本編
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 22:28:54.83 ID:bsFSYCK1O
- ( ^ω^)「ハァ――ハァ――。……恨むなお」
(,,メД )「くたばれ」
ぷつん、と糸が切れた。
僕の理性をつなぎとめていた細い糸が。
( ゚ω゚)「ふッ!」
僕の持つネイルハンマーが倒れた囚人――僕もだが――の頭を粉砕したのは、直後だった。
( ゚ω゚)「……ハァハァ」
ピンポーン
『タスク終了』
白い部屋の壁にモニタが現れた。
タスクは済んだのだ……!
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 22:35:43.50 ID:bsFSYCK1O
- 『6000クレジットがあなたに振り込まれました』
( ゚ω゚)「6000? たったの6000?」
『購入画面に移行します』
( ゚ω゚)「待てお! おい、人を殺させて6000たったの6000クレジットかお!」
モニタの投影された壁を殴りつけると、触感センサが作動した。
勝手に購入までの流れが終わってしまう。
『モニタ横のボックスより景品を回収してください』
( ゚ω゚)「おい、おい! くそおおおお!」
壁から盛り上がってできた箱には、購入したものが入っている。
見なくても分かる。
僕の後ろでは、「室内生存人数一名を満たせ」とのタスクを課せられた男が死んでいる。
見なくても分かる。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 22:40:16.82 ID:bsFSYCK1O
- ひとしきり拳を痛めた後、壁に頭をぶつけ、叫んだ。
この「歯車」の中でいかに絶叫しようとも、音は外界に伝わらない。
「歯車」は宇宙に浮かぶ、文字通り歯車の形をした部屋の集合体だ。
宇宙の牢獄だ。
宇宙は真空だ。
音もくそもない。
脱獄する?
そんな希望もない。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 22:57:14.87 ID:bsFSYCK1O
- そうだ、重力はある。
回転による遠心力で歯車の平行方向に立てる。
あとは部屋にバリエーションがある。
歯車の中央部分は広間。
歯に当たる部分はそれぞれが個室で、外部は隣の歯車と噛み合っている。
そして、ひとつのルールだ。
「課題をクリアすることで報酬を得る」
内容は単純明白。
例えば、百マス計算を規定数、時間内に解く。
真っ白な個室に紙と鉛筆が転がっているだけ。
奇もてらいもなく、それだけ。
今回みたく、本当に淡白に物事は進む。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:02:52.10 ID:bsFSYCK1O
- (,,/#Д 。)
僕は彼を殺さねばならなかった。
彼もそうだ。
僕らは飢えていた。
( ω )「腹、減った」
血のニオイを感じながら、箱の中をあさる。
中にはサンドイッチと小さな牛乳パックが置かれていた。
そして、クレジット明細。
[ランチセットC 2000クレジット]
( ω )「……」
腹の虫を鳴り止ませるために、僕は超高価なパンを咀嚼しはじめた――
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:11:02.11 ID:bsFSYCK1O
- ***
僕は「D-365房」に詰め込まれていた。
( ^ω^)「365日(365days)。悪くないかお」
「歯車」に収監されるにあたり、僕は何枚か書類を書いた。
今ではもう詳細には思い出せないが、これだけは覚えている。
( ^ω^)「『特別更生プログラムへの参加』……。まあいいお。どうせ暇つぶしくらいにはなるかお」
はい、に丸をした時、僕は泥沼に片足を突っ込んでいた。
その沼は一見、普通の地面と変わりなく、それでいて急激に変化を起こす。
既に腰までつかって、おかしいと気付く頃、囚人はようやく死を想う。
往?々に包まれていくのは精神だ。
染み込む水分は価値観を腐らせる。
( ^ω^)「暇で仕方ないお……」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:20:45.36 ID:bsFSYCK1O
- 特別更生プログラム受講者としての朝は、ファンファーレに始まった。
(;^ω^)「ななな!?」
『おはようございます。特別更生プログラムの説明を開始します』
(;^ω^)「特別……ああ」
『始めに、あなたは一般の受刑者とは扱いが異なります』
( ^ω^)「はあ」
この頃――ええと、確か24日前か?――は僕もアナウンスに殺意を覚えなかった。
『次に――』
曖昧かつ不親切な説明の要点は既に述べた通りのルールだ。
詳しくは……そうだ、列挙しよう。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:27:18.91 ID:bsFSYCK1O
- ・クレジットは生体認証機能付きパネルにより管理される。
・不要なものの買取可能。
・タスクを受けるには個室へ入れ。
( ^ω^)「ずいぶん大雑把な」
『以上で説明を終わります。なお、クレジットの初期値は1000です』
( ^ω^)「……ふぅん」
ピッ
( ^ω^)「『売買』『クレジット確認』『タスク履歴』『売買履歴』」
ピッ
『購入画面へようこそ』
( ^ω^)「おー、なんかめっちゃ色々あるお」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:32:04.59 ID:bsFSYCK1O
- 項目には食べ物から耆好品、家具までが用意されていた。
( ^ω^)「家具て、おま」
ピッ
( ^ω^)「イームズの椅子があるだと……」
ピッ
( ^ω^)「オークのデスク……」
ページをめくればめくるほど、商品が表れ、終わりがみえなかった。
( ^ω^)「なんで囚人に家具だなんて出すんだお? これが特別扱いかお?」
グゥゥゥ
(*^ω^)「いやん」
( ^ω^)「まだご飯が出てないお」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:39:04.83 ID:bsFSYCK1O
- 何度目かの腹の虫を聴いた後、僕は気が付く。
( ^ω^)「もしかして、僕は『受刑者じゃない』からご飯が出ないのかお?」
アナウンスの言葉はそうともとれた。
( ^ω^)「……働かざるものなんとやら、かお。豚箱でも働くことになるとは」
そして、食物欄を開き驚愕した。
[朝食・和 1500]
(;^ω^)「!?」
[朝食・洋 1400]
(;^ω^)「お、オススメのがあるお!」
[スタミナ丼 3500]
( ω ) ゚ ゚
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:45:53.97 ID:bsFSYCK1O
- 慌てて他の項目をめくった。
( ゚ω゚)「タバコ3000、ウイスキー5000」
( ゚ω゚)「筆記具200、腕時計100?」
ランチセット2000。
替えの囚人服300。
ぬいぐるみ3000。
ベッド500。
( ゚ω゚)「なんだお、これ」
耆好品、娯楽が高価なのは分かる。
生活必需品が安価なのも。
なのに。
( ゚ω゚)「どの食べ物も1000クレジットじゃ買えない?」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:51:24.24 ID:bsFSYCK1O
- 脇にじっとりと汗をかいた。
薄い囚人服の首元が濡れてヒヤリとした。
( ゚ω゚)「た、タスクをやれば、そんなのすぐに」
きっと1000クレジットは生活必需品用のものなんだ。
服と靴、ベッドでちょうど1000。
僕はそう信じたかった。
初めて訪れた小部屋に入ると、即座に背後でシャッタが下りた。
同時に、モニタの出現。
『体重を100g落とせ』
当たりの部屋だと思った。
部屋の中身、タスクは入るまで分からなかったのだ。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/27(火) 23:57:02.09 ID:bsFSYCK1O
- 床の中央に描かれた足形に乗ると、モニタは体重を表した。
『72.49kg』
172cmで肉付きのいい男なら、服を着た状態でこれくらいだ。
(;^ω^)「100gなら」
乗ったまま、僕は靴を片方脱いだ。
(;^ω^)「……」
『――kg』
『72.10kg』
『クリア』
(;^ω^)ホッ
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:02:27.28 ID:55na+vN5O
- (;^ω^)「よ、良かった」
服を着たままで体重計に乗るのなら、ある程度は誤魔化しがきくことが分かった。
(;^ω^)「なんだお、ちょっと拍子抜けしたお……」
『お疲れさまでした。報酬です』
(;^ω^)ドキッ
喜びも束の間、モニタの文面は本題に移った。
報酬、クレジットだ。
(;^ω^)
(;-ω-)
(;^ω^)
( ゚ω゚)
『100クレジットを振り込みました』
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:11:41.17 ID:55na+vN5O
- この時、僕はその「減量部屋」を五回出入りした。
減らすべき重量は一回ごとに100g増え、靴両方を脱げば達成できるところでそれを止めた。
何かにとりつかれたように繰り返した後、僕はクレジットを確認する。
( ゚ω゚)「100g増加するごとに、50クレジット増加?」
こんがらがった頭で計算すると、そういうことが分かった。
すぐに思考はあるところに行き着いた。
( ゚ω゚)「他も報酬クレジットがこんなのだったら?」
一食に1000〜2000の要求、対して、収入は100。
( ゚ω゚)「まるで食っていけないお」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:17:00.74 ID:55na+vN5O
- 腹が減るから焦るんだ。
そう言い聞かせ、僕は震える指で[朝食・和]を注文した。
(;^ω^)「ご飯に味噌汁、生卵」
余ったクレジットで醤油を買い――何故かこれは安かった――、卵かけご飯を作った。
(;^ω^)「……いただき、ます」
茶碗を持つ手が自分のものでないようだった。
米の重さに実感がなかった。
この食事がどれほどの重さ、意味を持つか、計り知れなかったのだった。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:23:49.11 ID:55na+vN5O
- 味を感じる余裕のないまま完食すると、僕はため息をついて壁際に座った。
( ^ω^)「とりあえず落ち着いたお」
しばらくぼんやりとして、これからについてを考えた。
( ^ω^)「……んなわけあるかお」
ちらりとよぎった考えを、振り払うのは大変だった。
( ^ω^)「僕だって人間だお。まさか、そんなこと」
理由のひとつは単純にあり得ないと思ったから。
( ∩ω∩)「……」
もうひとつの理由は、そうであって欲しくなかったから。
(; ω )「まさか、餓死することなんか……」
見事 ?≪、この期待は裏切られた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:30:18.30 ID:55na+vN5O
- ***
僕はひとつの規則を見つける。
( ^ω^)「さっきこの部屋は減量の部屋だったのに」
アタリを付けていた減量部屋に、もう一度挑戦しようと踏み入るとモニタはこんな文字を流した。
『暗闇、無音で30分を過ごせ』
( ^ω^)「これは?」
そのタスクは大したことのないもの――報酬200――だった。
問題は次だ。
( ^ω^)「もしかして」
広間に戻り、購入画面のままのモニタを触る。
そして、同じ部屋へ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:41:11.14 ID:55na+vN5O
- 戻った室内には、指ほどの太さのネジとボルトが散乱していた。
モニタには『120分以内に全てのボルトにネジをはめよ』。
( ^ω^)「タスクが入れ替わった、かお」
今度はタスク終了後、すぐに部屋に入る。
( ^ω^)「『100分以内に全てのボルトを』……」
( ^ω^)「なるほど」
別の部屋に入った場合を含めて、何らかの行動を取った時にはタスクがシャッフルされるようだった。
( ^ω^)「これに意味はあるのかお?」
1760クレジットを確認したところで、僕はその考えに行き当たった。
( ^ω^)「作業する場所や内容がわかっている方が『更生プログラム』には適していないかお」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:48:39.23 ID:55na+vN5O
- いまだ地球のみに人間が住んでいたころの旧いムービーデータを観たことがある。
社会復帰に根ざした作業に備え、行動し、省みることが更生であるように描かれていた。
( ^ω^)「でもこんなの、意味ないのに」
単調なタスクはランダムに配置され、その対価はひどく安価。
( ^ω^)「……なんなんだお、これは」
空腹をまぎらわすように、僕は適当な部屋に入った。
『散らばったピースを集めて箱に入れろ』
( ^ω^)「……」
僕は黙々と作業をこなしていった――
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 00:57:31.12 ID:55na+vN5O
- ***
四日目には僕は調子を掴んで、食べ物以外を買うようになった。
とはいえ、全て安価な物だ。
腕時計、筆記具、布団(ベッドより200クレジットも安い)、歯ブラシ。
ところで、初日に取り急ぎ購入したのが、トイレとシャワーだった。
それぞれが800クレジットで、買った瞬間から「歯車」のどこかに専用の部屋が現れるようになった。
タスクを終えると一分間だけ、作業部屋へのドアの中に一つずつシャワー、トイレルームの表記が点滅する。
初めてシャワールームに入った時はタオルを買い忘れて四苦八苦したものだった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:04:29.74 ID:55na+vN5O
- この頃だったと思う。
時々、開かない部屋があると気付いたのは。
( ^ω^)「お?」
百マス計算で息が詰まって、隣の部屋に新たなタスクを求めて入ろうとした時、ロックがかかっていたのだ。
( ^ω^)「んん?」
その時は特にこだわらず、さらに隣の部屋を目指した。
だが、六日目頃には頻度が上がっていた。
( ^ω^)「なんでだお?」
理由はいくら考えても分からなかった。
( ^ω^)「まあ、いいか」
これが「歯車」の構造によるものだと分かるのはしばらく後のことだ。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:10:02.20 ID:55na+vN5O
- そう言えば一つの試みも行った。
( ^ω^)「『80分以内に全てのボルトを――』」
( ^ω^)
( ^ω^)「制限時間を過ぎたらどうなるんだお?」
暗闇無音部屋のように「時間経過」が条件でないタスクで疑問が湧いたのだ。
( -ω-)
( ^ω^)「試してみるかお」
とりあえずは食べていけているという余裕から、僕は慎重さを欠いていた。
( ^ω^)「腕時計のアラームセット」
( ^ω^)「ボルトは……一個を残して全部はめとくかお」
万一、臆した時の保険だった。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:14:03.86 ID:55na+vN5O
- 残り60分。
( ^ω^)
残り40分。
( ^ω^)
残り20分。
(;^ω^)「……」
残り10分。
(;゚ω゚)ドクン ドクン
残り1分。
(; ω )「――ッ」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:16:42.58 ID:55na+vN5O
- ピンポーン
(;゚ω゚)「!」
『ペナルティ』
しまった、と思った。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:23:58.72 ID:55na+vN5O
- 『クレジット徴収。予定報酬の1.2倍、クレジットが貯蓄より引き落とされます』
( ゚ω゚)「え」
『今回の報酬予定クレジット300。よって徴収は360クレジット』
( ゚ω゚)「――」
腹の辺りに重いものが詰め込まれ、無理矢理捻られたような感覚に襲われた。
この程度で済んで良かったとも、360も取られたとも思う。
( ゚ω゚)「くそっ!」
部屋のシャッターが開いても、僕はそこを動けずにいた。
少しの間、最後のボルトとネジをはめて反応を待ってみた。
それでも、モニタは動なかった。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:29:19.32 ID:55na+vN5O
- ( ^ω^)「怠けられないようになっているのは、普通の受刑者と同じかお」
働いて、失敗をすれば償う。
( ^ω^)「当然といったら当然か」
それだけに、はらわたが煮えくりかえりそうにもなった。
言ってくれたらこんなことなはならなかったのに。
( ^ω^)「ちくしょう」
(#゚ω゚)「ちくしょうふざけんな!」
ガァン
(#゚ω゚)「始めから言やぁいんだよ阿呆がッ!」
ガァン ガァン
(#゚ω゚)「コケにしやがってえええ!」
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:36:09.03 ID:55na+vN5O
- (#゚ω゚)「ふざけやがって! はなから言えば間違わねぇだろうがッ!」
ピンポーン
(#゚ω゚)「あぁンッ?」
『一週間が過ぎました』
ぴくりと耳が動き、暴れるのを止めた。
腕時計でも確かに、地球時間での日付も変わるころだった。
『今週の報告を開始します』
( ゚ω゚)「報告?」
『利用施設への維持費の支払いです』
維 持 費 ?
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:44:36.18 ID:55na+vN5O
- 『広間におけるエネルギー料金、水浄化設備――』
窓のない部屋では忘れがちだが「歯車」は宇宙にある。
『清掃、破損部位修復――』
つばを飛ばしながら壁面を蹴りつけていた自分を思い出した。
『――など、しめて8000クレジットをいただきます』
( ゚ω゚)
貯めていたクレジットのほとんどが奪われたのだった。
怒鳴ることさえ忘れて、ただただ呆然としていた。
腹が鳴っても、食事は買えなかった。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 01:53:03.41 ID:55na+vN5O
- ***
タスクは回を重ねるごとに難度と報酬額を上げていった。
(; ω )「ハァハァハァハァ」
『暗闇、無音で○○分過ごせ』を実行中にそのことをよく考えた。
余談だが、このタスク中はノイズキャンセラのせいで反響音がない。
すると何故だか「体がやけにむし暑く感じる」のだ。
さて、このまま難度が上がるにも方向性がある。
減量部屋は減らす体重が上がっいく。
闇部屋では時間が伸びていく。
では制限時間付きの計算作業などはどう難しくなるのか、という点が気になった。
いずれかの条件を厳しくすれば充分。
だが、いずれも難度が上がる可能性もある。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 11:36:51.61 ID:55na+vN5O
- ハイリスクハイリターンの作業は理にかなっている。
時間制限が短くなるのも、前向きに捉えれば単位時間当たりの仕事量増加につながる。
(; ω )「ハァッハァッハァッハァッ」
だが、難度の設定が分からない。
部屋に入るまではタスクの内容もだ。
もし、超高難易度の部屋に当たってペナルティを受ければ?
もし、クレジット残高がマイナス値に至ったら?
(; ω )「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
もしも、作業内容が難しくなる一方だったら?
僕は、どうなる?
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 11:45:17.54 ID:55na+vN5O
- 『クリア』
(;゚ω゚)「水……水を」
過呼吸になりかけの僕は暗闇無音部屋を這い出た。
喉を潤すために水を買うことはしなかった。
もうろうとしながらも、シャワーのお湯を飲んだ。
命はもちろん惜しかった。
だが、クレジットも惜しかった。
(;゚ω゚)ゴグッ! ゴグッ!
(; ω゚)つ
「うっ……」
(; ω )つ
「オグェブッゴボロ」
排水孔に流れ行く、消化しかけの食べ物が
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 11:47:35.25 ID:55na+vN5O
- 403 20590 1 509 75893 005
3670962 25963774 25 686 2870 96 5 641
数字に、クレジットに、見えた。
041 2 7093 5555 14141414 9638590 20526
25412 856 36 144415 5096313 17093 5 4
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:08:04.02 ID:55na+vN5O
- 僕ができるのは、タスクをこなすこと、食べること。
これらは生きるための必須条件だった。
その補助行為が、省エネルギーに努めてクレジット消費を抑えること。
シャワー、トイレ、食事回数さえも減らした。
また、タスク難度の上昇を恐れて挑戦も最低限。
膨大な空き時間はベッドに寝て過ごした。
腕時計はデジタルだったので、12時間ごとのアラームを設定して画面を塗り潰した。
無為に時間は過ぎていく。
( ゚ω゚)「……」
時計の針は、気にすれば気にするほど遅く進んだ。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:15:48.19 ID:55na+vN5O
- 口で呼吸しなければ喉はあまり渇かなかった。
尿意は我慢すれば、濃い尿となって出たし、大便もそうだった。
寝ようとして、どうしても寝られないことがあった。
空腹を超えた飢餓状態を初めて知った。
部屋は清浄で、鼻糞も出なかった。
食べられれば節約になったのに。
腹は鳴る。
目が冴える。
関節が軋む。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:20:41.51 ID:55na+vN5O
- ピピッ
( ゚ω゚)「日が変わったか」
筆記具セットのメモ用紙に書いておいた「\」を「X」にした。
自らで立てた、12時間ごとの「タスク」だった。
( ゚ω゚)
そうだ、本来タスクは自分で設定すべきなんだ。
(;゚ω゚)
おかしいじゃないか。
( ;ω;)
こんな苦痛を強いられるなんておかしいじゃないか。
水分の流出を止めることは難しかった。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:30:38.57 ID:55na+vN5O
- ***
充分な貯蓄を備えての14日目。
『一週間が――』
(;゚ω゚)
僕が気にしたのは、クレジット関連の情報じゃない。
「クレジットそのもの」の情報だ。
『より、維持費として』
(;゚ω゚)
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:32:04.63 ID:55na+vN5O
- 『5000クレジット引き落とします』
(;゚ω゚)
( ゚ω゚)
(*゚ω゚)
節約成功だ!
3000も!
(*^ω^)「3000も!」
その時ばかりは喜びが勝って[朝食・洋]を購入した。
箱にはクロワッサン2つ、コンソメスープ。
そして、申し訳程度の殻付きゆで卵。
そんな質素な食事にすらも不平を覚えなかった。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:43:10.82 ID:55na+vN5O
- ゆっくりと、クロワッサンが持つバターと小麦粉の甘味を堪能していると、モニタの変化に気が付いた。
NEW!とのポップが踊っていたのは
( ^ω^)「『情報』?」
ゆで卵を剥きながらコツコツとパネルをタッチ。
ピピン
キュワ
『情報カテゴリにようこそ。本カテゴリでは情報を購入することができます』
( ^ω^)「……ほう」
まあ、当然だ、と思った。
『情報は時間によって入れ替わります』
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 12:52:00.31 ID:55na+vN5O
- ( ^ω^)「ニュース関連は安いんだおね」
ピッ
『ニュース・ランクA』
( ^ω^)「ランク?」
『時事、国勢から住民の関心事など』
( ^ω^)「細かさのランクかお」
クレジットに余裕さえあれば購入してもいいかもしれない。
( ^ω^)「『隣房の囚人データ』……いらないな」
『あなた自身のプロフィール』
不要。
『カレンダー』
特に必要性は感じない。
ピッ ピッ
( ^ω^)「!」
僕はその項目に喰らい付いた。
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 13:00:33.59 ID:55na+vN5O
- 『タスク配置情報』
(;^ω^)ゴクリ
『混ぜられた部屋のタスク内容、報酬額を確認できます』
喉から、手が出るほど欲しかった。
(;^ω^)「でも」
[タスク配置情報 5000]
見合うだけのクレジットは持って行かれる。
手持ちのクレジットは先ほどの朝食セット購入で、わずかに5000を下回っていた。
(;^ω^)「いつ買うかが問題だお」
ぬるくなったコンソメスープをすすりながら、僕は壁に身を預けた。
僕はこの時のいくつかの見落としに、後悔することになる――
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 14:15:13.95 ID:55na+vN5O
- ***
新たな『情報』の登場は、新たなタスクももたらした。
『180分以内に椅子を組み立てろ』
やけに生産的な内容だった。
床に散らばった木材。
木材。
釘。
L字、T字の金具。
( ^ω^)「……?」
何本かの木材。
何本かの釘。
いくらかの金具。
( ^ω^)「あれ?」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 14:42:21.43 ID:55na+vN5O
- (;^ω^)「工具がない?」
しばらく木材をひっくり返しては部屋の隅々を触って回った。
(;゚ω゚)「だ、大丈夫。木同士をハンマー代わりにすれば」
とにかく僕は粗末な椅子を組み立て始めた。
コンコン
メキ
軽い素材は少し脆かった。
釘の頭が角にめり込み、木が欠けてしまった。
(;゚ω゚)「こ、これくらいなら大丈夫なはずだお」
心臓が跳ねたのを、強く抑え込んだ。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 15:20:53.48 ID:55na+vN5O
- 指で押し込んだり、金具を当てて打ったりして、なんとか九割が完成した。
(;゚ω゚)「まだあと150分もあるお。大丈夫、大丈夫だお」
時間は問題ない。
やはり初回のタスクはゆるい。
椅子の傷も大したことがない。
本当にごく小さな傷だから、ペナルティにはならない。
と、思いたかった。
(;-ω-)「落ち着け、落ち着け」
最後の脚を付けるのに、時間はいくらかけてもよかった。
ただ、現状で思い付く「釘を壁で打つ」作製法に対しては落ち着く必要があった。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 21:23:47.21 ID:55na+vN5O
- ただいま
ありがとうございました
何を書いてたか忘れたのでちょっと時間ください
パッと見、気になる書き込みがあったら
返信しつつ二時間以内には再開します
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:02:58.71 ID:55na+vN5O
- 心配の種が三つほど。
まず、釘の破損。
折れでもしたら最悪だ。
次に、木材の破損。
釘でゆるく打っただけの頼りない椅子は、砕けるかもしれない。
そして、なにより壁の破損。
修理費の徴収は避けなければ。
(;^ω^)「やるかお」
接続の粗末な、ぐらつく椅子を持ち上げ、壁へ。
(;^ω^)「……」
トン
(;^ω^)
トン トン
慎重に、慎重に、僕は釘を埋めていこうとした。
トン
トン
(;^ω^)「……?」
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:08:10.98 ID:55na+vN5O
- (;^ω^)「打てて、ない?」
壁を触った。
(;^ω^)「まさか」
軽く、ノック。
(;゚ω゚)「まさか」
拳のとがった部分をあてがい、押した。
グニ
後になって僕は知った。
(;゚ω゚)「こ、こ、これじゃあ!」
囚人の自殺防止用に、部屋――いや、独房――の壁は耐衝撃素材で作られていた。
(;゚ω゚)「釘なんか打てないお!」
僕はすぐに椅子をうっちゃり、壁中を触って回った。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:15:19.29 ID:55na+vN5O
- 壁。
ダメ。
床。
ダメ。
ドア、シャッター、モニタ投影位置。
全部ダメ。
(;゚ω゚)「まずい……、まずいお」
カラン
(;゚ω゚)「!」
僕は気付いてしまった。
(;゚ω゚)「ああああ!」
放った拍子に椅子はバラバラになってしまっていた。
(;゚ω゚)「あ、ああああ!」
しかも、一ヶ所は致命的な破損を……。
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:20:04.66 ID:55na+vN5O
- (;゚ω゚)「いす、いす、く、あああ」
手に手に木と釘とを持ち、合わせあった。
(;゚ω゚)「いいい、いすっ、がっ」
もちろん、くっついたりはしなかった。
それでも僕は止めなかった。
こうなってしまうと、時間が経つのは早かった。
(;゚ω゚)「あと30分」
これの報酬はいくらだ?
いや、違う。
それの1.2倍額だ。
ペナルティはいくらだ!?
(;゚ω゚)「ひいいぃぃぃぃ!」
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:26:46.09 ID:55na+vN5O
- そこで僕はモニタに開始時と異なる文字列を発見した。
(;゚ω゚)「『購入』画面……」
始めの数秒はそれの意味するところが分からなかった。
そんなところに助けがあるなどとは考えなかったのだ。
(;゚ω゚)ハッ
思い立った時には、僕は木材を捨て、タッチパネルを叩いていた。
(;゚ω゚)「クソが! タスク中にも買えるなら始めからそう言えお!」
『生活用品』をめくった。
次ページ。
さらに次ページ。
モニタ上の残りカウントが減っていく。
(;゚ω゚)「あるんだろ! 早く!」
膨大な商品数がここで仇となった。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:32:44.71 ID:55na+vN5O
- (;゚ω゚)「あった!」
[釘(50本) 200]
まずは、一つ。
『残り時間27分』
(;゚ω゚)「秒まで表記しろ! はっ、はやく、次!」
さらに17ページ分めくった先に、もう一つ。
[木材・棒 オーダー]
(;゚ω゚)「オーダー!?」
『サイズ指定と本数を入力してください』
(;゚ω゚)「ちくしょう!」
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:40:55.82 ID:55na+vN5O
- 転がる木材に手をあてがった。
(;゚ω゚)「親指から人差し指までが……」
20cm、21cm?
限界まで広げれば確か22cmにも伸びたような……。
『残り時間22分』
(;゚ω゚)「筆記具の中に定規が……!」
しかし、それは広間のベッドの上だ。
(;゚ω゚)「メジャー、メジャーを――」
メジャーをわざわざ買うのか?
高いかもしれないのに?
傾向として多目的な道具ほど安価だ。
長さを測るだけの道具はどうだ?
しかも、すぐに商品ページから探し出せるか?
自問は数多。
自答は、耀??いつかない。
- 191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:46:43.40 ID:55na+vN5O
- (;゚ω゚)「い、すっ……長さがメジャー、じかっ時間」
『残り時間18分』
(;゚ω゚)「はああああああ!」
目算で数字を打ち込み、一本購入。
ピッ
[木材 10クレジット]
要求クレジットは低かった。
(;゚ω゚)「少し長い……!」
比べれば太さも異なった。
(;゚ω゚)「たぶん、幅が3mmくらい短くて――」
[木材 10クレジット]
(;゚ω゚)「短すぎる!」
『残り時間15分』
( ;ω;)「わああああ!」
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:50:25.79 ID:55na+vN5O
- 残り時間10分のところで、ついに当たりを引いた。
( ;ω;)「あああ、あとは、ハンマーを」
ピッ
ピッ
ピピッ
時々指先が震えて2ページめくり、確認のために戻した。
ピッ
ピピッ
ピッ
[ハンマー 1000]
もはや即決だった。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 22:55:34.27 ID:55na+vN5O
- 『残り時間5分』
( ;ω;)「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
カッカッカッカッ
『残り時間3分』
ガッ
( ;ω;)「あだっ、うあ、あああ」
カッカッカッカッカッ
『残り時間1分』
( ;ω;)「ヒィ――! ヒィ――!」
ガッガッガッガッ
メキ ポキ
( ;ω;)「ああああああ!!」
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:02:29.17 ID:55na+vN5O
- ( ω )
『ペナルティ』
『成功報酬――』
『1.2倍が――』
( ω )
『――』
モニタに流れる文字を追いもせず、僕は部屋を後にした。
残ったのは中身が半分ほどに減った釘の箱、ネイルハンマー。
そして、ペナルティで減ったクレジットのみだった。
自分の馬鹿さ加減に嫌気が差して、一度ハンマーを壁に向けて振り上げた。
( ω )「――ッ」
しかし、やはりできずに終わった。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:10:48.33 ID:55na+vN5O
- こんな作業ですら失敗する自分の無価値を思い知った。
作業開始前にモニタに触れ、工具を入手すればよかったのだと、後悔した。
定規が手元にあれば無為にクレジットを消費することはなかった。
最後に力みさえしなければ、椅子を叩き折りなどしなかった。
本当に些細なことの積み重ねがミスにつながってしまったのだ。
馬鹿だ。
どうしようもない馬鹿だ。
( ∩ω )「クレジットは」
残高、1720。
食事一回でトぶ。
無駄な出費が本当に痛かった。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:21:27.25 ID:55na+vN5O
- ***
慎重さに輪をかけて荷物を持ち運ぶようになって何回目かの広間。
日付変更もしないのに、アナウンスが流れた。
『特別更生プログラム参加者の皆様へお知らせです』
( ω )「お?」
僕はこの時、週末の徴収に向けたクレジット調整中で食事を抑えていた。
荒んだ目付きだったと思う。
『本時から48時間、報酬クレジットにボーナスが付与されます』
( ω )「ボーナス」
『タスク内容の若干のレベルアップが伴います。ご注意ください。以上』
やはり、説明は大雑把だった。
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:28:07.63 ID:55na+vN5O
- 僕の心の声を正直に表すと以下の通りだった。
「必ず裏がある」
( ω )「今度は何を言ってないんだお?」
すぐ考え付くのはペナルティの増加。
報酬が増えれば当然の結果だ。
若干のレベルアップ、というのも怪しかった。
特にその方向性は気になるところだっだ。
制限時間の短縮。
いや、48時間もあるのだから、むしろフルに使わせるものか。
複雑化。
例えば、ボルトにネジを詰めたものを利用して何かを組み上げる。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:34:32.32 ID:55na+vN5O
- ( ω )「48時間」
48時間過ぎる途中には一週間の節目を越えており、徴収はその後にくりこされるのだろうか。
( ω )「本当にボーナスなのかお?」
もしかして、クレジットの低い参加者に対する救済措置なのか。
それとも別の目的か。
( ω )「おい、見てるんだろ」
僕はギョロギョロと壁の上を視線で舐めた。
( ω ゚)「どこにいるか分からんが答えろお」
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:43:24.54 ID:55na+vN5O
- ( ω゚ )「何が目的だ! また陥れるつもりだろ!」
この頃の思考はもっぱら、「これはプログラムと言う名の行動実験である」というものを基礎に敷いたものだった。
( ゚ ω )「カメラはどこだお! ペナルティはなんだ!」
気が立っていた。
クレジットは簡単な食事なら二回と、徴収にもおそらく対応できるほどがあった。
だが、ついに21日目を目前にして、僕は栄養不足を実感していた。
野菜不足によるビタミン欠乏とでもいうのか。
目はかすみ、肩が重かった。
考えること全てがネガティブだった。
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:51:45.71 ID:55na+vN5O
- きっと、誰かが僕らのような人間を集めてモニタリングしているのだ。
おや、こいつは馬鹿だな。
食事を削っているぞ。
このタスクをここまでのレベルならクリアできるでしょう。
いやいや、無理だろう。
どんな馬鹿な作業をやらせてみようか。
白衣を来た学者達が喜々として画面前で討論している。
そんな妄執にとりつかれていた。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/28(水) 23:58:16.21 ID:55na+vN5O
- しばらくわめいた後に、僕は黙って考えだした。
単に食べるだけでなく、良いものを食べる必要がある。
朝食セット二回分くらいのクレジットを使用して、体を充実させなければ。
そのためにはもちろんボーナスを逃す手はない。
だが、ペナルティは困る。
うじうじとうつ向いて考えること、一時間。
僕は結論を出した。
( ω )「大丈夫、大丈夫。大丈夫なはず……。絶対大丈夫」
足が「歯車」の外周に向かっていた――
- 220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:09:07.48 ID:qCOO5QGIO
- ドアの前に立てば、いまだ聴いたことのなかった重々しい機械音。
ガッチャン ガゴン ゴゴン ゴン ガゴゴ
順々に鳴るそれらは、連動しているように思えた。
しばし間を置いて、ようやくドアは開いた。
ひらけた視界に飛び込んできたのは、いつもの倍ほど広い部屋と、
(,,゚Д゚)「!」
見知らぬ男、だった。
- 225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:21:34.95 ID:qCOO5QGIO
- (; ω )「人……」
(,,゚Д゚)「よう、アンタ隣房の囚人か?」
(; ω )「そ、そうだお」
(,,^Д^)「そうか! よかった!」
何がよかったかは訊かなかった。
正しくは、訊けなかった、と言うべきか。
(; ω )「あ、の、その」
殺風景な小部屋で、いかなる過酷なタスクが待っているのか、と身構えていた。
なのに目の前には朗らかな笑顔の男。
思考が状況に追いつかなかったのだ。
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:28:45.81 ID:qCOO5QGIO
- (,,^Д^)「なあ、入口で固まってないでこっち来いよ。たぶん二人になるってことは協力系タスクだぜ」
(; ω )「協力?」
(,,゚Д゚)「ああ、だからボーナス獲得のためにも語り合おうぜ」
(,,^Д^)「人と会うのも久しぶりだしよ!」
男が立っていたのはモニタの真ん前だった。
そこには、購入画面。
タスクは表示されていなかった。
(,,゚Д゚)「あんまりにも待たされるんで、なけなしのクレジット使っちまうとこだった」
そう言って、男はまた笑った。
- 232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:35:41.72 ID:qCOO5QGIO
- 僕はその笑顔につられて、固まった表情筋を無理に引き上げてみた。
( ^ω^)「ですかお」
答えると二人同時に腹の虫を鳴かせた。
(,,゚Д゚)
( ^ω^)
(,,^Д^)「ギコハハハハ!」
( ^ω^)「おっおっお」
まだ声を上げて笑うことができるのか、と自分で驚いた。
(,,゚Д゚)「アンタの房はD-363か?」
( ^ω^)「いや、365ですお。365days」
(,,^Д^)「一年か。丁度俺の刑期と同じだ」
( ^ω^)「あれ、するとあなたも」
(,,゚Д゚)「おろ? なんだアンタもか」
男は部屋の中央に?o§った。
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:40:24.16 ID:qCOO5QGIO
- 僕もならうと、男は思い出したように、D-365房へのドアへ駆け寄った。
(,,゚Д゚)「あっ、しまった! クソッ!」
( ^ω^)「どうしたんですかお?」
(,,゚Д゚)「いやあ、部屋の構造に違いがあるのかと思って見たかったんだが……クソー」
シャッターの下りた出入口はうんともすんともいわなかった。
( ^ω^)「たぶん、大差ないですお」
(,,゚Д゚)「ただの広間?」
( ^ω^)「ですお」
(,,゚Д゚)「天井の高さはどんくらいだ?」
( ^ω^)「ここと同じくらい」
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:47:04.76 ID:qCOO5QGIO
- (,,゚Д゚)「ほーん、そんなもんか……っ」
体を向けて受け答えしていると、男はどことなく表情が固くなった。
(,,゚Д゚)「あー、そしたらそうだな。アレだ」
( ^ω^)「?」
何となく、違和感があった。
(,,゚Д゚)「そのー」
( ^ω^)「なんですかお?」
男は両手を腰に回して、突然上体を捻り始めた。
それは腰を伸ばすストレッチのような仕草だったが、ひどく不自然だった。
(,,゚Д゚)「そう、モニタに違いはあるんかな」
( ^ω^)「モニタに?」
僕は男のいる方とは逆の、モニタの方に顔を向け――
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 00:50:10.09 ID:qCOO5QGIO
-
振り向いたモニタには、タスク。
( ゚ω゚)
『室内生存人数一名を満たせ』
背後に走り寄る気配を感じた。
- 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:00:34.03 ID:qCOO5QGIO
- 「恨むなよ」
そんな台詞を聞くなり、僕はかなり無様に床を転がった。
(,,゚Д゚) チィッ
大股で跳んだ男が、僕の体を追うように腕を振るった。
その手には、15cmほどのもの。
ピッ
(―゚ω゚)「!」
右目の下辺りを高速で何かに擦られた。
(┬゚ω゚)
トロッ
いや、斬られた。
- 259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:07:13.42 ID:qCOO5QGIO
- (,,゚Д゚)「モニタなー」
激しい拍動を首元に覚えていると、男はナイフを舐めるように見つめながら口走った。
(,,゚Д゚)「操作しないと案外すぐメインの画面に戻るんだな」
(┬゚ω゚)「ハァ……ハァ……」
(,,゚Д゚)「もうちょい隙を伺えると思ったんだけどな」
(┬゚ω゚)「お前」
タスクは表示されていなかった。
部屋に入った時は、タスクは表示されていなかった!
(┬゚ω゚)「お前!」
タスクの指すところを理解すると、僕は持参のネイルハンマーをベルトループから外した。
- 265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:14:46.92 ID:qCOO5QGIO
- ボーナスステージは、命の取り合いを強要していた。
制限時間はおそらく、48時間いっぱい。
モニタを確認する余裕はなかった。
じりじりと距離をはかり合う間に、よそ見できるような人間ではなかった。
(┬゚ω゚)「お前、その、そそ、その、言い方は」
(,,゚Д゚)「なんだよちゃんと喋れよ」
(┬゚ω゚)「か、隠して?」
(,,゚Д゚)「だからそう言ってんだろ」
面倒くさそうに溜め息をつくと、男は構えを解いた。
(,,゚Д゚)「内藤ホライゾン、23歳、無職。日系マーズ(火星生まれの日系人)」
(┬゚ω゚)「!?」
- 269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:21:59.11 ID:qCOO5QGIO
- (,,゚Д゚)「黙っとけよ内藤。お前馬鹿なの? タスクをこなすってそういうことだぜ」
(┬゚ω゚)
(,,゚Д゚)「与えられたやるべきことを、最大限自分の能力活かして消化するわけ」
(┬゚ω゚)「だからって、お前、人を殺――」
(,,゚Д゚)「生きるためならやるさ」
再び腰を落とした男のうつむいた顔は、頬がやけに痩けて見えた。
飢えているようだった。
彼も、僕と同じように。
(┬゚ω゚)「生きるためなら」
嘔吐しそうなほどの強烈な空腹感が突然襲ってきた。
- 273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:29:41.14 ID:qCOO5QGIO
- (,,゚Д゚)「少なくとも、お前の経歴見る限り負けなさそうだったしな。ますますカモだと思ったぜ」
(┬゚ω゚)「ハァ……ハァ……」
僕は頬に流れる血を袖で拭った。
(,,゚Д゚)「運動は苦手らしいな? 食事も近頃はまともに摂れてない」
(―゚ω゚)「ハァ……ハァ……」
(,,゚Д゚)「俺もあんま食ってねえがな」
(,,゚Д゚)「ギコハハハハ」
急に落ち窪んだように、目元がかげって見えた。
鈍い眼光が、僕を射抜いた。
(,,゚Д゚)「死ねよ」
そして、ナイフの刃が煌めいた。
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:37:52.72 ID:qCOO5QGIO
- (―゚ω )「くっ!」
ミギョリ
とっさに眼前に振り上げたハンマーの釘抜き部分が、刃削りながらナイフを捕えた。
(,,゚Д゚)「はっ」
しかし、それも意に介さぬように男の腕はなめらかに、下方へ滑った。
ビッ ズッ
グリップを握っていた指の中程が切り裂かれた。
(;゚ω )「――ッ」
思わずハンマーを取り落として、後退した。
(,,゚Д゚)「こりゃあ今回もいただきかなあ」
- 281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:47:49.68 ID:qCOO5QGIO
- 上下左右に走る刃先が囚人服や肌を無差別に裂いた。
その深さに応じて痛みは強く、僕の後退具合も大きくなった。
(―゚ω )「ッ」
(,,゚Д゚)「なんでここの新顔君達はすぐ二の足踏むんだよ」
(―゚ω )「うっあっ!」
右胸の肉が斜めに切られた。
(,,゚Д゚)「タスクだってどんどんやっちまえよ。もちろんミスらないように」
逃げ遅れた左手の指先が切られた。
(,,゚Д゚)「俺に当たったのは残念だったがなー……。ギコハハハハ……」
よどんだ目に、もはや光は見えなかった。
- 287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 01:55:35.31 ID:qCOO5QGIO
- ドン
背中が壁にぶちあたった。
(―゚ω )「!」
そして、同時にあることに気付いた。
(,,゚Д゚)「俺も腹減ってるんだ。クレジット稼がせてくれよ」
(―゚ω )ドクン ドクン
男はナイフを逆手に持ち替え、掲げた。
僕は「それ」の位置を後ろ手に確認した。
(,,゚Д゚)「たぶん、苦しまないだろうから力抜けよ。案外筋肉の上滑るから」
(―゚ω )ドクン ドクン
切れた指先を、男から隠して後ろポケットに。
指先がそれに触れた。
(,,゚Д゚)「じゃあな。ボーナス、いただきます」
一際強く振り被った瞬間が、勝負だった。
- 292 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 02:01:43.91 ID:qCOO5QGIO
- (―゚ω )「!」
僕は、「釘の入った箱」を力任せに男の顔面に叩き込んだ。
(,,゚Д゚)「!」
と、同時に、肩に強烈な熱さを覚えた。
(―゚ω )「うああああ!」
そして、結果として――
- 295 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 02:08:10.24 ID:qCOO5QGIO
-
ナイフを振り下ろす右腕の下をかいくぐったあと、
(;,メД゚)「がっ――!? うお、あ``っ! あ`` あ`` あ`` あ``!!」
20本あまりの釘がカウンター気味に、男の右顔面をズタズタにした。
- 296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 02:10:07.38 ID:qCOO5QGIO
-
――話は、ようやく現在に戻る。
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 20:54:50.99 ID:qCOO5QGIO
- ***
簡単な医療キットを購入した後、僕はシャッターの方へと歩いていった。
コンコン
タスクを達成しても、すぐに解放はされないようだった。
(;^ω^)「っ」
僕は頬に絆創膏を貼り、指先、胸、切り裂かれた各所を消毒する。
(;^ω^)「いたたた」
こんなに深く傷を作ったのは生まれて初めてだ。
( ^ω^)「ふう」
あらかたの処置を終えると、僕は倒れた男――だった肉――に近付く。
( ^ω^)「……」
ぐち
そして、踏み、越えた。
- 357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 20:59:48.72 ID:qCOO5QGIO
- 陥没した頭から滲出する赤はもはや黒ずみ、粘りを持つ。
僕の持たない要素を、男は獲得した。
ボーナスはここからの解放だ。
解放は逃亡だ。
束縛からの逃避行。
( ^ω^)「なんだお、くたばれって言ったくせに」
ひひひ。
( ^ω^)「?」
アンタ、逃げられてよかったじゃないか、ひひひ。
( ^ω^)「……お?」
死んだら歯車から外されるんだぜ、くひひひ。
( ^ω^)「……ああ」
- 358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 21:00:31.86 ID:qCOO5QGIO
-
( ^ω^)「なんだ、僕、笑ッテイタノカァ」
- 360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 21:06:29.62 ID:qCOO5QGIO
- ――ふひひひ。
( ^ω^)「ナンダァ、ウルサイナァ」
僕は男の上を「絶対に」踏むように歩き回る。
( ^ω^)「可笑シイコトナんカナイのニ」
死を踏みつけた。
死を踏み越える。
ぬっちゃ
靴底に死がつく。
床に死が張り付いた。
僕は死を「絶対に」踏むように歩き回る。
( ^ω^)「ウルサイナ」
――生きるためになんでもするんだよなあ、ひひひ。
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 21:13:42.08 ID:qCOO5QGIO
- はっとして目を上げた。
( ^ω^)「お?」
気が付けば僕は薄汚い部屋に一人、なんだか生臭い塊と一緒にいた。
( ^ω^)「あれ? タスク終了って、ん?」
いつの間に僕はこんなところに。
それにしても、なんだこのぐしゃっとした塊は。
汚いから避けておこう。
( ^ω^)「おー、そういえばボーナスがなんたら、とか」
そうだパネルを触れば何か分かるかもしれない。
ピピッ
『タスク終了条件完了。ボーナス確認画面に移ります』
( ^ω^)「おお」
なんだちゃっかりボ ??ナスをゲットしていたのか。
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 21:22:34.46 ID:qCOO5QGIO
- 『D-364房の囚人が不在となりました。所持品があなたの管理下に移ります』
( ^ω^)「不在……。刑期満了ってやつかお。うらやましい」
ピッ
『現品支給とクレジット変換のいずれかが選択できます』
( ^ω^)「現品。見知らぬ人間に物くれるだなんて随分気前のいい人だ」
できれば収監されていた頃に会いたかったものだ。
きっといい話し相手になっただろう。
こんな「歯車」の中では何より音が欲しい。
普段は騒がしいと思うだけの生活音も、今は恋しいくらいだ。
( ^ω^)「クレジット……。うーん、このプ ?-グラムの傾向からいって見積もり無しに換金されちゃいそうだお」
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 21:45:48.58 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「売買は後でもできるし、と」
( ^ω^)「思ってはみたものの」
ボーナスと言うくらいだから、直接換金の方が売却よりも高価買取であるという可能性もある。
やはり説明が足りず、どちらに転べば良い方向に展開するかも予想できない。
( ^ω^)「あ、もしかして『隣房のデータ』はこのためにあったのかお?」
かなり限定状況向けの景品だ。
まるで役に立たないようで、その実、重要になる。
( ^ω^)「……決めたお」
僕はタッチパネルを操作する。
『おめでとうございます』
- 382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:00:45.68 ID:qCOO5QGIO
- シャッターが開く。
( ^ω^)「は?」
圧縮空気は背後で吐き出され、
( ^ω^)「こっちも?」
前方の――囚人不在の部屋の――シャッターからも、同様に吐き出され、
( ^ω^)「……所持品は直接取りに行くのかお」
2つの房が小部屋を挟んでつながった。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:07:31.84 ID:qCOO5QGIO
- 隣房は重力のかかり方が、僕の房とは45度違った。
こちらの「歯車」との噛み合いが斜めなのだろう。
広間の大きさ自体は大差がない。
ドアをくぐる瞬間に世界が傾いていたので戸惑ったくらいだ。
( ^ω^)「お、モニタにリストが挙がってるお」
『譲渡済み物品』
( ^ω^)「トイレ、ベッド……バスタブ? 高い物を買ったんだおね」
他にもつらつらと大きな物から小さな物まで、大体20品目ほどが羅列されていた。
内容は次の通りだ。
- 389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:14:49.63 ID:qCOO5QGIO
- 黒字で記されていたもの。
・サウナスーツ
・靴
・ニュースB
・ダンベル
・ベッド
・トイレ
・バスタブ
・化粧品
灰色表記のもの。
・隣房の情報
・あなた自身のプロフィール
・ナイフ
・ワイヤーソウ
- 393 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:22:55.08 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「ダンベルにサウナスーツ?」
一体どれほどクレジットに余裕があったのだろう。
それに、化粧品。
( ^ω^)「女の人がここに……って、あ」
( ^ω^)「そうか、そうだそうだ」
隣の房の囚人が「特別構成プログラム受講者」だったとは限らない。
( ^ω^)「きっと健康器具の差し入れでもあったんだお」
無理矢理納得してみようということに落ち着いた。
ナイフだってこんな宇宙の真っ只中じゃあ使い道なんかいくらもない。
( ^ω^)「しかし、所持品に『隣房のデータ』が入るってことは、僕??け見られてたみたいだお」
( ^ω^)「あんまりいい気分はしないお」
- 395 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:27:55.04 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「お、まだ次のページがあるお」
ピピッ
赤文字が表示される。
『D-364房』
( ^ω^)「……」
(;^ω^)「?」
確か僕の房が365で、ここは隣だから。
(;^ω^)「ここが364で」
『D-364房』
(;^ω^)「ここも、僕の所持品扱いなのかお?」
返答は相変わらず、ない。
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:35:15.60 ID:qCOO5QGIO
- ピッ
(;^ω^)「詳細情報をくれお」
黒字の道具は、名前をタッチするとすぐに売却するかを尋ねられる。
灰色表記のものは、反応しない。
赤字のD-364房は、特殊な情報を返す。
『リンク・D-365→D-364』
( ^ω^)「僕の部屋とつながったのは知ってるけど」
『常に、接続している小部屋を表示しますか?』
( ^ω^)「お」
「歯車」同士の回転で位置関係は変動しているのか。
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:41:53.63 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「今まで開かない部屋があったのはこれが原因かお?」
いや、しかし今回ボーナスタスクの時には、やたらものものしい騒音がしていた。
( ^ω^)「騒音」
そういえば、僕が入った小部屋は2つがつながっていて、中には、
(,, Д )
( ∩ω )クラッ
( ^ω^)「お?」
ちらつく姿に目がくらむ。
やがて、モニタがメイン画面に戻ってしまった。
あ、本当だ。
勝手に画面が切り替わる。
( ^ω^)「お、お?」
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:49:32.15 ID:qCOO5QGIO
- 立ちくらみ。
――ひひ。
揺れる地面。
誰かの手がモニタをいじる。
――くひひひひ。
『特別タスク期間終了まで、残り39時間』
あれ、もうこんなに時間が立っていたのか。
――くくく。
- 404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 22:57:14.72 ID:qCOO5QGIO
- (;^ω^)つ
ハァハァハァハァ
危ない、明らかに栄養不足だ。
(;^ω^)「物を売っ払ってご飯を買うお」
ボーナスなんだ、たまには少しくらい奮発してもいいはずだ。
週末の徴収まで、まだ時間もある。
(;^ω^)「たぶん次のタスクも気が付けば終わってるはずだお」
そうして僕は、重複して所持していた寝具、トイレ、バスタブ、靴などを売却した。
もちろん使途のない、化粧品やサウナスーツもしかりだ。
どうやら部屋も売り払えるようだったが、せっかくなのでしばらくは広々と過ごすことにした。
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:02:58.86 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「3400クレジット」
まあ、中古だらけなら妥当なところか。
( ^ω^)「今のオススメは、と」
ピッ
『食事』
『オススメ!』
( ^ω^)「キノコの煮込みハンバーグとシーザーサラダ。……4000クレジット」
いつもの倍額以上の食費。
いつもの感覚なら、絶対に購入しない。
だが、僕がこのボーナス期間にタスクを受けた理由は、食べるためだった。
まともに栄養を摂取しなければ、と思っていたのだ。
ピッ
( ^ω^)「今は食べるお」
- 415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:10:42.77 ID:qCOO5QGIO
- とろりと濃厚なソースに、その大きく丸い体を沈めた肉。
クルトンとベーコンを散りばめたクリーム色を浴びた野菜。
その薫りを堪能しようと鼻を近付けたとき、僕は思わずむせてしまう。
(;^ω^)「ぐっ」
本来、舌鼓を打つべきところを、薄味に慣れた僕の体は拒絶反応を示したのだ。
唾液腺がぎゅうと絞られ、もはや痛みを覚えるほどだった。
(;^ω^)「めちゃめちゃ安上がりになったもんだお」
付け合わせのパンを小さくかじって、ゆっくり、ゆっくりと料理を下していった。
- 419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:18:14.52 ID:qCOO5QGIO
- (;^ω^)「思ったより苦しいお」
胃が小さくなったということか。
収監前なら腹八分にも満たないほどの分量が、とても重かった。
(;^ω^)「うぇっぷ」
しゃがみ込めば、食べ物が小さく逆流する。
本番の嘔吐に発展しないよう、飲み込むのが大変だった。
(;^ω^)「安心して食休みするなんていつぶりだお」
ベッドに座り、天井を仰ぐ。
( ^ω^)フゥ
一食とはいえ、いくらかの栄養は摂れただろうか。
心なしか体の細胞が喜んでいるような気がした。
- 423 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:29:28.51 ID:qCOO5QGIO
- ( ^ω^)「外じゃあ好きに食べて、好きに休んで……」
ここには決められたメニューがローテーションで回っているだけだ。
食料だけは、『購入』画面で選べる種類が最も乏しい。
( ^ω^)「プログラムが終わる頃にはもっと恋しくなってるか」
僕はぼんやりと室内を見渡す。
さっき売却した道具は、まだそのままに残されていた。
おそらく僕がタスク中に撤去されるのだろう。
ダンベルを足裏で蹴り、転がす。
( ^ω^)「……」
特に、意味はなかった。
- 427 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:38:45.53 ID:qCOO5QGIO
- しばらくして、僕は特別タスクを受けに、ドアへ向かった。
『ボーナス期間、残り36時間』
( ^ω^)「あと何回稼げるか」
もう一度くらいは野菜も食べられるメニューを選びたい。
( ^ω^)「なんとか早く作業を終らせたいお」
残り刑期は11ヶ月と数日。
( ^ω^)「まだまだ先は長い……。健康体でないと乗り切れないお」
と、そこで指先の絆創膏に気付く。
( ^ω^)「怪我……」
( ω )ぐらぁり
( ∩ω )「……またかお」
- 430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:43:46.70 ID:qCOO5QGIO
- 例の、部屋同士の接続音。
ドアが開く。
小部屋はこれまでのものを2つくっつけたもの。
『重量を10kg落とせ』
――ひひひ。
床には1m四方のライン。
重量10kg。
ああ、さっきのダンベル、10kgくらいありそうだったなあ。
別のドアが開く。
「〜〜〜〜?」
なんだって?
――くくく。
- 436 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:53:12.83 ID:qCOO5QGIO
- 「あんた、プログラムの? 女だってのは間違いかよ……」
ドアにシャッターが下りる。
『生体重量確認、133kg。開始』
なるほど。
「重量10kg減……?」
そうなんだよ。
「難しいな」
できるさ。
「どうやって」
――生きるためだ、恨むなよ。
タスクを、課題をこなすことで、物事は廻るんだ。
- 441 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/29(木) 23:59:26.48 ID:qCOO5QGIO
- 歯車の歯が噛み合うには、こうするのが一番なんだ。
「ちょ、ちょっと待てよ、おい、なんだよ、それ」
――恨むなよ。
「う、わああああ!? ああああ!!」
逃げれば痛いだけだ。
「やめっ、やめ……」
10kgの「生体重量」だ。
どこを落とせば、いいと思う?
( ゚ω゚)「ひひ、ひ、ひ」
たぶん、僕の見立てでは――
- 443 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:01:36.74 ID:qCOO5QGIO
-
( ゚ω゚)「頭、一個分、くらいじゃあ、ナイカナァ」
- 452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:13:19.07 ID:MJL+vBoyO
- ***
パチリと朝に目覚めた気分だった。
( ^ω^)「お。またボーナス入ったかお」
いつものようにくちゃくちゃの塊を避けて、モニタへ。
特別タスク期間もこれで17回目だ。
三週間に一度のボーナス。
僕はタスクを上手くこなし続け、そろそろ刑期満了を迎える。
( ^ω^)「おー、とりあえず物はいらないから換金、と」
ようやくしっかりしたものが食べられる。
( ^ω^)「いやはや、一年も意外とあっちゅーまだったお」
- 459 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:21:18.02 ID:MJL+vBoyO
- 僕は大体平均して、一度のボーナス期間中に三回ほどクレジットを荒稼ぎしてきた。
譲渡された「歯車」は維持費ばかりかかるので、たまの引越しをする時以外は売り払った。
平常のタスクはかなりの高難度に至るものもあったが、『タスク配置情報』を購入してからは失敗も減った。
誰かが「どんどんタスクに挑んていけよ」と言っていた気がする。
( ^ω^)「まったくその通りだお。やることをやって、しかるべき報酬を得るのが正しい人間の姿だお」
僕は床にへばりついた塊を、帰り道は「絶対に」踏むようにして歩いた。
- 463 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:27:12.70 ID:MJL+vBoyO
- ( ^ω^)「お、新たなタスクだお。難度は……かなり低め。これを消化しておくかお」
百マス計算50枚を30分で解かなくていいなら、僕は喜んでそれをこなす。
( ^ω^)「暗闇・無音で2400分。ずっとやってなかったし、たまには」
クレジットが少し減って、疲れているなら、休めるタスクを選ぶ。
( ^ω^)「あと二日かお……」
記念だから、と減量部屋で必死に汗をかいて、失敗してみたりもした。
- 468 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:32:57.92 ID:MJL+vBoyO
- ***
『刑期が満了となりました』
いつものアナウンスとは異なり、男性の声が響いた。
( ^ω^)「お」
『出獄手続きを行うために指定小部屋に移動してください』
( ^ω^)「はい」
「歯車」の小部屋が歯と歯の噛み合いによって移動するらしい。
バケツリレーの要領だ。
( ^ω^)「少し名残惜しい気もするお」
ランプの点灯した小部屋の前で、広間を振り返る。
思えば始めの頃は苦痛ばかりだった。
- 470 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:38:22.50 ID:MJL+vBoyO
- ( ^ω^)「たかが4時間暗闇に閉じ込められただけでわめいたり」
ゴゴゴゴ ガチャン
小部屋が移動を始めたようだ。
定期的に重力位置がわずかに変動していく。
( ^ω^)「椅子が作れなくて泣いたりもしたっけ」
ゴゴゴゴ
( ^ω^)「食事も削ってみたり、色々無茶もしたお」
ゴゴゴゴ
まるで走馬灯のように思い出が巡る。
( ^ω^)「最良の方法をできるだけ早く考案する。そうすれば済む話ばかりだお」
ゴゴゴゴ
- 472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:42:25.33 ID:MJL+vBoyO
- ガチャン ガガガ プシ
( ^ω^)「お」
( ・∀・)「どうも、ご足労いただきまして」
( ^ω^)「いえいえ」
( ・∀・)「ではこちらに座っていただいて、特別更生プログラムについてアンケートを」
( ^ω^)「アンケートですかお?」
( ・∀・)「ええ、刑期満了まで受講していただいた方には必ずお話を伺っているのです」
( ^ω^)「はあ」
- 475 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:45:29.82 ID:MJL+vBoyO
- ( ・∀・)「――すると、あなたはボーナス期間で主に調整しようと?」
( ^ω^)「いえ、できる限りの余裕を持って、多くの利益を産み出そうと」
( ・∀・)「しかし、難度は上がっていきましたが」
( ^ω^)「それはそういうものなのだから、仕方がないと割り切りましたお」
( ・∀・)「それでは最後の質問です」
( ^ω^)「はい」
( ・∀・)「あなたは自分が更生したと思いますか?」
( ^ω^)「もちろん!」
- 482 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 00:54:22.83 ID:MJL+vBoyO
- (,,゚Д゚)「そうだろうな?」
( ・∀・)「では、内藤ホライゾン、罪状『未就職』。あなたの出獄手続きを以上とします」
(,,゚Д 。)「タスクだもんな」
( ^ω^)「……ッ」
(,,メД 。)「生きるためだもんな」
( ・∀・)「つきましては、我々のご用意した就職先で」
(,;#メД 。)「仕事だぞ、よかったな」
(;゚ω゚)ザワッ
- 491 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 01:00:00.53 ID:MJL+vBoyO
- (,;-#メД 。)「必要なんだろ」
(;゚ω゚)「――」
(´:::ω|`)「タスクが必要なんだよね」
( ・∀・)「内藤さん?」
从 #"※从「だからアタシ達をこうしたんだろ」
(;゚ω゚)「はやく、はや、く……指示を、タスクを」
「タスクがそんなに欲しいんだろ」
( ・∀・)「……」
- 495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 01:06:33.93 ID:MJL+vBoyO
- ( ・∀・)】「すみません、更生プログラム参加のうちの一人が……はい、未就職の」
「うわあああ、あああ、あ、あ、あ!」
( ・∀・)】「珍しく未就職の人間が生き残ったんで期待したんですが」
(;゚ω゚)「やることを、タスクをくれお! タスクを!」
( ・∀・)】「ええ、聞こえますよね。壊れてました。……あ、もういいですか?」
(゚ ω ゚)「あわ、わ、わ……」
( ・∀・)「内藤さん、もう人口増えすぎたからいらないって」
( ・∀・)】「はい、また」
( ;ω;)「タスクを、タッ、タスクをぇ」
( ・∀・)「じゃあ、あげますよ」
- 500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 01:10:27.98 ID:MJL+vBoyO
- ( ・∀・)「『速やかに、周りを汚さずに死ね』」
( ;ω;)「ああ……」
僕は喜んで、テーブルの上に登る。
そして、頭を下に向けて、まっさかさまに飛び降りた。
計算なんかしなくても、最良の方法は最速で把握できる。
( ・∀・)「はあ」
ありがとうございます。
タスクがこれで完了できる。
- 507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 01:15:29.63 ID:MJL+vBoyO
- 脳天に衝撃を受けた瞬間、僕の体は達成感に、幸福感に満ちた。
やったぞ! 僕は課せられた仕事を立派に果たした!
首がねじ曲がる。
視界が潰れる。
いや、文字列が浮かぶ。
『おめでとうございます。タスク完了』
べ
ぎ
ぼ
ぎ
- 510 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/10/30(金) 01:18:53.35 ID:MJL+vBoyO
-
――ただの「社会の歯車」なら、機械で足りてるって。
幸せの瞬間に、そんな声を聴いた気がする。
でも、僕はもう、それ以上、何も、考エラレナカッタ――
( ^ω^)もまた、歯車になるようです
おしまい―タスク完了