(´・ω・`)は狼少年のようです 第一話『ALONE』
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:51:14.67 ID:ilGGlo+k0
- 結論から言えば、彼は幸せだったのだと思う。
もう誰も彼をその問題において悩ませることは出来ないし、
何より彼は長年欲してやまなかったものを手に入れたのだから。
それが良かったのか悪かったのかは彼自身に直接聞けば早いのだろう。
しかしそれはもう不可能なのだ。
彼は既に僕らの手の届かない遥か遠くへと行ってしまった。
これからの僕の長い人生において、二度と彼と会うことはないと思う。
「(´・ω・`)は狼少年のようです」
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:52:08.93 ID:ilGGlo+k0
- 第一話『ALONE』
『きーんこーんかーんこーん』
間抜けな鐘の音が夕刻の校内に鳴り響く。
午後の退屈な授業の終わりを告げられ、眠気の漂う教室は一瞬にして活気付いた。
気だるげに居眠りから覚める者、隣の席の生徒に話しかける者、大きく息をつく者。
一日を終えた疲れと喜びをそれぞれのやり方でかみ締めている。
「えー、では途中ですが授業は終わります。残りの部分は各自が家で自習して……」
授業を終えた教師の声が解放された生徒たちに届くはずもなく、教室の喧騒に飲み込まれて消える。
ではこれで、と一方的に授業を打ち切り、教師はそそくさと教室を出て行った。
既に教室の中心ではクラスの中心グループでの生徒たちが談笑に興じており、
残りの生徒の殆ども友人と楽しそうに喋りながら帰り支度を進めている。
そんな中、誰と喋るでもなく教科書を仕舞って早々に教室を出た生徒が一人いた。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:53:20.06 ID:ilGGlo+k0
- (´・ω・`)「………」
今日もクラス脱出一番乗り。
中背中肉の常に憂鬱そうな顔をした少年、ショボンは黙々と家へと足を進めていた。
(´・ω・`)(くだらない……)
ショボンにはクラスに友達がいなかった。
そんな彼にとって、煩いだけの放課後の教室に居残るメリットなど何一つ無い。
むしろクラスにいることは彼にとって居心地が悪い以外の何物でもなかった。
かといって家に帰っても特にやることがあるわけではないのだが。
とにかくそんな訳で、ショボンはクラス早帰りナンバー1という不名誉記録を更新し続けている。
……そして。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:54:31.49 ID:ilGGlo+k0
- (´・ω・`)(……さて、そろそろかな)
( ^ω^)「……ブーーーーーーンーーーーーーキィーーーーーーック!!」
助走で勢いをつけた、ショボンへの背後からのとび蹴り。
(´・ω・`)「甘い」
振り返りもせず半身ずらしてこれを避けるショボン。その先にはコンクリの壁があり、
( ^ω^)「ぶひっ!?」
ごす、という鈍い音を立てて壁にぶつかり、派手に崩れ落ちるブーン。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:56:41.40 ID:ilGGlo+k0
- (;^ω^)「は、鼻……鼻血が出たお!いってえええええ!!なんで避けるお!!」
(´・ω・`)「毎日同じことされりゃ避けるだろ、常識的に考えて。
ほら、さっさとこれで血を拭けよ」
( ^ω^)「ありがとうだお!」
突然とび蹴りをかましてきたこの少年はブーン。
いち早くクラスを抜け出ることを日課とするショボンに対し、
この場所でとび蹴りを仕掛けることが日課であるのがこのブーンだった。
ブーンはショボンのクラスメイトであり、明るく裏表のない性格で皆から好かれる人気者だった。
よく言えばどこか憎めない奴、悪く言えば空気の読めない奴、というやつだ。
クラスメイトの殆どは根暗なショボンと関わることを避けているが、
この能天気な少年だけはその空気の読めなさゆえか何かにつけてショボンに構ってくる。
ショボンはそれを煩わしく思いつつ……、どこかで羨ましくも思っていた。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 01:58:49.99 ID:ilGGlo+k0
- ( ^ω^)「今日僕のうちに皆で集まってスマブラ大会やるお!
ショボンも来ないかお?」
例によって空気を読まずにショボンを遊びに誘うブーン。
クラスメイトから嫌われてるショボンが遊びの場にいけば、場が白けるのは明白だ。
(´・ω・`)「……僕はいいよ。用事があるから」
( ^ω^)「おっおっお、ショボンはいつも用事あるんだお。
バイトでもやってるのかお?」
(´・ω・`)「……そんなとこ」
嘘だった。
人付き合いの苦手なショボンにバイトなど出来るはずがなかった。
( ^ω^)「それじゃ仕方ないお。そんじゃばいばいだおー!」
両手を広げ、友人たちの待つ自宅へと駆けていくブーン。
そんな彼を鬱陶しげな視線で見送ると、再びショボンは家路についた。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:00:41.95 ID:ilGGlo+k0
- 家。
自分の部屋に帰ってきたショボンは、鞄を投げ出してベットにダイブする。
ぼふ、とベットに沈み込む体と共に、憂鬱な思考も深まっていく。
(´・ω・`)(毎日つまんないや……)
友人もいない、部活もやっていない、バイトもやっていない。
学校では一言も喋らずに居眠りと便所飯を繰り返し、
家に帰っても本を読むかゲームやエロゲをやるかの毎日。
将来何かやりたいことがあるわけでもなく、漠然とした不安だけが残る。
何もない、空虚な日々。
まさに絵に描いたようなぼっち人生をショボンは体現していた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:02:59.56 ID:ilGGlo+k0
- (´・ω・`)(……死のうかな)
だが自分が死んでも誰も悲しまないだろう。
むしろ両親はいい厄介払いが出来たと思うかもしれない。
まず、学校のやつらは自分がいなくなったことにすら気づくかどうか。
そう考えるとさらにショボンは憂鬱になった。
(´・ω・`)(……そうだ、あとであの場所に行こう)
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:05:38.34 ID:ilGGlo+k0
- 夜。辺りを暗闇が支配し、太陽に代わり月が空を支配する。
ショボンには憂鬱になるといつも行く場所があった。自宅近くの廃ビルの屋上だ。
一応立ち入り禁止になっているが、鍵は錆びて役に立たないので簡単に侵入できる。
ぎぃ、と古びたドアを開け、ショボンは屋上に出た。
廃墟らしく荒廃した雰囲気が漂い、よく分からないガラクタがそこらじゅうに転がっている。
そのなんともいえぬ虚しさは、孤独で憂鬱なショボンの心を落ち着かせるのにピッタリだった。
カビと埃で覆われた床を払い、仰向けに寝転がって夜空を見上げる。
(´−ω−`)(はぁー……)
この秘密の場所で夜空を見上げるのがショボンの唯一の心休まるときだった。
なんだか、ここにいるときだけが本当の自分を取り戻せる気がして。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:06:49.88 ID:ilGGlo+k0
- (´・ω・`)(つまらない学校)
(何もない毎日)
(……もう何もかもうんざりだ)
大きな月を見上げ、心地よい夜風を感じながらその余韻に浸るショボン。
多かれ少なかれ、人は誰しも思春期独特の人生への絶望感というものを経験する。
だが殆ど人間はそれを多忙な日々の中に埋もれさせ、やがてはそんな考えを抱いたことすら忘れ去る。
ショボンの日常はそれを埋め立てるにはあまりに空虚すぎた。
故に彼の絶望は他人とは比べ物にならないほどに、根深く、複雑に彼の心に根を降ろす。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:08:27.66 ID:ilGGlo+k0
- キィルケゴォルという哲学者は「絶望は死に至る病である」と言った。
ショボンは、死に至る病を抱えていた。
そしてその深い絶望の余韻に浸っている彼に、その声は聞こえなかった。
――――『見つけた』
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/12(木) 02:10:52.55 ID:ilGGlo+k0
- 第一話『ALONE』 fin
キーワード「空虚な日々、孤独、ショボンの秘密の場所」
読んで下さった人たち、ありがとうございました。
次回の投下予定は金曜の夜です。
よろしければお付き合いください。
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