02 暗闇
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:26:23.58 ID:Z7wNtsdk0



02 暗闇


 暗闇があった。
 手を伸ばしても何も触れない。幾ら瞬きをしても、瞳が光を吸い込まない。
 重たい何かがまとわりついているように、体が重たい。


( ^ω^)「……お?」


 呟いた声はかすれていて、自分の存在が酷く不確かな気がした。
 なんだが首が痛い。寝すぎてしまった直後のように、手足の先が熱を持っている。


( ^ω^)「ここ、どこだお」




24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:30:36.44 ID:Z7wNtsdk0

 暗い。目は確かに開いたはずなのに、暗い。
 黒い。黒い。
 何も見えない。聞こえない。心臓の音が五月蝿かった。手足が脈打つ。

 次第に、自分はまだ目を開いていないのではないかと不安になって、目を擦る。
 その内に、本当に其処に自分の目があるんだろうかと不安になって、頭を振る。


( ^ω^)「……首痛い」


 頭の中に重たくて生ぬるいお湯を詰め込まれたような、鈍重とした感覚。
 それから何も見えない不安。


( ^ω^)「誰も、いないのかお?」


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:33:57.78 ID:Z7wNtsdk0


「んんんん……」


( ^ω^)「!」


 暗闇の向こうから、聞きなれた声がした。
 さっきまで一緒に居た声だ、と安心感が心臓に広がる。


( ^ω^)「誰か、居るのかお!」


「……ブーン?」


 そう僕を呼ぶ声は、


1 (´・ω・`)
2 ξ゚听)ξ
3 ('A`)


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:46:35.14 ID:Z7wNtsdk0

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:39:55.36 ID:qTF4F8FR0
3



('A`)「っていうか、なんだこれ、暗っ!」

( ^ω^)「ドクオ!!」


 声のほうに向かって呼びかける。
 床に手を着くと、ぱちんと間抜けな音がした。
 汚れてざらついた、けれどつるつるとしたさわり心地。何度も触ったことがある、教室と同じリノリウムだ。


('A`)「ブーン? 何だよ、これ、何処にいるんだお前」

( ^ω^)「ここだお! こっち!」


 そういうが、僕にも自分の位置が掴めない。
 ドクオは声の距離からして、そう遠くない位置にいるようだったが、手を伸ばした程度で触れられるほどは近くないらしい。
 適当に手を振り回しても、空をかするばかりだった。



36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:54:03.20 ID:Z7wNtsdk0

('A`)「いや、こっちって言われても、全然わかんないんだけど」

( ^ω^)「僕にもよくわからんお」

('A`)「んー、おー、あいてっ」

( ^ω^)「お? どしたお?」

('A`)「何かに床に、……鞄か?」


 ごそごそと何かを漁る音のあと、ぱちんと乾いた音がする。
 目に眩い光が刺さって、僕は思わず悲鳴を上げた。
 黄色い電球の光。少し遠くに丸く光源がある。うっすらと部屋の中が照らされるのを確認するよりも、僕はその光源に這いずりよった。

 自分の顔を照らしてしまったらしく、目を押さえているのは、確かに僕のよく知 ??ドクオだった。


( ^ω^)「ドクオぉおおお」

('A`)「おおぉぉお、ブーン。これ、誰の鞄だ? 何で懐中電灯なんか入ってんだ」


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 10:59:14.01 ID:Z7wNtsdk0

 そういってドクオは手元の鞄を照らす。
 学校指定の鞄。そのもち手に腕時計が巻きつけられている。
 おそらくショボンの鞄だ。


( ^ω^)「お化け屋敷のじゃないかお?」

('A`)「あー」


 お化け屋敷の小道具として、懐中電灯をそれぞれ持ち寄ったのを思い出したらしい。
 確か僕の鞄にも、ラジオつきの懐中電灯が入っていたはずだ、と改めて辺りを見回す。
 どうやら此処は教室のようだった。それにしても、暗い。


( ^ω^)「電気が切れちゃったのかお?」

('A`)「んー? っていうか、他の四人は何処行ったんだよ」

( ^ω^)「お? そういやいないおー。……」


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:06:11.69 ID:Z7wNtsdk0

 ドクオが僕の見るほうをやんわりと照らしてくれる。
 見ると、見慣れた僕の鞄がすぐ其処に落ちていた。一安心、と其れを抱きかかえる。
 光で影が大きく滲んだ教室は、なんだか違和感があった。

 違和感。

 
( ^ω^)「……机、なんかちっちゃくないかお?」

('A`)「え?」


 僕らは高校生だ。使う机や椅子も、必然的にそれなりの大きさになってくる。
 僕が使っていた机は、少なくとも僕の足の付け根くらいまでの大きさはあった筈なのに。


('A`)「すげぇ、十号の机とか久しぶりに見た」


 椅子の背を照ら??ながら、ドクオは呟いた。
 そのとおり、十号と剥がれ掛けたシールが貼り付けてある。
 それから懐中電灯の光をくるくると廻して、部屋の中を観察した。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:09:14.00 ID:Z7wNtsdk0

 壁に貼ってある紙はびりびりに破られ、教室の端に幾つか固められた机や椅子の脚は曲がっている。
 カーテンの破れた窓の外に光を当てても、闇に吸い込まれるようにガラスに反射することさえない。
 それから床を照らして、ドクオが息を詰らせた。


( ^ω^)「こんな机、高校にあるわけないお」

('A`)「ん、んんん、うん、……だよな」

( ^ω^)「……ドクオ、ここ、どこだお?」

('A`)「そんなの、俺が聞きてぇよ」


 無理矢理にドクオの肩を引くようにして懐中電灯の光を他へやる。
 壁にかかった黒板は、荒れ果てた教室とは対照的にまっさらな顔をさらしていた。
 床にあった黒茶けた汚れ。僕らがお化け屋敷で作った偽者の血糊とは比べ物にならない、

 あれは確かに血が乾燥したものだった。



48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:18:39.07 ID:Z7wNtsdk0

 黒板の横についていた電気のスイッチを押すと、本当にあっけなく電気は付いた。
 無機質な光が遠慮なく床の汚れや、荒れた教室内を照らし出す。
 窓から覗いた廊下はやはり真っ暗で、懐中電灯で照らしてみようとは思えなかった。

 床の汚れから逃げるようにして、ドクオは小さな机の上に腰掛ける。


('A`)「なんだよ、此処」

( ^ω^)「わかんないお。僕が教えてほしいお」

('A`)「わっけわからん……。クーは? ショボンは? ツンは?」

( ^ω^)「わかんないお。僕が教えてほしいお」

('A`)「なんなんだよ、わけわかん ?-ぇよ」

( ^ω^)「わかんないお、」

('A`)「……『おつなぎさま』か?」


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:22:59.88 ID:Z7wNtsdk0

 不機嫌そうに眉を寄せるドクオに向かい合うようにして、僕も机に腰掛ける。
 小さな机は、僕の椅子よりも小さく感じられた。
 ドクオはショボンの鞄を抱きかかえて、僕は自分の鞄を傍らに置いて、相対する。

 この教室に転がっていた鞄は、僕とショボンのもの二つきりだった。


( ^ω^)「ここ、小学校かお?」

('A`)「じゃ、ないのか? 椅子も机も小さいし、一年生の教室って感じだろ」

( ^ω^)「……」


 なんで小学校に僕らは、と聞きたくなるが、それをドクオに聞いてもしょうがないに決まってる。
 空気が冷え?|、なんだか気分が悪かった。
 なんだかホラーゲームに入ってしまったようだ、と想像しかけて、全く笑えない、と僕は首を振る。
 
 否定の言葉が思いつかなくて怖かった。


51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:27:52.46 ID:Z7wNtsdk0


( ^ω^)「とりあえず、此処から出て帰り道探さなきゃお」

('A`)「そうだな……クーたちもどこかにいるのかな」

( ^ω^)「あ、……かも、しれないお」

('A`)「だったら、一緒に行動した方がいいよなぁ」

( ^ω^)「おっ」


 机から降りて、空気を変えるように明るい声を強いて出す。


( ^ω^)「じゃ、探しにいこうお!」

('A`)「……ん、そうだな」


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:34:18.81 ID:Z7wNtsdk0

 教室から洩れる電灯の光をあてに、手探りでスイッチを探す。
 教室の電気がついたのに廊下がつかないということは無いだろう。
 ぱちり、と小気味のいい音がして、蛍光灯が天井で瞬いた。

 僕とドクオは顔を見合わせて、一先ずほっと息をついた。

 廊下の先は普通の学校のように、幾つも教室が並んでいる。
 僕らが居たのは三つ並ぶ教室のうち、丁度真ん中のものだったらしい。
 左手には、一つの教室と階段を挟んで二つの教室が並んでいる。


( ^ω^)「お、かたっぽ、灯りがついてるみたいだお?」

('A`)「あ、ほんとだ」


 右には一つの教室と、階段。


('A`)「どっち行く? ブーンが決めろよ」

( ^ω^)「んー」


1 右の階段
2 左手の明かりがついた教室


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:52:50.22 ID:Z7wNtsdk0

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:46:13.83 ID:SAgsCnrnO
2


( ^ω^)「灯りついてるし、教室行ってみようお」

('A`)「ああ、うん。そうか、誰かいるかもしれないしな」


 ドクオはショボンの鞄を抱きかかえるようにしている。
 ふと、ためしに入れてもらったお化け屋敷で、ドクオが本気で涙目になっていたのを思い出した。
 笑ってやりたいが僕も怖いので、黙っていることにする。

 電気のついた廊下の窓から外を覗くが、やはり暗すぎて何も見えない。
 空気が冴えすぎているように、僕らの足音がいやに??§きく聞こえた。

 教室の前の扉の前に立って、軽くノックをする。


( ^ω^)「おっお、失礼しますおー」

('A`)「しつれいしま、」


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 11:57:50.67 ID:Z7wNtsdk0


 例えば、後から考えれば、という話だが。
 
 僕らが電気をつけた時点で、その教室の前の廊下にも電気がいきわたっていて、それは確かに教室から確認できたはずなのだ。
 もしも廊下の電気が勝手についたのなら、それを確認しに外に出る人間がいたって可笑しくない。
 この灯りがついた教室の中に人がいたなら、様子を覗くくらいならするはずなのに。


('A`)「す?」



(*゚∀。;:..



 そこには、死体があった。




61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 12:05:53.33 ID:Z7wNtsdk0

 真っ赤な血が床を濡らしている。
 さっき居た教室にあった汚れとは一線を画した、真新しい鮮血。
 甘くて生臭いような匂いが鼻を突き刺す。
 真っ先に足を踏み入れた僕の上靴が、ぴちゃりと嫌な音を立てた。滑って転ぶ寸前のような感触に、思わずドクオに縋りつく。

 転びたくない。絶対に転びたくない。
 触れたら、僕まで死んでしまう気がした。


( ゚ω゚)「う、あ」

( ゚ω゚)「ああああああああああっ、あああ、ああああああっ!」


 口からぼろぼろと零れるように悲鳴が飛び出てくる。


(*゚∀。;:..


 その死体は、酷く損傷していた。
 手足は可笑しな方向に捩れ、顔が半分崩れている。
 刃物で滅多刺しにしたようなその胴は、肉が抉れ、今にも二つに千切れそうだった。
 どろどろと広がった内臓は、切られ踏み躙られたように潰れ、もう一度押し込んでもきっと機能しないに違いない。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 12:17:08.83 ID:Z7wNtsdk0

( ゚ω゚)「し、あ、うああ、ああああっ!」

(゚A゚)「……」


 ドクオはかたかたと震えている。
 しきりに瞬きを繰り返し、無機質な光に照らされたその光景から目を離せないようだった。
 見た事のある顔が、半分を残して潰れている。

 駄目だ、このままでは僕もドクオも、死んでしまう。

 わけの分からない焦燥感に駈られ、直ぐ後ろに居たドクオを押して、扉を閉めた。
 ばん、と破裂するような音を立てて引き戸が閉まる。
 ドクオは押されたまま、僕は押したまま、リノリウムに座り込んだ。
 口からはやはり悲鳴が洩れ続けていたけれど、そのうちに息が続かなくなって僕は二酸化炭素を吐き出す。


( ゚ω゚)「はっ、はっ、はっ、あ、ああああああ、ああ」

(゚A゚)「……し、ん、でた……?」

( ゚ω゚)「ああああ、あああ、」

(゚A゚)「しっ、ぃあ、あああ、……ぐ、うおげぇえええ」


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 12:24:16.52 ID:Z7wNtsdk0

 体を丸めて、ドクオは廊下に胃の中身を吐き出した。びちゃりと生ぬるい音がする。
 僕はやっと息を整えて、扉を背にそれを眺めていた。
 張り付いた真っ赤な光景を、丸まったドクオの白いシャツで掻き消そうとするけれど、酸っぱい匂いに釣られそうになって顔を背けた。

 床に液体が落ちる音はまだ続く。
 文化祭の手伝いやらでまともな昼食は摂れていないはずなのに、一体何が出ているのだろう。


(;'A`)「う、え、えぇえええ」

(; ^ω^)「だ、だ、大丈夫かお?」

(;'A`)「ぅおぇ、え、げほっ、……っぇえええ」


 体を引き ??るようにして寄せ、背中を擦る。
 不安になって覗き込むと、黄色い吐しゃ物が緑色のリノリウムに広がっていた。胃液だ。
 よかった、血じゃあない、と僕は内心で一息ついた。


(;'A`)「は、……ありがと」

(; ^ω^)「おっ、お」



70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 12:29:46.82 ID:Z7wNtsdk0

 一頻り吐いて落ち着いたのか、胃の辺りを押さえながらもドクオは口を拭う。
 確か鞄にお茶が入ってたな、と差し出すと黙って三口ばかり飲み、お礼と共に返された。


(;'A`)「あれ、死んでた、よな」

(; ^ω^)「……お」

(;'A`)「人形とかじゃ、ないよな」

(; ^ω^)「多分お」

(;'A`)「どういうことだよ、これ……」


 ドクオは頭を抱える。
 僕は後ろの教室を振り返った。
 扉一枚を挟んで、向こうには、あの真っ赤な風景が広がっているのだ。


(; ^ω^)「ツンたち、無事だおね?」

(;'A`)「わかん?-ぇよ」


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/07(土) 12:31:32.90 ID:Z7wNtsdk0


 頭を振った。


(;'A`)「でも、此処可笑しいよ。狂ってる。駄目だ、早く逃げないと」


 窓の外は、暗いまま。









02 暗闇




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