( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―――第五話・炎の少女・後編―――
- 7 名前:退魔師稼業:2007/09/01(土) 22:17:30.02 ID:w1wrBxKq0
- 第四話・炎の少女・前編〜あらすじ〜
ショボンは送られてきた裏高野からの指令書に眉をしかめていた。
普段退魔業を受ける態度とは明らかに何かが違う。
バーボンハウスに住み着いた猫股でぃはその理由を尋ねる。
それは過酷な仕事を暗示していた。
依頼主はごく一般的な家族。
その娘が発火現象を起こし、さらにその当事者が、ある日を境に目覚めなくなってしまったというのだ。
眠れる少女はツン。
でぃはその気配を感じたときから警告を発していた。
情報を整理してショボンが行き着いた答え。
それはツンが煉獄の炎の魔神、阿修羅の生まれ変わりであるという事だった。
ショボンはブーンを謀略に嵌め、失神させる事に成功した。
ブーンをツンの夢の中に送り込み、ツンの中の阿修羅が目覚めないよう慎重に事を運ぶためだった。
夢の中でブーンとツンは出会う。
ブーンの人当たりのよさに次第に打ち解けるツン。
そしてツンは遂に目を覚ます決心をする。
二人で目覚めようと手を繋ぎ目を閉じたとき…
- 248 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:40:47.54 ID:Kax+z6ZS0
- ('A`)「あー、遅ぇな!大丈夫かよ、ブーンのヤツは!?」
とある民家の二階、若い女の子の趣味で彩られた部屋でドクオは言う。
部屋にはドクオを含めて三人の男と少女が一人。
そして猫が一匹。
少女と苦悶の表情を浮かべる一人の男は眠っており、それを残りの二人の男が見守っている。
猫は丸くなり目を瞑っていた。
(´・ω・`)「ブーンなら何をすべきか言われなくても感じるはずだ。
単に安らかに眠って…いや、気を失ってるわけじゃないさ 」
一度ブーンと呼んだ男の方を見て、安らかとは言いがたい顔で昏睡状態にあることを思い出し言葉を訂正するショボン。
その目はブーンに対する全幅の信頼を物語る。
全幅の信頼を寄せる男が断末魔の表情のまま気を失っているのは当のショボンの仕業なのだが、
今回の件では意識を失っていなくてはならないのでその点に関しては反省も後悔もしていない。
次はもう少し下剤の濃度を薄めようかな、と頭の隅にある程度だ。
ブーンに夢見石を握らせてから一時間が経過している。
その間、ブーンにも眠る少女にもこれと言って変化は見られない。
既に夢の中でブーンは少女と接触しているはず。
待つことしか出来ない残された二人、ドクオは苛々し始め、ショボンはただひたすらに待つ。
苛々が募り、ドクオが窓を開け取り出したタバコに火をつけようとしたとき、丸くなっていた猫がスッと顔を上げた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「帰ってくるぞ! 」
その言葉に火を付けようとしたタバコを焦って戻し、ブーンと少女の顔を交互にせわしなく見るドクオ。
ショボンは表情こそ崩さないが大きく安堵の息を漏らす。
- 252 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:43:03.67 ID:Kax+z6ZS0
- 何事もなく今回の仕事を終えることが出来たのは幸運だった。
相手は地獄の業火の化身なのだ。
死なないように立ち回る自信がショボンにはあったが、それでも多少の怪我を負う覚悟はしていた。
…しかし下の方から舌打ちが聞こえた。
猫の口から聞こえた舌打ちは、不吉な未来の到来を予感させるには十分だった。
∧_∧
(#゚;;-゚)「訂正じゃ…下等な魔めが…
いらぬ所で鼻が利く… 」
不快の意を顕にする猫股・でぃ。
すぐにでもブーンが帰ってくると思っていたドクオはでぃに詰め寄った。
('A`)「どういうことだよ、でぃさん!?
帰ってくるだの訂正だの言われたってオレは何も分からないぜ!? 」
その場で唯一自体を飲み込み怒るでぃに、ドクオは説明を求めた。
それを聞いてでぃは一旦自らの怒りを治める。
∧_∧
(#゚;;-゚)「すまぬすまぬ。あまりにも腹が立ったのでな。
この小娘の夢が奪われた 」
('A`)「は?」
要点を得ない説明に戸惑うドクオ。
ショボンは合点がいったのか早くも破魔の護符を張り巡らし結界を作ろうとしている。
ドクオはショボンにその理由を尋ねた。
- 254 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:45:15.44 ID:Kax+z6ZS0
- (´・ω・`)「夢魔に夢を乗っ取られたんだ。
ミスったな…
これだけの力がいつまでも夢の世界に閉じこもったままだったんだ。
目を付けられて当然だってのに…」
言いながら結界を張り終える。
まだ事態を把握できないドクオは更に聞いた。
('A`)「夢を乗っ取られたって…
結局はどうなるんだよ?」
治めた怒りを再び見えない相手に向けでぃは言った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「夢が奪われたまま目を覚ませば、小娘の体その物が乗っ取られる!
夢魔如き下劣で邪悪な魔が阿修羅の力を持つなどあってはならぬ!」
続けてショボンが苦々しく言う。
(´・ω・`)「夢の中は夢魔のホームだ。
夢を見ている当事者でもどうしようもない。
それがたとえ阿修羅でももしかしたら… 」
『敵に回るようなことがあれば逃げよ』
ドクオはでぃが言ったその言葉だけを頭の中で反芻していた。
最悪俺達全員が死ぬ。
そしてその最悪の事態が訪れる。
しかしドクオは悲観するでもなく、逆に奮い立った。
- 256 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:46:03.43 ID:Kax+z6ZS0
- ('A`)「分かったよ!やってやるよ!
今まで曲がりなりにもブーンに稽古付けて貰ったんだ!
ショボン!まさか尻尾巻いて逃げるワケねぇよな!?」
覇気を奮い闘気を掻き立て、迫り来る魔に吼える。
既に退魔の男となったドクオは一分の怯えも見せずに見得を切った。
それに答えショボンはかすかに笑った。
(´・ω・`)「当たり前だバカヤロウ。
オレは凶事が起こると分かっていながら保身の為に逃げるようなことはしない 」
でぃもこれを見て笑う。
ショボンはともかく、ドクオにとっては相手が悪すぎると見ていた。
でぃはモナーが『豪傑』と形容したドクオに対する認識を改める。
そして今にも眠る少女に飛び掛らんとするドクオを諫めた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「その意気や良し!
しかし今しばらく待て。
夢魔は奪った夢を自由にするが、この小娘の夢の中には自由にならぬ事が一つあろう?
なぁ、ショボン 」
ドクオはスタート直前にゴールを奪われたように、気のやり場を唐突に奪われ困惑した。
戸惑うドクオは成す術もなく名前が出たショボンの方を見る。
この男は何時でも答えを持っている。
この時も例外ではなく。
(´・ω・`)「ブーンがいる。
夢魔にしてみれば最悪のタイミングだったな。
楽観視は出来ないが、オレ達にしてみれば最悪の事態ではないさ。
その一歩手前ではあるがね 」
- 258 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:47:35.28 ID:Kax+z6ZS0
-
―――第五話・炎の少女・後編―――
- 261 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:48:23.70 ID:Kax+z6ZS0
- 少女の口から唐突に発せられた思いもよらぬ声。
それを聞いてブーンは反射的に繋いだ手を振り払った。
それを意にも介さず少女は狂ったように笑い続ける。
いや、笑っているのは少女の体に取り憑いた何かだ。
( ^ω^)「お前!一体何者だお!?」
怒気を含んだ言葉を浴びせる。
言霊に乗せた怒りは何者かに届き、狂笑はピタリと止んだ。
明後日の方向を向いていた少女の体。
その腰から上だけをグルンと回転させ、何者かが醜悪な声で喋った。
ξ゚∀゚)ξ「何だ君は?何故ここにいる?」
( ^ω^)「質問を質問で返すなぁー――――っ!!」
言葉と共に詰め寄ったブーンだったが、相手の額に人差し指を突き付ける寸前、背後から頭を強烈に殴打された。
体を折り頭に手を当てながら後ろを見るブーン。
視界の中で、崩れた石のブロックが地面に落ちるのが見えた。
ξ゚∀゚)ξ「何故君は私の思うようにならない?」
再び少女の口を借りて何者かが喋る。
先程まで小鳥の囀りのように心地よい声を発していた同じ口から、地獄の底から響いてくるような低い男の声が漏れる。
ブーンにはそれが何よりも不快に思え、神経を逆撫でた。
- 264 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:49:39.00 ID:Kax+z6ZS0
- ( ^ω^)「さっきの質問は無しだお!
それ以上その口で喋る事を僕は許可しない!
ツンはこれから目覚めて力の使い方を覚えるんだお!
お前!お前がそれを邪魔してるのなら祓ってやるお!」
瞬時に結んだ両手の印から青い清浄の光が漏れる。
一瞬のフラッシュのような眩しさを残し、それは少女の体を覆おうとした。
しかし、少女に届く寸前に無数の石のブロックが集まり光弾を止める。
発勁を受けたブロックは粉々に砕けたが、その奥の敵は無傷だった。
ξ゚∀゚)ξ「やはり君以外は思い通りになる。
君、さてはこの夢の者ではないな?」
淡々と喋る。
(#^ω^)「その口で喋るなって言ってるお!」
それはブーンには耐え難い行為だった。
いつも何処か余裕があり飄々としているブーンがこの時ばかりは感情を顕にしていた。
自分がいつもと違う事はブーン自身も感じていた。
しかしどうしようもない衝動がそれを抑えることを許さない。
形振り構わず飛び掛ろうとしたブーンは、唐突に飛んできたブロックが輪になり四肢を空中に固定され身動きを奪われた。
ξ゚∀゚)ξ「そう焦るな。私とて初めてなんだよ、奪った夢に他人が紛れ込んでいるなど。
私と少しお喋りをしよう。
私は夢魔、名は許されていない。初めまして。
君の名を聞かせてくれると嬉しいのだがね 」
- 267 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:50:43.73 ID:Kax+z6ZS0
- 桃色の唇から呪詛の言葉のように禍々しい声が響く。
ブーンは自由にならない体を呪い、憎々しげに唾を吐き捨てる。
すると右手を奪う石のリングが動き出し、ブーンの顔面を激しく打った。
ξ゚∀゚)ξ「そう邪険にするものではないな。
まぁいい。君が喋りたくないなら私が勝手に喋ろう。
君は私が奪った夢が何か知っているかね?」
質問はこちらに向けてのものだが、ブーンはそれに答える気など毛頭無い。
石のリングに先導されたブーンの拳が、自らの顔面を襲った後、夢魔は再び口を開いた。
ξ゚∀゚)ξ「コレは非常に純粋な魔だ。
純粋にして強力、強力にして凶悪。
これほどの魔は地獄にもそうはいない。
それが…ふひゃっ!無防備にオレの目の前に転がって…ヒャハハッ!
ヒャーヒャッヒャッヒャッ!! 」
それまでの紳士的な物言いは消え失せ、おかしくて堪らないという様子で笑い転げる。
ブーンは吐き気を催すほどの不快を再び味わっていた。
ギリギリと奥歯を噛み締め両の拳を握り締め、そして貫くほどの怒りの視線を夢魔に向ける。
夢魔はそれを気にもしないのか自らの幸運に酔う。
ξ゚∀゚)ξ「オレがッ!ヒッ!コイツを奪えばもう夢の中で精気を吸い取るだけの小物なんぞとは誰にも言わせねぇ!
一気に魔王クラスだ!ハヒャヒャヒャヒャ!
さぁ、さっさと目覚めて現世を地獄に変えてやる!ヒャーハッハッハ!」
- 272 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:51:41.75 ID:Kax+z6ZS0
- 最早完全にブーンの事など頭から消えてしまっているかのように狂った笑い声を上げ続ける。
事実、夢魔はブーンの方など見向きもせず自らの壮大な計画に酔っている。
両手を広げ、背中を反り返らせ、天を見上げ笑う、笑う、笑う。
しかし笑うのに必死だった夢魔は、自分がブーンを封じた石のリングの変化に気付くべきだった。
(#^ω^)「さっきからベラベラベラベラベラベラと…
お前は誰の口で喋ってんだおっ!!」
臨界を越えた怒りと共に四肢を縛っていた石の輪は粉砕された。
単純な腕力で振りほどいたのだ。
思わぬ事態に夢魔は戸惑う。
ξ;゚∀゚)ξ「バカなっ!お前は大人しく死んでればいいんだよ!ヒャハァー!」
奇声を発しながら何かを念じる。
石壁を精密に組んでいた夥しい数のブロックが強引に引き抜かれ、その質量に物を言わせブーンを包む。
360°一寸の死角もない岩石の圧力はブーンを中心に圧死させるべく凝縮した。
ξ;゚∀゚)ξ「ヒッ!ヒッ!
人間風情が!夢の中で夢魔に叶うとでも思ってんのか!?
死んだな。完全に死んだ。
ヒャーヒャッヒャッヒャッ…ひゃ?」
- 274 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:52:24.92 ID:Kax+z6ZS0
- 高笑いを浮かべたとき、一人の人間を核にした巨大な石の塊に異変が生じた。
内側から光が漏れている。
それはついさっき防いだ青い清浄の光。
最初は僅かに漏れていただけの光は、次第に石の間隔をこじ開けた。
そして眩い大量の光と共に巨大な石の塊は四方八方に吹き飛ばされた。
その爆心地は内側。
即ち光はブーンの渾身の発勁。
(#^ω^)「ツンを返せ。
ツンはこれから目を覚まして普通に暮らすんだお 」
ξ;゚∀゚)ξ「ヒィッ!何なんだお前は!?
本当に人間か!?」
強烈な怒りは既にリミットを超え、逆にブーンの頭を冷静にさせた。
恐れおののく夢魔は我武者羅に夢の中の産物、即ち支配下にあるものをブーンに放った。
しかし怒りによって研ぎ澄まされた神経は、その全てを感じ身をかわす事も発勁で撃墜する事も両手両足で叩き落す事も容易にした。
(#^ω^)「ツンを返せと言っているお。
つまらない小細工は時間の無駄だお 」
静かに、だが沸々と怒りの炎を燃やすブーンに、夢魔は単純に恐怖した。
抗いようの無い絶対的な力。
それは故郷である地獄で上位の悪魔に遭遇したときと同じ感覚だった。
強大な上位の悪魔に遭遇して成す術もなく小さく震えるだけだった自分。
今奪った夢はその立場を逆転させて余りある力を秘めている。
それは夢魔にとって夢という以上に野望だった。
- 278 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:53:52.45 ID:Kax+z6ZS0
- ξ;゚∀゚)ξ「あと一歩の所だというのに!
もう現世に出るだけだというのに!」
その野望が通常ならありえない、他人の夢に入り込んできた男によって阻まれようとしている。
潰えようとする野望に尚も縋ろうとする夢魔。
歩み寄る絶望。
しかしその絶望が夢魔にあることを思い出させた。
ここまでは自分の力、つまり夢を支配する力しか使っていない。
今自分が乗っ取っているこの体の力を使えば…
ξ゚∀゚)ξ「人間!さっさと止めを刺すべきだったなぁ!
見せてやるよ!この夢の魔の力をな!
ヒャーヒャッ!オレの見立てじゃ、その辺の魔王並だ!
殺す!殺して魂を永遠に嬲ってやる!ヒャハァッ! 」
(#^ω^)「能書きは終いかお?
では逝け!」
まだ憤怒は治まらない。
既に力の差が知れた相手に、しかも自分に恐怖心を抱いたほどその差が歴然としている相手に警戒する事などない。
何か言っているが下級悪魔が良くやる惑わしだろう。
直接攻撃してツンを傷つけつワケにはいかないが、この程度の魔ならもう一睨みすれば尻尾を巻いて逃げ出すだろう。
そうタカを括っていた…
- 280 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:54:46.52 ID:Kax+z6ZS0
- 突如として周囲の温度が上がった。
急激という言葉が追いつかないほどの速度でだ。
夢魔の周囲の石の床は既に赤く溶解し始めている。
それはツンが力を見せた時と同じ現象だった。
(;^ω^)「まさか…コレは!?」
熱気によるものとは明らかに違う汗がブーンの顔を滑り落ちた。
赤黒く燃え上がる炎からは瘴気を伴う魔の臭いを感じた。
これまでに感じたことも無い強烈な魔の臭い。
ブーンも、この力を使う夢魔自身にも自覚は無いがこれは地獄の業火、阿修羅の炎。
ξ゚∀゚)ξ「心地いい!心地いいぞ!何だこの力は!?人間!死んだよ、お前!ヒャッヒャッヒャッ!! 」
手に入れた力が想像以上に強力であったことを自覚した夢魔はテンションが最高潮に達した。
戯れに腕を奮う。
その腕からブーンを掠めて一直線に、石の床が一瞬にして赤く溶解した。
危険を察知しその場を一足飛びに離れるブーン。
しかし空気を伝わった熱が、ブーンの肌を焦がし爛れさせた。
(;^ω^)「クッ!避けるだけじゃ駄目だお!
完全に逃げ切らないと!」
それを見て形勢逆転とばかりに下品に笑う夢魔。
今度は右掌をいっぱいに開きブーンに向けた。
五本の指先には小さな炎が燈る。
しかしその一つ一つが破壊的熱量を秘めている事は容易に想像がついた。
- 283 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:56:04.36 ID:Kax+z6ZS0
- ξ゚∀゚)ξ「さぁさぁ子猫ちゃ〜ん!もっと元気よく逃げ回らないと真っ黒焦げですよ〜!」
五つの灯火を持つ右手を頭上に振り上げ、足元まで振り下ろす。
その勢いに任せて灯火は五本の炎の鞭となり床を叩き付けた。
ブーンは成す術も無く両足に力を込めて跳躍した。
教訓を生かし迫り来る熱が届く範囲からも抜け出すだけの跳躍。
跳んだ先からさっきまで自分がいた場所を見て愕然とする。
ドロドロに溶けた細い溶岩の線が五本、そこに流れていた。
ξ゚∀゚)ξ「おいおいおい、圧倒的だなぁ!少しは善戦してみろよ!
手も足も出ねぇのか!?
それじゃぁ 」
始終ハイだった夢魔の口調が変わる。
強烈な熱気の中でそれはぞっとするほど冷たかった。
ξ゚∀゚)ξ「死ね 」
両手を開き、両手の指を開く。
その指先には10の小さな炎。
溶岩の川の種火だ。
さっきはこの半分の数、そして片手での攻撃だったからある程度軌道を読み回避する事ができた。
しかし次はその倍。
大振りな攻撃故に軌道を読むこと自体は容易だが、広範囲に攻撃されれば逃げる意味もない。
- 287 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:56:48.88 ID:Kax+z6ZS0
- (;^ω^)「万事休すかお…
いや、考えろ!必ず何か突破口はあるはずだお!」
ブーンは高速で頭を回転させるも、目の前の脅威は頭上に持ち上げれれた。
これが振り下ろされたら全てが終わる。
考えろ考えろ考えろ考えろ…
ξ゚∀゚)ξ「死ね 」
夢魔は再び同じ言葉を吐いて腕を振り下ろし始める。
ブーンは両足に力を込めた。
今は逃げる以外に道はない。
例え逃げ切れなくても直撃を食らうよりは幾分かマシだろう。
そう覚悟を決め、いざ飛び立とうとした。
しかし
ξ゚∀゚)ξ「あれ?」
夢魔の腕が振り下ろされない。
ブーンはその場をそのまま回避し、少し距離をとった所で様子を見た。
夢魔は依然として両腕を振り上げ、今にも襲い掛かってきそうな格好だが一向に動かない。
ξ;゚∀゚)ξ「なんだぁ?体が…動か…」
そのとき夢魔の耳に何かが届いた。
不鮮明でどこから聞こえてくるのかも判らない何か。
しかし確かに聞こえている。
- 292 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:57:58.02 ID:Kax+z6ZS0
-
……て……け…
夢魔は目を動かしブーンを見る。
ブーンは依然として緊張を解かずにこちらの動向を逐一見ている。
この声が聞こえている様子は無い。
自分にだけ聞こえている。
で……て……け…
少しずつ鮮明になっていく声。
夢魔は、それは耳ではなく頭に直接響いている事実を認識する。
それを認識した時、声はこれまでと比べようもなく鮮明に、そして激しく響いた。
私 の 体 の 中 か ら 出 て 行 け!!
- 295 名前:第五話:2007/08/27(月) 00:58:46.36 ID:Kax+z6ZS0
- 刹那、ツンの体から赤黒い炎と共に人間の子供程度の大きさの、しかし紫色の肌と背中にコウモリのような羽を生やした何かが飛び出した。
その何かが弾き出された先は煮えたぎる溶岩の川。
猛烈な熱に身を焦がし、焼かれる痛みに耳を劈く悲鳴を上げる。
それは低く野太い声ではなく、空気を震わせる甲高い声だった。
どっちにしろ不快だな…
その様子を見ていたブーンは思う。
その甲高い悲鳴も次第にか細くなり遂に聞こえなくなったときには、その発生源は背中を丸め胎児のような形の炭と化していた。
夢魔の最後を看取ったブーンは大きく息を吐く。
そしてある方向を見る。
そこには過去に類を見ない強力な魔、炎の魔神。
ξ゚-゚)ξ「・・・・・・」
無表情に、ただ無表情にブーンを見ていた。
・
・
・
- 300 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:00:50.22 ID:Kax+z6ZS0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「阿修羅が覚醒した!」
ドクオは突然でぃがこう言った事は覚えている。
次に部屋中が炎に包まれて、少女が目を瞑ったまま上半身を起こした。
その時ショボンが飛びついて少女をベッドに押し付けた。
ショボンの両手は燃えていた。
ドクオはそれを最後に気を失った。
それはほんの10秒ほどの事だったが、今の光景は記憶の光景とは多少異なっていた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「大丈夫か小僧?」
炎が消えた部屋で目を覚ましたドクオ。
周囲を見回すと部屋のあちこちに黒く炭化した『何か』が点在している。
それは目にした炎が現実である事を確認させた。
('A`)「すまねぇ…気ぃ失ってた…」
心底恥じるように謝罪を搾り出す。
しかしでぃはそれを聞き一笑に伏す。
∧_∧
(#゚;;-゚)「阿修羅の魔に触れて命があるだけでも大したものよ。
あの男は特別じゃ 」
そう言ってベッドの上で未だ両腕を用い少女の体を押さえつけるショボンを見た。
∧_∧
(#゚;;-゚)「大した者よ。現実にも覚醒しつつある阿修羅を生身で押さえつけ、あまつさえ焼き切られた結界を張り直すとは 」
- 302 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:02:04.59 ID:Kax+z6ZS0
- ショボンはドクオが最後に見たときと同じ体勢だった。
しかし記憶とは大きく異なる箇所がある。
それは…
(;'A`)「ショ、ショボン…その腕は…?」
真っ黒に焼け焦げた両腕だった。
ショボンは自分に声を掛けたのがドクオだと気付くとニヤリと唇を吊り上げた。
(´・ω・`)「お、もう起きたか。一週間は寝込むと踏んでたんだが意外と早かったな。
調子はどうだい、ドクオ?」
事も無げに言う。
この男はいつもそうだ。
理不尽な命令をするときも、魔と闘うときも、そして自分自身が大ダメージを負ったときも。
ドクオはやり切れずつい声を張り上げる。
(;'A`)「オレの事なんざどうでもいいんだよ!
テメェ、その腕は大丈夫なのかよ!?」
あぁこれか、とショボンは初めて気付いたかのように答える。
(´・ω・`)「掌にも両腕にも予め護符を貼付けてたからな。
そんなに大事でもないさ 」
どう見ても致命傷、そして焼きすぎた魚のように半分炭化した腕は今後使い物にならないかもしれない。
運が良くても後遺症は残るだろう。
だがそれを感じさせようとしない。
ドクオはデジャヴを感じたが、今はその原因を思い出している場合ではない。
- 305 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:02:47.66 ID:Kax+z6ZS0
- (;'A`)「バカ言ってるんじゃねぇ!そんな火傷今まで見たこともねぇぞ!」
尚も声を荒げるドクオを見て何も言わず微笑むショボン。
その顔を見て言葉を無くしたドクオにでぃが言った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「この場を焼いた炎は夢から染み出した炎。夢が覚めれば炎もその名残も消える。
阿修羅は夢の中で意識的に覚醒してはおるが、肉体的な覚醒はまだじゃ。
ここで抑えておけば真の覚醒にはまだ猶予がある 」
(;'A`)「で、でも…」
(´・ω・`)「いいかい、ドクオ?ブーンは夢の中で実際に阿修羅と向き合っている。
たった一人、でだ。それに比べればこの程度の事何でもないさ。
でぃさんも言ってるだろ?阿修羅の夢が覚めればこれも綺麗さっぱり治る 」
ドクオは最早何も言わない。いや、言えなかった。
自分も退魔行に就く事に覚悟を決めていたつもりだった。
必要とあれば命を投げ出す覚悟を。
しかし死ぬ覚悟はあっても強烈な痛みを甘んじて受ける覚悟はなかったかもしれない。
死ぬのは一瞬、しかし痛みは違う。
生きる覚悟を怠っていたのだ。
思い返せば、最近は多少付けた力を試す事だけを考えていた。
いざとなれば死ぬ覚悟でと思い上がり、死に急いでいた。
それを言葉ではなく行動で諫めたショボン。
ドクオは自らを恥じ、覚悟を改めた。
生き抜く覚悟をだ。
- 309 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:04:40.85 ID:Kax+z6ZS0
- ドクオの表情からショボンは自分の授業が上手くいった事を感じることが出来た。
何とも物分りのいい…
ブーンに頼み込まれて仲間に入れたドクオだったが、傍から見ていると成長が明確に目に見える。
もっともドクオ自身はブーンとショボンをいつも見ているせいか、一向に埋まる気配の無い差に自己の成長を疑っているが…
近頃ショボンはドクオの成長がどの娯楽よりも楽しみになっていた。
(´・ω・`)「むっ?」
唐突に部屋の温度が上がる。
ショボンが抑える少女の体が再び起き上がろうとしている。
少女に触れている箇所から炎が上がり、ショボンの両腕も当然燃える。
それを意に介さず、ひたすら少女をベッドに貼り付け続けるショボン。
しかし無情にも徐々に少女は立ち上がる。
既に筋繊維の半分が炭化しつつあるショボンの腕に腕力は残されていなかった。
(´・ω・`)「これは、参ったね。
力が入らない…」
- 312 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:05:44.90 ID:Kax+z6ZS0
- 気概があっても肉体が付いていかない。
自嘲的に笑うショボンだったが諦めた様子は無い。
必ずブーンは間に合う。
力の入らない燃える腕で、尚もひたすらに少女を押さえつける。
(´・ω・`)「目を開けるな。まだ目を開けてくれるなよ 」
少女に子守唄を歌うように語り掛ける。
それは自らを焼く魔に向けているとは思えないほど穏やかな口調だった。
だが力の無い腕では限度がある。
(´・ω・`)(ブーン!こっちはそろそろマズいぞ!)
限界のラインが見えたとき不意に少女が身をベッドに沈めた。
ショボンは自分の横で信じ難い光景を見た。
それは腕を燃やしながら少女を押さえつけるドクオだった。
(;´・ω・)「何て事を!オレは護符を貼り付けていると言っただろう!?」
我が身がどれほど焼かれようと冷静を貫いたショボンが声を荒げた。
(;'∀`)「熱い…熱いなぁショボン!」
(;´・ω・)「今すぐ手を離せ!生身の体で耐えられる炎じゃない!」
事実、ドクオの腕は早くも皮膚が焼かれ捲れ上がっていた。
その下の薄い脂肪は一瞬で溶け、筋肉を直に焼き始める。
- 316 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:06:59.42 ID:Kax+z6ZS0
- (;'∀`)「舐めんなよ…オレだって内藤退魔師事務所の端くれだ!
いつまでもお荷物でいられるかよ!」
その声を耳で聞き、その表情を眼で見て、そしてその意志を心で受け止める。
(´・ω・`)「良し!少しだけ頼む!」
ドクオの言葉に甘えたわけではない。
信頼に足る力をその言葉の中に感じたからこそ一瞬だけ全てを任せた。
燃え残った最後の護符をスーツのポケットから掴み出し、結界を張る。
炎の勢いが治まった瞬間を見計らいショボンは叫ぶ。
(´・ω・`)「でぃさん!」
∧_∧
(#゚;;-゚)「任せよ!」
短いやり取りの後、でぃは咆哮を上げる。
結界に阻まれ成長を止めた炎は紫煙となってでぃに吸い込まれる。
完全に炎がでぃに食われた後、そこはドクオが失神から目覚めたときと変わりない部屋に戻った。
(´・ω・`)「やるじゃないか。君がいなかったらヤバかった 」
ショボンの視線の先で、単身少女を抑え続けるドクオがニヤリと笑い二度目の失神に陥った。
・
・
・
- 318 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:08:49.75 ID:Kax+z6ZS0
- 現実世界でショボンとドクオ、そしてでぃが奮闘していたとき、夢の中ではブーンも同じように戦っていた。
夢の世界は一変していた。
ξ゚-゚)ξ「・・・・・・」
既にそこは遺跡のような建物内ではなく、溶岩が容赦なく渦を巻き、活火山の火口のと大差なかった。
ブーンとツンは火口の中に何故か残された二つの切り立った足場の上にそれぞれ立っていた。
夢魔が阿修羅の力を振り回し、地面に無数の炎の線を引き掻いていた状況が今では涼しく感じる。
吸う空気が口の中で痺れるほどの熱を持っている。
考え無しに肺に入れれば、気管から焼かれる。
赤熱する溶岩は痛いほど眩しく目を開け続けることも容易ではなかったが、眼球の水分さえ奪われるこの状況ではかえって都合が良かった。
(;^ω^)「ツン!聞こえるかお!?ツン!」
熱気を吸い込まないように注意しながら腹から声を絞り出す。
それでも空気中に存在する熱量は口中を焼く。
ツンとの距離は10m程。
声は届いているはず。
それを証明するかのように、ツンは口を開いた。
ξ゚-゚)ξ「ツン?この体の名か…」
前言撤回。
またしてもツンではなかった。
- 320 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:10:23.45 ID:Kax+z6ZS0
- ブーンは熱気を無視して叫んだ。
( ^ω^)「今度は一体何者だお!?ツンをどうしたお!?」
答えを期待したわけではない。
ただそう叫ばずにはいられなかった。
しかし目の前のツンの形をした何者かはその質問に答えた。
ξ゚-゚)ξ「…阿修羅…私は阿修羅。この娘の中で眠りについていた者。
私は目覚め、代わりにこの娘は私の中で眠っている 」
阿修羅…ブーンはそれを聞いて最悪の事態に戦慄した。
同時に自分の置かれている状況を妙に納得した。
かつて裏高野で修行中の頃、嫌と言うほど聞かされた。
憤怒と憎悪を食う紅蓮の炎の化身、煉獄の魔王阿修羅。
そんな者がいて堪るかと、話半分に聞いていた魔物が目の前に存在している。
だがもしそれが存在するなら、今時分が目にしている通り周囲を地獄に変えることなど容易いだろう。
しかし今回ばかりは相手が何者であろうとも逃げるわけにはいかない。
自分はツンを守らなければ…と考えていた時、ブーンはふと『どうして僕がツンを?』と思ったが、それは後回しにすることにした。
( ^ω^)「阿修羅…ツンに体を返すつもりはないかお?」
慎重に言葉を選ぶ。
阿修羅の逆鱗に触れてしまえば自分など一瞬で消し炭だろう。
ξ゚-゚)ξ「返す?勘違いしているようだがこの体は娘の物であり私の物でもある。
娘が欲しければ私を再び眠りにつかせることだ 」
- 323 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:12:00.23 ID:Kax+z6ZS0
- 私を眠りに…その言葉と同時に阿修羅は両手を開く。
熱による陽炎か、残像を無数に残しながら両腕が左右に開かれたとき、場の温度が再び暴走した。
熱の大暴走は距離を置くブーンにも届き、気がつくと衣服がチラチラと小さな炎に舐められている。
ξ゚-゚)ξ「男よ。私を拒絶し娘を望むのなら力で私を退けるがいい 」
(;^ω^)(何故…?)
ブーンは違和感を覚えた。
相手にとって自分を殺す事など赤子の手を朝飯前に捻る程に造作も無い事の筈。
どうして取るに足らない自分の質問にわざわざ答えるのか。
しかし今考えるべきは阿修羅の炎にどう対抗するか。
地獄の炎には天界の炎。
ブーンが選んだのは自身の最も得意とし、そして最強の炎の真言だった。
( ^ω^)「ナウマリ サンマンダ バサラ タンカン!不動明王 火炎呪!!」
固く結んだ両手の印は不動明王の三鈷剣を形作り、降魔の炎が生み出される。
印から解き放たれた浄化の炎は空間に充満した阿修羅の熱を突き破る。
不動明王の炎は悪魔を降伏させ、あらゆる障害を打ち砕く。
- 325 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:12:50.19 ID:Kax+z6ZS0
- その炎が阿修羅に届くとき
ξ゚-゚)ξ「愚か者めがっ!」
無表情なまま声だけが虚空を埋める。
押し潰されそうなほどの声の質量を全身に感じたブーンは、同時に自らの炎が突如として現れた巨大な火球に吸収される瞬間を目にする。
自分と阿修羅の間に前触れも無く現れた小さな太陽。
浄化の炎を食い尽くした太陽は暴力的に時たま青く発光する。
(;^ω^)「僕の火炎呪が…」
これまで数万の魔と対峙してきたが、いずれの魔も不動明王の炎の前には成す術はなかった。
時に焼き尽くし、時に縛り、全ての魔を打ち負かしてきた炎が、単純に強さで負けた。
あまりの事態に放心するブーンに無常にも阿修羅の死の宣告が下る。
ξ゚-゚)ξ「貴様が望む娘もろとも焼き捨てる気か?
もう良い…貴様はあの男とは違う。
私の夢の中で事切れるが良い 」
ブーンは目の前で展開される事態に色を失った。
自分と阿修羅の間に絶望的に輝く太陽。
紅蓮を超え、冷たささえ感じさせる青に色を変えた太陽。
それが知らぬ間に左右にも一つずつ存在していた。
- 331 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:15:33.85 ID:Kax+z6ZS0
- ξ゚-゚)ξ「選べ。このまま三つの太陽に焼かれて死ぬか、その場から飛び降り溶岩に巻かれて死ぬか 」
最早肉体の発火も寸前に迫るほどの高温に晒され、ブーンは朦朧とする頭で考えていた。
それはどう死ぬかと言うことではなかった。
どうして阿修羅が自分に選択肢を残したかという事だ。
始めから違和感を感じていた。
阿修羅は何故か自分を直ぐに殺そうとしない。
強者が弱者を必要以上に痛ぶるような感じではない。
自分は復活の最後の障害ではないのか。
チャンスをくれている?
( ^ω^)「まだ…何か手が……あるのかお…?」
意識を保っているのか自分でも分からないまま次の一手を探る。
阿修羅の言葉を思い出す。
…この娘は私の中で眠っている…
…娘が欲しければ私を再び眠りにつかせることだ…
…娘もろとも焼き捨てる気か…
( ^ω^)「…娘もろとも焼き捨てる気か…娘もろとも!?」
ブーンは不意に意識を混濁の淵から引き戻した。
阿修羅が激高したとき、自分どころかツンまで傷付けるのかと言った。
阿修羅だけを祓う力。
自分の切りたいものだけを切る神の刀。
それを思い出したのだった。
- 333 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:16:29.38 ID:Kax+z6ZS0
- ( ^ω^)「臨!」
印と同時に最初の一文字を言霊に乗せる。
――『ブーン、お前は天才ゆえに望みの強さを知らぬ 』――
不意に何者かの声が脳裏に過ぎった。
( ^ω^)「兵!」
――『ブーン、持つものであるお前には強い望みが無い 』――
それは今現在聞こえている声ではない。
過去の記憶の中に聞こえる声だ。
( ^ω^)「闘!(ジジィ…)」
それは裏高野での修行僧時代、幾度と無く聞いてきた人物の声。
ブーンの師の声。
――『真言は神の力。お前は不動明王の炎を簡単に使う。しかしそれは借り物の力。お前の力ではない 』――
- 337 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:17:50.36 ID:Kax+z6ZS0
- ( ^ω^)「者!(分かってるお…)」
――『望む力は何よりも強い。しかしお前にはそれが無い 』――
記憶の中の師はブーンに心の強さの無さを幾度となく指摘した。
その強さがなかったために、今までこの術を成功させた事は…無い。
( ^ω^)「皆!(でも今なら…)」
今なら出来る。
確信している。
失敗するたびに言われた師の言葉。
『強き望みを持てブーン!』
( ^ω^)「陣!(望みの力…!)」
――『お前は何を望む!?その意志が強ければお前の力も強くなる! 』――
今強く望んでいる事、それは分かりきっている。
偽りではない真実の意志で強く望んでいる。
- 342 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:22:24.65 ID:Kax+z6ZS0
- ( ^ω^)「烈!(僕が望むのは!)」
――『お前が強く望んだとき… 』――
師の言葉は続く。
何百回も言われた事だ。
この後どう続くのか既に知っている。
( ^ω^)「在!(ツンを守る!!!)」
――『お前の意志は望むものを守る神の刃となる! 』――
今まで一度も成功した事が無い九つの字と九つの印。
師はその原因は望む力の無さと言った。
だが今何よりも望む。
阿修羅からツンを解き放つ!
渾身の力を込めて九つ目の印を結ぶ。
出来る!
九字目を叫べば弱者を守り魔を切り裂く 九 字 神 刀 が!
( ^ω^)「前っ!!!」
最後の真言を最後の印に乗せる。
最後の印は左掌に右拳を叩きつける隠形印。
両手を重ねた印から光が漏れる。
青い発勁の光とも赤い不動明王の炎とも違う。
それは白く輝く意志の光。
- 344 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:23:20.13 ID:Kax+z6ZS0
- 意志の光は九字の神刀となり、灼熱の大気を切り裂き、業火の太陽を二つに切り裂き、阿修羅に届く。
その刃はブーンの望み通りツンの体を傷付けることなく阿修羅の魂のみを切りつけた。
ブーンと阿修羅、両者の間には煌々と燃え続ける太陽があったためブーンは阿修羅の表情を見ることが出来なかった。
二つに裂かれた太陽の向こうで、ブーンが顕になった阿修羅の姿を見たのはほんの一瞬。
見えた瞬間に阿修羅はブーンの九字を受け眠りの淵に落ちていった。
一瞬だったためブーンには自身が無かったが、何故か阿修羅は微笑みながら自ら攻撃を受けたように見えた。
そしてブーンの意識は途切れる。
・
・
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- 347 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:25:03.13 ID:Kax+z6ZS0
- ドクオは目を覚ました。
本日二度目の失神からの覚醒だ。
しかし二度目の失神は名誉の失神だ。
業火に焼かれる体を物ともせず、ショボンのサポートをした。
それを思い出したドクオは、遂に退魔師として役に立てたことを自覚し気まずそうに照れ笑いを浮かべた。
∧_∧
(#゚;;-゚)(´・ω・`)「「キメェw」」
自分の世界に浸っていたドクオは容赦ない言葉を浴びる。
しかしこの時ばかりは欝にもならず死にたいとも思わない。
魔と戦い生き残った充実感が彼の全てを支配していた。
('A`)「充電完了!さぁショボン、俺はどうすればいい!?」
ポキポキと指を鳴らしながら指示を仰ぐドクオ。
(´・ω・`)「まだやんの?」
ドクオはこれを聞いてとうとうショボンが諦めてしまったと思った。
やる気を失ってしまっている。
これ以上何をやっても無駄だと思ってしまっている。
('A`)「諦めるのは早いぜショボン!このドクオさんだって戦力になるんだ!
さぁ言ってくれ!オレは何をすればいいんだ!?」
拳を顔の前でがっしりと握り、決意を声高に叫ぶ。
その時、目の前で固く結ばれる自分の拳を見てあることに気付いた。
- 349 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:27:09.25 ID:Kax+z6ZS0
- ('A`)「あ…あれ?」
さっき少女を押さえ込んだとき自分の両手は燃え、重度の火傷を負ったはず。
その痛みで自分は気絶したはずだ。
ところが今は火傷の痕も痛みも微塵もなく、燃えたはずの衣服も元通りになっている。
自分だけではない。
焼けて炭になってしまった家具が点在していた部屋は、その全てが無くなり炎の痕跡が見られない。
(´・ω・`)「仕事は終わりだ。お疲れさん 」
ドクオの肩に手をポンと乗せショボンが言った。
半炭化していたショボンの腕は何事も無かったかのように元に戻っている。
(;'A`)「ちょっ、おまっ、手はどうしたんだよ?」
今まで見ていたのは全てが幻だったのか?
ということは自分の活躍も幻か?
戸惑うドクオに足元から声が聞こえた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「言うたじゃろう?夢から染み出した炎は夢が覚めれば炎もその名残も消える。
阿修羅の夢が覚めたのよ 」
(;'A`)「じゃぁ、全部夢だったってのか?
アレだけ必死の思いしたのに…」
傍目にも落胆の色が分かるほどに落ち込むドクオ。
しかしショボンの口から救いの言葉が向けられた。
- 351 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:28:55.40 ID:Kax+z6ZS0
- (´・ω・`)「いや、ここには確かに阿修羅の炎が存在した。
君はその炎に身を焼かれながらもオレを助けてくれた。
それは夢でもなんでもない、事実だ 」
確かに自分は魔に立ち向かった。
ショボンにそう言われたドクオは再び誇らしさが涌いてきた。
(´・ω・`)「さぁ、阿修羅の夢も覚めた事だしブーンもこの子ももうすぐ目を覚ます。
今回の仕事は疲れたな。さっさと帰って休みたい 」
その時、かすかにベッドの少女が声を上げた。
ショボンの言うとおり、目覚めるのも時間の問題だろう。
でもブーンは大丈夫かな。
ドクオは未だに苦しみの表情を変えず転がっているブーンを見てそう思った。
そういえばこの少女の名前も聞いてなかったな。
('A`)(目を覚ましたら聞いてみっか )
( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです―――第五話・炎の少女・後編――― 終
- 357 名前:第五話:2007/08/27(月) 01:31:55.45 ID:Kax+z6ZS0
- 第五話投下終了です
同時に今回の投下はここまで
支援してくださった方々には感謝のしようもありません
たまに出るwktkにはこっちの方がwktkしてしまいましてw
長時間付き合ってくださってありがとうございました
次、元ネタ解説行きます
- 364 名前:第五話・元ネタ解説:2007/08/27(月) 01:41:48.65 ID:Kax+z6ZS0
- 孔雀:
原作『孔雀王』の主人公。
守護神は孔雀明王で、その他の神仏の様々な法力をも自在に使いこなす才覚の持ち主
でも生臭マヌケ坊主。
阿修羅:
原作『孔雀王』のヒロイン。
インスパイアしたからには退魔師稼業でもヒロインにと。
でもそのままのキャラだと原作レイプしかねないので本作ではツンの中で眠ってもらいました。
守護神は阿修羅王で、憤怒や憎悪から生み出される紅蓮の炎を操って孔雀達を援護する。
夢見石:
原作では他人を廃人にして操り殺人、自殺まで操作する呪いのアイテム。
こっちでは名前的に都合が良かったので夢の中に入るためのアイテムに鞍替えさせていただきました。
夢魔:
寝ている間に生気を吸い取るらしい。
ツンから飛び出してきた姿形は例によって女神転生より。
九字神刀:
「臨兵闘者開陳烈在前」の九字を唱えることで両手の指先に力を集中し、刀のようにして攻撃する。
望みの力でパワーアップし、切りたいものだけを切ると言うのは創作でしたw
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