第37話「解かれた拘束」
45 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:04:49 ID:C0RcvdDk0
            , '´  ̄ ̄ ` 、
          i r-ー-┬-‐、i   暇だから投下するぜ
           | |,,_   _,{| 
          N| "゚'` {"゚`lリ 〜前回のあらすじ〜
             ト.i   ,__''_  ! 阿部さんがいたおかげでどうにかなった
          /i/ l\ ー .イ|、
    ,.、-  ̄/  | l   ̄ / | |` ┬-、
    /  ヽ. /    ト-` 、ノ- |  l  l  ヽ.
  /    ∨     l   |!  |   `> |  i
  /     |`二^>  l.  |  | <__,|  |
_|      |.|-<    \ i / ,イ____!/ \
  .|     {.|  ` - 、 ,.---ァ^! |    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l
__{   ___|└―ー/  ̄´ |ヽ |___ノ____________|
  }/ -= ヽ__ - 'ヽ   -‐ ,r'゙   l                  |
__f゙// ̄ ̄     _ -'     |_____ ,. -  ̄ \____|
  | |  -  ̄   /   |     _ | ̄ ̄ ̄ ̄ /       \  ̄|
___`\ __ /    _l - ̄  l___ /   , /     ヽi___.|
 ̄ ̄ ̄    |    _ 二 =〒  ̄  } ̄ /     l |      ! ̄ ̄|
_______l       -ヾ ̄  l/         l|       |___|

47 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:07:06 ID:C0RcvdDk0
 ビロードが襲われる1日前、深夜2時、広大な『セントラル』の何処か。


 市を統べる議会すらも知らぬその秘密の場所を、男は衣食住と研究を一緒くたにしていた。
 クローゼットの中に整然と並ぶ衣類は白衣ばかり。
 キッチンもなく生活臭と呼べる雰囲気は皆無。
 簡素な椅子とテーブルに置かれたのは簡素な食料(液体化食料バナナ味)と、吸殻で埋もれた灰皿だけ。
 絵に描いたような研究者の一室だ。
 周辺を囲う膨大なホログラムとタッチパネルを一望しつつ、男は本日23本目となる煙草に火をつけた。 

 着火と同時、ホログラムモニターの一つに慣れ親しんだ顔が映る。
 その音に気づくと男は足を組んだまま回転椅子を回してモニターに振り返った。
 男、フォックス=ラウンジ=オズボーンは、温和な笑みを浮かべてモララー=スタンレーの通話を歓迎した。

爪'ー`)y‐「夜分遅くにすまないな、モララー。監視の目は振っただろうね?」

( ・∀・)『勿論です。Hollow-Soldierのサポートは優秀です』

 フォックスとモララーのやり取りは殆ど携帯端末で行われている。
 公共のネットワークを利用したものではなく、独自のネットワーク上でだ。
 直接面を合わせての頼み事は、実は彼等にとってあまり例のない事なのである。
 しかし独裁者の片腕ともなると監視の厳しい日常を強いられ、モララーは通話一つにも細心の注意を払うようになった。

 監視しているのは他でもない議員共だ。
 恐らくはモナー・ヴァンヘイレンの差し金だろう。
 それに感づいたモララーはフォックスに仰ぐと、こちらもモナーに監視するようと指示を受けた。
 こうしている間にも、Hollow-Soldierはモナーの動向を見張り続けている。

( ・∀・)『とはいえ、あまり時間がございません。出来れば手短にお願いしたい』

48 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:08:59 ID:C0RcvdDk0

爪'ー`)y‐「うむ。承知している。それでだ……モララー、折り入って君に頼みがある」

( ・∀・)「頼み、ですか」

 物腰柔らかなフォックスであるが、こういう時ばかりは浮かべる笑みに少々謹慎さを欠く。
 歪な笑みはモララーにとって言わばスイッチを意味する。
 壁を敷き詰めるコンピュータが一丸となっても敵わぬその脳で、今度は何を企む?

 好奇心という甘美な情緒をくすぶり、モララーは主の次の言葉を待った。



  第37話「解かれた拘束」



 ツンから貰ったアプリケーションと持ち前の聴力を元に、二人のサイボーグは不利な現状に焦りを感じていた。

(´・ω・`)「ジョルジュさんへの追跡が正確すぎる。
      やはり敵は独自のネットワークを所有し、連携しているようだね」

 手首に巻いた携帯端末が中に映すホロと、視界に映るビジョンに目を行き来させ、ショボンが言った。
 バイクの後部座席に座るヒートも同様のデータを収集、顔を曇らせて返す。

49 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:11:04 ID:C0RcvdDk0

ノハ;゚听)「ジャミングなんて、出来ませんよね?」

(´・ω・`)「僕は所謂“量産型”だし、戦闘に特化したサイボーグだからな」

(´・ω・`)「尤も、それについて言えば、端末利用が制限される前とある友人に頼った。 
      多目的型のサイボーグでね。この手の妨害に強い奴で、信頼もできる」

ノハ;゚听)「何でそれを早く言ってくれないんですか!」

(´・ω・`)「連中だって良い耳してるだろうし、迂闊に喋るのは危険かなと思って。
      で、彼にはツン達の援護に回ってもらった。
      果たしてそれが正解だったかどうか、不安を覚え始めたけどね……」

ノハ;゚听)「不安? どうして? 早く本丸を叩くに越した事は……」

(´・ω・`)「どうやら自力の分析力に関しては僕の方が上手のようで、安心した」

ノハ;゚听)「うっ……自分で考えるのはちょっと苦手です……仕事もゴリ押しの営業ばっかだったし……」

 つくづく、戦闘バカ。ショボンはそう胸中で呆れた後、推測を述べ始めた。

(´・ω・`)「恐らく、いや、十中八九そうだろう。敵は現存勢力のほぼ全てを第4階層に集結させている。
      スタンレーラボも先の戦いで得た損失は手痛いはずだ。
      音から推定するに現在第4階層にいるクローン兵は20数名。
      議会堂の護衛も重要だろうに、この人員の多さは何だ?」

ノハ;゚听)「……モナー総統という後ろ盾を失っても、モララーにとっては大した損失ではない、とか?」

(´・ω・`)「いい推理だが、少し飛躍しているように思えるな」

50 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:12:26 ID:C0RcvdDk0

(´・ω・`)「ともかくモララーは、ジョルジュさんとビロードが狙いなのさ。      
      もっと正確に言えば本命はジョルジュさんだろうね」

(´・ω・`)「ビロードを確保する機会なら幾らでもあったはずだ。
      しかし敵は一度それを放棄に近い形で延長し、あの子を餌として利用した。
      ジョルジュさんを誘い出す為のね。事実、ツンはジョルジュさんに応援を要請、
      こうして避難令が出されるまでに至ったが、幾らなんでも街を巻き込むなんて規模がデカすぎる」

(´・ω・`)「ジョルジュさんは完全な感染者として仕立て上げられたのさ。
      街を統べる一議会員として感染者を処分したいのか、
      それとも研究対象として確保したいのか……理由は定かではないが、
      モララー・スタンレーはジョルジュさんに狙いをシフトさせたんだろう」

ノハ;゚听)「モナー総統を言い包めるのも簡単でしょうね」

(´・ω・`)「そうだな。元々ウィルス治療なんて発見されていないからね。
      IRON MAIDENも治療法ではなく延命みたいなもんだ。
      ああやって街を飛び交ってるのを傍から見れば、セカンドの暴走行為とも取れるだろうね」

ノハ;゚听)「セカンドがバイクに乗って暴走って考えると、無理がありませんか?」

(´・ω・`)「ギコ・アモットの例がある。
      ギコという男は、意思を保ちながらも憎悪に駆られ暴走したと聞く」

ノハ;゚听)「あ……」

51 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:13:34 ID:C0RcvdDk0

(´・ω・`)「まあ、セカンドとは解明されていない部分を多く秘める存在だし、
      人がどのように想像しても何もおかしい事はないからね。
      僕の憶測だって、いずれも意味を持たないだろう。
      ともかく今僕達がやるべき事はジョルジュさんとビロードを守る事だ。
      多勢に無勢だが、ツンがモナー総統の誤解を解くまで時間を作るぞ」

 目的地までの距離を二キロと控え、ショボンが銃器を手に取った。
 マシンガンの弾倉にガンベルトを流し、セーフティを外した。

(´・ω・`)「さて、お喋りはここまでだ。ヒートさん、無理は承知の上だが、いけるね?」

ノハ;゚听)「……ええ、いける――――って、ちょっとショボン! この反応って……!?」


(;´・ω・`)「故障じゃない、か……クソッ! 最悪の展開だ! とにかく急ぐぞ!」


  ___

52 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:14:43 ID:C0RcvdDk0
 第3階層とは『セントラル』の中枢機関そのものである。

 市民の生命活動に不可欠な水と空気の供給は第2階層全体に犇く無人機とシステムが担う。
 精密に練りこまれたプログラムを搭載した無人機とシステムはAIに近い存在だ。
 メンテナンス以外に人の手を煩わす事のない機械達は、故に高い利便性を賛美される。
 機械無くして今の生活は有り得ず、また、『セントラル』も有り得なかった。 

 が、人々は行政や経済までオートメーションに依存しなかった。
 行く末を決めるのは人自身の手と知能だ。
 セカンド共に蹂躙され地下へと追い込まれた人々も、元々は自由を貫く国民である。
 自治欲を放棄し機械に求めていれば、とうに街は卑劣な犯罪者共に支配されていたであろう。

 それに人々は働く事に熱中したかった。
 家庭の重荷を忘れ仕事に打ち込むサラリーマンと同じで、人々はそうして悪夢を忘れたかった。
 何も現実逃避の手段は娯楽に限らない。
 あるいは、娯楽を生み出したいが為に知恵を絞った。

『セントラル』においてもラボとは新製品の研究と開発を行う施設を示す。
 開発されるのは対セカンド兵器だけでなく、住宅地や生活用品、家電、果てはゲームと幅広い。
 ありとあらゆる製品が、市場たる第4階層へと流れる、そんな構図が仕組まれているのだ。

53 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:16:08 ID:C0RcvdDk0
 故に第3階層には数多の施設が一挙に集う。
 媒体を問わず情報を流すメディア局、資材の流通などを担うオフィス、
 老若男女と数多の生徒を歓迎する学校、病院、電子図書館、公園、会議場、公共並び個人の資材倉庫、ラボ、
 そして議会堂。
 中央エレベータと共に聳える議会堂の周りには、多くの施設と建造物が整然と立ち並ぶ。

 地面から天蓋までの距離は最大400メートル強。
 天にまで昇るのは何も中央エレベータだけでなくオフィスビルもそうだ。
 此処は地下に模された摩天楼なのである。
 ふと視線を上げれば都市の巨大さに圧倒され、如何に自分が矮小な存在なのか自覚するだろう。
 そしてここが地下である事すらも、忘れてしまうのかもしれない。

 迷子は珍しい事ではない。
 詳細なマップを閲覧しようが自分の現在地すら見失う者も少なくない。
 複雑に入り組んだ構造を利用したハイド&シークを嗜む若者がいるくらいなのだ。

 とはいえ犯罪者を追う警察官となると話は異なる。
 都市構造が犯罪者を味方すればそれは本末転倒と言えよう。
 そこで活躍するのが、改装以前から設置されていた無数の監視カメラである。

 端末から監視システムにアクセスして犯人の居所を早急に察知。
 情報は厳重なセキュリティ下にあるネットワークを通じて共有され、いとも容易く犯人は追い込まれる。
 この常套手段は公にされ、恐れた犯罪者達は成りを潜めたのである。
 ただし、不可侵と謳われたネットワークの安全さえ保たれれば、だが。

54 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:19:24 ID:C0RcvdDk0
 警察に代わり頭角を現したクローン兵も、『セントラル』においてはネットワークに依存した一種の警察機関だ。
『セントラル』全体が軍隊を目指すのなら、その内部秩序と規律を維持する彼女達は「憲兵」といえよう。
 彼女達は警察と同じく監視カメラのシステムにアクセスし映像を閲覧し、情報を共有する。
 そして警察を凌駕する機動性を持ち、より迅速な犯人逮捕を期待される存在である。

 己の手で公共のネットワークを停止し、更に外部からの介入で私有の通信機関まで妨害された現状。
 彼女達が得意とした情報取得は、一般市民と何ら変わらず五感に頼る事になってしまった。
 こうなればHollow-Soldierであれど、たった3名で広大な議会堂周辺から標的を見つけ出すのは困難に陥った。

(  〓 )「探せ! まだ近辺にいるはずだ!」

 クローン兵の一人が声を張り、遠方の兵との連携を取る。
 こうして声を上げて意思疎通するのは、彼女達には初めてとなる行為であった。
 電波障害を促すジャミングを張られた今、彼女達が得意とする情報シェアとネットワークアクセスは封じられていた。
 警察や議会の管理下にあるシステムにアクセスさえすれば、ツン達3人の居所を探るのは容易い。

(  〓 )「ジャミングは“晴れぬ”か……手を焼かせる」

 生身の警察官であれば、閉塞的な状況に対しあからさまな苛立ちを見せるだろう。
 だがクローン兵は、言葉と反して顔は無表情である。
 感情を制御された彼女が舌を打とうとも苦言を漏らそうと、それは決して苛立ちなどではない。
 System-Hollowのプログラムが作用し、現状をそのように評価しただけなのだ。

55 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:21:52 ID:C0RcvdDk0
 ガチャリ、とブルーエネルギー照射機を鳴らし、エネルギーを装填した。
 Hollow-SoldierNo81とナンバリングされた者はカード型のキーを切って倉庫のドアを開いた。
 第3階層内のどんな建物にも立ち入る事を可能とする万能キーだ。

 足音を消してコンテナからコンテナへと移動して内部を探った。
 耳をそば立てて臨むが不穏な物音や声は一切聞こえない。
 ドロイドの忙しない駆動音が虚しく響くだけである。

(  〓 )「ここもハズレか」

 断定するや彼女は出入り口に向かって走り抜ける。
 ともかく、ネットワークへのアクセスが叶わない現状、捜索するに当たり走るしか手段が無い。
 広大で雑多な街並みを見渡し、彼女はマスターに仇名す者達の追跡を続行する。


<_プー゚)フ「連中、どっかに行ったぜ。一先ずここは安全そうだ」

 公衆トイレの窓辺から覗いていたエクストが小さく言った。
 ツンはほっと胸を撫で下ろすが、一方で阿部は得意げにほくそ笑んだ。

阿部「足音で分かるさ」

 阿部は単なるカレー屋の店主ではなく、実態は高機能多目的型サイボーグだ。
 他州で同性愛婚が認められるようになって50年ほどになるが、彼等ゲイやホモと呼ばれる人種はやはり珍妙である。
 その手の趣味を持たない男性は、彼等が人権を認められた事を賛美するより軽蔑する方が多いだろう。
 エクストもその手の趣味はなく、阿部の妙に色っぽい視線に気づくと、ぷいと顔を逸らした。

56 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:24:25 ID:C0RcvdDk0

阿部「おいおい、別にとって喰おうってんじゃねえぜ?」

<;プー゚)フ「うるせえよホモが! 気色悪い目を俺に向けるんじゃねえ!」

阿部「おっと、そんな目で見ていたとは気づかなかった。ま、確かに君、可愛いからね」

<;プー゚)フ「お姉ちゃん何とか言ってくれ! こいつもうヤダ!」

ξ゚听)ξ「我慢なさい。それより……えと、阿部さん、だったわよね?
      まずアタシ達を助けてくれた事を感謝するわ。
      で、さっきの問いに答えてもらっても?」

 ツンはふてぶてしく腕を組んで尋ねた。
 キリスト教徒である彼女にとって、同性愛者とは本来軽蔑すべき対象であるが、高圧的な態度に出た理由は別だ。
 それに、もしもツンが敬虔な教徒であるのなら、ショボンとも交流を持たなかっただろう。

 今は時間が惜しい状況であり、悠長に話している場合ではないのだ。
 阿部もそれを把握しており、

阿部「手短に済まそう。君の言う通り、俺はベンチに腰掛け空を眺めてたんじゃない。
   俺は兼ねてよりの友人であるショボンから連絡を受け、彼に頼まれてここに来たんだ。
   君の護衛の為にね」

57 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:26:21 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「ショボンからですって!? アンタ達一体、どういう関係よ?
       ただのホモ仲間って訳じゃない……わよね?」

阿部「おいおい、時間が惜しいのにいいのか? まあ簡単に答えてやる。
   確かに俺とアイツはただならぬ仲だ」「

<;プー゚)フ「ただならぬって……」

阿部「誤解するな。単にそういう仲なんじゃない。
   俺とアイツは嘗て中東戦争で共に諜報員として参加したサイボーグなんだよ。
   俺は敵のシステムに侵入するクラッカー、戦闘に特化したアイツがその護衛としてね」

ξ;゚听)ξ「あのショボンが戦争の参加者……話の腰を折ってごめんなさい。続きをお願い」

阿部「で、だ……ショボンとの連絡の最中、通信が途絶えたんだ。
   通信システムのインフラ整備だとメディアが報じたが、きな臭いと思ってね、
  『セントラル』のネットワークシステムの中枢に侵入したって訳だ。
   覗いてみるとこれが驚き、整備なんぞ実施されてなかったのさ」

ξ;゚听)ξ「やっぱり、敵の仕業だったのね……」

阿部「ああ。しかし自宅からシステムに介入するのは不可能でね、とりあえずショボンの指示に従い3階層に向かった。
   ベンチに座って周辺の様子を伺っていると、見覚えのある女性が広場にやってきた。
   一瞬目を疑ったが俺のデータがクー・ルーレイロ本人だと証明し、俺は悟られぬよう彼女を監視する事にした」

ξ;゚听)ξ「クー・ルーレイロ?」

58 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:28:25 ID:C0RcvdDk0

阿部「いつかのミスコン準優勝者で、スタンレーラボの研究員……元、な。
   モララーが提出した報告書によれば彼女は実験中の事故で亡くなったとされているが……
   本当にそうなのかもしれないな。今生きているクーとは、いずれもコピーだろう。
   当の本人は口封じの為に殺害されたか、クローンのベースとして保存されているのかも」

ξ;゚听)ξ「思い出した。アタシも出場したコンテストの……」

阿部「そうだ。君がわざわざ豊胸手術してまで出場した、いわくつきのコンテストだね」

<;プー゚)フ「ほ、豊きょ――」

ξ;///)ξ「ととととともかく! そこにアタシ達が来て今に至るのね!?」

阿部「そういう事だ」

阿部「それともう一点補足しておく。
   俺は電波傍受に長けていてね……この一帯に妙な電波が飛び交ってたのが分かった。
   連中が独立した通信機能を有してコミュニケーションを取っていると推定し、
   ジャミングの用意をしていたんだが、正解だった」

阿部「するとどうだい。今もジャミングは継続しているんだが、連中、
   統率を失ったような動きを見せ始めたぞ。
   チェックの済んだ倉庫を30秒後に別の誰かが見に行ったみたいだ。
   傍から見るとトんだ大間抜け共だぜ」

59 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:29:09 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「つまり彼女達の弱点は……」

阿部「そう。通信の妨害だ。独自のネットワークを持つようだが、俺にとっちゃ大した事ないね。
   尤も、ジャミングは俺を中心に400メートル範囲にしか機能しない。
   ここから下層で戦ってるショボン達の手助けはしてやれないぞ。
   かといって、今から下層に向かうにも時間もないし手段もない……さて」

阿部「連中が戻ってくる気配がない。頃合だ。
   議会堂に侵入しよう。妨害があれば俺が排除する。
   現役時代の装備をしこたま仕込んで来ている。バキュームカーに乗ったつもりで安心しな」

ξ;゚ー゚)ξ「今でも十分現役って感じだけど? OK! ここからはアンタの判断に従う!」


阿部「オーライ。それじゃあ行こう!」

 まず、入り口から一帯を見渡し、安全を確認して阿部が走る。
 広場に戻り、身を低くしてベンチや木々の影に隠れた。
 阿部が手招きを始め、ツンとエクストが全力で走り抜ける。

60 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:32:14 ID:C0RcvdDk0

 肩で息をするツンとエクストに、阿部は肩越しに言った。

阿部「議会堂周辺に気配はない。恐らく内部に警備を配置しているだろう。
   戦力の大部分を第4階層に割いているとは思うが、派手な戦闘になる事も覚悟しておけ」

 街灯や照明は数多く建っているがそれでも夜分につき暗い。
 銃を構えたクローン兵が暗闇に紛れているのではないか、生身のエクストはそう思っていた。
 しかし先導を担う阿部はサイボーグだ。
 生身の者には知りもしないような情報を当たり前のように収集している存在だ。

ξ;゚听)ξ「了解、心得たわ」

 今やサイボーグ工学の第一人者であるツンがこくりと頷いたのを見て、エクストはサイボーグの機能を思い知る。
 阿部はひょうひょうとした男だが戦いというものを熟知しているようだ。
 自分とは懸け離れた存在。
 そして、自分が目指したい存在が、目の前にいるのだと改めて気づいた。

 少しばかり間を空いたが、エクストが無言で何度も頷いたのを見、阿部は続けた。

阿部「よし。では博士、セーフティを解除し忘れるくらいじゃ腕前に期待できんが一応持っておけ」

 ツナギの腰周りにずらりと並べられた機械の一つを手渡す。
 形状は銃、カートリッジに埋め込まれた残量メーターが、これを小型エネルギー発射機器だと決定付ける。
 女手にも軽く、とりわけ特殊合金製の両腕を携えたツンであれば使用に難はなさそうだ。

61 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:36:12 ID:C0RcvdDk0

<;プー゚)フ「俺は!? 俺のは!?」

阿部「お前さんは敵の人質にならんように俺のケツにピッタリとついてこい」

<;プд゚)フ「ちぇ……」

ξ;゚听)ξ「エクスト君、遊びじゃないのよ」

<;プ−゚)フ「ンな事ァ分かってるよ! ただ、よぉ……」

阿部「いい男になったら銃の撃ち方を直々に教えてやるさ。さ、行くぞ」

 阿部が駆け出した。
 ツン、エクストと、阿部の進路を正確に追って行く。
 しかし阿部とツンが言い包めたと思っていたエクストは、ほんの少し遅れていた。

<;プ−゚)フ(モナー総統の誤解を解くネタってだけかよ、俺は……!)

 エクストは雑念を禁じえなかった。
 挙動に陰りが見え始め、足取りはどことなく重く、終いに余所見などをしてのける。
 彼からすれば周辺に気を配っていたつもりなのだが、そんなものは阿部がとうに終わらせている。
 エクストなりに役に立ちたかったのであるが、この場においては余計な行動に過ぎない。

 しかしその最中、エクストは思い掛けない物の存在を発見してしまった。

 先を行く阿部とツン、それから再び周辺にいるかもしれないクローン兵を警戒した。
 何も告げず阿部の進行ルートから外れ、急いで数メートル先に落ちている物を拾い上げた。
 阿部がこちらを見ているような感じは無い。

63 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:40:30 ID:C0RcvdDk0

<;プー゚)フ(しめたぜ……!)

 それはショウウインドウにずらっと並んだ数々の宝石よりもずっと眩く見えた。
 まるで手招きしているようだったし、自分に誂えた物のように思えた。
 二人の様子を確認した後、取り上げる。ツンの持っていた小型BlueBulletGunだった。
 銃をベルトの後ろに刺し、エクストはしたり顔を浮かべてツン達の元へ戻った。

ξ;゚听)ξ「……アンタ、どうかした?」

 僅かに遅れてきたエクストを、ツンは訝しげに見つめた。

<;プー゚)フ「ん? いや、別に」

 顔の緩むのを堪え切れなかったが、ツンが「そう」と返し顔を背けると、エクストはほっと脱力した。
 しめしめと、更に悪戯に口元を釣り上げながらエクストは腰の物を愛しむように摩った。

阿部「エクスト」

 すると不意に名前を呼ばれ、エクストは総毛が立つのを感じた。

阿部「もう一度勝手な行動を取ったら張り手を見舞うからな」

<;プー゚)フ「あっ……バレてた?」

64 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:41:11 ID:C0RcvdDk0

阿部「ったく……仕方ない、博士。エクストの銃のセーフティを解除してやれ」

ξ;゚听)ξ「あー! アンタ、いつの間に……抜け目ないわね……」

<;プー゚)フ「ヘヘッ、だってよぉ、俺だってホラ! 役に立ちてえじゃん!」

阿部「そんな物を使わずに済むのが最善なんだがな。まあ無理もないか。
   ガキの時分ってのは銃を握りたがるもんだ。頼むから俺のケツに弾丸をくれてやんなよ?」

 阿部の辛辣な物言いにツンは何か言いかけたが口を噤み、エクストを一瞥してから後を追った。
 エクストは押し黙った。
 理想とは懸け離れた現実を彼は感じ、複雑に交錯する思いに苛立った。

<;フ− )フ「……ちくしょう!」

 それでも瞳を潤ませたりせず、確かな足取りで内部へと続く階段を駆けていった。
 学ぶべき父、リレント・プラズマンは失った。
 リレントは強化外骨格OSM−Suitを纏いセカンドと勇猛果敢に戦う戦士であった。
 B00N-D1の活躍と比較すれば父の戦歴など霞むのは事実であるが、それでもエクストにとって父こそ真の英雄であった。

 将来は共に肩を並べ街に立つ事がエクストの夢であった。
 食卓を囲っている際に夢を物語ると、父は学道など真っ当な生き方を賞賛して勧めたものだった。
 ただ、呆れた物言いをする父の顔はどこか嬉しそうであった。

 父の誇らしい戦いは数少ないデータを閲覧するしか見る方法がなかった。
 それは今後も変わらず、決して増える事もなく。

 だから今は、目の前の男に従い、彼から習うしかなかった。

65 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:46:18 ID:C0RcvdDk0
 終業時間を迎え節電状態にある議会堂内部は暗かった。

 外に比べ照明機具は多いものの発光はどれも控えめだ。
 長く続く廊下の先を肉眼で見るのは少々難儀である。
 生身の二人は暗闇に不穏を感じるが、反して阿部は堂々と直進し続けている。
 彼には味気ない装飾一つも鮮明に見えているだろうが、一つも目をくれず駆け抜ける。
 澱みのない足取り、しかし足音を殺す彼に習い、二人も何とか模して付いてゆく。

ξ;゚听)ξ「連中がどこにいるのか分かる?」

 一つ、角を曲がる際に、ツンが阿部の耳元を打った。
 阿部は目線をツンへと移さず、唇も殆ど動かさずに返す。

阿部「気配から察するに一階ではないな……2階か、3階。もう少し情報が欲しい」

 ツン、エクストは細長くもだだっ広い空間を目を凝らして一望する。
 議会堂内部は数多の部屋を有しながらも構造はシンプルだ。
 一般的な学校に似通う部分が多い。
 長く伸びる廊下の左右に並ぶドアはいずれも会議室へと続くもの。
 あるいはトイレであったり休憩所であったり、喫煙所などもある。
 荒巻政権時代ではどれも存在意義を有していたが、軍備増強その他縮小のモナー政権下の今となっては持て余しそうな数だ。

 一同はとりわけ重厚な扉を有する箇所に到達する。
 ツンはそこで止まるものかと思っていたが、直進を続けようとする阿部に思わず尋ねた。

66 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:47:04 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「ちょっと待って。エレベータは使わないの?」

阿部「この静けさでエレベータの駆動音は目立つかと思ってな。
   階段の方が無難だろう。発見された際に応戦もしやすい」

 と、阿部が講釈している最中、まさにそれと思わしい音が上方より響いた。
 阿部とツンは一斉にエクストへと視線を注ぐが、本人は怒りを孕む目で返し、首を振って否定した。
 エレベータが一基、降りてきている。
 くいと指を折り曲げし阿部は自分の背後に二人を並べ、エレベータの壁際に臨み何者かの到着を待つ。
 左手に銃、右手には一度クローン兵を無力化した実績を持つスタンがある。

 キィン、エレベータが甲高い音を打ち同階への到着を知らせる。
 重厚な扉が左右に分かれ、中から出てきた者はスーツ姿の初老の男であった。
 凝った形の襟章は議会員を証明するように輝きを放つ。
 彼は阿部達に気づかず、気持ちのよさそうな欠伸をしながら正面玄関の方へ身を向けた。

 ツンは発見されなかった事をほっと胸を撫で下ろした。
 そのまま帰路に就き床に就くだろう彼を見送るつもりでいたが、あろうことか、阿部が男を急襲する。
 目を見開き驚愕するツンが自分の口を押さえた。
 男も同様であった。
 男は阿部に口を押さえられ、目は恐怖で見開いていた。

 呻き声を漏らし、足をばたつかせる初老の男。
 しかし口を塞ぐ何者かの力が常人ならざる事に気づくと一切の抵抗を止めた。
 阿部は震え上がる男の耳に囁いた。

67 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:48:00 ID:C0RcvdDk0

阿部「これはサプレッサー付きの銃だが、アンタの死体を処理するのは面倒だ。
   言いたい事は分かるだろ? 指で答えな。モナー総統達がいる会議室は何階にある?」   

 初老の男はやはり震えた手を掲げ、指を3つ立てた。

阿部「3階の会議室なんだな。では何番の会議室だ? 」

 男は指を折り2と示す。

阿部「近辺の警備に当たっているのはクローン兵だな? 知る範囲でいい、何人いる?」

 男は指を3に戻す。

阿部「協力に感謝する」

 阿部は白髪混じりの男の背を容赦なく突き飛ばし、地に転がす。
 その背にはスタンが仕掛けられていた。
「ヒッ!」そう小さく漏らしたと同時、男は高圧電流に見舞われた。
 
 初老の男が白目を剥き、泡を吐き、最後に失禁したところで阿部はスイッチから指を離した。
 整髪量で七三にまとめられた髪も、クリーニングに掛けたばかりのスーツも、
 でっぷりと肥えた腹も貫禄の議員が、見るも無残な姿へと変貌していた。

68 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:49:39 ID:C0RcvdDk0

 非道を極める所業を平然とやってのける阿部に対し、エクストは怯えた目を向けていた。

阿部「情に流されれば命取りになる」

 その視線に気づいた阿部が冷酷に告げた。

 エクストと同じく、ツンも罪無き人に手荒なマネをしたと心を痛めていた。
 だが阿部の言う事が正しかった。
 ナイトウに聞かせてやりたい言葉だと、ツンは独り胸中でごちた。

阿部「幸運に恵まれ連中の居所が分かったな。
   ツン、気が変わった。エレベータでいっちまおう。
   3人程度の警備なら俺一人で制圧できる。今は外のクローン兵が戻ってくるのが心配だ」

ξ;゚听)ξ「りょ、了解! 頼りにしてるわ!」

 一同はエレベータに乗り込む。
 エクストが操作パネルに触れる直前、阿部が遮ってエレベータを操作した。

<;プ−゚)フ「何だよぉ……」

阿部「押し間違えらたりしたら堪らんからな」

<;フ− )フ「チッ……何だよそれ……」

 エクストは顔を膨らませてそっぽを向いた。
 同時にエレベータが思い響きを伴って閉まる。
 確かに人気のない今、エレベータの動きは目立つかもしれないとツンは思う。
 しかし利用者がいる事を先ほど知り、そこまで臆することでもないと改めた。

69 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:51:49 ID:C0RcvdDk0

阿部「まず俺が安全を確保する。合図があるまで音を立てずに待ってるんだ」

 2から3へランプが移り変わる直前に阿部が言った。
 扉が開き、清潔な匂いが微風に乗りエレベータ室内に入り込んだ。
 廊下には足音一つも響いていない。
 気味の悪い静けさにツンとエクストは唾を飲んだ。

 念を押して阿部は手を翳して二人を制し、機を見て廊下に飛び出す。
 膝を立て、両腕でハンドガンを構えた。


(  〓 )「なに――――」

 物音に気づいた巡回中のクローン兵が振り返ったと同時、阿部の銃撃。
 アーマーピアシングが硬いフェイスカバーを貫き、口内に血を溢れさせて黙らせた。
 後頭部に穿たれた綺麗な穴からも栓を抜かれた樽が如く、生臭い液体を垂れ流す。
 クローン兵とはいえ頭部を破壊されれば沈黙するらしく、彼女は痙攣こそすれど反撃の素振りは見せない。

70 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:53:34 ID:C0RcvdDk0

阿部「あと二人……!」

 阿部は腰だめに銃を構え、臨戦態勢を保つ。
 サプレッサーは音を消すが死体が臥す際の音までは消せない。
 急襲と言えるのはここまでだ。
 ばたんと響き渡って間もなく、目的地の方から何者かが足早に駆けつける音が聞こえていた。

 クローン兵の一人が宙を舞いながら、角から現れた。
 素早い動作で壁を蹴り、且つ、阿部の銃撃を避けながら間合いを一気に詰める。
 両者共に運動性能は高い水準で均衡。
 尽く中空を切る弾丸と光線、同等以上の速度で駆ける二人。
 衝突寸前、同時に繰り出したストレートで両者の体が飛んだ。 

阿部「ぐ……!!」

 頭を地に叩き付ける寸前、阿部の放った弾丸がクローン兵の体幹を裂いた。

 しかし安堵に浸る猶予はない。
 新手の気配だ。情報通り一人――――来る。
 阿部はどうにか立ち上がり、声を上げ、姿を見せた敵に突撃した。

71 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:54:55 ID:C0RcvdDk0

(  〓 )「チッ!」

 お互い手首を撃ち落した。
 流血、紫電と迸りながら粗暴な殴り合いに転ずる。
 強靭なクローンの身体から繰り出される体術は、先ほど僅かに劣化した阿部のそれを上回る。
 阿部の動きに陰りがあった。
 阿部はスタンを仕掛ける機械など与えられず、じりじりと追い詰められ防戦を強いられる。

<;プ−゚)フ「っにゃろう!」

 そこで、二人が予想だにしなかった第三者、エクストが場に介入した。
 彼に一瞬見とれたクローン兵の隙を突き、阿部が強烈な蹴りを後頭部に与える。
 クローン兵は滑るようにして倒れこみ、エクストの手の届く位置に無防備な頭を晒した。

<;プД゚)フ「――――――――ッ!!」

 瞬間、乾いた音が廊下に木霊した。
 クローン兵のマスクに弾痕が穿たれている。
 徐々にエクストの足元へ血が忍び寄り、エクストは腰を抜かして後ずさりした。

<;プД゚)フ「う、わ、ああ、ああああ……」

 エクストの持つ銃から、僅かに硝煙は上がっていた。
 しかしながら彼の放ったエネルギーの弾丸は、大きく逸れて地を抉るに過ぎなかった。

72 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 03:57:05 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「はあッ、はあッ」

 レーザーが銃身を焦がす独特の匂いがもう一つ、エレベータ内からも流れていた。
 クローン兵に弾丸を直撃させたのはツンだった。
 エレベータ前に滑り込んできたクローン兵を見るや、反射的にトリガーを絞ったのだった。

 ツンは息が整わぬ内にエレベータを出てエクストに歩み寄る。
 手を差し出して彼を立たせ、恐らく鬼の形相を浮かべているであろう阿部を共に待った。
 が、阿部は呆れた風に頭を掻きながら、

阿部「いや、咎めやしないよ。助かった、博士」

ξ;゚ー゚)ξ「いえ、こちらこそ」

 長い緊迫から解放され、ツンは溜め込んだ息をどっと吐いた。

阿部「だがなエクスト。金輪際一線に足を踏み入れるんじゃない。
   お前さんのような子供が穴倉の外に出るには、まだ早い」

ξ;゚听)ξ「本当よアンタ! いきなり飛び出したり、何考えてるのよ!」

<;フ− )フ「……悪かった、悪かったです。俺、まだこんなの……無理、でした……」

阿部「分かったんならいいさ。まあしかし、正直助かったぜ。勇敢だよ、お前さん」

<;プ−゚)フ「阿部さん……」

ξ;゚听)ξ「でもこれで残るはあと一人! モララーに引導を渡してやろうじゃないの! 行きましょう!」

 三人はモララー、モナー待つ第2会議室へと走る。

73 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:01:00 ID:C0RcvdDk0
 あれだけ派手な銃撃戦があったというのに、どよめきといった雰囲気が先々から伝わってこない。
 会議室のいずれも防音に優れているお陰であろう。

 今頃モララーが我々の死体を想像してほくそ笑んでいる頃だろう。
 侵入者が目と鼻の先まで来ているというのに。
 してやったりと、ツンは不敵な笑みを浮かべた。

 第2会議室前に辿り着いた。
 ツン、エクストには途方もなく長い道程に感じられた。
 しかし、ここからであった。
 モララーの目論見、真相を暴いてやらなければならないのは――――

 一同頷いて意思疎通し、阿部がドアのタッチセンサーに手を翳した。
 ドアが開いた瞬間、阿部が吼えるように第一声を発した。

阿部「動くな! 全員その場を動くんじゃない!」

ξ;゚听)ξ「モララー博士! 直ちに全クローン兵に攻撃停止を呼びかけなさい!」

 議会員達は一斉に視線を阿部に注ぎ、銃の携帯に気づくや諸手を挙げた。
 モナー・ヴァンヘイレンも戸惑いながら要求に応じる。

 その中、懐に手を忍ばせる者がいた。モララー・スタンレーだ。

74 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:03:30 ID:C0RcvdDk0

( ;・∀・)「ぐあっ!?」

 そのモララーが両膝を撃ち抜かれる。
 彼の想像と予想の範疇を越えた、背後からの一撃であった。
 すかさず阿部はモララーに飛びつき、身動きが取れぬよう間接を決める。

 かつかつと、その者は空恐ろしいまでに静かな足取りでモララーの前に立った。

( ;・∀・)「な、何を……くう……ふ、ふざけるな! 貴様に私を撃つ理由は、ないだろう!」

 地に伏したモララーは頭を動かしてその者を見ようとした。
 するとその者は眉一つ動かさず、モララーの眉間に銃口を定めて告げる。


( ´Д`)「動くなと言われたろうが、モララー。ん? こんな理由では不服かね?」


(;・∀・)「グッ、モナー……貴様……!」


ξ;゚听)ξ「モ、モナーさん!?」

( ´Д`)「さて……同じく、断りなく動いてしまった私に君達が攻撃しないとなれば、
       モララーに用があって此処へ来たと察するが……?」

75 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:05:41 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「もしや彼の企みに気づいていたのですか?」

( ´Д`)「いいや……何か裏があるような気はしたが……しかしコイツはね、
       ツン君、荒巻を暗殺した張本人なのさ。今日も何度か不審な動きを見せてくれもした」

ξ;゚听)ξ(ドクオの言ってた事、まさか本当だったなんて……)

( ´Д`)「良い機会だ。聞け、モララー」

( ´Д`)「私はね、いつ君に寝首を掻かれるのかと、不安を抱えていたのだよ。
       だからな、どうやって君を排除しようか常に考えていた」

( ´∀`)「独裁権を持つ身とはいえ、あからさまな処刑は避けたいのでね。
       市民の信頼を失いかねんのでな……君を牢にぶち込む正当な理由が欲しかった。
       それが、たった今、ここに舞い込んできたのだ……フフッ」

( ´Д`)「私を上手く操っていたつもりのようだが、侮るな。
       これでもな、争い絶えぬ米国の政界で長年生き長らえてきたんだ」

(;・∀・)「この、タヌキめ……!」

( ´Д`)「黙れ。ではツン君、まず君から聞こう。コイツの企みとは一体何だね?」

ξ;゚听)ξ「は、はい」

76 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:07:38 ID:C0RcvdDk0

ξ;゚听)ξ「モナーさん、まず彼、モララーはビロード・ハリスの誘拐を目論見ました。
       貴方の政権樹立と共に囁かれたテロリストの噂に乗じ、
       特殊な細胞を持つビロードを保護するという名目で、クローン兵で我々に接触したのです」

ξ;゚听)ξ「彼女はこうも言いました。私、ツン・ディレイクとの交渉など端から予定にない、と。
       その際の証言者もここにいます。
       このエクスト・プラズマンはテロリストの一味だとでっち上げられ、
       ビロードを保護という名目で確保する理由付けに利用されたのです」

(;´Д`)「プラズマン……リレント・プラズマン氏の息子か。エクスト君、そうなのかい?」

<;プ−゚)フ「お、おうよ! お姉ちゃんの言ってる事は本当だぜ!
       それにクッソ痛かったぜ、あの女のパンチ!」

ξ;゚听)ξ「しかし我々は、人権から鑑みてビロードを渡すのは不適当だと考え、拒否を。
       するとクローン兵は力づくでビロードを連行しようとしました。
       私はジョルジュ・ジグラード、ショボン・トットマン、ヒート・ダイムバッグ三名にに応援を要請し、
       ビロードを守ろうと現在も尚、交戦中です」

(;´Д`)「ジグラード氏が第4階層で暴走している、というのも、嘘か? モララー」

(;・∀・)「さてね、どうだか」

(;´Д`)「モララー! 今すぐクローン兵に攻撃の停止を呼びかけろ!」

(;・∀・)「それならまずネットワークのメインフレームを再稼動させるんだな。
      といっても、そこのツナギ男のジャミングが解除されない限り、彼女達と連絡が取れんのだがね」

77 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:09:51 ID:C0RcvdDk0

(;´Д`)「君! 電波妨害を解除してくれ!」

阿部「了解した総統閣下…………OK、いいぜ。ケツから垂れ流していたジャミングは止まったよ。
   すぐにオタクの回線も復帰するだろうぜ、モララーさんよ」

(;´Д`)「モララー、直ちに停戦命令を下せ!」

(;・∀・)「そう逸るなよモナー。まずはネットワークの復旧が先だと言ったろう?」

 携帯端末に文字を入力しながら、モララーは返した。

(;・∀・)「よし。Hollow-Soldierが作業に掛からせた。間もなく映像が出せるぞ」

(;´Д`)「何を悠長に……! 人命が掛かっているのだ! 早く停戦を呼びかけろ!」

(;・∀・)「仰るとおり、人命が掛かっている。ビロードも、ディレイクの戦闘員共も、市民もね。
      第4階層が激しい交戦状態にあるのは本当の事さ。
      感染者ジョルジュ・ジグラードが暴走している可能性は否定できんのだぞ?」

ξ;゚听)ξ「いいえ! IRON MAIDENの抑制機能が働いているはず! それは有り得ない!」

(;・∀・)「ツン博士、戦闘状態のジョルジュの身体データを測定した事なんてないだろう?」

ξ;゚听)ξ「な、無いわ……それが一体……
       ――――まさか!?」

78 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:12:06 ID:C0RcvdDk0

(;・∀・)「我がクローン兵が実戦を持って収集したデータでは、もはや彼は人の域を遥かに超えていたぞ。
      IRON MAIDENに抑制されているとは思えんほどにね。
      戦闘の最中、変異し続ける彼が人の意思を保っていられるかどうか。
      ククク、それとも成ってしまったかな? 市民が恐れる、セカンドに!」

ξ; )ξ「な、なんて奴……!」


(;´Д`)「ダルシム! 映像を出せるか!?」


ダルシム「つ、繋がりましたヨガ! 第4階層の映像を出すヨガフレイム!」

79 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:13:24 ID:C0RcvdDk0

(;・∀・)「フ、フフフッ! さてさて! どうなったかなぁ!? ジョルジュ君!!
      つまらん結果だけは見せんでくれたまえ! アッハッハッハハハハハハ!!」


  ___


 連携乱れた第3階層とは反し、第4階層には統率の取れた集団行動があった。
 直下の第4階層のクローン兵達は、阿部のジャミングの影響をまるで受けていなかった。

 敵の追跡を振り切ったと思われたジョルジュとビロードの前に、再び彼女達が現れようとしている。

 ジョルジュ・ジグラードは路地裏にバイクを捨てていた。
 目的地バーボンハウスへの距離はジョルジュの推定でおよそ2キロ。
 一時は目前に迫っていたが、クローン兵の攻撃から逃れている内にすっかり遠ざかってしまっていた。
 
 2キロ程度の道のりを歩くのは本来大した労力とはならない。
 陸軍歩兵師団で鍛え上げたジョルジュは――しかも現在はウィルスで増強――無論のこと。
 今年で10歳になるビロード・ハリスだって、愚痴を零そうと歩きのけるはずだ。

 だがしかし、たった2キロの道のりが極めて困難である事を、地に足をつけた瞬間から二人は悟った。
 むしろ地に足つけた時にはバーボンハウスを目前に控えていたかった。
 ジョルジュもビロードも、共に焦燥し、疲弊していた。
 一度は振り切れたとはいえ、クローン兵は猛然とした追跡を続行するだろう。

80 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:15:23 ID:C0RcvdDk0
 多勢に無勢という形勢も懸念材料の一つであるが、現状、危惧すべきは敵の探査機能だった。
 彼女達は街を利用した包囲網を敷いている。
 ジョルジュの憶測にすぎないが、一連のチェイスを通じ、監視カメラを使っているとしか考えられなかった。
 でなければ、いつまでも振り切れぬ敵の気配に説明がつかない。

( ;゚∀゚)(行ったようだ……まだ直接発見されていないようだな……)

 彼は壁から顔を覗かせて安全を確認した後、ビロードの手を引いて影から影へと身を移した。
 大通りを避け、監視の薄い路地やビルなどの遮蔽物を壁に、転々と移動を続けていった。
 監視カメラが超小型であるのは噂にも高く、ジョルジュの視力を持っても視認は不可能だった。
 従って設置されているであろう箇所に目星を付けて進むしかなかった。

 今のところ二人の足取りは順調と呼べるが、やはり余裕を感じるゆとりは持てなかった。
 一度カメラに映りもすれば銃撃に見舞う。
 モーションセンサーで作動する爆弾が仕掛けられた中を進むような、恐ろしい気分をジョルジュは味わっていた。

 それでも発見され次第銃撃に襲われるという心配はしていなかった。
 唯一無二の免疫の所持者、ビロード・ハリスがいる。
 チェイス中の銃撃は出力が抑えられていたし、直撃を狙ったものではなかった。

( ;゚∀゚)(あくまでも連中の目的はビロードの確保のはず……)

 ジョルジュは視線を落とし、少年の顔を見つめる。
 そうしている内に、ふと脳裏に一筋の疑念が走った。

81 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:16:10 ID:C0RcvdDk0

(;><)「……どうしました? ジョルジュさん」

 一瞬、握られた手に力が入ったのをビロードは感じた。
 フェイスカバーで隠れジョルジュの表情は伺えないが、どうも様子がおかしい。

( ゚∀゚)(……思えば腑に落ちない点がある。
      ビロードが狙いだとしたら何故、最初の接触の時点で部隊で臨まなかった?
      小僧と小娘くらい一人で始末できると踏んでの事か?)

( ゚∀゚)(いや、そうではない。端から大部隊で行う“この作戦”を画策していたのは間違いない。
     奴等に高度な情報シェア手段があるにしろ、用意周到と言うものだ。
     インフラの停止、避難アナウンス、高機動バイク、対セカンド兵器……手が込んでやがる)

( ;゚∀゚)(チーム・ディレイクが応援を呼ぶと予想したのなら、それで説明はつく。
      だが、腑に落ちない。ビロード・ハリスの確保を優先したのなら、もっと秘密裏に事を進めたはずだ。
      ビロードも狙いだろうが、本命があるはずだ……何か、もっと、別の――――)

(;><)「ジョルジュさん……服、破けてるんです!」

 何気ないビロードの一言、されどジョルジュは顔をはっとさせた。
 そしてジョルジュの思巡は一つの可能性を導いた。

(#゚∀゚)(そういう事かよ! クソが!)

82 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:17:26 ID:C0RcvdDk0

(#゚∀゚)(唯一無二の存在はなにもビロードに限った話じゃねえ。
     俺も、同じだ! 俺は意思を保つ感染者じゃねえか!
     イカれたマッドサイエンティストからして見りゃ、これ以上ない研究対象って訳か……!)

 自惚れ端々しいと自虐的に笑みを浮かべるが、辻褄は合う。
 歯をぎりりと鳴らすジョルジュ。
 少年が痛がっている事に気づかず怒りにわなわなと震えた。

(#゚∀゚)(化け物になる覚悟は出来ちゃいるが、化け物に仕立て上げられるつもりはねえ。
     クソつまらねえ目論見を企てた事を後悔させてやるぞ、モララー・スタンレー……!)

(;><)「い、痛い、痛いんです!」

 ビロードは思わず声を上げてしまう。
 ようやく我に返り、ジョルジュはビロードの手を解放した。

( ;゚∀゚)「す、すまねえ。大丈夫か?」

( ><)「……それはこっちの台詞、なんです。大丈夫ですか? ジョルジュさん……」

 ビロードは眉を顰めた目で見つめ、そう言った。
 するとジョルジュは強い衝動に駆られてビロードの胸倉を掴みあげた。
 ひっ、と、ビロードは怯えた声を洩らすも、ジョルジュは少年に容赦なく怒りを吐き出した。

213 名前: ◆jVEgVW6U6s:2012/04/05(木) 03:31:22 ID:CkB5Pck60

(#゚∀゚)「この俺に同情してんのか!? ああッ!?
     免疫持ちのテメェなんかにゃわからねえさ! 俺の気持ちなんかよ!
     俺は感染している! じきに化け物になっちまうかもしれねえ!
     違う……! 俺はもう、人間離れしちまった化け物なんだよ……!」

 フェイスカバーの奥で、人ならざる瞳が一層赤みを増して輝いた。

(;><)「…………わかんない、です………」

(#゚∀゚)「だろうよ。二度とそんな目で俺を見るんじゃねえ、クソガキが!」

(;><)「で、でも!」

(;><)「……ジョルジュさんも友達が出来ないって事は……分かるんです……」

(#゚∀゚)「…………」

( ゚∀゚)「…………そうだったな……」

 ジョルジュはビロードを離し、彼の目線まで膝を折る。
 涙で少し潤みのある無垢な目を見つめながら、ジョルジュは彼の肩をそっと手を乗せて言った。

( ゚∀゚)「悪かった、ビロード。本当にすまなかった。
     俺達、仲間なのに酷い事言っちまったな……許してくれ」

(;><)「いえ、そんな! 僕はその……僕なんかの為に皆戦ってくれて、
      何て言ったらいいのか、その……わ、わかんないんですけど、その、」

83 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:18:43 ID:C0RcvdDk0

( ゚∀゚)「……水臭ぇな。仲間だって言ったろ?
     少なくとも俺は、二度とお前をガキ扱いしたりしねえ。お前は自分の意思を貫ける強い奴さ」

( ゚∀゚)「いいか、ビロード。よく聞け。人ってのは一人じゃ生きていけないもんだ。
     一人で抱え込んじゃ何も解決出来ない事は腐るほどある……俺だってそうだ。
     だから、困った時ぁ俺達を頼りな。じゃなきゃ、どこかのクソサイボーグみたいになっちまうぜ」

 一言一句、己を戒めよう言ったものであった。
 なんと愚かで、なんと情けなかったか、その二言がジョルジュの心を埋め尽くしていた。

 自棄になるな。まだ化け物らしい化け物になると決まってはいない。
 まだ奴等の研究資料にもなっていない。
 仲間がこんな化け物の為に身を窶して戦ってくれている。
 彼等に報わなければならない。この少年を守り抜いて、報うのだ。

( ><)「…………ジョルジュさん、ありがとなんです!」

( ゚∀゚)「こちらこそだよ、ビロード。さあ行こう。もう少しでゴールだ」

 嘘のない笑顔を眺めながら、フェイスカバー越しにジョルジュも微笑む。 

 再び少年の小さな手を引いて、ジョルジュは合流ポイントへの移動を再開した。
 辺りを慎重に見回した後、物影から飛び出す。

84 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:20:31 ID:C0RcvdDk0

( ;゚∀゚)「なっ――――」

 その時、頭上で衝撃音が鳴り響いた。
 冷や水を浴びせられるよりも、ずっと冷ややかな感覚が全身に走る。
 直後、心臓が激しく動き、一気に全身が熱を上げ、目が眩むのを感じた。

 突然の発砲に硬直した彼等の頭上に、コンクリの破片がパラパラと降りかかる。
 路地のずっと先に見える大通りに、ジョルジュとビロードは視線を走らせた。

( ;゚∀゚)「……クソッタレ……」

(;><)「そ、そんな……」

 そこには銃を携えたクローン兵が立ちはだかっていた。
 直ちに周囲に不穏な物音が連なって響く。
 前方、背後、高所。
 瞬く間に配置を完了させ、ジョルジュ達の退路を断ったクローン兵が警告する。

(  〓 )「逃げ果せたと思っていただろうが逆だ。貴様等は追い込まれていたのだ。
      観念しろジョルジュ。ビロードを引き渡せ。
      そうすれば貴様も無傷で逮捕してやる。これは取引だ」

( ;゚∀゚)「くっ……」

85 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:22:23 ID:C0RcvdDk0

(;゚∀゚)(……前方の敵はざっと5人ってところか……どうにか切り抜けられる数だ……やるしかねえ……)

(;゚∀゚)「……ハッ。無駄な抵抗は止せってか」

(;゚∀゚)「街には俺達しか残ってねえ。てめえ等は容赦なく獲物を扱えるつもりだろうが、
     ビロードには手を出せねえんだろ? こちらにはまだ、利があるぜ」

(  〓 )「その期待には沿えんな。
      あくまで我々は、生きた状態でビロードを連行しろと、そのように命令されている」

(;゚∀゚)「ビロード! 伏せてろッ!」

(;><)「は、はいッ!」

 ジョルジュは黒いロングコートに隠し持っていたマシンガンを取る。
 そして身体を躍動させた――――――その瞬間、

86 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:26:15 ID:C0RcvdDk0

(; ∀ )「があああああああああああああああああああああああああ!?」

 突然、ジョルジュは叫び、無様な格好で転がり回った。
 痙攣とは呼べぬほど全身を大きく波打たせ、息苦しそうにスーツの首周りを引掻いた。
 手先には掻く爪や鋭利な物など持たず、尽く滑った。
 丸みを帯びたグローブでいくら掻いても苦しさから解放されず、今度は腕に付けられたポッドを地面に叩きつけた。
 ブーンの細胞と血から作った抗体を注入するポッドを、力のまま叩きつけた。

(;><)「ジョルジュさん!?」

「うがぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ポッドは頑丈だ。
 これまで幾度となく自室の壁や地面に叩きつけていた。
 皹の一つも入らないのをジョルジュは思い知っている。

 それでも、やめられない。いや、早く、破壊しなければならない。
 なにかがくる。ナニカガ―――――

 震える手で必死に握ったマシンガンをポッドにあてがった。
 だが、ショック吸収に優れたポッドは弾丸の勢いを完全に殺し、虚しく地に転がった。
 怒りのままにマシンガンを投げ捨て、ジョルジュは再びポッドを地面に殴りつけ始めた。

(  〓 )「……IRON MAIDENの抗体注入か。戦闘状態に移行したのと同時だったな」

 無様にもがくジョルジュに対し、銃口を向けてクローン兵士の一人が無感動に呟いた。

87 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:27:56 ID:C0RcvdDk0
 ジョルジュは悶絶し狂ったように叫び続けている。
 彼女の声は音として耳に入っていた。
 ジョルジュには、何と言っているのかまるで分からない。
 今のジョルジュには耳障りなノイズにしか聞こえなかった。

 視界も現実とは思えないほど酷く歪み、ジョルジュは胃の中の物を――液体化食料でありほぼ水分――を血反吐と共に吐いた。
 フェイスカバーと一緒くたに顔面が汚れるが、そんな事に気を留められぬくらい、痛みは激しさを増していく一方だった。

 クローン兵士No87は、そんなジョルジュに蹴りを入れて仰向けに転がした。
 次いで、銃口をフェイスカバーに打ち付けるようにして当てた。

(  〓 )「ウィルスは貴様の意思に応じ、反応を見せた。
      だがしかし、貴様はもうウィルスをコントロールしているようには見えん。
      貴様は、ウィルスに支配されてしまったようだな、ジョルジュ」

「あ゙ぁぁぁああああ! ぐ、が、あ、ああッ! ああ、お゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ!!!」

(  〓 )「ギコ・アモットが既に強靭な意思によるウィルス制御を見せている。
      だから貴様はもう、サンプルとしても市民としても、存在する意味を失ったのだよ」

(  〓 )「ジョルジュ・ジグラード、貴様をセカンドと見做し処分しよう」

 No87が指をトリガーに掛けた。


(  〓 )「死ね」

88 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:32:15 ID:C0RcvdDk0
 まさに引き金を絞ろうとした時、彼女の視界から銃口が突然消え去った。
 間髪入れず、血飛沫がフェイスカバーを汚し、視界の八割が赤く塗り替えられた。
 不可解な現象に一瞬思考を止めるが、肘から先が妙に軽くなった事に猛烈な違和を覚え、No87は腕を掲げた。

(  〓 )「何……貴様……」

 肘から先がなかった。
 心臓の鼓動に合わせ、歪な断面から血が飛び出ている。
 数瞬遅れて情報シェアは行われ、彼女と彼女達は一斉に腕の行き先を目で辿った。
 とあるクローン兵士の足元に、びゅうびゅうと勢いよく血を噴出す奇妙な肉片があった。

(  〓 )「がふぁ!?」

 気を取られていると今度は腹に高熱を得た。
 痛みなど一切感じないが生理的現象は押さえ切れず、声と血を吐き出したのだ。
 クローン兵士No87特に臆する様子も見せず腹部を見る――黒いスーツに覆われた腕で貫かれていた。

 ずるずると、腸が引っ張り出される。
 その力に引き寄せられたNo87は体勢を崩して不恰好にジョルジュへと覆い被さった。
 すると、もう一度、背から手が突き抜けた――――手先に、長い爪がある。

 骨のような物で刺々しく突起した手が握り掴むのは、心臓。
 まだびくびくと鼓動を続け、千切れそうな血管に血液を送っている最中の心臓。

「ううぅぅぅうううあああああがああああああッ!」

 “それ”は叫喚をあげて彼女の心臓を握り潰し、完全に脱力したクローン兵士を投げ飛ばして、立ち上がった。
 爪を自分のフェイスカバーに突き刺し、力任せにマスクを切り払った。
 そして、同様に、忌まわしいポッドもスーツから切り落とした。

89 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:34:01 ID:C0RcvdDk0
「ふう、ふう、ふう、ふう、」

(;><)「ジョルジュ、さん……?」


「う、ううう、ううううううううッ!」


 枷、IRON MAIDENが切り裂かれ現れたジョルジュの姿は、

 人に限りなく近いだけの、決して人と呼べる物ではなかった。

 銀に輝く髪は元より色素操作により人為的に手を加えられたもの。
 しかし感染前には小奇麗に切り揃えてられていた短髪が、腰に届くまで伸びていた。

 肌は病的なまでに白く、黒がかった血が流れる血管が浮き出、
 顔や二の腕には禍々しいタトゥーが彫られているようである。

 瞳は焼けるように赤く、口元には牙が見える。

 背がぼこぼこと蠢いている。
 数秒、気味悪く波打った後、鋭い突起が立って、スーツを破った。

 赤い翼であった。
 闘病生活の中、有り余るほど膨れ上がっていた筋繊維と背骨が作った、肉の翼だ。
 肉の翼は血を滴り、不気味なほど深い赤みを帯びている。

90 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:34:58 ID:C0RcvdDk0

 翼が、ゆっくりと大きくはためく。
 もう一度大きく、今度は鋭く上下し、纏わりつく血を払った。



《あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あああああああああああああああああああああああああああああ!!!》



 そして、叫んだ。

 今度は激痛に苛む叫びではなく、それ以外の何かを発散するような――――

91 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:36:22 ID:C0RcvdDk0



ミ# Д シ《あ゙あ゙ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!》



 それは自由を取り戻した歓喜の叫びか。
 それとも、理性を失った暴虐なる獣の咆哮か。


(;><)「あ、ああ…………」


 少なくともビロードには、あの優しくも厳しいジョルジュとは思えなかった。

 ビロードは無意識の内に、今のジョルジュを「彼」に重ねた。

 自分自身の母親代わりでもあり、そして彼が心から愛していた者――――シーケルト・ゴソウ、
 彼女をブーンに奪われ憎悪に狂ったかつての兄分、ギコ・アモットの姿と。


ミ# Д シ《グルルルルルゥゥゥゥゥ…………》

92 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:37:08 ID:C0RcvdDk0
 ――――第4階層、第17番アベニュー、某オフィスビル屋上。

(;´・ω・`)「クソッ! やはりセカンドウィルスの熱量反応だったか! 最悪だ!
       考え得る最悪のケースが起こるなんて……クソ!
       やはり敵の狙いはこれだったのか!?」

ノハ; )「……そんな……」

 高所からスナイパーライフルを構える、ショボン・トットマン、ヒート・ダイムバッグの2名は戦慄していた。
 守るべきジョルジュがセカンド化したという事実、市内でセカンドが発生してしまったという、事実に。
 銃口を向けるべき狙いが定まらない。ポインタはクローン兵とジョルジュの間で揺れ動いている。

ノハ; )「ショボン、教えてくれ。私は、どっちを攻撃すればいい? どっちを」

(;´・ω・`)「それは…………」

ノハ; )「教えてくれ! どっちを、どっちを殺せばいい!?
      アンタが選んだ方を私が殺す! 私が殺してやる!」

(;´・ω・`)「僕に聞くな! 引き金を引くだけで済ませようとしやがって! 僕に、選ばせるんじゃない……!」

(;´・ω・`)「それに、まだだ! 焦るには早い! 可能性が潰えた訳ではないんだ!」

ノハ;゚听)「――――そうか! ギコ・アモットのように……!」

(;´・ω・`)「なってくれればいいが、議会がどう判断するか……チッ! 堂々巡りか!
      どちらを……我々は、どちらを攻撃すればいい……!?」

93 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:39:27 ID:C0RcvdDk0

 ――――広大な『セントラル』の何処か、フォックス・ラウンジ・オズボーンのアジト。 


爪'ー`)y‐「……おや? 突然、映像が回復したぞ……もしや進展があったかな?」

爪;'ー`)y‐「……おお! おお、ジョルジュ! ジョルジュ・ジグラード! 拘束を遂に解いたか!
       我が右腕モララーよ! よくぞ彼をここまで追い込んだ! 褒めてつかわす……」

爪'ー`)y‐「のはまだ早いか……逸るな、フォックス。ふー…………。
      ここからが見物なのだ、ここからが……フフフフフ………」


爪'ー`)y‐「人の意思を保ったままの人間、サードになれなければ、それまでだ。
      ジョルジュ・ジグラード、足掻くがよい。そして私に見せてみろ!
      貴様が私の想像通りの人間ならば! 人類の希望を見せてくれるはずだ!」

爪'ー`)y‐「……ふー……」

爪;'ー`)y‐「にしても……凄まじい変異を遂げたな。呆れたパワーよ。
       人形が文字通り人形扱いされているではないか。
       本当に暴走されたら現存のHollow-Soldierの数では制圧できんぞ……」

94 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:41:14 ID:C0RcvdDk0

 ――――第3階層、議会堂3階、第2会議室。


(;・∀・)「は、ハハハハハハッ! よくやった! Hollow-Soldier!
      さあジョルジュッ! 足掻け! 足掻いて、お前はサードにふぐおぉぁッ!?」


ξ# )ξ「ふざけるな!!」

 哄笑するモララーの口に思い切り爪先を叩き込んだツン。
 燃え滾る怒りに瞳を潤ますが、その目は憎きセカンドを見る時以上に歪んだ形を作っている。

(;・∀・)「フッ、ブフッ! フハッ、ヒッハッハッハッハッ………!」

ξ#;凵G)ξ「くっ……」

 モララーは口と鼻から夥しい血を流しながらも笑い続けた。
 抱腹の思いが込み上げて止まらず、肉体を刺していた激痛すらも忘れていた。
 そしてモニターに映る変わり果てたジョルジュを見つめ、己と主の願望の成就を祈る。

 モナーは醜く笑い続けるモララーを侮蔑の目で一瞬睨みつけた後、

(;´Д`)「ツン君……緊急事態につき、容赦してくれ。
       ブーンを、ブーンを出撃させて欲しい……」

 苦渋のその判断を、ツンに請った。

95 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:45:00 ID:C0RcvdDk0

ξ; )ξ「モナーさん、それは」

(; Д )「分かっている! 分かっている……だが……!」

 セカンド狩りに恐ろしいまでの執着を見せるブーンに、その手の頼み事をするのが気が楽だという依頼人の数は知れない。
 モナー・ヴァンヘイレンも気づけばそうであったし、総統となった今後は特に彼に頼ろうと考えていた。
 彼はこの5年間のどんな時よりもセカンドを容赦なく駆逐してくれるだろう。

 それでも、この依頼だけは避けるべきだと常に考えていた。
 この依頼だけはあってほしくないと、祈っていた。

 ジョルジュが感染したと報じられ、どうにかして彼の保護方法を模索した。
 これに関し、ツン博士、ハインリッヒ博士の両名が手がけた“IRON MAIDEN”は良い助けとなり、決め手となった。
 結果、監視付きの居住という名目で、彼の『セントラル』居住願いを通らせる事も出来たのだ。

(; Д )(なのに、何故だ……何故こいつは、こんな真似を……!
       それが科学者のする事なのか! お前達は、人を導くのが役割のはずだろう!?
       それが、どうしてだ……)

(; Д )(こんな、狂った科学者に片棒を担がせた私が愚かだったのか……
       もう少し早く、コイツを排除していれば……いや、だが、
       モララーという断行者がいなければ『セントラル』は荒巻の毒牙に掛かったままであった)

(; Д )(私は、それを代価とは呼ばんぞ…………責任は、必ず…………)

96 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:51:50 ID:C0RcvdDk0

(; Д )「……ツン君。万が一の事もある。もはやクローン兵を持っても彼には歯が立たんだろう」

(; Д )「ブーンを、B00N-D1に、出撃要請を」


ξ; )ξ「…………分かりました」


 ツンは携帯端末の液晶パネルにタッチし、ホログラムを虚空に投影させる。
 小さなウィンドウの片隅に書かれた宛名はホライゾン・ナイトウ。
 コール音が、しばらく響く。

 8回目のコール音の末、通信先から無言が流れた。
 ウィンドウはブラックアウトしたまま。
 映像の送受信を先方に拒否されたようだ。

 恐る恐る、ツンが切り出す。

ξ; )ξ「ナイトウ、聞こえる? 緊急事態よ。ジョルジュさんが――」


『分かってる』


 弾丸よりも鋭く空気を切り裂くような、そんな声であった。

 普段のあの間抜けた調子を伴っていない。
 怒気といった激情を抱えているはずと場の誰もが想っていたが、恐ろしいまでに静かな一言であった。

97 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:52:46 ID:C0RcvdDk0

 しばしツンは呆然と真っ黒な画面を見つめた。
 心臓が激しく鼓動し始めた事に気づかないほど、ツンは圧倒されてしまったのだ。
 彼の無念の怒りによってか、それとも、悲しみだったか。
 伝わって来た感情と意思は分からないが、ナイトウが激情に滾っているのだけは確かである。

ξ; )ξ「…………そう、状況は把握しているのね。
       総統閣下の命令も直々に下ったわ……出られる? そう、何とか出られるのね? 分かった……。
       それから……うん、ハインには絶対に言わないようガイルさんに伝えて」

ξ; )ξ「ではミッションを通達するわ。
       ブーン、直ちに第4階層17番アベニューへ。
       ビロード君を救助なさい………そして…………」

 そしてツンは唇を咬み、断腸の思いで命令を下した。

98 名前:名も無きAAのようです:2012/02/14(火) 04:53:29 ID:C0RcvdDk0




『そして……判断はアンタに委ねる。
 目標、ジョルジュ・ジグラードがセカンドだと判明次第、ブルーエネルギーを持って抹殺しなさい』



「了解。B00N-D1……」


(  ω )「……出撃する」



 ――――第3階層、チーム・ディレイク、ラボ。

 四肢の着工を終えていないボロボロのサイボーグは、
 愕然と立ち竦むドクオを見据え、そう告げた。




                            第37話「解かれた拘束」終

99 名前: ◆jVEgVW6U6s:2012/02/14(火) 04:57:03 ID:C0RcvdDk0
以上、第37話でした。
次の投下は2月終わりから3月頭を予定してます。

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