五話 −脱離−
25 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:14:47.60 ID:E+6HYbv80
五話 −脱離−



 廃ビル、廃工場といった類のものは、
日常で近づくことも無ければ、見つけようとすることも無い。
大体そんなものが現実に本当にあるのだろうか。
ツンは非日常的な光景に、そんなことを考えていた。

ξ゚听)ξ「子供の頃なら秘密基地にしてたわね」

 暗闇の倉庫でツンは一人呟いた。
人形を持ち込んで舞踏会ごっこなんかを開いたかもしれない。
ファッションショーごっこなんて事もやったかもしれない。
しかし、まさか大人になって殺し合いをするとは思わなかったものだ。

 倉庫にはツンの背丈を軽く越える鉄製の箱こそあれど、中身があるのかは分からない。
この倉庫が使われているのか使われていないのか。
その問題は、生死に比べれば瑣末(さまつ)なものだ。

ξ゚听)ξ「さてさて、どう来るのか」

 既にツンのセンサーは二人の敵を捉えていた。
恐らくはヒートとハイン。
ペニサスが居ない状態の二人なら、どんな不意打ちをしてもおかしくは無い。

26 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:16:33.58 ID:E+6HYbv80
ξ゚听)ξ「たく、アイツは肝心な時に遅いんだから」

 一人で凌げるだろうか。
いや、大丈夫に違いない。
帽子を深く被って、ツンは笑った。

ξ゚ー゚)ξ「別に気にしてるわけじゃないけど、
      男の前じゃちょっと本気出し辛いし」

 カーディガンの前を閉め、大きく伸びをした。
一人で戦う事態を予測していたツンはいつも使っている武器は持ってこなかった。

ξ゚听)ξ「胴衣より、私服の方がやっぱ可愛いしねー」

 戦う場所が決まっていれば、そこに罠を仕掛けるのは当然である。
探知能力に関してはツンが一番秀でているのは、敵も重々承知であった。
だからこの倉庫にはツンが来たとき、罠は一つも無かった。
すべて看破されてしまうからだ。

 となれば、罠を仕掛けられるのはツンだけである。
それは最早暗黙の了解だった。
会場を決めるなどという行為自体愚かしいが、
ペニサスとジョルジュの複雑な関係がそれを成り立たせていた。

 言わばこれはある種の協定なのだ。
二対三と言うハンデの代わりに、ツンは会場に罠を仕掛ける。
敵もそれを納得し、ツンより早く会場に行くことは無い。
決して良心などと言うものではない。
これは言い訳なのだ。

28 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:19:34.28 ID:E+6HYbv80
 二対三なのだから殺しても仕方が無い。
罠があるから殺しても仕方が無い。
殺人という大きなストレスにはその逃げ道が必要なのだ。
それを全て受け止めてしまっては、
自分も同時に殺してしまうことになるのだ。

ξ゚听)ξ「……」

 ツンも、一人の人間をその手で殺したときの事は良く覚えている。
事故だったが、結果的にそれは殺人だった。
突然圧し掛かった罪悪感に負け、ツンは死んだ。

ξ゚听)ξ「……ヤバ、いま意識飛んでた」

 突然その時の事を思い出したツンは、
いま置かれている状況を再確認し、それを頭の隅に追いやった。
敵はどうやら倉庫入り口前で止まっているようだった。

ξ゚听)ξ「へー、壁を破ったりはしないわけだ」

 二人にしては大人しい行動だった。
ツンは攻撃用の感覚入り武器を入り口に集中させ、
探知用のセンサーも一応倉庫の周りに数ヶ所残しておく。

 それらに使用した感覚器数は約二十、タマシイ量は約五分の三。
これらも上限まで使えるわけではない。
感覚器数は三十、タマシイ量は半分を超えたあたりから、
次第に自分の体の方の意識が曖昧になっていく。

29 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:22:46.23 ID:E+6HYbv80
 タマシイの消費量は、使用する感覚の種類、数、
あるいは注ぐ物体との距離やその性質によって変化する。
今回入り口付近に待機させたものは、
金属で出来た刃物類十二と、ガラス製の置物が三、いびつな形の鉄くずが五。
これらは入り口が開けられた瞬間二人目掛けて飛んでいく。

 また、入り口には開閉と同時に、
マグネシウムリボンが燃焼する仕組みを施してある。
目を開ければ視界を奪われ、目を瞑れば罠をかわせない。

ξ゚听)ξ「まー、でもこれは通用しないだろうなー」

 ただ、二人の能力を考えるとこの罠が妥当だとは思えなかった。
ヒートとハインは、共に超高エネルギー体を発生させることが出来る。
その能力差は、ヒートが点であるのに対し、ハインが線であるということである。
その分ヒートはレンジが長く、長距離型。
ハインは短〜中距離型だった。

 恐らく二人の発生させるエネルギーの前では、
ここらにある金属など、フライパンに水滴を落とすように、
あっという間に昇華してしまうだろう。
それはツンとて承知の上だった。

ξ゚听)ξ「来る、か」

 目元を大袈裟なまでに全て覆う大きなレンズのサングラスをかけると、
ツンはセンサーにまわしていた感覚を切った。
それとほぼ同時に扉が開かれ、閃光が倉庫内を激しく照らす。

30 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:25:41.59 ID:E+6HYbv80
 暗闇を激しく侵す暴力的なまでの光量を確認し、
ツンは入り口付近に待機させていた凶器を全て二人目掛けて飛ばす。
結末は確認せず、それら二十の感覚を切断。

 さて、刃物や鉄くず、それに人間を曖昧に感知する程度のセンサー。
その程度の規模の物質一つに使用するタマシイの量はいったいどれくらいか。
 答えは、全体の五十分の一から百分の一といった程度である。
この時ツンがタマシイの大部分を裂いていたものは、もっと質量の大きな物体なのだ。

ξ#゚听)ξ「死っねええええええ!」

 倉庫の隅にあった大きな鉄の箱。
人を詰めれば何十人、
いや百人や二百人は詰められるのではないかと言うサイズ。
人間に対してあまりにも大きすぎる箱が、
十分な加速をつけて、二人の影を轢(ひ)いた。

 箱はそのまま反対側の壁に爆音を上げて衝突。
いくら高エネルギー体を発生させられるからといっても、
その質量差が絶対的に大きければ、
昇華させるに値するエネルギーを与えるにはそれなりの時間が必要だ。

 その差がコンマ一秒だったとしても、
それは死へ届かせるには十分な時間だ。
何より箱が形を保ったまま壁に衝突し音を上げたのだから、
二人は轢(ひ)き殺されたのだ。

31 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:27:10.38 ID:E+6HYbv80
ξ゚听)ξ「……」

 僅か数秒のうちの出来事だった。
鼻を突く焦げ臭さと、煙や埃が未だ収まらない倉庫内。
耳の奥に未だ残る音の刺激を感じながら、ツンは溜息を吐いた。

ξ゚听)ξ「はぁ〜……ダメか〜」

 立ち上る土煙の向こうには、
体を密着させ青白い光の蔓(つる)を巻き付けた二人が居た。
よく見ると、ヒートは二つの手をそれぞれピストルのように構えていた。

ノパ听)「甘い甘い。俺の早撃ちは宇宙一だぜ」

从 ゚∀从「お前、箱の壁一枚撃ち抜いて安心しただろ。
      途中で気抜きやがって。箱くらい想像出来ろよ。壁は二枚。」

ノパ听)「うっせ! お前にも活躍の場を与えてやろうと思ったんだよ。
     つーかさっさと離れろよ!」

从 ゚∀从「おーおー、そんなこと言って、俺の服の裾を掴んでるのは誰だ?」

ノハ;゚听)「え? ……おい、掴んでねーじゃねーか!」

从 ゚∀从「やーい、引っかかった! もしかして本当に怖かったのか?」

ノハ#゚听)「んなわけねーだろ! ブチ殺すぞ! ハゲ!」

从#゚∀从「はぁ!? テメー上等じゃ……」

32 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:29:23.86 ID:E+6HYbv80
ノパ听)「……」

从 ゚∀从「……」

 いつものように喧嘩に発展するかと見えた二人だったが、
急に押し黙ると、蔓(つる)を消し、揃ってツンの方を見た。

ノパ听)「オメーは気に食わねーけど……まあ約束だからな」

从 ゚∀从「ああ。今日はペニサスさんに迷惑かけないで行こうぜ」

 呟き、ツン目掛けて歩き出した。

ξ゚听)ξ「へえ。今日はなんか違うっぽいの?」

 サングラスを外し、ツンは二人を見据えた。

ξ゚听)ξ「困ったなあ。ワタシ前線に立って戦うってタイプじゃないのに」

 帽子を捨て、ポケットから平たい皮のケースを三つ取り出した。
中から取り出したのは、風車のように刃が付いた金属の円盤。
電動ノコギリなどに使われる、ロータリー刃である。

ξ゚听)ξ「三ついけるかなー。ま、行くっきゃないよね」

 これらにツンは合計で二分の一のタマシイを注いだ。
二人に捉えられないスピードと変則的な動きを両立させ、
また、自己の防衛も疎かには出来ないのだ。
ほぼ全てを注ぎ、武器のみで体を守り通す策もあるが、
不測の事態が起こったとき咄嗟に体を動かせないのは、やはり致命的なのだ。

33 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:32:14.97 ID:E+6HYbv80
ξ゚听)ξ「まったく。アイツはどこほっつき歩いてるんだか」

 緊張感の無いトーンで悪態を吐くと、ツンはロータリー刃を中に抛(ほう)った。
その瞬間からロータリー刃は弧を描きつつ、
時には交差しながら唸りを上げて二人の元へ飛んでいった。

ノパ听)「来たぞ」

从 ゚∀从「まだ俺の距離じゃねーし」

ノパ听)「近づいてきたら任せたぞ」

从 ゚∀从「はいはい」

 そう言ってヒートは駆け出した。
それをチャンスとばかりに三枚の円盤がヒートを切り刻みに向かう。

ノパ听)「全部ぶち抜いてやるぜ!」

 ヒートは手のひらを地に向け五本の指を開き、
そのまま円盤へ向けて両手を突き出した。

ノパ听)「しゃあ!」

 計十本の指先の延長線上に、十発の小爆発が起こった。
空気の裂けるような音が耳を突き、それと同時に倉庫内が一瞬明るく照らされる。
 円盤は辛うじてそれらを交わし、一度距離を置くために弧を描いてツンの方へと引き返す。

34 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:34:43.66 ID:E+6HYbv80
从 ゚∀从「お前はアホか! わざわざ位置教えてどうする!」

ノパ听)「なんか目印無いと自分でもやりづれーんだよ!」

 ヒートの生み出すエネルギー体は、言わば軌跡を描かない弾丸だった。
ヒートが思い描いた座標に突如としてエネルギー体が発生するのである。
その威力は距離と数に反比例するが、
指向性が無いので近距離で使用すると自らも被害を食らうことになる。

从 ゚∀从「お前は全速力で本体叩きにいけ! 円盤は俺に任せろ!」

ノパ听)「おい! それじゃ俺が危ねえじゃねえか!」

从 ゚∀从「黙って信じとけ!」

 それを聞きヒートは舌打ちをすると、ツン目掛けてまっすぐに駆け出した。
無防備なヒートを切り刻もうと、三枚の円盤が一層の唸りを上げヒートへ向かっていく。

ノパ听)「うらぁぁぁぁ!」

 しかしヒートは立ち止まらない。
ツンだけを視界に入れ、致命傷を与えられる間合いへと駆けていく。
そして間合いまで後三歩のところで一枚目の円盤がヒートの左足へ、
二枚目の円盤がヒートの右眼へ切迫した。

 回避行動をする気の無かったヒートの体勢から言って、
この時点で、最低でも左足を失うことが決定していた。

36 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:37:26.71 ID:E+6HYbv80
从 ゚∀从「もらったぁ!」

 その未来をハインが塗り替える。
ハインは自らの後方から発生させた無数の青白い光線を重ね、
二枚の面状光にして円盤へ照射したのだ。
 その速度差は絶望的なまでに円盤が劣っていた。
二枚の円盤は標的を目の前にして甲高い金属音とともに跳ね飛ばされ、
間髪居れず飛んできた二度目の照射光により跡形も無く気化した。

ノパ听)「こええっつーの!」

 叫びながら、しかし確実に間合いを詰めたヒート。
ツンの立つ位置へと意識を集中し始める。
そこへ残った一枚の円盤がヒートのうなじ目掛けて飛来する。

从 ゚∀从「悪あがきだな!」

 今度は光線を鞭のようにしならせ、ハインは最後の円盤を処理しに掛かった。

 まさに光の鞭が円盤を絡め取ったときの事だった。
突如バランスを保てなくなり、ハインは右半身を強く打ち付ける形で倒れた。

ノパ听)「!」

 この異変にヒートが気付き、
ハインの方へ振り向こうとして、足元に迫っていたそれを偶然視認すると、
攻撃を諦め側方へ回避、それを見えない弾丸で撃った。

37 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:39:16.48 ID:E+6HYbv80
ξ゚听)ξ「チッ」

 それは剥きだしの刃だった。
十分な厚みを持ち、刃渡りは十五センチほど。
闇に紛れるように全体が黒く塗られていた。

ノハ;゚听)「ハイン!」

 ツンが打った罠は未だ残っていたのだ。
ごく微量のタマシイしか入れず、倉庫内に無造作に放置していたこの黒塗りの刃。
これ見よがしに円盤を飛ばすことで意識をそちらへ向け、
密かにこの刃で彼女らの足を狙っていたのだ。

 最初の二枚が無力化した瞬間、
ツンは使用していたタマシイの大部分を黒塗りの刃へと移した。
そして十分に近づけたところで三枚目の円盤を慣性力に任せて解放。
全神経を集中させ、二人のアキレス腱を狙った。

 策は功を奏し、ハインのアキレス腱を切断した。
しかしツンにはヒートが動揺こそすれども、攻撃を中断し振り返る、
と言うことまでは予想が出来なかった。

38 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:42:05.23 ID:E+6HYbv80
ノハ;゚听)「おい、大丈夫か!」

从#゚∀从「てめえなんでツンを撃たなかった!」

ノパ听)「けど!」

从#゚∀从「あの距離ならいけたはずだ! 足一本にビビってんじゃねーぞ!」

ノハ#゚听)「そうじゃねーよ!」

 確かに、ヒートがあの時ハインにも動揺せず、
アキレス腱を切られても動揺することなくツンを撃っていれば、
ツンは致命傷、もしくは逃げようの無い重傷を負っていた可能性は高い。

 勿論ツンもそれなりの回避行動は頭にあったのだが、
自らの作戦が成功した直後に、ヒートが動揺しなかった場合に対して、
冷静なまま対処出来ていたかは怪しい。

 現に、八割程度思い通りにいっていた先程の状況に対して、
ツンは未だ興奮しており、自分でもそのような回避行動はとれなかっただろうと思っていた。
しかし今は反省をしている場合ではないのだ。

ξ#゚听)ξ「ああああ!」

 怒号と共に、暗闇の中から二人目掛けて鉄筋が飛んでいく。
その数は十か二十か。
四方八方から迫る鉄筋は、いかに二人といえども、的が細長いため、
短時間で全てを跡形も無く消し去るのは難しいだろう。

40 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:45:09.07 ID:E+6HYbv80
ノハ;゚听)「ヤバ」

从#゚∀从「ヒート! 行け!」

 少なくともこれで動きを封じたハインは仕留めることが出来た。
ツンはそう確信した。

 そう、彼女はやはり興奮していたのだ。
これがもともと二対三の戦いであることすら忘れていたのだから。

『融けなさい』

 どこからか聞こえたその言葉に、
あろうことか全ての鉄筋が見えない高音の壁に触れたように、
常温のまま水銀のように融けてしまった。
びちゃびちゃと音を立てて滴る鉄筋の向こう、そこに彼女が居た。

('、`*川「ツン子ちゃん、上出来じゃない」

 その言葉の主はいつの間にか二人の直ぐ近くに立っていたのだ。
となれば先程の鉄筋はペニサスによって溶融されたに違いない。
ツンは舌打ちをし、背筋に寒気が走るのを感じた。
  _
(*゚∀゚)「おーっと危ない! こっちにも融け落ちそうなものが二つも!」

ξ#゚听)ξ「シャオラァ!」

 いつの間にか後ろから胸を捕らえんと、
手を伸ばしてきていたジョルジュの顔面を肘打ちし、ツンは寒気の原因を悟った。

41 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:47:06.34 ID:E+6HYbv80
  _
(; * )「いやあ、なんだろねこの味。口の中に融けた鉄が入ったかな……?」

ξ゚听)ξ「ホント最低だよね、アンタって。笑えない」

 これを切っ掛けに、場の空気が弛緩した。
しかし既に冗談では済まされない怪我をしている者が居るのだ。
ツンは場の空気に流されないよう、辺りの状況に気を配り続けた。

('、`*川「ハイン、大丈夫?」

从;-∀从「……ちょっと……痛いッス」

ノパ听)「とりあえずお前はもう下がってろよ。
     ペニサスさんが来てくれたんだから、大丈夫だって」
  _
( ゚∀゚)「いや、もうその必要は無いぞ」

 ジョルジュが唐突に三人の会話に割って入った。

ノパ听)「どういうことだよ。……全員片付けるってか」
  _
( ゚∀゚)「いや、戦う意味が無い」

ノパ听)
       「「え?」」
ξ゚听)ξ

 苦痛に声を出せなかったハインを除き、二人が同時に声を上げた。

42 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:50:16.42 ID:E+6HYbv80
('、`*川「私、モララーに付くの止めたから」

ノハ;゚听)「……え? え、えーと。えーと?」
  _
( ゚∀゚)「モララーの命令で戦う、なんてことは無くなったってことだ」

('、`*川「でも別にジョルジュの仲間になったわけじゃないから」
  _
( ゚∀゚)「それが残念なところだよなー」

ξ;゚听)ξ「ちょっと、どういうこと?」
  _
( ゚∀゚)「まあ説明する前にハインを病院に連れて行こうぜ」

ノハ;゚听)「ペニサスさん! 俺、俺どうしたらいいんですか!」

('、`*川「とりあえずハインを運びなさい」

ノハ;゚听)「はい!」

 青白い顔で呻くハインを背負い、
ヒートはペニサスに頭を下げるとそのまま外へと飛び出していった。
それを見送ると、ペニサスは未だ床に融けている鉄の表面に触れ、
人差し指と中指に絡め取ると、それを親指とで擦りながらツンを見て薄く笑った。

43 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:52:16.48 ID:E+6HYbv80
('、`*川「溶けた金属ってすごく神秘的だと思わない?」

ξ゚听)ξ「なによ、いきなり」

('、`*川「とても流動的で、とても排他的。私にだって気を許してくれない。
     そのくせ、見ればいつも私と目が合う。もちろん、他人にだってそう」

ξ゚听)ξ「なに、ポエマーに転職? キモ」

 ペニサスは鉄の絡みついたその指先を、地面に広がる鉄の溜まりに向けた。
するとまるでビデオの逆再生のように液状の鉄が指に吸い寄せられていく。

 ペニサスの力は金属を隷属させるものだった。
その種類も様々、明確な定義はどんな学問にも縛られるものではない。
彼女が本能的に金属だと感じた物を隷属させられるのだ。
すなわち、彼女が隷属させられる物質、それこそが彼女における金属の定義なのだ。

 そして隷属の定義に至っても明確ではない。
特殊な相変化や物質移動など、熱力学では説明の付かないことをいとも容易くやってしまう。
その金属のあまりの従順さゆえ、隷属という言い方をされている。

ξ゚听)ξ「モララーに付くのを止めたってどういうこと?」

('、`*川「どうって言われても」

 滑らかに、ペニサスの右手を覆い始める液状の鉄。
それは差し込む僅かな光を反射し、
ペニサスの手が芸術家の作ったオブジェのように見えてくる。

44 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:54:27.63 ID:E+6HYbv80
('、`*川「上司のパワハラに嫌気が差した、とか?」

ξ゚听)ξ「なんで私に聞くのよ。じゃあ、私もセクハラ酷いから止めようかしら」
  _
( ゚∀゚)「なんと! セクハラを受けてたとは。
     まあしかし内藤も男の子なんだ、大目に見てやろうぜ」

ξ゚听)ξ「お前マジありえねえ」

 ペニサスの手に上る鉄は尽き、それらは全て彼女の手の表面に収まった。
鉄は手の上で絶えず流動を続け、ペニサスはその様子をじっと眺めていた。

('、`*川「……結局、私の悪癖は死んでも治らなかったのよ」

 そして纏わり付いていた鉄は一つの球へと姿を変え、
ペニサスの手の上に浮かび、静止した。

('、`*川「だから私はもう誰の言葉も聞かない。ジョルジュ、あなたの言葉でも」
  _
( ゚∀゚)「マジで? 参ったなー」

('、`*川「……ジョルジュはこれからどうするつもりなの?」
  _
( ゚∀゚)「秘密」

('、`*川「何も考えて無いくせに」
  _
( ゚∀゚)「ん、そうだな」

ξ゚听)ξ「……」

46 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:57:37.60 ID:E+6HYbv80
 二人の間に流れる妙な空気に、
ツンは疎外感を覚えつつも警戒を解き始めていた。
二人はまるで恋人のようであり、家族のようでもあった。

('、`*川「私、しばらく姿消すからあの二人をうまく言いくるめてね」
  _
( ゚∀゚)「おい、無茶言うなって。
     それにお前が居なくなったら二人がどうなるか……」

('、`*川「どうなると思う?」
  _
( ゚∀゚)「どうもならねえな、きっと。アイツはそういうことしないだろうし」

('、`*川「そうね。ふふ、私もそう思う」

ξ゚听)ξ「えーとぉ? つまりもう戦わないってことでいいですかぁー?」

 妙な空気を我慢できずに、ツンが大きめの声を上げた。

('、`*川「なに? ツン子ちゃん妬いてるの?」

ξ;゚听)ξ「な! 冗談じゃない! こんな胸しか見ない男の何を!」
  _
( ゚∀゚)「顔も交互に見てます」

ξ゚听)ξ「ほら、聴いた? 百年の恋も冷めるわ。これ。
      お前私が若干引いていることに気付けよ?」

48 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 23:00:21.80 ID:E+6HYbv80
('、`*川「いいじゃない。陽気なジョルジュの方が楽しくて」

ξ゚听)ξ「……」

('、`*川「それじゃあ見つかる前に行くね」
  _
( ゚∀゚)「ああ、元気でな」

('、`*川「生きてたらまた」
  _
( ゚∀゚)「もう死んでら」

 ジョルジュの冗談にペニサスは薄く笑うと、
浮かべていた球を吸い込むようにして袖の中に仕舞い、
そのまま倉庫を後にした。

 ペニサスを見送るジョルジュの背中にツンは何かを尋ねようかとしたのだが、
その背中はツンの言葉を受け入れそうではなかった。





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