1.ヴィップ港
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:02:50.49 ID:Kia0C6X20
- 1.ヴィップ港
むかしむかしのお話です。
ヴィップ港にとても大きな客船がやってきました。
港は野次馬でごった返しです。
なにしろ小さな港なものですから、こんな大きな客船は珍しくて珍しくて。
客船は外輪をゆっくりと回しがら港に着きました。
黒煙が真っ青な空に汚れをつけていきます。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:05:16.91 ID:Kia0C6X20
- 客船からたくさんの人が降りてきました。
大きな荷物を持った人、小奇麗な格好をしたレディ、埃まみれのコートの男、シルクハットの老人。
一等客船から三等客室までたくさんの人が乗っていました。
この地に移り住んで大きな夢をつかもうと野心に燃える人たちがほとんどでしたが、
(´<_` )
どうやらこの長身の男は違うようです。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:07:23.26 ID:Kia0C6X20
- ずいぶん使い古したかばんと灰色のコート、そしてよれよれの帽子。
名をサスガと言います。
三等客室から外に出てきた瞬間、凛とした冷たい空気が肌と触れました。
彼は、雲ひとつ無い真っ青な色をした空を仰ぎ、空気を思い切り吸い込みます。
それが、鼻の奥から冷気とすがすがしさを感じさせるのです。
そうして船旅で疲れた体を起こし、港に降り立ちます。
(´<_` )「流石に冷えるな……」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:09:17.54 ID:Kia0C6X20
- 彼の兄は奇病にかかりました。
自国の医療ではこの病気は治すことが出来ないそうです。
サスガは病気のことなんてわかりませんでした。
ただ、悩んだり、悲しんでいる場合じゃない。そう思って自国から飛び出しました。
薬を探すあてなんてありません。
それでも行動しないよりはマシだと、そう思ったのです。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:11:54.26 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「あの、すみません。この近くに薬屋は?」
('、`*川「そこの角さまがれば、すぐにわかるだぁ」
(´<_` )
(´<_`;)「あ、わかりました。ありがとう」
(´<_`;)(想像してたより訛りが強いな……。何とか聞き取れたが)
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:13:34.67 ID:Kia0C6X20
- 決して大きいとは言えないこの港ですが、野次馬たちや商人であふれ返っているのでとても賑やかです。
普段はこれほどまで活発ではありません。けれども、今日この日から他所から来た人々が、今日よりもっともっと
賑やかにしてくれるに違いありません。
この港の住人もそう望んでいました。
港に押し寄せる小さな波がぶつかり、ちゃぽちゃぽと音を立てます。
まだ真新しい赤レンガの倉庫はやさしい光に当てられて輝いているようです。
そして、穏やかな港の情景を彩るように海鳥が猫のように鳴きます。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:15:55.14 ID:Kia0C6X20
- 人ごみを掻き分け薬屋に向かうと、少し禿げた猫背の男が薬屋の前で立っていました。
('A`)「ん?」
(´<_` )「薬を買いに。たしか通貨はペリカでよかったよな? この人ごみだ。とりあえず店に入れて……」
('A`)「ああ、すまんな。私は薬屋の主人じゃないよ。君と同じで客だ」
(´<_` )「なんだ。恥ずかしい思いをしたじゃないか」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:17:39.97 ID:Kia0C6X20
- 苦笑しながらそう言い、ドアノブに手をかけたのですが、
(´<_` )「入らないのか?」
('A`)「財布がな……」
(´<_` )「掏られたのかい?」
('A`)「そのようだ」
この人ごみです。そのような輩が紛れ込んでいても不思議ではありません。
とっさにサスガも確認しました。コートのポケットに手を入れ財布の感触を確かめると男と目が合い、また苦笑しました。
男も苦笑しながら薬屋を後にしようとしました。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:19:45.49 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「貸すよ」
('A`)「……本当か?」
(´<_` )「ああ。この国に来て早速洗礼を受けたところだろう? これじゃあんまりすぎるからな」
すると男は頭を掻きながら、空気の抜けたような声でクスッと笑い、
('A`)「残念だが産まれも育ちもこの国だよ」
と答えました。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:22:25.51 ID:Kia0C6X20
- (´<_`;)「失礼した。訛りが無かったもんだから勘違いしちまったよ」
('A`)「ははっ。使用人は常日頃から綺麗な発音を心がけるもんさ。気にするなよ」
('A`)「お金は待ってもらえればすぐ返せる。恩に着るよ。ありがとう」
(´<_` )「なに。構わないさ。さあ、入ろう」
ドアを開けると薬の匂いと生活臭が混ざって独特の匂いがしました。
その匂いは不思議と嫌ではなく、なんともいえない落ち着いた気持ちになれる様な気がしました。
しかし、勢いで入ったは良いものの、サスガには薬の知識はありません。
('A`)「相変わらずくせえな」
店に入ってすぐ、男が毒づきます。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:24:39.45 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「すまないがどんな奇病でも治せる薬というのは・・・・・・・」
(,,゚Д゚)「ドクオのだんなじゃあないか。もう薬が無くなっただ?それと例のブローチ、直しといたべ」
(´<_` )「・・・・・・」
('A`)「おお、早いな」
薬屋の主人が引き出しから取り出したブローチ。
濁った様な深い緑色。薬の劣化を抑えるために暗くした店内の中では色わからないような、深い深い色でした。
('A`)「器用なお前さんにしか頼めなかったことだ。ありがとう」
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:26:47.59 ID:Kia0C6X20
- (,,゚Д゚)「なに。いつもの薬は用意してあるだぁ。あと、おめさん。何でも直せるような薬はないぞ」
(´<_`;)
(;,゚Д゚)「症状がわからんとどうにも出来んなぁ・・・・・・」
(´<_`;)「熱が出たり、顔に発疹が出たりするんだが」
サスガは頭をぽりぽりと掻きながらつぶやきます。
(,,゚Д゚)「そのしゃべり方・・・。ここの奴じゃねえな」
(,,゚Д゚)「じゃあ寄生虫に違いね。最近多いんだよなぁ。おめさんみてぇな客」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:28:49.82 ID:Kia0C6X20
- そう言い終わると、よっこらと声を上げて重い腰を上げました
ほっそりとした白い腕を上げ古びた戸棚に手をかけます。
(´<_` )「おお!効くのがあるのか。ありったけ貰おう!」
(;,゚Д゚)「ありったけか。とりあえず今あるのはこんだけだ。これ飲んでいっぺぇおしっこ出せばなおるさ」
戸棚から取り出したのは小さな麻袋。
サスガは今にも踊りだしたい気分でした。
これで兄の症状がよくなるのです。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:30:14.85 ID:Kia0C6X20
- 外に出ると、冬とは思えないような強い日差しが二人の視界を奪います。
活気付いた空気に包まれた港から見る海は、日差しと相まってキラキラと輝いているよう。
うれしいときには全てが美しく見えるものです。
('A`)「宿はあるのかい?」
彼の言葉で一気に現実へと連れ戻されました。
宿のことなど一切考えてなかったのです。
(´<_`;)「無いな」
('A`)「そうか。なら今日はご主人の屋敷に泊まられるといい。ロマネスク卿なら許してくれるだろう」
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:33:57.94 ID:Kia0C6X20
- 願っても無い幸運でした。
初めて足を踏み入れた大地で、こうも優しくされるとは想像だにしていなかったのでしょう。
(´<_`;)「い、いいのか?」
('A`)「一晩くらいなら大丈夫だろう」
それにお金も早く返せるしな、と言って男はニヤリと笑いかけました。
('A`)「港の外れに馬車を止めてある。それでいこう」
(´<_` )「では運転は任せてくれ。せめて役に立ちたい」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:36:59.92 ID:Kia0C6X20
- ―――――――それはチャリオットと見まごうほどの立派な馬車でした。
その大きな栗毛色の馬は息を荒げながらも、長い尾を振り、静かに待っていました。
('A`)「しばらくまっすぐだ。曲がる時になったら言うよ」
二人が乗り込むとサスガは馬を走らせます。
石畳を力強く進む立派な馬車は、風のように加速していきます。
しばらく進み、後ろにはさっきまでいた港が小さく見えました。
そして、サスガは前をまっすぐ見つめつつ、突然呟くようにしゃべり始めました。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:38:59.32 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「まさかこの異国の地にてこれほどまで人に優しくされるとは思わなかった」
(´<_` )「不安だったんだ。本当に薬を見つけることができるのか」
(´<_` )「それも考えすぎだったようだな。現にさっきの港で目的は達成されたのだから」
(´<_` )「あとは明日来る定期船を待つだけだな。この国には感謝してもしきれ・・・・・・」
('A`)
その男はさっきのブローチを見つめていました。
深い緑は日の光に照らされて、今度は幻想的に暗く光ります。
吸い込まれそうなほどの深い緑です。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:41:03.74 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「不思議な色をしたブローチだな。大切なものなのかい?」
('A`)「ん?」
('∀`)「ああ、大切な人からもらったものだよ」
自然に口角があがったような優しい笑顔です。
そう言うと、子供が宝物を扱うように力強くブローチを握りました。
(´<_` )「これだけ大切に思われているなんて幸せな人なんだな」
馬はスピードを下げずに進んで行きます。
前から当たる冬の空気は顔を緊張させて、乾いた目には涙がたまるのです。
冬に馬車に乗るといつもそうでした。
そういった寒さからか二人の間に会話は無くなりました。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:44:18.69 ID:Kia0C6X20
- ( A )「・・・・・・・・・ 俺は・・・・・・」
( A )「本当にしたっ・・・・・・のか・・・・・・?」
突然、途切れ途切れの声が沈黙を破りました。
(うA;)「・・・・・・もっとっ・・・! 出来ることが・・・・・・」
(うA∩)「あったんじゃないのかっ・・・・・・?」
馬は馬車が揺れることを考えずに進んでいきます。
そして、耳が赤くなるほどに吹き付ける風。
乾燥した空気が皮膚に刺激を与えます。
(´<_` )「・・・ブローチの主かい?」
( A )
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:46:18.68 ID:Kia0C6X20
- (´<_` )「この先長いんだろう?よかったら聞かせてくれないかな」
( A )「面白くはないぞ?」
(´<_` )「いいさ。俺が聞きたいだけだ」
・・・どこからはなせばいいか。
男はそう言い、ぽつりぽつりとまるで昨日のことを思い出すかのように話し始めました。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/17(金) 01:47:59.39 ID:Kia0C6X20
- ――――馬は走り続けます。
澄んだ空に雲が一つ、二つ。
相変わらず空は高く、日差しが降り注ぎます。
そして、空に舞う一羽の鷲。
むかしむかしの、お話です。
〜川 ゚ -゚)行方不明のお嬢様が帰ってきたようです〜