8.無題
295 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:28:55.58 ID:9oLao2+Y0
8.無題

――――ドクオは自室で町の燃え上がる様を眺めていました。


買い物に行けば商人たちが明るく振舞う。
海はキラキラと煌き、その側で子供たちが遊ぶ。
水夫たちが酒を飲み、暴れ、夜の町に花を添える。


・・・ああ、そういえばブーンも水夫だっけか。
そんなことを考えながら。


('A`)「もう、終わりにしなければならないな」

聞こえないくらい声で独り言を言うと、ドクオは静かに自室から出ます。


296 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:32:24.26 ID:9oLao2+Y0
兵は町に出ました。

しかし、町には行くことができないでしょう。

町に火が上がったころ、ドクオは馬の首を掻っ切って、全て殺しました。
全て、といっても大した数の馬はこの城にありません。

それに、兵といっても全くいません。
城にいるのは多少の使用人たちだけです。
そんな少ない数の兵がいたところで何もできないでしょう。


何故兵がいないかと言えば、モララー卿は戦争の用意を全くしていませんでした。
戦争が起ころうとしていたのに、です。

モララー卿はもう完璧に狂っていました。

297 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:34:35.86 ID:9oLao2+Y0
( ・∀・)「おお。ドクオじゃないか」


ドクオがモララー卿の部屋に入ると虚ろな目で迎えました。

なにを考えているのかわからないような顔つきで。
ドクオは、モララー卿の妙に明るい声色が気色悪く感じました。


( ・∀・)「ははっ。ワカッテマスは戦いにいったか?町が燃えているものなあ」


モララー卿はお坊ちゃまがまるで生きているかのように、しかも楽しそうにドクオに語りかけます。


299 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:38:03.27 ID:9oLao2+Y0
顔は常に傾き、骨と皮だけになった体を椅子から起こしました。

モララー卿はいろんなことをぺらぺらと喋りながら、ドクオに近づきます。
やはり、その顔は笑っていなく、声だけが陽気です。
死んだ魚のような目を全く動かさずに。


そのうわごとのような話の中にはお嬢様の名前は一回も出てきませんでした。


('A`)「だんな様」

( ・∀・)「どうした、思いつめたような顔をして」


('A`)「私はあなたを殺しに来ました」

300 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 11:41:45.37 ID:9oLao2+Y0
( ・∀・)

( ・∀・)

( ・∀・)「おお。そうか」


とだけぽつりと呟くと、またうわごとのようにいろいろな話をぺらぺらと喋り始めました。

ドクオはそれを無視するかのように、そばにあった装飾用のサーベルを手に取ります。

取っ手の部分が銀と金で彩られた素敵なサーベル。
装飾用とはいえ、骨と皮だけになった老人を貫くには十分です。

モララー卿はドクオがサーベルをつかんでも表情すら変えませんでした。

静かな部屋には、抑揚の無いモララー卿の喋り声。

304 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:05:38.38 ID:9oLao2+Y0
ドクオはモララー卿に向かって走りました。
そして、胸に目掛けて刃をつきたてます。




ずぶり、とサーベルは吸い込まれるかのようにモララー卿に刺さりました。

そして、そのまま勢い良く部屋の壁にサーベルごとモララー卿を突き立てました。

壁に釘付けになったモララー卿。

ドクオが向かってくるとき、何の抵抗も見せませんでした。
色の無い目だけがドクオを捕らえているだけで、手も足もなんの動きを見せずにいたのです。

305 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:09:13.27 ID:9oLao2+Y0
(  ∀ )「ゴフッ・・・ワ、ワカッテマスは・・・?」

('A`)「亡くなられましたよ。だんな様の目の前で」



(  ∀ )「そうか」


ぶくぶくと血の泡をふくモララー卿。
うわ言のように息子の名前を呟きます。


それを目の前にしてドクオは怒りも、悲しみも、何も浮かびませんでした。

ただただ、虚しさだけが胸をいっぱいにします。


306 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:12:11.73 ID:9oLao2+Y0
しばらくドクオはモララー卿を何も考えずに見ていました。

次第に血を吐かなくなり、ついに体はピクリとも動かなくなりました。


目の前で人が死ぬのは二回目です。

どちらも自分にとっては係わり合いの多かった人物。
その一人は自分の手で殺しました。



( A )

(;A;)

ふと、涙がこぼれました。

悲しくなんか無いのに、こぼれました。


307 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:18:35.26 ID:9oLao2+Y0
涙が落ちないように上を向きます。

とめどなく流れる涙は上を向いていてもぽたぽたと流れて落ちました。
血の匂いが充満する部屋で、ドクオはいつまでもいつまでも涙を拭うことなく立ち尽くしていました。


町の赤い光は暗い室内を優しく照らします。

この世のものとは思えないような残酷な光景を。


やさしく、やさしく。

やさしく、やさしく。



309 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:26:37.19 ID:9oLao2+Y0
――――ドクオが涙を止められずに居る頃、やっとのことでロマネスク卿は城に着きました。

小さな城の門には何人か兵がいます。
遠目では確認できないほどの少ない人数です。


( ФωФ)「・・・何故、兵がここにいるのである。モララー卿は町に繰り出してないのか?」

ロマネスク卿は馬上から門の兵士に尋ねます。
しかし、ロマネスク卿の突然の来訪に兵士はたじろぐばかり。


<;`∀´>「こ、これはロマネスク卿! なぜ王都の伯爵がこんなところにいるニダ!」


310 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:29:46.23 ID:9oLao2+Y0
( ФωФ)「質問に答えるである」


驚く兵士たちに鋭い言葉を投げかけました。
たじろぐような仕草を見せる兵士たちは、ぽつりぽつりと話し始めます。


<ヽ`∀´>「ウリたちは出兵命令は出されてないニダ。それに町に行こうにも馬が全滅してた
      ニダ! 城にいる兵は全部で10程度。こんなんじゃ何にもできないニダ」

(;ФωФ)「・・・馬鹿な! 戦争が起きようとしていたのに何の用意もしていないというのか?
       モララー卿は狂ったか!」

<ヽ`∀´>「そ、その通りニダ。一兵であるウリは詳しいことは知らないけど、おかしくなった事
      位はちゃんとわかるニダ」


311 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 12:36:15.75 ID:9oLao2+Y0
(;ФωФ)「くっ!」


ロマネスク卿らは急いで城内に入りました。

モララー卿の気がふれたのなら、この勝手な行いにも納得がいく。
焦る気持ちがロマネスク卿の体を支配します。


急いで馬から飛び降り、城へと入っていきます。

門はお世辞にも大きいとは言えない様な物で、壁が崩れているところも。
その姿は名ばかりの城で、ほぼ大きな屋敷のようなものでした。


348 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 06:56:13.60 ID:VHaj8j5o0
(;ФωФ)「モララー卿! 居られまいか!」


そう叫び、使用人たちによって綺麗にされた廊下を走ります。
馬によって撒き散らされた土が廊下を汚しながら。


行き着いた先は、三階にある大きな部屋。

そこからは、嗅ぎ慣れた、嫌なにおいが鼻を突きました。
ロマネスク卿の兵士たちは剣を抜き、慎重な顔つきをして指示を仰ぎます


(;ФωФ)「開けるである。油断するな」

ロマネスク卿は異臭を放っている部屋を慎重に空けました。


349 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 06:58:35.67 ID:VHaj8j5o0
目の前に広がる信じられない光景。

一番に目に付いたのは、壁につきたてられて絶命する老人。
紛れも無くモララー卿です。

そして、亡骸の前で涙を流す中年の男。


誰が見てもどういう状況かというのは明らかでした。
兵士たちは武器を納め、ただただその異様な光景を眺めるしかありませんでした。


350 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:00:45.98 ID:VHaj8j5o0
( ФωФ)「・・・捕らえよ」


落ち着きを取り戻したロマネスク卿の声が、血生臭い部屋に響きました。
低く、太く。

兵士たちがドクオを床に押さえつけます。


押さえつけた拍子に胸のポケットから何かが落ちました。

深い深い緑。
床に叩きつけられたそれに亀裂が入ります。


それを見ても彼は何の抵抗も見せませんでした。
ただ黙って泣いているだけです。


351 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:03:55.07 ID:VHaj8j5o0
( ФωФ)「・・・伝令。ダイオード卿にモララー卿は死んだということを伝えて欲しいである」


それだけ言い終わると、ロマネスク卿はドクオに近づきます。


( ФωФ)「その姿を見ると使用人か」

( ФωФ)「何故、殺した。狂っていたからか」


(;A;)

ドクオは何も喋りません。

ロマネスク卿はその泣き顔を見て、そうか、とだけ呟きました。
兵士たちは困惑を顔に出し、どうしたら良いかわからないような目で主を見つめます。


353 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/20(月) 07:06:52.84 ID:VHaj8j5o0

( ФωФ)

( ФωФ)「使用人ごときが侯爵を殺すとは死罪は免れぬだろう。たとえ狂っていた
       としてもである」

( ФωФ)「・・・我輩が討ち取ったことにするである。このラウンジの件に関しての罪は全て被ろう」

兵士が驚いた顔でロマネスク卿を見ました。

ロマネスク卿の顔は心なしか、どこか悲しそうにしていました。
それは、自分が罪を被ることを悲しんでいるのではありません。
ただ、虚しく、悲しいのです。


部屋の窓から見える町は、まだ明るい赤色をしていました。
ぼうっとぼやける様に、闇の中で明るく明るく光っていました。


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