内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - †吸血鬼ハンター川 ゚ -゚)のようです - 第三話
1 名前:作者 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:31:45.12 ID:bTuqrY0x0
※注意!地の文多めです。

※†主な登場人物
「吸血鬼ハンター」

川 ゚ -゚)
名前:クー   性別:男性   種族:ダンピール
伝説の吸血鬼ハンターと呼ばれ、彼の経歴、出身地などその素性は一切不明。
貴族(吸血鬼)と人間のハーフ、ダンピールである。
とてつもない美貌の持ち主で、彼を見たものは男女を問わず、彼の虜になってしまう。
その一見華奢に見える体も、実は鋼のように鍛えられており、
剣の腕も超一流で、彼の剣に切れぬものはないとさえいわれる。
無口な性格で、人と交わす会話は必要最低限のもののみである。

『マーカス兄弟』
五人の兄弟からなる吸血鬼ハンターで、辺境一とも言われる凄腕の吸血鬼ハンター。
しかし、残虐非道なやり口、同じ依頼にあたった同業者の排除など、黒い噂は絶えない。
十字架のデザインが所々に見られる装甲車に乗って移動する。
装甲車の中には生活に必要な資材がそろっており、三男のブーンのためにベッドも設置してある。

( ゚Д゚)
名前:ギコ=マーカス   性別:男性   種族:人間
マーカス兄弟の長男。
浅黒い色の肌に、黒の短髪、鋭い目つき、筋肉質で傷だらけの体。
野性味溢れるその見た目からは、彼が百戦錬磨の男という印象を受ける。
得意武器はボウガンで、遥か遠くの目標物でも正確に射抜ける技量を持つ。
弟思いで、兄弟の全員を可愛く思っている。
特に、生まれつき病弱である三男のブーンのことは一番大事にしている。

2 名前:作者 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:32:58.34 ID:bTuqrY0x0
(´・ω・`)
名前:ショボン=マーカス   性別:男性   種族:人間
マーカス兄弟の次男。
ハノ字眉毛と見上げるほどの巨体が特徴。
ハゲ。
得意武器は何百キロはあるかというハンマーで、彼はそれを軽々と使いこなす。
正確は冷静沈着で、兄弟の中では一番の常識人。
兄弟の野蛮な素行を目にすると説教を始める。

(ヽ´ω`)
名前:ブーン=マーカス   性別:男性   種族:人間
マーカス兄弟の三男。
白髪で、痩せこけた生気のない顔つきをしている。
生まれつき病弱で、一日のほとんどをベッドの上で過ごしている。

( ・∀・)
名前:モララー=マーカス   性別:男性   種族:人間
マーカス兄弟の四男。
小柄ながらも鍛えられたその体は、細くはあるが、鋼のような筋肉に覆われている。
お調子者の性格で、いつも一言多い。
得意武器は手裏剣を大きくしたような刃物で、ブーメランのように投げたりすることもできる。
目にも留まらぬスピードで動くことができる。

ξ゚听)ξ
名前:ツン=マーカス   性別:女性   種族:人間
マーカス兄弟の長女で末っ子。
美しい巻き毛の金髪で、全身赤のバトルスーツを纏っている。
女性ながら戦闘能力は高く、強力な衝撃弾を発射する巨大な重力銃を軽々と扱う。
車両、重火器の扱いに長けており、女性であるというハンデを感じさせない。

3 名前:作者 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:34:11.42 ID:bTuqrY0x0
「一般人」

( ФωФ)
名前:ロマネスク=エルバーン   性別:男性   種族:人間
電動車椅子に腰掛けた老人。
エルバーン家の主であり、とある辺境の町の町長である。
デレの父親であり、クーにデレを取り戻してもらうよう依頼した。

(’e’)
名前:セントジョーンズ=エルバーン   性別:男性   種族:人間
エルバーン家の長男。
クーとマーカス兄弟にデレを取り戻してもらうよう依頼した。

ζ(゚―゚*ζ
名前:デレ=エルバーン   性別:女性   種族:人間
エルバーン家の長女。貴族にさらわれた。
ロマネスクによると、その人柄は「誰にでも優しく接し、慈悲深い姿はさながら聖母のようである」という。

4 名前:作者 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:35:26.34 ID:bTuqrY0x0
※前回までのあらすじ

遥か遠い未来。
貴族と呼ばれる吸血鬼達の存在に怯えながらも、
貴族の支配から解き放たれた人々は徐々にかつての生活を取り戻していた。
しかし、貴族の脅威は未だ完全には去っておらず、その脅威を取り除くため、人々は吸血鬼ハンターの誕生を促した。

とある辺境の町で起こった、貴族が町の長の娘を誘拐した事件。
町の長は吸血鬼ハンターに娘のデレの奪還を依頼した。
彼が依頼をしたのはマーカス兄弟とクー。
どちらも凄腕の吸血鬼ハンターである。
依頼を受けた町から、さらに北上したところにある町では、
デレをさらった吸血鬼の手により町の人全員が吸血鬼となっていた。
マーカス兄弟は全ての吸血鬼を掃討した後、商売敵であるクーと遭遇する。

5 名前:作者 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:36:46.16 ID:bTuqrY0x0
「第三話 吸血鬼モナエルリンク」

マーカス兄弟とクーが遭遇した時から、既に半日以上の時間が経っていた。
雲ひとつない空に、天高く浮かぶ日の光が、過去の遺物であろう―
遥か彼方へと続くアスファルトで作られた高速道路だったのだろうか、その道を強すぎる熱気とともに照らす。
当たりには熱風が吹き荒れ、そのひと気のない道をさらに殺伐とした雰囲気にするかのように、砂埃が舞い散る。
砂漠の上にひたすら延び続ける場違いな高架の上を、蹄の音を立てながら一つの影が疾走していた。

漆黒の馬に跨る漆黒の人影―どうやら男のようだ。
黒いマントを羽織り、全身黒の鎧を身に纏い、首元には青いペンダント、黒い旅人棒を身に着けている。
その背中には大振りの黒の曲剣が下げられている。
その男の操る馬が、自ら以外影を作るものなど存在しない、
強烈な直射日光を浴びたアスファルトの上を目にも留まらぬ速さで駆けていく。
吹き付ける熱風を気にもせず、風のようにひたすら男は北へ伸びる道を進む。

男がしばらく走ると、その道は突然途切れた。
アスファルトで出来た舗装された道路は、砂の中に埋もれ、姿を消している。
前方には遥かに広がる砂漠。
前時代の建築物がところどころ砂の中から顔を出している。
彼らの主は、とうの昔にこの場所を放棄し、違う場所へと移り住んでしまったのだろう。

地平線の彼方まで続くこの景色は、この砂漠が永久に続くかのように錯覚させる。
備えを持たずここへ来てしまったものは、三日三晩彷徨い続け、やがて全身を干からびさせて死ぬしかないだろう。
いや、その強烈な日光と吹き荒れる砂嵐、さらに終わりの見えない砂漠の前には、一日と正気を保っていられぬであろう。
まさに悪夢のような光景である。

6 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:38:06.58 ID:bTuqrY0x0
その生きるものの存在を感じさせない砂漠に、ここ最近に何者かが通ったことを知らせる痕跡が残されていた。
砂の上に続く小さな道と蹄の後。
馬車がこの砂漠へと入っていったのであろう。
砂の上の轍を見つけた男は、馬を止め、降りた。
その轍へ男はゆっくりと歩み寄る。
男はしゃがみこみ、左手をその轍に当てた。

 ( )「くぁっ!?ペッペッ!!
     砂が口に入っちまった・・・
     六時間ほど前だな。
     日が昇っているうちはやつらも動けまい。
     クー、すぐに追いつけるぜ」

 川 ゚ -゚)「・・・」

なんと、男の左手が喋った!!
クーと呼ばれたその男性の左の手のひらには、人間の顔が浮かび上がっていた。
その顔はこの世のものとは思えないほどの醜悪さで、もしこれが人間ならば、
結婚はおろか、一生童貞は確実、女性には見ることすら避けられ、
触れただけでセクハラ扱い、夜道を歩けば必ず職務質問され、
口臭体臭は生ごみのよう、童貞なのに性病持ちで、

 (#'A`)「おい地の文、言いすぎだろテメー」

 ('A`)「クー、行こうぜ。この先に貴族と娘がいるはずだ」

 川 ゚ -゚)「・・・」

クーは黙って馬へ跨り、再び疾風のような速度で移動を始めた。

8 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:39:22.58 ID:bTuqrY0x0
††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


地平線に沈みかけた真っ赤な太陽によって、血のような光が地上に降り注ぐ。
木々が生い茂った森は、血の色を受けて赤く染められる。
空を飛ぶ鳥達の鳴き声が、一日の終わりを告げる。
豊かな自然が残るその森には、人の手が入った様子はなく、古代からの自然が残っているであろう様子であった。
人による干渉を受けることなくひっそりと佇むその森は、動物達の安住の地だったに違いない。

その未開の地に、クーはいた。
休むことなく、風よりも早い速度で駆け抜け、通常では考えられない短さで先ほどの灼熱砂漠を突破したのだ。
砂漠を抜けて森に入っても馬を止めることはない。
貴族を追いかけ、馬を走らせ続ける。

 (;'A`)「おい、クー。聞いてんのか?ちょっと休憩しろよ。
     いくらお前さんが普通のダンピールとは違うからって、日中こんなに長い間休まずに活動したら、
     陽光症になっちまうぞ。お前に死なれると俺が困るんだよ。
     寄生主のお前がお陀仏になったら俺はどうすりゃいいんだよ」

このキモイ顔の生物は、クーの左手に寄生して生きているようだ。
しかし、もしこの男が人間だったところで、どうせ働きもせず親に寄生して生きていくのだろうから、
生まれ持っての、いや、魂レベルでの寄生体であると言えよう。
寄生体の王。寄生体中の寄生体。よっ、寄生体の鏡。

 (#'A`)「だからうるせーんだよ。ほっとけ」

 ('A`)「まぁ気張るのもいいけど、ほどほどにしとけよな。
     俺は干物になるのはごめんだからな」

10 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:40:49.80 ID:bTuqrY0x0
 川 ゚ -゚)「・・・」

 ('A`)(しかしクー、今回はマジで頑張るねぇ。
     ま、こいつのことだから貴族に追いつけさえすれば後は楽勝だろうな)


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


森の中を走ること、しばらく。
クーは森が開けた場所に、天高くそびえる、巨大な長方形の物体を発見した。

物体はかなり巨大で、その周りを歩いて一回りするのに三十分ほどはかかるだろう。
その物体は実に不思議な雰囲気をかもし出しており、材質はぱっと見たところでは全くわからない。
全面が鏡のような物質でできており、周りの木々や空に浮かぶ赤く染まった雲を映し出し、
地平線に沈みかける夕日の光を受け不気味に輝いている。
ビルに似ているが、窓がないどころか入り口もない。
建物というより、それはオブジェに近かった。

一つだけ分かることは、この物体は人間の手によって建てられたものではない。
人知を超える、遥かに高い技術力―貴族の時代に、貴族の手によって建てられたものであろうということだけだ。

 ('A`)「おったまげた。こりゃ貴族の避難所だな。
     辺境にはいろんな遺物が残ってんのな」

クーは馬から降りると、近くに落ちている小石を拾い始めた。
拾い終わると、右手に小石を持ち、クーはゆっくりと巨大な長方形の物体―貴族の避難所に向けて歩き始める。

11 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:42:09.49 ID:bTuqrY0x0
クーが右手の親指で小石を一つ空中に弾く。
瞬間、指から離れた小石は蒸発し消え去った。
貴族の避難所の側面が一瞬動いたかと思うと、
突如人間の目のようなものがそこに現れ、その目からレーザーが放たれた。
貴族の避難所の側面に現れた目から放たれたレーザーは、クーが空中に弾いた小石を正確に貫く。

これは貴族の避難所に備わっている「防御システム」である。
もともと、貴族の避難所とは、貴族は日中は行動できないため、長距離を移動する際、
日中はそこに身を隠し身を休めるためのものである。
日中動けずにいる貴族を狙いにきた人間を撃退するために作られたのが、この「防御システム」であった。

クーは歩みをとめず、次々と右手から小石を飛ばし、目から放たれるレーザーを回避する。
近づけば近づくほど現れる目の数は増え、レーザーの攻撃も熾烈化していく。

しかし、クーにはレーザーが一切あたることはなかった。

ついにクーはかすり傷一つも負わぬまま、貴族の避難所までたどり着く。
そしてそのままクーは左手を避難所の側面に当てた。

 ('A`)「中には・・・男が一人と女が一人・・・ビンゴだぜ、クー」

 川 ゚ -゚)「・・・入り口を探せ」

 (*'A`)「かしこまりました、ご主人様☆フヒッwwww」

そして、壁に左手を当てたまま、クーは避難所の外周をゆっくりと回り始めた。
一歩一歩、ゆっくりと外周を回っていく。

13 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:43:24.77 ID:bTuqrY0x0
 (;'A`)「・・・あれ、ないぞ?」

しかし、半周以上しても入り口は見つからない。
左手が貴族の避難所の入り口を見つけられないまま、時間だけが過ぎていく。
太陽はその身のほとんどを地平線に埋めていた。

 (;'A`)「・・・ここも違うっ!クソッ!」

左手の焦燥感にかられた声が辺りに響く。
既に日没は時間の問題であった。

日が沈めば、貴族は行動を開始する。
眠っている時の貴族を殺害するのは、まさに赤子の手をひねるようなものだ。
彼らは日中行動することはできないため、何も抵抗される心配はないのだ。
眠っている貴族の心臓を一突きすれば終わりである。

しかし、貴族がいったん目覚めれば話は違う。
先ほどの町の低級な吸血鬼達など比べ物にならない。
今追っている男は、正真正銘の吸血鬼―真祖から力を受けた吸血鬼なのだ。
恐るべき身体能力と技を駆使し、汗一つかかずに(最も吸血鬼は汗はかかないのだが)、
その気になれば指一本で人間を殺すこともできる。
そして、喉の渇きを、本能を満たすために人間の生き血を啜るのだ。
生き血を吸われた者は、一時的な仮死状態へ陥った後、低級な吸血鬼へと変貌する。
先ほどの町の吸血鬼達も、今追っている貴族の手によってその身を貶められたのだ―

だが実際に焦っているのは左手だけであり、クー本人の行動からは、焦っている様子など微塵も感じられなかった。
恐るべき貴族の目覚めを前にしても、なおこの余裕である。
伝説の吸血鬼ハンターの実力とは、いかほどのものなのであろうか―

14 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:44:39.77 ID:bTuqrY0x0
もうすぐで一周回りきろうかという頃、森の奥から微かにエンジン音が聞こえてきた。
エンジン音は徐々に大きくなり、こちらへ向かってくる。
クーは音がする方をゆっくりと振り返った。
森の奥から猛スピードでこちらへ向かってくる一輪バイクのドライバーは、
赤いバトルスーツを身に纏った、美しい巻き髪の金髪の女性―

 ξ゚ー゚)ξ「捉えたわっ!」

ツン=マーカスであった。
彼女は先ほど、町の吸血鬼達を倒した後に出会ったクーを見て、
言い知れぬ戦慄と不安を感じた。
事態を楽観視している兄達と違い、彼女は一刻も早く依頼を達成するべきと判断し、
兄弟の意見をも仰がず、独断で貴族の馬車とクーを追跡したのだ。
これは彼女の自信家な性格を表している。
一人の貴族の相手など、自分一人で十分だと判断したからこそ、彼女は単独行動に出たのだ。
実際、彼女にはその自信を裏付ける実績があるのだ。
マーカス兄弟の一員として、数多の吸血鬼を葬ってきた実績が。

貴族の避難所の「防御システム」が作動する。
猛然と避難所目掛けて突っ込んでくるバイクへ向け、避難所の側面に現れた目からレーザーが放たれる。

ツンは一輪バイクを完全に乗りこなしていた。
彼女は他の兄弟のように驚異的な身体能力は持ち合わせていないものの、
重火器や車両の扱いなどは人間離れした腕前を持っていた。

片手でミサイルランチャーを持ちつつも、一輪バイクをコントロールし、レーザーを避ける。
ツンは道端の倒木を利用し、貴族の避難所へ向けて一輪バイクでジャンプした。

15 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:45:53.85 ID:bTuqrY0x0
恐るべきコントロールであった。
通常の二輪のバイクと比べ、一輪のバイクを乗りこなすのは難しいと言われる。
ただのブレーキングでさえ困難を極め、倒れないように走れるようになるまで三ヶ月、
まともな移動手段として使えるようになるまで半年以上の訓練を要する一輪バイクを、
彼女は自分の体の一部のように操っていた。
一輪バイクが避難所の壁を横向きに走る。

直後、日が沈んだ。
同時に避難所の壁が開き、中から四頭立ての黒い馬車が弾け飛ぶかのようなスピードで飛び出していった。
その様子はさながら日没をスタートの合図に始めた競走馬のようであった。
日が沈んだ直後に走り出したこの馬車は、貴族のものと見て間違いないだろう。

この好機、逃す手はないとツンは横走りをやめ、一輪バイクとともに空中へ踊りでた。
空中で片手に掲げたミサイルランチャーの狙いを馬車につけ、
馬車を駆る男、この男が今回のターゲットの貴族だということを瞬時に理解し―
発射した。

 ξ゚听)ξ「もらったぁ!」

ツンが放ったミサイルは、飛行機雲のような煙を尾に引きながら、
猛スピードの馬車を駆る貴族の男へと正確に飛来した。
貴族の男は飛来するミサイルに焦りさえ、いや、気づいた様子さえ見せずに馬車を駆る。

 ξ゚听)ξ(やった!私の勝ちだわ。残念だったわね、ダンピール!)

17 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:47:09.88 ID:bTuqrY0x0
しかし、ミサイルが命中する直前、貴族の男はその身をマントで覆った。
マントを翻す様は、優雅でありながらも、神速。
ミサイルが男のマントに命中する。
金属と金属がぶつかったかのような音と共に、貴族の男はミサイルを弾きかえした。
貴族の技により硬質化されたマントに傷一つつけることなく、跳ね返されたミサイルは、
散弾銃の弾のように幾つもの欠片となって発射した主へ牙を向く。

 ξ;゚听)ξ「くっそぉ!くっ!」

貴族を仕留めたと思い込んでいたツンの体勢は無防備であった。
ツンとバイクは空中を重力に任せ、降下していた。
流石のバイクコントロールを持つツンも、空中ではバイクをウイリーのような体勢で盾にし、
跳ね返されたミサイルの欠片を防ぐのが精一杯であった。

いくつものミサイルの欠片がツンの回りを掠めていく。

 ξ;゚听)ξ「よ、避けきれないっ・・・!うわぁっ!?」

直径四センチほど、卓球で使うピンポン球くらいの大きさの欠片が、ツンの左胸に突き刺さった。
欠片は貫通せず、ツンの体内にとどまる。
ツンは何とか着地するが、怪我の影響か完全にコントロールを失い、バイクから投げ出された。

 ξ;--)ξ「う、ううぅ・・・くっそぅ・・・」

身を起こそうと体に力を入れるが、怪我のせいか体に力が入らない。
ツンの意識は闇へと落ちていった。
被弾した欠片は一つではあったが、その欠片は人の命を奪うには十分な大きさであった。
ツンの胸から流れ出た血が、大地を染めた―

19 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:48:22.96 ID:bTuqrY0x0
漆黒の馬車は追っ手を振り切るよう、全速力で森の奥へと駆けていく。
サイボーグ馬を四頭も必要とするほどの巨大な馬車であったが、
貴族の業なのであろう、風を切るようなスピードで駆けていく。
馬車が駆ける先にあったのはトンネルであった。
トンネルの幅は五メートルほどだろうか、もうすでに利用するものなどいないであろうが、
トンネルの中の蛍光灯は光を放ち続けている。
これが貴族の技術によるものであろうことは想像するに容易い。

馬車がトンネルへ入る瞬間、何者かが木の上から馬車の上へと着地した。
クーであった。
彼は馬を使わず、脅威の身体能力で木々の上を飛び歩き、馬車を追跡、
馬車がトンネルへ入る瞬間、飛び移ったのだ。
高速で移動する馬車の上で、クーの漆黒のマントがはためく。
俯きながら、着地の姿勢から動かないクー。
馬車を駆る貴族がゆっくりと顔だけをクーのほうへ振り返らせ、横目でクーを見る。


(   )


(`   )


( ∀` )

20 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:49:54.29 ID:bTuqrY0x0
彼こそ、辺境の町の長、エルバーン家の娘を誘拐した張本人であった。
優しげな顔つきの青年で、青白い髪の毛を青いリボンで後ろに束ね、風になびかせている。
黒を基準に所々に金の装飾が見られる鎧を衣服の上に身につけており、
その中から見える上着は、黒いスーツ、白いシャツ、首元には白のクラバット、長い脚を覆うズボンは薄い青色で、
先ほどツンのミサイルを弾き返したマントの色は漆黒、裏地の色は鮮血で染めたような赤。
これから王室の舞踏会へ赴くかのような優雅な服装であった。
しかし、彼が貴族であることを主張するように、全身からは高貴な、そして邪悪なオーラが漂っていた。

クーは俯いたまま、右手で背中に携えた長剣の柄をゆっくりと握り締める。
トンネルの蛍光灯に照らされたクーの体が、馬車の上に幾つもの影を落とす。
貴族は、直立不動の態勢で、その赤く燃えるような瞳でクーを視た。
クーは俯いており、旅人帽によって隠れているその表情をうかがい知ることはできない。

 川 - )「・・・娘を返してもらおう」

 ( ∀` )「私は欲しいから奪ったモナ。貴様もそうするモナ。
      ・・・夜の貴族を相手にできればの話だがモナ」

馬車を引く馬がたてる蹄の音と、道路との接触で生じる馬車の車輪の音だけが辺りに反響する。
無限にも思える長さのトンネルを、馬車が駆ける。

クーが動いた。

クーが先ほどまでいた場所には長剣を抜刀した音だけが残り、
既に音の発生源であるクーは貴族の目前まで迫っていた。
残像すら残らないその速度は、常人の目を持ってしては捉えることのできぬものであった。
クーの長剣が貴族を袈裟に切り裂く。

 川 ゚ -゚)「・・・」

22 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:51:07.83 ID:bTuqrY0x0
しかし、クーの必殺の一撃は空を斬った。
貴族は残像を残し、馬車の屋根最後尾に現れた。
それは神速での移動であったのか、テレポーテーションであったのか、幻術であったのか―
いずれにせよ、傷一つ負うことなく貴族はクーの神速の抜刀術をかわしたのだ。

 川 ゚ -゚)「・・・」

クーは即座に振り向き、再び貴族の前に飛び込み、長剣を横なぎに払う。
クーの長剣は再び空を斬る―
貴族も再び同じ様に残像を残し、先ほどまで立っていた場所、馬車の屋根前方に出現したのだ。

三度、クーは貴族に斬りかかる。
甲高い金属音が響く。
逆袈裟に切りつけたクーの長剣は、例の貴族のマントによって止められたのだ。
クーの全てを切り裂くと言われるほどの一閃を受け止めるこの頑強さ。
貴族の技とは、いかに強力なものであろうか。
長剣と硬質化したマントによる鍔迫り合い―
その状態のまま、軽い笑みを浮かべ貴族は口を開く。

 ( ´∀`)「ダンピールのハンターに優れた技量の男がいると聞いたモナ・・・
      お前がクーか・・・一度会いたいと思っていたモナ。
      私はモナエルリンク」

両手で握った長剣で鍔迫り合いを続けながら、クーが応える。

 川 ゚ -゚)「・・・俺もその名を聞いている。
      貴族でありながら、決して人間には牙を向けぬ男だと・・・
      だが、そうでは無かった」

24 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:52:22.76 ID:bTuqrY0x0
クーの剣がモナエルリンクのマントを徐々に押し返す。
鍔迫り合いはクーのほうが優勢のようである。
マントを押し返されるモナエルリンク―
モナエルリンクの表情からは軽い笑みが消え、目を見開き、鋭く尖った犬歯をむき出しにする。
直後、鍔迫り合いの均衡は破れる。

 (#´∀`)「ウェアァッ!!」

クーの長剣を押し返し、一気に振り切られたモナエルリンクのマントがクーを捉える。
モナエルリンクの一撃はクーを切り裂いたかのように見えた。
しかし、既にクーは跳躍し、その姿を上空へと移していた。

 川 ゚ -゚)「・・・」

クーがモナエルリンクを右肩から左脇へ、袈裟に斬りつけた。
モナエルリンクは咄嗟に後ろへ体を反らし回避する。
クーの剣技が神業の域ならば、モナエルリンクの身体能力も人外の域にある。
クーの袈裟切りはモナエルリンクの鎧を軽く切り裂くだけに終わる。

 (;´∀`)「グゥッ!」

しかし、バランスを崩したモナエルリンクに、再びクーの鬼気篭る一撃が迫る。

 川 ゚ -゚)「・・・」

 (;´∀`)「モナッ!?」

モナエルリンクは攻撃を回避できないことを悟り、また、自分の魂はここで滅ぶことを悟った。

勝負は決した―

25 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:53:35.12 ID:bTuqrY0x0
















 ζ(゚―゚;*ζ「モナエルリンク様っ!!」

馬車の中から女性の叫び声が聞こえた。
恐らくこの声の主が、エルバーン家の長女であり、今回の依頼の重要人物であるデレ=エルバーンであろう。

 川 ゚ -゚)「ッ!?」

クーはその声を聞き、剣を止める。
クーの一瞬の隙を発見し逃さなかったモナエルリンクは、体勢を立て直し、
右下から左上へかち上げるようにマントでクーを斬りつける。

 (#´∀`)「ヌウウゥゥッ!」

モナエルリンクの渾身の力を込められて放たれた一撃。

26 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:54:51.89 ID:bTuqrY0x0
 川 ゚ -゚)「ッ!」

クーは長剣で防御するも、攻撃の衝撃を受け流せず、馬車の上から遥か後方まで吹き飛ばされた。
クーは一回転し、左手を地面に当てながら着地、着地後もなお後ろに滑り続けた。
それほど、クーが受けたモナエルリンクの一撃の力は凄まじかった。

 (;゚A゚)「イデデデデッ!」

クーが着地の受身に左手を使ったため、左手の男は顔を擦ったようである。

 (;A;)「痛い・・・お顔がヒリヒリするの・・・」

醜い顔がさらに醜くなった。

モナエルリンクの馬車は既に風のようにトンネルの奥へと走り去り、
その姿はおろか、馬の蹄の音さえ聞こえなくなってしまった。
クーはモナエルリンクを取り逃したのだ。
クーの行動に疑問を思った左手が、クーに問い掛ける。

 ('A`)「・・・どうした、クー?
     お前らしくもねえ。なぜ止めを刺さなかったんだ?」
 川 ゚ -゚)「・・・あの娘。貴族の身を案じた」

 ('A`)「ハッ。既に体も意識もやつに支配され、なすがままにされてるんだろ。
     お前が言ったとおり、やはり手遅れだったな」

 川 ゚ -゚)「・・・」

 (*'A`)「お、俺も可愛い女の子をなすがままにしたいなぁ・・・フヒwフヒヒwww」

27 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:56:19.61 ID:bTuqrY0x0
クー達の会話がトンネル内で反響する。
クーはゆっくりと立ち上がり、森に置いてきた馬を取りに、元来た道へと歩き出した。

貴族の身を案じた娘、デレ。
クーがエルバーン家の者に依頼を受けた際、クーは既にデレが貴族の洗礼を受けている可能性を指摘した。
貴族の洗礼とは、口づけ。
貴族に生き血を吸われた人間は、吸血鬼となり、貴族の操り人形となってしまう。
左手の男は、既にデレが貴族の手にかかってしまったと言う。
誘拐の被害者ながらも、その攫った犯人の身を案じるあたり、その可能性が高いのだろう。
しかしクーは左手の声に答えなかった。
クーには何か別の考えがあるのだろうか。


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


すでに辺りは闇に包まれている。
虫の鳴く声が響き、夜空に輝く星々だけが、頼りない優しい光を地上にそそいでいる。
森に生きる動物達もほとんどが姿を隠し、どこからともなく聞こえてくる梟の鳴声や、
木々の上を移動する微かな音だけが聞こえてくる。
姿は見せずとも、声や音で生命を主張する生き物達。
夏の夜の森には、生命が満ち溢れていた。

元来た道を引き返し、クーは自らの馬が置いてある、貴族の避難所まで戻ってきた。
久方振りの役目を終えた貴族の避難所が、暗闇の中、不気味にそびえ立つ。
クーは馬の元へと歩み寄り、馬に乗ると移動を始めようとした。

 ξ;--)ξ「ウッ・・うぅ・・・」


29 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:57:47.36 ID:bTuqrY0x0
近くで女性のうめき声が聞こえた。
クーはそれに気づくと馬の向きを変え、うめき声の主の元へと歩み寄る。
衰弱した女性が、大量の血を流しながら横たわっていた。
左胸が抉れていて、その穴から大量の血液が流れ出ていた。
意識は失っているようで、体は痙攣を繰り返している。
素人目に見ても、危険な状態であることは明白であった。
ツン=マーカスは貴族に跳ね返された、自らが発射したミサイルの欠片に左胸を抉られ、生死の境を彷徨っていた。

 ('A`)「・・・あのままでは長くは持たんな。惜しいねぇ」

 (*'A`)「若い娘の血だ。あの血の香り・・・たまらんだろ、クー?フヒwww」

吸血鬼にとって、吸血したいという欲求は人間でいう性欲にあたる。
本能的なこの欲求は、何物にも変えがたいものである。
ダンピールにとっても例外ではない。
クーは普段、人工血液―貴族が支配していた時代に、貴族が開発した、科学的に生成した血液―
で喉の渇きを癒している。
しかし、人間の生き血を啜る悦び、それは人工血液などでは感じることができぬ、最高のエクスタシーなのだ。
ダンピールであるクーにもこの欲求は存在する。
人々の希望である吸血鬼ハンターのクーにとって、この欲求は抑えるべきものである。
しかし、今は誰もクーを見ていない。
クーが行為に及んだところで、それを知る者はいないのである―

しかし、クーは一瞬だけツンの方を見やると、すぐに正面に向き直り馬を歩かせ始めた。
クーには、この娘の生死などどうでも良かった。
なぜなら、娘は吸血鬼ハンターだからだ。
一般人とは違う。
この娘が吸血鬼ハンターでなかったのであれば、クーは娘を助けていたかもしれない。
ツンは、クーと同じ、厳しい世界に生きる者。
戦いに敗れれば、それは即ち死を意味する。

30 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 08:59:01.35 ID:bTuqrY0x0
どこで命を落としてもおかしくはない。
ハンターならば、その覚悟はできている―

 ξ;--)ξ「・・・か・・・母さん・・・」

ツンの微かな声を聞き、クーの歩みがピタリと止まる。

 ('A`)「ん、どうしたクー?ちょっと、喉の渇きを癒していくとするか?」

 (*'A`)「ハァハァ・・・フヒヒwww」


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


 ξ--)ξ「・・・・・・」

 ξ゚听)ξ「ん・・・」

ツンは目を覚ました。
あたりはまだ暗い。
意識を失ってからそんなに時間はたっていないようだった。
ツンの顔色は大分良くなっており、冷や汗や体の痙攣もひいていた。
目を開け、上体を起こしたツンの視界に入るのは、黒いマントを纏った、ダンピールのハンター。
ツンが目を覚ましたのを確認すると、クーはゆっくりと馬の元へと歩いていった。

 ξ゚听)ξ「・・・ハッ!?・・・まさかっ!?」

突如驚いた様子で、ツンは右手で自らの首元を触る。

31 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 09:00:14.46 ID:bTuqrY0x0
 ξ;゚听)ξ(ヤバイッ・・・咬まれたっ!?)

しかし、彼女の首元には小さな二つの穴は空いてはいなかった。

 ξ;--)ξ「フゥ・・・」

兄達の元を独断で離れ、吸血鬼の討伐に失敗し瀕死になっただけでなく、
挙句の果てに商売敵のダンピールに血を吸われ吸血鬼になる―
吸血鬼の討伐に失敗して、命の危機に陥った時点で、彼女の自尊心は十分に傷つけられていた。
しかし、まだ自分が吸血鬼になっていないことが、彼女を心から安堵させた。

 ξ;゚听)ξ「!!」

ツンは自分の左胸に空いた穴のことを思い出す。
自分の命を蝕みつつあったその穴は、包帯によって塞がれていた。
一体誰が・・・
彼女は気づく。
目の前のこのダンピールが、自分に治療を施したのだと。
馬に跨ったクーを睨みつける。

 ξ゚听)ξ「なんのマネよ・・・」

 川 ゚ -゚)「・・・体に食い込んだ破片を抉り出し、消毒した。それだけだ」

 ξ#゚听)ξ「頼みもしないのに、よくも私の体に触れたわね・・・!
       ダンピールが、一体何のつもり!?」

 川 ゚ -゚)「・・・熱が引いたら引き返せ」


34 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 09:01:26.85 ID:bTuqrY0x0
 ξ#゚听)ξ「余計なお世話よ」

 川 ゚ -゚)「死にかけて母親の名前を呼ぶ娘に、ハンターは向かん・・・」

そういうと、クーは手綱を引き馬を反転させ、歩き始める。
クーがツンを助けたのは、母親の名前を呼んだツンを見て、
彼女は修羅になりきれておらず、まだ人間らしい心を持った者だと判断したからかもしれない。

 ξ////)ξ「〜〜〜ッ!!」

 ξ#゚听)ξ「ちょっと待ちなさいよ!!」

クーの一言に動揺したのか、慌てて立ち上がろうとするツン。
商売敵に命を救われた。
この厳しい世界に生きる者、ましてや自分は辺境一と言われる吸血鬼ハンター、マーカス兄弟の一人。
その自分が命を落としかけ、ましてや商売敵に命を助けられ、
ハンターに向いてないなどと侮辱される―
彼女はその辱めに憤怒した。

クーは彼女の声に振り向くことなく、去っていった。

 ξ;--)ξ「く・・・痛・・・」

立ち上がり追いかけようとするも、左胸の強烈な痛みが彼女を襲う。
力なくその場に座り込むツンを、光が照らす。
森の奥から、装甲車がやってきた。
装甲車の前面は十字架型に穴が空いており、運転手はそこから外を見ることができるようだ。
側面には網状の格子がかかった窓いくつかついている。
ドアにも十字架型の穴があり、覗き窓の役割をしている。

36 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 09:02:39.50 ID:bTuqrY0x0
大型の、傷だらけの装甲車―マーカス兄弟の物だ。
装甲車はツンを見つけたらしく、ツンのほうへ近づいてくる。

装甲車の中の覗き窓の格子に指をかけ体を支えながら、
やせ細った顔の男が不安げな表情でツンの方を覗いている。
月の光を受け、影が所々落ちるその顔は、重病人、しかも末期患者のそれを連想させる。

 (ヽ´ω`)「ツン・・・」

装甲車はツンの目の前まで来ると、停止した。


††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††


川の流れに逆らい、車輪が回る。
水の流れは強く、その流れを断ちながら、その身のほとんどを水に沈めたまま四頭の黒馬は馬車を引いて走る。
地平線の彼方まで続いているこの川は、まさに夜空に浮かぶ満月へと続いているかのようであった。
辺りには水の流れる音がごぉごぉと響く。
その馬車は、森の中を流れる巨大な川を上流へと進んでいた。
馬車を駆っているのは、貴族、モナエルリンクであった。

 ( ´∀`)「奴の放った一撃・・・
      なんとか回避し、私の鎧を切り裂くだけに終わったモナ。
      だが、その鎧の傷の直りが遅いモナ。
      奴め、やっかいな術を使うモナ・・・」

38 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 09:03:52.63 ID:bTuqrY0x0
貴族は自らの衣服、身体の形質を自分の思うように変化させることができる。
心臓以外であれば、どれだけ深い傷を負おうが脅威の回復力ですぐに傷を塞ぐことができる。
これこそが吸血鬼が不死身と呼ばれる所以である。
衣服も同様である。
クーが切り裂いたモナエルリンクの鎧も、普通ならばすぐに元通りになるはずだった。
しかし、モナエルリンクの鎧は、傷を受けてしばらくしても今だ完全に修復できずにいる。
これは、クーが吸血鬼の回復能力を抑制する術を用いているということになる。
すなわち、クーから受けた傷は、すぐには回復できない―
月を見ながら、モナエルリンクは呟く。

 ( ´∀`)「デレ・・・」

豪華な装飾が施された馬車の車内には、締め切ったカーテンのせいで月明かりは届かない。
揺らめく蝋燭の火の光のみが車内をゆらゆらと照らす。
そこには一人の女性がいた。
長いウェーブがかかった亜麻色の髪、白いドレスを着ており、その表情はどこか暗い。

ζ(゚―゚*ζ「・・・」

エルバーン家の娘、デレは何をするでもなく、ただ椅子に座り、床を眺めていた。
無表情なその顔からは、胸中を窺い知ることはできない。
彼女の隣には、黒い、金による装飾が施された棺があった。
モナエルリンクの寝床だろう。
吸血鬼は日中、棺の中で眠る。
日中行動できない彼は、この棺の中で眠り、夜の訪れを待つのだ。

彼女の前に、突如、モナエルリンクが現れる。

40 名前:第三話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/22(金) 09:05:05.00 ID:bTuqrY0x0
 ( ´∀`)「・・・」

ζ(゚―゚*ζ「・・・」

二人は見つめ合う。
モナエルリンクが左手をそっと彼女の頬にあてがう。
モナエルリンクがマントを翻し、彼女を包みこんだ。

馬車は、満月へと続く川をひたすら走る。
その馬車を上空から、月と、何十匹もの赤い瞳を持つ蝙蝠だけが、見つめていた。



第三話 終

前へ 次へ
内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - †吸血鬼ハンター川 ゚ -゚)のようです - 第三話
inserted by FC2 system