四話 −不安−
1 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:19:34.84 ID:E+6HYbv80
過去スレ
URL2 http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1282406582/
dat2  http://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/146260
URL1 http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1282323469/
dat1  http://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/146033

−前回のあらすじ−
     _
   ( ゚∀゚)x"⌒''ヽ、   
   (|     ...::   Y-.、
    |  イ、     ! :ヽ
    U U `ー=i;;::..   .:ト、
          ゝ;;::ヽ  :`i
            >゙::.   .,)
           /:::.  /;ノ
     ゞヽ、ゝヽ、_/::   /
     `ヾミ :: :.  ゙  _/
       `ー--‐''゙~

以上。

2 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:22:29.94 ID:E+6HYbv80
四話 −不安−


 内藤はその後、そのままジョルジュの家に来ていた。
モララーと出会った内藤を一人には出来ないと、ジョルジュが提案したためである。

 ツンは用事があるからと来ていなかったが、
ジョルジュは自分一人だけでも内藤は守れる、と自信満々だった。
それに対し内藤はいくらかの不安を抱いていたが、もちろん口にすることは無かった。

( ^ω^)「それにしても……」
  _
( ゚∀゚)「散らかってるだろ。まあ、適当によけて座ってくれ」

( ;^ω^)「……はぁ」

 床には雑誌が散らばり、
椅子には洗濯したのかしていないのか分からない服が乱雑にぶら下がっている。

 テレビの前はゲーム機のコードが絡まりあい、テーブルの上にはソフトが積みあがっていた。

( ^ω^)「ジョルジュさんゲームするんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「おう、するぜ。格ゲーとアクションな。
     あ、何飲む? 麦茶で良いか?」

( ^ω^)「お、麦茶好きですお」
  _
( ゚∀゚)「了解ー」

3 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:25:31.57 ID:E+6HYbv80
 そういえばいつの間にか家に上がりこんでしまっているけど、
少しくらいは警戒しなくていいのだろうか。
そんなことを考えながら内藤は部屋を見回した。

 壁には胸の大きなグラビアアイドルのポスターが貼られていたり、
壁掛けラックに溢れんばかりのCDが積まれていたり、
部屋自体は生活観溢れる部屋だった。
  _
( ゚∀゚)「その子可愛いだろ?」

(;^ω^)「お? あ、ええ」
  _
( ゚∀゚)「ほら、麦茶」

( ^ω^)「あ、ありがとうございますお」

 どうやら内藤がポスターの女に釘付けになっていると思ったらしい。
内藤は少しばかりそれを不満に思ったが、
取り立てて訂正することでもないと、忘れることにした。

 氷の浮いたグラスには確かに麦茶が注がれていた。
内藤はその安全性についても一考したが、もはやその行為に罪悪感を覚え始めていた。
既に内藤は彼に危険を感じることがないどころか、むしろ彼に親近感さえ覚えていた。

4 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:28:31.91 ID:E+6HYbv80
  _
( ゚∀゚)「ぷはー! うめー!」

( ^ω^)「うん、おいしいお」
  _
( ゚∀゚)「さて、勢いで家に連れてきちまったけど、どうする?」

( ^ω^)「……色々教えて欲しい事がたくさんあるお」
  _
( ゚∀゚)「あー。ま、そうだよな」

 ここに来るまでだけでもたくさんの事が内藤の身の回りで起こった。
喫茶店の襲撃に、モララーという男との出会い。
その全てが既に内藤とは無関係のものではないのだ。
  _
( ゚∀゚)「何から話すかなー。何から知りたい?」

( ^ω^)「とりあえず、僕にとって危険な人について教えて欲しいお」
  _
( ゚∀゚)「そりゃ大事だな。えーと……あ、その前によ」

( ^ω^)「?」
  _
( ゚∀゚)「敬語やめね?」

( ^ω^)「え、でもジョルジュさん僕より年上かと……」
  _
( ゚∀゚)「いや、俺もう死んでるし。年齢無し。0歳。バブー」

(;^ω^)「そんな無茶苦茶な」

6 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:31:45.02 ID:E+6HYbv80
  _
( ゚∀゚)「いいだろいいだろ! 仲良くしようぜ! 敬語だと距離が遠いんだよ!」

 そう言ってジョルジュは強引に内藤と肩を組んだ。
急に近づいたジョルジュに内藤は一瞬驚いたものの、不快だとは思わなかった。
  _
( ゚∀゚)「おー、ちけーちけー。俺たちこれで友達だな」

(;^ω^)「僕たち今日会ったばかりじゃ……」
  _
( ゚∀゚)「友達になるのに時間はいらねえ! 勢いだ!」

( ^ω^)「……はあ。それじゃあ敬語は止めるお」
  _
( ゚∀゚)「そう来なくちゃな!」

 彼が詐欺師だったとしたなら、僕はたった今から人生が狂っていくのだろう。
心がわずかに弾むのを感じながら内藤はそう思った。
  _
( ゚∀゚)「まず今分かってる人間関係をはっきりさせとこうか」

 ジョルジュはおもむろに近くにあった片面印刷のチラシを掴むと、
裏返して真ん中に線を引き、その両側に名前と思(おぼ)しきものを書き始めた。
  _
( ゚∀゚)「こっちが俺たち。害無し」

 ジョルジュが差した右方には名前が三つ。
『おれ』、『ツン』、『内とう』。
『内とう』とはどうやら内藤の事らしい。

7 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:35:47.02 ID:E+6HYbv80
( ^ω^)「じゃあ左側に居るのは……」
  _
( ゚∀゚)「害有り」

 左方に書かれていた名前は五つ。
『モララー』、『ギコ』、『ペニサス』、『ハイン』、『ヒート』。
それに加えてクエスチョンマークが二つ書かれていた。

( ^ω^)「多いお……」
  _
( ゚∀゚)「そうだな。
     一応ハテナマークは二つだけど、実際何人いるかわかんねえ」

( ^ω^)「十人とかも……」
  _
( ゚∀゚)「ありうる」

(;^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「まあ気持ちは分かるが、ここで絶望するな」

 ジョルジュは真ん中の区切り線の上に大きなV字を描いて、
第三の領域を作り出した。
そしてそこに一際大きなクエスチョンマークを書いた。

10 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:38:03.61 ID:E+6HYbv80
  _
( ゚∀゚)「敵でもない味方でもない奴。
     もしくは、まだ死人でもないかもしれない奴。
     そんな奴が居るんだ」

( ^ω^)「え、そうなのかお?」
  _
( ゚∀゚)「そうなのかおってお前そうだったじゃん」

( ^ω^)「あ」
  _
( ゚∀゚)「ここをいかに押さえるか。
     それがこれからの戦局を変えると俺は思っている。
     ちなみに、お前が初白星」

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「少なくとも二人はあっちに先手を打たれてる。
     しかも仲間になったっぽいんだよなー」

(;^ω^)「あー……それで」

 つまりモララー側には少なくとも七人居るということになる。
それに対してジョルジュ側は三人。しかも内一人は一般人同然だ。

( ^ω^)「えーと、全員殺意むき出し?」
  _
( ゚∀゚)「むき出しと言うか、躊躇い無く殺すって感じかな」

11 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:40:50.74 ID:E+6HYbv80
( ^ω^)「……そもそもどうしてそんなことに」
  _
( ゚∀゚)「それを話すと、まあ長くなるんだが……」

 と、急にジョルジュがポケットから携帯電話を取り出した。
どうやら着信が来たらしい。
  _
( ゚∀゚)「お電話ありがとうございます。長岡運送です」
  _
( ゚∀゚)「やべ、怒られちった。しかし電話なんて久しぶりだな。どした?」
  _
( ゚∀゚)「もしかしてそれ大事な話か? 二人きりの方が良いとか」
  _
( ゚∀゚)「そっか。いいぜ。じゃあ、あの場所で待ってるわ」

 終話するとジョルジュは内藤に向き合い両手を合わせ頭を下げた。
  _
( ゚∀゚)「わり、ちょっと出かけなきゃなんなくなった」

( ^ω^)「え? あ、わかったお。えーと……僕はどうしたら」
  _
( ゚∀゚)「だよなー。
     多分今日すぐに危険な目に遭うなんてことは無いと思うけど……
     一応これ持っとけ」

 そういってジョルジュが取り出したのは黒いボールペンだった。
それをしばらく眺めた後、内藤は首を捻りながらジョルジュの顔を見た。

12 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:42:49.70 ID:E+6HYbv80
  _
( ゚∀゚)「まあまあ」

 促されるままにボールぺンを受け取った内藤。
これで相手を刺せとでも言うのだろうかと考えながらキャップを開けると、
内藤は想像との食い違いに目を見開いた。
キャップの中から現れたのはペン先ではなく、スプレーノズルだったのだ。
  _
( ゚∀゚)「ピンときた?」

( ^ω^)「スプレー……?」
  _
( ゚∀゚)「催涙ガス」

 てっきりナイフだの警棒だのというグッズを渡されるものだと思っていた内藤は、
それがひどく頼りないものに見え、素直に喜べずに居た。
内藤の心中を察したのか、ジョルジュがそれに言葉を付け加える。
  _
( ゚∀゚)「別にナイフ渡してもいいんだけど、お前絶対に取られない自信あるか?」

( ^ω^)「……無いお」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、躊躇い無く相手を刺す自信は?」

( ^ω^)「……多分、無理だお」
  _
( ゚∀゚)「じゃあこれだな。吹っかけて全速力で逃げろ」

 確かに、戦う術を持たない内藤には逃げることが一番なのだが、
その事実に内藤は納得しきれずに居るのも事実だった。

13 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:46:03.43 ID:E+6HYbv80
 それは一人役に立てない無力さが生む惨めさか。
あるいは逃げると言う選択肢しかないことに男としてのプライドが刺激されたせいか。

 しかし自分の力の程を理解している内藤は、やはり口を噤んだままその感情を飲み込んだ。
  _
( ゚∀゚)「じゃあ俺はそのまま直であいつらと戦ってくるから、
     お前は俺が帰ってくるまで自分の身の安全の事だけ考えてろ」

(;^ω^)「そんな軽く言って……」
  _
( ゚∀゚)「大丈夫だって。それに俺負けたらお前守れねーからな」

( ^ω^)「そんなセリフ、男の僕に吐くとは思わなかったお」
  _
( ゚∀゚)「惚れたか」

( ^ω^)「正直惚れた」
  _
( ゚∀゚)「……だはは! 惚れたか。そうかそうか」

 予想していない返事だったのか、一瞬あっけに取られた様子だったものの、
その後ジョルジュは陽気に笑って部屋を後にした。
一方、気まぐれでとぼけた返事を返した内藤も、その後すぐに思い出し笑いをした。
そうすると何だか少し楽しくなり、内藤はジョルジュとの距離がグッと縮まったように感じた。

14 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:48:39.01 ID:E+6HYbv80





 一人取り残された内藤は結局、
陽が暮れるまで何をするでもなく、ただぼーっと今までの事を思い出していた。

 突然目まぐるしく変化し始めた周囲の状況に、内藤は不安もあったがどこか楽しくもあった。
非現実的な展開も、命を失ったという非現実的な状況では、
どこかゲームのような気軽さ、浮遊感のようなものがあった。

( ^ω^)「そういえば……僕はどうやってこれ以上死ぬのかお?」

 一般的な死とは違うこの状態。
戦い、殺されることがあったとしたら、やはりそこに待っている死は一般的な死なのだろうか。

( ^ω^)「……考え出したらお腹空いてきたお」

 哲学的なことを考えるのが苦手な内藤は、早々と思考を切り上げた。

( ^ω^)「何か食べ物は……って人の家あさるわけにも行かないお。
      ってジョルジュ無用心すぎるお。僕が泥棒だったらどうするんだお」

 独り言(ご)ちながら、
『そういえばツンは死人を探せるんだっけ』
と心の中の疑問に答えを出した。

15 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:51:20.66 ID:E+6HYbv80
( ^ω^)「しかし一度気にしたらどんどんお腹空いてきたお」

 仕方なく内藤はコンビニへ買い物に出ることにした。
ここへ連れてこられる途中に一軒あるのを見ていたのだ。

( ^ω^)「最近全然食べてなかったからなんかワクワクしてきたお」

 あれを食べようかこれを食べようかと妄想しながら、内藤はジョルジュの家を飛び出した。
と、内藤は一旦外に出たが、直ぐに引き返した。

( ^ω^)「鍵かけないと大変だお。家のどこかに鍵があればいいんだけど……」

 再び入りなおそうとドアノブを捻り、ドアを引く。

ガン!

(;^ω^)「あれ、鍵……あ、オートロック……あー……」

 鍵の心配は無くなったが、同時に内藤はもうこの家には入れなくなってしまった。

(;^ω^)「……どうしよ」

 いつ帰ってくるか分からないジョルジュを待って、
このドアの前に座っていなければならないのか。

( ^ω^)「ま、とりあえずコンビニ行くお」

 思考は空腹により中断され、内藤は暗くなり始めた道を歩き出した。
こんなにも空腹を感じたのは死んでから初めての事だった。
それに、いざとなれば自分の家に帰ればいいだけの事だった。

16 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:54:12.08 ID:E+6HYbv80
( ^ω^)「あえてアイスを最初に食べて……」

 そして思考に囚われていた内藤は、眼前に迫った人物に気付かなかった。
全く減速することなく衝突し、内藤の妄想の源である食べ物が宙を舞った。

(;^ω^)「痛っ!」

(  )「……」

 衝突したときの柔らかい感触に、内藤はすぐ人間と衝突したことを悟った。
しかし派手にリアクションを取った内藤に対して、その人物は尻餅をつきながらも無言だった。
もしかしたら大きな怪我をしたのかもしれない。

 既に沈んだ陽は人物を照らさず、
また黒のパーカーを着てフードまで被っているその人物の様子を窺うのは難しかった。

(;^ω^)「ご、ごめんなさい。大丈夫ですかお?」

 手を差し伸べた内藤であったが、やはりパーカーの人物は何も反応しない。
小柄で華奢な体つきは女の様でもあったが、骨格はどうやら男のそれだった。
カーキのカーゴパンツの裾から覗く足も、やはり細くとも男のようであった。

( ^ω^)「あの……もしもし? 大丈夫ですかお?」

 まるで死んだように動かないパーカー男。
手を突いて体を支えているから死んでいるわけは無いのだが、
どうにもここまで反応がないと、さすがに不気味だった。

18 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 21:57:35.76 ID:E+6HYbv80
(  )「……しかねえ」

( ^ω^)「はい?」

 フードの奥から低い声でそう一言。やはり男の声だった。

('A`)「殺されてたまるか……」

 男は急に立ち上がりポケットから黒い棒のような物を取り出した。
コンパスを開くように棒は二つに割れ、中から刃が顔を出した。
そして二つの棒はそのまま軸を中心に開き、
反対側で再び重なって柄となった。

 俗に言うバタフライナイフであるが、
男の開閉操作にもたつきがあり、どうも使い慣れていないようであった。

 男はバタフライナイフを握ったまま、
左手で外れていた白いイヤホンを両耳に付けなおした。
ナイフを持ちながらイヤホンをする男など話にも聞いたことは無いが、
ただならぬ状況であることは間違いなかった。

(;^ω^)「ちょっと待つお! なんでナイフなんか出してるんだお!」

('A`)「……」

 内藤の問いに答えることなく、男は足でリズムを取り始めた。
そして男は次第に頭でもリズムを取り始めると、あろうことか目を瞑った。
完全に音楽の世界に没頭し、ナイフを握っている手が不自然に見える。

21 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:02:06.20 ID:E+6HYbv80
('A`)「殺してやる……」

 男が顔を上げた刹那、姿が消失。
視覚がそれをエラーでないということを判断した瞬間、
ザッと靴底が細かい砂利を蹴る音が耳に届いた。

 瞬間的に爆発した恐怖に、内藤は身をよじった。
それと同時に頬を冷たい風が撫(な)ぜた。
頬を走る冷たい線はやがて熱を持ち、痛みを生む。
指先を当てると僅かに滲む赤。

(;^ω^)「う、うわ!」

('A`)「……」

 しかし男は気にする風も無く、リズムをとり続けている。

敵だ。
背中を寒気が走り、頭に血が上る。
内藤は咄嗟にポケットの催涙スプレーを探った。

 前から地面を蹴る音。

(;^ω^)「――!」

 顎を引き、背中を打ち付ける覚悟で後ろに倒れこんだ。
勢い良く地面に激突する背中。
痛みと共に数秒呼吸が浅くなったが、無視しそのまま横へ転がる。

22 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:04:51.66 ID:E+6HYbv80
 切られた感じは無い。
どうやら二撃目はかわしたようだった。
慌てて顔を上げ、姿を確認。
居ない。
飛び上がって後ろを振り向く。
居ない。

居ない。居ない。居ない! 居ない!

 恐怖が指数関数的に増加していく。
右か左か、後ろか前か。
意識を広範囲に広げる。

 ふいに訪れた金属音。
コンクリートに金属が落ちた音。
内藤は反射的にその方向を見る。
観察して初めて疑問が生まれる。
ナイフが落ちているのは、おかしい。

 ならば後ろか。
振り向こうとしたその途中、
足元で動く不審な影に、内藤は違和感だけでその場を飛び退いた。
次の瞬間、重々しい音が響き、鼻の先に細かい砂粒が当たった。
目の前には人の頭ほどの石を地面に叩き付ける男の姿があった。
砕けた石が、自分の頭と重なって見え、内藤はぞくりとした。

 どれもが奇跡的な回避だった。
内藤はそれをひしひしと感じ、
次はもう無いと冷や汗が出るのを抑えられなかった。

24 名前: ◆CftG3KV7X3mq :2010/08/22(日) 22:09:34.71 ID:E+6HYbv80
 決めるならこの瞬間。
内藤は既に遅いと知りながらも、
催涙スプレーを男に向かって噴出した。

 視認し、恐怖し、決意し、行動した。
無駄なプロセスに殺されるのは、やはり内藤だった。
スプレーはただ夜の空気に霧散し、
それと同時に内藤の希望も霧散した。

 死んだ。
心が諦めれば体は動かない。
もはや死の時まで架空の痛みを妄想するだけの人形。

 硬い物の砕ける音が、やけに遠くで聞こえた。
頭部に走る強烈な痛みと共に、内藤は意識を失った。





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