6.港町
- 239 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:29:18.97 ID:tJz1Xvvy0
- 6.港町
お嬢様が歩き始めた一週間ほど前のことです。
遠く離れた王都にてモララー卿の勝手な振る舞いは問題視されていました。
しかし、隣国との戦争が控えている故に、誰もそれを咎めようとする者はいません。
そんな中、国の動きに危機感を覚えた男がいました。
( ФωФ)
その一人、ロマネスク卿です。
あまり名の知れない伯爵でしたが、人望は厚く、頭の切れる男だといいます。
背は高く、整った顔をしており、なによりも若さに相応しくない白髪交じりの短髪が特徴的でした。
- 241 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:35:39.96 ID:tJz1Xvvy0
- 出兵命令の出されているロマネスク卿は葛藤していました。
自分の国で流れるはずの無い血が流れようとしている。
国が国として成り立っているのは民が国を支えているから。
彼らが血を流そうとしているのにそれを咎めることなく他国の侵略に精を出す。
相手は事もあろうか王が協和を望んでいる異教徒たち。
- 242 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:41:49.45 ID:tJz1Xvvy0
- ( ФωФ)「ダイオード卿、ちょっといいあるか?」
/ ゚、。 /「わざわざ屋敷まで出向くとは、こんな夜更けに何用だ」
シンとした闇の中で密会が行われていました。
現れたのはそのもう一人となるダイオード卿。
その昔、武力を買われて伯爵となった男です。
ロマネスク卿の父と深い交流があり、ロマネスク卿は幼い頃から知っていました。
( ФωФ)「ヴィップ地方を治めているダイオード卿なら詳しいと思って
来たのである。噂に聞くラウンジ地方の話なのであるが」
/ ゚、。 /「王都に来てまでこの話か。教えてやろう」
ロマネスク卿の問いに対して、伸びきらない髭を擦りながら神妙な顔つきで答えます。
- 243 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:44:53.29 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /「王都に流れてきている噂どおりで、まず間違いない。
モララー卿を止めなくてはわが国にて血が流れるだろうな」
( ФωФ)
( ФωФ)「・・・・・・そうであるか。ならば我輩はラウンジに出向くである」
失礼した、と足早に去ろうとするロマネスク卿。
背後から呼び止める声がします。
/ ゚、。;/「待て、隣国との戦いはどうなる?」
( ФωФ)
- 244 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 00:47:38.01 ID:tJz1Xvvy0
- ( ФωФ)「国王は彼奴ら民族との協和を望んでおられる。勝手な振る舞いは許せぬのだ」
( ФωФ)「それに、流れるはずの無い血が流れようとしているのに、それを止めようとしない
戦士がどこにいるであるか」
( ФωФ)「迷える民が出ようとしている時に領土を広げようなど笑止千万」
振り向かずにあっけらかんと答えました。
表情こそは見えませんが、その声は心に刺さるような鋭さを帯びていました。
そして、その後でもう一言添えます。
( ФωФ)「ラウンジ地方で流れる血は一人のもので十分である。
我輩はモララー卿を討つ」
押さえつけられるような言葉の重圧。
それはダイオード卿に深く食い込みました。
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 00:53:27.41 ID:tJz1Xvvy0
- / ゚、。 /
その言葉を聴いて棒のように立ち尽くすダイオード卿。
深く刻まれた目じりの皺がたるんだように落ち込みます。
若い頃、数々の内戦から迷える民を救ってきた彼にとってこの状況は許せるものではなかったはず。
しかし、自らラウンジ問題の解決を目指すことはしませんでした。
隣国との戦いを第一に考えていたのです。
ダイオード卿は戦士の本分を忘れていたことを恥じました。
( ФωФ)「我輩は間違っているであるか?」
ロマネスク卿は振り返りました。
そして、少しだけ俯いたダイオード卿を見つめます。
偽りの無い、真っ直ぐな瞳で。
- 248 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:13:05.12 ID:tJz1Xvvy0
-
/ ゚、。 /
/ ゚、。 /「・・・いや、どうやら間違っているのは私らしい」
/ ゚、。 /「目が覚めた。私もラウンジへ向かおう」
騒々しい王都が闇に静まっている時の話です。
二人の間に交わされた会話はたったのそれだけ。
ダイオード卿の言葉を聴き、ロマネスク卿は再び背を向けて足早に帰っていきました。
二人とも表情を変えることなく。
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 01:15:35.90 ID:tJz1Xvvy0
- 3分にも満たない密会。
しかし、結束するには十分なようで、その週のうちに兵をまとめ、日は違えど、ロマネスク卿、ダイオード卿、共に
ラウンジ地方へと向かいました。
共に銃兵を持たない特殊な編成。
特に打ち合わせたわけではありません。
王都からラウンジまで5日ほど。
国のために国を裏切り、静かに奮起した男たちの戦いが始まったのです。
- 250 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:19:16.51 ID:tJz1Xvvy0
- ――――塔を出てから夜が開け、お嬢様とブーンは港町にたどり着きました。
港に向かったのはブーンの船があるからです。
ブーンはこのラウンジから離れて別の地に降り立とうと考えていました。
( ^ω^)「お・・・。結構荒れてるお」
( ^ω^)「今日ラウンジを離れるのはなかなか厳しいかお・・・」
海は荒れていてとても船を出せるような状態ではありませんでした。
海風が強く吹きつけ、潮の香りが鼻につきます。
お嬢様は深く被っていたフードを取り、海を眺めました。
波と波が激しくぶつかり合う。
久しぶりに見る海は穏やかな表情ではありません。
- 251 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:21:50.24 ID:tJz1Xvvy0
- ( ^ω^)「しょうがないから一旦港の小屋に行くお。船が出せるようになるまで
待つしかないお・・・」
港の小屋は船着場を少し行ったところにありました。
非常に簡素な小屋。
どうやらそこには人が住んでいるようで、窓から人影が覗きます。
( ^ω^)「お邪魔しますお」
ぼろぼろの扉を開けると、さまざまな道具が無造作に置かれていました。
どの道具もお嬢様が知らないもので、不思議な世界が広がっています。
まるで倉庫です。
- 252 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:24:15.90 ID:tJz1Xvvy0
- (´・ω・`)「やあ、ブーン。海は大荒れだろう?」
奥からひょっこり出てきた男。
垂れた眉毛の特徴的な顔つきをした男は優しい声でブーンに話しかけました。
タールで汚れた顔を拭ってお嬢様を見ます。
(´・ω・`)「別嬪さんだね。恋人かい?」
( ^ω^)「まあ、そんなところかお」
(´・ω・`)そ
(´・ω・`)
(;´・ω・)「えっ」
- 253 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:29:25.66 ID:tJz1Xvvy0
- 川* - )
お嬢様は少し照れました。
顔がほんのりと桜色に染まっています。
(´・ω・`)「照れちゃってかわいいもんだ」
(´・ω・`)「しかし、口に金玉みたいなのがついた男のどこがいいんだか・・・」
( ^ω^)「お前もだお」
(;´・ω・)「・・・まあ、紅茶でも入れるよ。待っててくれ」
そういってしょぼくれ眉毛の男は、奥の方へと消えていきました。
ちょっと経って持ってきたのは欠けたカップを三つ。
- 254 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:33:56.25 ID:tJz1Xvvy0
- (´・ω・`)「僕の名前はショボン。ここの主だ。代々船着場は僕の家系が管理しているよ」
(´・ω・`)「この汚い家が僕の家。ちなみにそばにあった大きな白い建物が仕事場さ」
(´・ω・`)「水夫たちからは小屋って呼ばれてる。ひどいよね!」
ショボンと名乗る男は、汚いテーブルに紅茶を並べながら喋ります。
途中、ブーンとお嬢様を、まあまあ座って、と制しました。
座ると椅子がぎしぎしと音を立てて、いかにも頼りなさげです。
(´・ω・`)「こう見えて僕は今年で48になる。驚いたろう?」
川;゚ -゚)(見たまんまだ)
- 255 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:36:54.26 ID:tJz1Xvvy0
- (´^ω^`)「で、君の名前は?」
目にしわを寄せて、ニカッと微笑みました。
お嬢様の答えを待たずに、ズズッと音を立てて紅茶に口に含みます。
川 ゚ -゚)「・・・私はクール。商人の娘だ」
お嬢様は苗字を隠しました。
異教徒じゃないとは言え、モララー卿の悪政に反感を持っているものは少なくないはず。
娘だとばれる訳にはいかなかったのです。
幸い、幽閉されていて、存在がなかったことにされていたのでお嬢様を知るものはあまりいませんでした。
(´・ω・`)「そう。良い名前じゃないか」
そう言うとまた、ズズッと音を立てて紅茶を口に含みます。
- 256 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:40:25.76 ID:tJz1Xvvy0
- ( ^ω^)「そうそう、船が出せるようになるまでここにいさせてほしいお」
(´・ω・`)「ああ、構わんよ。夜には治まるだろう」
( ^ω^)「ありがとうだお」
( ^ω^)「クー、明日の朝にはラウンジを離れるお」
川 ゚ -゚)「・・・わかった」
生まれ育ったラウンジを離れるのは抵抗があります。
しかし、そんなことは言ってられません。
ドクオの為にも、お坊ちゃまの為にも、そしてブーンの為にも元気でいれるように。
その気持ちを再確認しました。
- 258 名前: ◆24es8un4MA :2010/12/19(日) 01:42:39.81 ID:tJz1Xvvy0
- (;´・ω・)「えっ。ブーンはラウンジを離れるのかい?」
それを聞いたショボンは目を丸くして驚いていました。
そして、持っていたカップを置きます。
( ^ω^)「・・・そうだお。僕たちは約束したんだお」
まっすぐとショボンを見つめるブーン。
お嬢様はこんなにも自分を思ってくれているブーンを見て少しだけ泣きそうになりました。
彼もまた、今までの生活を捨てることになるのです。
お嬢様は涙をこらえるために紅茶を口にします。
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 02:03:49.39 ID:tJz1Xvvy0
- (;´・ω・)「えらく急だな」
( ^ω^)「すまんお」
(;´・ω・)「ま、まあ事情は人それぞれ。君たちのこれからに幸多きことを祈るよ」
ショボンは置いていたカップを手に取り紅茶を口に含みます。
相変わらずズズッと音を立てて。
( ^ω^)「いろいろ世話になったお」
そう言うとブーンもカップに口をつけました。
- 263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/19(日) 02:06:17.46 ID:tJz1Xvvy0
- 川 ゚ -゚)
部屋の中に広がる紅茶とタールが混ざった匂い。
お嬢様はその不思議な匂いを吸い込みます。
いままで嗅いだことの無い匂いが、これから始まろうとしているラウンジの外の世界を彷彿させました。
もっと自分の知らない世界が広がっているのだろうか。
わくわくはしません。
どこからか湧き出てくる使命感と緊張感が胸をいっぱいにしました。