2.世話係の男とお嬢様
41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:50:05.28 ID:Kia0C6X20
2.世話係の男とお嬢様


モララー卿は次第に狂い始めていました。

( ・∀・)「クーの世話の一切をドクオに任せる」

妻であるトソンを亡くしてから一ヶ月。
食事もほとんど手をつけることが無く、子供たちとの会話も無くなりました。

(;<●><●>)「お父様。どういうおつもりで」

(;'A`)「私がお嬢様の世話を・・・ですか? ではだんな様は・・・」

( ・∀・)「疲れたのだ。何もかもが」

長い髭を右手でさすりながら、しわがれた声で冷たく言い放ちました。
そして、左手が椅子の肘掛をトントン、と打ち、また続けます。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:51:55.94 ID:Kia0C6X20
( ・∀・)「ワカッテマス」

(;<●><●>)「はっ」

( ・∀・)「用意が済んだら彼奴ら民族の撲滅も考えておる」

( <○><○>)「・・・!!」

敷き詰められた赤い絨毯とベージュのカーテン。
優雅な空間に静寂が走りました。


43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:54:10.09 ID:Kia0C6X20
(;<●><●>)「戦争はやらないお考えでは無かったのですか」

(;<●><●>)「血が流れることに抵抗は無いのですか」

( ・∀・)「全てを終わらせたくなったのだ。この辺境の地にて彼奴らとの戦いに幕を下ろす」

(;<●><●>)「国王は彼らとの和平を望んでおられるはずでは・・・!」

( ・∀・)「この地の全ては私に任せられている。違うか?」

(;<●><●>)

( ・∀・)「お前はまだ青い」


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:56:16.18 ID:Kia0C6X20
モララー卿は、またどっしりと座りなおすと、空虚な目でお坊ちゃまを見つめました。

( ・∀・)「とにかく、今はその時ではない。後にまた呼び出す」

( ・∀・)「ドクオ」

(;'A`)「はっ」

( ・∀・)「クーは西塔に幽閉しろ。それ以外に私はこの件に関して、一切口を出さない」

( ・∀・)「いいか?」

(;'A`)「わかりました・・・」

( ・∀・)「以上だ。二人とも戻れ」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:58:21.20 ID:Kia0C6X20
二人は廊下に出るとため息をつきました。
ドクオもお坊ちゃまもモララー卿の考えが全然わかりませんでした。
愛する人の死はモララー卿を大きく変えてしまったのです。

('A`)「お嬢様はまだ13。親の愛が必要な年頃だろう・・・」

( <●><●>)「後で西塔に顔を出します。私もクーが心配です」

('A`)「わかりました。では私は早速西塔にてお嬢様を迎える準備を致します」

( <●><●>)「頼みました。迷惑をかけます」

('A`)「いえ・・・」


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:00:09.45 ID:Kia0C6X20
西塔はこの小さな城の中でもほとんど使われることの無い建物で、この城の使用人でさえあまり立ち寄ったことの無く、
廃墟のような扱いを受けていました。

ドクオは足が重く感じました。まるで自分の足では無いかのように。
お嬢様はどう思われるだろうか。
私にお世話が勤まるだろうか。
突如降り注いだ責任感とモララー卿への不信感でドクオの心は押しつぶされそうです。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:03:12.23 ID:Kia0C6X20
もともとモララー卿はそのようなことをするような人ではありませんでした。
ドクオがこの城に来たときも優しくしてくれて、子供たちとは仲良く、何よりも妻であったトソンとの仲睦まじい様子
は見ていて大変気持ちの良いものでした。
ドクオはいまだにその変化を信じられていません。
いつかはまた元のように・・・・・・。そう考えているのです。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:04:59.64 ID:Kia0C6X20
('A`)「なんだ。もう綺麗になっているのか」

すでに他の使用人たちが綺麗にしたのでしょう。
塔の内部はある程度まで片付いていました。
最上階には今後お嬢様が暮らしていくことになる小さな部屋があります。

部屋の扉を開けるとお嬢様はすでにそこにいました。

川 ゚ -゚)「遅かったではないか」

(;'A`)「もういらしていたのですか。申し訳ございません」

川 ゚ -゚)「私が不甲斐ないばかりに父に捨てられた。これから世話になる」


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:06:22.06 ID:Kia0C6X20
(;'A`)「・・・・・・お嬢様が悪いわけでは」

川 ゚ー゚)「いいんだ」

ドクオは分かっていました。
お嬢様はモララー卿の狂いを認めたくないのです。
自分が悪いわけじゃないのは知っています。
自分のせいにすることでモララー卿は正常であるということを自分に信じ込ませたかったのです。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:08:01.88 ID:Kia0C6X20
川 ゚ -゚)「そうそう、まだ片付けが終わっていないんだ」

そういってお嬢様は、その美しく細い手で机を運ぼうとしました。

(;'A`)「私がやりましょう。座っていてください」

川 ゚ー゚)「そうか。悪いな」

そう言うと、お嬢様は目を瞑り、微笑みながらほこりの被ったベッドにちょこん、と腰掛けました。
少し顔を上げて窓を見つめるその大人びた横顔は、日差しに当てられ美しく光ります。

お嬢様が退くのを確認し、ドクオは真っ白な手袋をキュッと着けます。
そして、中途半端に片付いた部屋を整理しながら考えました。
これからのこと、さっき言っていた戦争のこと、そしてこの家のこと。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:10:17.60 ID:Kia0C6X20
( <●><●>)

(;'A`)「どわっ!!」

川;゚ -゚)「どうしたドクオ。びっくりするぞ」

窓にはお坊ちゃまが張り付いていました。

( <●><●>)「空けてください。様子を見に来ました」

お嬢様が立ち上がり窓を開けました。
春風が通り、しなやかな茶色い髪が綺麗になびきます。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:12:24.46 ID:Kia0C6X20
川 ゚ -゚)「兄様。普通に入ってくることは出来なかったのか?」

( <●><●>)「幽閉されたのなら窓から密会するのがセオリーですから。わかりませんか?」

(;'A`)「どうやって上ってきたのです」

( <●><●>)「ツタを上れば簡単です」

川 ゚ -゚)「そんなやんちゃする年でも無いだろう。23にもなって恥ずかしくないのか」

(;<●><●>)「様子見に来ただけなのにひどい言われようですね」

ほっ、と声をあげて窓の縁に手をかけ勢い良く部屋の中に入りました。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:15:39.22 ID:Kia0C6X20
そして、すこし汚れてしまった正装をパンパンと叩き、大きな目で部屋を見渡します。
最期にふーむ、と声をもらし、

( <●><●>)「なかなか住み心地悪そうですね」

と一言。

川 ゚ -゚)「そうか?私は入った瞬間気に入ったぞ」

特にこの大きな窓がな、とニコリとつぶやいて、両手を窓の縁について身を乗り出し空を見上げました。
真っ青なキャンパスには鷹が二羽。
つられてお坊ちゃまとドクオも空を見上げました。


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:17:30.06 ID:Kia0C6X20
('A`)「確かに良いお部屋ですね。今まで使われていなかったのが嘘のようだ」

( <●><●>)「遠くには麦畑が見えます。あんなところに民家も。見晴らしのよさは抜群といったところですか」

川 ゚ -゚)「な?素敵だろう?」






三人はしばらく塔からの景色を見ていました。

会話の無い、居心地の良い時間が過ぎていきました。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:20:05.86 ID:Kia0C6X20
川 ゚ -゚)「・・・・・・ドクオも兄様も心配しなくて良いぞ」

お嬢様は景色から目を離さずしゃべり始めました。
二人は突然喋りだしたお嬢様に目を向けます。

川 ゚ -゚)「元気にやっていけるから」

川 ゚ -゚)「もし、この先悲しいことがあったり、つらいことがあったりしたら、二人とも助けてくれるんだろう?」

川 ゚ -゚)「ドクオ」

('A`)「はい」

お嬢様は静かに振り向き、

川 ゚ー゚)「これから、よろしく」

とだけ言いました。


63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:22:06.59 ID:Kia0C6X20
('∀`)「はい。絶対に悪い思いはさせません」

川 ゚ー゚)「頼りにしている」

( <●><●>)「クーを赤ちゃんの頃から知っている唯一の使用人です。私もドクオを頼りにしてます」

('∀`)「お坊ちゃま・・・」

ドクオは責任感の強い男です。
しかし、今、彼を満たしているのは重い責任感だけではありませんでした。
お嬢様の笑顔を守りたい。
そう思ったのです。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:23:53.37 ID:Kia0C6X20
( <●><●>)「私もこれからちょくちょく顔を出します。彼を頼りにしているとは言え、クーの顔は毎日見たいですし」

川 ゚ー゚)「私も兄様との会話は幽閉されていても続けたい」

(*<●><●>)「ふむ、照れますね」

お坊ちゃまの顔は赤くなりました。
それは、いつの間にか茜色に染まっている部屋のせいだけではないでしょう。

お坊ちゃまのお嬢様に良く似た茶色い綺麗な髪が、突如、吹いた風に乱されました。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:26:37.33 ID:Kia0C6X20
<●><●>)「では私はこの辺で。また明日にでも」

('A`)「私も食事の用意をしてきます。空が暗くなった頃また来ます。そしたらお掃除の続きをしましょう」

川 ゚ー゚)「わかった。二人ともありがとう」

お坊ちゃまは照れを隠すかのように部屋を後にしました。
それに続けてドクオも。
二人が去った部屋は広く感じました。
ですが、不思議と寂しさは感じません。
お嬢様は、夕食が来るまでずっとずっと、大きな窓から燃えるような赤を見つめていました。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:28:32.92 ID:Kia0C6X20
―――――それから二年と半年ほどがたったでしょうか。
その間、ドクオは優しくお嬢様を気遣い、お嬢様も彼に対して決してわがままを言いませんでした。
ドクオはお嬢様の気持ちをいつだってわかっていましたし、お嬢様も日ごろから自分のことを一番に考えてくれている
ドクオのことを誰よりも信頼していました。

二人で窓からの景色を眺めることもありました。
今日の食事がおいしい、おいしくないの言い合いもありました。
お嬢様が眠れぬ夜には故郷の神話を話すこともありました。
その話が楽しくて寝れないふりをしたことだってあります。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:30:15.33 ID:Kia0C6X20
時に城に兵が集まることが何度もありました。
しかし、戦争は起きることなく、毎回演習だけして帰っていく姿が塔から見えました。
そのたびに、兄様ががんばっておられるのだな、とお嬢様はつぶやきます。
母が亡くなり、父が狂おうとも、ドクオとお坊ちゃまがいつもそばにいました。

そんな季節が足早に過ぎ去っていく中で、ある日変化が起こります。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:32:49.01 ID:Kia0C6X20
('A`)「さて、お召し物を持ってきました。どうです?」

('∀`)「特にこれなんかが私のお気に入りなんですが」

川;゚ -゚)「これまた沢山買ってきたな」

ドクオの両手に抱えられた沢山の服。
その一つを満面の笑みで広げて見せます。
清楚で、白い簡素なドレスでした。

('A`)「レディたるもの身だしなみは大切ですから。気に入ったものはありましたかな?」

川 ゚ -゚)「ふむ。どれも素敵だと思うぞ。ゆっくり選ばせてもらおう」


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:34:08.69 ID:Kia0C6X20
('A`)「もう着れなくなったものはこちらで売りにでも出しましょう」

川;゚ -゚)「最近また胸が大きくなったからな。世話をかける」

話しながらもお嬢様は一枚一枚じっくりと選んでいきます。
白く広がる空に何枚かの枯葉が風に運ばれていく様子が窓に映し出されています。
もうすぐ冬になります。

('A`)「成長とはそういうものです。ではまたしばらくしたら来ます。気に入らなかった服は私に」

川 ゚ -゚)「うむ。いつもありがとう」


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:35:47.16 ID:Kia0C6X20
では、と扉を優しく閉め、部屋にはお嬢様一人。
色とりどりの服を細く白い手で触れ、体と重ねます。
真剣な顔つきで見定めていくのです。
ドクオや亡き母から教わっていたことをしっかりと守っていました。
自分の召し物を選ぶのは自分を磨くことなのです。

川 ゚ -゚)

まだ少しあどけなさの残っていた顔つきは、二年ほど経ったことで完全に消え始めていました。
誰が見ても美しいと思えるような容姿。
塔に幽閉されていることで、誰の目にも触れることなく純粋に、
まるで山頂の百合のように可憐に育っていきました。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:37:24.19 ID:Kia0C6X20


( ^ω^)

川;゚ -゚)「ひっ!」

ふと窓を見るといつからか童顔の青年が張り付いていました。

川 ゚ -゚)「・・・・・・何奴」

(;^ω^)「入っていいかお?」

(;^ω^)「いつもこの塔で一人っきり。遊びに来てやったお」

川;゚ -゚)


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 02:39:17.04 ID:Kia0C6X20
お嬢様は不審に思いながらも窓を開けました。
窓を開けていれば大声でドクオを呼べる。それなら開けてもいいかも。
恐怖心だけでなく好奇心も入り混じった複雑な心境です。

冷たい風が部屋に流れ込み、お嬢様の髪を静かに撫でます。

( ^ω^)「こんにちわお!ツタを上って塔に入るなんて雰囲気出るお」

川 ゚ -゚)「何しに来たのだ。それにしてもよく敷地内に入れたな」

( ^ω^)「意外とちょろいもんだったおっお!」

川 ゚ー゚)「おかしなしゃべり方だ」

( ^ω^)「そうかお?」

お嬢様はくすくすと笑いました。
この青年に不思議と恐怖心をかき消されてしまったのです。
日は暮れ初め、静かな闇が近くまでやってきていました。


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