( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―第十三話・吸血鬼の家に遊びに行こう― 〜その6、聖なる焔〜

85 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:44:03.17 ID:o7X2hlSI0
舞台は再び現代の吸血鬼屋敷、玄関ホール。
ダンピール、ノーマンが赤石を持つショボン達を追い、地下道に下りた直後。

吸血鬼兄弟、兄者と弟者に殺された20強の人狼の死体。

傷を負い横たわるその当人達。

嘲笑を浮かべるアルビノの少年、ショーン。

ショーンは増えた獲物を見て、感激に身を震わせケタケタと笑っていた。
彼が見ているのは、凛と戦いの構えを取る2人の退魔師、ブーンとドクオ。

ノ||-∀-||「なんだ〜〜、その緊張した構えは!オレとやる気かァ?
      言っておくが、そこの吸血鬼共はオレに手も足も出なかったんだぜぇww」

ショーンが挑発する。
しかしこの言葉の中に途方もないセリフが混じっていた。
シリアスな雰囲気的にも、どうにかして耐えようとするブーンとドクオだったが……

( ^ω^)「ぷっ、何を言い出すかと思えばww。ドクオさん、今の聞きましたかお?」

('A`)「えぇ、確かに聞きましたよブーンさんww。弟者達が手も足も出なかったってww」


87 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:45:10.05 ID:o7X2hlSI0
我慢できずに、とうとう吹き出すブーンとドクオ。
兄者と弟者が手も足も出ない?

いやいやいや、それはない。
自分達が手も足も出なかった弟者に、同じスペックの兄者。
そんな2人を相手に完封劇を見せるなどありえない。

( ^ω^)「君ぃ〜?君は一体何歳かね?」

ノ||-∀-||「19だよ 」

( ^ω^)「あ〜、19歳ねww。ドクオさん聞きましたかお?19歳ですってww 」

('A`)「ナルホド〜。完全にゆとり世代ですな、ブーンさんww。
     いやいや、この年代の若者には良くある事ですよww」

( ^ω^)「所謂『中二病』と言うやつですかお?ついつい事を大きく言ってしまうんですよね〜ww。
       偉い人も言ってますよww。嘘を嘘と見抜けない人は―――」

( ´_ゝ`)「本当だぜ?」

(;^ω^)(;'A`)「「は?」」

(´<_` )「すまない。私達は一方的にやられた 」

(;^ω^)(;'A`)「「ちょww」」

89 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:46:46.76 ID:o7X2hlSI0
笑い飛ばしたまま、表情を凍りつかせるブーンとドクオ。
確認の為に弟者を見ると、申し訳なさそうに頷いた。

(;^ω^)「あ〜、すみません。ちょっと待ってて貰えますかお?」

ノ||-∀-||「早くしろよ 」

一先ずショーンの了承を取り作戦タイムを取る。
ブーンとドクオは、そそくさと近付き小声で話し始めた。

(;^ω^)(ちょっとドクオさん!!何か冗談じゃないみたいだお!!)

(;'A`)(どうするよ?今更後には引けねぇんじゃねぇの?)

(;^ω^)(いや、でもあの2人がフルボッコって、ヤバ過ぎワロタww)

(;'A`)(オレらは弟者1人に3人がかりで傷1つ付けられなかったんだぜ?常識的に考えて無理じゃね?)


91 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:47:29.84 ID:o7X2hlSI0
ノ||#-∀-|「おい、まだかよ?」

(;^ω^)「あ、もう少しですからww 」

(;^ω^)(ドクオさん!!先方様、お待ちかねですお!!)

(;'A`)(だってさぁ〜)

どうにも煮え切らない退魔師2人。
ショーンも流石に、待つと言った事を後悔し始めていた。

あまりの膠着状態に、見兼ねた吸血鬼兄弟が溜まらず口を出した。

(´<_`;)「ブーン君、ドクオ君……。ヤツは私達吸血鬼の天敵だ。
       ジャンケンで言うなら私達がパーでヤツがチョキ。
       相性が悪かったんだよ。分かるかい?」

( ´_ゝ`)「そうそう。お前らはグーだから相性の悪い弟者に攻撃が効かなかった。
       だがちょっと考えて欲しい。オレ達がパー、ヤツがチョキ、そしてお前らがグーって事は……?」


92 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:49:11.93 ID:o7X2hlSI0
その言葉にピクリと反応するチキン退魔師ブーンとドクオ。
そして蘇るのは威圧感、圧迫感。

修羅が、仁王が、鬼神がここに復活する。

( ^ω^)「ククククク……」

('A`)「カカカカカ……」

( ^ω^)('∀`)「「ハァーハッハッハッハ!!」」

( ^ω^)9m m9('∀`)「「クルースニク敗れたり!!」」

ノ||;-∀-|「急に何だコイツら?」

勝利の高笑いを上げる2人のチキン。
グーがチョキに負けるわけが無い。
2人の目には、無駄にビビらされた腹いせを企む、不気味な光が宿っていた。


93 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:50:53.54 ID:o7X2hlSI0
( ´_ゝ`)「うむ。完全に洗脳は成功したな。単純な脳で助かった 」

(´<_` )「年の功と言うやつだな兄者。
       ブーン君達に押し付けて申し訳ないが、この相手ばかりは私達ではどうしようもないからな 」

そう言って不気味に笑うブーンとドクオを見る兄弟。

( ゚ω゚)(゚A゚)「カカカカカww」

(´<_`;)「何やら妙なスイッチが入っているようにも見えるが……」

( ´_ゝ`)「別にいいんじゃねぇの?やる気は出たんだし 」

ノ||;-∀-|。o ○(ノーマン追いかけようかな)

兄者は自ら蚊帳の外に足を踏み出して、高みの見物を決め込む腹積もりだ。
弟者は一抹の懺悔の念を拭い去る事ができない。
しかし、ここはブーン達に任せるしかないので大人しく引き下がった。


95 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:52:37.44 ID:o7X2hlSI0
( ^ω^)「おい小僧!!まずは弟者さんの杭を外せお!!」

以外にも冷静な判断力を保っていたブーン。

まずは弟者を串刺しに縛っている、両手足の杭を抜くことをショーンに要求する。
その脇では先程からドクオが、弟者を貼り付けから解放しようと四苦八苦しているが……

('A`)「駄目だ、ビクともしねぇ。何かの力で固定してるみてぇだ 」

ノ||-∀-||「ひゃっひゃっひゃww。それはオレを倒さないと抜けねぇよ。ヴァチカンの秘法だぜ?」

( ^ω^)「メンドクサイお。弟者さん、ちょっと待ってて下さいお 」

(´<_`;)「私なら大丈夫だ。命を落とす事はあるまい 」

弟者は額に脂汗を浮かべながら気丈に答える。
対吸血鬼用の武器が身を貫いているのだ。
相当に痛いのだろう。

97 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:53:45.18 ID:o7X2hlSI0
ノ||-∀-||「ここはクソどもの死体のせいで空気が悪いなぁww。外に出ようぜ 」

ショーンは足元の人狼の死体を蹴り付けて外に出て行ってしまった。
元々は自分の部下だったはずだ。
しかし一片の慈悲も持ち合わせてはいない。

('A`)「何だありゃ?仲間じゃなかったのか?」

( ^ω^)「知らんお。とりあえず僕達の敵だって事は確定だお。兄者さんも安静にしていて下さいお 」

( ´_ゝ`)「あぁ、助かる。少々内臓がやられてるみたいでな 」

兄者はそこまで言うと、気が抜けたように床に突っ伏した。
ブーン達がやる気を見せるまで、気を張っていたようだ。


99 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:54:34.81 ID:o7X2hlSI0
気を失った兄者をブーンとドクオは弟者の側に運ぶ。

('A`)「じゃ、ちょっくら行ってくるからよ 」

(´<_`;)「気を付けるんだ。クルースニクは魔と戦う事を宿命に生を受ける。意味は分かっていると思う 」

弟者の助言を2人の退魔師は背中で受ける。
返答はない。
しかし無言の中から意思が伝わった確信が持てる。

弟者が見た、わずか20数年しか生きていない2人の男の背は、何よりも逞しく輝いて見えた。


102 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:56:27.68 ID:o7X2hlSI0
( ^ω^)「さあ、お仕置きの時間だお。ベイビー 」




      ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

    ―――第十三話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――


          〜その6、聖なる焔〜


103 名前:十三話:2007/11/04(日) 21:58:02.14 ID:o7X2hlSI0
荘厳かつ優美。
美術館や宮殿と言っても差し支えのなかった屋敷の庭園。

心無い人狼が破壊の限りを尽くし、今では哀れな姿を晒している。

色取り取りの花が咲き乱れていた花壇は踏み荒らされ、美しく整備された芝生や木は見る影もない。
弟者が丹念に手入れしていたバラ園の主役達は、無理やりに花を落とされてしまっていた。

('A`)「酷い有様だな。ムカついてきた 」

( ^ω^)「ちょうど僕もそう思ってたトコだお。こりゃ、きつ〜いお灸が必要ですお 」

ノ||-∀-||「おいおい、勘違いしてるようだから言っとくぞ。これやったのホールで死んでた狼男達だから 」

( ^ω^)「あ、それはご丁寧にどうもだおww。……ちょっと行ってぶち殺してくるお……」

('A`)「待て。オレの記憶が確かなら、もう既にぶち殺されてる 」


104 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:00:27.84 ID:o7X2hlSI0
それを聞いたブーンは険しかった表情を緩める。
さっき見たばかりのライカンスロープの死体の事を、本気で綺麗さっぱり忘れていたようだ。

( ^ω^)「何だ。面倒事が減って助かったお。では仕事は1つだけですね、ドクオさん?」

('A`)「コイツをどうにかするんですね、ブーンさん?」

相手の目の前で飄々と戯言を言い合うブーンとドクオ。
しかし、俄かに表情を硬くする。

( ^ω^)「確認だお。兄者さんは『僕らがグーでアイツはチョキ』って言ってたけど 」

('A`)「そんな虫の良い話はねぇよな。詰まる所、オレらは最初からだな……」

そして本気であるという意思を吐き出す。

( ^ω^)('A`)「「クライマックス!!」」


106 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:02:05.48 ID:o7X2hlSI0
それをブーン達以上に飄々と笑いながらショーンは聞いていた。
ブーンとドクオの攻撃意志を聞き、ショーンは答える。

ノ||-∀-||「オーケーオーケーww。じゃ、早速……」

ノ||゚∀゚||「始めようぜ!!」

瞬間両目をカッと見開いた。
色素を持たないその両の瞳は、凍えるような赤い光を放っている。

通常ならば恐れを抱くような場面ではあるが・・・・・・

('A`)「うぉ、目が赤いぞ……カラコンか?」

( ^ω^)「ふぅ〜。最近のゆとりは見た目ばっかり気にするんだから 」

(*'A`)「でもちょっとカッコ良いかも 」

( ^ω^)9m「うはっww。厨二乙wwww」

頬を赤らめ、純粋に憧れる男が1人。
それにツッコミを入れる男がもう1人。


108 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:03:08.27 ID:o7X2hlSI0
ノ||゚∀゚||「フザケてんのか?オラよっ!!」

薄ら笑いを浮かべながらショーンは襲い掛かる。
その両腕は白く発光し、鋭い鉤爪を持つ猛獣の前足に変貌している。

その両腕をブーン達目掛けて振り下ろす。
人体を容易く破り裂く一撃だったが、2人を侮っていた為、容易く交わされる。

(;'A`)「うおっ、何アレ!?手がアームズみたいになってる!!」

(*^ω^)=3「ムッハァー!!流石の僕もコレはカッコいいと思うお!!」

('∀`)9m「うはっww。厨二乙wwww」

ここで再び頬を赤らめ、純粋に憧れる男が1人。
それにツッコミを入れる男がもう1人。

ノ||#゚∀゚|「テメェら……人をおちょくりやがって!!黙らせてやるよ!!」

ショーンはこれを挑発と受け取った。
いつもならば相手を挑発して馬鹿にするのは自分の方。
逆上したショーンは全身を発光させた。

110 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:04:10.28 ID:o7X2hlSI0
両腕だけだった白い発光が全身に回る。
両足で地面を踏みしめていたショーンは両手を突く。
白い鬣を靡かせ大きく吼えるショーンの姿は、神々しいほどに白く輝く光の獅子。

(;'A`)「わわわわ!!何だアレは!?ライオンみたいになったぞ!!」

(;^ω^)「変身した!?カッケーお!!」

ノ||#゚∀゚|「殺す!!今からはオレだけが楽しむ時間だぜ、クックックッ……」

この姿を見せれば相手は恐れを抱くだろう。
そう思っていたショーンは、そうではなかったブーン達を見て更に逆上する。

『殺す』

強い言葉を吐き出す。
しかしそれが、おはようの挨拶と同じレベルの言葉であるかのように、簡単に上から言葉を被せられた。

('A`)「あぁ、そうだろうよ。だがそう上手くいくかねぇ?」

ノ||#゚∀゚|「どういうことだよテメェ!?」

112 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:05:18.45 ID:o7X2hlSI0
本気の言葉を、さもなんでもない事のように聞き流すドクオ。
そこからは、僅かばかりの恐れすら抱いていない事が感じられる。
苛立つショーンの神経を逆撫でするように、間の抜けた声が聞こえた。

( ^ω^)「最近どーも見せ場が少ないんだお。この機に乗じて株を大幅に上げるのは……」

一呼吸空けて、ブーンはパチンと片目を閉じて言った。

( ^ω-)ノ⌒☆゚。゜「BO☆KU☆SA☆」

('A`)ノシ「あ〜、オレもオレも〜 」

ノ||#゚∀゚|「UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!
       いちいちムカつくヤツ等だ!!粉々にしてやる!!」

自分の事も忘れないでね、とドクオも後に続く。
完全に舐められている。
ショーンは憤慨し、改めてこの2人を血祭りに上げる決心をする。


115 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:07:34.85 ID:o7X2hlSI0
しかし、ショーンは1つだけ思い違いをしていた。

('A`)「まぁ、そう吼えるのもいいんだけどよ。もうちょっと心配した方がいいんじゃないの?」

ノ||#゚∀゚|「何をだよ!?」

('A`)「お前の将来。1秒後の 」

ブーンとドクオは自分を舐めてなどいない。
本気で戦おうとしていたのだ。

ノ||;゚∀゚|「ハッ!!しまっ――!!」

( ^ω^)「大発勁!!」

それに気付いたのは、ブーンの両手の印から放たれる、渾身の大発勁の光を全身に浴びてからだった。
破魔の光柱がショーンの五体を引き千切らんばかりに吹き荒れる。
大発勁の圧力がショーンを彼方に吹き飛ばし、ニヤリと笑いながらブーンは言った。

( ^ω^)「ファーストブレイクは貰ったお 」


117 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:08:34.13 ID:o7X2hlSI0
開幕の一撃を盛大に打ち込んで、ブーンとドクオは一呼吸入れた。
ショーンが吹き飛んだ方向を見て、2人は言う。
心からの期待を込めて。

('A`)「さーて、怒り狂って出てくるか、冷静になって出てくるか。
     おちょくってやるのも、それはそれで楽しいんだけどな……」

( ^ω^)「僕としては後者を希望するお。せっかくの見せ場がガキ虐めじゃ、イメージが悪くなるだけだお 」

2人の視界の中央には、白き輝く光の獅子が4本の足で地面を掴む。
その体長以上に巨大に見える聖なる獣。
クルースニク、ショーン。

ノ||゚∀゚||「ちっ、頭冷えたぜ。残念だったなお前ら 」

( ^ω^)「残念?どうしてだお?」

ノ||゚∀゚||「お前らがオレに勝つ可能性がゼロになったって事だよw」

('A`)「それはどうかね?やってみないと分からんぜ?」

118 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:09:44.88 ID:o7X2hlSI0
嘲笑を交えながら言うショーンに、ドクオはいつもの調子で答える。
周囲には傷付けられたオブジェが転がっている。
その命を失ってしまった群像から視線を移しながら、ブーンがやはりいつもの調子で言った。

( ^ω^)「自分で言うのも何だけど、僕達は強いお?」

ノ||゚∀゚||「オレの方が強ぇよ!!」

すかさずショーンは言い返した。
同時に発行する体が、光の尾を引くような恐るべき速さで疾走を始める。
4足獣の身体は予測不可能な軌道で庭内を駆け抜ける。

('A`)「そうだといいなっ!!」

ドクオはタイミングを見計らってコートを靡かせる。
無数の刃物が仕込まれたその裾の斬撃。
しかしそれは当たる寸前に、スピードを落とすことなく1歩分だけ射程の外に出たショーンに交わされた。

('A`)「クソッ……。貰っちまった 」

交錯した瞬間、ドクオの太腿をショーンの鍵爪が掠めていった。
そのままのスピードで放れていくショーン。


119 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:11:43.63 ID:o7X2hlSI0
( ^ω^)「破っ!!破っ!!破っ!!……発勁が当たらんお 」

弾丸に近いスピードのブーンの発勁が当たらないスピード。
優れたハンターでさえ、予測不可能な動きをする野生の獣にライフルの弾丸を当てる事は難しい。
ブーンはそれを実感した。

('A`)「チッ!!伊達にライオンみたいな格好してないって事か。速いな 」

( ^ω^)「さ〜て、どうするかお 」

('A`)「オレに考えがあったりするんだけどねぇ。任せてみる?」

( ^ω^)「おk。お任せするお 」

ドクオはコートのポケットから十数枚の札を出す。
それはブーンが法力を練って書き上げた不動明王の守護札。
その中には降魔の炎、不動明王火炎呪が封じられている。

('A`)「細工は流々。後は結果を御覧じろ、なんてな 」

121 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:13:08.54 ID:o7X2hlSI0
ドクオは札を空高く舞い上げた。
札は風邪に舞い、白い獅子が走り回る庭園内に降り注ぐ。

その獅子が撒かれた札の1枚を踏む。
その瞬間吹き上がる強烈な火柱。

( ^ω^)「おぉ!!燃えたお!!」

('A`)「あんだけ縦横無尽に動き回ってるんだからな。法力の地雷だぜ 」

白く輝く獅子は全身を強引に振り、身体を焼こうとする不動明王の炎を振り払う。
激しい怒りの咆哮と共に、力強い四肢で地面を踏む。
そのまま大地を粉砕せんばかりの踏み込みは、僅かに地面を振動させた。

ノ||゚∀゚||「チィッ!!クソ共が小技をチマチマとっ!!だったらコレでどうだ!?」

獅子だったショーンの前足から、獣毛の代わりに羽が生える。
見る見るうちに前足は大きな翼へ変わり、後ろ足は猛禽の爪に変貌する。
その場で大きく2、3度羽ばたくと、ショーンは天空へと舞い上がった。

123 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:15:53.76 ID:o7X2hlSI0
('A`)「はぁ〜、飛んだな 」

( ^ω^)「飛んだお 」

('A`)「鳥かな?」

( ^ω^)「鳥だお 」

目の前で白い大鷲に変貌したショーンを見て、ブーン達は呆けた声を出した。
白く輝く獅子から、白く輝く大鷲への変化。
それはあまりにも美しく、奇跡の一端を連想させた。

('A`)「地雷はもう意味ないな 」

( ^ω^)「さっきに増して攻撃が当たり辛そうだお。ぅおっと!!」

ノ||゚∀゚||「ひゃっひゃぁ!!じわじわと追い詰めてやるぜぇ!!」


124 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:16:47.25 ID:o7X2hlSI0
凶悪な猛禽類の爪がブーンの頭上を掠める。
気を取り直し迎撃しようと顔を向けると、ショーンは既に遥か上空で高笑いを上げていた。

上空を大きく旋回し、次の攻撃を図るショーン。
柔らかい曲線を描いていた白い大鷲は、急激に硬い急角度に滑空する。

猛禽類の1種、ハヤブサは時に時速300kmに達する速度で飛行する。
ショーンはそれを遥かに凌ぐスピードで一直線に迫って来る。
獲物を捕まえるためだけに進化した鋭い爪を煌かせて。

その真正面には不敵に笑い、印を組む退魔師ブーン。

( ^ω^)「臨 兵 闘 者!!開 陳 烈 在!!あ、ドクオ、頭下げて 」

('A`)「ほぃっと 」

( ^ω^)「前!!」

9つの印と9つの真言。
望みを力に変える密法、九字神刀が風を切る大鷲に襲い掛かる。

神の刀が切り裂いたのは大鷲の片翼。
空中で1つの翼を失ったショーンは、バランスを失い錐もみ状態となる。
そのまま落下して地面を抉った。


126 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:17:51.89 ID:o7X2hlSI0
('A`)「スゲェなそれ。初めて見た 」

( ^ω^)「九字神刀だお。望んだ物だけを都合良く切り裂く法力 」

('A`)「わ〜ぉ。コレは酷い主人公補正 」

自身の体で抉った土の中で、人の姿に戻ったショーンはそんな声を聞いた。
揺ぎ無い自身を持って狩るつもりでいた。
そのはずなのに反撃まで打たれ、ショーンは動揺していた。



――――そしてそれ以上に激怒した。



ノ||#゚∀゚|「テメェら……もう許さねぇ!!本気出して――」

('A`)「あのさぁ 」

憤怒の言葉を突然塞がれる。
遠慮なく口を挟んだドクオは、その上に更に言葉を積み上げた。


127 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:19:47.22 ID:o7X2hlSI0
('A`)「御託はもういいから、本当の本気を出せよ。オレらばっかり本気で馬鹿みてぇじゃねぇか 」

( ^ω^)「言ったはずだお。僕達は強いって。
       半端にやってると手が詰まっちゃうお?早めに手の内明かせお 」

いけ好かない野郎共。
ショーンが2人に持っていた最初の印象はこうだった。

片や緩い表情をした緩い男。
片や無駄に長いコートを着込んだ人相の悪い男。

ノ||#゚∀゚|「そんなに死にてぇのか……?」

( ^ω^)「その言葉、そっくりそのままお返しするお。いい加減にしないと本気出す前に倒しちゃうお?」

本当にそうなる。
こいつらは強い。
ショーンは戦いが始まって初めてそう認識した。

そして、これ以上じゃれている余裕はない事を自覚した。


129 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:20:39.36 ID:o7X2hlSI0
ノ||#゚∀゚|「本当に頭に来る野郎共だぜ……だったら見せてやるよ!!クルースニクの本気をなぁっ!!」

立ち尽くしたまま、溢れ出る白い光が形を成していく。

背中の肩甲骨が大きな翼へ―――

両腕は猛禽の鋭い爪、強い趾へ―――

両足は強靭な獅子の後ろ足へ―――

そして頭部は全てを噛み砕く顎を持つ獅子の頭へ―――

(;'A`)「キマイラ?」

(;^ω^)「グリフォンじゃないっすかね?アイツ一々カッコ良いから困るお 」

('A`)「ま、どっちにしろ……」

( ^ω^)「ようやく面白くなってきたお!!」

ノ||#゚∀゚|「WORUAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

翼を持つ獅子の咆哮が戦いの火蓋を切る。

131 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:21:33.73 ID:o7X2hlSI0
瞬間、ショーンは消えた。
いや消えたかと錯覚するほどのスピードで走っていた。

その向かう先は紛れもなくブーンとドクオの2人。
獅子の牙、大鷲の爪、それがクルースニクの戦う遺伝子に乗って迫り来る。

咄嗟に迎撃に出る2人の退魔師。

('A`)「不動明王 火炎呪!!……の札 」

( ^ω^)「ナウマリ サンマンダ バサラ タンカン!『 本 物 の 』不動明王 火炎呪!!」

ノ||#゚∀゚|「温いんだよっ!!」

悪魔を焼き払う不動明王の炎が築く分厚い熱の壁を、一瞬の内に突き破る白い魔獣。
炎の中から突然現れた猛獣の爪牙の一撃を、ブーンとドクオは恐るべき反射神経で交わす。

( ^ω^)「炎を物ともしないお!?」

('A`)「あのスピードか!!速過ぎて燃える前に突っ切っちまうんだな!!」


147 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:35:07.56 ID:o7X2hlSI0
ショーンはブーン達と交錯した直後に体を大きく捻って反転。
猛獣の瞬発力は瞬時に次の一歩を踏み出す。
その先には、身をかわした直後でバランスを崩すブーン。

ノ||#゚∀゚|「うるぁぁっ!!」

(メ^ω^)「クッ!!ゾクゾクしてきたお!!」

崩れたバランスに拘らず最小限に身を捩り、ショーンの鍵爪を避ける。
頬の皮を少しだけ裂かれ、鮮血が舞った。

ショーンはそのままの勢いで走り去り、上空へと大きく跳躍する。
空中で畳んでいた両翼を広げ空気を叩いた。
広げると10mにも及ぶ大翼は巨大なショーンの体躯を大空へと迎える。

上空から滑空しながら、重力の加速度を用いて超スピードを生み出す。
その先にいるのはドクオ。

('A`)「次はこっちか。・・・・・・とりゃっ!!」

ドクオはタイミングを計りコートの一撃を振るう。
しかし、そのあまりの速さに対象を捉えることは適わない。

さらに……

151 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:35:57.48 ID:o7X2hlSI0
ノ||#゚∀゚|「うざってぇよ!!」

巨体の重量。
そしてスピード。
その体当たりが持つ破壊力がドクオの身体を諸に捕らえる。

成す術なく屋敷の外壁に叩きつけられるドクオ。
ショーンは再び上空に駆け上がり、ブーンはドクオの側に駆け寄った。

('A`)「う……ぐ!!くらっちまった……」

(メ^ω^)「ドクオ!?大丈……じゃねーかおww」

('A`)「テメ……何笑ってんだよ。おうぇっ、気持ち悪い 」

(メ^ω^)「とりあえず気をしっかり持てお。やっと見せ場が来たんだから 」


154 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:36:59.93 ID:o7X2hlSI0
魔獣が空を駆けた。
その速さは生物の範疇を大きく超えてしまっている。

(メ^ω^)「破っ!!破っ!!破っ!!」

ブーンの発勁の連射を、ショーンは大空を自在に飛び回り回避する。
そして突然の方向転換と滑空。
空飛ぶ獅子の標的はブーンとドクオ。

('A`)「当たらねぇなぁ……コレでどうだ!!」

宙空を迫り来るショーンの軌道を読んで炎の札の弾幕を張る。

しかし――

ノ||#゚∀゚|「芸がねぇんだよ!!」

炎の弾幕を付き抜けて獅子の大顎がドクオの顔面目掛けて噛み合わさった。

('A`)「危ねぇ!!おー、焦った 」

ドクオはギリギリの所で、地面に突っ伏してその攻撃を避けた。


156 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:37:56.49 ID:o7X2hlSI0
(メ^ω^)「ドクオ〜。それさっきやって駄目だったの忘れたのかお?」

('A`)「いや、目眩ましにはなるかなって 」

(メ^ω^)「なりませんでした。乙 」

('A`)「はいは〜い、と。さて、そろそろ打開策を探らないとな 」

そう言ったドクオの眼は真剣で、ブーンも似たような顔つきになる。
2人の視線が追うのは、遥か上空で大声で笑う魔獣。

(メ^ω^)「ちょろっと攻撃して、すぐにあんなに高く逃げられたらお手上げだお。
       こっちの間合いにいる時間が一瞬だから攻撃のチャンスが少ないお 」

心底忌々しげにブーンは呟く。
和やかムードは既にない。
魔を祓う退魔師の目をした男が2人、倒すべき対象を見据えていた。

('A`)「ここで再びオレに考えがあるんだけどなぁ 」


160 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:38:32.02 ID:o7X2hlSI0
ここでドクオが提案する。
それを確認するとブーンは呼吸を整え、ドクオの考えを促した。

(メ^ω^)「冴えてますね。聞きましょう 」

('A`)「やだよ。言ったらお前反対するもん 」

(メ^ω^)「じゃ、やんなお 」

即答する。
ドクオが考えている事が分かった。
ドクオは身を犠牲にするつもりだ。

('A`)「他に方法が思いつかない。最小の犠牲で最大の効果が上げられる 」

精悍な顔つきでドクオが答えた。
その目はブーンではなく、上空のショーンのみを追っている。

ドクオはもう既に決めてしまっている。
この決心を否定するのはドクオに対する侮辱になる。


162 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:39:03.95 ID:o7X2hlSI0
いい顔をするようになった。
ブーンはドクオを見てそう思った。
そして戸惑いつつも、ドクオの尊厳を尊重する事を選んだ。

(メ^ω^)「……やれやれだお。この頑固者め 」

ドクオの顔は見ずに、ブーンもまた上空のショーンに目を向けながら言葉を発した。
2人の視線の先には、こちらを駆るべく猛スピードで眼前に迫り来るハンター。

ドクオは左手を頭上に掲げて目前に迫る魔獣に正対する。
この時、ドクオは初めてブーンに視線を移す。
その両目にはブーンに対する信頼が宿っていた。

('A`)「後は任せるぜ、ブーン 」

ノ||#゚∀゚|「GOOAAHHHHHHHHH!!」

(メ^ω^)「ドクオッ!!」

眼前から瞬時に上空へと奪い去られたドクオを見て、叫ばずにはいられなかったブーン。
しかし、ドクオは寸前に自分にこう言った。

『後は任せる』と。

166 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:40:31.32 ID:o7X2hlSI0
上空高く連れ去られたドクオは、左手に食い込む牙から感じる激痛に顔を歪めていた。

('A`)「クゥッ!!痛ぇっ!!っていうか高ぇ、怖ぇ〜!!」

ノ||#゚∀゚|「wwww」

眼下には恐ろしく小さくなってしまった吸血鬼屋敷が見える。
高所恐怖症の気はないが、何の足場もない上にこの高さでは、下腹部にキュンキュン来る何かがある。

恐らくここから自分を落とす気なんだろうな。
口が塞がって笑い声こそ上げないが、面白くて仕方が無いという顔をしている。
勝利を確信している顔だ。

('A`)「さて、じゃ今夜最後のお仕事だな 」

ノ||#゚∀゚|「?」

これから落とされてトマトのように潰れるだけの運命にあるドクオ。
そのドクオの口から不可解な言葉が発せられる。


169 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:41:10.20 ID:o7X2hlSI0
('A`)「腕に食いつかれて、そのまま空に拉致。状況的には絶体絶命なのはオレなんだけどな。
     ……違うんだな、それが 」

ノ||#゚∀゚|「???」

痛みをよそに、ドクオの口から次々と言葉が出る。
ショーンはその意味する事を理解できず、ドクオを口から離す事を忘れて聞き入った。

('A`)「今までは一瞬しかオレ達の攻撃範囲に降りてこなかったが……。
     今は随分と長い事密着しちゃってるなぁ?」

ノ||#゚∀゚|「――ッ!!」

ドクオの自由な右手を見て初めてこの意味を理解した。
そこには抜き身の小太刀が握られている。
その小太刀は陽炎のような紫の光を禍々しく放っていた。

('A`)「オレの奥の手だぜ!!」

ノ||#゚∀゚|「グフッ!!」


172 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:42:26.82 ID:o7X2hlSI0
ドクオがショーンの喉下に深々と突き刺した小太刀。

妖刀『骨喰いの小太刀』。

魔を食い尽くすその刀身は、魔ではないショーン自身には本来の効果は無い。
しかし、魔力によって形成される魔獣の体は次々と食い破られる。

ショーンとドクオは落ちる。
ショーンは噛み締めていた顎を痛みで緩め、2人は空中で分かれる。

(メ^ω^)「ドクオー―――ッ!!」

落下するドクオを追いブーンは走る。
目の前をドクオが下に通り過ぎようとしている。

渾身のスライディング―――届かない!!

受け止めることを諦めたブーンは、ドクオの落下予測地点に発勁を打つ。
ドクオの身体は地面と結ばれる寸前に、地面で爆ぜた発勁の風圧で一度ふわりと浮き着地した。

ドクオの右手には、骨喰いの小太刀の柄だけが握られていた。

(;'∀`)「……どうだ?一太刀入れてやったぜ。ちっ、折れちまった 」

(メ^ω^)「あ〜ぁ、ショボンに怒られるお 」

ギリギリの所で意識を繋ぎとめていたドクオは、握り締めたままの妖刀の残骸を見ておどけた様に言った。
ブーンの返事を聞いたところで、ドクオはこの戦いからリタイヤする。


175 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:44:00.88 ID:o7X2hlSI0
(メ^ω^)「……でもGJだお。お疲れ、ドクオ 」

そしてゆるりともう1つの落下物が落ちた場所に視線を移す。
殺気が米神を掠める。
落下の衝撃血反吐を吐き、魔獣の姿は剥ぎ取られながらも、ブーンを食い殺そうとする殺気が向けられている。

ノ||#゚∀゚|「ゴッフ!!テメェ……ら……」

これでは終わらない確信がブーンにはあった。
このクルースニクはまだ奥の手を隠し持っている。

それならばそれを出させた上で、自分は更に上を行く。

(メ^ω^)「さぁ、ここからは僕が相手だお。見せてみろお。クルースニクの意地を 」

挑発の意味はない。
正真正銘、これで終わりにしようという提案。

ノ||#゚∀゚|「言いやがる……。見せてやるよ!!クルースニクの焔を!!」

それに答えるクルースニク。


177 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:44:55.48 ID:o7X2hlSI0
(メ^ω^)「ちょっと最近炎使いが多くないかお?」

ノ||#゚∀゚|「あ?何の話してるんだよ!?」

ブーンは大袈裟に辟易した。
いや、そういう風に見せただけだ。
これからしばらくは冗談を飛ばす余裕もなくなる。

(メ^ω^)「こっちの話だお。ここは1つ、僕の炎と勝負だお 」

ノ||#゚∀゚|「いい度胸だ!!オレの焔は吸血鬼共を殺してきた焔だぜ!!」

1つ勝負――――
図らずとも同じ時刻に、地下道でショボンがダンピール、ノーマンに言った台詞と同じだった。

(メ^ω^)「僕の炎は不動明王の炎。天界の浄化の炎だお。いい勝負になるお 」

そして両手で印を結ぶ。
不動明王真言を乗せる、覇気溢れる印。


179 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:45:37.46 ID:o7X2hlSI0
対するショーンは再び白く発光する。
しかし今回その眩い光は、獅子や大鷲のような形を取らない。
形のない、それでいて強烈に辺りを白く照らす光。

それは白い炎。

ノ||#゚∀゚|「スゥゥゥゥゥー―――……」

大気を吸い込み白い炎の全身は、神々しい程に巨大な火球となる。

(メ^ω^)「ナウマリ サンマンダ ……」

真言を口ずさみ、神が宿る両手からは赤い炎が迸る。

ノ||#゚∀゚|「GAHHHHHHHHHHH!!!!」

(メ^ω^)「不動明王 火炎呪!!」

聖なる炎と神の炎。
決して対立し合う事のなかった2つの炎が――――――


――――――衝突する。


     ・     ・     ・     ・     ・

181 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:46:05.98 ID:o7X2hlSI0
     ・     ・     ・     ・     ・

吸血鬼屋敷玄関ホール。
四肢を床に貼り付けにされたままの弟者は、すぐ側で横たわっている兄者に声をかけた。

(´<_` )「兄者?意識はあるか?」

( ´_ゝ`)「たった今気が付いたところだがな 」

(´<_` )「ブーン君達が善戦している。クルースニクは焔を出した 」

( ´_ゝ`)「本気を出させたか。ヤルねぇ、アイツら 」

(´<_` )「あぁ。だが……」

弟者は庭園で繰り広げられている戦いの一部始終を見ていた。
辛くもブーン達はクルースニクを追い詰めている。
しかし含みのある言い方をせずにはいられない。

その含みを兄者が代弁する。

( ´_ゝ`)「勝てない 」

183 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:46:24.16 ID:o7X2hlSI0
コックリと頷く弟者。
クルースニクは自分たちの天敵故に、その力の秘密も把握している。
しかし今戦っているブーンはその事を知らない。

(´<_` )「クルースニクの魔力の元を断たなければ焔は無限だ 」

( ´_ゝ`)「アレだよな?」

当然その秘密は兄者も共有している。
クルースニクに討たれるような悪事は働いた事は無かったが、万が一の時の為に2人で得た情報だ。

(´<_` )「そうだ。頼めるか、兄者?」

( ´_ゝ`)「だってお前動けないじゃん。オレが行くしかねぇだろ 」

(´<_` )「腹はもういいのか?」

( ´_ゝ`)「ダンピールに殴られたんだぞ?いくらオレでも簡単に治るかよ 」


185 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:46:47.54 ID:o7X2hlSI0
動きを封じられている弟者が兄者に頼む。
重傷をおしてそれに答えようとする兄者。
弟者がこの兄に対して言える事は1つしかなかった。

(´<_` )「……すまない 」

本気を出したクルースニクの側に兄に行けと言っている。
死の危険を実の兄に負わせ、弟者は謝る事しかできなかった。

( ´_ゝ`)「いいんだよ。オレはお前の兄ちゃんだからな 」

(´<_` )「・・・・・・」

しかし兄者は僅かに笑いながら言う。
苦痛に歪んだ顔の中に混ぜた笑顔は、恐ろしく滑稽な表情を作っていた。
それを見て弟者は言葉を失ってしまった。

( ´_ゝ`)「クルースニクが戦うとき、出生時に包まれていた白い羊膜の一片を左脇の下に付着させる。
       または粉末状にして、液体に溶かしたものをあらかじめ飲んでおく。
       何故なら、その白い羊膜こそがヤツ等、クルースニクの魔力の源だから……だったな?」


187 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:47:22.28 ID:o7X2hlSI0
言葉を忘れてしまった弟者に、兄者は確認のように語りかけた。
確認の必要などない事ではあったが、声を掛けることで弟者を気遣った。

(´<_` )「ヤツは私達、ブーン君達と長時間戦っている。それにも拘らず未だに魔力が持続している。
       強力だが効果が短い服用の線は限りなく薄い 」

弟者は完結に自分の考えを兄者に伝えた。
考察を伝えるという仕事が出来ただけでも、この状態では弟者にとってはありがたかった。

( ´_ゝ`)「分かったよ。それじゃぁな、ちょっと行って来るわ 」

ちょっとそこまで散歩に行ってくる。
そのような言い方で兄者は出て行こうとする。
弟者は溜まらず兄者に懇願する。

(´<_` )「兄者!!死ぬなよ……」

( ´_ゝ`)「心配すんなって。明日ドクオと朝飯食う約束してるんだ 」

(´<_`;)「言い直せ、兄者。死亡フラグが見える 」

( ´_ゝ`)「おK。オレは殺人鬼がいるかもしれないこの部屋で夜を明かすぜ!!」

(´<_`;)「さっさと行け 」


     ・     ・     ・     ・     ・


189 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:48:15.84 ID:o7X2hlSI0
     ・     ・     ・     ・     ・

白い火球と赤い業火が激突する。
その接面からは白と赤の火花が激しく散り、周囲の芝生は一瞬にして灰に姿を変えた。

赤い炎は僅かながらも、白い火球に押されている。

ノ||#゚∀゚|「ハハッ!!どうした!?お前の炎はこの程度か!?」

(メ^ω^)「グッ、凄い圧力だお!!気を抜いたら飲み込まれるっ!!でも負けるわけにはいかんお!!」

ブーンは改めて法力を印に込めた。
出力の増した不動明王の熱は、術者であるブーン自身の体力も奪っていく。

ノ||#゚∀゚|「つっ!!テメェも相当にしつけぇな。人間はなぁ、オレみたいな化け物に殺される運命なんだよ!!!!」

出力を増した炎に対抗すべく、ショーンもまた力を振り絞る。
その力比べは全くの互角。
互いに押しも引きもしない。

しかし今聞こえた。

――――――化け物だと?


191 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:48:55.06 ID:o7X2hlSI0
(#^ω^)「グゥゥ……。化け物……?ふざけるなお!!お前は……人間だお!!」

クルースニクは、同じ吸血鬼ハンターのダンピールと違って人間の子供。
自身がそれをどれだけ否定しようとも、その本質を曲げる事はできない。
ブーンは怒りに似た感情と共に吐き出す。

『お前は人間だ』と。

しかしそれ以上の怒気を孕んだ声でショーンは更に否定する。

ノ||#゚∀゚|「人間?獣に姿を変えて、焔に姿を変えて!!こんな殺すための力を持ったオレのどこが人間なんだよ!?」

(#^ω^)「力を持っただけで化け物!?それだけで人間じゃなくなるなんてふざけるなお!!」

即答だった。
そしてその中に含まれた何かをショーンは感じ取り、僅かに動揺する。

195 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:50:30.94 ID:o7X2hlSI0
ショーンの脳裏には幼い頃の記憶が浮かぶ。
憎しみを持続するために、決して忘れる事は無い忌まわしい記憶。
幼少時に殺してやった村人達は、自分の色素の無い姿を化け物だと罵った。

ノ||#゚∀゚|「それだけじゃねぇ……オレの肌を見ろ!!髪を見ろ!!目を見ろ!!
       こんな色してるヤツが他に―――」

(#^ω^)「人間だお!!人間である事を諦めるなお!!そんな事……、僕の前では許さないお!!」

しかしブーンは強烈な怒りと共に再度否定した。
揺ぎ無い強さを持った言葉の中に、偽りの曇りは一切無い。

僅かばかりの悲しみが見え隠れしているのは気のせいなのか……

ノ||#゚∀゚|「な……、何を言って―――」

ショーンは膨大なエネルギーを発しながら、一瞬動揺した。


―――その動揺は、懐に近付く1匹のコウモリの姿を気付かせなかった―――


( ´_ゝ`)「悪いな。コイツは貰うよ 」

コウモリは兄者に姿を変え、ショーンの左のわき腹から1枚の薄い紙の様な物を奪った。
僅かに茶色がかった白いそれを兄者が奪った瞬間、ショーンが大きく動揺する。


197 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:51:06.66 ID:o7X2hlSI0
兄者が奪った物はクルースニクの魔力の源。

ノ|| ∀ ||「テメ……、何しやが……」

クルースニクの火球が消える。
ブーンは炎に対する圧力が失せた事を感じ、自らも不動明王の炎を収めた。

炎から開放された視界には、人の姿に戻ったショーン。
そして額に脂汗を浮かべながらも、仕事をやり遂げた充実感を表情に出す兄者。

しかし―――!!

ノ||゚∀゚||「WOOOOAHHHHHHHHHHHHH!!!!!」

(;´_ゝ`)「グファ!!」

突如としてショーンの体から吹き出す白い焔。
それを纏った右手の攻撃を、傷めた腹に受け兄者は地を舐めた。

ショーンは更に焔を吹き出し、さながら白い火柱、いや光柱となる。
それは強烈な光源となり、闇夜に浮かんだ。

(メ^ω^)「なんてエネルギーだお……。力が溢れ出してる。兄者さん!!」

(;´_ゝ`)「オレなら平気だ……。いや、嘘だ 」

199 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:51:51.57 ID:o7X2hlSI0
兄者の下に駆け寄るブーン。
まずは兄者をショーンから遠ざける。
ブーンは兄者を引き摺り、熱が届かないところまで避難する。

(メ^ω^)「何したんですお?」

(;´_ゝ`)「コイツをかっぱらってやったのさ 」

そう言って見せたのは薄汚れた1枚の乾燥した膜の様な物。
クルースニクが誕生するとき、自身を包んでいた白い羊膜だった。

(メ^ω^)「そりゃ、何ですかお?」

(;´_ゝ`)「クルースニクの魔力の源さ。これがある限りヤツの焔は無限だ。いくらやっても無駄 」

力の源を奪ったと兄者は言う。
しかし今の現状を見るに、ブーンにはどうしても納得できない事が1つだけあった。

(;^ω^)「今はさっきより元気に見えますお?」

普通そんな大事な物を奪えば、一気に弱体化するんじゃないのか?
ブーンの感想はこうだった。


200 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:52:39.87 ID:o7X2hlSI0
(;´_ゝ`)「魔力の核を突然奪われたんだ。制御が利かなくなったんだろう 」

つまる所、今のこの状態は力の暴走。
ブーンが見立てたところ、ショーンの体内の力が堰を切ったダムのように垂れ流しになっている。

(メ^ω^)「じゃ、もしかしてこのまま放ったらかしてたら?」

(;´_ゝ`)「力が枯渇して死ぬだろうな 」

予想通りの回答。
このまま放って置けば戦いに勝利する事はできる。
しかしブーンはそれ以上を望む。

(メ^ω^)「……そんな事にはさせないお!!」

力に囚われたクルースニクを救ってみせる。

その為に自身が傷つこうとも。

203 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:53:24.11 ID:o7X2hlSI0
(メ^ω^)「クルースニク!!」

ノ||゚∀゚||「GAAAHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」

ブーンが大声で名を呼ぶ。
声が届くかどうか、届いたとしても理解できるかどうかは賭けだった。
しかし白い炎と化した人型がこちらを向いたのが分かった。

自分を意識した。
ブーンは自分の身の危険性が上がった事はどうでもよかった。
救う事が出来る可能性が上がった事だけを喜んだ。

(メ^ω^)「よ〜し、いい子だお。今からお前を救ってやるお 」

このクルースニクの狂気の裏には何か陰がある。
むしろ本質はその陰の方で、狂気で無理やり覆い隠そうとしている。

ブーンはそう思った。
直感で確信など無かったが、ブーンにとって救う理由としてはそれで十分だった。


205 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:54:22.96 ID:o7X2hlSI0
(メ^ω^)「ナウマリ ヒンタ サバタヤ カンムン!!」

ブーンは歌う。
神を呼ぶ真言を。

ブーンは結ぶ。
不動明王の印を。

(メ^ω^)「不動明王!!」

ブーンは叫ぶ。
その力を借りる神の名を。

(メ^ω^)「降魔火炎剣!!」

その瞬間印から大量に放出される灼熱の炎。
夜空を焦がすほどに吹き出した膨大な熱量は、ブーンの両手に大剣の形に収束する。

エネルギー保存の法則という物理法則がある。
空間を埋め尽くして余りある炎のエネルギーが、立った一振りの剣に凝縮した。
そこに秘められるエネルギーは、この世の全ての名刀、宝剣を凌ぐ炎の剣と化す。


207 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:56:21.04 ID:o7X2hlSI0
クルースニクの焔は正確には炎ではない。

純粋なエネルギー。
それがその正体だった。

そのエネルギーに触れた物質は、須らく原子を強烈に運動させる。
強烈な原子運動は原子同士の摩擦を生み、その摩擦熱は一瞬にして燃焼点に達する。

着火ではなく発火。
それは何者も逃れる事の出来ないクルースニクの死刑宣告。
決まった形を持たない、揺らめきながらの強烈な発光故に、そのエネルギー体は『焔』と呼ばれる。

その死の火炎が空気をも例外ではなく、触れる物全ての原子を弾きながらブーンに迫る。

その生を焼き尽くすために。


211 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:57:43.28 ID:o7X2hlSI0
この世の物質は触れた瞬間灰塵に帰すクルースニクの焔。
これを切る事が出来るのは、この世ならざる物の刃のみ。

ブーンを焼き尽くさんと燃え盛るエネルギーを衣に纏う。
暴走する力に意思はない。

強烈な光。
強烈なエネルギー。
強烈な死がブーンの鼻先に迫ったとき、ブーンの炎の剣が垂直に振り下ろされた。

(メ^ω^)「強かったお。ツンの次くらいに 」

その場で白い発光が消えた。
後に残ったのは『人間』ショーンの姿。
命を搾り切る寸前で、力の暴走から開放されたショーンは立ったまま意識を失っていた。

(メ^ω^)「もしお前がそうしたいと思うなら……」

その美しい姿に、ブーンは言うべき言葉を紡いだ。

(メ^ω^)「友達になってやるお 」

212 名前:十三話:2007/11/04(日) 22:59:12.80 ID:o7X2hlSI0

(メ^ω^)「僕は内藤ホライゾン。ブーンでいいお 」

       

      ( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです

    ―――第十三話・吸血鬼の家に遊びに行こう―――


            〜その6、聖なる焔〜




214 名前:十三話:2007/11/04(日) 23:00:54.07 ID:o7X2hlSI0
元ネタ解説

不動明王 降魔火炎剣:
元ネタ、孔雀王 曲神紀・1巻4話より。
一切の不浄を焼き払うという不動明王の力を借り、手に持った武器に火のエネルギーを纏わせる。
原作では魔法剣みたいな物。
本作ではゼロから法力によって炎の剣を作り出す技に改変。


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