三話 “リンチされて一番身体が痛むのは次の日”
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:18:22.14 ID:pz8TmGm10


三話 “リンチされて一番身体が痛むのは次の日”


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:21:43.22 ID:pz8TmGm10
以前から、俺は教室では空気のような存在だった。
そしてついにリンチ事件のあと、俺に関わろうとする奴はすっかりいなくなった。

そりゃそうだ。
誰も面倒事に触れたくないもんな。

('A`)「いて………」

あれからさらに一週間が過ぎた。
ミイラみたいに体中に巻いていた包帯も、ようやく取れてきた。
しかし心に負った傷は癒えることはない。

('A`)「ぼっち確定か………ちくしょう」


いつものように一人で弁当を平らげた後、俺はヘッドホンを装着して机に伏せていた。
ウォークマンから流れているのは、レッチリのカリフォルニケイション。

沈んだ気分にぴったりだ。
ジョンのギターが俺の心と共に泣いている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:30:14.68 ID:pz8TmGm10
(●'A`)


从゚∀从「おい」


(●'A`)


从゚∀从「聞こえてる?」


(●'A`)


从゚∀从「おーい」


(●'A`)


从゚∀从「………」


ソリャアッ
从゚∀从つ●⌒●
      ('A`)ウォッ・・・

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:37:22.04 ID:pz8TmGm10
从゚∀从「……」

('A`)「か、返せよ」

从●゚∀从 スチャッ
 ∩

('A`)「おい」

从●゚ー从 〜♪

('A`)「……」

从●゚ー从 ンフッフ〜♪

('A`)(ムカつく……)


从●゚∀从「いいね」

('A`)「え?」

从●゚∀从「俺も好きだよ、チリ・ペッパーズ」

('A`)「……」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:43:43.84 ID:pz8TmGm10
その女子生徒は平然と俺を見下ろしていた。
まるで路傍の石を眺めるような目つきだ。

彼女はヘッドホンを外して、ニヤつきながら俺に手渡した。
胸の中の苛立ちを押し殺して、俺は聞いた。

('A`)「キミ、だれ?」

从゚∀从「C組のハインリッヒ高岡。ハインでいいぞ」

('A`)「どこの国からの留学生?」

从゚∀从「日本人だ」

('A`)「ハーフ?」

从゚∀从「どちらかというとハーフ」

('A`)(意味わかんねえ)

('A`)「……何か用?」

そこで初対面のはずのハインリッヒ高岡は、俺の胸ぐらをいきなり掴み、顔をずいっと近づけた。
細くて色素の薄い眉を吊り上げ、切れ長で大きな目を見開いて俺を睨みつける。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:47:47.09 ID:pz8TmGm10
怖かった。不良共に囲まれた時よりも、遥かに恐ろしい威圧感だった。
教室で食後の雑談をしていた同級生たちも異変を察したようだ。
お喋りを中断し、こちらを盗み見ている。

从゚∀从「噂を聞いたんだ」

('A`)「な……なに?」

从゚∀从「お前、鬱田毒男だろ?」

('A`)「そうだけども」

从゚∀从「一週間前、軽音楽部の部室に行って」

从゚∀从「先輩たちに喧嘩売ったって」


あぁ――――ヤバい。

てっきり音楽方面の流れになると思ったのに。
このままでは、俺は格闘技方面へ向かってしまうようです。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:51:36.77 ID:pz8TmGm10
从゚∀从「お前、強いのか?」

('A`)「強くないよ」

('A`)「実際」

('A`)「ボコボコにされたし」

从゚∀从「一人だったんだろ」

('A`)「確かにそうだけど」

从゚∀从「なんで部室に行ったんだ?」

从゚∀从「この学校の軽音楽部は、不良の溜まり場で有名なのに」

('A`)「それは………」

それを教えてくれる友達がいなかったからです。

この静まり返った教室で、そんな台詞が言えるか、バカ。

从゚∀从「お前さ――――」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:54:44.94 ID:pz8TmGm10
( ^Д^)「おう、ここだよww1年B組w」

ミ,,゚Д゚彡「失礼しまーすwww鬱田クンいますかーwwww?」

(’e’)「優しい先輩たちが遊びにきたよwww」

ミセ*゚ー゚)リ「優しいとかwwwマジウケルwww」

最悪のタイミングだ。
あのウジ虫共、教室にまで来るなんて。

女子が怖がってるだろ!
男子が小便漏らしてるだろ!
ますます俺の評価が下がるだろ!


从゚∀从「あいつらか?お前をリンチしたの」

('A`)「……」


( ^Д^)「お!いたいたwwww毒男くーんwwww」

ミ,,゚Д゚彡「お迎えにきたよwwwあれwww何その娘www」

(’e’)「可愛いじゃんwwwお前の彼女www?」

ミセ*゚ー゚)リ「は?なに言ってんの?あたしの方がかわいくない?」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/01(金) 23:57:40.16 ID:pz8TmGm10
( A )「――――ちくしょう」

从゚∀从「え?」

( A )「そうだよ………あいつらだよ……」

从゚∀从「毒男?」

( A )「俺はただ音楽がやりたかっただけなんだ」

( A )「バンドがやりたかっただけなんだ!」

( A )「知らなかった!軽音楽部があんな……糞に手足が生えたような奴らに喰いモンにされてるなんて!」


( ^Д^)「……あ?」

ミ,,゚Д゚彡「おい、今おまえなんつった?」

ミセ*゚ー゚)リ「よくわかんないけど……馬鹿にされたような気がする」

( ^Д^)「おいコラ、毒男」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:01:59.37 ID:++v0S+Rp0
从゚∀从「やっぱりお前は喧嘩よえーのか」

从゚∀从「本当に軽音楽部に入りたかっただけなんだな」

( A )「そうだよ」

从゚∀从「じゃあ、俺と同じだ」

( A )「え?」

顔を上げて怒鳴り声の方を見ると、先輩が拳を振りかぶっているところだった。
避けられるかどうか、微妙な距離だ。
とりあえず歯を喰いしばって、やってくる痛みに耐える準備をした。

从゚∀从「おそっ」

声は、ハインのものだった。
俺の視界の横から、ハインの白くて細い腕が伸びる。
先輩が拳を振る前に、小さな左のジャブを鼻面に一発。
それだけで、先輩の攻撃は中断された。

(  Д )「いっ………!?」

从゚∀从「喧嘩慣れしてねーなぁー」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:04:12.57 ID:++v0S+Rp0
たじろぐ先輩の後頭部を両手で掴み、ハインは懐へ引きこんだ。
そのまま流れるように、顔面の中心に膝を入れる。
なぜか少し、柔らかい音がした。

ああそうか。軟骨の砕ける音だ。

(  Д )「あ゛――――」

从゚∀从「弱い者いじめは喧嘩のうちに入らねぇ」

从゚∀从「毒男をリンチして強くなった気かよ?」

声は冷静だが、その裏には明らかな怒気と殺意が隠れていた。
赤黒い鼻血をまき散らす先輩。
もはや戦意を喪失しているのは瞭然なのに、ハインは彼の頭から手を放さなかった。

気づいた時には、もう遅い。

(;'A`)「おいもうやめ―――」

ぐしゃり。
今度は、ハインは膝を使わなかった。
代わりにもっと固くて丈夫な、俺の机の角に、先輩の顔を叩きつけた。
掃除の行き届いていない床に、濃い血の滴がボタボタと落ちた。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:08:55.68 ID:++v0S+Rp0
(  Д )「あが………」

从゚∀从「次、毒男に手を出したら―――」

从゚∀从「殺すぞ」

そのハインの言葉は、俺にはとても脅しには聞こえなかった。
これほどに分かりやすい「警告」を耳にしたのは、生まれて初めてだ。

もっとも彼女の言葉は、少し前から教室に響いていた女子生徒たちの悲鳴によって、
ずいぶんと聞き取りづらいものになっていたのだが。

力なくもがく先輩を、ハインは床に転がした。
手が頭を離れる時、頭髪が千切れる音が聞こえた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:10:32.88 ID:++v0S+Rp0
(;’e’)「おま……ありえねえ………な、なにやってんだよ」

ミセ;゚ー゚)リ「ヤバいよ……に、逃げ……逃げよ……」


ミ,,゚Д゚彡「こいつ置いてくのかよ!?お、おい!ちょっと待てよ!お前ら!」

ミ,,゚Д゚彡「くそっ……あいつら、マジで逃げやがった!」

从゚∀从「モララーに言っとけ」

ミ,,゚Д゚彡「ひ……」

从゚∀从「部室は絶対取り戻す」


从゚∀从「………もういいや。あんた、帰るならこのゴミ持ち帰ってくれよ」

从゚∀从「くせぇから」


昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
残された先輩は泣きそうになりながら、憐れな犠牲者を引きずって教室を出ていった。

問題はこれからだ。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:15:15.32 ID:++v0S+Rp0
('A`)「お前さ」

从゚∀从「ん?」

('A`)「何してくれたんだよ……マジで」

从゚∀从「俺って、すぐこうなるんだよ」

('A`)「知らねえよ……そんなこと」

机と椅子にこびりついた血反吐。
床に広がる血溜まり。
その中に白い小さなものを見つけて、それが先輩の歯であることが分かり、さらにげんなりとする。

('A`)「すぐに先生が来る」

('A`)「次の授業は国語で」

('A`)「うちのクラスの担任だ」

从゚∀从「ああ。盛岡とかいう、ねちっこい奴か」

('A`)「そう」

('A`)「自分のクラスで暴力沙汰があったなんて知ったら、あいつ発狂するかもしれん」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:17:49.31 ID:++v0S+Rp0
('A`)「だからさ、とりあえずお前、逃げた方がいいぞ」

('A`)「俺が言い訳しといてやるから」

从゚∀从「バーカ」

从゚∀从「まだ分かってねえのか」

パチンッ ・・・ガラガラガラ・・・

('A`)「なんで窓開けてんの?」

从゚∀从「お前も共犯だっつーの」

('A`)「は?」

从゚∀从「先に行ってるぞ」

言い残して、ハインは窓から外へ身を投げ出し、校舎の奥へ消えていった。
残された俺はゆっくりと振り返り、教室を見渡した。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:20:20.69 ID:++v0S+Rp0
('A`)「……?」


ヒソヒソ・・・


('A`)「……」


ヒソ・・・ ウワッ コッチミタッ


('A`)「あの」


ヤベーヨ・・・アイツラ・・・・・・ヒトゴロシ・・・・・ハインハオレノヨメ・・・


(´・_ゝ・`)「さぁーてぇー、授業始めまーす………んー?」

(´・_ゝ・`)「どうしてみんな席についてないのかなぁー?」

(´・_ゝ・`)「授業が始まる5分前に、椅子に座って教科書を開いておくようにっていつも言ってるよねぇー?」

(´・_ゝ・`)「どうして皆そんなこともできないのかなぁー?そんなに難しいことかなぁー?先生、難しいこと言ってるかなぁー?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:24:23.86 ID:++v0S+Rp0
(´・_ゝ・`)「鬱田くん、どうしたんだねぇー?いつまでも突っ立てないでぇ………んー?」

(´・_ゝ・`)「………鬱田くーん。キミ、また怪我したのかぁー?」

(´・_ゝ・`)「ちょっと先生に見せてごらんー………おい、なんだその……おい」

(´・_ゝ・`)「どういうことだ?」

('A`)「あー……」

(#´・_ゝ・`)「おい!どういうことだ!それは―――キミの血か!?それとも―――」


盛岡の額に浮かんだ血管が、自転車のスポークほどの太さに膨れ上がった。
俺は身を翻して窓枠に足を掛け、混沌に満ちた教室から脱走した。

背中にぶつけられる盛岡の言葉を無視し、俺は走った。
明日の事を考えるのはやめよう。
どうせロクでもない事態が待っているに決まってる。


俺は今を生きるんだ。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:27:54.30 ID:++v0S+Rp0
(#'A`)「そんなセリフが慰めになるかよ――――!」

理不尽だ。まったくもって理不尽だ。
校門に背をもたれて手を振るハインを見つけたとき、俺はよっぽど殴ってやろうかと思った。

だけどそんなことは出来るはずがない。
それは俺が一番分かっていた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:38:25.80 ID:++v0S+Rp0



从 ゚∀从「俺だって好きであんなことやったわけじゃないよ」

从 ゚∀从「でもな、ああいうのは一度痛い目に遭わないと、大人になってもあのままだ」

从 ゚∀从「あれは本人のためなんだって」

('A`)「そんなことさぁ」

(゚A゚)「聞いてねーんだよ!いつまでもふざけんなよ!」

(゚A゚)「明日からどうすりゃいいんだよ!」

从 ゚∀从「んー?」

(゚A゚)「ぼっちが担任に嫌われてみろ!この世の終わりじゃ!」

学校からの逃走劇の後、俺とハインは校門前から続く通りを歩いていた。
俺としてはひたすら学校から離れたかったし、ハインはハインで、呑気そうに俺の少し前を闊歩していた。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:40:18.94 ID:++v0S+Rp0
手ぶらの男女の高校生二人組。
道行く人の視線が痛い。

('A`)「先輩達の報復もあるだろうし」

('A`)「入学して一ヵ月も経たないのに……お先真っ暗だ」

そんな俺の気も知らず、ハインは振り向かずに言った。

从 ゚∀从「気にすんな」

(゚A゚)「する!」

从 ゚∀从「奴らの血が見れて、清々したろ」

(゚A゚)「してない!」

从 ゚∀从「まぁなんとかなるさ」

(゚A゚)「ならないと思う!」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:46:27.21 ID:++v0S+Rp0
十字路に差し掛かり、ハインは迷いなく道を曲がった。
俺はこの時間に家に帰るわけにもいかず、ハインの後姿について歩いた。

怪しげな店が立ち並ぶ、大人の通りだった。
夜になればピンクや紫のネオンが輝き、キャッチのお兄さんやお姉さんが声を嗄らして呼び込みに励む。
そんな道だ。

('A`)「なあ」

从 ゚∀从「なに?」

('A`)「どこに向かってるんだ」

('A`)「目的地があるのか、この散歩には」

从 ゚∀从「あるよ」

从 ゚∀从「ここ」

ハインが立ち止まったのは、一軒の楽器屋の前。
俺も何度か訪れた事がある店だった。
ガラスのドアの向こうに、ピカピカのギターやベースがぶら下がっているのが見える。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:50:33.83 ID:++v0S+Rp0
从 ゚∀从「うぇーす」

店に入り、ハインは片手を上げて挨拶する。
カウンターの奥で雑誌を読んでいた店長が、気だるそうに返事をした。

(´・ω・`)「なんだ……ハインちゃんか」

从 ゚∀从「暇そうだなぁーしょぼくれ店長」

(´・ω・`)「こんな昼間に………学校はどうした?」

从 ゚∀从「うるせ。ここの楽器でドミノ倒しすんぞ」

(´・ω・`)「本当にやりかねないね、君は……」

(´・ω・`)「ところで、そっちの子は?」



('A`) コソコソ・・・

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:53:20.69 ID:++v0S+Rp0
从 ゚∀从「ああ、友達の毒男だ」

(´・ω・`)「へぇ……珍しい。君にも友達ができるのかい」

从 ゚∀从「この店で一番高いギター持ってこい」

(´・ω・`)「冗談だよ。いや、本当に」

从 ゚∀从「ロンドン・コーリングのジャケットを再現してやる」

(´・ω・`)「マジやめて」

从 ゚∀从「おい毒男」

('A`)ビクッ

从 ゚∀从「………お前、なにコソコソしてんだ?」

('A`)ベツニ・・・

(´・ω・`)「………見覚えがあるね。君」

(´・ω・`)「うん……見たことがある。君、よくこの店にきてたよね?」

('∀`)イヤァ・・・

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:56:11.04 ID:++v0S+Rp0
(´・ω・`)「思い出した」

(´・ω・`)「高いギターを試奏ばかりで手垢まみれにして、一度も金を落としたことのないクソガキじゃないか」


('∀`)


(´ ω `)「そうか………ハインちゃんと同じ学校に入ったのか」

('∀`)「あの、その、なんていうか、お久しぶりです」


(´ ω `)「ポール・リード・スミス」

('∀`)ビクッ

(´ ω゚`)「ファンダー・ジャズマスター」

(;'∀`)ビクビクッ

(´゚ω゚`)「ギブソン・レスポール、クラプトンモデル」

(゚A゚)ンギモッヂィイイイイ!!

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 00:58:53.20 ID:++v0S+Rp0
(´゚ω゚`)「フェンダーUSA、62年製ストラトキャスターに傷を付けた時」

(´゚ω゚`)「君には“入店不可”の意を明確に伝えたはずなんだがなぁ?」

(´゚ω゚`)「よくまたこの店に入れたもんだ………あ゛ぁ?」

(;'∀`)「ひひ……」

(´゚ω゚`)「しかもハインちゃんと二人でだとぉ?」

(´゚ω゚`)「埋めるぞ貴様ぁ……」

(;'∀`)「そ、それにつきましては……釈明の余地がありまして………」

(´゚ω゚`)「言ってごらぁん……?」

(;'∀`)「ハインに無理やり付き合わされたというか……なんというか……」

(´゚ω゚`)「殺すァッ!!」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:03:34.72 ID:++v0S+Rp0
今日だけで何度むき出しの殺意に晒されたことだろう―――
この時ばかりは、横から入ったハインの声が、天使の助けに思えた―――

从 ゚∀从「ベースとギター借りるぞ」

(´゚ω゚`)「へァッ!?」

从 ゚∀从「スタジオの鍵渡せよ。108号室な」

(´゚ω゚`)「―――」

从 ゚∀从「よし毒男。好きなギターを選べ」

从 ゚∀从「弾けるんだろ?」

('A`)「い、いいのか……?売り物だぞ………」

从 ゚∀从「いいよな?」


(´゚ω゚`)


从 ゚∀从「いいそうだ」

('A`)(この二人、どんな関係なんだ……)

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:06:28.89 ID:++v0S+Rp0
从 ゚∀从「俺はワーウィックを借りようか」

('A`)(鬼畜だ)

流れは読めた。
ギターとベースが一本ずつ。
ハインはベースが弾けるらしい。

これから俺たちはスタジオに入って、セッションする。
防音の行き届いた部屋で、でかいアンプにギターを繋ぎ、思うがままに弦を弾くんだ。

まさかこんな展開になるとは………
やっぱり音楽的な方向性だったんだ。
喧嘩はブラフだったんだ。
よかった。

形容しがたい形相で俺たちを睨む店長の事は、気にしないでおこう。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:10:08.85 ID:++v0S+Rp0


从 ゚∀从「………俺さ」

念願だったスタジオに入り(結局俺は26万円弱のストラトキャスターを借りた)、シールドをアンプに繋ぐ。
小気味のいい金属の接触音が鳴った。
アンプの電源を入れると、スピーカーからサーノイズが流れ出す。

从 ゚∀从「お前のこと、一目置いてるんだ」

('A`)「え?」

ローランド(ジャズコーラス120ワット)のセッティングに四苦八苦していると、
一足先に準備を終えたハインがストラップを肩にかけて言った。

从 ゚∀从「リンチされた次の日、俺、お前を見に行ったんだ」

('A`)「へー……」

从 ゚∀从「頭に包帯ぐるぐる巻いてさ。ミイラみたいに」

从 ゚∀从「あれは笑ったよ」

('A`)「なんだよ」

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:12:00.23 ID:++v0S+Rp0
从 ゚∀从「でもお前、両腕だけは無傷だったろ」

从 ゚∀从「必死に庇ったんだな」

从 ゚∀从「ギターを弾くために」


ローランドのセッティングが終わった。
というか、こんなにツマミがたくさんあるアンプを使うのは初めてだから、イコライザーを適当にいじって他は投げ出した。

エフェクトなんていらねえ。
リバーブなんてくそくらえ。
ループなんて意味わかんねえ。

('A`)「音が出りゃあいいさ」

今はそれで上等。
いくら音質を機械で偽装したって、俺のギターなんてたかが知れてる。


从 ゚∀从「あぁ、こいつ、諦めてないんだなぁって」

从 ゚∀从「先輩に目付けられて、ボコボコにされて、友達もいなくて、軽音楽部は廃部寸前で―――」

从 ゚∀从「それでも、諦めてないんだなぁって」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:16:03.07 ID:++v0S+Rp0
最初に弾くのは、Eメジャーセブンス。

ニッケル製の弦をピックではじくと、音が空気を震わせる。
その振動はシングルコイルのピックアップに受け止められ、電気信号に変わる。
ギターの内部に張りめぐらされた、たくさんの配線を伝ってシールドのキャッチにたどり着いたその信号は、
さらに8メートルのワイヤーを旅してアンプに潜り込んでいく。

様々な抵抗をくぐり抜け、制限され、加工されたストラトキャスターの音は――――

それでも、二つのスピーカーで増幅され、スタジオ内に強く響き渡った。

この瞬間が、俺は大好きだった。
まるで偉大な先人たちの作ってきた音楽と、同じものを手に入れた気分だ。


ハインは、今日初めて話をした相手に向けるものとは思えない声で、俺に訊ねた。
訊かれなくたって、俺はハインにそう叫んだだろう。

从 ゚∀从「感想は?」






('A`)「………最高」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/02(土) 01:25:58.67 ID:++v0S+Rp0
今日はこれくらいで

途中へこたれそうだったけど、支援とか鮭の産卵とかライバルの出現とかのおかげでここまでやれました
ありがとう




ミルナ、ジョルジュ・・・あんたたちは紛れもない英雄だった・・・

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