522 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:34:49.78 ID:Xv2bAOreO
辺りを埋め尽していたMTはもういない。
皆灰に変えられたか、もしくは逃亡していたのだ。しかしながらMTの残骸はあちこちに存在していた。
その機械の墓場で奮闘するのはACだけだ。
 
(;'A`)「これがAIの動きかよ…!」
《ずいぶんと高性能のAIのようだな》
 
メランコリックハートとナインボールの攻防は熾烈を極めた。お互い、迫る攻撃は1m以内でかわしている。
既に二体のナインボールが集まっていたので地獄のような攻撃だったが何とか回避していた。
交戦したのか、全身から火花を散らしていたBOINとスナイパークールが遠距離から援護射撃し、比較的被害の少ないモラリストとツインテールが中距離支援している。
ドクオはまだ弾の残っているミサイルを捨てて、ようやくかわせるようになったのに対してナインボールらは依然変わらない兵装で彼らの攻撃を避ける。
しかしそれでも勝機はあった。
ドクオたちの被害は小さいものではなかったがナインボールも少しづつ装甲を磨り減らしている。
この状態が続けば撃破も不可能ではない。

526 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:36:07.88 ID:Xv2bAOreO
『おいヘリカル! それ以上前に出るな!』
『黙れです乳魔人っ! 変態男っ!』
『あンだとこの無乳女! 死にそうになっても助けねぇからな!!』
(#'A`)「こんな時に喧嘩してんじゃねェぞ馬鹿共がッ!!」
 
一喝したドクオだったが敵から目は逸らさない。一瞬の隙が死に直結するのだ。
まばたきするのも惜しいと言わんばかりに瞳を爛々と輝かせる。
 
『後ろから狙われてるからなドクオさんッ!』
(#'A`)「わーってるっつーの! テメェの心配だけしてろッ!!」
 
背後からのグレネードを後ろに目があるかのようにギリギリで避ける。
火球がまだ近い内に補助ブースターを起動してから弾丸を放ち、飛び上がった。
それを追うように片手のナインボールも地を離れる。その赤の機体があった場所をツインテールのグレネードとスナイパークールのライフル弾が通過した。

527 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:37:38.61 ID:Xv2bAOreO
『お兄ちゃん後ろっ!!』
(;'A`)「っ!!!」
 
連続した前後からの攻撃をいつまでもかわせる訳がない。
高熱の塊がメランコリックハートに直撃した。炎上しながら地に落ちる機体。
 
(;'A`)「ぐっ…レーダーが…!」
(;'A`)(この分だと回復まで約30秒…やべぇな…)
 
この相手に対してレーダーを失うということは目を潰されたに等しい。
回避にはひたすら動き続けるしかないが、ナインボールに通用するだろうか。
彼を援護している四つのACが接近しているのが視界に入る。彼が思わず放った一言で、レーダーが機能しなくなった事を悟ったらしい。
 
(;'A`)「来るなァッ!! この陣形を崩すんじゃねェ!!!」
 
彼の言う陣形。
一人が囮となり敵機の間に入り込んで攻撃をほぼ引き受ける。囮を挟むナインボールを取り囲むようにして援護組が徐々にダメージを与えるというものだ。
ここまで戦う事が出来たのは、即席ではあるがこの陣形があったからこそである。

528 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:39:00.66 ID:Xv2bAOreO
それもドクオの存在があって初めて成立している。
二機のナインボールに挟まれ、攻撃を引き受ける役はドクオだからこそ可能だったのだ。
他の者がこれをやろうとすれば瞬時にスクラップにされるだろう。
 
(;'A`)「俺は大丈夫だ! 後数秒くらい避け切ってみせるさ…!」
 
全神経を研ぎ澄まして攻撃に備えるドクオ。前方の敵機を見つめながら、背後からのパルスやグレネードの軌道から相手の位置を予測する。
そこから更にどう撃てば有効かを計算と時には勘で、どう攻撃されるかを割り出す。
精神の緊張は極限状態だった。

529 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:40:30.47 ID:Xv2bAOreO
『ハハ…マジかよアイツ…レーダーなしであの集中砲火をかわしてやがるぜ…』
『ここまでとは…すごいものだな…』
『ドクオさんにかかればあれくらい余裕なんだからなッ!』
『そうですよー! お兄ちゃんはすごいんです! モララーも分かってきたじゃないですか!』
 
現実離れした彼の戦闘センスに口々に感嘆の声を漏らす。だがドクオにとっては集中を阻害するものでしかない。
 
(;'A`)「うるせぇ…気が散る…!」
 
己の声で集中力を乱さぬよう静かに制す。僅かな乱れでも命取りになるからだ。
彼らを黙らせるのは成功した。
だが、彼らの声よりドクオの集中を妨げる事態が発生した。
地震と共にフォックスの中央にある巨塔が動き出したのだ。
 
(;'A`)「な──」
 
巨塔へと注意が逸れる。そして舌打ち。
ドクオは己の行動を悔やんだ。
一瞬の精神の乱れ。
それは取り返しのつかない一瞬だった。

532 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:41:45.55 ID:Xv2bAOreO
頭の中に霧がかかる。
霞んで行く攻撃の予想。
薄まってしまった背景を必死で描き直そうとする。途切れてしまった進むべき道を全身全霊をもって繋ごうとする。
しかし一度ペースを崩されると描き直した背景は歪み、繋いだ道は無数に枝別れしてしまう。
パズルを組み立てた端からバラバラにされるようなものだった。
それでもドクオは一つ一つピースをはめ込む。だが完成する前に破壊される。
またピースを手にする。それは燃えていた。
限界。
爆風がメランコリックハートを吹き飛ばした。
精神を汚染され、身体のバランスまで失った彼に回避する力は残されていない。
視界の隅に映る機影。
近い。
ブレードを構えた真紅の死神が迫っている。
だがそれは一発のグレネードでメランコリックハートへの接近を中止した。
ナインボールのものではない。

534 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:42:59.59 ID:Xv2bAOreO
『殺させない! お前なんかにお兄ちゃんは殺させないっ!!! お前なんか死んじゃえよバカヤロー!!!』
 
ヘリカルの嗚咽混じりの怒鳴り声が聞こえる。
目の前でツインテールが戦っていた。
がむしゃらにグレネードライフルでナインボールを迎え撃ち、更に自ら突進して爆炎で辺りを燃やし尽した。
 
( A )(あの馬鹿…あれ程来るなと言ったのによ…)
 
力が漲る。
感覚は戻ってきた。
ドクオは痺れた頭を強く振ると機体を発進させた。

537 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:44:07.45 ID:Xv2bAOreO
彼女の近距離から放つ雄叫びは当たらない。
ツインテールを中心にナインボールの挟撃が始まった。
手始めにグレネードで動きを止められ、パルスの連射を受けた。手前のナインボールによる斬撃がコアを襲う。
体感して始めて解るその速さに完全回避は不可能。コアの一部ごと腕を両断して脇を通過するナインボール。
外の冷たい空気がヘリカルの頬に触れた。
その時には後ろにいた片手のナインボールは正面でグレネードを構えていた。
 
『ごめんなさい…僕、何の役にも立たなかったです…グスン…お兄ちゃん…』


541 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:46:13.32 ID:Xv2bAOreO
('A`)「いや…よくやったぞヘリカル!」
 
気力を取り戻したドクオの機体はツインテールの背後の背後──五体満足のナインボールの真上に出現していた。
唸るブレード。
頭部から侵入した刃はそのまま突き進み、股から抜ける。
一刀両断されたナインボールだったがまだ敵は残っている。
仲間の─AIだから当然だが─大破を気にも止めずにグレネードを発射した。
まだ一、二発程度であれば機体は耐える事が可能である。
しかしツインテールのコアには外部と繋がる穴があった。直撃を受ければグレネードの有する熱が発散され、隙間から侵入する事になる。
そうなればパイロットなど簡単に焼け死んでしまうだろう。
ヘリカルにとって死の一撃。
彼女は目を閉じてその時を待つ。

543 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:48:00.63 ID:Xv2bAOreO
爆発音が痛い程ヘリカルの鼓膜を叩く。
しかし衝撃はない。熱くもない。
一体何が起きたのか、彼女は確認しようと目を開いた。
そこには燃え盛るBOIN。
グレネードが咆哮を上げた瞬間、ツインテールとナインボールの間に飛び込んで来たのだ。
損傷の激しい機体にとって致命的な攻撃と知りながら…。
 
(;'A`)「ジョルジュ!!!」
『こんn…貧乳にも…満たないやつ…守っちま…とは……rも…焼きが回っち…た…』
 
ナインボールとの距離はほんの数m。
炎を纏った腕が持ち上がる。手にあったライフルが落ち、格納されていたプラズマ銃が握られた。
 
『俺かr……ザザッ…最後の…プレゼ…………受け取──ズッ』
 
止どめを刺そうとするナインボール。
連続で迸る光弾。
プラズマはことごとくナインボールに突き刺さった。
一発目が装甲を溶かす。
二発目が融解を進める。
三発目が内部を焼く。
四発目がジェネレーターを破壊する。
そして最後の五発目がナインボールを完全に粉砕したのだった…。

549 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:51:11.53 ID:Xv2bAOreO
(;'A`)「ジョルジュ! 聞こえるか! ジョルジュ!!」
 
彼は応えない。
 
(;'A`)「チ…クショウ…!」
《レイヴン。それは後回しだ。そんなものより切り離された塔を見ろ》
(#'A`)「テメェは…! テメェにゃ人の心ってもんがねェのか!?」
《必要ないな。だが任務を円滑に進むよう教えてやろう。
レイヴン、ジョルジュは生きているぞ。爆発しなくてよかったな》
(;'A`)「ホントか!?」
 
既に炎の消えたBOINにドクオは近付く。
しばらくすると蒸気を噴出しながらコアが開いた。
 
( ゚∀゚)「いやー、さすがにアレは死ぬかと思ったぜ!」
 
もうBOINは動かす事は出来ないだろう。ジョルジュは降りようと装甲に触れ、悲鳴を上げた。
 
(;;゚∀゚)「ぎゃああああ!!!! 手がァァァァァァァ!!!!!!!」
 
白煙を上げながら溶けているグローブを脱いで放り投げてから、ジョルジュは大声でドクオを呼んだ。

552 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:53:44.86 ID:Xv2bAOreO
( ゚∀゚)「ドクオーーーーー!! 手ぇ貸してくれーーーーーー!!!!」
(;'A`)(馬鹿か…アイツ…さっきまで燃えてたんだから熱いに決まってるだろ…)
《気が済んだかレイヴン。ならばあの塔を──》
(#'A`)「ちょっと待てよ!! ったく…」
 
開かれたコアの近くに手を伸ばしてジョルジュを乗せ、地面に降ろした。
 
(#゚∀゚)o彡゚「しかし無人機の分際で俺の愛機をこんなにするなんてふてぇ野郎だな!」
 
八つ当たりするように腕を振るジョルジュ。彼を無視してドクオはヘリカルに通信を入れた。
 
('A`)「間一髪だったな」
『怖かったですよ〜…お兄ちゃんありがとうです…』
('A`)「礼はジョルジュに言えよ…」
『えぇ…でも致し方ないです』
『ジョルジュー! ありがとですよー!』
( ゚∀゚)「あん? 礼にゃ及ばねぇぜ!」
『今ならジョルジュもお兄ちゃんって呼んであげますよー!』
(;゚∀゚)「ゲ…それはいいや…」
『どうしてですか? 僕がお兄ちゃんと呼ぶのは最高の親愛の証しですよー!』
( ゚∀゚)o彡゚「そんな事より数年後にお前が巨乳になったら揉ましてくれっ! つーかスピーカーでデケェ声出すなよ、耳が痛ぇぜ!」

554 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:54:59.86 ID:Xv2bAOreO
『お兄ちゃん…アレ撃っていいです?』
(;'A`)「いや…気持ちは分かるがやめとけ…」
《レイヴン!》
(;'A`)「だーっ! もう任務に戻るっての!」
《そうではない! あの塔を見ろ!!》
 
何度も言われ、渋々見上げるドクオ。それは既にかなり上空に浮かんでいた。
異変はそれだけではなかった。
その周りを包むように大量の塵が舞っている。
 
('A`)「なんだアリャ?」
《特功兵器だ…》
(;'A`)「な…んだと…? あの塵全てがか…?」
《そうだ》
(;'A`)「クソ…マジでチンタラしてる場合じゃなかったって事か…。すまねぇ…」
《お前の責任ではない。
あの時お前がすぐに動いたとしても間に合わなかった。今どうすべきか模索している。指示を待て》
 
彼らは絶望的な面持ちで特功兵器による雲を眺めていた。指示がないまま、数分の時が流れる。

556 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:57:19.59 ID:Xv2bAOreO
(((;゚∀゚)))「おい…俺はどうすればいいんだよ? ACもねぇし、何より寒ぃぜ…空気も薄いしよ…」
 
この高度で生身は辛いだろう。ガタガタ震えるジョルジュに、ヘリカルは言った。
 
『ちょっと離れてて下さいです』
 
ツインテールのグレネードが砲台の残骸を更に破壊する。
炎上する鉄屑を指差して言い放った。
 
『あれで暖をとって下さいです』
(;゚∀゚)「…気持ちはありがたいがな、あの黒い煙…明らかに身体に悪いだろ…」
『なら我慢しろです。僕だって寒いんですよ!』
('A`)「さっき回収班を呼んだからもうちょい我慢してくれ。
ジョルジュはもちろんだが、ヘリカルも帰還しろ。その機体じゃ戦えないだろ」
『そうですね…』
 
ヘリカルは残念そうに呟く。ついさっき死にそうになった割に、心は折れていないようだ。
 
('A`)「本当ならクーとモララーも帰してやりてぇが戦力が足りねぇ…頼んだぞ」
『私なら大丈夫だ。まだ戦えるさ』
『俺も行けるからな!』
 
その確認を皮切りに、事態は急変する。特功兵器の雲が膨れ出したのだ。
それが何を意味するか、彼らはすぐに思い知る事となる。

561 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 00:59:02.26 ID:Xv2bAOreO
《緊急事態だ。特功兵器が移動を開始した。間もなく世界中に投下される》
(;'A`)「何も…出来ねェのか…」
《だから今模索して──レイヴン。ナインボールだ。
一機そちらに向かっている。各機の総合データからあれはアルエ・アルェを撃破したナインボールだな》
(;'A`)「まずはヤツを撃破するしかねェな…」
('A`)「ヘリカル! お前はジョルジュを乗せてこの場を離れろ! 巻き込まれちまうぞ!!」
 
ヘリカルはジョルジュを握殺しないよう慎重に掴み、高速で退避する。
メランコリックハートを中心にスナイパークール、モラリストが構えた時、ドクオは恐ろしいものを目にする。
広がっていた特功兵器の一群が、フォックス目掛けて突進しているのだ。
 
(;'A`)「さてどうするか…」
《なんだこれは…》
(;'A`)「特功兵器だろ…」
《違う。レイヴン、落ち着いて聞け。出て来るナインボールの数は一つではない。
50…70…100…まだ増えているぞ!》
(;;'A`)「コリャ…マジで終わりか…」


562 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:00:29.86 ID:Xv2bAOreO
最初に出現したナインボールは長距離からパルスを放ってくる。
こんなものに当たる訳はないが、今更避けた所で後にはナインボールの大群が控えているのだ。
どうせ無駄と思いながらも避けるよう機体を操るドクオ。
沸き出て来るナインボールの軍勢。
上には特功兵器。
もう、逃れる術はない。
最初のナインボールがメランコリックハートを斬り捨てようと接近している。
不毛な回避を続けるメランコリックハートを、ナインボールが取り囲んだ。
 
(;'∀`)「ここまで来ると笑えてくるな…こんなん、どう足掻いたってかわせるはずがねェ…」
 
ナインボールが一斉にグレネードを発射する。
圧倒的火力に粉微塵に弾け飛ぶ“最初の”ナインボール。

566 :愛のVIP戦士:2007/02/08(木) 01:01:29.42 ID:Xv2bAOreO
(;'∀`)「あぁ?」
 
呆然とするドクオ。
最初のナインボールを破壊した事を確認したナインボールたちはまたも一斉に飛び立った。
向かうは上空の特功兵器。
パルスが、グレネードが、時にはブレードで特功兵器を破壊していた。
 
『なんだこれは…』
『頭がおかしくなりそうだからな…』
(;'A`)「俺も意味分かんねェよ…」
《現在調査中──新たな反応を確認したぞ。超高速で移動している」
 
巨塔があった中央から一つの機影が飛び出した。それはぐんぐん天空を突き進んでいる。
そして────


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