( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです ―――第三話・老人と猫―――
- 5 名前:退魔師稼業:2007/09/01(土) 22:13:13.06 ID:w1wrBxKq0
- 第二話・付喪神〜あらすじ〜
近頃急速に凄惨な暴力事件で新聞を賑わし始めた任侠団体、弐経路要人会。
そこの構成員ドクオは敬愛する兄貴分シャキンと何者かの魔の手から逃走していた。
しかし重傷を負ったシャキンは自分を置いて逃げろと言う。
シャキンは『バーボンハウスへ行け』とドクオの背中を押した。
ブーンとショボンは、ドクオに取り憑こうとしていた付喪神を見て、一連の要人会関係の事件の原因を確信する。
ドクオを擁し、付喪神の巣を叩くべく要人会事務所へ殴り込むブーンとショボン。
そこは付喪神に取り憑かれ凶暴になった構成員と道具達が蠢く魔界と化していた。
ブーンは付喪神の巣の探索及び破壊、ショボンは構成員達の足止めとそれぞれの役割に別れる。
ブーンが巣の探索中に出会った人物。
それは要人会会長ミルナだった。
ミルナは自我と恐怖の無い戦闘マシーンを作るために、構成員達に付喪神を植えつけた張本人だった。
自らも付喪神を受け入れ強靭な肉体を手に入れるが、ミルナの悪意が付喪神とシンクロし、自我を失うには至らない。
暴走した筋力と、無理やり引き出された瞬発力でブーンを襲う…
一方その頃、ショボンは狂戦士と化した構成員達をあっさりと片付けていた。
あまりの強さにそれを見ていたドクオは呆然とする。
しかし異変は突然訪れる。
気が付くと倒れていた構成員達の首が体を切り離し周囲を囲み始めていた。
人間の頭に4対の節足を生やす、蜘蛛のような姿のヒルコ。
絶望に打ちひしがれるドクオをよそに、何故か余裕のあるショボンは…
- 85 名前:第三話:2007/08/26(日) 21:53:14.94 ID:Dhv5xQlM0
- 広大な面積、隅々まで手入れの行き届いた木々、所々に点在する過去の巨匠達による彫刻。
月の光のみに照らし出された優美な夜の庭園はそれでも十分に明るい。
その中を縦横無尽に駆け抜ける小さな黒い塊。
放たれた矢、否、弾丸の速さで疾駆するそれは何者かと戦っていた。
その何者かは負。
この世のあらゆる負の感情が凝り固まって出来た虚構の実像。
黒い塊は二度三度四度と飛びつき四散させるも、それは程なく集まり元の塊に戻る。
しかしそこに再度疾風の攻撃を加え次の動きをとらせない。
この何者かが現れてこのサイクルは機械の様に繰り返されている。
ここ数時間、数日、いや数年の間夜毎に繰り返され続けた終わりなき輪廻。
再びそれを引き裂き、攻撃者は吼えた。
「幽鬼めが!百万度繰り返そうともあの者は渡さんぞ!」
・
・
・
- 87 名前:第三話:2007/08/26(日) 21:57:15.09 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「おい、仕事だ。行くぞ野郎共 」
(#^ω^)「仕事なら今やってるお!」
(#'A`)「客の来ねェバーの仕事をよぉ!」
つい先ほどまでコーヒーを飲みながら優雅に英字新聞を読んでいたショボンが、
滝のように汗を流している二人に返された言葉はこうだった。
このバー、バーボンハウスはあまりにも暇なため、マスターのショボンが唐突に模様替えを二人のバイトに命令していたのだった。
(*´・ω・`)「あぁ、メンゴメンゴ♪
あっち関係の仕事ですよ所長。
今回はオレの知り合いの相談に乗るだけですから楽な仕事ですよ(多分) 」
(#^ω^)「頬を赤らめてんじゃねーお!」
('A`)「オ、オレも行っていいの!?」
- 89 名前:第三話:2007/08/26(日) 21:58:37.08 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「はいはい、所長もそこのドブ水でも飲んで落ち着いて。
ドクオも来ていいよ。今回は妖怪変化の類は出ないから(多分) 」
ドクオは日々ブーンの厳しい修行、そしてショボンから強いられる労働基準法に完全に喧嘩を売ったバーの雑用に追われていた。
たまにふらりとブーンとショボンが姿をくらました時は休暇となるが、二人が魔を祓いに行った事は明確だった。
戦力に数えられていない自分を恥じ、それでも精進を続けたドクオには、それは神の声に聞こえた。
それゆえ…
(#^ω^)「話を逸らすなお!そもそも普段の非人道的扱いをどうにかするお!
ドクオ!このしょぼくれ顔に何とか言ってやるお!!」
(*'∀`)「フヒヒ…」
…それゆえ何も彼の耳に届く事はなかった。
- 90 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:01:06.19 ID:Dhv5xQlM0
-
―――第三話・老人と猫―――
- 91 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:02:58.54 ID:Dhv5xQlM0
- 弐経路山樹海…
地元では迷いの森と呼ばれ、立ち入ったものは二度と帰らないと噂される。
そのため広大なこの樹海には一般人は立ち寄らず、手付かずの自然が多く残る。
しかしその実態はある大富豪の所有地であり、その中心部に大邸宅を構えている。
その庭。
獅子脅し響く湖と錯覚するほどの池のほとりで、ショボンが老人と謁見していた。
( ´∀`)「久しぶりだな、ショボン。
遠いところ足労だった 」
(´・ω・`)「いえいえ、お元気そうで何よりです、ご老公」
モナー。
戦後、日本最大の黒幕と言われた男である。
日本中のあらゆる産業に関連会社を持ち、その個人資産はあまりにも巨額。
その巨大な支配力は政財界を一握し、思い通りにならないものは双六の目だけと形容された。
だが当年、満88歳を迎えるモナーには一人の子も無く、後継者探しを密かに進めていた。
ショボンに初めて会ったのは10年前。
当時ある政治家に付いていたショボン。
この出会い以降モナーは後継者探しを取り辞めた。
(´・ω・`)「で、今日は一体何用でオレを?」
( ´∀`)「ふふふ、ワシもそろそろのようでな 」
たった一代で全ての権力を手にした怪物が、悠々と言った。
しかし迫り来る自らの死に対する恐怖や諦めの様子は一切見られない。
- 93 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:04:46.92 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「ご冗談を。死に行く者の態度とは思えない 」
老人はショボンの答えに顔に刻まれた深いしわを一層深くして一笑する。
( ´∀`)「ワシの体は自分が一番判っておるさ。
ワシはこの身一つでここまでのし上がった…
欲しいものはどのような手を使ってでも全てを手に入れた。
そのために仏と会えば仏を騙し、鬼と会えば鬼を食らった。
積年の恨み辛みが我が身に降りかかっておるのよ 」
(´・ω・`)「呪いですか…全てオレが祓いましょう 」
退魔師としての仕事は魔を祓う事。
往年の巨人をみすみす死なせるわけにはいかないとショボンは思った。
その理由が魔であるならば、黙って見ているわけにはいかない。
しかし、モナーは首を振る。
( ´∀`)「ワシもようやく御役御免。
せっかく浄土でのんびりしようというのに邪魔してくれるな 」
(´・ω・`)「ではオレ達を呼んだ理由は?
言っておきますが、あなたの財産など要りませんよ。
オレにくれようものなら全部どこかに寄付してやる 」
- 94 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:06:06.09 ID:Dhv5xQlM0
- 老人はその答えに目を細め心底楽しそうにクックッと喉を鳴らした。
( ´∀`)「最高の富と権力を鼻先にチラつかせておるというのに剛毅なものよ。
しかし、いい加減諦めもついたわ。
この財産、どこへなりともくれてやる。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
今日呼んだのは別の理由でな 」
(´・ω・`)「??」
怪訝な顔をするショボンに、翁は悪戯っぽく顔を歪めた。
( ´∀`)「頼みたい事がある」
・
・
・
- 95 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:08:00.77 ID:Dhv5xQlM0
- 一方その頃、ブーンとドクオは離れに通されていた。
とは言っても、ちょっとした屋敷だ。
その和風の離れは、今現在二人がいる部屋は50畳はある。
暇つぶしに見て回った結果、同じような部屋がいくつもあった。
( ^ω^)「ところでこの離れを見てくれ。こいつをどう思う?」
('A`)「あるトコにはあるんだな、金って…」
広々と、あまりにも広々とした部屋の隅で二人は小さくなっていた。
慣れない環境にテンプレートを忘れるほど小さくなっていた。
出された茶と茶菓子は匂いを嗅いだだけで失神しそうになった。
口に含もうものなら、消化器系全てがカルチャーショックを起こしてしまう。
('A`)「なぁ?」
( ^ω^)「なんだお?」
('A`)「もしこれを食ったら?」
( ^ω^)「下界の食べ物が全部うんこに見える呪いがかかってるから辞めるお 」
('A`)「貧乏が染み付いてるな、オレ達 」
( ;ω;)「おかしいお。なんだか目から汗が…」
∧_∧
(#゚;;-゚)「・・・・・・」
('A`)( ^ω^)「「お?」
- 97 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:10:23.27 ID:Dhv5xQlM0
- いつの間にか一匹の老黒猫が部屋にいた。
所々、毛が薄くなっているところはあるものの、足取りは力強く、ピンと伸ばした尾は微動だにしない。
悠々と二人に近づいた猫は、その場に腰を下ろし、深く吸い込まれるような視線を向けた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「・・・・・・」
( ^ω^)「ヌコたん…」
('A`)「ここの猫か?いや違うな。こんな汚ない猫がここの猫のはずが無い。
しっしっ! 」
気だるそうに追い出そうとするドクオ。
しかし猫はさして気にしている様子も見せず、相も変わらず値踏みをするように見続けている。
('A`)「猫ってどうしてこうガン付けてくるんだ?
上等だ、オラ。
極道舐めんなよ 」
(*^ω^)「ぬこたん…ハァハァ」
∧_∧
(#゚;;-゚)「・・・・・・」
猫相手に本気で睨み合うドクオ。
様子がおかしいブーン。
じっと見つめる猫。
完全に三竦みの状態となる。
永遠に続くかと思われた均衡を、突然破ったのはブーンだった。
- 99 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:12:14.40 ID:Dhv5xQlM0
- (* ゚ω゚)「ぬこたんフォォォォォォォォー―――――!!」
∧_∧
(#゚;;-゚)「っ!!」
まさに神速。
ブーンは刹那のうちに間合いを詰め寄り、両手で猫の両脇を抱えた。
一瞬の判断の遅れが命取りとなり、猫はブーンに体を預ける形になってしまった。
次の瞬間、仰向けに畳に押し付けられる猫。
体をくねり抵抗するも、コツを抑えているのか、ブーンの両手から逃れる事はできない。
そしてあらわになった猫の腹部にブーンは顔を押し付け
(* ゚ω゚)「モフモフモフモフモフモフッ!!
モフモフモフモフモフモフッ!!
モフモフモフモフモフモフッ!!」
∧_∧
(#゚;;-゚)「にゃっ!!」
モフモフし始めた。
相手に服従した場合のみにしか見せない腹部を強引に蹂躙される猫。
抵抗虚しく、ブーンの欲はただ満たされていくばかりで事態の改善は見られない。
- 101 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:13:27.30 ID:Dhv5xQlM0
- (;'A`)「嫌がってるぞ…」
(* ゚ω゚)「モフモフモフモフモフモフッ!!
モフモフモフモフモフモフッ!!」
∧_∧
(# ;;- )「・・・・・・」
ドクオの声は最早届かず、猫も諦めたかのようにされるがまま。
その時猫が言った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「いい加減にせんか、小僧」
(゚ω゚)(゚A゚)
猫が言った…
・
・
・
- 103 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:16:27.07 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「全く、何をやってるんだ君達は?」
養豚場に並ぶ豚でも見るかのようなショボンの冷たい視線の先にはボロ雑巾と化した見知った顔があった。
( #ω#)「・・・・・・・」
('A`)「化け物だ!化け物がブーンを!」
(´・ω・`)「化け物?」
(;'A`)「一通りブーンを痛め付けたあと
『今後我が眷属へのこのようなマネは許さんぞ』
って出て行ったよ 」
(´・ω・`)「パチこいてんじゃねぇぞ、コノヤロウ。
妖怪変化の類は出ないと言っただろう?(多分)
オレの知り合いの家が化け物屋敷だとでも言いたいのかい?」
(;'A`)「分かんねぇヤツだな!
化け猫がブーンをフルボッコにして…」
化け猫。
この単語がドクオの口から出た途端ショボンの表情が軟化した。
いや、それを通り越していやらしい笑みを浮かべてすらいる。
ブーンを造作も無く痛めつけた化け物がいる。
ドクオはこれを見て「まさかショボンはオレ達をあの化け物の生贄に…」と本気で考えた。
そんなドクオに対し、相変わらずニヤニヤしながらショボンは問いかける。
- 105 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:18:19.68 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「黒い化け猫?」
('A`)「あぁ。黒猫でちょっと歳取った感じだったかな 」
あぁ、とショボンは何もかも合点がいったという表情を見せた。
一人取り残されるドクオ。
側で横たわるボロ雑巾は何も言わない。
(´・ω・`)「大方このバカが粗相でも働いたんだろう?
それよりもうすぐここの主人が来る。
ブーン、いい加減起きないか 」
そう言ってブーンの体を起こすショボン。
ブーンは男泣きに泣いていた。
( ;ω;)「僕はぬこたんと仲良くなりたかっただけなのに…
完全に振られたお 」
(´・ω・`)「まさかモフモフされて猫が喜ぶとでも思ってるんじゃないだろうね?
あれ嬉しいのは人間だけだから 」
( ;ω;)「そんなバカな!
どのぬこたんも僕がモフモフすると体をよがらせて喜んでるお!」
('A`)「これはもう駄目かもわからんね 」
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/26(日) 22:20:15.07 ID:Dhv5xQlM0
-
( ´∀`)「お待たせした 」
三人が声のした方を向くと、そこにはにこやかに笑う老人がいた。
軽く会釈するショボンに合わせ、残りの二人も頭を下げる。
そのような必要は無いと言わんばかりに右掌を上げ、老人は無造作にその場に胡坐を掻いた。
( ´∀`)「君が内藤君か…
なるほどいい面構えだ。ショボンが行動を共にするだけのことはある 」
( ^ω^)「お?」
そしてドクオの方に向き直り、再び言葉を発した。
( ´∀`)「君はドクオ君だね?
聞くところによると万事承知の上でこの二人の下へ転がり込んだとか。
並みの胆力ではないな。だが得てして豪傑とはそういうものだ 」
('A`)「はぁ…」
要領を得ない二人にいくつかの言を投げかけた後、最後に老人はショボンに言った。
( ´∀`)「自分以外何者をも信じぬお前が好きだったが…どうやらかなり変わってしまったようだな 」
(´・ω・`)「ええ。だが生憎オレは今の自分を気に入ってる 」
( ´∀`)「偶然だな。ワシも今のお前の方が気に入っておる 」
(´・ω・`)「だから『あの方』をオレに任せると?」
- 110 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:21:25.21 ID:Dhv5xQlM0
- 大袈裟なため息混じりにショボンは問うた。
両眉尻を下げてとんでもない迷惑だという顔をして。
その様子を見て楽しむように老人は笑う。
( ´∀`)「クックック。一つくらいワシの頼みを聞いてくれてもよかろう?
『あれ』もお前なら納得しよう 」
そう言うと老人は広大な庭に向け「でぃ!」と大声で叫んだ。
数秒後、その場に現れた存在を見て短い悲鳴を上げたのはブーンとドクオだった。
∧_∧
(#゚;;-゚)「また会ったな小僧 」
(;'A`)(;^ω^)「っ!ば、化けっ…!!」
( ´∀`)「三人とも、今日は泊まっていくんだろう?ゆっくり寛いでいってくれよ 」
言いたい事は言い終わり、今夜の持て成しの算段をアレコレと画策しながらその場を後にするモナー。
金縛りに会う二人に縛る一匹。
そしてモナーをよく知る最後の一人はこう考えていた。
(´・ω・`)(あのジジイ…他に何か企んでるんじゃないだろうな…)
・
・
・
- 112 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:23:05.91 ID:Dhv5xQlM0
- 夜…樹海の大邸宅は自然の静寂に包まれていた。
耳を澄ませば梟や虫の鳴く声が聞こえるものの、文明の音は一切耳に届く事はない。
この世のものとは思えない歓迎を受けたブーン一行は未だ夢現から抜けきれていなかった。
( ^ω^)「呪われた…呪われてしまったお。もう下界の料理は何も食べられないお 」
('A`)「そんな大袈裟なwなぁショボン?」
(´・ω・`)「あぁ、そんなに大したものじゃない。
そうだな…せいぜい郊外に一軒家が買える程度しか金もかかってないだろう 」
('A`)「呪われた…呪われてしまった。もう下界の(ry 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「満足したか?」
足元から聞こえる声の主を見ても、最早驚く事はない。
老人の頼みでこの人語を操る猫はショボンが預かることになった。
即ち、ショボンにこき使われるブーンとドクオが心労を被る事が既に決まっていた。
(´・ω・`)「あの程度の宴であなたを任せようとは少々安く見られ過ぎなのでは、でぃさん?」
∧_∧
(#゚;;-゚)「クックック、お主からは高く見られておるようだな 」
口の端をキュッと伸ばし声を漏らす。
その様子はまるで…
( ;^ω^)(ぬこが笑ってるお…)
(;'A`)(猫が笑ってるぞ…)
- 115 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:25:35.75 ID:Dhv5xQlM0
- その時、屋敷内の空気が少しだけ冷たくなった。
常人には気付けない程度のほんのわずかな変化。
しかしブーンたち三人にとっては半日常的で、それでいて歓迎できない者の到来の前触れだった。
(´・ω・`)「……面倒だな 」
最初に口を開いたのはショボンだった。
でぃを押し付けられたときとは似て非なる反応。
( ^ω^)「妙だお。魔の気配は一切なかったのに。でもこれはいきなり降って涌くようなレベルでは…」
('A`)「強力すぎる、か?おいおい…オレでも判るぜ?
ショボン、確か今日は妖怪変化の類は出ないんじゃなかったの?」
(´・ω・`)「すまん、ありゃ嘘だった 」
('A`)「ルーキーにゃ少しばかりヘビーじゃね?」
一分前にはこの世の極楽の余韻を楽しんでいた三人。
今は地獄に対するべく気持ちを落ち着かせる。
その様を真下から眺めていたでぃは感嘆の声を漏らす。
- 118 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:28:19.41 ID:Dhv5xQlM0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「ほぅ、流石は退魔の男達と言うべきか。
してショボン?この事態を何と見る?」
(´・ω・`)「妬み恨み嫉み辛み…成功者には須らく理不尽に大衆から負の感情が向けられる。
面識もないのに迷惑な話だ。
普段は霧散しているそれらがこの時間、鬼門の刻に急激に集合して個となった。
だから今まで存在もその名残も感じなかった 」
ショボンの回答を聞き、でぃは再び口元を緩め目を線にした。
∧_∧
(#゚;;-゚)「説明する必要がないということは何とも楽な物じゃな。
毎晩毎晩モナーに集る害虫共を今まではワシ一人で撃退してきたが、
ヤツの性質か我が爪や牙では霧散させるに留まっておってな。
今夜こそ倒す!協力してくれるな?」
これまでは孤軍奮闘しモナーを守り続けてきたでぃ。
致命傷を与えられない敵に対し、でぃが出来ることは攻撃に転じないように相手をバラバラにする事だけだった。
しかし今は肩を並べて戦える仲間がいる。
しかも相手を封じる力を持っているかもしれない。
羨望の眼差しを持って問いかけた。
- 120 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:29:53.37 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「それがね、残念ながら全く戦闘の準備はしていないんだ。
ドクオの言った通り、妖怪変化の類が出るとは思っていなかったからね 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「なにぃ!?」
悪びれた様子もなくショボンはあっさりと期待を裏切った。
愕然とし言葉も出ないでぃに追い討ちをかけるかのようにショボンは続ける。
(´・ω・`)「うん、丸腰なんだすまない。謝って許してもらおうとは思わない。
でも僕らを見たとき言葉では表せないトキメキのようなものを感じたと思う。
そのトキメキの正体を紹介するよ 」
そう言って視線を向けた先には若き退魔の男、
(*^ω^)「やっぱり主役はこうじゃないと 」
元裏高野退魔師・内藤ホライゾン。
・
・
・
- 122 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:33:02.00 ID:Dhv5xQlM0
- 何も知らず眠りこける老人の元に次々と集まる負の感情。
次第に形を成すそれは、多数の顔面を持つ球状の物体へと姿を変えた。
全ての顔は苦しみ、飢え、悲しみ、絶望、痛みに歪んでいる。
( ゚д゚A゚Д゚)「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……」
その前に立ちはだかるのは悠久の時を生きる猫股、そして若き退魔師。
( ;^ω^)「デカイ…」
∧_∧
(#゚;;-゚)「くっくっく。怖気づいたか小僧?」
直径5〜6mはあろうかという負の球を目の前に、ブーンは率直な感想を述べた。
毎夜それと対峙しているでぃは茶化すように言った。
( ^ω^)「少しくらい怖気づいていた方が丁度いいお!
さてどうしてくれようか 」
どう攻めるか思いを巡らすブーンの足元で、でぃは自分がブーンに持っていた印象を改めた。
∧_∧
(#゚;;-゚)(ほぅ、力を過信している単細胞かと思うたが…
面白い!)
口の端を伸ばし「抜かるなよ」と言葉を投げつけ、一人と一匹は一個にして多数の魔と向き合った。
・
・
- 125 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:35:08.77 ID:Dhv5xQlM0
- ( -∀-)「Zzz…」
ショボンは老人に危害が及ばないよう護身用に持っていた護符で結界を張り、ドクオはその傍で凹んでいた。
('A`)「結局こうなるわけね 」
(´・ω・`)9m「『ルーキーにゃ少しばかりヘビーじゃね?』とか言っちゃってw
戦うつもりだったの?プギャーwwww」
('A`)「欝だ。死のう 」
(´・ω・`)「まぁ、今回は相手が悪い。武器も無いし怪我したくなかったら守りに徹するさ 」
('A`)「確かにやばい雰囲気はビンビン感じるが…あれって一体何なの?」
(´・ω・`)「『レギオン』。聖書の時代から人に仇成す存在だ。
最上位のレギオンは天変地異をも引き起こす。
幸いそこまでのレベルじゃないようだが…強敵には違いない 」
('A`)「チクショウ…」
ギリ、と奥歯を噛み締めるドクオ。
これまで血の滲むような修行をして来たにも拘らず、守られる立場は全く変わっていない。
強敵に立ち向かうブーンに老人を守るショボン。
では自分は?
怪我しないように保護されて戦いに関しては蚊帳の外。
それが悔しくて堪らなかった。
- 127 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:36:44.07 ID:Dhv5xQlM0
- ドクオの気持ちに気付いているのかショボンは言った。
(´・ω・`)「君は今までの修行で格段に強くなった。でも退魔師としては始まったばかりだ。
アリアハンを出たばかりでバラモスに勝てるかい?
今回は実地研修だ。ブーンの戦い方を良く見ておくといい 」
('A`)「他に例えはないのかよ 」
悪態を付きながらも噛み締めていた顎を弛緩させ視線の先のブーンに目を遣るドクオ。
胡坐を掻き背中を丸め、しかし眼光だけはブーンの一挙手一投足を見逃すまいと鋭い。
ショボンはチラリとそれを見て、ドクオに悟られないように表情を変えずに笑った。
(´・ω・`)(そうだ、それでいい。君は必ず強くなる。
今は経験を積む事だ。これが日常になるまで )
・
・
・
- 131 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:39:21.09 ID:Dhv5xQlM0
-
( ^ω^)「先手必勝!大発勁!」
( ゚д゚A゚Д゚)「おぉぉぉぉぉぉぉぉ 」
姿を明確にした闇に対して問答無用の攻撃を加えるブーン。
極限まで力を貯めた発勁は手元で巨大な光の玉となり、気合と共に光線と化す。
光線は瞬く間に魔を包み、眩いばかりの光を辺りに撒き散らした。
( ^ω^)「まだまだ終わらないお!」
( ゚д゚A゚`,: ;;';「おぉぉぉ… 」
( ゚: ;;'';「お…ぉ…」
手元の光球にさらに法力を込め、それに比例して飛び出す光線は勢いを増す。
ブーンを中心に強風が巻き起こり、風に振られて庭園の木々が吼える。
聖なる光線と魔が衝突した地点からは暴力的な光が溢れ、さしずめ長いフラッシュに中てられたような錯覚を受ける。
( ^ω^)「ジ・エンドだお 」
ブーンの言葉と共に夜を取り戻した庭園。
そこにはつい先程まで禍々しい存在感を持って存在していた負の集合体の姿は既になく、日常を取り戻していた。
- 135 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:44:34.13 ID:Dhv5xQlM0
-
('A`)「おい!やっちまったぜ!あっけない幕切れだったな!」
これを見てドクオは歓喜の声を上げる。
あまりにも簡単な終わり方だったが、それはブーンの力量の凄まじさのためと解釈した。
同時に、必ずこの域にまで到達すると心に誓う。
しかし、ショボンは防御の結界を解くことなく緊張を緩める事をしない。
(;'A`)「な、なぁ…ショボン?」
(´・ω・`)「なんてヤツだ…」
ただ一言、こう漏らしたショボンは結界の護符をもう一枚加えた。
( ;^ω^)「間違いなく渾身の力で放った発勁だお…」
∧_∧
(#゚;;-゚)「やはり簡単にはいかぬか 」
目前の中空で展開されている事柄を目に、ブーンは目を見開き、でぃは自嘲的に笑った。
負は完全に姿を消し去ったかのように見えた。
最初は目の前に小さな粒子のようなものが浮かんでいた。
粒子は次第に数を増やし、唐突に一つの塊を形成した。
拳大のその塊からは、大きさは違えど先程まで感じていた魔と同じ匂いを発している。
その拳大の魔が集合し、さらに大きな塊になろうと蠢いている。
- 137 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:47:50.40 ID:Dhv5xQlM0
-
( ^ω^)「でぃさん、どうしますお?」
困惑を振り切り気持ちを切り替える。
幸いにも目の前の敵は再び元の姿に戻るまではそれ以外の行動をしないようだ。
与えられた幾ばくかの時間。
若き退魔師は強硬姿勢を一転、未知の敵の情報収集を選択した。
∧_∧
(#゚;;-゚)「ワシはアレとここ数年毎晩のように立ち合ってきた。
見ての通り攻撃を加えればバラバラにする事はできる。
しかしそれで終いじゃ。直に元に戻る 」
( ^ω^)「他には?」
∧_∧
(#゚;;-゚)「爪や牙では糠に釘じゃ。お主の法力ならばもしやと思うたが…
そうは問屋が卸さんらしい。
問答は終いじゃ。来るぞ!」
見ればほとんど元の形を取り戻した魔球がその多数の顔の視線を全てこちらに向けている。
( ゚д゚A゚Д゚)「・・・・・・」
∧_∧
(#゚;;-゚)「判っている事はヤツを砕く事だけはできる。
そしてある程度の大きさに戻るまでは攻撃はしてこない。以上じゃ! 」
( ^ω^)「把握したお。とりあえず良いアイデアが浮かぶまで時間を稼ぐお!」
( ゚д゚A゚Д゚)「・・・殺す!殺す殺す殺す殺す殺す!」
- 140 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:48:41.07 ID:Dhv5xQlM0
- 呪詛の矛先を自らを阻む者達に変更し、色濃き凶が迫る。
その魔球に一瞬黒い線が引かれたと認識した次の瞬間、それは二つ分かれた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「そのアイデアとやらに期待するか。
ホレ、二つに裂いた程度ではヤツは止まらんぞ 」
ツンと鼻先を突き出し、その先のモノを指す。
直後に二つの光の筋が二つの魔球に放たれた。
( ^ω^)「おk。油断はしないお 」
忠告は無用とばかりに後方から発勁を放つ。
最大限の力を込めた大砲・大発勁ではなくマシンガンのような発勁で迎撃する。
でぃが神速の爪で近距離攻撃を、ブーンが発勁の連射で遠距離攻撃を。
即席コンビの連携は、魔球を切り裂き、散らした。
霧散の域には達してはいないが、十分に行動不能のサイズにまで分解した事を確認しブーンは一時攻撃を中断した。
その足元にでぃが駆け寄り、二、三言葉を交わす。
この繰り返しが既に四度繰り返された。
五度目のそれが終わり、一息着いたところででぃが言った。
- 143 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:52:18.93 ID:Dhv5xQlM0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「どうじゃ?何か糸口は見つかったか?」
( ^ω^)「まるで手応えがないお。
大小に関わらず発勁では駄目だお 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「ならばどうする?ここまではワシ一人でも出来た事じゃぞ。
しかしお主も無論全てを見せているわけではなかろう?」
じわじわと大きくなる目の前の魔。
それを尻目に不敵に言うでぃにブーンは答えた。
( ^ω^)「アレに火は効くかお?」
∧_∧
(#゚;;-゚)「さぁな。ワシは火など使わぬからな 」
( ^ω^)「試す価値はあるって事かお。さて…」
やるかと前を見たとき、ブーンは我が目を疑った。
(;^ω^)(これ…は…?)
でぃも同様だった。
自らの目に映った光景、それは痛みとなり疑いは現実だと認識させられた。
- 144 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:54:03.88 ID:Dhv5xQlM0
-
(;^ω^)「ゴッ、ゴフッ!」
∧_∧
(#゚;;-゚)「小僧っ!バカなっ!」
体内の空気を強制的に搾り出されたブーンの目には、自分の腹に深々と食い込む魔球の一片が映っていた。
衝撃を加えた一片は悠々と元の塊の一部へと戻る。
( ゚д゚A゚Д゚)「カカカカカカカカカカカカ 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「まだ小さすぎる!この大きさで攻撃してくるなど今まで…!」
不快な笑い声が辺りに木魂し、次にそれは絶望へと切り替わる。
直径5〜6mのそれは唐突に数100の人の頭ほどの大きさの固まりに分解し、ブーンとでぃに飛来した。
( ゚д)(゚A)(゚Д)「カカカカカカカ!殺す殺す殺す殺す殺す!」
∧_∧
(#゚;;-゚)「チッ!小僧!」
腹に受けたダメージがまだ抜け切れていないブーンは反応が遅れた。
それを察したでぃは、咄嗟にブーンの前に立ちはだかり迎撃する。
その一つ一つは早さも威力も大したことはない。
しかし、数が多すぎる上にブーンを守りながらの迎撃だ。
数百の暴力の嵐が過ぎ去った後には、満身創痍のでぃが肩で息をしていた。
( ゚д゚A゚Д゚)「憎い憎い憎い憎い憎い憎いwww」
再び集まり一個となった魔は邪悪な笑いと呪いの言葉を撒き散らした。
- 149 名前:第三話:2007/08/26(日) 22:59:51.40 ID:Dhv5xQlM0
-
( ^ω^)「でぃさん! 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「ふぅっ!ふぅっ!無事か小僧?」
( ^ω^)「僕は大丈夫ですお!それよりでぃさんが 」
自分の責任で傷を負わせたことが肩に圧し掛かる。
沈むブーンを一笑に付し、でぃは答えた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「小僧、ワシを誰と心得る?
悠久の時を生きる猫股ぞ。次が来るぞ!構えい!」
( ^ω^)「了解ですお!」
再度数百に分解し特攻を仕掛けてくる魔の集合体。
でぃは爪と牙で、ブーンは発勁で迎え撃つ。
猛烈な攻撃に嵐の迎撃。
しかし…
(;^ω^)「クッ!やっぱり多い!」
迎撃をかいくぐったいくつかがブーンたちに届き、確実にダメージが蓄積される。
真綿で首を絞められるかのごとく。
( ゚д゚A)(゚Д)「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!カカカカカカカ!」
- 150 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:01:44.14 ID:Dhv5xQlM0
- ( ^ω^)「でぃさん。相談がありますお 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「なんじゃ?」
( ^ω^)「アイツ…攻撃の後必ず一度元に戻りますお 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「確かに 」
そう答えたでぃはブーンが意味する事に気付いた。
見上げると、ブーンはでぃを見下ろし静かに頷いた。
( ^ω^)「お願いできますかお?」
∧_∧
(#゚;;-゚)「全く最近の若い者はw先程言うておったお主の火、期待しておるぞ 」
ブーンの前に立つでぃ。
その四肢は大地を掴み、咆哮は空気を震わす。
全身の毛は逆立ち、赤い口中の白い牙はギラリと光った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「来るが良い!我が爪牙で応えてくれよう!」
( ゚д)(゚A)(゚Д)「カカカカカカカ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
再び迫り来る数百の魔球。
その数百を悉く切り裂き、食いちぎるでぃ。
欠片たりともブーンには届かせないという気迫と大妖怪の自力だった。
嵐のような猛攻を凌ぎ切り、尚もブーンの前に仁王立ちするでぃ。
しかしその体には、爪と牙で防ぎ切れなかったいくつかを身を投げ出して止めた代償が深く刻まれる。
- 153 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:03:56.35 ID:Dhv5xQlM0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「小僧っ!どうじゃ!?」
それでも力の篭もった声を張り上げるでぃ。
前方では既に魔の集合体が完成しつつある。
そして後方からは…
( ^ω^)「ありがとうございますお、でぃさん 」
ブーンの声。
それは待ち望んだ結果がこれから始まることを連想できる感謝の言葉だった。
( ^ω^)「ナウマリ サンマンダ バサラ タンカン!不動明王火炎呪!」
攻撃の為に再び魔が集まった時、天界の業火が大気を焦がし、刹那の差もなくその場にあった不浄に届いた。
・
・
・
- 154 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:05:28.01 ID:Dhv5xQlM0
- 赤々と燃え上がった炎が消えたとき、でぃは炎を放った姿勢のまま立ち尽くすブーンに歩み寄った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「不動明王の炎とは…お主には驚かされるな。
よくやったぞ 」
( ^ω^)「久々に疲れたお。早く風呂に入って寝たいお 」
にやりと親指を立てながらブーンは応える。
一つの強敵と共に戦い、共に打ち破った事で、一人と一匹は昔からの友のように打ち解け合っていた。
( ^ω^)「これでモナーさんに害成すモノは綺麗さっぱりだお 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「そうじゃな。ヤツも安らかに逝くことが出来よう 」
(;^ω^)「逝くって…魔は祓ったお。命の心配はもうないはずだお 」
予想外の答えに困惑するブーン。
でぃは淡々と続けた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「寿命じゃよ。モナーにはそれがもう残されておらぬ。
ワシの目にはそういうモノも見えてな。
見たところ3日以内というところか 」
(;^ω^)「そんな…
じゃ、僕らがやったことは無駄だったのかお?」
でぃは笑った。
猫が笑うということに既にブーンは何の疑問も感じなくなっていたが、笑ったでぃはブーンの言葉を否定した。
- 158 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:06:56.73 ID:Dhv5xQlM0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「無駄なものか。
魔に食われて死ぬのと死すべきして死ぬのでは大違いじゃ。
ヤツには借りがあってな。
人がヤツを鬼と呼ぼうがワシには関係ない。
借りは返すと決めておったのよ 」
( ^ω^)「そうですかお…僕はもう少しモナーさんと話がしたかったでs…」
その時一陣の風が吹いた。
その風には匂いを運ぶ。
考えたくもない匂い、魔の匂いを。
(;^ω^)「そんな…」
目の前では今夜何度も繰り返された光景が再び始まっていた。
∧_∧
(#゚;;-゚)「本当に成す術はないのか…」
絶望に顔を歪める。
そこでは細かな粒子がゆっくりと、だが確実に凝り固まっていく。
禍々しい凶の雰囲気と共に。
・
・
・
- 162 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:10:09.63 ID:Dhv5xQlM0
- 眠る老人を守りながら一部始終を見ていた二人は声を失った。
(;'A`)「どうすればいいってんだよ…」
(´・ω・`)「成る程。レギオンとはよく言ったものだな。『我、多数なり』か…」
(;'A`)「どういうこと?」
一人納得するショボンにドクオは問いかけた。
間違いなく塵と化した敵が再び復活しようとしている。
魔についての知識が乏しいドクオは、ただ純粋にその知識を欲した。
(´・ω・`)「レギオンとは旧ローマ軍での5000人規模の連隊を意味しててね。
一匹に見えるが、その名の通りあれは魔の大群だ。
粉々にされても、元々が粉みたいなものだから痛くも痒くもないんだろうさ 」
(;'A`)「でもさっきのブーンのアレは粉々ってレベルじゃねぇぞ 」
そう言われたショボンは虚空を指差しドクオに問いかけた。
(´・ω・`)「ここに何があると思う?」
('A`)「何って…何もねぇけど…」
(´・ω・`)「そう。それが問題だ。
アレは砂粒や…いや、近いのは水だな。
水槽の中の水に手を突っ込んでも手応えはないだろう?
水には逃げる場所があるから、どれだけ強い力で殴っても霧散こそしても手を抜けば何事も無かったかのように元に戻る 」
- 165 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:14:57.07 ID:Dhv5xQlM0
- ('A`)「つまり何をしても無駄ってことか?」
(´・ω・`)「あぁ。強い力を加えればそれだけ遠くに散らす事はできる。
だがそれだけだ。再び集合する事を遅らせるに過ぎない 」
('A`)「じゃ、今まで通り蹴散らかして時間を稼ぐしかないってのかよ!?」
声に行き場のない怒気を含めてドクオは言う。
しかしショボンはまだ話は終わってないとドクオを諌めた。
(´・ω・`)「まぁ待てよ。逃げられる場所があるから粉々になってでも逃げていくんだ。
では逃げ場を失くしてしまえば良い 」
('A`)「そんなこと出来んのかよ?」
思えば今夜の戦いの中、ブーンが危機に陥った時もドクオはショボンが表情を崩したのを見た記憶が無い。
ブーンは勝つと信じているのか。
常に表情を崩すことのないショボンはこの時も表情を崩さず言った。
(´・ω・`)「出来る。ブーンならね。
どうやら自分でもそれに気付いていないようだ。
どれ、彼に一つヒントをあげよう 」
そう言うとおもむろに立ち上がり、ただ呆然とレギオンの再生を見るブーンに向けて声を発した。
(´・ω・`)「ブーン!逃げ場があるからヤツは逃げるんだ!
捕らえさえすれば攻撃は当たる!
でぃさんがいるんだ!君はヤツを縛りさえすれば事足りる! 」
- 167 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:18:48.10 ID:Dhv5xQlM0
-
・
・
・
ただ立ち尽くすブーンの耳に信頼すべき助手からの声が届いた。
それは傍らのでぃにも聞こえ、八方塞がりの現状を打開する策があるのかとブーンを見た。
( ω )「ショボン、恩に着るお 」
そう呟いたのが確かに聞こえた。
続いて今度は呟きではなくはっきりとした声が聞こえた。
( ^ω^)「でぃさん。爪と牙以外にヤツを攻撃する手段はありますかお?
広範囲を攻撃できるような何かが 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「あるにはあるが…とっくの昔に試したが効果はなかったぞ 」
しかしブーンはそれで十分だと言った。
( ^ω^)「今度は大丈夫ですお。
今から僕はヤツの身動きを奪いますお。
今までのようには行かないはずですお 」
∧_∧
(#゚;;-゚)「策がある…と言うことじゃな。良かろう小僧!
その策、ワシは乗ったぞ!」
- 169 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:20:42.85 ID:Dhv5xQlM0
- 勝負は完全にレギオンが再生した瞬間。
強烈な攻撃により遥か広範囲にまで分散したレギオンが再生するまではこれまで以上に時間が掛かっている。
それを固唾を呑んで待ち、遂に完全体となる瞬間、ブーンは
( ^ω^)「元裏高野 退魔師 内藤ホライゾン。これより魔を祓う!」
高らかに叫び、次に真言を唱えた。
( ^ω^)「ナウマリ バサラ タラタ カンムン!」
不動明王の炎の真言。
しかしそれは灼熱で敵をなぎ払う火炎呪とは非なる性質を持つ。
( ^ω^)「不動明王 火界縛!」
膨大な豪炎を放つ火炎呪とは異なり、ブーンが両手で結ぶ印からは凝縮された縄のような炎が螺旋を描き飛び出した。
炎の螺旋は真っ直ぐにレギオンに向かい、蛇となりその球形の身体に巻きついた。
( ゚д゚A゚Д゚)「ガ…ギ、ギ、ギ…」
炎の荒縄はその巨躯を締め付け、食い込む。
しかしレギオンはこれまでのように細切れにならない。
∧_∧
(#゚;;-゚)('A`)「何故…?」
庭園と屋内、異なる者が同じ疑問を同時に発した。
それぞれに最も近い者、そしてその理由を知る者達がそれに答えた。
- 171 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:22:59.99 ID:Dhv5xQlM0
- ( ^ω^)「不動明王は右手に破邪の剣、左手に魔を縛る縄を持つお 」
(´・ω・`)「アレは捕らえた穢れを縛る枷。
一度縛れば逃れられない。
つまり… 」
( ^ω^)(´・ω・`)9m「「今なら倒せる!!」」
∧_∧
(#゚;;-゚)「承知した!」
たった一人、千数百年に渡る生にとっては取るに足らないたった一人の人間の人生。
それを全うさせるために戦い続けてきた数年。
いつ終わりが来るとも知れぬ戦いに夜毎、ただ一匹で臨んできたこの数年。
それが遂に今夜、このしまらない顔をした青年の助力を得て終わろうとしている。
一度ブーンを見たでぃはその視線に感謝を込めた。
- 173 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:24:59.51 ID:Dhv5xQlM0
- ∧_∧
(#゚;;-゚)「カァァァァァァァァッ!!」
大きく口を開いて吼える。
灼熱のロープに縛られたレギオンから一瞬も目を逸らすことはない。
∧_∧
(#゚;;-゚)「カァァァァァァァァッ!!」
尚も吼える。
その時、レギオンに動きが生じた。
禍々しい体から紫の煙が上がり、その煙はでぃの口に吸い込まれていく。
煙の発生と共にレギオンは収縮し、そして…
( ゚д゚A゚Д゚)
( ゚д゚A゚`,:
( ゚: ;;'';
: ;;'';
:;
∧_∧
(#゚;;-゚)「スゥゥゥゥゥゥ…」
その全てがでぃに食われた。
- 175 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:28:10.79 ID:Dhv5xQlM0
-
・
・
・
二日後、バーボンハウス。
そこには喪服に身を包む三人の姿があった。
( ^ω^)「モナーさん、もう少し早く会いたかったお 」
モナーは死んだ。
あの夜の戦いの最中、眠るように息を引き取っていたのだ。
でぃは何も言わずに姿を消した。
探そうとしたブーンの肩を掴んだショボンは、何も言わず首を振った。
跡取りの無いモナーの葬儀は、ショボンが喪主として取り仕切った。
その間、一度もでぃは現れることなく、火葬も済ませた今は膨大な財産のみが残った。
('A`)「あの爺さん…オレの事褒めてくれたな…」
ドクオがポツリと口に出した言葉。
それが無意識の内に過去形になっている事で、モナーの死を色濃く認識させた。
- 177 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:30:19.62 ID:Dhv5xQlM0
- (´・ω・`)「いつも後を継げ後を継げと口うるさいジジイだったが…
いなくなると寂しいものだね 」
白面のショボンにも心なしか影が見える。
ブーンとドクオは一日だけの出会いに過ぎなかったが、ショボンは付き合いが長い。
故人を思っていたショボンはふと違和感に気付いた。
(´・ω・`)(ん?でもその割には潔く身を引いたな。
任されたはずのでぃさんは行方不明だし、狡猾なあのジジイが目的も果たさずスッキリと逝くか?)
その違和感に頭を悩ませ始めたとき、不意にバーボンハウスの扉が開いた。
そこにはスーツを着た一人の男、そしてその足元には
∧_∧
(#゚;;-゚)「ご苦労ご苦労 」
上機嫌な猫股がいた。
( ^ω^)「でぃさん!」
駆け寄ろうとするブーンだったが、その前にでぃと共に入ってきた男が声を出した。
( ,'3 )「お久しぶりですね、ショボンさん 」
老獪モナーの懐刀、顧問弁護士の中島バルケンだった。
挨拶もそこそこに、中島はスーツの胸ポケットから封筒を取り出した。
それをチラリと見たショボンは、中島が読み上げる前に内容を把握し、密かに舌打ちした。
- 179 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:31:32.63 ID:Dhv5xQlM0
- ( ,'3 )「遺言書。
我が財産の全てを以下の者に相続する。
我が愛猫・でぃが選んだ者。
以上。 モナー
追伸
でぃには贅沢させてきたからの。
金が掛かるぞ。
これで我が財産を継がざるを得んな、ショボンざまぁww 」
(´・ω・`)「あのジジイ…ところででぃさん、カルカンはお好きで?」
∧_∧
(#゚;;-゚)「そんなものが食えるか。諦めよ 」
やれやれと大袈裟なジェスチャーを交えて首を振るショボン。
( ,'3 )「決まりのようですな。
モナー翁にとってあなたを跡継ぎにすることが最後の夢でした。
ここ数年はその為の様々な謀略を喜々として私に語っておいででしたよ。
肩書きだけでも構わない。
願いを叶えてやって下さい 」
ショボンと中島が今後の事について相談を始める。
国内国外問わず、あらゆる事業に根強く影響するモナー財団の経営が一日でも滞れば数万人が路頭に迷う。
星の数ほどの人の不幸はショボンも望まない。
しかし面倒事も望まない。
自分はあくまでも単なる跡継ぎ。
体良く中島に事業の責任を押し付けることに成功しそうなショボンの脇では、二人の凡人が震えていた。
- 181 名前:第三話:2007/08/26(日) 23:33:03.00 ID:Dhv5xQlM0
- (;^ω^)「モナーさんの財産って…」
(;'A`)「あぁ…数超はくだらないよな…」
(;^ω^)「するとショボンは?」
(;'A`)「一気に長者番付け…?」
(;^ω^)「・・・・・・」
(;'A`)「・・・・・・」
( ゚ω゚) ( ゚A゚)
頭の要領を超え、二人の思考は停止した。
既に面倒事を中島に押し付けることに成功したショボンは、今度はでぃの世話をドクオに押し付けようと画策を始めた。
膨大な仕事を目の前に、中島は早くも帰り支度を始めている。
でぃはカウンターに飛び乗ると薄暗い店内を見渡して言った。
∧_∧
(#゚;;-゚)「気に入ったぞ。ワシはここに住む 」
( ^ω^)ブーンは退魔師稼業のようです―――第三話・老人と猫――― 終
- 184 名前:第三話・元ネタ解説:2007/08/26(日) 23:40:43.58 ID:Dhv5xQlM0
- 三話投下終了です
支援本当にありがとうございます
おかげで今回はさるさん食らわずにすみました
元ネタ解説
レギオン:聖書に出てる悪霊の集団らしい
イメージは完全に女神転生からw
不動明王 火界縛:一切の不浄を焼き払うという不動明王の力を借り、炎を起こす術。
炎の帯によって対象をとらえる。
ちょっと休憩します。
前へ 次へ 目次