- 22 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:31:00.85 ID:VCfki1490
- 「第二話 邂逅」
エルバーン家の者から依頼を受けたクー。
依頼の内容は、貴族にさらわれたエルバーン家の娘、デレを取り戻してくれというものであった。
クーはデレをさらった貴族を追うべく、北へと向かっていた。
クーの乗る黒馬はサイボーグ馬だ。
生物である以上、普通の馬と同じく疲れもするが、
機械で強化してあるだけあって、性能は普通の馬よりも優れている。
サイボーグ馬にも等級があり、ランクが高い馬ほど値段も高くなるのだが、
クーの乗るサイボーグ馬はいたって通常の性能、値段のサイボーグ馬である。
しかし、クーの乗馬術は馬の性能を何倍、何十倍にも引き出すことができる。
通常ならサイボーグ馬の体力を考慮して走れぬ距離も、クーならば馬を疲れさせず走り続けることができる。
通常のペースより遥かに早いペースで、ひたすら貴族を追いかけ走り続けるクーに、
どこからともなく話かけてきた声があった。
( )「しっかしお前さんもがめついねえww
ってかあのタイミングで『二千万ダラスだ。それ以下では応じぬ』ってwww
どんだけKYなんすかwwwセントジョーンズ涙目www」
川 ゚ -゚)「・・・」
クーはその声に応えない。
真っ直ぐ前を見たまま、黒馬を走らせる。
クーの周りに人影は見当たらない。
しかしその声はクーのすぐ近くから聞こえているようだ。
- 23 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:32:25.99 ID:VCfki1490
- ( )「そんなにお金貯めてどうすんの?wあ、風俗通いっすかw羨ましいぜww
お前も男だもんなぁwあ、ダンピールって性欲なかったっけwサーセンwフヒヒwwww」
川 ゚ -゚)「黙れ」
( )「むぎゅっ!」
謎の声が苦しげな声を発した後、それきり謎の声は聞こえなくなった。
†††††††††††††††††††††††††††††††††††††††
辺境のとある町。
エルバーン家が治める町より少し北に存在しているその町の深夜、誰しも寝静まった頃。
巨大な装甲車が町に入ってきた。
装甲車の至るところに十字架型のデザインが見られ、
外装が傷だらけの装甲車は見ただけで乗る物がただものではないことを知覚させる。
装甲車は町の中の井戸の前で停車した。
その井戸には、飲んだくれがもたれ掛かって酔いつぶれている。
<ヽ`∀´>「・・・んあ?」
男は装甲車が停車したのに気づき目を覚ました。
装甲車の十字架型の覗き窓がついたドアが開く。
直後、装甲車の中から浅黒い色の男の手がのび、飲んだくれの胸元を掴む。
その手は片手で軽々と飲んだくれの体を持ち上げた。
- 24 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:33:41.35 ID:VCfki1490
- <;ヽ`∀´>「ウェッ!?い、いきなり何をするニダ!
ウリがなんかしたニダか!?謝罪と賠償を」
装甲車の中から男の声が聞こえる。
( )「北へ向かう四頭立ての黒い馬車を見なかったか?」
<;ヽ`∀´>「ウ、ウリは何も知らないニダ!
苦しいから早くその手をどけるニダ!」
( )「おかしいな・・・この町を通ったはずなんだが・・・」
胸元を掴んでいる手と逆の空いた手で、飲んだくれの顔を鷲づかみにし、首元を確認する。
首元には小さい二つの穴が空いていた。
<ヽ ∀ >「・・・ッゥゥウ」
飲んだくれが浅黒い手を押し返していく。
男の顔が徐々に露になる。
男の目は真紅に染まり、その口には鋭く尖った犬歯が生えていた。
貴族の洗礼を受けし者の顔であった。
<ヽ゜∀゜>「ゥウガァァゥゥゥ!!」
飲んだくれは装甲車の中の男に飛びかかった。
本能から来る吸血衝動。
それはどんなものにも変え難い、究極のエクスタシー。
乾きを癒すため、恍惚を得るため。
飲んだくれは目の前の獲物の首筋に牙を向けた。
- 25 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:35:00.23 ID:VCfki1490
- が、その刹那。
飲んだくれは右胸に突き刺さった矢と共に井戸の中へ落ちていった。
装甲車の男は気づく。
先ほどまでひと気がなかった町の、至るところから聞こえる足音とうめき声。
この町の人々は全員、すでに人ならざる存在となっていた。
夜の世界に生き、人の血を求めて徘徊する低級な吸血鬼達―
だらしなく口から涎を垂らしながら、獲物を求め装甲車へと続々と集まってくる。
町の人々が装甲車を取り囲む。
その数、数十人―
強靭な身体能力を持つ吸血鬼に取り囲れた状況となれば、普通の人間ならば死を覚悟し、神に祈りをささげるだろう。
それは人々が彼らの獰猛さと強さを知っているからであり、
非力な人類が彼らに対抗する手段がないことを知っているからである。
装甲車の中の者たちが普通の人間ならば―
絶体絶命の危機に陥ったと言えよう。
直後、装甲車に取り付けられた照明が一斉に強烈な光を放つ。
突然の強烈な光に町の人々は驚き、後ずさる。
装甲車は急発進し、取り囲んだ町の人々を何人か跳ね飛ばしながら町の出口へ向け走り出す。
一瞬怯んだものの、せっかくやってきた餌を逃しはしまいと町の人々は装甲車を追いかける。
既に人にあらざるものである彼らは、強力な脚力を持ち、
飛び跳ねるように―さながら、その姿はノミのよう―猛スピードで走る装甲車を追う。
町の人々の何人かが、装甲車に追いついた。
強靭な脚力で装甲車に飛び掛り、窓に嵌められた格子を手で破壊し、進入しようとする。
彼らの手にかかれば、鉄の格子を引きちぎることなど容易い。
- 26 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:36:36.61 ID:VCfki1490
- 後少しで獲物に手が届くというところで、彼らは装甲車の中からの攻撃により死亡した。
一人の顔が一部分を残し、球状にえぐれ吹き飛ぶ。
違うものは、額に矢を生やし、装甲車から吹っ飛ばされる。
また違うものは、その顔を真っ二つに切断される。
装甲車の中の者たちにより、彼らは獲物を手にする直前で絶命していった。
飛び掛る悪鬼達を滅ぼしながら、装甲車は走る。
町の出口付近まで装甲車が差し掛かった時―
装甲車の行方を上から突然降ってきた像が遮る。
教会の屋根の上にある像が、縄で引き落とされ、道を塞いだのだ。
町の人々が獲物を逃すまいと、あらかじめ準備しておいた罠だった。
( )「畜生ッ!」
装甲車は像に突っ込まないよう、急ハンドルを切り、横滑りした後その場に停止する。
装甲車は退路を絶たれた。
装甲車のドアが開き中の者達がでてくる。
彼らはエルバーン家の者の依頼を受け、吸血鬼討伐の任についたマーカス兄弟であった。
彼らが装甲車から降りた場所は、教会の前、死者の安息の場所―墓地であった。
面積の大きい墓地で、そこはなだらかな丘になっており、数え切れぬほどの墓標が目に入ってくる。
( ゚Д゚)「呆れたもんだ・・・町中の人間が吸血鬼にされちまってる」
( ・∀・)「仕方ないなぁ、成仏させてやろうよ」
(´・ω・`)「神のご加護を・・・」
―装甲車の中から声が聞こえる。
その声は儚げで、弱弱しく、今にも消えてなくなってしまいそうな不安を掻き立てるような声だった。
- 27 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:38:18.45 ID:VCfki1490
- ( ヽ´ω`)「ツン・・・」
ベッドに横たわる生気のない顔の男が女に呼びかける。
月明かりに照らされた男の顔はやせ細っており、健康というには抵抗がある外見をしていた。
ベッドに横たわるその男こそ、マーカス兄弟の次男、ブーン=マーカスであった。
彼は生まれつき病弱であり、外を長時間歩いたことはない。
ベッドの上で身を起こすのが精一杯で、いつも兄弟に面倒を見てもらっていた。
ξ゚听)ξ「兄さんはそこでじっとしてて。心配ないわ、すぐ終わる」
男は不安げで、悲しそうな表情をツンに向けながら無言で応える。
人にあらざる者達が丘の向こうから姿を現した。
ゆっくりと丘のふもとにある装甲車に向かって歩いてくる。
そのうち、一人が我慢できなくなったかのように駆け出した。
それをきっかけに吸血鬼達は装甲車に向かって物凄いスピードで迫ってくる。
彼らの表情は悪鬼そのものであった。
涎を垂らし、餌となる人間の生き血を求め、その口を大きく開けながら―
人としての面影は残っておらず、ただ目の前の餌に向かい全力で突っ走る。
( ゚Д゚)「おいでなすったぜ」
浅黒い色の肌の男―ギコ=マーカスはボウガンを取り付けた右腕を上空に向けてかかげる。
そのごつく大きい左手には、大量の矢が握られている。
左手の矢をボウガンの弦にかけると、一本ずつ、次々と矢を上空へ向けて発射していった。
その速さはまさに神業。
女性の胴ほどもあるごつい手が、目にも留まらぬスピードで矢を発射していく。
空から矢が降り注ぎ、装甲車へと向かって走る悪鬼達を次々と貫いていく。
それはさながら、天が悪しき者達を葬るために降らせた銀の雨のようであった。
- 29 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:39:37.92 ID:VCfki1490
- ( ・∀・)「よっ、と」
装甲車の上から男が軽やかに跳躍する。
男が両手に持つ武器は十字架型の刃物である。
真ん中が柄となっており、サイズが大きい手裏剣のようなデザインをしている。
その武器を彼は器用に回転させながら、吸血鬼達を真っ二つにしていく。
吸血鬼の、人間よりもはるかに優れたその動体視力でも、捉えられぬほどの素早い動き―
男は踊るように吸血鬼達を真っ二つにしていった。
距離が離れている吸血鬼にその武器を投げつけると、吸血鬼を切り裂いた後、武器は彼の手元へと舞い戻った。
軽い笑みを浮かべた後、男は次の獲物へと飛び掛る。
(´・ω・`)「ふんぬっぅぅぅううおおおおぉぉぉぉ!!!!」
巨漢が振り回すもの、それは巨大な金属製のハンマーだった。
男の身長ほどもあるそれは、長さは二メートルほどだろうか―
見ただけでわかる、何百キロもありそうなハンマーを男は軽々と振り回す。
そのスピードは神速の域に達していた。
まるで熟練した剣士が目にも留まらぬスピードで剣を振るうような動作を、彼はハンマーでやってのけた。
その圧倒的な重量の前に、吸血鬼達はボロ切れのように吹き飛ばされていく。
彼の一撃を貰った者は、全身の骨を砕かれ、さながら巨大なダンプカーと衝突したかのような有様となっていた。
吸血鬼達を亡き者にしていく彼らの間を、満身創痍ながら―幸運にもすり抜けた一人の女性の吸血鬼が女に迫る。
女は装甲車の周りを警戒していた。
恐らく、中にいるブーンの護衛に当たっているのだろう。
ξ゚听)ξ「・・・」
- 30 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:41:32.81 ID:VCfki1490
- 女性の吸血鬼の動きは緩慢で、まるで砂漠を彷徨う中、一杯の水を見つけたような、
縋るような動きで女に迫る。その口を大きく開きながら―
女は手にした巨大な重力銃―サッカーボールほどの大きさの銃口から、強力な衝撃弾を放つ―
を目前まで迫った女性の吸血鬼の顔に向けた。
女性には両手ですら扱うことが困難な巨大な重力銃を、女は片手で軽々と扱う。
その重量も相当なものであるが、発射の際の反動は凄まじく、華奢な体つきのものなら簡単に肩が外れてしまうだろう。
女は表情を変えることなく、引き金を引く。
女の顔は返り血で濡れた。
数分後、男性の吸血鬼が、仲間は全て倒され、残りは自分だけだと気づいたとき、男性の吸血鬼は全力で丘の上へと逃げ出した。
人外の力を持つマーカス兄弟に、自分一人では勝てぬことを悟ったのである。
男は凄まじいスピードで丘の上へ逃げ、その姿を消す。
( ゚Д゚)「逃がすわけには・・・」
浅黒い肌の男が狙いすまし、弓を発射した。
発射された弓は曲線を描きながら、丘の上のその奥、もはや視認できないところまで逃げた吸血鬼目掛け飛んでいく。
その直後、矢が何かを貫いた音と、男性の断末魔の声が響く。
男が放った矢は脅威の命中精度で遥か遠くの、すでに見えない所まで逃げていった男性の吸血鬼を貫いたのだ。
( ゚Д゚)「いかねぇよ」
男は目を閉じ祈りをささげる。
( -Д-)「アーメン・・・」
全ての吸血鬼を倒し、やれやれと浅黒い肌の男が思った直後―
遠くから近づいてくる蹄の音に、マーカス兄弟全員が気づく。
- 31 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:42:50.79 ID:VCfki1490
- ( ・∀・)「新手か?」
蹄の音は丘の向こう側から聞こえてくる。
( -Д-)「・・・」
浅黒い肌の男は目を瞑り、音の主の位置を把握しようとする。
段々と音がこちらへ近づき、丘の上へその音の主が姿を現そうとする直前―
( ゚Д゚)「そこだっ!」
浅黒い肌の男は矢を発射した。
先ほどの見えない位置の男性の吸血鬼に命中させた技である。
矢は曲線を描き、物凄い速度で音の主の元目掛けて飛んでいく。
音の主が丘の上に現れ、矢にその顔を貫かれた―
はずだった。
矢は主人の命令通りに飛んで行き、音の主の顔を正確に捉えたものの、その任務を達成することはできなかった。
その音の主―クーは顔の前で、左手で矢を掴んでいた。
突然の出来事に、黒馬が前脚を上げ、嘶く。
クーの羽織った漆黒のマントが、はためく。
川 ゚ -゚)「・・・」
クーは左手で掴んでいた矢を圧し折った。
マーカス兄弟は矢が命中しなかったことと、クーの持つ異様な雰囲気―
まるで絵画の中から抜け出してきたような、いや、それ以上の美しさ―
に一瞬驚き、目を丸くした。
- 33 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:44:08.96 ID:VCfki1490
- 静寂を破ったのは、浅黒い肌の色の男の拍手だった。
にやりとした笑みを浮かべ、クーを見る。
( ゚Д゚)「いやいや、素晴らしい。
あんたも同業者なんだろ?
今の非礼は詫びるよ。
俺はギコ。ギコ=マーカス。
良かったらあんたの名前を聞かせてくれないか?」
川 ゚ -゚)「・・・クー」
クーは呟くような声で名乗った。
マーカス兄弟とクーの間は距離があったが、なぜかマーカス兄弟全員がクーの声をはっきりと聞き取ることができた。
名乗るとすぐにクーは風のような速さで黒馬を走らせ、マーカス兄弟の前から消えた。
( ゚Д゚)「なるほどねぇ。あいつがクーか。
凄ぇやつだな・・・」
そう言いながらも、ギコはクーの凄みに圧倒された様子はない。
むしろ、素晴らしい好敵手の存在に喜びを感じているかのようにさえ見える。
( ・∀・)「兄貴、感心してる場合じゃねえだろうがよー」
(´・ω・`)「そうだよ兄さん、あいつに先を越されちゃったら僕達は報酬金をもらえないんだよ?」
ギコは先ほど放った矢を、吸血鬼の死体から回収しながら応える。
( ゚Д゚)「まぁそう焦るなって・・・お前達、三つ目リスと蛇鳥の話を知ってるか?」
( ・∀・)「なんだそりゃ?」
- 34 名前:第二話 ◆v6MCRzPb66 :2009/05/20(水) 21:45:21.80 ID:VCfki1490
- ( ゚Д゚)「夏の間、冬に向けて三つ目リスはせっせと餌を蓄える。
蛇鳥はそれをじっと待つ。
餌が集まったところで、蛇鳥は集めた餌ごと三つ目リスをたいらげちまうのさ・・・」
一瞬の間の後、話を理解したのか、
(´・ω・`)「ウプッ・・・フフフ・・・アーッハッハ!」
ショボンはモララーをその巨大な手で抱きかかえながら腹を抱えて笑う。
(´・ω・`)「そりゃあいいや!なぁモララー!」
( ;・∀・)「やめろってショボン!痛いし暑苦しい!ってかお前の笑いのツボおかしいだろ!」
ξ゚听)ξ「・・・」
その様子を黙って見つめていた女は、装甲車に収納されている一輪バイクを取り出し、エンジンをかける。
アクセルを吹かし、装甲車に収納されていたミサイルランチャーを片手に走り出した。
( ゚Д゚)「な?だから焦らずに、向こうに好きなようにやらせて、俺達は美味しいところだけを持っていけば・・・
っておい?ツン!どこへ行くんだ?おーい!!」
ツンはギコの問いかけに応えず、クーの後を追うように、丘の向こうへと消えていった―
第二話 終