六話 “ライブしたら、客の数よりバンドメンバーの方が多かった”
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:07:29.79 ID:IjWkVmOt0
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六話 “ライブしたら、客の数よりバンドメンバーの方が多かった”
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:15:28.53 ID:IjWkVmOt0
- 从 ゚∀从『ピック一枚もらうぜ』
(´・ω・`)『買えよそれくらい……』
楽器屋“バーボンハウス”。
俺が適当なピックを物色していると、ショボンが唸った。
しょぼくれ顔が、さらに情けない色になる。
从 ゚∀从『こんなプラスチックの切れ端が100円っておかしいだろ』
(´・ω・`)『じゃあ自分で作ればいいじゃない』
从 ゚∀从『それはめんどくせーだろ』
(´・ω・`)『じゃあ100円払えよ』
从 ゚∀从『だから100円はおかしいだろ』
中学二年生になって、数か月。
今年の春から、よく来るようになった店だ。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:20:06.39 ID:IjWkVmOt0
- 店の奥がスタジオになっている、近隣のバンドマン御用達の楽器屋。
品揃えにはこだわりがあるし、普通なら追い出されるようなことをしても平気だから、けっこう気に入ってる。
店長はこのしょぼくれ顔。
若干イカれてるけど、害はない。
(´・ω・`)『なんでまた、ピックなんか欲しいんだい』
从 ゚∀从『こんど助っ人するバンドで使うんだよ』
(´・ω・`)『ふーん。ピック弾きはしないんだと思ってたよ』
从 ゚∀从『好きなベーシストに指弾きが多いだけだ。望んだ音が出るなら、どんな弾き方したって問題ないよ』
(´・ω・`)『何の曲で使うの?』
从 ゚∀从『なんだっけ……ボーカルの人がどうしてもやりたいっていう、メロコアの曲。その一曲だけ』
ここに入り浸るようになってから、やけにバンドに誘われることが多くなった。
ほとんどが仕事をしている大人か、大学に行ってる学生。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:28:19.76 ID:IjWkVmOt0
- ショボンにお願いして、二人でスタジオでセッションしてると、ドアの小窓からたくさんの顔が覗く。
最初は気味悪かったけど、最近はもう慣れてきた。
『いやー、超うめーよ。ホントに中学生?』
『女の子でこんなに弾ける人見たの初めてだよ』
『お願い! 私たちのバンドに入って!』
『ちょっとスラップのやり方教えてくんない?』
『ヘルプでいいんだよ。来月ライブあるんだけど、ベースできる奴いなくて』
『どんな音楽聴いてるの? これ聴けば上手くなるっていう曲ないかなあ」
『え? 違うよ、ヘルプってのはビートルズの曲のことじゃなくて』
いくつか試して、結局一番スタンダードな形のピックを選んだ。
念のため、同じものを10個ほど頂く。
(´・ω・`)『失意のまま晩年を迎えろ。悪魔め』
他に必要なものも無かったので、店のプライベートルームに押し入ってソファーに横になった。
从 ゚∀从『何か飲みもんくれよー』
(´・ω・`)『うん、ちょっと待っててね……青酸カリ……青酸カリ……どこに置いたかな』
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:31:52.39 ID:IjWkVmOt0
- 仰向けになって、手近にあった音楽誌を手に取った。
从 ゚∀从『……』
バンドマンたちの顔を映した写真を眺めていると、みんな同じ顔に見えてくる。
あれ、こいつさっきも見たな……あ、よく見ると違う。
似たような顔と服装しやがって。
从 ゚∀从『ねー、ショボン』
(´・ω・`)『アハァン?』
冷蔵庫の中を覗いているショボンに、声をかける。
从 ゚∀从『俺ってベース上手いのかなあ』
(´・ω・`)『なんだね急に』
从 ゚∀从『いいから答えろよハゲ』
(;´・ω・`)『ぐ………まあ、その歳にしては上手いと思うよ。いや、そこらの二十歳すぎのミュージシャンと比べても、断然君のほうが上だろうな』
从 ゚∀从『ジャック・ブルースと比べたら?』
(´・ω・`)『戦闘力たったの5。ゴミだ』
从 ゚∀从『……』
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:36:05.81 ID:IjWkVmOt0
- 分かっていたけど、はっきり言われるとやっぱり悔しい。
世界一上手くなりたいわけじゃない。だけど……
(´・ω・`)『まあそう沈むなよ。演奏ってのはニュアンスを出すためのものさ。
ただ正確でテクニカルな音を聞きたいだけなら、ぜんぶ機械で作っちまえばいいんだ。
パフォーマンスの一種だよ、バンドは』
(´・ω・`)『問題は』
白い液体の入ったコップを運びながら、ショボンは言う。
(´・ω・`)『どれだけ人の心を打つ音が出せるか。音に魂を込められるか』
从 ゚∀从『たましい』
(´・ω・`)『音の魂。略して“音魂”』
从 ゚∀从『音魂……なんだそれ、センスねーな』
(´・ω・`)『出会ってみれば分かる。君にはまだ早い』
从 ゚∀从『出会うって……目に見えんのかよ、音魂ってのは』
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:40:43.49 ID:IjWkVmOt0
- (´・ω・`)『どうだろうね。出会ってみてのお楽しみだ。はい、カルピスでいいだろ?
遠慮せずに飲めよ。僕のカルピスも入れといたから』
从 ゚∀从『僕のカルピス?』
(´・ω・`)『フヒヒ……一年ものさ』
从;゚∀从『うわっ、なんかくせえぞ! 何入れやがったこのウジ虫野郎!』
(´゚ω゚`)『オラァッ! 飲め、飲みやがれ! それとも下の口に直接ぶち込んでやろうかアァッ!!』
从;゚∀从『やめろショボンてめええええええッ!!』
(;・∀・)
(´゚ω゚`)
从;゚∀从
(;・∀・)『うっわ………』
(´゚ω゚`)
从 ゚∀从
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:45:56.21 ID:IjWkVmOt0
- そいつがモララーだった。
奴とのファースト・コンタクトは、考え得る限り最悪のものだった。
バイトの人がトイレに行っていたらしく、店内には誰もいなかった。
ドラムを試奏したかったのに、これでは許可がとれない。
だから、失礼と思いながらもプライベートルームのドアを開けた。
店員が一人ぐらいいるだろうと期待して。
(´・ω・`)『しかしそこには少女を襲う変態店長の姿が……そういうことかね?』
( ・∀・)『はい……』
(´゚ω゚`)『はい、じゃねーんだよ!! あんなガキの体にはミジンコ一匹分も興味ねーんだよボゲ!!』
( ・∀・)『いや……べつにいいんじゃないスか………』
( ・∀・)『なんつーかそういうの……人それぞれだし……』
(´゚ω゚`)『ブギャアアアアアア!!!』
( ・∀・)『で、試奏してもいいんスか?TAMAの三点セット』
(´゚ω゚`)『買うならなぁ……』
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:52:39.95 ID:IjWkVmOt0
- (=゚ω゚)ノ『どうしましたよぅ』
( ・∀・)『あ、サーセン。ドラムの試奏いいッスか』
(=゚ω゚)ノ『いいですよぅ。スティックはこれですよぅ。終わったら言ってくださいよぅ』
( ・∀・)『どうもー』
(´゚ω゚`)
怒りゲージが限界突破したショボンは、しばらくレジの前で放心状態だった。
客『あの、ちょっと退いてくれません? ピックが見れないんですけど』
(;´゚ω゚`)『あ……う………すいませ……』
(=゚ω゚)ノ『店長、マジで邪魔だからどっかいってくれよぅ』
(;´ ω `)『ごめ……』
从 ゚∀从『ベース借りるわ。アトリエZ、一回弾いてみたかったんだよなー』
(´ ω `)
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 21:57:12.83 ID:IjWkVmOt0
- レジのカウンターに突っ伏すショボン。
肩が震えているのは、泣いているからだろうか。
从 ゚∀从「よいしょ」
踏み台を使って、勝手に売り物のベースをおろす。
スツールに座ってチューニングをしていると、ドラムを叩く音が聞こえてきた。
振り返ってみれば、プライベートルームを覗いていた奴が、すぐそばのドラムセットに腰を下ろしてプレイしていた。
( ・∀・)
从 ゚∀从『ふうん……』
リズムは悪くない。
ゆったりとしているが、力強く、音の粒も揃っている。
何歳だろう?
俺よりは年上だろうな。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:00:56.99 ID:IjWkVmOt0
- 从 ゚∀从(おっ)
転調。
小気味いいスネアの連打から、頭のキックを抜いたワンドロップ。
流れる4ビート。単体で叫ぶシンバル。
レジに沈んでいたショボンの頭が、ピクリと動いた気がした。
从 ゚∀从(これは………)
――――レゲエだ。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:05:50.55 ID:IjWkVmOt0
- 今でこそ『レゲエ要素を取り入れた』という決まり文句が日本音楽界には溢れているが―――――
本場のジャマイカン・レゲエは、現代日本人には少し聴きづらいものがある。
ドラムの音を注意して聴いてみると、三拍目にアクセントが置かれているのがわかる。
それ以外はとても弱い。そして甲高いスネア。ハイハットは基本的に平坦を保っている。
そこに2ビートのギターが重なった時、その音楽の独自性は一気に高まる。
ボブ・マーリーをコピーしようとして四苦八苦した人は、多いのではないだろうか。
少し気を緩めると、いつの間にか8ビートや16ビートで弾いていたりする。
そしてレゲエの中で一番自由に動けるのは、案外ベースだったりするのだ。
从 ゚∀从(こんなの隣でやられたら、ノるしかねえだろーが)
蛇のようなうねりを加えたベースラインを、ドラムの隙間に潜らせる。
アクセントの位置にさえ気をつければ、どれだけ曲がりくねっても気にすることはない。
ましてやギターがいないのだ。
フリーダムすぎる。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:10:09.70 ID:IjWkVmOt0
-
( *・∀・)
奴は一度だけこっちを見て、すぐに顔を戻した。
怪訝そうな表情だったが、その中に喜びの色があった。
楽しんでる。
しかし腹立つ顔だな。
( *・∀・)『……』
从 ゚∀从(何かやりたそうだな……)
二拍目、四拍目に響き始める、ハイハットのオープンショット。
フライング・シンバルだ。
从 ゚∀从(ギター代わりってか?それなら……)
奏法をスラップに切り替え、ベースの動きを控えめに。
そしてハジく二本の高音弦。
ソロでしか使う機会が滅多にない、複弦プリング。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:14:14.74 ID:IjWkVmOt0
- 从 ゚∀从(オフ・ビートでしかハジけないって縛りが厄介だな)
それにベースで高低音を同時進行というのは面倒な作業だ。
ましてや俺の手のサイズには限界がある。
从;゚∀从(手が疲れてきた……)
俺はその時辛そうな顔をしていたのか。
セッションの高揚感でニヤけていたのだろうか。
たぶん両方だろう。
奴が再びこっちを振り向く。
目と目で合図する。
音で示し合わせる。
リズムが伸びる。
トニックが近づく。
サブドミナントを通って解決。
余韻を残し、小さなジャム・セッションが幕を閉じる。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:16:43.36 ID:IjWkVmOt0
- あれ?
( *・∀・)
从;゚∀从
こいつは一体誰?
( *・∀・)『あ』
从;゚∀从『な、なんだよ』
( *・∀・)『ありがとう、楽しかったよ』
从;゚∀从『え? あ、いや……べつに』
急に言いようのない羞恥心に駆られて、立ち上がる。
いつの間にか出来ていたギャラリーから拍手が起きるが、気にする余裕もなかった。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:19:33.76 ID:IjWkVmOt0
- 从;゚∀从『ベース、ありがと。ここに置いとくから戻しといて』
(´・ω・`)『帰るのかい』
从;゚∀从『帰るよ。この店くせえし』
(´・ω・`)『二度とくるな』
从 ゚∀从『それは無理』
店を出る際、チラリと店内を見る。
ドラムを叩いていた奴が、バンドマンたちに囲まれていた。
勧誘を受けているんだろうな。
ドラマーは絶対数が少ないから、なおさらだ。
それに、まあまあ上手かったし……
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:22:18.88 ID:IjWkVmOt0
-
( *・∀・)ノ
从 ゚∀从(うぜえ)
次の日、“バーボンハウス”にて。
俺はようやく、そいつの名前を知った。
美府高校、一年生。
摸羅モララー。
ふざけた名前。
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 22:27:15.75 ID:IjWkVmOt0
- 六話おしまい
一年ぶりの投下、すげー緊張した……
読んでくれた人ありがとう