第1話

1 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:07:24.27 ID:FxYBFtF30
草木を揺らす風。地に住む人々を照らす太陽の光。
そこまで発展は進んでいないのだろうか。
家がまばらに建つ村の入り口付近で規律的に動いている男がいた。

( ^ω^)「ここは VIPの村ですお」

ー( ^ω^)は村人Aのようですー


2 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:08:02.96 ID:FxYBFtF30
(;^ω^)(メチャクチャ暇だお)

彼の名はブーン。
先祖代々村の入り口に立ち、微妙な存在感を尋ね人に与えてきた由緒正しき村人Aだ。
その役割は村の案内役なのだが、ほとんどの人が彼の言葉に耳を傾けるでもなく華麗にスルーしてしまう。
それ故彼は非常に退屈することが多かった。

( ^ω^)(第一何で僕がこんな役割なんだお?)
(♯^ω^)(他の小説ではヒーローやったり素敵な恋愛して脱童貞してるのに!)

彼が心の中で愚痴りまくっている時、1人の男が村に入ってきた。


3 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:08:46.45 ID:FxYBFtF30
( ^ω^)(誰か来たお)

( ・∀・)「……」

まさしくゲームの勇者のような姿。
服は中二病患者が着てそうな格好でありながらも機能性は高そうで、しかも何気に着こなしてしまっている。
彼の持つ肉体は痩せ過ぎもせず、かといって無駄な筋肉も付けすぎていない。
運動に最も適した身体。
さらに右手には剣、左手には盾と完璧な勇者仕様。

( ^ω^)(なりきり勇者乙wwww)

心では彼を嘲笑しつつも彼は自分の職務を疎かにする事はなかった。

4 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:09:32.79 ID:FxYBFtF30
( ^ω^)「ここは VIPの村ですお」

( ・∀・)「……」

華麗にスルー。
長年セリフを流され続けてシカトに既に慣れてしまっていたブーンは、ただなんとなく彼の行く先に目を向けていた。
すると、その尋ね人はさも当然のようにブーンの家へ不法侵入してしまった。

(;^ω^)(ちょwww犯罪者ktkr!)

とたんに耳に入ってくる様々な音。
ツボが割れる音、樽が投げられる音、タンスのドアが乱暴に開けられる音。
そして出てくる尋ね人。

6 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:10:29.43 ID:FxYBFtF30
( ^ω^)「ここは VIPのむらですお」

(♯^ω^)(ふざけんなお!僕の家に勝手に上がって何やってたんだお!)
彼はそう叫んだ……つもりだった。
しかし、彼の口からは仕事上のセリフしか出てこない。
彼はその無法者に駆け寄った……つもりだった。
しかし、彼の足は同じ所を規則的に歩くだけだ。

( ・∀・)「……」

ブーンが自分自身の設定に精一杯抗っているのも知らずに、その無法者はブーンの目の届かない場所へと消えていってしまった。
それがブーンと無法者『勇者』との初めての出会いだった。


8 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:11:01.36 ID:FxYBFtF30
( ´ω`)(とりあえず仕事の時間が終わらないと何も出来ないお)

昔からそう。
何故か彼は仕事の時間は同じセリフしか喋れず、同じ行動しかとれなかったのだ。
昔父親にそれは何故か聞いてみたことがあったが、彼はいまいち理解できてなかった。

(それはね、ブーン。『設定』のせいでそうなっているんだよ。)
(その『設定』のおかげで我が家系は先祖代々ずっと村人Aなんて名誉ある仕事をできてきたんだ。)

( ´ω`)(設定って一体何のことだお……)

彼が呆然と考え事をしてる間にも新たな尋ね人はやってくる。

( ^ω^)「ここは VIPのむらですお」

そう、今の彼には業務を淡々と続けることしかできないのだ。
機械的に同じセリフを喋り続けることに彼の存在意義はあると言っても過言ではない。

(;^ω^)(そいつはなかなか存在意義がねぇお)


10 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:13:59.06 ID:FxYBFtF30

時間は流れるものだ。
そして、その流れは流される者の心境によって大きく速度を変える。
楽しい時や嬉しい時などは急速に流れ、辛い時や苦しい時はまるで止まっているかのようにゆっくりと流れる。
今のブーンの感じている速度は後者だ。

(;^ω^)(まだあと1時間くらいあるお)

そして彼は言い続ける。

( ^ω^)「ここは VIPのむらですお」
( ^ω^)「ここは VIPのむらですお」
( ^ω^)「ここは VIPのむらですお」
( ^ω^)「ここは VIPのむらd(ry


12 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:14:36.39 ID:FxYBFtF30
遂に待ちに待った業務終了の時。
やっと自分の意志で動かせるようになった足で彼は家路へと急ぐ。
仕事終わりの疲れなど気にはしない。
あの無法者に荒らされたであろう家が心配で心配で堪らなかったからだ。

(;^ω^)「これは……」

ー凄惨ー

その二文字がぴったりと当てはまるであろう。
彼がバザーで変に惹かれて買ってしまった薄青い壺。
今や地面にただのガラクタとしてばらまかれている。
彼が小さい頃某ゴリラゲームにハマり、7歳の誕生日に買ってもらってから大切に保管されていた樽。
今や木と鉄の塊となり、転がすことは二度と出来なくなっている。
彼が村人Aに就任した日にお祝いとして親に買ってもらったタンス。
今や蝶番は外れ、ドアは閉まらなくなり、それの持つ機能は今後一切使用されることはないと告げられていた。


15 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:15:56.78 ID:FxYBFtF30
( ;ω;)「ジョン、マイケル、田中!」

彼は律儀に無機物にも名前を付け、それをペット、いや、友達のように大切に扱っていた。
それを突然現れた勇者風の無法者が勝手に破壊し尽くしたのだ。

( ;ω;)「なんでこんなことに……。あっ!そういえば『あれ』は大丈夫なのかお!?」

彼はその壊れた友達、ジョン(壺)をかつて乗せていた机に目を向けた。
そこには殴り書きしたメモが置いてあった。

「普通壺や樽にはゴールドくらい入れてあるだろ。常識的に考えて……」
「あとタンスの中にあった皮の服はありがたく貰っておくわ」
「魔王を倒すためのご協力感謝します。  勇者モララー」


18 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:16:43.33 ID:FxYBFtF30
( ;ω;)「モララー…許せないお!でもとりあえずは『あれ』が最優先だお」

そして彼は机の上に置いてあったであろうジョンの場所に目を向けた。
そこには小さな穴。
そして彼は床の上に悲惨に散らばるマイケル(樽)へと目を向けた。
そこには小さく光る針のような鍵。
その鍵を拾い上げ、机にあいた小さな鍵穴に差し込む。

カチッ

しっかりと差し込まれた鍵は隠された扉を示す。
机の下に人1人がやっと通れるような穴が開き、ピザ気味なブーンは突っかかりながらも掛けてあるハシゴを頼りにゆっくりと降りていく。


22 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:18:15.13 ID:FxYBFtF30
( ^ω^)「大丈夫だったお」

さすがに村人Aの家にこんな大それた仕掛けがあるとは思わなかったのだろう。
勇者も気付かずにいてくれたようだ。
そして、そこには『あれ』が確かにあった。

(;^ω^)「さすがにこれを取られたらまずかったお」

それは、両親の形見。
いくら平和なVIP村だといっても事件が全くないというわけではない。
5年前に村人Aとしての業務をこなしていたブーンは驚くべき光景を目にする。



23 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:18:50.65 ID:FxYBFtF30
遠くのフィールド上によく見られていた魔物。
何故かは知らないが絶対に村へは入り込まなかった魔物が大群でVIP村に襲いかかってきたのだ。
そう、RPGにありがちなイベントというやつである。
その時の心情をブーンはこう語る。

( ^ω^)「絶対にもう助からないんだと思いました。えぇ、絶望的でしたよ」

村人Aの職場は決まって村の入り口付近だ。
そうなると必然的に入り口から攻めてくる魔物の被害に一番遭いやすい。
近づいてくる魔物。ただ怯えて動けなくなるブーン。
そんなブーンが魔物に捕まるのは必然的であった。
ある魔物はブーンを殴り、ある魔物はブーンに噛みつく。
そこにあるのは確かな死であった。

25 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:19:21.47 ID:FxYBFtF30
そこへ息を上げながら向かってくる人影があった。
村人業をブーンに託し、引退したはずの両親の姿が見える。
ありったけの武器を担いだ姿で。


J( 'ー`)し「ブーン、痛い思いさせてゴメンね。今助けるからね」

(メ;ω;)「カーチャン……」

父「武器屋に頼んでありったけの武器を貰ってきた!今助けるぞ!」

(メ;ω;)「トーチャン……」



(;^ω^)(あんたにはAA無いのかお)

魔物の群れに吸い込まれていくように消えた2人。

26 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:19:54.32 ID:FxYBFtF30
そして三ヶ月後。
そこには何事もなかったかのように元気に皮オナするブーンの姿が。

( ^ω^)「あのとき両親が来てくれなかったら死んでたよ。今考えるとゾッとするね」

それにしてもこのブーン、ノリノリである。


27 : ◆qvQN8eIyTE :2007/02/28(水) 15:20:32.58 ID:FxYBFtF30
結果、両親は我が子を守り通すことは出来たものの、その儚い命を落としてしまうことになったのだ。
その時に渡された『あれ』をブーンはジョンとマイケルで入り口を隠した仕掛け部屋の中で、誰の目にも触れぬよう保管しておくことに決めた。
いつか使う時が来るかも……だから。

(♯^ω^)「これは無事だったから良かったもののジョンとマイケルと田中を壊しやがって……モララーとかいう勇者は許せねぇお!」

こうして彼は友達の仇を取るために復讐を誓った。
村人Aと勇者との運命の歯車が回ろうとしていた。


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