( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―第十五話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録― 〜その1、異界転落〜

3 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:08:04.74 ID:aJqMEWbV0
内藤退魔師事務所
――バーボンハウスは、ある特殊な依頼人が現れたときだけその姿を変える。
  ブーンを所長とする内藤退魔師事務所。
  闇に蠢く魔を祓う退魔師達はここを本拠地としている。
  

( ^ω^) 内藤ホライゾン(ブーン) 21歳(童貞) 第一話〜
……密教系退魔師の総本山、裏高野を出奔した若き退魔師。
  逃げた理由は『裏高野にいる限りチェリーボーイを捨てることが出来ないから』と公言している。
  数々の法力と体術を用い、魔を祓う。
  人当たりが良く、誰にでも柔和に接しようとする。


(´・ω・`) ショボン 29歳 第一話〜
……閑古鳥の鳴くバー・バーボンハウスの若きマスターにして、ブーンと心から信頼し合うパートナー。
  第三話で大富豪モナーの財産を強制的に相続させられ、一夜にして長者番付けに躍り出たシンデレラガイ。
  妖刀『百足丸』と破魔銃を使い、退魔アイテムにも精通している。
  作者の意向で『ウホッ』ではない。


5 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:08:40.19 ID:aJqMEWbV0
('A`)ドクオ 25歳 第二話〜
……暴力団『二経路要人会』の元チンピラ。
  ブーン達の退魔行を目にし、惚れ込んだドクオはバーボンハウスに転がり込んだ。
  誰もがその戦闘センスを認めるが、本人はブーン・ショボンとの実力差を悲観している。
  刃物を仕込んだコート、法力を封じた札でトリッキーに戦う。
  この話のポップ。

∧_∧
(*゚;;-゚) でぃ 推定1300歳 第三話〜
……大富豪モナーの財産と共に、ショボンが預かることになった猫又。
  長年の贅沢暮らしが体に染みついているため、二度と質素な生活はできない。
  爪や牙での物理攻撃、また実態の無いモノを紫の煙に変えて吸い込む『夢喰い』の力がある。
  ちなみに雌。

ξ゚听)ξ ツンデレ 17歳(高校3年生) 第四話〜
……炎の魔神『阿修羅』を内に秘める少女。
  制御不能だった炎で他人を傷つけないように、夢の中に閉じこもっていた。
  1度は目覚めた阿修羅に支配されかけるも、ブーンによって解放される。
  以降、ドクオと共に訓練に励み、今では多少は自由に炎をコントロール出来るようになった。  



6 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:09:08.71 ID:aJqMEWbV0
仲間達
――時には協力して共に闘う心強い者達。
  戦いには出ないが退魔師達を温かく迎える友人達。
  例えそれが人外の者であったとしても、同じ目的をもつ者同士は心を許し合う事が出来る。


( ´∀`) モナー 享年88歳 第三話
……戦後、日本最大の黒幕と言われた男。
  日本中のあらゆる産業に関連会社を持ち、その個人資産はあまりにも巨額。
  あの手この手でショボンに後を継がせようとして、結局はその通りにした。
  でぃとは60年来の付き合いで、これもショボンに世話を押し付けて逝った。


( ,'3 ) 中島バルケン 70歳 第三話〜
……老獪モナーの顧問弁護士。
  こちらもモナーとの付き合いは長く、お互いに絶対の信頼を寄せていた。
  経営の才能も持ち合わせており、ショボンが後継ぎとなったモナー財団の経営を丸投げにされている。
  飛行機の手配や別荘の購入など、ショボンにはいいように使われている。


8 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:09:52.94 ID:aJqMEWbV0
从 ゚∀从 ハインリッヒ高岡 20歳 第六話
……二経路市の歓楽街、要人町で店を構える占い師。
  ただしその占いは全く当たらない。
  それでも生活が出来るのは、ハイン自身にマニア的ファンが付いているため。
  今日も鼻の下を伸ばした男達が金を落としにやってくる……。
  ドクオとは並々ならぬ関係にある。


川 ゚ -゚)  18代目・葛葉ライドウ(クー) 25歳 第七話〜
……日本に古くからある悪魔召喚師・葛葉家の現頭首にして、自称ショボンのフィアンセ。
  ライドウという名は世襲制。
  常軌を逸した強引さでショボンをジワジワと追い詰める。
  ショボンと同じく退魔の刀と破魔銃を使い、さらに契約した仲魔を呼び出し共に闘う。  
  元ネタはPS2のゲーム、『デビルサマナー 葛葉ライドウVS超力兵団』。
  後悔など無い!後悔など!!


( ・>○) ヴィクトル 年齢不詳 第七話
……ホテル『業魔殿』の主にして、数々の退魔アイテムの卸屋。
  ショボンはお得意様。
  尚、クーはこのホテル『業魔殿』でショボンとの結婚式を無理やり上げようと画策していた。
  葛葉ライドウと共にゲームからの特別出演。


9 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:10:26.43 ID:aJqMEWbV0
ミ,,゚Д゚彡 フサギコ 48歳 第七話
( ><)ビロード 23歳 第七話
……弐経路警察署殺人課・鬼警部フサギコと新米刑事ビロード。
  まだ何も分からないビロードと、経験豊かなフサギコは名コンビ。
  フサギコは捜査に行き詰ると、ショボンから助言を貰う為にバーボンハウスへよく通う。
  その過程でショボンが退魔師である事を知る。
  現在では、魔が関係している疑いのある事件は全てバーボンハウスに持って行くのが習慣になっている。


( ´_ゝ`)アニジャ・アラーキー・バレンタイン 推定600歳 第八話〜
(´<_` )オトジャ・ヒロヒコ・バレンタイン 推定600歳 第八話〜
……M県S市M王町を戦国時代から治め続ける吸血鬼領主兄弟。
  本人達は人間との共存を望んでおり、領民から慕われる良き領主を地でいっている。
  霧や蝙蝠などに姿を変えたり、壁の上を地面と変わらず歩く。
  2人とも血は苦手。
  作者はAAの中でこの兄弟が1番好き。だから多少贔屓しても……

11 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:11:02.88 ID:aJqMEWbV0
パンゲア 
――人間を滅ぼし闇の世界を築こうとする最凶・最悪の組織。
  目的の為なら手段を選ばず、暗躍して1つの村を滅ぼす事など平然と行う。
  人や魔に関係なく、悪の道に堕ちた者達で構成される。


( <●><●>) ワカッテマス 年齢不詳 第十一話〜
……数百年前にも、十数年前にも同じ姿で目撃されているパンゲアの怪人。
  その双眸は常に暗く、引き込まれるような闇の深淵を湛える。
  人間の弱さに巧みに付け込み、数々の目的を果たしてきた。
  

 _、_
( ,_ノ` ) 渋沢 年齢不詳 第十四話〜
……全てが終わったM王町に突然現れたパンゲアの幹部の1人。
  渋沢本人は戦闘には参加せず、単にブーン達を観察に来ただけだった為何もかもが不明。
  何故か匂いの強い香水を愛用している。
  流石兄弟に次ぐ好きなAA。だから多少贔屓しても……


13 名前:退魔師 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:11:24.77 ID:aJqMEWbV0
ノ||-∀-|| ショーン 19歳 第十話〜
……M王町に対吸血鬼戦力として送り込まれたクルースニク。
  幼い頃、ワカッテマスの暗躍により魔の側に堕ちた。
  白い猛獣や炎に姿を変える。
  ブーンに敗北後、パンゲアを出奔する。


ノ)) - 从 ノーマン 推定500歳 第十話〜
……M王町に対吸血鬼戦力として送り込まれたダンピール。
  やはりワカッテマスの暗躍により妻を人間に殺される過去を持つ。
  しかし妻を始めとした人間の温かみも知っているため、人間に対して非情に徹することができない。
  連射式のボウガン、桁違いの膂力で操る巨剣で敵を倒す死神。
  ショボンとクーに敗れ、デビルサマナー・クーの仲魔となった。

18 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:12:59.44 ID:aJqMEWbV0

現世か地獄か……
実在か悪夢の産物か……

その場の光源は、地の底の淵から上を窺うようにゆらゆらと揺れる8つの蝕台の炎のみ。
同時に焚かれている香の、噎せ返る様な臭気が空間を埋め尽くす。
白いはずの香の煙は闇に染まり、黒い薄靄となって床近くに重苦しく沈澱していた。

( <●><●>)「弐経路市にて阿修羅が復活したとの情報が入っています 」


 ――――― ほぅ……


僅かな光源に姿を照らされ闇に浮かぶのは、その闇よりもさらに暗い眼差しを持つ男。
8つの炎の中心で怪人は、姿の見えない声の主に恭しく平伏している。

( <●><●>)「いかがいたしましょう?」


 ――――― クックック……、精々礼を尽くしてお迎えしろ。



20 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:13:30.95 ID:aJqMEWbV0

闇の中から聞こえるその声には、権力者特有の絶対の自信が宿り、同時に異様なまでの妖気を漂わせる。

簡潔に言うならば呪詛。

常人ならば聞いただけで命を落としかねない負の力に満ち満ちている。
そして対するこの男の言の葉にも、やはり同じ負の冷気が宿っていた。

( <●><●>)「私のやり方で、宜しいのですね?」


 ――――― 良かろう……。ククク……、吸血鬼が隠し持っていた秘宝の次は煉獄の魔王か……。
       私の元に駒が集いつつある……。


聞く者の心を黒く侵食しつくすような笑い声が響く。
森羅万象全ての事象を、手の平の上で弄んでいるとでも言わんばかりの余裕。
強大な力を持つ阿修羅でさえも組み敷いて然り、そう確信している笑いだった。

( <●><●>)「ただ1つ、気になる点が 」


 ――――― 何だ?



21 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:14:03.07 ID:aJqMEWbV0

ふと怪人は主に伝えるべき事柄を切り出した。
僅かながら闇の中から身の毛もよだつ静かな怒りが届く。

( <●><●>)「M王町の吸血鬼の元へ葛葉の者が向かった、と……」


 ――――― それがどうした?お前が可愛がっているクルースニクとダンピールで事足りるだろう?


主は必要以上に言葉を口から出すことを嫌う。
その為、怪人・ワカッテマスは、出来る限り問答を長引かせることはしない。
しかし伝えなければ不敬に当たると判断し、敢えてその怒りを一身に受けた。

( <●><●>)「葛葉縁の退魔師がM王町に入っております。どうやら裏高野の者……」


 ――――― それで?

どれほどの実力があろうとも、たった1人のデビルサマナーにパンゲアが惑わされる恐れはない。
そこに多少名のある退魔師が加わっても同じことだった。

しかし、その退魔師が古くから、日本を守護する裏高野出身であること。
そしてもう1つの事実がワカッテマスに一抹の興味を持たせた。


23 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:14:56.51 ID:aJqMEWbV0

( <●><●>)「その退魔師、阿修羅と接点を持っております。裏高野と阿修羅、お気付きになられませんか?」

この言葉を機に、じわじわと闇の中から染み出していた静かな気配が止む。
その一瞬の後、膨大な殺気が波動となって暗闇から押し寄せた。
蝕台に灯っていた炎は、殺気の風に煽られて消え失せ、黒1色の世界となる。

闇の主は、口に出すことも汚らわしい、というニュアンスを込めて1つの単語を言葉にした。


 ――――― ……孔雀王……。


( <●><●>)「はい。もしそうならば厄介な相手かと……」

そこに存在するのはただただ殺気。
パンゲアの主の純粋な殺気は、自らが口に出した名を持つ、忌々しい何者かに向けられた。

例え魔の眷属であろうとも、それを受ければ命か正気を失うだろう。
しかし、じっと頭を垂れたまま、ワカッテマスは垂れ流しの殺気を受け続けた。
そのままの体勢で主の言を待つ。


25 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:15:21.11 ID:aJqMEWbV0


 ――――― 退魔師と阿修羅は今離れているのだな?


( <●><●>)「はい 」

ようやく発せられた主の言葉に公定の返事だけを返す。
ふと闇から染み出す気配が性質を変える。


 ――――― 退魔師が帰らぬ内に事を起こせ。万が一の事を考えて、な。
       M王町には、念のため渋沢を遣れ。


簡潔に支持を出すと闇の中の気配が完全に消えた。
消えたと言うよりは寧ろ、元から何も存在しなかったかのように闇と同化してしまった。

( <●><●>)「仰せの通りに……」

ワカッテマスは姿を消した主に返答する。

( <●><●>)「クフッ!クククククク……」

そして唐突に噴き出した。
分かってしまったのだ。

主は―――


27 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:15:40.81 ID:aJqMEWbV0

( <●><●>)「恐れている。クククククク!!」



        ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十五話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録―――

 
              〜その1、異界転落〜



29 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:16:39.82 ID:aJqMEWbV0

怪人がそれを見つけたのは全くの偶然だった。
闇に紛れて訪れた二経路市。
阿修羅と接触するために、その縁の者を利用するつもりだった。

阿修羅の残り香をたどり、繋がりが深いであろう人間を闇の中から物色する。
その作業の中、とある民家の前でワカッテマスは足を止めた。

(   )「ツン!!私の可愛いツン!!
     あなたを私の物にしたい、2人だけの世界で、あなたを私の物にしたい、2人だけの世界で、あなたを……」

それは阿修羅を宿す少女、ツンに向けられた歪んだ思い。
本来ならばプラスの方向であるはずの感情は、完全に裏返ってしまっている。

( <●><●>)「これはこれは、何とも禍々しい。阿修羅に対するこの者の感情、利用させて頂くとしましょう 」

歪み切った心を感じたワカッテマスは冷笑する。
既に魔の側に傾いた人間を利用しない手はない。


32 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:17:28.42 ID:aJqMEWbV0

( <●><●>)「今晩は、お嬢さん 」

(   )「!?」

突然自室に男が出現した。
少女は背筋に電流が流れるほどに仰天した。

男は何食わぬ顔で室内を見て回っている。
数百枚の大小様々なツンの写真が、壁や天井や床を埋め尽くしている室内を。
思い人を振り向かせるための、黒魔術や呪術の道具類までもが点在する室内を。

( <●><●>)「ほぅ、これが現在の阿修羅の姿ですか……。中々に可愛らしい……」

(   )「何なのよ、あなた!?変質者!?お母s―――」

必死の思いで気力を振り絞り、抗議の声を上げようとした少女の言葉は強制的に終了させられた。
ワカッテマスの左手が少女の首を締めあげ、そのまま体を持ち上げられる。

( <●><●>)「フフフ……。そう邪険にするものではありませんよ。
       この少女が欲しいのでしょう?あなたの願いを叶えてあげましょう 」


34 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:18:09.14 ID:aJqMEWbV0

願いを叶える、そう言ったワカッテマスの空いている右手に何かが存在していた。
黒く蠢く小さな何か。
少女は飛び出すほどに両目を見開き、それを凝視した。

その正体を知る術などはない。
ただ1つだけ少女にも分かることがあった。


――――これは何か良くないものだ。


そして驚愕の事実に気づき少女は絶望する。
自分の首を締めあげるこの男は、右手の何かを自分の口に入れようとしている。

(   )「んっ!!んー―――っ!!」

( <●><●>)「フフフフフフ……。明日が楽しみですね。フフフフフフフフwww」

左手を緩めると、少女はドサリと力なく床に落ちた。
怪人はそこに心ばかりの笑みを残し、来た時と同じように闇に溶けて行った。

     ・     ・     ・     ・     ・


38 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:18:58.40 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

昼前のバーボンハウス。
ここでは何者かが怒り狂っていた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「暇すぎる!!ショボン共め、一体いつになったら帰ってくるつもりじゃ!?」

その声が小さな黒猫の口から発せられているように見えるのは、決して間違いではい。
これはバーボンハウスの喋る看板猫、猫又のでぃ。
尤も、気心の知れた人間の前でなければただの猫の振りをしているが。

この小さな妖怪がご機嫌ナナメなのは理由がある。
数日前にM王町に出張に行った退魔師達が一向に帰ってこないからだ。

そこでこの妖怪が思いついた暇潰しの方法とは……

∧_∧
(*゚;;-゚)「そうじゃ!!ツンの所に遊びに行くとしよう 」

1人のいたいけな少女の自由を犠牲にすることだった。


41 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:19:39.70 ID:aJqMEWbV0

トコトコと単身住宅地を行進する黒猫は、記憶を頼りに探索していた。
陽光が照らすアスファルトを縫うように進み、着いた先はツンの匂いのする1つの民家。

∧_∧
(*゚;;-゚)「確かここじゃったのぅ。いつ見てもこじんまりとしたせせこましい家じゃ 」

さて、どうやって侵入してくれよう。
でぃはそう思って様子を伺っていると、少し離れた所から唐突に声を掛けられた。

J(゚听)し「あら?この猫ちゃんはツンのお友達の!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)。o ○(これは確かツンの母親じゃったかのぅ。大人しく普通の猫の振りをしておかねば)

ニャオ、とだけ返事をする。
でぃの正体を知らない人間に、いきなり話しかけると碌でもないことが起こることを承知していたからだ。
しかし中年女性特有の空気の読めなさが、碌でもないことを巻き起こす。

J(゚听)し「ちょうど良かったわ!!今日ツンお弁当忘れて行っちゃったのよ〜。お願い猫ちゃん、届けてあげて 」
∧_∧
(*゚;;-゚)。o ○(は?何を言っておるんじゃこの女は?)

J(゚听)し「ここをちょいちょいと結んで〜♪」
∧_∧
(*゚;;-゚)。o ○(なっ!?ワシの首に触るな!!そこは……にゃふん )

     ・     ・     ・     ・     ・


43 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:20:13.91 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

思わぬ不運に見舞われ、首から弁当袋を提げてトコトコと歩くでぃ。
ツンの居場所は分かったのは良かったが、余計なものまで任せられたでぃは少々腹が立っていた。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ツンの母親はアホなのか!?何で猫のワシに忘れた弁当を届けさせようと思うんじゃ!?」

全くの正論、でぃの言い分は間違っていない。
しかしふと思い直す。

∧_∧
(*゚;;-゚)「まぁ、良いわ。ツンにひもじい思いをさせるのも忍びないからのぅ 」

この猫、何だかんだ言いながら結局はツンの為なら少々の仕事はする。
すれ違う人間達は、弁当を首から提げた猫の異様を見て思わず道を開けた。
口をあんぐりと開けたままその後姿を見送り、誰もが同じ感想を持つ。

    「「「可愛いすぎる!!!」」」

ここに二経路市に1つの都市伝説が生まれた。

『弁当猫』

主を亡くした猫が健気に駅まで弁当を届け続けている、という設定が後から付いたのはまた別の話。

     ・     ・     ・     ・     ・


45 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:20:48.60 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

嬌声咲き乱れる現代の魔境。
嫉妬や憎悪、恨み辛みの螺旋は途切れることない輪廻。
本音を出せばたちまち死。
建前のみで生きていくいしかないその場所は……

∧_∧
(*゚;;-゚)「ほぅ、これが『じょしこう』というヤツか。性根の腐った女の臭いがプンプンしよるわ 」

私立二経路女子高等学校。
ツンが在校するこの女子高に、でぃはやってきた。

丁度昼時で、校舎から大勢の生徒が湧き出てくる。
でぃはこの中からツンを見つけるべく、単身女子高生の群れの中に躍り込んだ。

しばらく探索していると心なしか芳しい香りが漂っている。
身も心もウキウキするような香り。
俄かにでぃ頭の中からツンの存在が消え失せ、その香りの正体を探る。

∧_∧
(*゚;;-゚)「くんかくんか。ハッ!?まさかコレはマタタビの木!?しかも200年物の古木か!?」

匂いを辿った先には、青々とした葉が幾重にも茂った立派なマタタビの木があった。


     ・     ・     ・     ・     ・


47 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:21:20.61 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

ξ゚听)ξ「でぃさん……。そこで何やってんの?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「ツ、ツン!?ワシは弁当を届けに来ただけにゃ!!断じてマタタビに酔ってなどおらんにゃ!!」

ξ゚听)ξ「『にゃ』が出てるわよ、『にゃ』が 」

マタタビの小枝を齧りながらゴロゴロと転がっていたでぃを見つけたツン。
断じて酔っていない、といった様子で体裁を保とうとするでぃに、ツンはもう呆れ顔だ。
でぃは慌てて跳ね起きると、ツンに持参した物を勧める。

∧_∧
(*゚;;-゚)「それよりツン。腹が減っておるのではないか?弁当が無かったのじゃろう?」

ξ゚听)ξ「まぁ、ちょうど食堂にお昼ご飯に行く所だったけど、でぃさんが届けてくれたお弁当にしましょうか。
      天気も良いし、外で食べようかな。でぃさんも一緒に食べよ 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「そんな庶民の食い物など普段は口にはせんのじゃが……。
     ツンがどうしてもと言うのなら、付き合ってやらんでもないぞ 」

ξ#゚听)ξ「……それは光栄なのかしら?」

でぃにその気はないのだが、馬鹿にされた気がするツンはヒクヒクと口元を歪ませる。
女子高生と猫は、マタタビの木陰に座り、弁当箱を広げた。


48 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:22:12.70 ID:aJqMEWbV0

ノパ听)「ツン!!そこにいたか!?さぁ、一緒に昼ご飯にしよう!!」

ξ゚听)ξ「ふぅ……。メンドクサイのに捕まったわね 」

弁当をつつき始めてすぐ、甲高い大声がかけられる。
ツンとでぃがそちらを向くと、ショートカットの快活そうな少女が飛び跳ねるように向かって来ていた。
丈の短いスカートをハラハラする程に靡かせる少女を見て、大きく肩を落とすツン。

从'ー'从「ツンちゃ〜ん。一緒にお昼食べようよ〜 」

ξ--)ξ「もう一人増えた…… 」

間髪入れず、今度は別の声が掛けられる。
どこか気だるそうなその声のした方を見ると、今にも躓きそうな足取りで、おっとりとした感じの少女が近づいてくる。
ツンはうんざりした顔で両目を瞑ると、大げさに溜め息をついた。

ノパ听)「おぉ、何この猫は!?ツンの猫なの!?」

そうすることが当然であるかのように、ツンの膝の上でツンから弁当の唐揚げの1部を貰っている猫。
快活そうな少女はこの光景を見て疑問を持つ。


51 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:22:33.66 ID:aJqMEWbV0

ξ゚听)ξ「違うわよ、ヒート。この猫は友達 」

ノパ听)「猫が友達!?」

ヒートと呼ばれた少女は一瞬目を見開き困惑した。
次の瞬間両手を大きく開き、ツンを抱き締め『分かる、分かるよ!!』と頬ずりし始めた。

ノパ听)「クゥ〜〜〜〜!!なんて可愛いんだ、ツン!!好きだ!!愛してる!!」

ξ--)ξ「黙らっしゃい、この百合乙女め 」

興奮するヒートの腕の中で、いたって冷静に受け答えするツン。
何気ない仕草でその呪縛から逃れると、今度はもう一人が両頬をパンパンに膨らませていた。

从'ー'从「ちょっとぉ〜、ヒートちゃんズ〜ル〜イ〜。私だってツンちゃんに恋してるんだからね〜 」

ノパ听)「うっさい!!三千世界を覆い尽くして、尚余りある私の愛に適うとでも思ってんの!?」


53 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:23:06.01 ID:aJqMEWbV0

从'ー'从「なによ〜!!私は千年の恋をツンちゃんに捧げてるんだもんね〜!!」

ノパ听)「はっ!!たったの千年!?私は一万年と二せn―――」

ξ゚听)ξ「はいはいはい、渡辺さんもその辺にしときなさいよ。さっさと食べちゃわないと、昼休み終わっちゃうよ?」

ツンの号令の下、大人しく昼食に興じ始める2人。
でぃはこれまでのやり取りを見てツンに耳打ちする。

∧_∧
(*゚;;-゚)(ツン?心無しかこの者達、お前に並々ならぬ感情を抱いておるぞ?)

ξ゚听)ξ(しー!気付かない振りしとくのよ、そういう事は )
∧_∧
(*゚;;-゚)(ふーむ。人間は妙な方向に進化しておるものじゃのぅ )

涼しい顔のツンの両サイドでは、水面下で女同士の熱い戦いが繰り広げられている。
火花を散らす2人の少女にでぃは普通に感心していた。


55 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:23:37.12 ID:aJqMEWbV0

ξ゚听)ξ「じゃ、でぃさん。私は授業があるから、しばらく探検でもして時間潰してて。4時になったら……って、時計読める?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「無論じゃ。ワシを誰だと心得る?悠久の時を生きる猫又ぞ 」

弁当箱に蓋をし、キチンと包みながらツンはでぃに話しかけた。
ヒートと渡辺は表面だけは笑顔を浮かべて、2〜3歩先を歩いている。

ξ゚听)ξ「それは失敬しましたっスー。じゃ、4時に演劇部の部室に来てくれる?場所は南棟の―――」
∧_∧
(*゚;;-゚)「良い良い。歩き回って探しておく 」

嫌味のない笑いを交えながら謝るツン。
当のでぃも他意がないことは分かっているので軽く流した。

ξ゚听)ξ「オッケー。今日から合宿だから夜は一緒に寝よっか?どうせブーン達、まだなんでしょ?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「ワシは庶民には想像も付かぬような、豪華絢爛なクッションの上でしか寝らんのじゃが……。
     どうしてもと言うのなら、女同士、積もる話に付き合ってやらんでもないぞ 」

こちらも他意がないことは分かっている。
分かってはいるのだが、どこかカチンと来る言い回しだ。


58 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:24:54.89 ID:aJqMEWbV0

私は悪くない、悪いのは非常識な経済力を持つショボンと、存在自体が非常識なこの猫だ。
深呼吸しながら自分にエールを送るツン。

ξ#゚听)ξ「はいはい。どう足掻いたってショボンさんには及びま―――」

ノパ听)「おーい、ツーン!!授業に遅れるよー―――!!」

ツンは湧き上がるドス黒い感情を抑えることに成功した。
自分へのご褒美をあげたい程の快挙だったが、空気の読めない元気印の百合娘に時間がないことを告げられた。

ξ゚听)ξ「あ、もう行かなきゃ!!でぃさん、後でね!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「後でなー 」

駆けて行くツン達3人の後ろ姿にしっぽを振りつつ見送った。
目を細めながら姿が消えるのを確認するでぃ。
邪魔者がいなくなったところで、頭上のマタタビの木を舌なめずりをしつつ見上げる。

∧_∧
(*゚;;-゚)「さーて、堪能するとしようかのぅ〜♪」

     ・     ・     ・     ・     ・


61 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:25:19.29 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

ξ#゚听)ξ「くぉらっ!!今何時だと思ってんのよ!?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「にゃ?4時ちょっと過ぎ?」

トコトコと歩き回ってようやくツンの所在を突き止めた猫又。
その眼前には、両手を腰に当て、鬼の形相ででぃを見下ろすツンが立ちはだかっていた。

ξ#゚听)ξ「10時よ、10時!!に じ ゅ ぅ に 時!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「そう変わらんにゃ。そんな事より、ここのマタタビは頗る良かったにゃ。1枝どうじゃ?」

ξ#゚听)ξ「人間にしてみれば6時間は大きいのっ!!それにマタタビで酔えるのは猫だけでしょっ!!」

普段の尊大な言葉使いではなく、どこぞの安っぽい猫耳娘のように自然と語尾に『にゃ』が付いている。
相当にマタタビを堪能してきたようだ。
心なしか黒い毛並みが、ほんのりと桃色に染まっているような気さえする。


63 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:25:50.62 ID:aJqMEWbV0

∧_∧
(*゚;;-゚)「まぁ、そう怒るにゃ。どれ寝床に案内するにゃ 」

ξ゚听)ξ「もぉ〜、勝手なんだから 」

スっとツンの後ろで半開きになっているドアを通り抜けるでぃ。
合宿用の宿泊施設の1室の中では、ツンを含め3人が寝泊まりしていた。
残りの2人は予想通りの……

ノパ听)「ツン!!どこ行ってたの!?痴女にでも襲われたんじゃないかと心配だったんだよ!?」

ξ--)ξ「あんたに襲われなきゃ大丈夫よ 」

从'ー'从「わぁ〜、この猫さんも連れてきたんだ〜 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「にゃ〜ぉ♪」

ξ゚听)ξ「うん。1人じゃ可哀想だからね 」


65 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:26:40.95 ID:aJqMEWbV0

やたらと愛想を振り撒くでぃに2人の女子高生は歓喜する。
消灯時間以降に外出を禁止されると、合宿の夜とは何かと暇なのだ。

ノパ听)「ほらほらほ〜ら!!ここね!?ここがイイんでしょ!?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「ゴロゴロゴロゴロ♪」

从'ー'从「可愛ぃ〜。私も首コチョコチョしてあげよ〜 」

ξ゚听)ξ。o ○(でぃさん随分機嫌良いわね。酔ってるからかしら?)

このまま消えてしまうのではないかというほどに、目を細めて喉を鳴らすでぃ。
腋の下や額を刺激され、もうとろけてしまいそうだ。
ブーンやドクオが同じ事すれば、忽ちの内にボロ雑巾と化す粗相のはずだが……。

ノパ听)「愛い奴愛い奴!!ツンもこれくらい素直なら良いのに……」

从'ー'从「ね〜♪」

ξ--)ξ「この2人と同じ部屋で寝るなんて……。頭痛いわ 」

この台詞を聞いたツンは、米神を指で抑えながら頭を振った。
自分にその気が無い事を一体いつになったら分かってくれるのだろう。
今まで無理だったのだから、これからも無理だろうとツンは既に半ば諦めていた。


68 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:27:11.50 ID:aJqMEWbV0

ノパ听)「良し!!明日も早いことだし寝よっ!!さぁツン、私の布団の中へ!!さぁ、さぁ、さぁ!!」

从'ー'从「ダメよ〜。ツンちゃんは私の布団で寝るの〜。ね〜?」

ξ--)ξ「アホか。私は自分の布団で寝ます 」

想定していた事を想定したタイミングで言われる。
当然ツンは想定していた答えを返す。
最近ではわざわざ想定するまでもないかなとさえ考え始めている。

ノパ听)「なんだ、それならそうと言ってくれればそっちに行くのに 」

从'ー'从「私も〜 」

ξ゚听)ξ「あんたら2人とも1回頭を強くぶつけた方が良いわよ。こっちおいで、でぃさん 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「にゃぁ♪」

横になって掛け布団をはらりと持ち上げるツン。
でぃはその中にスッと入ると、ツンの腕にチョコンと顎を乗せ目を細めた。

ノハ#゚听)。o ○(この猫がぁっ!!)

从'ー'从。o ○(猫ちゃんいいなぁ〜)
 ∧_∧
(*゚;;-゚)。o ○(ぬっ!!)

     ・     ・     ・     ・     ・


71 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:27:32.50 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

深夜。
生理現象によりツンは目を開けた。

ξ゚听)ξ。o ○(トイレ行きたくなっちゃった)

上半身を起こし暗い室内を見渡す。
寝ぼけた頭を整理し、今は演劇部の合宿中で、宿舎に泊まっている事を思い出した。

ξ゚听)ξ。o ○(って言っても夜中の学校1人じゃ怖いし……。仕方ない。ヒートと渡辺さんを、ってあれ?)

暗闇の中で目を凝らし、道連れを確保しようと布団を見る。

―――もぬけの殻?

ξ゚听)ξ「でぃさん、でぃさん 」
∧_∧
(*゚;;-゚)「む、何じゃ?せっかく猫が気持ち良く寝ておるというのに 」

布団の中で丸くなっている猫を揺すると、寝ぼけ眼の恨めしい声がした。
マタタビの酔いはすっかり抜けてしまっているようだ。


73 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:27:59.27 ID:aJqMEWbV0

ξ゚听)ξ「ちょっとね……。ヒートと渡辺さんがいないの。1人じゃ怖いから付いてきてくれない?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「小便か?」

ダイレクトに聞き返す猫又。
ツンは赤面して言い直すよう強要する。

ξ#゚听)ξ「お、女の子にその言葉は相応しくないんじゃないかしら……?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「小便は小便じゃろ 」

クワァと大きな欠伸をして切り捨てるでぃ。
眠いから早くしてくれと言わんばかりの顔をしている。
ますます顔を赤くするツンは、夜中にも関わらずとうとう声を荒らげた。


76 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:28:45.30 ID:aJqMEWbV0

ξ#゚听)ξ「違うわよ!!ちょっとお花摘みに行くだけよ!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「こんな夜中にか?」

ξ#゚听)ξ「いいから黙って着いてきて!!」

でぃは、仕方ないのぅ、と溜息を1つ付いてツンの足元を歩く。
トコトコと歩いて行くと、そこは案の定女子トイレだった。

∧_∧
(*゚;;-゚)「おい、ツン。ここは便所じゃぞ?こんな所に花など――」

ξ#゚听)ξ「シャラップ!!そこ、動かないで待っててよねっ!!」

夜の廊下に大声が染み込んで行く。
ツンはそんなことお構いなしと、大きな音を立ててトイレのドアを閉めた。
後に残されたでぃには1つだけ疑問が残る。

∧_∧
(*゚;;-゚)「しゃらっぷ?何の事じゃ?」

     ・     ・     ・     ・     ・

79 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:29:23.53 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

ξ゚听)ξ「ふぅ〜。でぃさん、ありがと 」

満足気な声を出しつつ、手を洗うツン。
これを見てでぃは新たにもう1つ疑問を持つ。

∧_∧
(*゚;;-゚)「ん?花はどうした?」

ξ#゚听)ξ「それはもういいの!!」

花を摘みに行くと言ったはずだが、花を手にしてないツンがやることは全て済んだという顔をしている。
でぃはただそれが不思議だっただけなのに、大声で怒鳴られてしまった。
でぃは釈然としないまま、肩を怒らせてズンズンと歩いて行ってしまうツンの後ろを付いて行った。

その時―――

∧_∧
(*゚;;-゚)ξ゚听)ξ「「っ!!」」


83 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:29:49.93 ID:aJqMEWbV0

校舎中に何かが駆け抜ける。
それはツンとでぃの体も通過し、一気に後ろへと広がっていく。
例えるなら、日向から日陰に足を踏み入れたような感覚。

但し、それを100倍も禍々しくしたような……

ξ゚听)ξ「でぃさん!!感じた!?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「うむ!!これはまずいぞ!!すぐに逃げるんじゃ!!」

有無を言わさず退避を提案するでぃ。
その声には切羽詰まった緊張感が乗せられる。

悠久を生きた猫又の、危機回避の本能が最大音量で警鐘を鳴らす。
既に逃げ出すための第1歩を踏み出したでぃの背中にツンが叫ぶ。

ξ゚听)ξ「でも皆が!!」
∧_∧
(*゚;;-゚)「もう間に合わん!!走れ、ツン!!」


86 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:31:17.01 ID:aJqMEWbV0

その声にツンは思わず走り出していた。
でぃの言い方には、途方も無い危機が訪れている事を理解させるに十分な説得力があった。
理由は後で聞けばいい。
とにかく今はでぃの言う通り逃げるしかない。

廊下を走るツンは窓から見える外の光景に息を呑む。
暗闇のはずの夜の帳が、今では不気味に輝く紫に染まっている。

―――瘴気―――

そう呼ぶのが最も適切だと感じるような禍々しい紫。
ツンは階段を降り切り、入口のドアに到達すると同時にそれを開け放つ。

ξ゚听)ξ「……何よ……、これは?」

言葉を失った。
校庭に広がっているはずのその場所は、入口を境に完全に紫の空間に繋がっていた。


まるでそこから空間が切り取られてしまったかのように……。



     ・     ・     ・     ・     ・


88 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:31:45.23 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

( <●><●>)「素晴らしい……」

高校の敷地の外で、1人の男が静かに歓声を上げていた。
その男は、ほぼ完全に闇に溶け込んでいる。
男自体が夜より深い闇を周囲に発しているような印象で、最早そこに本当に居るのかどうかすら疑わしい。

( <●><●>)「あの少女にこれ程の力が……。まさか『異界落ち』とはねww」

思わぬ拾い物をした。
闇に溶け込む怪人は、クシャクシャに歪めた顔を片手で覆い隠す。
しかし魂が凍えるような笑い声は絶えず漏れ続けていた。

( <●><●>)「以前拾った男もそうでしたが……、この都市には妙に潜在的に強大な力を持つ人間が多い。
       何か原因があるのでしょうか 」

ワカッテマスは考える。
しかし暗くくすんだ両眼を見開き、腹を掻き毟りながら笑った。

( <●><●>)「クックック、まぁ良い。どうせ分かる事です。
       今夜は精々異界落ちの顛末、楽しませて頂きましょうww 」


     ・     ・     ・     ・     ・


90 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:32:07.00 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

∧_∧
(*゚;;-゚)「チッ!!聞いたことがあるぞ。この建物は地獄に落ちた!!」

ξ;゚听)ξ「じご……」
∧_∧
(*゚;;-゚)「最早何を言うても始まらん!!とりあえず部屋に戻るぞ!!」

何の前置きもなく、現状の結論を口にしたでぃにツンは絶句する。
眼前に揺らめく紫を呆然と眺めるツンを尻目に、でぃは早くも次の行動を起こそうとしていた。
でぃの強い言葉に、ハッと我に返るツン。

項垂れたまでぃの後を着いて行くツンは、努めて明るくでぃに声をかける。
実際にその口から出た声は、明るいとは程遠いものだったけれど。

ξ゚听)ξ「でぃさん……。何とかならないの?」

ツンが明らかに気落ちしている事を、でぃはその声から察した。
『地獄』という言葉を出した事を今更ながら後悔するでぃ。
しかし現状を把握させるためには、敢えて辛かろうとも現実を聞かせるしかない。


92 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:32:29.34 ID:aJqMEWbV0

∧_∧
(*゚;;-゚)「死す事を除く地獄落ちにはいくつか種類がある。
     住む者全てが餓鬼道に落ちるなど、その土地が浄化不能になるまで穢れる事。
     強力な術者が張った結界の内側を地獄落ちさせる事 」

ξ゚听)ξ「そんな事が……」

幾分か声から落着きが感じられるようになった。
でぃはツンの胆力に感心しながら淡々と続ける。

∧_∧
(*゚;;-゚)「前者は諦めるしかない。地獄に落ちるほど穢れた土地は、100年200年では浄化は出来ぬ。
     後者は術者を倒せばどうにかなるが……。内側から外の術者に手を出すことは出来ぬ 」

詰まる所お手上げだ。
でぃはそう言った。
言いたくはなかったが言うしかなかった。
それが現実なのだから。

ツンは黙ってそれを聞いていた。
でぃは振り返ってツンの顔を見る。
そこには絶望に打ちひしがれた顔ではなく、どこか吹っ切れた顔があった。


96 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:33:04.41 ID:aJqMEWbV0

でぃはこのツンの表情を見て密かにほくそ笑んだ。
外を匂わせた事で『あの者』の存在が脳裏に浮かんだな、と判断する。

ξ゚听)ξ「ブーン達が帰って、助けてくれるのを期待するしかないのね 」

案の定その名前が出た。
ツンは自身が思っている以上に、その存在に信頼を寄せている事にまだ気づいていない。
ツンはもう大丈夫。
そう確信したでぃは少しだけ不安を煽って虐めてやろうと画策する。

∧_∧
(*゚;;-゚)「それまで生き抜くことが出来たら、の話じゃがな 」

ξ゚听)ξ「鬼でも出るっての?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「地獄じゃからな 」

ξ;゚听)ξ「マジで?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「マジじゃ 」


98 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:33:34.68 ID:aJqMEWbV0

どうせ言わなければならない事。
予め心の準備だけはさせておいた方がいいだろう、との判断もあってのお茶目心だ。

∧_∧
(*゚;;-゚)「幸いにもまだ地獄の亡鬼共はまだここに気づいてはおらぬようじゃ。
     今の内に友人共を1ヵ所に集めておくが良いぞ 」

ξ゚听)ξ「……そうね。こういう時の為にブーンやショボンさんに稽古つけて貰ったんだもん。
      絶対皆を守り抜いてやるわ 」

いつの間にか、魔の脅威に晒されても挫けない心の強さを持っている。
ブーン達退魔師との邂逅で、ツンの心にも自然と、退魔師としての心構えが出来ていたのかもしれない。

その身に炎の魔神・阿修羅を秘めるツンが使える。
そうなるとこの危機も打破出来るかもしれない。

同じ部活の仲間達を力強く助けに向かうツンを後ろから追いかけながら、でぃは少しだけ光明を見た。

     ・     ・     ・     ・     ・


101 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:34:07.59 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

ξ゚听)ξ「いない……?」

宿舎に着くや否や、ツンは友人達が宿泊しているはずの部屋の扉を開け放つ。

しかし、誰もいない―――

ツンは次の部屋、そしてまた次の部屋と順に駆ける。

ξ゚听)ξ「ここも……、こっちも!!でぃさん、他の部屋で寝てた子達がどこにもいないわ!!」

最後の部屋に飛び込んだ後、額にうっすらと汗を浮かべながら飛び出てくるツン。
そこで寝ているはずの友人達が1人としていない。
それを聞いたでぃは、フム、と1度事態を呑み込み考えを整理する。

∧_∧
(*゚;;-゚)「妙じゃな……。食われたにしても綺麗すぎる。何よりまだこの建物に鬼共が入った気配はない 」

ξ゚听)ξ「一体どういうこと?とにかく皆を探さなきゃ!!」


103 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:34:29.70 ID:aJqMEWbV0

平常心を乱したツンは、1人で友人達の探索に向かおうとする。
その間でぃは五感を研ぎ澄まし、情報を得ようと意識を集中していた。 
そして1度ツンを制する。

∧_∧
(*゚;;-゚)「……待て。血の臭いがする…… 」

その嗅覚が掴んだもの。
それは決して喜ばしいものではない。
でぃは不吉な臭いの元へとツンを先導する。

∧_∧
(*゚;;-゚)「こっちじゃ!!」

ξ゚听)ξ「血の臭いって、そんな……。ちょっとでぃさん、待ってよ!!」

返事を待つことなく駆けて行くでぃ。
ツンは慌ててそれを追いかける。
でぃの言葉に一抹の不安を覚えながら。

     ・     ・     ・     ・     ・


105 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:35:08.84 ID:aJqMEWbV0

     ・     ・     ・     ・     ・

ξ゚听)ξ「体育館?」

でぃの後を着いて行った先には、ピッタリと閉じた鉄の扉がある。
この時間にも拘らず外された南京錠が、無言で中に何かの存在を主張している。
ツンは反射的にその扉を開けようと手を伸ばした。

しかし……

∧_∧
(*゚;;-゚)「……ツン。開ける前に心せよ 」

ξ゚听)ξ「え……?」

普段より低いでぃの声。
ツンは扉を開けながらそれを聞いた。
何も考えず、ただ友人達がその先にいるなら開けなければと思っていた。


107 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:36:13.59 ID:aJqMEWbV0

―――心せよ?
   どうして友達と会うのに心の準備がいるの?
   だってホラ、もうすぐそこに……







     …… み ん な が ……







ξ;凵G)ξ「いやぁぁぁー―――――!!」



110 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:36:48.59 ID:aJqMEWbV0

ツンは頭を両手で抱え、開いたドアから体育館内の空間へと絶望の声を上げた。
両足を巡る血液が、急に全て鉛に変わってしまった様な感覚。
重い足はもうツンを立たせ続けることはできなかった。


無慈悲に現実を突き付けられ、膝をついて肩を震わせるツン。


ツンが見ているものは、床に直接置かれた燃え尽きた蝋燭の残骸。

床一面に描かれた魔方陣。


そして、赤。
冷えてしまった血の池の赤。
血溜まりの中心に浮かんでいるのは、無造作に十重二十重と積み上げられた人の形をしているもの。



112 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:37:22.79 ID:aJqMEWbV0

ツンはその光景を目に焼き付けながら悟る。
この血の海は全てそこから流れ出ている。

∧_∧
(*゚;;-゚)「これでハッキリしたな。考え難い事じゃが……」

その不気味な儀式の痕跡は、恐らくこの学校を地獄に落とすために行われたもの。
生贄、魔方陣、儀式、その全てがこの地獄の内側に存在している。


つまりもう1つのピースもそうである事にでぃは気付く。

∧_∧
(*゚;;-゚)「術師は中におる!!自分諸共地獄に落としたんじゃ!!」


115 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:37:59.42 ID:aJqMEWbV0

もう1つのピース、即ちその張本人。
信じ難い事に、その何者かは自ら望んで地獄に落ちたことになる。

ξ;凵G)ξ「酷い……。酷いよ…… 」

押し寄せる感情の波に、身を任せるままにしているツン。
それを見たでぃは活を入れる。

戦わねばならないのだ。

∧_∧
(*゚;;-゚)「しっかりせんか、ツン!!
     ここから抜け出すには、我らが自らの手で術師を倒さねばならんのじゃぞ!!」

潜在的に恐るべき力を宿しているとは言え、ツンは十代の少女に過ぎない。
十数人の友人の変わり果てた姿を見た直後では、酷な注文である事は十分に承知している。
しかし、生き残る為には仕方がなかった。


118 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:38:45.61 ID:aJqMEWbV0

それを受けたツンは不意に慟哭を止める。


ξ 凵@)ξ「……うん。ごめんね、でぃさん。もう大丈夫 」


ツンは自らへの決意確認のように、言葉を紡ぎ出した。

唇を噛み締めながら、1度は力を失ってしまったその両足で力強く立ち上がる。


両眼に意志の力を込め、命を失った友人達の無念を脳裏に焼き付ける。
噎せ返る程に密度の濃い血の匂いの中、ツンはその意志をハッキリと言葉にした。


121 名前:十五話 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:39:15.64 ID:aJqMEWbV0

ξ゚听)ξ「絶対ここから生きて出てやるわ!!」



        ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十五話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録―――

 
              〜その1、異界転落〜終



123 名前:予告 ◆FnO7DEzKDs :2007/11/21(水) 21:39:47.45 ID:aJqMEWbV0

次回予告

             地獄に落ちた高校

               死んだ者達

                戦う者

ξ゚听)ξ「ブーン……。ショボンさん、ドクオさん。こんな時、どうすればいいの?」
∧_∧
(*゚;;-゚)「臭うな。ワシの好かん臭いじゃ 」
 
                生存者

ノパ听)「ツン!!何かおかしな事になってるよ!!」

从;ー;从「ふぇ〜、生きてたんだねぇ〜?良かったよぉ〜 」

    
             ……そして黒幕……


        ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

     ―――第十六話・火の玉女子高生ツン・初めての退魔録―――

 
              〜その2、下心〜



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