( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―――第四話・炎の少女・前編―――

6 名前:退魔師稼業:2007/09/01(土) 22:15:37.17 ID:w1wrBxKq0
第三話・老人と猫〜あらすじ〜

付喪神の一件依頼、ドクオはバーボンハウスで退魔師見習いとして日々過ごしていた。
そんな中、ブーンとドクオはショボンの恩人という老人、モナーの元へ招かれる。
戦後、あらゆる分野において日本を裏から支えてきたモナー。
その莫大な財産は兆を優に超え、数える事は最早不可能とまで言われる。

そのモナーがショボンを呼び出した理由。
それは自分の死後、愛猫の面倒を見てくれという内容だった。
しかしその猫は千年数百年を生きる猫股・でぃに他ならなかった。

夜。
贅を尽くした持て成しを受けた三人の元に不吉な風が吹く。
桁違いに人生の成功者であるモナーの元に、理不尽に向けられた妬み恨み嫉み辛みといった負の感情。
それが凝り固まり生じた魔物、レギオンの到来だった。
数年の間、夜毎に現れモナーの命を奪おうとするレギオンだったが、それを単身撃退し続けてきたのはでぃだった。
しかしレギオンにはでぃだけでは止めを刺せない理由があった。

でぃは今夜こそ決着を付けようとブーンの法力に期待を寄せるが…

188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/26(日) 23:52:00.08 ID:Dhv5xQlM0
「あの子をあの人たちに任せよう」

パパ…

「どうして!?あの子は普通の子よ!」

ママ…

「落ち着きなさい。このままでは悪戯に人が傷つくばかりだ。原因があの子だということは君も判っているんだろう?」

やっぱり…
やっぱり私は皆と違うんだ。
私は病気なんだ。

「そんな!何か方法があるはずよ!あの子がこれまで通りに普通の子として一緒に暮らせる方法が!」

ママ…
泣かないでママ…

どうして?
どうして私は皆と違うの?
どうして私の周りではあんな事ばかり起こるの?

190 名前:第四話:2007/08/26(日) 23:53:18.28 ID:Dhv5xQlM0
もう嫌。
もう何も見たくない。
パパが悩む姿も。
ママが悲しむ姿も。
傷ついた友達の姿も。

…人を傷つける私の姿も…

そうだ、眠ってしまおう。
ずっと眠ったままなら何も見ずにすむ。
眠っている間に、きっとこの病気も治し方が見つかる。

そうよ。
どうしてこんなに簡単な事に気付かなかったんだろう。





パパ、ママ、お休みなさい。










191 名前:第四話:2007/08/26(日) 23:55:12.88 ID:Dhv5xQlM0
 客の来ない寂れたバー、バーボンハウス。
 閑古鳥の鳴く店内でしょぼくれ顔のマスターが手にした手紙を見て眉をしかめる。
 もう片方の手は同封された小さな白い石を弄んでいる。
 その手紙には冒頭に赤い字で『依頼書』と冠されていた。
 バーにいる人間はショボン一人。
 しかし、もう一人声を発する存在がここには存在する。
∧_∧
(#゚;;-゚)「どうしたショボン。
     しょぼくれ顔がいつになくしょぼくれておるぞ 」

(´・ω・`)「面倒な事になりそうですよ。
      御山からの指令だ。
      白々しく『依頼書』なんて書きやがって。
      こっちに選択肢は無いからこれは実質『指令書』だろうに 」

 喋る猫に対し、人に対してするのと同様に受け答えるマスター・ショボン。
 この男に関してはいつもの事だが、それでもいつも以上に面倒臭そうに話す。

192 名前:第四話:2007/08/26(日) 23:56:52.60 ID:Dhv5xQlM0
∧_∧
(#゚;;-゚)「御山?まさか裏高野か?
      小僧の口上を聞くに、お主らはてっきり縁を切っておるものと思っておったがな 」

(´・ω・`)「どうもブーンにご執心のようでね。
      ずっとサポートは受け続けてる。
      もっとも、ブーンには秘密ですがね 」

 ガヤガヤと店の外から声が聞こえてきた。
 お使いに出したブーンとドクオが帰ってきたらしい。

(´・ω・`)「さ、どうやら帰ってきたようだ。
      準備して現場に行くとしようか。
      気が進まないけど 」

 元々やる気を前面に押し出すタイプではないが、「気が進まない」等とはっきりと口に出すのは珍しい事だ。
 中々見ることのない態度に興味をそそられ、でぃはその原因を尋ねた。

 ショボンはただ一言「面倒なんだ」と答えた。

194 名前:第四話:2007/08/26(日) 23:58:12.44 ID:Dhv5xQlM0



―――第四話・炎の少女・前編――― 




195 名前:第四話:2007/08/26(日) 23:59:56.40 ID:Dhv5xQlM0
 何の変哲も無い住宅地。
 そこを歩く奇妙な集団。
 一人はスーツを着こなし、何気なく、それでいて隙の無い物腰を崩さない。
 一人は大学生の様な風貌でニコニコと締りの無い顔をしている。
 一人はあからさまにチンピラだった。
 その足元には付かず離れずトコトコと黒猫が行進している。
 傍目にはとても同じ目的を持った一つの集団とは思えない。
 全く統一性の無い三人と一匹は、当然のように同じ民家に入って行った。

 極々一般的な建坪と大きさの一軒家だったが、そこの住民は一般的とは言い難かった。
 一行を迎えたのは中年の夫婦だった。
 しかしその表情は超常の理不尽に困惑し、疲れ果てている。
 すぐに応接室に通されそこで待つように言われる退魔師様ご一行。
 ホームセンターで購入したと思われる数々の家具に囲まれ家主を待つ。

( ^ω^)「随分とまいってるみたいだお 」

 ブーンはスプリングの固いソファに腰掛け、見たままの率直な感想を口にした。
 それにドクオも続く。

('A`)「そうみたいだな。ああいう顔は何回か見たことあるぜ。
    オレが追い込みかけた連中と同じ顔だ 」

(´・ω・`)「相手が君達だった方がまだマシさ。
      さて今回は何が出るか… 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「その事じゃがのう。主ら、少し聞け 」

197 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:02:24.29 ID:Kax+z6ZS0
 各々が一言ずつ発した後、それまで普通の猫のように振舞っていたでぃが口を出した。     
∧_∧
(#゚;;-゚)「このウサギ小屋の二階から何やら覚えのある匂いがするぞ。
     気持ちの良いものではない。
     ショボンよ。これは確かに面倒じゃな。
     各々心せよ 」

(;^ω^)「こ、心しますお。でも今回はショボンもいるし前よりは…」

('A`)「そろそろ僕の事も思い出してあげてください… 」

 でぃの忠告に多少恐れを抱きながらも楽観的に考えようとするブーンと功を焦るドクオ。
 しかし二人を諫める様にでぃは切り返した。
∧_∧
(#゚;;-゚)「レギオン等とは各が違う。最悪、我ら全員が死ぬ 」

(;^ω^)「お…」

 モナー邸での夜、どれだけ追い詰められても言わなかった言葉。
 拍子抜けするほど簡単に、そこに何の重みも乗せず言った。
 しかし言ったのが長い年月を生き抜いてきたでぃの場合、聞く側はそこに重みを感じる。
 重みに口を塞がれたブーンに代わり、ドクオが反論する。

199 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:03:25.60 ID:Kax+z6ZS0
∧_∧
(#゚;;-゚)「まだアレが覚醒してないだけに過ぎぬ。
     昔ヤツを仲間にした坊主がおったが…一度転生したか。
     毎度毎度上手く手懐けられるとは限らぬ。
     もしヤツが敵に回るようなことがあれば逃げよ。良いな? 」

(;^ω^)(;'A`)「・・・・・・」

 万が一の時には逃げろとの言葉の前に最早言葉を失った二人。
 たった一度しかその戦いぶりを見ていないが、でぃの戦闘能力の高さは十分すぎるほど知っていた。
 そのでぃが戦う事を拒否することなど想定し得る範囲外だった。
 しかし想定の範囲を予めそこまで広げていた者がいる。

(´・ω・`)(はぁー、ヤダヤダ。
     でも今までの傾向を見るにこれもギリギリクリアできるレベルに達したという事か。
     毎度毎度どこでチェックしてるんだあのジイ様は… )

 暫く後、インスタントコーヒーと安い茶菓子をトレイに乗せ、この家の主たる夫妻が部屋に入ってきた。
 トレイに乗ったコーヒーカップの数は4個。
 何の疑問も持たずに猫の分まで用意してしまうほど夫妻の神経は衰弱しているという事だろう。
 最も当のその猫は
∧_∧
(#゚;;-゚)(何じゃこのドブ水は?味気も香気もクソも無いわ )

 目の前の黒猫がマンダムだとは思いもよらず、疲れきった父は恐る恐る口を開いた。

200 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:05:04.42 ID:Kax+z6ZS0
父「お待たせしました。
  内藤退魔師事務所の方々…ですよね?
  てっきりお坊様が来て下さるとばかり… 」

 一人は判る。
 恐らくどこぞの高級ブランドの物だと思しきスーツをビシッと着込み、乱れの無いオールバックに落ち着いた表情。
 ステレオタイプの出来る男像を地で行く男だ。
 恐らくこの男が内藤だろう。
 しかし残りの二人はなんだ。
 バイトか?多分そうだろう。
 目つきの良いのと悪いのがいるが、悪い方などは出した茶菓子を細かく千切って足元の猫に与えている。
 もっともその猫は、差し出された食べごろサイズの茶菓子を一嗅ぎすると前足で弾き飛ばしてしまったが。

( ^ω^)「初めまして、内藤退魔師事務所の所長、内藤ホライゾンですお。
      こっちのしょぼくれた顔をしているのが助手のショボン。
      この幸の薄そうなチンピラはドクオですお 」

(´・ω・`)('A`)「・・・・・・」

 所長であるブーンが自己とスタッフの紹介をする。
 残りの二人に自分の立場的優位を再確認させているかのようなニュアンスが含まれているような言い回しだった。
 二人は何も言わないが、ドクオの眉間には一度青筋がくっきりと浮かんで消えた。
 一方出来る男・ショボンは、袖口から何か液体の入った小さな容器を出し、素早い手つきでブーンのコーヒーカップにその液体を数滴垂らした。

('A`) (さすがショボン!俺に出来ない事を平然とやってのける!
    そこに痺れる憧れる!)

203 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:06:35.84 ID:Kax+z6ZS0
( ^ω^)「さて、早速本題に入らせて貰いますお。
       ある程度の事情は把握してますお。
       おい、助手。
       ボサッとしてないでさっさと書類を出せお 」

 そうとは知らず社会の序列を楽しむブーン。
 下がった眉尻が一瞬ピクリと跳ね上がる出来る男・ショボンだったが、眉毛はすぐに元のポジションに戻る。
 出来る男は眼光だけが鋭いままモソモソと鞄を漁り始めた。

(´・ω・`)「おや?おかしいですね。
      確かにここに入れておいたはずですが…
      すぐにお出ししますので、所長は頂いたコーヒーでもお召し上がりになりながらお待ちください 」

 そう言うとブーンから目を逸らし白々しく鞄を漁る。
 ブーンはここぞとばかりに言葉の暴力を振りかざしながら、手だけは素直にコーヒーカップに伸びる。

( ^ω^)「全く最近の助手は!
      ゆとり世代でもないくせに大切な書類の整理も出来ないのかお!?
      頭の中だけがゆとってるんじゃねーのかお?
      しょぼくれてるのは顔だけにしてくれってんだお!
      すみませんね。ウチの助手はどうも機転が利かなくてw
      あ、コーヒー頂きますおw 」

 日頃こき使われる鬱憤を今がチャンスとばかりに邪悪な笑みを浮かべながら理路整然と並べるブーン。
 乾いた舌を濡らす為にコーヒーを口に入れ、いざ第二波を喉から発しようと口を開いた瞬間、

( ゚ω゚)「っ!!!!!!!」

 ブーンは下腹部を押さえて部屋を出て行った。

205 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:08:19.77 ID:Kax+z6ZS0
(´・ω・`)「おや?所長はお腹の具合が悪いようですね。
      いえ、気になさらなくても結構です。
      仕事前は緊張していつもこうですから。
      では所長の代わりに私がお話を続けましょう 」

 そう言うとスーツの胸ポケットから綺麗に畳まれた書類を出しテーブルに並べるショボン。

('A`)「何やったんだ?」

 ドクオが口に手を当て聞くとショボンがぼそりと言った。
 先程のブーンの遥か上空を行く邪悪な表情を浮かべて。

(´・ω・`)「下剤さ。ただし市販のものを100倍ほどに濃縮したものだがね 」










207 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:10:31.21 ID:Kax+z6ZS0
 ブーンは思った。
 「おかしい」と。
 つい先程までは圧倒的立場差を用いて日頃の鬱憤を晴らしていたはずだ。
 そのとき自分は確かに眩いほどに輝いており、目の前のしょぼくれ顔は哀れな底辺の存在だった。
 しかしこれはどうだ。
 気が付けばトイレの前に倒れ込み朦朧とした意識をかろうじて繋ぎ止めている。
 一服盛られた?
 そうとしか考えられない。
 謀られた。
 その考えに辿り付いた時、自分がいた部屋からドクオと謀略の主が出てきた。
 二人は自分を見下ろし口元を歪めている。
 何という醜悪な笑み。
 テメェら今すぐ祓ってやるからそこに直れ。
 しかし指一本動かない。
 それをいいことに二人はブーンの腕を一本ずつ掴み何処かへ引っ張っていった。
 引き摺られる自分を認識しつつ、ブーンは意識の深淵へと引き込まれていった。









209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/27(月) 00:13:15.94 ID:Kax+z6ZS0
(´・ω・`)「さて、ここまでの話を整理しようか 」

( ゚ω゚)「・・・・・・」

 応接室から二階の部屋に移動したショボン、ドクオ、でぃは一度思い思いに腰を下ろした。
 狼藉を働いたブーンは意識を失ったままその辺りに放り出されている。

('A`)「最初は小火騒ぎから始まったんだったな? 」

(´・ω・`)「そうだ。ある日突然この子の周りの物が燃え始めた 」

 そう言うとその部屋のベッドで眠る少女を見る。

ξ--)ξ「・・・・・・」

 少女はピクリとも動かず眠り続けている。
 傍目から見ると死んだようにも見えるが、そうではないことを知る者がいた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「自らを封じておるようじゃな。大方、周りの者を傷付けぬよう眠りに付いたということじゃろう 」

(´・ω・`)「次第に発火現象は無差別に起こり始め、とうとう友人や家族にまでその被害が及んだ。
      もちろん誰も彼もがその原因に気付いたわけじゃない。
      それに気付いたのはいつもこの子を見守っていた両親。
      そして原因不明の発火現象がいつも自分の周りで起こっていたこの子自身か… 」

('A`)「で、両親が俺達にSOSを出そうと決めた翌朝から目を覚まさなくなったってわけか。
    でぃさん、自分の意思で眠り続けるなんて事出来るのか? 」

 眠る少女と足元の黒猫を交互に見ながらドクオは質問を投げかけた。

211 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:16:10.00 ID:Kax+z6ZS0
∧_∧
(#゚;;-゚)「無論、ただの人間には不可能じゃ。
     ただの魔にもそんな真似は出来ぬ。
     詰まる所コレはそんじょそこらの者ではないという事じゃ 」

 でぃの発言を聞いて大きなため息を漏らしたのはショボンだった。
 どのような分野においても情報という物は大きな力を持つ。
 退魔師として敵と成り得る存在の情報は、命を拾うか失うかを左右する事もある。
 そのために古事記や日本書紀、聖書やコーラン、仏教聖典や世界中の民話に至るまで人外の存在に関する文献を頭に叩き込んでいるショボンは、すでに一つの結論に達していた。
 ショボンにとって、それはあって欲しくはなかった結論。
 しかし実際に目の前にして否定する訳にはいかなかった。
 ショボンは目を逸らしたくなる事実を、声に出して直視する。

(´・ω・`)「これは『阿修羅』だろう、でぃさん?
      かつて裏高野最強の退魔師『孔雀』が行動を共にしたという。
      やっぱり、御山が関係したら碌な事が無い 」

('A`)「阿修羅?孔雀?御山?」

 何やらワケが判らないという顔をしているドクオの足元からでぃが答える。
∧_∧
(#゚;;-゚)「ご名答。この小娘は地獄の業火を纏う阿修羅の生まれ変わりじゃろう。
     で、どうする?
     この眠りは強力な暗示による自己封印の類じゃ。
     無理やり起こせば、煉獄の炎が荒れ狂う事になるやもしれん。
     相手が阿修羅では身を引くのも恥ではないぞ 」

213 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:18:10.11 ID:Kax+z6ZS0
(´・ω・`)「御山からの指令書に同封されていた石だ。
      コレは恐らく夢見石。
      他人の夢に干渉出来る迷惑な魔具さ。
      コレがあれば彼女の夢の中に入って直接話が出来る。
      あちらさんにしてみれば今の状況も全て調査済みって事だろう 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「ほぅ、ワシも見るのは初めてじゃ。
     しかしコレが一つだけということは? 」

 でぃが言った一言にショボンは身を裂かれたかのような悲痛な表情を浮かべた。
 今までに無い強大な相手。
 全員で掛かっても全滅する可能性の高い相手。
 しかし渡された切符は一人分だけだった。
 即ち…

('A`)「このヤマはブーン一人でやれってことか?」

 ショボンが口にしたくなかったことを代わりにドクオが言った。
 言葉が耳に入ってくることで、頭の中で考えていた以上に現実味を帯びる。


214 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:20:12.85 ID:Kax+z6ZS0
(´・ω・`)「どうあってもそのつもりらしい。
      ブーンにとっての試練だというわけか。
      オレ達はブーンを信じるしかない 」

 ショボンはそう言うと、未だに昏睡から覚めないブーンの右手に夢見石をしっかりと握らせた。

(´・ω・`)「ククク…
      多少やりすぎた感があったが、気絶するほどの下剤も役に立つじゃあないか。
      眠らせる手間が省けたよ 」

 魔王の表情を浮かべるショボン。
 戦慄するドクオに「冗談だよ」と付け加え、本心からブーンを労わる顔を見せた。

(´・ω・`)「頑張るんだ、ブーン!」










216 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:21:10.47 ID:Kax+z6ZS0
( ゚ω゚)「チックショー――――――ッ!!」

( ^ω^)「お、声が出たおw」

 指先から声帯さえも思うようにならなかったブーンだったが、気が付けば身体の自由を取り戻していた。
 自由になった両足で地面を踏みしめ、首を回して辺りを見る。

 そこは建物の中だった。
 ただし自分が訪ねた民家とは大きく様相を違える。
 一つ一つが両手を広げたほどもある石のブロックで作られた外壁。
 床と高い天井の間は、両者が巡り合う事を永遠に拒んでいるかのように無数の太い石柱で結ばれている。
 そこに生える湿った苔や一面を覆う蔦などの植物からは、積み上げられた時代を感じることが出来る。
 ブーンは広い祠の中にいた。
 火の気や生き物の気配は無く、探索中に古代遺跡に唐突に迷い込んだかのような錯覚を受ける。
 正面には左右一つずつ、計二つの階段が上階へと続いている。
 その先からは光が漏れており、外へと繋がっているであろうことが想像できた。

 他に行くところもないのでブーンは階段を登った。
 一段一段が高く、そして角度が急な階段は梯子や崖を登る感覚に似ていた。
 上階には十分な面積があり、奥の広々とした吹き抜けからは弱々しい外の明かりが差し込む。
 その中央には大きな石の祭壇があった。
 全てが石で出来た建物の中で、その祭壇の上にだけ赤地に金色の刺繍がされた布が無造作に置いてあった。
 ブーンはその刺繍と同じものが記憶の片隅にあることに気付いた。


221 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:23:54.90 ID:Kax+z6ZS0
( ^ω^)「これは曼荼羅かお?
      えーと・・・見たことあるけど何の曼荼羅だったかお?
      ここまで出掛かってるんだけど 」

 頭を指差しながらブーンは言う。
 そのとき唐突に背後から声がした。

?「それじゃ口を通り越してるじゃない 」

 予想外の他人の声を聞きギョッとするブーン。
 しかしその声が若い女の声だった為か安堵しながら声のした方に目を向ける。

ξ゚听)ξ「誰、あんた?」

 そこにはセーラー服の少女がいた。










223 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:26:10.29 ID:Kax+z6ZS0
( ^ω^)「つまりコレはツンの夢の中なのかお?
      それは突然の訪問、失礼しましたお 」

 お互いの自己紹介を済ませ、今ある状況を確認したブーン。
 少女はツン。
 十七歳の高校三年生だという。
 そして他人の夢の中の登場人物として今の自分は存在している。
 信じ難いことではあったが、超常現象が日常と化しているブーンにとっては「ま、そんなこともあるか」程度の問題ですんなりと受け入れた。

ξ゚听)ξ「あんた頭大丈夫?
      自分で言っといてなんだけど、『コレは私の夢です』って言われてよく納得できるわね 」

( ^ω^)「他人の夢の中に来たのは流石に初めてだけど、常識的に考えて不思議な事は山ほど経験してるお。
      例えばウチには喋る猫がいたりするお。
      だから別にツンが嘘ついてるとは思わないお 」

ξ゚听)ξ「へぇー、喋る猫かぁ。
      嘘臭いわね 」

 自分の話を信じると言った相手に、躊躇無く疑いの目を向ける少女。
 確かに喋る猫はいないだろう、常識的に考えて。

(;^ω^)「それが本当にいるんだお。
      千年以上生きてる化け猫で、一回ただの猫だと思ってモフモフしたらフルボッコにされたお 」

ξ゚听)ξ「ただの猫でもモフモフしてんじゃないわよ。
      あれ嬉しいの人間だけよ 」

(;^ω^)「それ、前にも言われたお…」

224 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:27:35.38 ID:Kax+z6ZS0
 初対面の少女に切って捨てられるブーン。
 少女の歯に衣着せぬ物言いと、ブーンの人好きのする正確は凹凸に嵌まるかのように二人の溝を埋めていった。
 ブーンは改めて目の前の少女を見た。
 ブーンより頭一つ小さく、細身で肌はミルクのように白い。
 端が少しだけ上を向いている茶色がかった目は大きく、強い意志の光を感じる。
 少し茶色掛かった髪は癖毛なのか二つに結んだ部分が綺麗に巻いている。

(;^ω^)(どストライクだお )

 ズバリ好みのタイプだった。
 あぁ、僕はこの子と出会うために長年マイさくらんぼを守ってきたんだね、そう思って見つめていると

ξ゚听)ξ「キメェ 」

 現実の壁の厚さを知った。
 気を取り直して、ブーンはどうしてこの少女が夢の中に閉じこもっているのかという話題に変えた。
 しかし途端に少女の顔は暗く沈み、目線を下げてしまった。
 それを見てブーンは深入りしすぎたと猛省したが、それ以上に何とかしてこの少女の力になってやりたいと思った。

( ^ω^)「ゴメンだお。初対面なのにズケズケと…
      でも僕が君の夢の中に来た事は何か理由があるはずだお。
      もしかしたら何か力になれるかもしれないお。
      良かったら話してもらえないかお?」

 屈託の無い笑顔で、しかし本気で力になりたいとの意志を持って切り出す。
 そこには不思議な安心感があり、期待まではせずとも話をしてみたいとツンに思わせた。

227 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:28:30.53 ID:Kax+z6ZS0
ξ゚听)ξ「私ね、変な病気なの。
      信じられないかもしれないけど、物を燃やしちゃう…
      こんな風にね 」

 そう言って何も無い石の壁の方に目を向ける。
 見えない何かに撫でられたかの様に、ツンの顔の両側に下げた髪が同時に舞い上がった。
 次の瞬間、ツンが視線をくれていた壁から炎が上がった。
 即座に溶点へと達した石壁は、急激な膨張に伴って赤い液体となり爆ぜる。
 溶解した石壁は花火のように赤い花を咲かせるが、地面にボトボトと落ちて黒ずむ溶岩に花火の優美さは無い。

ξ゚听)ξ「最初は最近火事が多いわねって思ってたんだけど違ったの。
      私が必要以上に意識したものが燃えるの。
      欲しいと思った洋服や可愛いと思ったぬいぐるみ。
      そしてとうとう仲の良かった友達まで…
      幸い大事には至らなかったけどいつ取り返しの付かない事になるかわからない。
      そうなる前に眠っちゃったってわけ 」

 ツンは大きく息を吐いて自嘲的に笑った。
 どうして初対面でその辺にいくらでもいそうな顔の緩い目の前の男に、『自分が意識したものには火が付きます』等と言ってしまったのかツン自身にもわからなかった。
 理由など無いのかもしれない。
 ただ一人得体の知れない現象に悩まされ続け、誰かに話してしまいたかっただけかもしれない。
 しかしツンは信じ難い光景を目の当たりにする。

( ^ω^)「どぉりゃぁー―――――――っ!!」

 何らかの呪文のようなものを唱えた直後、目の前の男の、何か複雑に絡めた両手から炎が噴出した。
 燃え盛る炎は、その熱をツンの肌に感じさせながら奥の吹き抜けから外に逃げていった。
 唖然とするツンにブーンが優しく話しかけた。

229 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:29:19.03 ID:Kax+z6ZS0
( ^ω^)「火ならこの通り、僕も出せるお。
      ツンと同じだお 」

ξ;゚听)ξ「な、なに?」

 何の変哲も無いただの大学生のような男が造作も無く超常現象を起こした。
 ツンはあまりの出来事に思考が停止し、何を話せばいいか分からなかった。
 何とか回転させた頭でここまでの流れを反芻した結果、ブーンの言葉に一つの疑問を持った。

ξ;゚听)ξ「私と同じ?」

( ^ω^)「ツンは自分にワケの分からない力があることを知ってるお。
      まず今ので分かったお?
      ワケの分からない力があるのは僕も同じだお 」

 ブーンの話にツンは口を挟むことはなかった。
 戸惑いながらも、ブーンが『自分と同じ』と言った事に対して僅かに安心感を覚えたからだ。
 尚もブーンは続ける。

( ^ω^)「今ワケの分からない力とは言ったけど、僕自身は自分の力について理解してるお 」

ξ゚听)ξ「じゃ、あんたなら私の病気…力かしら。これも原因が判るのね!? 」

 期待に目を輝かせるツン。
 しかしブーンは表情を曇らせ俯く。
 その期待に答える事は出来なかったからだ。
 破壊一点を目的とするツンの炎は、浄化を意味するブーンの炎とは一線を画していた。

231 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:30:41.23 ID:Kax+z6ZS0
( ^ω^)「ゴメンだお。僕の火は悪いものを倒すために修行して身に付けたものだお。
      だからどういうものか良く分かってるお。
      でもツンの火は僕の火とは種類が違うし初めて見たお…
      僕にもこれが何なのか分からないお… 」

ξ゚听)ξ「そう…なんだ。
      そうよね!そりゃ私みたいなのと同じ人なんかいるわけないわよ!
      自分でも気持ち悪いんだから!
      でも話聞いてくれてアリガト。少しだけスッキリしたわ 」

 原因が判る者についに出会うことが出来た。
 そう思ったツンは量らずとも期待に胸を膨らませたが、『分からない』の言葉に落胆を隠せなかった。
 しかし、落胆の色を示してしまったことを恥じるかのように気丈に振る舞い礼を言うツン。
 ブーンは自分の胸ほどしかない小さな少女の健気な強さを感じた。
 力の及ぶ限り守ってやらなければならない。
 何故かそう思った。

( ^ω^)「ねぇ、ツン…
      一般の人にとっては僕の火も得体の知れない力だお。
      でもそれ以外は何も変わらない。
      ただ力を持ってしまった以上責任があるお 」

ξ゚听)ξ「…うん 」

 何か言葉はないか。
 そう思って話し始めたブーンの話をツンは聞き、相槌を打つ。
 考えながら順次口に出すブーンの言は理路整然とはしていないが、一途な思いは胸に響く説得力となった。

232 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:31:24.67 ID:Kax+z6ZS0
(;^ω^)「えーと、だから…
      分からないものは仕方が無いお。
      でも君にこういう力があるのにはきっと理由があるはずだお。
      だったらまず力を受け入れるんだお 」

ξ゚听)ξ「…うん 」

 たまに相槌を打つ以外に何も言わない少女。
 自分でも必死だということは分かっていたブーンは、目の前の少女に言いたい事がキチンと伝わっているか不安だった。
 しかしとにかく今の話を最後まで続けようと思った。

(;^ω^)「そうだお!こういう力があると自分で認めるんだお!
      そしてコントロール出来るように練習するんだお!
      そしたらその内、誰も傷つけなくてすむようになるお!」

 もっと上手く言えたのにと言った後で後悔の念が湧き上がる。
 とりあえず言いたい事は言えたが上手く伝わったかどうかは分からない。
 もう一度整理して言い直そうとするブーン。
 しかし、少し早くツンが口を開いた。

ξ゚听)ξ「練習か…ブーン、あんたさっき修行がどうとかとか言ってたわよね?
      そういうのは慣れてんの? 」

 不意打ちのように言葉を被せられたブーンは一瞬思考が停止した。
 すぐに頭を回転させ今のツンの言葉を噛み砕くと、それが意味する事を察する事ができた。

ξ゚听)ξ「あんたの言う通りだわ。いつまでも夢の中に逃げてても仕方がない!
      練習して練習して…誰も傷つけないですむように!
      もし…もし迷惑じゃなかったら目を覚ましてから少しだけ…」

235 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:33:40.31 ID:Kax+z6ZS0
 決意の言葉は力強い。
 それは先程ブーンが感じた健気な強さを再び持っていた。
 言い難そうにしている内容については今度はブーンが言葉を被せた。

( ^ω^)「もちろんだお!実は今ドクオってヤツの訓練もしてるんだお!
      見た目はちょっと怖いけど、いいヤツだからすぐに仲良くなれるはずだお!」

 それを聞いて顔を輝かせるツン。
 ブーンは紛れも無く自分に向けられるその表情に赤面した。       
 しかしこの少女の屈託のない笑顔は疑う余地もなく自分が生み出したのだ。
 それを思うと気恥ずかしさの中に誇らしさも感じた。

ξ゚听)ξ「じゃ、そろそろ目を覚ましましょうか。
      何となくだけど起き方は分かってたのよね。
      はい 」

 そう言って手をブーンの方に差し出すツン。
 突然の事態に気が動転してしまい手を出す事ができないブーンにツンは言った。

ξ゚听)ξ「ホラ!さっさと手を出しなさいよ!
      私の夢の中に居残るつもり!?」

(;^ω^)「いや、でもツンの夢だからツンが目を覚ませば僕は自動的に出られるんじゃ?」

ξ;゚听)ξ「う、うっさいわね!
      私の夢の中で私がこうしろって言ってるんだからこれが正しいの!
      別にあんたなんかと手を繋ぎたいわけじゃないんだからねっ!」


238 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:34:38.18 ID:Kax+z6ZS0
 それが正しいのかどうかは定かではないが、ブーンは素直にツンの手を取った。
 自分のものより一回り小さいツンの手は、暖かくそして柔らかかった。

ξ゚听)ξ「それじゃ行くわよー!」

( ^ω^)「行くおー!」

 ツンは静かに目を瞑り息を吐いた。
 それを見てブーンも目を瞑った。
 次に目を開けるときは目が覚めているんだろうな。
 漠然とだがそう思った。 

 しかしいつまで経っても何かが変わったようには感じない。
 ツンは何も言わない。
 堪り兼ねてブーンはそっと目を開けた。
 意外にもツンは既に目を開けていた。
 しかしその視線は何処か焦点が合わない。
 手を繋いだままの沈黙にプレッシャーを感じ始める頃、ツンの表情が歪み嘲笑が漏れた。

ξ゚∀゚)ξ「クックックックック…ヒャハッ!」

 それは少女の声ではなく、腹に響くような低い男の笑い声だった。


( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです―――第四話・炎の少女・前編――― 終

244 名前:第四話:2007/08/27(月) 00:37:36.35 ID:Kax+z6ZS0
第四話終了です
支援のおかげでこれまでで一番スムーズに投下できたのではないでしょうか
本当に助かります

ちょっとトイレ行って第五話投下開始します



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