第9話

5 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:38:49.33 ID:RrmhO2VB0
時間は止まってくれたりなんかしない。
常に無情な流れが時間にはあるのだ。
そしてその流れはブーンの限られた自由時間を少しずつ流し出していた。
それでも帰ってこない家の主に対して少なからずブーンは焦りを覚えていた。

(;^ω^)「まだ帰ってこないのかお」

ξ゚听)ξ「今日はなかなか大変みたいね。もうそろそろ帰ってくる頃だと思うけど……」

( ^ω^)「もうそろそろっていつ頃だお?何時何分何秒地球が何回回った時?」

ξ#゚听)ξ「うっさい!男なら黙って待っていなさいよ!」

まるで小学生のような態度を見せるブーンに、また少女はキレる。
先程からこんな流れの繰り返しなのだ。

6 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:39:11.94 ID:RrmhO2VB0
そういえばこの少女の名前はツンというらしい。
家に上げてもらって、そこの住人の名前を知らないというのはあまりにも失礼だ。
そう考えてブーンは自己紹介と共に名を尋ねたのであった。

( ^ω^)「僕はブーンだお。よければ君の名前も教えてほしいんだお」

そして教えてもらった名前を「可愛い名前だ」と褒めたところ

ξ///)ξ「べっ、別に褒めてもらっても嬉しくなんかないんだからね!」

と、顔を真っ赤にして否定する彼女の表情に勃起を隠しきれなかったのは内緒だ。

(;^ω^)「僕のボブ(最大9cm)よ、収まるんだお」

7 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:39:39.98 ID:RrmhO2VB0
このような感じでgdgdな会話を繰り返して今に至るというわけだ。
そしてブーンはまだ性懲りもなくツンに怒られていた。

ξ゚听)ξ「こんなうるさいなら家に入れないで外の魔物達に殺させておけば良かったんだわ」

(;^ω^)「正直すまんかったお」

――この変なブーンとかいう男相手に何やってるんだろ。
ツンが半ば突然の来訪者に呆れ始めた時、ふとその耳に微かな足音が聞こえた。
それは僅かに、そして少しずつだが確実に聞こえるものとなり、小屋の扉の前で音は止んだ。
帰ってきた。ツンはそう確信した。

そしてその確信は現実となった。

8 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:40:15.30 ID:RrmhO2VB0
扉が開く。
そこから例の似顔絵と同じ顔を覗かせる1人の男。
身の丈は彼の入ってきた扉ほどあろうか。
そして肩幅は広く、筋肉に固められた身体。
この男以上に『筋骨隆々』という言葉が似合う男はいないであろう。

(,,゚Д゚)「今帰ったぞ。今日の奴は粘り強くてめんd……」

男の視線は我が娘の傍に座っているピザ気味な少年に注がれる。

( ^ω^)「あ、お邪魔してますお。ちょっとあなたに聞きたいことがあるんですお」

何かピザが言ってる。でもこのピザは娘の傍に座ってる……
既に家主の心境はその事実によって決まっていた。

9 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:40:42.76 ID:RrmhO2VB0
(#,,゚Д゚)「誰だてめぇは!!うちの娘に何しやがった!!」

激怒である。

Σ(;^ω^)「ちょ、ちょっと何のことd

(#,,゚Д゚)「ふざけんな!誰の承諾を得てツンに手を出した!」

(;^ω^)「僕はまだ何もしてn

(#,,゚Д゚)「まだ!?じゃあこれから何かしようとしてたのか!」

どうやら聞く耳は持っていないようである。
そしてブーンの予想通り、家主の激怒は彼に娘以上の恐怖を与えた。

11 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:42:03.40 ID:RrmhO2VB0
( ;ω;)「本当に……ヒック……僕は何も……ヒック……してないんだお……」

遂に彼の声に嗚咽が混じり始めた。
しかし家主の激怒は収まることを知らない。

(#,,゚Д゚)「泣いたら許してもらえると思ってんのか!なめんな!」

ξ゚听)ξ「パパ!本当にブーンは何もやってないわよ。パパに用があって来たみたい」

そこにきてやっとブーンが哀れだと思ったのだろうか。
ツンが父親に状況説明をし始めた。

13 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:42:24.38 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「ツン……本当にそうなのか?」

ξ゚听)ξ「当たり前よ。第一こんな奴に手を出させるわけないじゃない」

そしてまた家主は来訪者に視線を向ける。
ピザ気味な身体、どこかで見たことあるような地味な顔立ち。
確かにこの程度の男じゃ娘には合わない。
そう判断し、家主は自分の過ちを素直に認めることにした。

(,,゚Д゚)「悪い、勘違いしてたみたいだ」

( ;ω;)「だから……ヒック……言ったのに……」

15 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:43:17.70 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「男なら泣くな。な?ところでお前は誰だ?」

( うω;)「僕はブーン。仕事は村人Aをやってるんだお」

(,,゚Д゚)「村人A……?あぁ、こないだバーボンハウスにいた奴か」

( ^ω^)「そうなんだお。そのバーボンハウスのマスターに勧められてここに来たんだお。ところであなたは?」

やっと泣きやんだ彼は、やはり相手の名前を知らぬまま話を進めるのが気後れしたらしく律儀に名前を聞いた。

(,,゚Д゚)「俺のこと全然知らないで来たのか?俺はギコ。魔王をやってる」

返って来た返答は完璧に予想GUYな言葉であった。

16 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:43:44.39 ID:RrmhO2VB0
( ^ω^)「へー、ラ王さんですかお。日清の看板商品にもなると大変ですおね」

やはり彼の脳には衝撃が大きすぎたのであろうか。
こちらも(少なくともギコにとっては)完全に予想GUYな返答を返した。

(,,゚Д゚)「は?何言ってるんだお前?」

( ^ω^)「僕は基本味噌が好きなんだお。でも醤油派が多い事に憤りを感じているんだお。ラ王さんはどう思いますかお?」

(,,゚Д゚)「俺は塩派だ。でも醤油も美味いし、醤油派が多くても別に良いと思うぞ」

どうやらこの手の話は食いつきが良いらしい。
2人はインスタントラーメンの話ですっかり意気投合してしまった。

17 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:44:22.56 ID:RrmhO2VB0
( ^ω^)「やっぱりインスタントはインスタントらしく何も入れないで食べた方が良いと思うお」

(,,゚Д゚)「だが栄養価を考えると野菜など入れた方が良いんじゃn

ξ#゚听)ξ「コラ、馬鹿ども」

先程から男同士で行われるインスタントラーメン対談のせいで出る幕がなくなり、すっかり不機嫌になったツンが口を挟む。
その明らかに不愉快そうな声で呼ばれた男達は一瞬で我に返る。

(;^ω^)(;,,゚Д゚)「はっ、はい!」

どうやらこのラ王も娘には頭が上がらないようだ。

18 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:44:58.83 ID:RrmhO2VB0
ξ#゚听)ξ「まずパパ!いきなり激怒したかと思ったらすぐ意気投合したりと気分をコロコロ変えない!
      それに付き合う私のストレスも考えて!」

(;,,゚Д゚)「すまん……悪かった……」

ξ#゚听)ξ「そしてブーン!あんたは脳みそが足りなすぎる!パパは本物の魔王よ!」

(;^ω^)「正直すまんかったお……。でも、本当に魔王さんなのかお?」

やはりまだ現実を受け止めきれないブーン。
村人Aである自分がまさか魔王と話をするなんて事は夢にも思わなかったのであろう。

19 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:45:54.53 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「あぁ、俺は設定では正真正銘の魔王だな」

また、設定だ。

(,,゚Д゚)「で、俺に聞きたい事って何だ?」

その問い掛けにブーンは一瞬迷った。
もちろん設定について聞きたいのだが、その前に1つハッキリさせておきたいことがある。

(;^ω^)「色々とあるけど、まず第一に魔王と村人Aが会話して良いのかお?」

(,,゚Д゚)「今はオフだから別に気にしなくても大丈夫だろ」

なかなか適当な魔王のようだ。
そんな彼の魔王とは思えないような性格のおかげで、緊張で張りつめていたブーンの心に若干の余裕が生まれた。

20 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:46:28.50 ID:RrmhO2VB0
そういえば魔王ってことは魔物達を束ねる長ってことだ。
ならば昔村を襲わせて両親の命を奪ったのはこの男――

(  ω )「じゃあ……あなたは昔VIP村を魔物に襲わせたことを覚えてますかお」

彼の心に生まれた余裕はその事実を深い記憶の底から掘り起こさせた。

ξ゚听)ξ「あんたいきなり何言ってんの?」

ブーンから唐突に発せられた言葉に思わずツンは反応してしまう。

23 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:47:10.66 ID:RrmhO2VB0
あぁ、そういえばこの子はまだ知らなかったな。
そして、まだ知るには早過ぎる。
家主は何も知らない愛娘に珍しく頼み事をした。

(,,゚Д゚)「……ツン、少しの間どこかに行っていてくれないか」

ξ゚听)ξ「でもパパ……」

(,,゚Д゚)「頼む。しばらく外してくれ」

ξ゚听)ξ「わかった……しばらくしたら戻ってくるわね」

急にシリアスな雰囲気になった尋ね人が漂わす空気を読み取ってくれたのであろうか。
それとも父親の頼みを無下に断ることが出来なかったのであろうか。
ツンは滅多にされない頼みを聞き入れて、静かに部屋を去っていった。

25 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:48:07.36 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「悪い。ツンにはまだ聞かせたくない話だったんだ」

そして家主の視線は尋ね人へと向けられる。

(  ω )「数年前にVIP村を襲ってきた魔物のせいで僕の親は死んでしまったんだお。
       あなたは魔王、つまり魔物の頂点にいるあなたが間接的に僕の親を殺したことになるんだお」

(,,゚Д゚)「確かにそうだな。そこは否定できない」

顔色1つ変えずにあっさりと答えるギコ。
そんな彼の態度に両親を失ってから数年の間、静かに沸々と湧いていた怒りが遂に爆発する。

(#゚ω゚)「ふざけんなお!人の親を殺しておいて何平然と答えてるんだお!」

(,,゚Д゚)「半分は俺のせいかもしれない。それはすまないことをしたと思う。
     だが、もう半分は設定のせいなんだ」

(#゚ω゚)「あんたは何を言っているんだお!責任を設定に擦り付けて魔王が聞いて呆れるお!」

ブーンの怒りは収まることを知らない。
普通に考えて村人A如きが魔王にこのような口の利き方をするなんてことは有り得ないことなのだが、彼の怒りは理性を無くしてしまうほどに大きなものであった。


26 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:48:33.15 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「言い訳のつもりじゃないが聞いて欲しいことがあるんだ」

神妙な顔つきで言葉を発する。
何か重要なことでも話すのであろうか。
彼の顔つきを見たブーンは、その雰囲気に押されて話を聞いてみることにした。

(  ω )「……言ってみるお」

(,,゚Д゚)「お前も村人Aをやっているならわかるだろ?あの仕事中の自由の無さが」

確かに仕事中に自由はほとんど無い。
自分の口は設定で決められた言葉しか話さず、自分の足は設定で決められた動きしか見せない。
しかし、魔王にもそのようなことはあるのだろうか。

28 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:49:09.81 ID:RrmhO2VB0
(  ω )「……」

何も答えないブーンを気にせずに、ギコは話を続ける。

(,,゚Д゚)「あの日も俺は自由を失っている最中だった。そして、設定によって魔物に村を襲わせる命令を下してしまったんだ」

その口から出てくる『設定』という言葉。

(,,゚Д゚)「さすがに心の中で村人達に懺悔し続けてたぞ。村を襲わせるなんてことは初めてだったからな」

そして彼は村を襲わせた日について語り続ける。
その目にはどこか後悔を示す憂いの色が見え隠れしていた。

29 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:49:33.77 ID:RrmhO2VB0
『今日はお前らはVIP村を襲え。村人を根絶やしにするんだ』

『でもお言葉ですが魔王様、さすがに勇者と無関係な村人を襲うのはどうなんでしょうか?』

『村人は壊滅し、荒れに荒れたVIP村を見て少しでも心が折れる勇者がいるならそれで良いじゃないか』

『わ、わかりました!直ちにVIP村へ向かいます!』

31 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:50:19.99 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「心の中では必死で止めていたが、なんせ声が出ない。結果的に手下達を止めることは出来なかった。
      だが、報告を聞いて驚いたぞ。VIP村は2人の犠牲者を出しただけで魔物達を追い返したんだってな」

( ´ω`)「それが……僕の両親だったんだお……」

(,,゚Д゚)「お前の両親はお前を助けるために命を賭したが、結果的に村を救ったことにもなったんだ。
     魔王の俺が言うのも何だが、お前の両親はよく頑張ったと思う」

( ;ω;)「トーチャン……カーチャン……」

優しかった両親の最期を思い出してまた涙が込み上げてくる。
―自分の両親は偉大な村人だったんだ―
そんなことを改めて思い知らされたブーンであった。

32 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:51:10.23 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「俺は設定上では攻めてくる勇者達を倒すだけが仕事のはずだ。なのに何故か村を襲わせてしまった。
     イベントってやつだが、俺はもうあんな思いはしたくない。だから今設定について調べているんだ」

( ´ω`)「僕は設定のせいで大切な親と友達を失ってしまったのかお……」

設定によって自分にもたらされた悲しい別れを振り返ったブーン。
今、彼の中は設定への復讐心で溢れかえっていた。

(#`ω´) 「尚更設定が許せねぇお。設定をぶっ壊す為にあなたの持ってる情報を教えてほしいお。そのために僕はここに来たんだお」

村人は怒り心頭でここへ来た本来の目的を口にする。

33 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:51:49.99 ID:RrmhO2VB0
(,,゚Д゚)「設定を壊す?そんなことしてどうすんだ」

さぞ驚いた様な仕草を見せて魔王は尋ねる。
魔王も設定を破壊するために情報を集めている。
そう思っていたブーンにとって完璧に予想外な言葉であった。

( ^ω^)「大切な人達の仇討ちだお。あなたも設定を壊すために情報を集めていたんじゃないのかお?」

(,,゚Д゚)「設定を破壊してもこの世は無秩序な世界になるだけで、お前の大切な人は帰ってこない。
      それに、俺が情報を集めているのは設定を変えるためだ。壊すためなんかじゃない」

(;^ω^)「設定を変えるってどういうことだお?」

(,,゚Д゚)「長年設定について調べた結果わかったんだが、設定は変えることが出来るらしいんだ。役職を変えたりイベントを回避できたりな。
     ただ、それは設定本体を見つけないと出来ない。今俺が調べているのは設定の在処なんだ」

34 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:52:15.30 ID:RrmhO2VB0
(;^ω^)「そうだったのかお……設定を壊せないんじゃ、僕の友達の仇討ちが出来ないお……」

(,,゚Д゚)「さっきも言ってたが、その友達ってのは一体何なんだ?」

( ^ω^)「ジョンとマイケルと田中とポールとトムと吉田だお」

(,,゚Д゚)「……?随分と多いんだな」

( ^ω^)「平たく言うと壺と樽とタンスだお」

(#,,゚Д゚)「ぶち殺すぞ」

(;^ω^)「サーセンwwwwwww」

この流れ、久しぶりだ。

35 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:53:08.51 ID:RrmhO2VB0
( ^ω^)「でもジョンとマイケルと田中は勇者に殺されて、ポールとトムと吉田は設定のせいで僕と離ればなれになっちゃったんだお。
       全員人じゃなくても僕の大切な友達だったんだお」

(;,,゚Д゚)「それくらいなら設定を壊さなくても勇者に仇討ちすれば良いんじゃないか?」

(;^ω^)「でも僕みたいな村人A如きが勇者に勝てるわけないし、勇者の敵の悪になるのも嫌なんだお」

(,,゚Д゚)「勇者を倒すのができないなら俺が手伝ってやる。お前の両親を奪ってしまった詫びも含めてな。
     悪になるのが嫌なら『相対の設定』を変えて正義と悪を反対にすればいいだけなんじゃないか」

( ^ω^)「つまり勇者が悪者になるってわけかお?そいつはナイスアイディアなんだお」

36 : ◆qvQN8eIyTE :2007/03/08(木) 22:53:34.29 ID:RrmhO2VB0
こうして魔王と村人Aの摩訶不思議なタッグが完成した。
悪を忌み嫌っていたブーンが悪の象徴でもある魔王と組むことになろうとは彼自身想像もしていなかったであろう。
そのきっかけは皮肉にも彼が壊そうとしていた設定であった。
もはや常識の域にまでなっている『相対の設定』まで変えることが出来る設定本体を探すため。

彼の今までに経験してきた悲しい別れは確実に彼の心の奥底に潜んでいた。
そして、その別れの経験と共に彼は新たな一歩を踏み出そうとしていたのかもしれない。


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