五話 “ギターやってるとベース弾きたくなる、ベースやってるとドラム叩きたくなる、ドラムやってるとギター叩き壊したくなる”
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:36:56.68 ID:IjWkVmOt0

☆一話から読むの面倒臭いって人のためのあらすじ☆

美府高校に入学した鬱田毒男。趣味はギターと映画鑑賞。
彼にはここで軽音楽部に入り、バンドを組んで楽しい学校生活を過ごすという夢があった!
しかし軽音楽部は荒れ放題、不良の巣窟と化していたのだった……
不良グループに目を付けられてしまった毒男だが、技巧派ベーシスト・ハインリッヒ高岡と出合い、志を同じくすることとなる!
初めての仲間、初めてのバンドメンバー……運命の歯車はゆっくりと回りだす…
果たして毒男は、軽音楽部を奪回することが出来るのか!?



 
 世の中には・・・・本人たちがどう思ってるか知らないけど・・・・・・

 奇跡としかいいようのない出会いによってできてるバンドがある  

 誰でもいいんじゃない

 そいつらしかいないんだ


                ――――漫画『BECK』より抜粋

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:41:17.31 ID:IjWkVmOt0


五話 “ギターやってるとベース弾きたくなる、ベースやってるとドラム叩きたくなる、ドラムやってるとギター叩き壊したくなる”


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:43:13.01 ID:IjWkVmOt0
ショボンさんの店でセッションをした次の日。
遅刻ギリギリの時間に登校した俺は、忍び足で廊下を進み、恐る恐る教室のドアを開けた。

同級生たちはくだけた格好で席につき、朝も早くから雑談に興じていた。
教室内のどこにも、担任・盛岡の姿はない。

(;'A`)「ふぅ……」

思わずため息が漏れる。

(´・_ゝ・`)「どうしたぁー、鬱田くん」

(゚A゚) ヒギィ!

背後からの刺客に、思わず声を上げた。

(´・_ゝ・`)「なんだその声はぁー」

('∀`) フヒッ

(´・_ゝ・`)「まるでぇー」

(´・_ゝ・`)「化け物にでも出会ったかのようなぁー」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:46:42.62 ID:IjWkVmOt0
粘っこい声で俺を見下ろす盛岡。
俺は冷や汗を流しながら言葉を探した。

(;'∀`)「あ、あの」

(´・_ゝ・`)「ホームルーム始めるからぁー、さっさと席につきなさい」

('A`)「……え?」


昨日あれだけの騒ぎがあったというのに、盛岡の反応は至極淡白なものだった。
流血沙汰の理由も話さず、勢いで窓から逃亡した俺に、何の罵声も浴びせないとはどういうことか。

('A`)「……?」

釈然としないまま、それでも少し胸を撫で下ろして、自分の机に向かう。
昨日は荷物も持たずに学校から逃げ出したので、当然教科書の類は机の中に収まったままだ。
机の横に掛けてあった学校指定の鞄も、ちゃんとあった。

('A`)「……」

先輩の体内から漏れ出た血液も、綺麗に拭き取られている。
歯の欠片が落ちていないか周囲を見回したが、そんなものがあるはずもなく。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:50:37.86 ID:IjWkVmOt0
担任の粘り気のある声が教室に響いた。


(´・_ゝ・`)「えー……仮入部の期間は今週まででぇーす」

(´・_ゝ・`)「金曜日までに正式な入部届を私に提出してくださぁーい」


皺くちゃになった書類だらけの机の中に手を突っ込む。
いくつかのプリントを苦労して引きずり出し、机の上に置いた。
隣の席の真面目そうな女子生徒が、それを見て眉をしかめたが、気にしない。

('A`)「あったあった」

入部届。
なんとも面倒臭い代物だ。
しかしこれがなくては何も始まらない。

(´・_ゝ・`)「期限を過ぎた提出物はぁー、私は一切受け取りませんのでぇー」

(´・_ゝ・`)「皆さん覚えておいてくださぁーい。分かりましたかぁー。私は言いましたからねぇー……」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:53:09.71 ID:IjWkVmOt0
昼休み。
第一の関門(盛岡の説教)をクリアした俺は、第二の遊撃隊(軽音楽部の先輩方)との交戦を避けるため、
チャイムが鳴ると同時に弁当を持って教室を出た。

向かう先はすぐ隣の教室。
1年C組だ。


(;'A`)「す……すみませーん……」

違うクラスの教室というものは、どうしてこうも異質に感じるのだろう。
ランチタイムで賑わう教室内を覗き見ながら、俺はカエルが潰れたような声を出した。

('A`)「あの……だれか」

ξ゚听)ξ「ん?」

('A`)「あの」

ξ゚听)ξ「誰よあんた」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:56:51.24 ID:IjWkVmOt0
('A`)「B組の鬱田っていうんだけど」

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

('A`)「高岡、いる?」

ξ゚听)ξ「高岡?ハインのこと?」

('A`)「そう、それ」

ξ゚听)ξ「屋上だと思うわ」

('A`)「屋上?立ち入り禁止だろ?」

屋上への入り口は鎖が張られ、厳重に封鎖されていたはずだ。
何度も屋上に行って確かめたのだから間違いない。
ぼっちの俺にとってはつらい事実だった。

ξ゚听)ξ「この間、ペンチ持ってきて鎖を切断してたわ」

('A`)(バカだ)

ξ゚听)ξ「自己紹介で特技はピッキングだって言ってたし」

('A`)(救いようがねえバカだ)

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 17:58:25.13 ID:IjWkVmOt0
('A`)「……ありがとう、屋上に行ってみるよ」

ξ゚听)ξ「どういたしまして」

ちょっと怖いけど、案外親切な人だ。

ξ゚听)ξ「あんたハインの友達?」

('A`)「た、たぶん……」

ξ゚听)ξ「ふーん」

( ^ω^)「ツーンちゃーんwwwwww一緒にランチしようぜwwwwwwww」

ξ#゚听)ξ「うるっさいわね!今取り込み中よ!」

( ^ω^)「すまんこすまんこwwwwwwwSU-PUSSYwwwwww」

ξ#゚听)ξ「URUSEEEEEEEEEEE!!!」

( ^ω^)「チェケラッチョイwwwwwwwwブヒヒヒヒィwwwwwwww」

ξ#゚听)ξ「死ねオラアアアアアアアアア!!!!」

( ゚ω゚)「ヒャアアアアアアアアアイwwwwwww」

('A`)(なんかキメてるなコイツら)

この学校にはキチガイしかいないのだろうか。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:02:07.63 ID:IjWkVmOt0
風のない、暖かい日。
頭上に昇った太陽がアスファルトの地面を照らし、春独特の心地よい空気を作りだしている。
街中に咲いた希少な花たちの香りが、この学校の頂上にまで届いてきているような気がした。

('A`)「本当に開いてる…」

錆ついたドアノブを開けて屋上に出る。
フェンスはなかった。立ち入り禁止のはずだから、必要ないのだろう。

('A`)「おい、そこのバカ」

ペントハウスのカベに背中をもたれて座っているハイン。
お嬢様座りでサンドイッチを頬張っている。

从 ゚∀从「ん?」

お嬢様座り?

从;゚∀从「うわっ」

慌てて脚を崩し、胡坐をかくハイン。

('A`)「うわ……」

なんか嫌なものを見ちまった。
人を食い殺したサメが、お上品に口元をナプキンで拭っているところを目撃したような……

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:03:01.57 ID:IjWkVmOt0
从;゚∀从「なんだよ」

('A`)「いや……」

ハインと少し距離を置いて、地面に腰を下ろす。
のそのそと弁当の包みを開けていると、ハインが言った。

从 ゚∀从「何しにきた?」

('A`)「飯を食いに」

从 ゚∀从「便所で食えよ」

('A`)「そういうのホントやめて」

起こり得る最悪の未来を思い浮かべて、背筋が震えた。
まだだ。まだその時ではない。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:06:04.70 ID:IjWkVmOt0
一つ身震いをして、話を変えた。

('A`)「どうする?」

从 ゚〜从 モグモグ

('A`)「軽音楽部」

从 ゚〜从 モグモグ

('A`)「部室を取り戻すって言ってただろ」

从 ゚〜从 モグ…

('A`)「なにか策があるのかよ」


从 ゚ー从 ゴックン

从 ゚∀从「うるせえなぁ」

从 ゚∀从「策くらい考えてある。お前は何も心配しなくていい」

('A`)「どうするんだ」

从 ゚∀从「全員潰す」

こいつ最高にバカ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:24:38.76 ID:IjWkVmOt0
('A`)「そんなことしたら、来年どころか即刻廃部だ。もっと穏便な方法を考えよう」

从 ゚∀从「ふん、夜道を襲えば、俺たちが殺ったとはバレないさ」

自信満々の笑みだ。
目には狂気の色が浮かんでいる。

('A`)「俺『たち』っていうな……俺はやらない」

从 ゚∀从「日をずらして1人ずつ狩っていくんだ。一度に全員消すと不審に思われるから」

从 ゚∀从「スタンガンと目だし帽なら、俺が持ってるから安心しろ」

从 ゚∀从「お前は見張りをやってくれ。実行するのは俺。仕事が終わったら別々の道から速やかに撤退」

从 ゚∀从「不良共を狩り尽くし」

从 ゚∀从「俺たちが軽音楽部の主になる。もちろん新しい部長は俺でいいよな?」

('A`)】「あ、もしもし……はい、あの、通り魔を目撃したので……はい、場所は美府高校の……」

从 ゚∀从「やめろwwww」

('A`)「冗談だバーカ」


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:28:36.60 ID:IjWkVmOt0
弁当を食い終わってだらだらと喋っていたら、昼休み終了の鐘が鳴った。
結局、部室奪回のための良案は浮かばなかった。

教室へ向かいながら、ハインが言う。

从 ゚∀从「なあ毒男」

('A`)「なんだ」

从 ゚∀从「昨日のことだけどな」

(;'A`)「うっ……」

从 ゚∀从「モララーは、俺が何とかする。心配すんな」

(;'A`)「やっぱり知ってるんじゃねーか……あいつのこと」

二人で肩を並べて歩くと、俺の方が頭一個分高い。
ハインのつむじがチラリと見え、「やっぱりコイツは女なのか」とか思ってしまう。

すれ違う生徒たちの疑惑の視線が少し肌に痛いが、もう慣れた。

リンチ少年と流血少女。
確かに嫌な二人組だ。

从 ゚∀从「じゃあまた、放課後な」

('A`)、「お、おう」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:30:40.42 ID:IjWkVmOt0
何かが動き始めた気がした。
入学して一ヵ月足らず。
期待していたような状況とは違うが、なんとか良い方向へ向かっている。と思う。という気がする。

友達(俺がそう思っているだけかもしれないけど)ができたし、バンドの希望も見えてきた。

だけど、まだまだ問題は山積みだ。
まずは部室奪回。全てはそれからだ。


(´・ω・`)「毒男くん。キミ、いつから弾いてる?」

学校が終わってすぐに向かった楽器屋、“バーボンハウス”に併設されたスタジオ。
なぜ楽器屋にそんな名前を付けたのかは分からない。
店長のセンスの問題だから、仕方がないのだけれど。

(´・ω・`)「けっこう長いよね?」

('A`)「うーん……6、7年くらいかな」

(´・ω・`)「独学で?」

('A`)「教則本で練習したり、親父に教えてもらったり」

('A`)「好きな曲はとりあえずコピーしろって」

(´・ω・`)「なるほどね」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:32:55.60 ID:IjWkVmOt0
ショボンさんが無料で貸し与えてくれている音楽練習室に、音が舞う。

TAMAのドラムセットとローランドジャズコーラスのギターアンプ、ハートキー350ワットのベースアンプが設置されたスタジオだ。
ショボン店長は仕事もせずにスタジオに居座り、ドラムのチューニングをしている。

ハインはジャズベースを肩にかけて、アンプのセッティング。
イコライザーを入念に調節している。

(´・ω・`)「どうりで基礎がしっかりしていると思ったよ」

('A`)「はぁ、基礎は何よりも大切だって、親父が」

(´・ω・`)「そうだね。いくら早弾きやタッピングが出来ても、リズムが狂っていたりノイズが酷かったら、上手いとは言えない。
      タッチも洗練されている。クリーントーンであれだけのニュアンスを出せる高校生はなかなかいないよ」

('A`)「あ、ありがとうございます」

こんなにストレートに褒められたのは初めてだ。
それに、ピッキング時のピックの角度にまでこだわって練習してきた俺にとって、
ショボンさんの言葉は何よりも嬉しいものだった。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:36:29.76 ID:IjWkVmOt0
从 ゚∀从「まだまだ下手糞だ、毒男は」

スツールに腰掛けて指のストレッチをするハイン。
こいつにはデリカシーというものがない。

(´・ω・`)「どうかな、毒男くんのリズムはそこらのドラマーよりも正確だよ。さすがはハインちゃんが認めた子だ」

从 ゚∀从「買いかぶりすぎ」

(´・ω・`)「それは君だろう」

从 ゚∀从「あ?」

ハインの睨みをするりとかわし、店長はストロークを始めた。
ゆったりとした、ジャズィなタップ。
昨日とはまるで違った表情だ。

从 ゚∀从「けっ」

しかめっ面のまま、ハインも動き出した。
コシのある短音を、注意深くドラムスの合間に置く。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:38:31.32 ID:IjWkVmOt0
時に立ち止まり、時に滑りだす。
暗いが、憂いてはいない。

真夜中の路地裏に佇む、一本の街灯。
煉瓦造りの建物に挟まれた道を、目的もなく彷徨う。

そんな光景。


('A`)(今日はもう少し前に出てもいいよな)


路地裏を彷徨う人はどこに行きつくのか。
その行方を想像しながら、俺も音を紡ぎ出した。


嵐の前の静けさ。
この日を形容する言葉として、最も適切なものだろう。

都合のいいことばかりが起こるはずもない。
そんなこと、分かり切っていたのに。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:42:51.64 ID:IjWkVmOt0


( ^Д^)「よぉードックン」

翌日の朝、俺を待っていてくれたのは、実にありがたくない先輩諸君の挨拶だった。
なんとご丁寧に俺の靴入れの前までお越し下さっている。

( ^Д^)「昨日は遊んであげられなくてごめんなー。ちょっと俺、病院行ってさー」

さして広くない生徒玄関の一角に群れる先輩たちを、登校してきた他の生徒たちは恐々と避けて、校内に消えていく。
誰一人として、絡まれている俺を助けようとはしない。
当然だ。逆の立場なら俺だってそうする。

('A`)「すいません、予鈴前に教室行かないと」

遅刻になる、と言おうとしたところで胸ぐらをつかまれ、背後の靴箱に背中を叩きつけられた。
通学カバンが地面に落ち、近くにいた女子生徒が小さな悲鳴を上げる。
顔の真ん中にガーゼを張り付けた先輩は、歯の抜けた口を開いて俺に言った。

( ^Д^)「どーでもいーんだよー、てめーの都合なんてよぉー」

口の臭さに辟易としながら、俺は先輩の腕を掴んだ。
本気でやれば逃げられるかもしれないが、これがまた次の日も続くのかと思うとうんざりだ。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:47:52.94 ID:IjWkVmOt0
ミ,,゚Д゚彡「まあまあ、ドックン。こいつ一回キレると止めらんねーからさ」

(’e’)「ここは大人しくついてこいって」

ひとまず彼らの言う通りにしたほうが無難だろうか。
だが、俺が音楽をやりたがっていることはすでに知られている。
下手をすると指を折られかねない。
それだけは何としても避けなければならなかった。


从 ゚∀从「どこに行くって?」


まるで奇跡だった。
なんというタイミングだろう。

从 ゚∀从「部室に行くんだったら、俺も連れていってくれよ」

すでに人気のなくなった玄関の入り口に、腕を組んだハインが立っていた。
目を半開きにして、口元を邪悪な笑みで歪めている。

彼女の肩の通学カバンからぶら下がっている、ゴールデン・エッグスのキャラクターのストラップが、場違いに揺れた。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:51:28.63 ID:IjWkVmOt0
(;^Д^)「てめ……!」

ミセ;゚ー゚)リ「なんでコイツがいんのよ!」

ミ,,゚Д゚彡「し、しらねーよ……!」

浮足立つ先輩方。
そりゃあそうだ。
つい先日、仲間の歯を叩き折った女なのだから。

从 ゚∀从「とりあえず部室行こうぜ。ここは人目につき過ぎる」

お前が言うセリフじゃねーだろ。

从 ゚∀从「早く来いよ」

内履きを履き、ハインは勝手に廊下を進み始めた。
俺は勇ましくも先輩の手を払いのけ、彼女の後に続いた。

('∀`) ヘヘ・・・

自分がコバンザメになったかのような気持ちがして、少し情けなかった。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 18:57:10.75 ID:IjWkVmOt0
从 ゚∀从「さて、先輩方」

二度目の来訪。
授業のサボり部屋兼喫煙所である軽音楽部、部室。

朝礼の鐘はすでに鳴り、俺の教室では担任の盛岡が出席を取り終わった頃だろうか。
俺の席に誰も座っていないのを見て、盛岡が不機嫌そうに鼻を鳴らす光景が目に浮かぶ。

从 ゚∀从「もう言っちゃうけどな」

ハインは青ざめる先輩たちを目の前に、腰に手を当てて言い放った。

从 ゚∀从「俺たち、軽音楽部に入りたいんだ」

(;^Д^)「んだとぉ……」

从 ゚∀从「そして俺は部長になりたい。なりたいっていうか、なるっていうか、もうこれ決定事項っていうか」

ミ,,゚Д゚彡「い…いつまでも調子のってんじゃあねーぞぉ」

ミセ;゚ー゚)リ「そ、そーよ……モラくんが許すわけないじゃない」

从 ゚∀从「モラくん?ああ、あの腐れチンポの擬人化野郎のことか」

(#^Д^)「てめっ、モララーを馬鹿にすんじゃねーよ!!」

ミセ#゚ー゚)リ「モラくんにかかればアンタなんか2秒でコンビーフなんだから!!」

从 ゚∀从「オーケーじゃあそのチンポここに連れてこい。まとめて屠殺してやるよチンカス共」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:02:17.37 ID:IjWkVmOt0
なんという暴君。
あれだけ策を話し合ったというのに、あの時間は無駄だったというのか?
ていうか高校一年生女子がチンポチンポ言い過ぎだ。

('∀`)「お、俺たち、べつに争いたいわけじゃないんです。ね? 平和的解決に至るにはまず話し合って」

(#^Д^)「てめーはだあってろゴラアアアアアアッ!!!」

从#゚∀从「んだとオラアアアアアアアッ!!!」

(;^Д^)「鼻はもうやめろやアアアアアアアアッ!!!」

(#゚A゚)「うるせーカス共がアアアアアアアアッッ!!!!」






( ・∀・)「………朝からはしゃいでんじゃあねーよ……」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:08:18.35 ID:IjWkVmOt0
>>46
笑っちゃうからやめて

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:11:13.36 ID:IjWkVmOt0
いつの間にか開いていた部室のドア。
そこに立っているのは紛れもない、あの日俺の理想をぶち壊してくれた男だった。

眠たげな目を擦りながら、ゆっくりと部室に入ってくる諸悪の根源。
ついに現れた、ラスボス。

(;^Д^)「モララー!いいところに来たぜ!」

ミ,,゚Д゚彡「この一年坊主、マジありえねーんだよぉ!」


ミ,,゚Д゚彡「ヤキ入れようぜ!二度と逆らえねーようn」


途中で途切れた先輩の声。

なぜ?

('A`)「え……」

答えは俺の視線の先にあった。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:14:33.93 ID:IjWkVmOt0
ミ,,;Д;彡「おぇ゛……モララー……」

ミ,,;Д;彡「なん…で……」

モララーの拳が、名も知らぬ先輩の腹に埋まっていた。
彼は体を折り曲げ、絞り出すような呼吸音を繰り返している。

部室は一気に静まり返った。
響くのは、涙を浮かべて倒れ込んでいる先輩のうめき声。

モララーの感情のない声が響いた。

( ・∀・)「なんでだ?」

( ・∀・)「なんでこの女がここにいる?」

(;^Д^)「え……そ……それは……」

( ・∀・)「お前らが連れてきたのか?」

(;^Д^)「ち、違う……こいつが勝手に……」

( ・∀・)「死ね」

言葉と同時に、腕に下げていた通学鞄を振った。
風を切る音。ガツッという接触音。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:17:05.43 ID:IjWkVmOt0
ハインにやられた鼻の傷の上に、鞄の角がめり込む。

(; Д )「ギィアッ……アアアアアッ」


( ・∀・)「お前も」

ミセ;゚ー゚)リ「ヒッ」

( ・∀・)「なんで入れた? 部室に近付く奴は教師だろうと総理大臣だろうと」


言いながら、壁際に立てかけられていた金属バットを手に取る。

ちょと待て、あのバット、すでにヘコんでるじゃないか。

ずいぶん大きな野球ボールを打ったんだな。
そう、ちょうど人の頭くらいの大きさのボール……

ヘコんだ部分についている黒ずんだシミは、絵の具か何かだよな?

( ・∀・)「……追い払えって言ったよな? 言ったよ俺は」

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:24:34.14 ID:IjWkVmOt0
モララーが鉄の殺意を引きずりながら、不良仲間の女子に歩み寄る。

ミセ*;ー;)リ「やめっ……ごめんなさ………」

逃げようとする女子生徒の、後頭部の髪を鷲掴みにする。
恐怖で彼女の瞳孔が開いていく様子が、はっきりと見えた。

( ・∀・)「謝ってどうする? 謝ったら既成事実が消えるのか? この……」


おいおい、まさか、嘘だろ? さすがにそれは――――――




从 ゚∀从「はしゃいでんのは誰だよ」

テニスラケットのように振りかぶられた金属バットを、ハインが握りしめていた。
掴んだ手にギリギリと力を込めながら、言った。

从 ゚∀从「悲鳴しか聴けねえのか?この軽音楽部は」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:29:55.72 ID:IjWkVmOt0
(#・∀・)「……高岡」

(#・∀・)「ここでなにやってる」

从 ゚∀从「軽音楽部を乗っ取りにきた」

(#・∀・)「消えろ。殺すぞ」

从 ゚∀从「右腕」


(  ∀ )

ハインの短い言葉で、モララーの顔色が変わる。
女子生徒の髪を掴んでいた手を放し、アッパーを放つ。

从 ゚∀从「おっと」

狙われたハインは体を傾けて、スレスレでかわす。
間髪入れずにバットをもぎ取り、部室の隅に投げ飛ばした。

(  ∀ )「殺す」

从 ゚∀从「もう痛まないのか?何針縫ったんだっけ?後遺症は?」

(  ∀ )「しゃべるな」


从 ゚∀从「……まだ引きずってるのか?」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:32:54.63 ID:IjWkVmOt0
しばし沈黙。
もしも精神エネルギーというものが存在するのなら、俺はモララーが放つ殺意の波動で即死していただろう。

('A`)(なんだよこの展開……)

この二人が、過去に何かあったことは間違いない。
しかもかなり物騒な類の過去。
手を出しただけで怪我をしそうなほどだ。

从 ゚∀从「……毒男、帰ろう」

('A`)「んあ?」

だから、拍子抜けするほどにあっさりと引き下がったハインに、思わず気の抜けた返事を返してしまった。

从 ゚∀从「出直すんだよ。一限終わっちまう」

(;'A`)「出直すって………」

(;'A`)「ま、まあいいけどさ」

部室を出かけたところで、モララーの声が投げかけられた。

(  ∀ )「高岡」

从 ゚∀从「なに」

(  ∀ )「次はマジで殺す」

从 ゚∀从「……あっそ」

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:38:56.06 ID:IjWkVmOt0


昼休み、屋上。
隣にはハイン。
弁当を貪る俺。

从 ゚∀从「…」

('A`)「…」

気まずい空気。
なんでだ?
コイツと一緒に気まずい空気を吸って何の得がある?

('A`)「話せよ」

从 ゚∀从「は?」

('A`)「モララーと何があったのか話せって」

从 ゚∀从「やだ」

久しぶりにムカつく態度だ。
張り倒してやりたいが、その前にカウンターのジャブでノックアウトされるだろう。

そもそも、俺は女子を殴るなんてことはできない。
モララーとは違う。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:44:34.10 ID:IjWkVmOt0
('A`)「やだ?なんで?」

从 ゚∀从「おまえ関係ないじゃん」

('A`)「うっぜー……なんなんだよその言い方……ほんとムカつくよお前」

从 ゚∀从「モララーのことは俺がどうにかする。虚弱は引っ込んでろ」

从 ゚∀从「おまえは黙ってギター弾いてりゃあいいんだよ」

('A`)「……」

弁当箱を閉まって、立ちあがる。
最後に悪態をついてやろうとしたら、予想以上に声が震えていた。

('A`)「わかった……もういいよ、お前に期待した俺がアホだった」

('A`)「やっぱりイカれてるよお前。結局おれはギターを弾く機械だったんだな」

从 ゚∀从「……なに言ってんだ?」

('A`)「俺は何も知る必要はないんだろ?ただ楽器鳴らしてりゃあいいんだよな」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:49:12.21 ID:IjWkVmOt0
('A`)「お前が欲しかったのはある程度の技術のあるプレイヤーで、俺じゃなくてもよかったんだ。
    たまたまそこに俺がいただけで、ポール・ギルバートの両腕を持った金魚でもよかったんだ」

从 ゚∀从「おい、どこいくんだよ」

('A`)「友達じゃないもんな、俺たち。友達だったら話してくれてるよ。どんな事情があっても」

从;゚∀从「ま……待てよ、毒男」

(#'A`)「待たねえよ、クソ女」


ペントハウスのドアを、思いっきり閉める。
金属音が爆ぜ、切断された鎖が耳障りな音を立てて跳ねた。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 19:55:50.10 ID:IjWkVmOt0
前触れもなく、突然怒りが爆発する時ってあるよな。

つい数秒前まで上機嫌で話していたのに、相手の何気ない一言や行動が心に深々と突き刺さって、
耐えられない憎悪が次々と湧き出てくる。

そういう時は物や人間に当たって、ストレスを発散させるんだ。

大きな音を立てたり、物を壊したり、叫んだり、汚い言葉を吐いたり、人を傷つけたり。

誰だって経験があるはずだろう。

そしてそのあとに、激しく後悔するんだ。




('A`)「死ねよ………俺」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:02:04.60 ID:IjWkVmOt0


放課後、楽器屋スタジオ“バーボンハウス”。
ドアを押して店内に入ると、カウンターでポルノ雑誌を読んでいたショボンさんが顔を上げる。

(´・ω・`)「いらっしゃい」

('A`)「あ……どうも」

(´・ω・`)「ん?ハインちゃんは一緒じゃないんだね」

('A`)「ああ、なんか……午後から早退してどっか行っちゃったみたいです」

(´・ω・`)「ふうん……?」

怪訝な顔をする店長。
雑誌を閉じて、レジから出ると、俺に言った。

(´・ω・`)「まあいいや。弾いてくかい」

('A`)「ハインいないけど、いいんですか?」

(´・ω・`)「構わんよ。いよぅくーん、レジ頼むよー」

(=゚ω゚)ノ「またサボりですかよぅ! そろそろ不治の病で苦しみながら死んでくださいよぅ!」

楽器の手入れをしていたバイトを店内に残し、奥のスタジオへ向かう。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:10:05.69 ID:IjWkVmOt0
(´・ω・`)「こんなのあるんだけど、使ってみる?」

('A`)「え?」

アンプをいじっている俺に、店長が問いかけた。

手にあるのは、塗装が剥がれかけた黒いエフェクター。
中央に描かれた、白い『RAT』の文字。

(´・ω・`)「『Pro-co RAT-1』。かなり古いけど、いい音を出してくれる」

(;'A`)「こ、これ、ヴィンテージのレア物じゃないですか」

(´・ω・`)「貰い物だよ。どう?」

(;'A`)「じゃあ……遠慮なく」

ギターとアンプの間に、RATを介してシールドを繋ぎ、恐る恐るボタンを押す。

炸裂するディストーションサウンド。
吹き上がる歪みに鳥肌が立った。

('A`)「うおっ……」

(´・ω・`)「なんか弾いてみそ」

今なら何でも弾ける。
そんな錯覚さえ覚えた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:14:41.17 ID:IjWkVmOt0
最初に浮かんだリフは、ディープ・パープルの『スモーク・オン・ザ・ウォーター』。

ジャッ ジャッ ジャーン ジャッ ジャッ ジャジャーン


(;'A`)「おお………スゲーいい音」

(*´・ω・`)「でしょおぉぉ?」

店長がドラムを合わせてくる。
彼のアレンジによって、16ビートで細かく刻まれた伝説的フレーズ。

('∀`) ヘヘ・・・

そして被せるように続けるエリック・クラプトンの『愛しのレイラ』。
ちとディストーションがきついか。

T-レックスの『トゥエンティー・センチュリー・ボーイ』
やはり古いロックにもってこいの音だ。


だけど。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:21:09.09 ID:IjWkVmOt0
('A`)(………)

(´・ω・`)(ん?)


テンポを上げる。

掻き毟るようなストロークではじき出すのは、ジャパニーズ・パンクの代表、ハイスタンダード。


『STAY GOLD』。



('A`)(くそ……)


違う。


(´・ω・`)(やっぱりこういうのも聴くんだな。そりゃそうか、若いもんな)


駄目だ。


(´・ω・`)(なんだ?ニッケルバックか?ずいぶん荒れてるじゃないの)


足りない。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:27:03.78 ID:IjWkVmOt0
( A )(クソッ……ド下手糞じゃねえか……ディストーションで誤魔化してアーティスト気取りかよ……!)

( A )(どんな良い機材使ったって……下手糞は下手糞なんだよ………)

( A )(どんなに演奏が上手くたって……気持ちがなけりゃあ……ただの音なんだ……)

( A )(バンドメンバーなんて………ただの道具で……)

( A )(友達である必要なんてない……要求通りのプレイをすれば……それでいいんだ)

( A )(クソッ……!)



気づけば、音は止んでいた。
弦が切れて、爪が割れていた。

(´・ω・`)

ショボンさんの視線を受けて、顔が熱くなっていく。

ハズい。
なに一人で興奮してんだよ。
バカじゃないのか。

('A`)「すいません……また、弦切っちゃって」

壁際の床に座り込む。
今日の俺はどうかしてる。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:33:21.18 ID:IjWkVmOt0
(´・ω・`)「血、出てるよ。絆創膏いる?」

('A`)「……はい」

もらった絆創膏を指先に巻き付ける。
ショボンさんは再びドラムセットに腰を落ち着け、俺に訊いた。

(´・ω・`)「ハインちゃんとなんかあったのかい」

('A`)「いや…はい、そうです」

(´・ω・`)「モララー君絡みだね?」

('A`)「……なんで分かるんすか」

(´・ω・`)「なんとなく」

おもむろに煙草を咥え、火をつける店長。
いつの間にかスネアの上に置かれた灰皿に、灰を落とす。

('A`)「禁煙だろ……常識的に考えて」

(´・ω・`)「このスタジオの常識は僕が決める」


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:37:49.19 ID:IjWkVmOt0
揺れる紫煙を眺める。
少し落ち着いてから、ショボンさんが言った。

(´・ω・`)「ハインちゃんとモララーくん、顔を合わたんだね」

('A`)「はい……なんかヤバいくらい険悪で………でも、昔なにがあったのか、教えてくれなくて」

('A`)「教えてくださいよ。知ってるんでしょ、ショボンさん」

(´^ω^`)「どーしょっかなwwwwwwwww」

('A`)「はぁ……無駄な体力使わせないでくださいよ……」

(´・ω・`)「教える。うん、教えるからギターを下ろせ」

振り上げていたギターをスタンドに立て掛け、アンプの上に腰を下ろす。
ショボンさんが煙草を消し、二本目に火をつけるのを待った。

(´・ω・`)「えーと……モララーくんが高校一年生だった時だから………二年前か。そう、二年前。
      ハインちゃんと毒男くんはその時、中学二年生だね」

ショボンさんの顔を見ながら頷く。

部屋でしこしこと親父のギターを弾いていた俺が、
エレキギターがどうしても弾きたくなって、この店に試奏しに来るようになったのもその頃だ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/01/02(日) 20:47:25.00 ID:IjWkVmOt0
五話おしまい

続いて六話投下するよ

その前にちょっとタバコとコーラとお菓子買いに行っていいですか

ダメって言われても行くけどな!

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