51:59.58 ID:Qr99zqkR0

/ ,' 3「……雪姫か。ふむ、健康に育ったな」

荒巻の態度は親のそれであった。
暖かい眼差しで、娘の成長を喜ぶその姿は普通の年寄りにしか見えない。

/ ,' 3「内藤、よくぞ娘を守ってくれた。礼を言う」

( ^ω^)「務めを果たしたまでですお」

/ ,' 3「話がある。雪姫、お前は退出していろ」

ξ゚听)ξ「私にも教えて。これのことでしょう?」

少女は覚悟を決め、心の奥底から力を引き出す。
右手に燃える炎は二人が追われる原因。
肌をなめるように燃え上がりつつも、少女を傷つけることはない。

/ ,' 3「……やはり、か。お前が生まれた時の話を聞き、そうではないかと思っていたが」

/ ,' 3「お前を奥羽……この国の北東の地に住まわせたのは、それ故だ。
   力を持つ者は組合に属し、その生きた記録を全て抹消する。
   規律の守れぬものは殺し、次の顕現を待つ」

荒巻の力に関する説明は概ね石榴の話と同じであった。
石榴から聞けなかった情報はたったひとつだけ。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:53:50.16 ID:Qr99zqkR0

しかしそれは、彼らを根本から揺るがすほどの事実。



/ ,' 3「何を隠そう……仮面達は私が組織している集団だ」

( ^ω^)「なっ!! ……どういうことですかお!?」

ξ゚听)ξ「そんな……」

/ ,' 3「いや、組織していたと言った方がいいか。
   彼らの代表、つまり私が運営を委任していた男が裏切ったのだ。
   奥羽の屋敷は私と世話役以外に知るはずのない場所。あの男以外は……」

それほどまでに信頼され、地位を得ていた男が敵に回ったのだ。
少女に逃げ場はないように思えた。

( ^ω^)「私達はどうすればいいのですかお……?」

/ ,' 3「南……ここからずっと西南にある地であれば、あるいは……」

ξ#゚听)ξ「逃げる必要なんてないわ! 私、戦えるもの」

/ ,' 3「分かってくれ娘よ。あの組織を失うわけにはいかんのだ。
   代々私達の祖先が途切れぬように援助し続けてきたのだ。
   お前に何ができよう?」


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:59:06.62 ID:Qr99zqkR0

/ ,' 3「仮に、お前があれらに勝てるとしても、それは駄目だ。
   かの集団は亡国の危機を救う、と言い伝えられている。失うわけにはいかないのだ」

( ^ω^)「それでは蛮人の地へ行けとおっしゃるのですかお!?」


この国は周りを海に囲まれており、長い間ずっと平穏に暮らしてきた。
しかし、平和を謳歌している内に、外の技術は進歩し、ついにこの国にやってくるまでに至ったのだ。
そしてつい最近、彼らは西端にある陸地の一部を根城とした。

彼らは侵略をしに来ているのではなく、ただ商業をしているだけなのだが。
そこは、九州と呼ばれる地。

/ ,' 3「あそこは今、異人達で溢れている。今ならば隠れることができる。
   向こうで暮らしていてくれ。その間に、私がこの問題を片づける」

( ^ω^)(いずれ髪は元に戻るから、この場所にずっとは住めないお……。
      それなら、いっそ向こうへ逃げてしまえば……)

/ ,' 3「すまん……船は私が用意しよう。明日にでも経ってくれるか?」

( -ω-)「……わかりましたお」

人の住めぬ地ではないのだ。

( -ω-)(狙われている京よりは安全かお……?)


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:00:29.48 ID:Qr99zqkR0

ξ゚听)ξ「私は嫌よ。どうして南蛮がいる場所に行かなきゃいけないのよ」

/ ,' 3「少しの間だけだ……辛抱してくれ」

荒巻の説得は長く続き、ようやく少女が折れた。
ひと月で問題を解決することを条件に。

/ ,' 3「今日は自由にしていい。その髪では誰も気づかないだろう。
   内藤、これを使え」

ずしりと重たい布袋が投げてよこされる。
渡されたのはとても一日では使えきれない量の金貨銀貨。

ξ゚听)ξ「内藤、京の街並みを見て回るわよ」

( ^ω^)「はい」

それから日が暮れるまで、少女の付添をしていた。
案内人はおらず、二人で町の中をうろついていた。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:02:01.69 ID:Qr99zqkR0

ξ*゚听)ξ「甘い匂いがする……」

( ^ω^)「なんでしょうかお……京菓子の何かだとは思いますが……」

ξ*゚ー゚)ξ「二つ頂戴」

店で早速注文していた。

出てきたのは筝によく似た形をした菓子。
肉桂がふんだんに用いられており、庶民にも人気の品だ。

( ^ω^)「八つ橋ですね。久しぶりに食べますお」

お金を払い、店主から受け取る。
よい匂いが鼻腔を満たす。

ξ゚听)ξ「二つとも私のだから」

( ^ω^)「…………」



<※肉桂 = ニッキ、シナモンのこと>



51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:02:56.36 ID:Qr99zqkR0

( ^ω^)「あの……私の分は……?」

ξ゚听)ξ「自分で頼みなさいよ。あ、でももう食べ終わっちゃったから次のお店に行きましょう」

自分の分をあっという間に平らげ、席を立つ少女。
内藤は手を引かれ、八つ橋の店を後にした。

都の東へ向かい、鴨川のすぐ近くに構えられている菓子屋。
内藤が知っている数少ない菓子屋の一つ。

( ^ω^)「みたらし団子といいまして、火であぶった団子に醤油と黒砂糖が塗っております」

ξ゚听)ξ「ふーん、内藤のくせによく知ってるじゃない」

( ^ω^)「昔、来たことがあったんですお」

店は開いており、多くの人間が並んでいた。
本来、神社の祭り頃にしか売られていないものだが、
この店では特別、平時から売ることを許可されていた。

( ^ω^)「これが美味いんですお」

ξ゚听)ξ「ふーん、三つ貰えるかしら?」

「はい、すぐに用意できますよ」



52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:04:29.93 ID:Qr99zqkR0

洒落た皿にのって出てきたのは串に四つの団子が刺さっており、
砂糖の焼けた甘い香りが立ち上っている。

ξ*゚ー゚)ξ「んー!! おいしいっ!」

何とか一本を受け取った内藤も頬張り、
柔らかな餅の食感を楽しむ。

その後もいくつかの菓子屋を回るのに時間を使った。
御所に帰る道すがら、少女は小さな砂糖が食べながら歩く。

金平糖と呼ばれる西洋から伝えられた砂糖菓子である。

( ^ω^)「満足されましたでしょうかお」

ξ*゚ー゚)ξ「悪くはなかったわ」

その回答が、少女の満足を十二分に表しているのを内藤は知っていた。
微笑みながら歩を進める。

御所では荒巻が出た時と同じ場所で待っていた。

/ ,' 3「帰って来たか……。出発は明日の早くになる。もう寝といたほうがいい」



53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:05:59.31 ID:Qr99zqkR0

( ^ω^)「それでは失礼しますお。近くの宿に向かいますゆえ」

/ ,' 3「構わん。奥に部屋を用意しておる」

( ^ω^)「ありがとうございますお」

ξ゚听)ξ「それじゃ、また明日ね」

少女と別れ、内藤は寝室に向かった。
広い部屋に馴染めず、なかなか眠れない。

( ^ω^)(……九州は初めてだおね)

今まで京都と江戸を往復していた内藤は九州について全く知らず、
奥羽に住むことになってからも、身の周りの事情しか頭に入れていなかった。

翌朝に何冊かの書物を荒巻に借り、船に持って行くことにした。
とはいうものの、少女の妨害が入り読めないであろうことは目に見えていたが。

まだ見ぬ地に期待半分、不安半分で目を閉じた。



━━━━━━━━── →← ──━━━━━━━━




54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:06:33.07 ID:Qr99zqkR0



早朝、日も昇りきらぬうちに内藤は叩き起こされた。


/ ,' 3「内藤っ! 予定を変えるっ。内通者から連絡があった。出発を早める」

( ^ω^)「はいですお」

扉を開けた荒巻は、早口にまくしたてすぐに出ていく。
いきなし起こされるのは少女で慣れていた。
眠気を飛ばし、荒巻の後を追う。

寝起きとは言え、若者と老人。
内藤は追いつき、すぐ後ろに並走する。

( ^ω^)「船まではどうすればいいですかお?」

/ ,' 3「既に馬を用意しておる。雪姫を連れて行け」

( ^ω^)「はっ」

門の前には出掛ける準備をした雪姫が待っていた。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:07:20.99 ID:Qr99zqkR0

ξ;゚听)ξ「少しっ、早す、ぎない?」

舌を噛まないように話す少女。
荒巻の話からすると、敵はすでに動き出している。
船場に向かうまでの人がいない街道が一番危険だ。

( ^ω^)「ここらは人の目がありません。早急に駆け抜けるべきですお」

炎も氷も雷も、それ以上の現象も飛び交う可能性があるのだ。

ξ゚听)ξ「それなら別にいいけど」

人っ子ひとりいない道をひたすら北に向けてとばす。
早急な行動のかいあってか、敵と思しき人間との接触は無かった。
直前までは。

「お待ちんさい」

(; ^ω^)ξ;゚听)ξ !?

馬を走らせる内藤達と同じ速度の人間がいた。
その人間は二人の方を見ながら話しかける。

「逃げられんて。何人が来とるとおもう」



57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:08:18.75 ID:Qr99zqkR0

ξ#゚听)ξ「こんのっ!」

少女の右手から直線に伸びた火炎は当たらない。
馬と違い、その男は方向転換は自在に行う。
じぐざぐの動きで必殺の炎を掻い潜る。

「当たらん当たらん。ところで、髪が黒いのは何故? 情報と違うがな」

ξ#゚听)ξ「鬱陶しいっ!」

少女の炎で前が見えなくなる。
内藤は驚いて馬の足を止めてしまう。

辺り一帯を灰燼に帰すべく放たれた赤い大嵐は地面を焦がすにとどまった。

「ほっほっほ」

視界が開けた時、男の姿はない。
内藤達を中心に太陽が落ちたような焦げ跡が残っているだけだった。

( ^ω^)「!?」

少女の異変に内藤は気付く。
激しい動きで被り物から出てきた髪の毛が、毛先から白に戻っていることに。
三日続くと言っていた艶尾の力は一日と少しにして、失われていく。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:08:52.62 ID:Qr99zqkR0

(; ^ω^)「姫様っ!」

「化けの皮が剥がれてきたかえ。ほっほっほ」

ξ#゚听)ξ「ああもう、うっとうしい!」

( ^ω^)「姫様、落ち着いてくださいお。
      ここを抜ければ、港はすぐになりますお」

攻撃を仕掛けてくる様子がない男を無視し、再び馬を走らせる。

内藤には一つの確信があった。
攻撃してこないのは、少女の、文字通り火力と相手にならないからなのではないか。

今まで対峙してきた仮面達で少女の炎を完全に防げたものなどいなかったからだ。
意味のわからない行為は、ただの時間稼ぎだという答えに至る。

( ^ω^)「見えましたおっ」

小高い丘を越えた先に、大きな港が見える。
近場の村に住む漁師たちが既に集まり、各々の仕事に勤しんでいる。

( ^ω^)「姫様、力を控えてっ!」


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:12:13.82 ID:Qr99zqkR0

少女のいらいらを表すかのように炎がちらちらとこぼれている。
馬はそれを踏み散らすため、外の国の神話にある天馬かのようであった。

ξ゚听)ξ「なによ……」

「また後ほど会おうではないか」

ぴょんぴょんと激しく跳ね、中空で体をひねりながら着地する。
並大抵の運動能力ではできない動作を軽々とこなしながら、来た道を引き返して行った。

( ^ω^)「何とかなりましたお……か」

停泊しているのは商船を模した船。
数人で航海できるように小型化され、最低限の機能しかのせていないにもかかわらず、
現存する中で最も早いとされる皇族専用船の一つだ。

それを知っているものはほとんどいないが。

ξ゚听)ξ「あれに乗るの……?」

( ^ω^)「そうですお」

既に十分な荷はのせてあるのだろうか。
二人で並んで船に乗り込んだ。



63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:15:33.80 ID:Qr99zqkR0

それを咎める者は無く、さも当然かのように船は出発した。
風を受けて波を切る。

( ^ω^)「これで安心ですおね……」

外洋に抜けるまでは時間はかからなかった。
海流も手伝い陸を見る間に離れていく。

ξ゚听)ξ「どのくらいでつくの?」

( ^ω^)「それは分かりませんお」

作業をしている船員は少女の問いかけに応えない。
そういう特殊な訓練を受けているからだ。

ξ#゚听)ξ「いらいらするわねぇ……」

話しかけても帰ってこない反応に不満を隠さない少女。

( ^ω^)「姫様……」

ξ゚听)ξ「食料は十分にあるはずですお。私達は待っていればいいだけですお」

二人は用意された船室に入っていった。



━━━━━━━━── →← ──━━━━━━━━


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:17:39.56 ID:Qr99zqkR0



一寸先も見えない闇の中、船はゆっくりと波に流されていた。
雲は空を埋め尽くし、微かな光すら零さない。
海流にのって向かうは九州の地。


潮の音だけがする静かな夜。

船に近付く影があった。
闇の中に浮かび上がる人の数は一つや二つではない。


誰も彼もが静かな海面に佇んでいる。


水の上に、立っている。


「やれ」


言葉を皮切りに直線状の光が船を真っ二つにする。
野菜を切るかのように、いとも容易く。

悲鳴はない。
たった一撃で、全ての船員は海に沈んでいった。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:20:52.73 ID:Qr99zqkR0


沈みゆく船。
少女は体よりも小さい欠片に必死にしがみついていた。


ξ;凵G)ξ「内藤っ……」

少女は突然の衝撃で海に投げ出されたのだ。

頼りにしていた従者はどこにも見えない。
そこに数十もの悪意が向けられる。

水が、空気が、光が、全てが彼女に襲いかかる。

ただ一人の少女に対するにはあまりにも暴力的な力の塊。


それらがその身を喰い散らかすことは無かった。


彼女は守られた。


ただの一撃も通すことなく、全てを弾き飛ばしたのは──



──巨大な、白い龍。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:22:33.72 ID:Qr99zqkR0



「なっ?」

「死んだはずではっ」


「やれ! やれ!」

「攻撃しろ!」


集団は混乱に陥る。
彼らはその龍に関して、死んだと報告されていたからだ。

闇雲に放たれる全ての攻撃は、ただの翼の一振りで消えた。

( ФωФ)「危機一髪と言ったところか、あの召使いはどうした」

( ^ω^)「ぶはっ……」

やっと水面に顔を出せた内藤は必死にもがき、空気を得ようとしていた。

( ФωФ)「何を溺れておる、情けない」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:27:24.48 ID:Qr99zqkR0

(; ^ω^)「どうしてここに……」

( ФωФ)「どうしてだと? 吾輩は彼女の盟友である。どうして助けに来ないことがあろう」

内藤と少女をその前足に掴み、低いうなり声で威嚇する。
海から上半身を出した状態であっても、内藤達が乗っていた船より大きい。


( ФωФ)「我が名は翡翠。 太古の龍族、最後の生き残りだ。
        人非ざる者らよ、吾輩が相手しようぞ」

翡翠の力は圧倒的だった。
つい先日まで封印され、死にかけていた龍とは思えないほどに。

そもそも、内藤達が龍と言うものの恐ろしさをしらなかったともいえるのだが。

海の全てが彼の味方をし、蹂躙していく。

たった一撃でいくつもの命を奪っていく。
それぞれがただの人間ではないのにもかかわらず。

当千、当万の力を持つ人外が紙きれのように、空を舞っていた。



75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:38:33.14 ID:Qr99zqkR0


「なっ……なめるなああああああああああああああ」


最後の一人は光で模られた大鎌を作り出す。

それは翡翠の頸の上に振り下ろされた。



( ФωФ)「効かんわっ!」

咆哮一つで光は粉々に砕け、降り注いだ。

「かかったな」

光の欠片は龍の身体を刻んでいく。

( ФωФ)「ぐぅっ……」


「死ね!」


ξ゚听)ξ「え……?」

そしてその欠片は、内藤が生きていたことに安堵していた少女を狙う。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:40:56.89 ID:Qr99zqkR0

( ФωФ)「ちっ!!」

長く伸びた尻尾で少女の身を守る。
男が操っている光の奔流は、少女の目の前で動きを変えた。

( ФωФ)「!?」

ξ゚听)ξ「!?」





180度向きを変えた光の狙いは

( ФωФ)「なっ」

「遅いっ!」


─────内藤


(#)ω゚)「…………がっ」




77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:42:37.83 ID:Qr99zqkR0


雲の切れ間から、一筋の光が差し込む。



映し出されるのは、胸から血を噴き出す内藤の姿。


(#)ω-)「かはっ………」


ξ;凵G)ξ「内藤────っ!!」


「ざまぁ……みろ……」

直後、男もまた血を噴き出し倒れた。


(#)ω-)「姫……さま……」


ξ;凵G)ξ「あぁ……」


少女の目の前で、木片に捕まっているだけの力も失い、内藤はゆっくりと沈んでいった。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:43:31.76 ID:Qr99zqkR0









ξ;凵G)ξ「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」








81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:45:32.94 ID:Qr99zqkR0


長い悲鳴


雲が晴れ、満月がその姿を現す


その光を少女は全身に受け


少女の特徴である白い髪の毛は失われていく






( ФωФ)「おお……その姿こそ、かつての…………」




恭しく首を垂れる翡翠


83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:49:14.56 ID:Qr99zqkR0


緩く波打った髪は、一瞬で腰より下まで伸び



光を受けて金色に輝く





ξ )ξ 「久しぶりね、翡翠」











( ФωФ)「久しぶりだな、かぐや姫」


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:52:03.32 ID:Qr99zqkR0




        【月ノ封印】


参幕────上弦  後篇  了




7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:13:13.62 ID:kZgbuJDp0
ふかひれきたー

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:26:08.59 ID:kZgbuJDp0
ふかひれ支援

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:29:27.90 ID:pn3gsNK30
ふかひれ支援

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 21:40:40.47 ID:PH1c33tG0
ふかひれ支援

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/12/25(日) 22:58:44.92 ID:Qr99zqkR0
<フカヒレ        ___
         /      \
        /ノ  \   u. \ !?
      / (●)  (●)    \ 
      |   (__人__)    u.   | フカヒレ>
       \ u.` ⌒´      /
      ノ           \
    /´               ヽ

           ____
<フカヒレ     /       \!??
        /  u   ノ  \
      /      u (●)  \
      |         (__人__)|
       \    u   .` ⌒/
      ノ           \       フカヒレ>
    /´               ヽ



たくさんの支援、そして乙ありがとうございました。

やっとここまで投下することができました。
この話は  不可思議姫【月天封印】  の中で一番書きたかったシーンの一つです。

ここを起点に考えると作中の謎の多くが解決できるようになっていると思います。
それらは次話で明らかになるんじゃないでしょうか。


それでは失礼します。

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