四話 “初めてアンプで音出した時って、けっこう感動する”
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:21:13.00 ID:FDi4Aw2U0


四話 “初めてアンプで音出した時って、けっこう感動する”


3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:24:56.86 ID:FDi4Aw2U0
音楽を聴いたり、映画を観たり、本を読んだり、写真を見たり――――

本当に素晴らしいものに出会った時、体の底から熱い何かが込み上げてきて、鳥肌が立って、頭に血が上って――――


涙が出そうになった事が、あんたにはあるか?



从 ゚∀从「―――」



腹の底を抉るような、重くて硬いベースの重低音。
伸びて、縮んで、跳ねて、捻じれて。

ハインのベースは、俺が理想としていた音そのものだった。



(;'A`)「―――」



俺はとにかく、ハインのリズムについていくだけで精一杯だった。
エイトビートで刻まれる、地を這うようなベースを、雲の上から高音域でギターが追う。

きっと俺のコード進行は、酔っぱらいのマラソン大会みたいにめちゃくちゃだった。
その千鳥足を支えるように、ハインはしっかりと基礎を作ってくれた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:28:54.37 ID:FDi4Aw2U0
『―――自由にやれ―――』

男気溢れた女の声が、ハートキーのスピーカーから聞こえた気がした。




そう。
俺はこの時間違いなく、本当に素晴らしいものに出会ったんだ。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:33:23.83 ID:FDi4Aw2U0
最初のセッションが終わった時、俺はまだ四月だというのに汗だくだった。
足が震え出して、情けなく床に座り込んだ。

从 ゚∀从「どうよ」

('A`)「………楽しかった」

自分の声が湿っていることに気づき、顔をそむけて注意深く口を開いた。

('A`)「ありがとう。楽しかった」

从 ゚∀从「礼なんかいらない」

('A`)「あのさ……」

('A`)「……いや」

('A`)「なんでもない」

从 ゚∀从「なんだよぅ、この!この!」

('A`)「やめろ気持ち悪い」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:38:28.03 ID:FDi4Aw2U0
ストラトキャスターをギタースタンドに立て掛け、アンプの上に腰を下ろす。
一息ついて、俺は顔を上げた。
ハインはスツールに座りベースを膝に乗せて、アンプを通さずに『キャント・ストップ』のリフを弾いていた。

('A`)「………女でスラップする人って、あんまり見ないな」

从 ゚∀从「そんなことないぞ。お前が知らないだけだ」

从 ゚∀从「ミシェル・ンデゲオチェロのプレイを見たら、目玉が飛び出るぞ」

('A`)「呼びづらい名前だな」

从 ゚∀从「アフリカ出身のスーパー・ウーマンだ」

言いながら、ハインはアレンジが効いたキレのいいリフを飛ばす。
世界は広い。こんな身近に、これほどクールなベースを鳴らす女子高生がいたなんて。

('A`)「まだ答えを聞いてなかった」

从 ゚∀从「ん?」

('A`)「俺に何の用があったんだ?」

ハインの手が止まる。
部屋の空気も、音と共に動きを止めた。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:51:54.43 ID:FDi4Aw2U0
俺はハインの白くて細長い、力強い指を見つめた。
爪は両手とも短く切り詰めて、今どきの女子高生とは思えないほどの飾り気の無さだ。
化粧もしてないだろう。
適当な手入れで伸ばしっ放しの髪は、顔の半分を覆っている。

少しの間があり、ハインは口を開いた。

从 ゚∀从「俺って、ベース上手いだろ?」

('A`)「イラつく台詞だけど、うん、上手いよ」

从 ゚∀从「大学生とか社会人のバンドから、何度も誘われて」

('A`)「そうだろうな」

从 ゚∀从「でも俺、一度もまともにバンドを組んだことないんだ」

从 ゚∀从「ヘルプでライブに出ることはあっても、『バンドメンバー』になりたいとは思わなかった」

('A`)「なんでだよ?もったいない」


从 ゚∀从「“音魂”に出会えないんだ」

('A`)「え?」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 20:55:36.52 ID:FDi4Aw2U0
从 ゚∀从「あれに出会うためには、技術も理論もいらない」

何?
今なんていった?

('A`)「音……なに?」

从 ゚∀从「俺、お前のこと見たことあるぜ。この店で」

('A`)「え、マジ?」

从 ゚∀从「中学三年の時だったかなぁ。お前は店のテレキャスターを試奏してた。布袋モデルのだっせぇやつ」

('A`)「一言多いぞ」

从 ゚∀从「ショボンが後ろでブチ切れてるのに、お前、めちゃくちゃ楽しそうに弾いてたろ」

そんなこともあっただろうか。
この店のギターはもうほとんど試奏しただろうから、あまり正確には覚えていない。
俺は返事の代わりにふうむと唸り、ハインの続きを待った。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:00:15.23 ID:FDi4Aw2U0
从 ゚∀从「あんなに楽しそうにギターを弾く奴、初めて見たよ」

('A`)「……」

確かにギターを弾くのは楽しい。
自分の演奏だけじゃない。
CDを聴いたり、ライブを見たりするだけで、どうにかなってしまいそうになることがある。
ボブ・マーリーの『ノー・ウーマン、ノー・クライ』のイントロを聴いて号泣してしまったことだって。

そんなの、みんな同じだろう?


从 ゚∀从「出会える気がしたんだ」

从 ゚∀从「……だから」

('A`)「だから?」

从 ゚∀从「ふたりで軽音楽部を立て直そう」


ハインは真剣な表情だったが、俺は笑いだしてしまいそうだった。
だって、ハインの言葉は、俺が言いたかった文章そのままだったのだ。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:05:03.58 ID:FDi4Aw2U0
从 ゚∀从「それから……」

ハインは少し照れくさそうに俯いて、それからすぐに顔を上げた。

何を聞かれるか、分かっている。
俺の想像通りなら、今日ついに、俺の夢が叶うだろう。




从 ゚∀从「一緒にバンドをやろう」

('A`)「―――うん」








(´・ω・`)「終わったかい?」

从;゚∀从 ウワッ

(゚A゚) ヒッ

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:08:20.65 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「まったく、いつまでお喋りしているつもりだ」

(´・ω・`)「演奏しないなら出て行ってくれないかな」

从;゚∀从「き、聞いてたのか!?」

(´・ω・`)「なんのことだ?」

从#゚∀从「聞いてたんだな!このクソ野郎!ファック!」

('A`)「?」

(´・ω・`)「何を言っているのか分からないね」

(´・ω・`)「さあ、そろそろ混み始める時間なんだ。金も払わない君たちに、いつまでもスタジオを貸すわけにはいかないよ」

('A`)「すいません。すぐに出ます」

('A`)「行こうぜ、ハイン」

从 ゚∀ ヌゥ・・・

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:12:08.07 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「演奏しないなら」

('A`)「え?」

(´・ω・`)「演奏しないのなら、出て行ってくれと言ったんだ」

从 ゚∀从「………ショボンっ!」

(´・ω・`)「毒男君だっけ?君のギター、少し聴かせてもらったよ」


(´・ω・`)「―――あれだけで、満足かい?」




さっきのハインとのジャムで、何が足りないかは明白だった。
ハインのリズムが安定していたこともあって、ギターとベースだけでも充分に楽しめたのだが――――

ドラムだ。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:17:28.54 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「若い頃は村上“ポンタ”秀一やジョン・ボーナムに憧れたものさ」

言いながら、慣れた手つきでスネアのチューニングをする店長。
それが終わるとバスを一発、続けてダブル、トリプルと連打する。
思わずツインペダルでも使っているのかと確認してしまうほどの滑らかなキックだった。

(´・ω・`)「道具に頼らなくても、技術があればなんとかやれるんだよ」

('A`)(音でけえ)

从 ゚∀从「店はどうすんだよ?」

(´・ω・`)「バイト君に任せてる」



(=゚ω゚)ノ イラッシャマセーダヨゥ

バンドンマン「あれ、いよぅさん一人?」

(=゚ω゚)ノ「そうだよぅ!」

バンドマン「店長は?」

(=゚ω゚)ノ「仕事放り出してスタジオで遊んでるよぅ!」

バンドマン「いい歳して………」

(=゚ω゚)ノ「いつかフライングVの角でぶん殴ってやるよぅ!」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:21:56.31 ID:FDi4Aw2U0
从 ゚∀从「クズが」

(´・ω・`)「聞こえないよ」

店長のドラムスは段々と調子を上げていく。

流れるようなフィルイン。
リズムの狂いなどとは無縁のストローク。
スタジオは瞬く間に打撃音で満ちた。

(´・ω・`)「げへへ」

テンポの速いエイトビート。
いやに手数が多い。
つかうるせえ。

从 ゚∀从「大人気ないおっさんめ」

店長のキックに合わせて、ハインのベースが唸った。
暴れ馬のように跳ねた低音だ。

俺が入りやすいように、C調のペンタトニック・スケールで基礎を作ってくれている。
気遣いは嬉しいが、刻みが細くないか。
いや、こいつ、16ビートでリズム取ってるな?

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:26:49.17 ID:FDi4Aw2U0
('A`)「むっ……」

(´^ω^`)「ひゃひゃ」

俺が入ろうとするのを、拍子の最初に裏を使って邪魔をする店長。
ハインはその嫌がらせに動じず、何のコンタクトもなしに合わせてくる。

この二人、相当な数のセッションをしてきたんだな。
そう思うと、なぜかよく分からない痛みが胸の奥で疼いた。
嫉妬だろうか。

何に?


(´・ω・`)「おっ」

('A`) ヘッ


入りなんてどうでもいい。
音源に残すわけじゃないんだ。

小節の終わりかけで、高音弦でのカッティングを織り交ぜたリフで無理やり割り込む。
どうだこの野郎。


(゚A゚) ヴォケ

(´゚ω゚`) アァン?

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:33:27.23 ID:FDi4Aw2U0
さっきのジャムで分かっていたが、このギターは驚くほどに高音の抜けがいい。
ハインのベースと別次元を生きてるような音だった。

風呂のお湯を放っておくと、熱い湯と冷たい湯が、はっきり上下に分かれるだろ?
もうね、そんな感じ。
でも風呂桶は店長のドラムがしっかりと形作ってくれている。
さすがはおっさんだ。
長い時間音楽をやってきただけある。

ワウが欲しくてたまらなくなるが、もちろんそんなものはない。
クリーントーンでのカッティングが浮かないように弾くだけで精一杯だ。


(;'A`)「―――っ」


そして調和する。

コード進行が暗黙のうちに決まり、ドラムロールのタイミングが決まる。
3人のそれぞれの見せ場(誰に見せるわけでもないが、こう呼ぶしかないだろう)が、ローテーションでやってくる。

最初はハインだった。
ドラムが大人しくなり、俺は単音弾きを控えた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:41:22.55 ID:FDi4Aw2U0
途端に耳を突く高音のプリング。弾けるような低音のサムピング。
ただ速いだけのオクターブ・スラップじゃない。
絶妙なタイミングで裏を使い、フィルインを入れる。


从 ゚∀从 ヒュウッ


('A`)(ヴィクター・ウッテンかてめえは)


普通の日本の女子高生がこんなもの弾けるか、阿呆め。
コイツはフリーじゃなくて、ラリー・グラハムでスラップを知った人間に違いない。


从 ゚∀从 ヘヘッ


最後に長いスライドを残して、ベースはドラムの後ろに身を潜めた。
素直なルートを弾きつつ、俺にニヤリと笑いかけた。

次は俺か?


('A`)(いいの?)

从 ゚∀从(いいよ)

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:48:00.21 ID:FDi4Aw2U0
今までにコピーしてきたソロを思い出しつつ、見せ場のフレーズを考えているところで。


(´゚ω゚`) ブヒャアアアアアアア!!


店長がイカれた。

急に気が違ったようなドラムロールで音を散らかす馬鹿店長。
ハインは、やれやれと言った感じで綺麗なグリッサンドを放った。


('A`)(え?終わり?)

大きく叩かれたライドシンバルの後。
突如として拍子が変わった。

そのビートを聞いて、すぐに名曲『テイク・ファイヴ』が頭に浮かぶ。

(;'A`)(ご………5拍子かよ!)

(´^ω^`) ブヒヒ

(;'A`)(こいつ……!)

从 ゚∀从(できないの?)

(;'A`)(……)

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:50:31.35 ID:FDi4Aw2U0
('A`)(余裕)


手探りで、あのフレーズを再現していく。

俺には今まで、楽譜なんて買う金は無かった。
だから、弾きたい曲は耳コピをするしかなかったのだ。

ひたすらCDを聴いて、ピンとくる音を探す。
それもスケールを覚えてから、その作業は格段に楽になった。

『テイク・ファイヴ』は親父から教えてもらった曲だ。
確か、ドリアン・スケールだったはず………


テテッテテーテーテー テテッテテーテーテー


('∀`) ビンゴッ

(´・ω・`) ヌ・・・

从 ゚∀从 ハハッ

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:53:56.89 ID:FDi4Aw2U0
もはや最初の時の面影なんて無かった。

ただ互いに感動をむき出して、音をぶつけ合っているだけだ。

逸れないように、嵌らないように。

そのうちに『テイク・ファイヴ』のフレーズも溶けて無くなり、俺たちは設計図も目的地もないセッションの渦にのまれていった。

血が沸くような高揚感。

今この瞬間、音楽は間違いなくドラッグだった。

顔が自然に笑みの形になり、俺は声を出して笑った。

何も聞こえやしない。

だけど俺は確かに、ハインと店長の笑い声を聞いたのだ。




――――音楽は時間を忘れさせる。

二本の弦が切れていることに気づき、時計を見上げた時。
俺はようやく、外に夜が訪れていることを知った。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 21:58:24.02 ID:FDi4Aw2U0
午後の7時過ぎ。
店はなかなかの繁盛ぶりだった。

何人ものバンドマンたちがギターを眺め、ピックを手に取り、楽譜を吟味している。
近くに大学があることもあってだろうか。
数人の音楽サークルの部員らしき人たちが、ハードケースを担いでスタジオのある通路へと消えていった。

店長は俺とハインを、プライベートルームに案内した。
話があるらしい。

部屋に入って早々、ハインはソファーに腰掛け、うまそうに水を飲んでいた。
なんて図々しい奴だ。

俺はタオルで額を拭う店長に向かって、頭を下げた。

('A`)「今日は本当にありがとうございました」

(´・ω・`)「いやいや、僕も楽しめたし」

('A`)「新品のギターを貸してもらって、弦まで切っちゃって」

(´・ω・`)「なに言ってるんだ。あのギターはもう君の物だよ」

('A`)「え?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:03:14.40 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「持って帰りな。大事にするんだよ」

('A`)「て………店長!」

(´・ω・`)「長期ローンを組んであげたから。トイチで」

('A`)「いらね」



从 ゚∀从「話ってなんだよ」

(´・ω・`)「そうだった。あのさ、君たち、バンド組むの?」

从 ゚∀从「だったらどうした。お前には関係ないだろ」

('A`)「はい。軽音楽部に入ろうと思ってるんですけど……」

(´・ω・`)「君たちの通ってる学校は、美府高校だったよね?」

('A`)「そうです」

从 ゚∀从「……」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:08:11.88 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「あそこの軽音楽部については、僕も噂を聞いてる。酷い有様だって」

思い出してしまった。

俺の机に飛び散った血反吐。
床に転がる白い歯。
真っ赤になった担任の顔。

明日が来なければいいのに。

(´・ω・`)「僕も君たちに協力してあげたいのは山々なんだが………」

(´・ω・`)「なにせしがない楽器屋の店長の身でね。どうにも手が出せない」

(´・ω・`)「だけど美府高校の軽音楽部にはなんとか復興してもらいたいんだ。この店の売り上げのためにも」

なるほど。
楽器をやる生徒が増えれば、この店にも金を落とす人間が増える。
軽音楽部の存在は、楽器屋の家計に多少なりとも関係してくるものだ。

店長の眼差しは切実だったが、ハインは俺の隣でベースマガジンを読んでいた。
雑誌の表紙の上で、どこかのパンクバンドのベーシストがお洒落で気取った格好をして写っている。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:11:43.35 ID:FDi4Aw2U0
(´・ω・`)「部室で練習ができなければ、ハインは君を連れて毎日のようにこの店のスタジオを借りにくるだろう」

(´・ω・`)「もちろんタダで。迷惑なんてレベルじゃねえぞ」

(´・ω・`)「だから、ここでひとつ、君たちに知恵を授けよう。部室奪回のカギになるかもしれない」

ハインは相変わらず雑誌に顔を落としたままだ。
店長の話を聞いているのかいないのかも分からない。
そんなに面白い記事が載っているのだろうか。

('A`)「なんですか。知恵って」

(´・ω・`)「現在の軽音楽部の部長は、モララーという生徒だ。彼は同時に、不良グループのリーダーでもある」

('A`)(リーダーといえば………)


( ・∀・)


('A`)(アイツかな)


(´・ω・`)「数年前まで、彼はこの店の常連だったんだよ」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:18:42.92 ID:FDi4Aw2U0
衝撃が走った。

奴がこの店の常連?
マジかよ。


( ・∀・)『だせぇーじゃん。バンドとか』


(#'A`)「何言ってんだあの野郎……ッ!」

(´・ω・`)「どうやらすでに接触済みらしいね」

(#'A`)「あまり友好的な接触とは言えませんでしたが……」

(´・ω・`)「でもね、あの年にしては結構な腕だったよ。今はどうなってるか知らないけど」

(#'A`)「アイツの楽器はなんですか!?」





(´・ω・`)「――――ドラムだよ」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:24:40.92 ID:FDi4Aw2U0
それまで黙って雑誌を読んでいたハインが、立ちあがって俺の腕を取った。
細い指が、俺の二の腕に食い込む。

痛い。

从 ゚∀从「もういいだろ。帰ろう、毒男」

('A`)「え?ちょ、ちょっと待てよ。もう少し話を」

从 ゚∀从「ショボン、今日はサンキューな」

('A`)「おい―――」

从 ゚∀从「またな」

(´・ω・`)「できれば、もう二度と来ないでくれないかな」

从 ゚∀从「それは無理」

(´・ω・`)「そう言うと思ったよ……」

ハインは店内に通じるドアを開け、俺を引きずりながら部屋を後にした。
扉が閉まる直前、店長は苦笑いを浮かべて俺に手を振った。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:30:49.28 ID:FDi4Aw2U0
店の外に出ると、まだ冷たさを残した夜の風が俺たちに吹き付けた。
ハインの手を振りほどき、俺は興奮して話しかけた。

('A`)「モララーがドラムやってたって」

从 ゚∀从「ああ」

('A`)「お前知ってたのか?」

从 ゚∀从「さあ、初めて知った」

('A`)「嘘つけ」

ハインは俺の声を無視して歩きだした。
俺の家とは逆方向だったが、構わず後を追う。

人生初のセッションのあとだったし、俺は実に舞い上がっていたのだ。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:35:36.29 ID:FDi4Aw2U0
('A`)「店長はモララーの腕を認めていた。ということは、奴は相当上手いはずだ」

('A`)「お前だって、ショボンさんの店に入り浸っていたんだろ?じゃなきゃ、あのドラムにあれだけ合わせられるはずがない」

('A`)「そんなお前と、ショボンさんの店の常連だったモララーに、接触が無いわけないだろ」

从 ゚∀从「うるせえな、潰すぞ」

('A`)「潰したきゃ潰せよ。でもさ、そうじゃなくたって、希望が見えてきたことには変わりない」

('A`)「ドラムをやってたんだから、説得すればモララーも分かってくれるかもしれないぜ」

从 ゚∀从「お前なぁ」

('A`)「分かってるよ。モララーがあそこまでグレちまったのには、それなりの理由があるんだろ?」

('A`)「それくらい察しがつくさ。伊達にスポーツ漫画ばかり読んじゃいない」

('A`)「これはあれだ。過去にバンド絡みで何か事件があって、それがトラウマでバンド嫌いになってしまったんだ」

('A`)「スラダンのミッチーみたいにさ。で、モララーの場合だ。俺はアイツが昔どうだったかを知らない」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/08(金) 22:38:31.27 ID:FDi4Aw2U0
調子に乗っていた。
俺は高価なギターと高度なプレイヤーたちに触れたばかりで、調子に乗っていたんだ。

('A`)「お前知ってるんだろ?昔のモララーをさぁ」

('A`)「教えてくれよ。どうにかなるかもしれないんだ」

('A`)「軽音楽部を立て直せるかもしれないんだ、なあハイン―――」


从 ゚∀从「……」

从 ゚∀从「知らね」

(#'A`)「なんで嘘つくんだよ!」

(#'A`)「お前だって軽音楽部をなんとかしたいんだろ!?」




从 ゚∀从「黙れ」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 04:28:08.25 ID:BFmikKM60
突き放すようなハインの声は、さっきまでのものと違っていた。
昼間、先輩に警告を送った時の声と同じものだ。

怒気と殺意。
この声を聞いただけで、小便を漏らしそうだった。
こいつは本当に何者なんだよ。

从 ゚∀从「じゃあな」

小さく呟いて、ハインは俺を置いて歩き出した。
その後姿がやけに遠く見えて、俺は言いようのない不安に駆られた。

足場が、揺れている気がした。
たまらずに叫ぶ。

(;'A`)「バンド……一緒にやってくれるんだよな!」

(;'A`)「ベース、弾いてくれるんだよな!」


(;'A`)「……なあ、ハイン!」



この時、ハインが街灯の下で片手を上げてくれなかったら、俺は泣きだしていたかもしれない。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 04:31:01.62 ID:BFmikKM60
救世主の如く現れ、俺を地獄から引き上げてくれたハインリッヒ高岡。
まだ知り合って一日も経たないというのに、俺の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。

好きだとか、そういうことじゃない。決してない。

例えるなら、宇宙人による地球侵略の目的を考察するような。
そんな感情だ。

アイツは何のつもりで、俺と行動を共にしてくれるのだろう。
“音魂”って何だ?


半被を着た客引きの男の怒鳴り声をBGMに、俺は首を捻りながら家路についた。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/09(土) 04:37:43.84 ID:BFmikKM60
四話終わり


タイミング悪く用事があって、今帰ってきました
ネット繋がらなかったから、書置きもできなかった……
VIP落ちたの?もののけパワー?

とにかく、支援と保守ありがとう
本当にありがとう
まさか残ってると思わなかったので、半泣き状態です

スレの中で音楽の話とか意見とか、バンバンしちゃってください
ジャムって楽しいよね
下手でも楽しいよね

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