570 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:02:56.46 ID:Xv2bAOreO
ブーンはずっと直進していた。
一本の通路を一定の間隔でドアが遮断している道が続いていたのだ。
 
《ACの反応を確認。バーボンです》
 
ドアを開くと待ち受けるように立つAC。
 
『遅かったじゃないか…』
( ^ω^)「ショボン…」
 
銃口を向けて微動だにしないブーンドライブに相反し、バーボンは武器も構えないで歩き出す。
レーザーがバーボンに突き刺さった。
 
( ^ω^)「なんで避けないお…?」
『もう僕たちの決着は付いている。あの時、君はブレードだけで完全武装の僕に勝った。
今回はお互いに武装している…勝敗は明らかだよ』
( ^ω^)「じゃあ、戦う気はないのかお?」
『そうだね。君はツンさんを探しているね?』
( ^ω^)「そうだお。戦わないなら知ってる事を教えてくれお」
『このドアの先に、ツンさんがいる』
(;゚ω゚)「ホントかお!?」
『ああ、行って確かめるといい』
 
ブーンの鼓動が高鳴る。
バーボンの傍らを通り抜け、ドアに急ぐブーンドライブにレーザーが飛来した。
それを感知し、脇に逃れる。レーザーはACではなくドアを焼く。瞬時に振り返り、反撃のレーザーを叩き込む。
またもバーボンは正直に食らう。

573 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:04:14.82 ID:Xv2bAOreO
(#`ω')「ショボン…!!」
『この距離からの不意打ちを避けるか。君は、本当に強くなったね…。
そんな君に忠告だ。簡単に敵を信用しない方がいい。ましてや背を見せるなんて絶対にやっちゃいけない行為だ』
(#`ω')「何がしたいんだお!!」
『フフ…気を静めなよ。さっきも言ったけど戦う気はないよ』
 
ゆっくり歩きながら言うショボンの口調は穏やかだった。
ブレードが届くまで近くに来てから彼は言う。
 
『君のその武器…弾は残り少ないんじゃないかな?』
( `ω')「………」
 
ブーンは黙ってショボンの意図を推し量ろうとする。が、残弾数が残り僅かという事は図星だった。
ACとの戦闘は一度だったが、セキュリティとの連戦で消費していたのだ。
 
『これを使うといいよ』
 
バーボンからレーザーライフルがパージされた。
 
『君と同じライフルだ、文句はないだろう? それに、きっとこの先はブレードだけじゃ辛くなる』
 
まだ警戒しているブーンは動かない。
 
『今の今だからね、警戒するのも無理はない。なら、これでどうかな?』
 
バーボンから全ての武装がパージされた。

575 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:05:33.36 ID:Xv2bAOreO
( `ω')「…この瞬間に攻撃されるとは思わないのかお…?」
『それはないね。君は優しいから。…でも、もうすぐその優しさを君を苦しめるだろうね』
( `ω')「なんでこんな事を…?」
『正直、君がここまで強くなるとは思わなかったんだ。君からは意外性が溢れている。
君なら…高岡さんより面白い事をやってくれそうだ。だから君を応援する』
 
ブーンは思い返す。ショボンの自由気ままな性格なら、ありそうな事だった。
つまり、純粋に支援をしてくれているようだ。
ここでようやくブーンは警戒を解いた。
 
( ^ω^)「じゃあ、ありがたくいただくお!」
 
ブーンドライブはブレードを捨ててライフルを拾い上げた。
 
『君ね…ブレードは残しときなよ…』
( ^ω^)「いいんだお! 二丁拳銃カッコいいお!」
『こんな所で意外性を発揮しなくても…。まぁ別にいいけどさ』
( ^ω^)「じゃあ僕は行くお! ありがとお!」
 
礼を言ってから踵を返し走り出す彼に、ドア一枚を隔てて待ち受ける残酷な運命を、まだ知る由はなかった…。

580 :574 うわあああああ まあいいじゃない :2007/02/08(木) 01:07:26.08 ID:Xv2bAOreO
( ^ω^)「ツンー! どこだおー! ブーンだおー!!」
 
ブーンはツンを呼びながら部屋を駆け回る。中央に一本の柱がある円形の部屋だった。
とりあえずぐるりと一周したがツンの姿はない。
 
(#^ω^)「騙されたお…ショボンめっ!」
 
部屋を一周して、更に通路が伸びている事は分かった。ならば進むしかあるまい。
そう思い、部屋を出ようとした時、声が聞こえた。ノイズの混じった聞き取り難い声だった。
 
『だ…れ…?』
( ^ω^)「…お?」
 
ブーンは立ち止まって振り返る。やはりACはおろか人影もない。
気のせいかと、再びドアへと機体を向ける。
 
『ブーン…?』
(;^ω^)「おおっ!? 間違いないお。誰だお、僕を呼んだのは!?」
《私にも聞こえました。反応はありませんが何者かが潜んでいるようです。警戒を強化して下さい》
『やっぱり…ブーン…』
(;^ω^)「…その声、ツンかお…?」
 
辺りを見渡して誰もいない。
 
( ^ω^)「どこにいるおー?」
『柱を見なさい』
 
ノイズが消え、鮮明な声になった。紛れもなくツンの声だ。
 
( ^ω^)「柱…?」

583 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:09:02.75 ID:Xv2bAOreO
ブーンは今度は柱に注目してもう一度部屋を回った。
そして衝撃を覚える。
 
《これは…》
(;゚ω゚)「なんの…冗談だお…」
 
確かに彼女はいた。
柱の中に。柱に埋め込まれたような形でツンデレビウムが立っている。あまりにも一体化していたのでブーンは気付かなかったのだ。
彼女は静かな、消え入りそうな声で語る。
 
『私が分かるかしら…?』
(;゚ω゚)「分かるお! そのACはツンのだし声もツンだお…。でもその姿はいったい…」
『ブーン…私はね、力が欲しくて博士の下に来たの。どんな相手だろうと圧倒出来る力が欲しかった。そしてそれは簡単に手に入った』
(;゚ω゚)「どこがだお! その状態で何が出来るんだお!?」
『この柱は、特功兵器の制御装置だと博士は言ったわ。特功兵器は私の思いのままですって。聞いたのはこんな姿にされた後だけどね』


588 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:10:34.26 ID:Xv2bAOreO
《…レイヴンは、力がない者から死んで行くものです。彼女は間違っていないのかもしれません。しかしこれは──》
(#`ω')「ちょっと…黙っててくれお…」
《………。分かりました。しばらく口を閉ざします》
 
ブーンの静かな一喝にオペレーターは押し黙る。
口を挟む者を排除し、ブーンは問い掛けた。
 
(;゚ω゚)「ツンは充分強いのに…どうしてだお…」
『私が強いですって? 冗談はやめてよ。あんなものじゃない…もっと強くなりたかったのよ。
でも、私が欲しかったのはこんな力じゃない…。私が欲しかったのは…』
 
ツンは途中で言葉を切り、声色を普段の鋭いものにして言い放った。
 
『最後の訓練よブーン。
レイヴンならこの先生きのこるには絶対に身に付けなきゃならない事を教えてあげるわ』

590 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:11:46.62 ID:Xv2bAOreO
(;゚ω゚)「こ…こんな時に訓練なんて…!」
『聞きなさい。
…訓練内容は非情さの習得。どんな時でも、仲間や恋人が敵になった時でも迷いなく倒せる非情さ…
その全てを背負い受け入れて、それでも前に進める心の強さ。それを身に着けなさい』
 
唾を飲み込む音がブーンの喉が鳴らす。
ツンが何を言おうとしているのか、微かながら理解したのだ。
 
『もし私が特功兵器を使わなかったら博士は私を眠らせてでも世界中にばら撒くわ。そうなれば世界は崩壊する…。
手遅れになる前に、私を──』
 
嫌だ。
聞きたくない。
ブーンは耳を塞ごうと手を伸ばした。
 
『私を破壊しなさい』

596 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:13:23.28 ID:Xv2bAOreO
遅かった。
後少し時間があれば耳を塞ぐ事が出来たのに。
だが聞いてしまった。
ブーンはとぼけたように言う。
 
(;^ω^)「ツン…僕にそんな事出来る訳ないお。そんな事よりその装置から出る方法を考えようお」
『無理よ。アンタには見えないでしょうけど私の全身にはコードが繋っているのよ。
臓器はもちろん、脳もね。引き抜いた瞬間、私は死ぬわ』
(;^ω^)「だったら、博士を呼び出して外してもらおうお」
『それも無駄。私には分かるの。完全に同化してるからね』
( ;ω;)「じゃあ…どうすればいいんだお!!」
『言ったでしょう、私を破壊しなさいと』
( ;ω;)「嫌だお! そんなの出来ないお!! 一緒に帰りたいお! 僕はまだ半人前なんだお!
僕にはツンが必要なんだおー!!」
『ねぇ聞いてブーン…。アンタが私を破壊しなかったら、世界は滅ぶの…。街も、人も…アンタたちも、全て滅ぶのよ。それを私は見なければならない。そんなの、耐えられる事じゃないわ…』
( ;ω;)「でも…」
『その前にブーンの手で私を…お願い…』
( ;ω;)「無理だおぉぉぉ…」
『ブーン…』
( ;ω;)「嫌だおぉぉ…!」

598 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:14:53.86 ID:Xv2bAOreO
『聞き分けなさい内藤ホライゾンッ!!』
( ;ω;)「…っ!!」
『アンタはどうにか私を救おうとしてくれている…私にはそれだけでうれしいわ…。
でも、私にとって本当の救済はアンタに破壊される事…。私はこの世界が好き。世界が滅ぶ所なんて、見たくないのよ…』
( ;ω;)「………」
『分かったかしら…? なら…その手で…』
( ;ω;)「ツン…僕はツンが大好きだお…」
『あら嬉しい。私もよ、ブーン。それならまた会えるわ、もし来世があるならね』
( ;ω;)「言い残す…事は…ないかお…?」
『いいえ。最期にブーンと話せて私は幸せよ』
( ;ω;)「………お別れだお」
 
ブーンドライブは両手を突き出す。
二丁のレーザーライフルが叫ぶ。迸るレーザーの青は悲哀の色。それは特功兵器の制御装置の破片を飛び散らせる。ツンデレビウムには攻撃は行えなかった。
決意を固めたブーンでも、ツン自身に当てるのは忍びない。
いや、全身が拒否している。せめて綺麗な形で死なせてやりたかったのだ。
舞い落ちる破片はブーンの、そしてツンの涙を表しているようであった…。

601 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:16:07.95 ID:Xv2bAOreO
“私が…教えられる事は…全て…教えたわ…。それをどう使うかは…あなたの自由…。
でも…最後にもう一ついいかしら…”
 
ブーンは泣きながら通路を疾走する。
セキュリティは存在したが一切の攻撃の暇もなく破壊された。
 
“ブーン…あの人は…高岡博士は可哀相な人なの…”
 
地震が起きる。
非常に激しく、まともに走れない。
だがブーンは走るのをやめなかった。
 
“高岡博士には旦那さんと子供がいたのよ…。でも…紛争で…”
 
ドアを潜り抜け、また通路に出る。背後では今までいた地面がズレ始めた。
ちょうどリフトが上昇するように。
ブーンは振り返らない。

605 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:17:27.50 ID:Xv2bAOreO
“博士は特功兵器が止められてもきっと別の方法を考えるわ…。
お願いブーン…あの人を止めてあげて…”
 
叫びたかった。
高岡を呪いたかった。
だが彼女の残した最期の言葉がそれを許さない。
 
“ブーンは私の手に収まらないくらい成長した…。
雛はいつか親元を離れ巣立つもの…それは今…”
 
全ての感情を飲み込み、押し殺し、ただ前だけを見つめて走る。
 
“辛い役回りをさせてごめんなさい…そしてありがとう…優しさをくれてありがとうブーン…”
 
最後のドアが見えた。
彼を止めるものは何もない。
喩えあったとしても全てを破壊してでも彼は進むだろう。
 
“行きなさい…ブーンは半人前なんかじゃない…あなたはもう立派なレイヴンよ…”

610 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:19:55.98 ID:Xv2bAOreO
開けた場所に出た。
その奥には薄ら笑いを浮かべる高岡の姿があった。
 
从゚∀从「ハーッハッハッハインリッヒィィィ!! とうとうここまで来たかい」
( ;ω;)「博士の野望もここまでだお…」
从゚∀从「ハッハ! 何を言い出すかと思ったら!
もう手遅れだよっ!!」
( ;ω;)「特功兵器の制御装置は……うぅっ…破壊したお。もう何も出来ないはずだお」
 
从゚∀从「アッハハハァ! 何も出来ないだってさ!
さっきの地震を感じなかったのかい? 余程鈍感なんだねぇ」
( ;ω;)「地震が…どうしたっていうんだお」
从゚∀从「ま、アンタたちの事さ。どうせあの装置を壊せば特功兵器を止められると思ったんだろ?」
( ;ω;)「違うのかお!?」
从゚∀从「確かにあれは制御装置さ。あの娘の好きに特功兵器を飛ばせるよ。
でもね、同時に暴走を制御する装置でもあったのさ」
( ;ω;)「つまり…僕は…」
从゚∀从「そうさ。アンタは自分の手で世界を破滅させるボタンを押したんだよ。ハハ、やっちまったねぇ!
この要塞の真ん中に塔があったろ?
あれは言わば要塞の子機さ。今頃あの塔は特功兵器を放出してるはずさ!」

614 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:21:42.15 ID:Xv2bAOreO
( ;ω;)「じゃあ…ツンは何の為に…。何でこんな酷い事をするんだお!!?」
从゚∀从「酷いって何がさ? 確かにアタシはあの娘を呼んだよ。貪欲に力を求めてそうだったからねぇ。
そしたらピシャリさ! アタシの勘って冴えてるぅーっ!」
( ;ω;)「だから! 何でツンをあんな姿にしたんだお!!」
从゚∀从「それはあの娘が望んだからさ。責められる言われはないね」
( ;ω;)「ツンはあんな力は望んでなかったお!!」
从゚∀从「そんな事知るもんかい。アタシはただ力をやるって言っただけさ。
嘘は言ってないよ」
( ;ω;)「………何が目的なんだお…」
从゚∀从「復讐さ」
( ;ω;)「復讐…? 家族を殺したヤツらにかお…?」
从゚∀从「何でその話を知っているんだい。ああ、あの娘だね? 教えなきゃよかったかねぇ…。
そうだよ、アタシには夫と息子がいた。でも死んだよ…企業同士のくだらない争いに巻き込まれてね。
この際だ、アンタが聞きたきゃ話してやるよ」
( ;ω;)「………」
从゚∀从「断らずに沈黙って事は、聞きたいって事だね? しょうがないねぇ…」

618 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:23:22.95 ID:Xv2bAOreO
从゚∀从「今日は帰れると思ったんだけどねぇ…。チーフも人間だよ。たまには休ませないと死んじまうよ。
だいたい旧世代の技術ってのが何の役に立つっていうのさ。どうせ御上は兵器利用しか考えてないに決まってるのにねぇ。
人殺しの道具の研究なんか辞めて久しぶりに我が子の顔が見たいよ…」
('、`*川「チーフは相変わらず愚痴が多いですね」
从゚∀从「愚痴でも吐かなきゃやってらんないよ」
《市街地にMTが侵入。現在MT部隊が応戦中。専属レイヴンは至急出撃せよ。
繰り返す。専属レイヴンは至急出撃せよ!》
从゚∀从「あらあら…こんな夜中にご苦労さんだねぇ。夜は寝るもんだよ、まったく…。
ってそれはアタシも同じかな、ハッハッハ…」
《専属レイヴンに通達。敵部隊はC地区に逃げ込もうとしている。A地区からB地区へ、現在C地区に移動中。
至急C地区に向かって被害を食い止めろ!》
 
从;゚∀从「な…なんだって…?」
('、`*川「敵はC地区に移動したと聞きましたよ。あ…C地区は高岡チーフの…」
从;゚∀从「…!!」

620 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:25:40.27 ID:Xv2bAOreO
高岡は白衣のままで研究所を飛び出す。警備員に身分証明カードを投げ付けて外に出ると、急いで車に乗り込んだ。
 
从;゚∀从「無事でいておくれよ!!」
 
車を走らせて自宅に向かう高岡。
避難する為に反対車線は長い渋滞の列が出来ていたが市街地に続く道路はガラガラだった。
戦闘員でもないのに自分から戦場に赴く物好きなどいる訳がないから当然だ。
C地区でも戦火は上がっている。戦闘は始まっているようだ。
彼女の上空をACが通過する。C地区に向け真っ直ぐ飛んでいた。
 
从;゚∀从「頼むからそこでドンパチしないでおくれ…!」
 
彼女の願いは届かなかった。
駆け付けた時には後の祭り。
高岡の住居であるマンションは今やただの瓦礫と化して彼女を出迎えた。
 
从;゚∀从「そん…な…」
 
瓦礫の前で膝を付いて彼女は泣いた。
熱くなったアスファルトが膝を焦がしてもそのまま泣き続けた。
だが怒りはなかった。
怒りを感じられないまでに彼女の悲しみは深かったのだ。
悲しみの涙はいつしか狂気の鼓動へと変わって行き…そして彼女は壊れてしまった。
 
从;∀从「ヒヒ…ハハハハ…そぅだょ…みんなぁ無くなっちゃえばァいいんだぁ…ハハハ…ハーハッハッハァ…!」

623 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:27:17.10 ID:Xv2bAOreO
从゚∀从「アタシはそれからは進んで研究を続けたよ。周りからは家族が死んでも笑っている冷血女とも言われたさ。
それでもアタシは研究に没頭した。全ては企業に…世界に復讐する為に!!」
 
彼女の話を聞き、ブーンの涙の量は増える。
ツンに対する涙もあったが、高岡に対する哀れみの涙もそこにはあった。
最愛の者を失った悲しみは痛い程分かる。
つい先程、彼も最愛の人を亡くしたのだから。
 
从;∀从「だからみんな滅びちゃえばいいのさ! 企業も! VIPも! レイヴンも! 世界も!
みんなみんな消えて無くなっちゃえばいいんだよ!!
もう誰もアタシを止められない! 既に特功兵器は起動しているんだからねぇ!!」
『やはりお前が秩序を破壊する者だったか』
 
高岡の叫びは、この部屋と外部を繋ぐ唯一のドアが爆発した音にかき消された。
粉塵の中から現れたのは真紅のAC。
ナインボールだ。


632 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:29:28.95 ID:Xv2bAOreO
从;∀从「アンタは調整前の子だね…?
誰かがコンピュータを壊したのは知ってたけど、まさかアンタまで来るなんてね…」
『秩序を壊す因子は修正する』
 
ナインボールのパルス銃が高岡に向けられた。
 
从;∀从「ひっ……ハハハ…ア…アタシを殺すのかい? いいよ、今更アタシを殺しても無駄だけど殺しなよ。
いいかいちゃんと狙うんだよ外したら承知しないよよーく狙いを定めて撃つんだよ
ホラどうしたんだい撃って来なよ踏み潰すのもいいねぇゴリゴリ擂り潰されるんダホラホラさっさとやりなよもう目的は果たした復讐復讐復讐、復讐。
破壊願望最大値突破破滅の道程現在進行中発射時刻ハ過ぎ去った痛い痛い痛い痛いイタイヨハリサケソウダヨ崩壊ト再生ノイミヲシッテイルカイ? アタシニハワカラナイ デモワカルカモ深海深淵悲哀ヲ咀嚼スルハ大イナル意志精神ノ拠所カラ重解の真理ヲ導出スノハ復讐復讐復讐…」

636 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:31:06.55 ID:Xv2bAOreO
ひたすら不可解な言葉を喚く高岡はやがて膝を付き、手は下半身へと忍び寄る。
声は次第に小さくなり代わりに微かな嬌声とも嗚咽ともつかない喘ぎだけがこだまする。
どれくらいの時間が流れただろうか。
僅かな時間ではあるがブーンには途方もなく永く感じられた。
緩慢な時間を打ち破ったのは高岡。身を抱きながら今度は理解出来る言葉ではっきりと叫んだ。
 
从;∀从「さあ! この体の疼きを止めておくれよ! 早くアタシを家族の所へ送っておくれよ!!」
 
ナインボールが引き金を絞った。
一発のパルスが高岡を肉塊に変えようと発射されたが、彼女は無傷だった。
身を呈して受け止めたのはブーンドライブ。

638 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:32:51.37 ID:Xv2bAOreO
『邪魔をするな レイヴン』
( ;ω;)「この人は…この人を殺しちゃダメだお!!」
 
高岡を守るように身をかがめるブーンドライブに連続したパルスが撃ち込まれる。
それでも尚、ブーンは必死の形相で立ちはだかった。
 
『何故その研究者を守る』
( ;ω;)「分からないお! 僕だって殺したいくらい憎いお!
でも、殺しちゃダメだお!!」
『お前の行動は私の理解を越える レイヴン…』
( ;ω;)「お前なんかに! 心を持たないAIなんかに分かる訳ないお!」
从;∀从「今のアンタは…アタシでも分かるよ…アンタはアタシの為に…
アタシなんかの為に泣いてくれてるんだね…。アンタは優しい子だよ…」
( ;ω;)「博士…もう止めてお…特功兵器なんか使っても何の解決にもならないお…。
博士みたいに辛い思いをする人が増えるだけだお…博士に分らないはずないお!」
从;∀从「その人間も死んじゃえば誰も悲しまないさ…」
( ;ω;)「そんなの間違ってるお!
博士の家族はそんな事してほしいと思ってるのかお? 本当に博士に世界を滅ぼしてほしいのかお!?」

641 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:34:57.02 ID:Xv2bAOreO
从;∀从「………」
 
彼女は両手をついて葛藤する。
己の行いが正しいと主張する高岡と、過ちであったと思い直す高岡がそこでは激突していた。
警報が鳴る。
特功兵器の配置の完了を告げる警報だった。
 
『もう時間がない ハインリッヒ高岡に問う 特功兵器を止める術はあるのか』
从;∀从「…一度解き放たれた特功兵器は止まらない…。
無限に量産されて世界を破壊し尽くすのさ…止める方法があるなら一つだけ…あの子機を破壊するんだね…」
『ナインボールだけでは対処し切れない 私にネットワークへの接続権を与えて格納庫最深部を開け』
从;∀从「無理だよ…。アンタの本体は眠らせてある…。
再起動するには人柱が必要さ…ツンと言ったね。あの娘のように…。
アンタに全ナインボールを渡すのは危険だし、それにアレは手に余るからね…封印する為にそうプログラムしたんだよ。生命体に接続して始めてプロテクトは解除される…。
アタシが人柱になってもアンタたちには不可能な高度のデータ入力が必要なんだ…」
『了解した
選択の刻は来た 選べレイヴン 私の一部となるか 世界と共に滅ぶか お前は選ばねばならん』

643 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:36:16.30 ID:Xv2bAOreO
( ;ω;)「僕が、その…人柱ってのになったらどうなるんだお…?」
 
尋ねるブーンの声は震えていた。
死への恐怖とは違う、人でなくなる恐怖が彼を浸食しているのだ。
 
从;∀从「あの制御装置と同じだと考えればいいさ…。
それにこの子の本体を移植したんだよ。つまりアンタはこの子と同化するのさ…」
( ;ω;)「僕は…消えちゃうのかお?」
从;∀从「最初の方は意識もあるさ。同化は少しづつ進行するよ…その後は、アンタは存在するけどアンタ“だけ”の意識は無くなる。文字通り一つになるんだよ。
いずれ肉体は朽ちる…。でもアンタの意識は電気信号化されて永遠に生き続けるのさ…この子の本体が壊れるまでね…」
( ;ω;)「よく分らないけど…そうすればこの世界を、ツンが好きだった世界を守れるのかお?」
从;∀从「それは…この子次第だね…」
『私は守る為に生み出された 私の使命を守り この世界を守る
あの兵器は世界を滅ぼす力を持っている 修正が、必要だ』

647 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:37:40.47 ID:Xv2bAOreO
( ;ω;)「やるお…」
从;∀从「いいのかい…? もう戻れなくなるんだよ…?」
( ;ω;)「いいお! ツンと同じなら後悔はないお! 僕の気持ちが揺るがない内にさっさとやってくれおッ!!」
从;∀从「………その奥にある、柱の前に立ちな…」
 
ブーンは言われた通りに柱の前に立つ。
高岡がデータを入力すると柱が開いた。
ちょうどエレベーターのドアが開くように口を開けている。
 
从;∀从「その中に入るんだ…」
 
本体のある柱に歩き出すブーンドライブに、通信が入った。
 
《今まで…黙っていましたが最後に一つ、いいでしょうか?》
( ;ω;)「…なんだお?」
《私は貴方に生きて帰ってほしかった。しかし、貴方が選んだ事に口出しは出来ません》
 
オペレーターの声も、震えている。必死に嗚咽を漏らさないように努めている話し方だった。
 
《私は…貴方のオペレーターであった事を…誇りに思います。今まで、あり…がとうございます。
お疲れ様でした…レイヴン》

649 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:39:40.87 ID:Xv2bAOreO
彼女からの通信はこれが最後となった。
通信が切れる瞬間、漏れ出した泣き声が耳に残る。
ブーンは後ろ髪を引かれる思いで柱へと身を収めた。
口を開ける柱に入ると無数のコードが飛び出し、ブーンドライブに突き刺さる。四肢はもちろん、コアにも侵入してブーンの体に巻き付く。
無数の配線が全身を貫き、頭部にも侵入する。脳髄を掻き回されたブーンは口をだらりと開きながら断続的に猛威を奮う激痛と戦った。
 
『接続を確認……………登録 完了』
(;´ω`)「ぅぅ…ぅぇ…ぉぅぉ……!」
从;∀从「痛いだろう…? ごめんよ…麻酔は用意してないんだ…。データ入力が済めば痛みは無くなるよ…」
(;´ω`)「い…い…か…ら…早…く…」
『ナインボール 起動』
 
高岡は指を踊らせ、データを入力する。断続的に襲いかかる苦痛にブーンは歯ぎしりしながら耐える。
数分後、全ては完了した。
 
 
从;∀从「終わったよ…アタシなんかじゃ手に負えなかったAC──ナインボール=セラフを堪能してきな…」

654 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:41:09.13 ID:Xv2bAOreO
格納庫最深部にあるゲートが開放される。
たたずむ真紅のAC。
だがナインボールのそれとは違っていた。
 
『修正プログラム 最終レベル』
 
エネルギーが供給され起動したそれは一歩踏み出す。
そしてまた一歩。
 
『全システム チェック終了』
 
次々と開放されるゲート。
外の空気が押し寄せ、格納庫を満たす。
走りからブースターでの加速に移行して速度が上がった。
 
『戦闘モード 起動』
 
激しい突風を押し返すように走り出し、最後のゲートを越えた所で変形する。高速移動に適した飛行形態へと。
ブースターが火を噴いた時には既に最高速度まで加速し、ナインボール=セラフは外へ飛び出した。
その速度たるやオーバーブーストの比ではない。生身の人間が乗ればそのまま圧死してしまうだろう。
切り離された巨塔が見えた。全体から特功兵器がスチームのように噴出している。
それは生まれたそばから地上へと特功しようとしていた。
 
『ターゲット確認 排除開始』

658 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:43:01.92 ID:Xv2bAOreO
静まり返った要塞の中で独り座り込む高岡。
彼女は懐をまさぐり、引き抜いた手には一枚の封筒が握られている。その封を切って中から写真を取り出した。
そこには夫と息子と共に笑う高岡がいる。
二度と見はしないと心に決めいたが、常に肩身離さず持っていた写真だった。
それを眺め、短かったが楽しい家族との思い出を脳裏に描き、狂笑ではない笑みを浮かべる。
優しい微笑みだった。
それから今度は拳銃を手に取って側頭部に押し付ける。
 
从゚∀从「あの子たちをあんな目に合わせといて、アタシだけ生きてるなんて虫のいい話だよねぇ…。
二人の所に逝きたいけど、無理かな…。アタシは罪を犯し過ぎたよ…」
 
軽く目を閉じた彼女の口は今も穏やかに弧を描いている。
安らかな笑みで引き金を絞る彼女の瞼の裏には、最期まで家族の顔が写っていた…。

665 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:45:17.52 ID:Xv2bAOreO
要塞の中にいるはずのブーンに外の景色が見えた。
まずは視神経が接続されたらしい。360°見渡せるので馴れていない彼の気分は最悪だった。
高速で吹き飛ぶ景色の中に特功兵器と戦うナインボールとメランコリックハートを発見した。
スナイパークールとモラリストも見える。
彼らは動かずにブーンを──ナインボール=セラフを見つめていた。
やがて脳が接続され、レーダーが頭の中に浮かぶ。
大量の特功兵器が確認できる。その大群にナインボール=セラフはレーザーとミサイルを撃ち込む。
どちらも今までブーンが使ってきた兵器とは桁違いの威力だ。
直撃を受けた特功兵器は弾け、連鎖爆発が空を彩る。
大きな道が出来た。しかしそこも新たな特功兵器が埋め尽くす。
ならばもう一度道を作ればいい。
何度特功兵器が壁を作っても、特功してきても容赦なく破壊した。爆発の中を突き進むナインボール=セラフ。

667 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:46:53.38 ID:Xv2bAOreO
外壁が見えた。
ブーンの手足の感覚が無くなり、代わりにナインボール=セラフの手足が彼のものとなる。
ブーンの意識は湯に入れた氷のように徐々に溶け、周りと融合していく。
 
外壁が目前に迫った。
飛行形態から人型へと戻ってブレードでのコンボを放つ。一撃一撃が盤石の重みを持つ斬撃は、外壁を豆腐の如く切り開く。
内部に侵入した途端に再び飛行形態へと変形し、通路を高速で飛行する。
ドアは破壊して先を急ぐ。
内部構造は分っていた。
最短距離を取る為にある時は天井をぶち抜いて進む。
そしてまみえた特功兵器生産装置。
動力炉と連結されており、不気味に回転している。
そこにナインボール=セラフの全火力を撃ち尽くす勢いで攻撃は行われた。
動力炉が熱暴走を起こし、完全崩壊まで後数分。各所で小爆発が発生している。

671 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:48:16.14 ID:Xv2bAOreO
この頃にはブーンだけの意識は朧気な程になっていた。
その気になればナインボール=セラフを動かせるかもしれない。
だが、まだ完全ではない。
ブーンは意識の中にある別の意識─電気信号の集合点─に語りかけた。
そして頼み込む。
彼は、承諾してくれた。
ここまで来たように地面や天井を破壊しながら目的の場所へと向かう。
ブーンの望む、その場所に到着したナインボール=セラフは人型へと戻り、まだ残っているブーンの意識に主導権を与えた。
彼の目的──それは自らの手で破壊した制御装置である。
子機の崩壊が始まる。
落下する砕けた天井の破片が機体に命中しても歩みは止まらない。
装置にいくつかの斬撃を叩き込むと柱は一足早く崩れ落ち、元々は異物であった物が解放される。
前に倒れ込むツンデレビウムをナインボール=セラフ、いや、ブーンは優しく包み込んだ。
滑稽で、しかし美しい抱擁の前ではあと僅かな時間で自分は生命体ですらなくなるという事実さえも霞む。
ブーンにとって今この瞬間が全てだった。
子機は完全に崩壊し、墜落し始めても抱擁を続ける彼は何を思うのだろうか。
それは誰にも解るまい。
この瞬間は彼と彼女だけのものなのだから。

674 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:49:02.48 ID:Xv2bAOreO
やがて内藤ホライゾンという一人のレイヴンがこの世から完全にいなくなった時、
世界にひとまずの平和が訪れたのだった─────

              fin



前へ 設定  目次 inserted by FC2 system