( ∵)は( ^ω^)の遊園地にやってきてしまったようです その9
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:42:47.15 ID:N4V+sCfb0
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カーラジオからかかる軽快な音楽。
見慣れた風景が流れていって、だんだん知らないものになっていく。
ビル郡の背が、だんだん小さくなっていく、というか。
( ・□・)「大丈夫かい? 少し顔色が悪い気がするけど」
助手席の男の人が、後部座席に座る僕に声をかける。
「少し車酔いしたみたいです」と言って笑ってみせる。
(#゚;;-゚)「そう、じゃあ少し休みましょうか? 」
運転席にいる女の人が、ちらりとこちらを見るが、できるだけ丁寧な言葉で断る。
女の人が、無理しないでね。と言ってにっこりと笑う。
( ・□・)「ところでずいぶん荷物が多いね。
あらかたうちに揃ってるから、最低限の物だけで良いのに」
( ∵)「あ、……極力減らそうとはしたんですけど」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:44:49.38 ID:N4V+sCfb0
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( ・□・)「いいよいいよ。必要なものがあったら言ってね」
男の人もにこにこと笑う。
2人とも、いい人って感じがした。嘘臭くない、本当のさわやかな笑顔。
(#゚;;-゚)「あ、ねぇ、ビコーズ君って農業とかしたことある?」
( ∵)「農業ですか? ううん、ありません」
(#゚;;-゚)「そうなんだ、うちのホームには大きな畑があってね。
みんなでお野菜とか育ててるのよ。良かったら手伝ってほしいな」
( ∵)「へぇ、やってみたいです、農業」
適当に世間話をしながら、窓の外を見つめる。
少し目を放した隙に、ずいぶん田舎に来ていた。車の通りもずいぶん少ない。
と、ひとつの大きな看板が目に留まる。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:45:50.10 ID:N4V+sCfb0
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( ∵)「人生オワタランド? ここから2km……」
( ・□・)「あぁ、遊園地だよ。最近この辺りに出来たんだけど
客の入りが悪いらしくて。もうすぐつぶれるって、もっぱらの噂さ」
( ∵)「へぇ……」
遊園地、か。
おじいちゃんが若いころ働いてたって。よくその時の話をしてくれたっけ……
( ・□・)「ん、変なにおいしない?」
(#゚;;-゚)「におい? んー、そういえば」
( ∵)「え、あ、そ、それ僕です。
水道止められちゃって、もう2日くらいお風呂に入ってなくて。あははは」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:47:27.15 ID:N4V+sCfb0
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さっきまでクンカクンカしていた二人が、慌ててフォローに回る。
(;・□・)「いや、いいんだよ! 仕方ないよね! 」
(;#゚;;-゚)「え、ええ。それにそんなに、言うほど気にならないし。
あ、ホームにはちゃんとお風呂あるからね」
( ∵)「……」
(;・□・)「あ、ビコーズ君おなかすいてない?
何か食べていこうか? 」
(;#゚;;-゚)「そうね! あ、そういえば丁度もうすぐファミレスがあったわ!
ちょっと寄っていきましょうか」
( ∵)「……」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:48:43.76 ID:N4V+sCfb0
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車は国道沿いのファミレスに止まった。
僕は特にお腹すいてなかったけど、二人がどうしても・というから。
( ・□・)「あ、荷物は車においておけばいいよ」
( ∵)「え、っと、持っていっちゃだめですか? 」
(#゚;;-゚)「?
ダメじゃないけど、重くない? 」
( ∵)「平気です」
確かに重たいカバンを、ずるりと肩にかけて車のドアを閉める。
( ∵)「あの、僕、ちょっと外の空気吸って休んでから行きます。
先にお店に入っててください」
( ・□・)「……? わかった」
首をかしげて、店内に入っていく2人。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:50:56.36 ID:N4V+sCfb0
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一人外に残された僕は、カバンをかけなおして
来た道を歩き始めた。
なぜかは解からない。施設から逃げたかったのかもしれないし
それとは違う別の何から逃げたかったのかもしれない。
( ∵)「はぁ」
しばらく歩いて、ため息をついた。
丁度目に入った公園に入って、ベンチにこしをかける。
僕は今何をしてるんだろう。
頭がぼんやりして、冷静に物事を判断することが出来ない。
下に置いたカバンをひざに置いて、チャックを開ける。
花の模様の首輪、白いかたまり。暖かさは無い。
( ∵)「う……」
なんだか知らないけど泣けてきた。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:53:59.86 ID:N4V+sCfb0
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はなちゃんが殺された時、おじいちゃんが死んだ時、カーチャンがでていった時。
特にこらえていたわけじゃなかったけど、流さなかった涙が
だらだらと垂れ流された。僕の感情に関係なく流れ続ける。
( ∵)「うううえええ」
外で声をあげて泣いたのは、物心がついて以来初めてかもしれない。
息が詰まる。胸と喉が苦しい。鼻水もだらだら出てくる。
なんかもうとまらない。このまま窒息死するかもしれない。
あ、そうだ。このまま泣いてたら死ねるかな。
“……おいで……”
( ∵)「……え? 」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:56:47.95 ID:N4V+sCfb0
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“……日本一のジェットコースター、恐怖の館、観覧車……”
どこからか、歌が聞こえてくる。
“……喜色満面、喜笑顔開、有頂天外をあなたにお届けします……”
軽快で、でもゆっくりとした曲。
すぐそばで誰かが歌っているような、でも蓄音機から流れているようにも聞こえる。
( ∵)「な、なんだろうこの音……」
立ち上がって周りを見渡しても何も無い、誰もいない。
“……ブーンの遊園地……
スタッフ一同、あなた様のご来園を心よりお待ちしております”
やがて、歌はとまった。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 00:58:46.33 ID:N4V+sCfb0
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( ゚∀゚)「……思い出したか? 」
案内係さんが、僕を見てニタリと笑う。
シルクハットの下から見える、くっと上がった口角がいやに不気味だ。
僕はその問いに、ちいさく頷く。
なくしていたものの全てが入ってきた。
それがどんなに辛い物でも拒むことは出来ない、これは僕自身の記憶なんだから。
( ゚∀゚)「思い出したんなら、願いも決まっただろう? 」
( ∵)「……」
( ゚∀゚)「? 」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:00:50.85 ID:N4V+sCfb0
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何も答えない僕をきょとんとした表情で見る案内係さん。
ずっとここにいるか、現実に帰るか。
全て思い出した今、現実には帰る気にはならない。それどころか、恐ろしい。
でもだからといって、この闇に包まれた遊園地に永遠にいるっていうのは……
……また違う意味で恐ろしい。でも、どこか魅力的でもある。
( ゚∀゚)「なぁ、ゲスト」
( ∵)「? 」
( ゚∀゚)「お前、ここの園長になれ」
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:02:50.23 ID:N4V+sCfb0
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( ∵)
( ゚∀゚)「そうだそうだ、それがいい」
なんという唐突な提案。
園長って、一番偉い人でしょ? リーダーでしょ?
それに僕が? いじめられっこで、アルバイトもしたことない僕が? あああ、ありえない。
ぶんぶんと首を振って、必死にお断りする。
(;∵)「いやいや、ちょっと待ってください。
ぼ、僕まだ未成年だし、え、園長なんてそんな、無理です」
( ゚∀゚)「無理? どうして」
(;∵)「ど、どうしてって、だって、」
( ゚∀゚)「いいよな? 渡辺」
从'ー'从「いいとおもう〜」
遠くの方で退屈そうにしていた渡辺さんが、呑気に答える。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:05:19.59 ID:N4V+sCfb0
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む、むちゃくちゃだ。
だいたい普通、遊園地の園長って
A「お前がなれ」
B「いいんじゃない?」
C「はいわかりました、じゃあなります」
でなれるもんじゃない気がするし……。
いやでも、ここで使う普通ってすごく無意義だな。
( ゚∀゚)「よし、じゃあ決まりっつーことd……」
(;∵)「ちょちょちょ、待ってください! 僕には無理です! 決まってるじゃないですか!
大体僕はただのゲストだし、ゲストっていったらただの客ですよ?
スタッフの人達だって5人くらいしか知らないし
あ、案内係さんとだって会ってからあんまりたってないじゃないですか!
っていうかこんなトンデモな遊園地、僕が仕切れるわけないでしょ!
その義務、っていうか僕がやる理由もないし!」
僕は息継ぎも忘れるほど早口で捲くし立てた。
それを、腕組みをしてニヤニヤと見ているだけの案内係さん。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:09:53.28 ID:N4V+sCfb0
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僕が言い終わるのを待って、口を開いた。
( ゚∀゚)「理由は有る」
( ∵)「え? 」
( ゚∀゚)「そもそも、俺が何でおm……」
案内係さんが何かを言いかけた時、一つの強い風が吹いて
僕の視界は何かに覆われた。
( ∵)「!? な、なんだこれ」
突然襲ってきたそれに、慌てふためくしかない僕。
「少し落ち着こうか」
それを鎮めるのは、聞きなれた落ち着いた声。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:13:25.49 ID:N4V+sCfb0
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と、僕の頭にすっぽり覆いかぶさっていたものがふわりとどかされ
視界が開けた。そこに当たり前にある案内係さんの姿。
……あれ? でもなんかおかしい……、ような。
( ∵)「あ、案内係さん? 」
( ・∀・)「なんだい」
さっきまでかぶっていたはずのシルクハットを手に持った案内係さんが
にっこりと微笑む。
なるほど、さっきのはシルクハットが飛んできて僕の頭に着地したのか。
って、ギャグマンガみたいだ……
( ∵)「あ、いや、それより
案内係さんさっきと……違わないですか?目の色とか……」
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:15:09.43 ID:N4V+sCfb0
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……
( ・∀・)「そうかな? 」
しばらくの間の後、とぼけたようにして言う案内係さん。
自分が変わっている事に気がついていないみたいだ。
……ん、なんかデジャヴュ 。……まぁいいか。
騒がしいのよりもこっちの方が、まだましかもしれんしね。
( ∵)「ところで、さっきの風、なんだったんでしょう」
( ・∀・)「? 風が珍しいのかな? 」
( ∵)「い、いや、そうじゃないですけど。
ここにも風って吹くんだなぁって……」
( ・∀・)「おかしな事を言うんだね。
風が吹かないと夏暑くて困るじゃないか」
从'ー'从「あっ、扇風機から風が来ないもんね〜。なるほどね〜」
意味不明な解釈を披露する案内係さんと、納得する渡辺さん。
僕も、夏あるんだ〜、へぇ〜と言いそうになって
ここに馴染みつつある自分になんか少し落ち込んだ。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:16:38.26 ID:N4V+sCfb0
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「……聞いちゃった……聞いちゃったぞぉぉおお……」
薄暗い園の、小さな塔。その影にちょこんと座り込む少女。
はぁはぁと肩を震わせて、何やらつぶやいている。
別に盗み聞きしていたわけではない。
本当に偶然に、そこに居合わせてしまっただけなのだ。
しかし、その会話の内容は
偶然居合わせて聞いてしまったにしてはあまりに衝撃的なものだった。
ノハ;゚听)「……ま、まさか、ゲ、ゲストが園長になるなんて!! 」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:18:00.92 ID:N4V+sCfb0
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ノパ听)「と、とりあえず、誰かに知らせなくてはなぁぁぁ……」
しかし、誰に知らせればいいのだろうか。
妹者ちゃんはダメ。この重大な情報が一瞬にして広まる事になる。
ツンちゃん……もダメだ。そんな事知ったら何をしでかすか分からない。
ドクちゃん、もダメ! きっとあの機関車で暴走するに違いない。
ノハ;゚听)「ど、どうすればいいんだぁぁぁぁぁ! 」
出来るならば、今すぐ園中を叫んで回りたい・が。流石にそれは……
「話は全て聞かせてもらったぞ! 」
ノハ;゚听)「! 」
突然した声に、慌てて後ろを振り返る。
ノパ听)「……???」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:20:10.52 ID:N4V+sCfb0
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誰もいない。気配も無ければ人が隠れらるスペースも無い。
あるのは、装飾が施された鏡が一枚だけ……
ノハ;゚听)「……って、鏡!!?? 」
( ´_ゝ`)「ふふふふふ……」
鏡の中で、不気味にほくそえむ兄者。
くそぉぉぉぉ! こんなところに鏡があるなんて気がつかなかったぞぉぉぉぉ!
ノハ;゚听)「まて兄者! この事は誰にも言うな! 」
( ´_ゝ`)「そうはいかん。
こんな面白い事を内に秘めておくなんて出来るわけが無いだろう!
園中の鏡という鏡を使ってみんなに広めてやる! ふはははは! 」
ノハ#゚听)「あほかぁぁぁぁ!
そんな事したって混乱が起きるだけだぁぁぁぁ! 」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:21:57.04 ID:N4V+sCfb0
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どうして寄りにもよって、こんな頭の足らないやつに知られてしまったのだ。
弟者ならまだ幾分かマシだったのに……。
( ´_ゝ`)「では、僕はそろそろ行くとしよう。面白い情報を有難う、adieu」
ノハ;゚听)「ま、待てぇぇぇぇぇ!! 」
待て、と叫んで待ってくれるはずはない。
鏡の中を自由に行き来できるのだから、止める手立ても無い。
こ、こうなったら……。
ノパ听)「兄者! 君は本当に頼りになるよなぁぁぁ! 」
( ´_ゝ`)「え? 」
ノパ听)「みんなも言っていたぞぉぉぉ! アイツほどイイ男はいないって!
私も、兄者を心底頼りにしてるんだぞぉぉぉ! 」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「……なんだそれは。ほめ落とそうっていう魂胆が見え見栄だが」
ノハ;゚听)「うぐっ」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:22:41.94 ID:N4V+sCfb0
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( ´_ゝ`)「大体みんなって誰と誰と誰だ。曖昧で嘘臭い」
ノハ;゚听)「みっ、みんなはみんなだぁぁぁ!
クーちゃんとか、ドクちゃんとか、ツンちゃんとか、」
( ´_ゝ`)「ふーん」
だ、ダメだ。信じてない。
ノハ;゚听)「あ、あと
妹者ちゃんも貞子ちゃんも渡辺ちゃんも……」
(*´_ゝ`)「え? 」
あれ? 今 貞子ちゃん って言った時すごい反応した!
……気がするけど、気のせいだよな!
(*´_ゝ`)「ゴホンゴホン、まぁ……いいだろう。
確かに、余り騒ぎが大きくなっては面倒だしな」
ノハ;゚听)(な、なんだか知らんが
解かってくれてよかったぁぁぁぁ! )
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:26:07.19 ID:N4V+sCfb0
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( ・∀・)「……」
( ∵)「案内係さん? 」
( ・∀・)「なんだい」
( ∵)「どうしたんですか、さっきから急に黙っちゃって……」
( ・∀・)「いや……、 …………」
( ∵)(……)
さっき風が吹いて、案内係さんが元に戻って、扇風機がどうこうのやりとりがあって
……それからしばらくこの状態が続いている。
話しかけても、いや、とか、ふうむ、とかしか返ってこない。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/16(火) 01:38:10.54 ID:N4V+sCfb0
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何か考え事でもしてるのだろうか。
それならば、最初に「今から考え事するから黙るね」とか言ってくれても……。
いや、それはちょっとおかしいな。
むしろ、「考えてるからどっか行ってて」とかの方がまだ自然か……
( ・∀・)「?
何か考え事でもしてるのかい」
僕がくだらない事を考えると、案内係さんが顔を覗き込んできて慌てる。
(;∵)「え? あ、いえ。考え事なんてほどじゃ……。
それより案内係さん、さっきは何で急に黙っちゃったんですか?」
( ・∀・)「いや……なんでもないんだけどね」
( ∵)「な、なんでもなしにあんなに黙ってたんですか」
( ・∀・)「ううん、風の噂を聞いていたんだよ」
( ∵)
なんだこの人……。それ、真顔で言うセリフじゃないだろ……。
ほんと、この環境でさえギリギリアウトだよ……。
僕は改めて、園長なんてお断りしようと決めた。
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