第34話「ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦」
5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:09:50.19 ID:wdWe/TBC0

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ、「システム・ディレイク」。
      ボストンでの失態から続く襲撃事件は、全て己の弱さが引き起こしたと考える。
      その唯一の贖罪方法が「セカンドを狩る事」だと信じる。
      ビロードを正しい道に進ませるのも、スネークに託された自分の責務であると考える。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
     ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
     孤立しようとするビロードに、6年前のホライゾン・ナイトウの姿を重ねた。
     ビロード強制連行を止めるために議会へ向かう。


('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ショボン、阿部と共に、「クー・ルーレイロ」なる人物とクローンシステムの真相を暴こうと企む。

( ><)ビロード・ハリス:年齢9歳。
     ウィルス騒動の孤児。セカンドに対する強力な免疫を持っている。
     小学校の入学を拒否され、誰にも頼らずに生きる事が正しいと考えるが、
     ツンに諭される。15歳になった時はサイボーグにさせてもらう約束をした。
     議会を揺るがす存在としてクローン部隊に確保されそうになるが拒否し、ジョルジュと逃亡中。

ノパ听)ヒート・バックダレル:年齢26歳。
    レッドヘアー・リーパーの二つ名を持つサイボーグ。転化はフィレンクト・ディレイクが担当。
    量産型システム・ディレイクのモニターに立候補する。
    スネークと核兵器破壊作戦を共に遂行したという経歴の持ち主。
    戦闘になると凶暴な人格に変貌するようだが、この人格の再発祥がセカンドに対するトラウマを克服したものかは不明。

6 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:10:50.85 ID:wdWe/TBC0

――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
     新型バトルスーツ開発プロジェクトを着手している。
     ジョルジュに恋心を抱いている。


( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルスに感染してしまった。
    「IRON MAIDEN」と抗体によりセカンド化を抑えこむが、変異は進行する。
    その人ならざる力を利用し、クローン兵からビロードを救出する。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
    バトルスーツ隊隊長。
    先の戦いでは数多のセカンドを駆逐した。
    お調子者の一面もあるが、正直で人情深い男。

春麗:年齢25才。戦闘員パイロット。
   バトルスーツ隊隊員。
   チーム内ではハインリッヒと双璧を成す美貌の持ち主である。


7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:12:23.19 ID:wdWe/TBC0

――― 新旧セントラル議会議員 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:享年63歳。セントラル議会・議会長。
   白髪の男にウィルス実験の被験者にされる。 生死は不明。
   63歳で人としての人生に幕を閉じる事になった。

( ´Д`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。
      モララーと共に独裁制の「新セントラル議会」を設立し、独裁者となる。
      カリスマ性を発揮し、市民を一つにまとめた。
      しかし、強引な手段で軍の整備を進めている為、現在は批判の声を浴びている。
      今回のビロード強制連行に関わっているかは不明。


――― セントラルの人々 ―――

(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
     不味いと不評のバー「バーボンハウス」の店主であるダンディな男。
     2040年代に量産された戦闘用サイボーグらしいが、詳しい経歴は不明。
     ドクオに仕事を依頼されるが単独では困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。
     現在、ジョルジュ、ヒートと共にクローン部隊と交戦中。

<_プ−゚)フエクスト・プラズマン:12歳
      先のギコとの戦いで父を失った少年。
      その恨みの矛先をビロードに向けるが、ツンに諭される。

阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
     ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
     その実態はサイボーグで、ショボン曰く高性能ガチホモ型インターフェースらしい。
     ハッキングなどに長けているようだ。

8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:14:17.62 ID:wdWe/TBC0
――― ラウンジ ―――

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。
     バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
     自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。
     フォックスに従い、フォックスの為にモナーとセントラルをコントロールしようとする。
     ビロード確保を指示した張本人かどうかは不明。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出されたデザインドクローン。
     量産され、部隊として編成された彼女達は、現政権の強力な守護者である。
     ビロードをテロリストから保護するという名目で、ビロードを連行しようとする。

( ^Д^)プギャー・ボンジョヴィ:年齢不明。プギャー総合病院の院長。
     フォックスに従事している模様。
     ビロード・ハリスの免疫について研究を進める。
     彼の使う医療器具がラウンジ社製であるが、社との関係は不明。

爪'ー`)y‐:フォックス・ラウンジ・オズボーン年齢不明。
      元ラウンジ社の男。クローンを用いた抗老処置を施しており、見た目は若い。
      人類の知恵と可能性に限界を感じ、セカンドウィルスをコントロールしようと考える。
      フォックスは、彼が思い描く新たな人類を「サード」と名づけ、
      人類サード化計画の障害「ビロード・ハリス」を己の手で管理しようと目論む。

9 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:16:56.39 ID:wdWe/TBC0
 現在時刻は17時30分に差し掛かる。
 人工陽光と内壁が擬似的に作り出す空は、早くも夕暮れから夜へとシフトを始めた。
 地上は真冬。この地下世界では肌を刺す寒風が吹き荒れる事も無ければ雪も降らぬが、
 人々に季節感を忘れさせぬよう、太陽の動きを地上のそれと忠実に再現している。

 次第に薄暗くなるにつれライトアップを始める地下都市は、元はギャンブリングタウンだ。
 ある意味では昼よりも夜の方がずっと明るい。
 シベリアンマンション屋上では色気のない刹那の閃光が断続的に放たれている。銃撃だ。
 しかし忙しない夜に紛れては、高級マンションで銃撃戦が繰り広げられているなどと人々は想像だにしないだろう。

 それに、二人の銃にはサプレッサーがつけられている。
 近隣の迷惑を懸念してではなく、非常事態宣言外での銃器所持を発覚されない為の処置である。
 とはいえ、ショボンとヒートが銃口を向けるのは他でもない法の番人だ。

 髪一筋すら隠すスーツに身を包んだ兵がボディラインから女性であるのは明白だが、
 しかしその細身からは想像できない非人間的な身体能力を発揮している彼女達、クローン部隊。
 間合いこそ詰めさせていないが、マシンガンの銃口を向けても瞬間的に射線から逃れ、弾丸は掠りもしない。

(´・ω・`)「さすがは対セカンド部隊、伊達じゃないな」

 拉致の明かぬ展開にショボンはつい舌を打つ。
 ブーンなら、より効果的な戦略を立てて攻撃出来るのだろうかと想像しながら。

12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:19:59.41 ID:wdWe/TBC0


ノハ#゚听)「ショボン! 援護しろ! 私が突っ込む!」

 ヒートが勇ましくマシンガンを鳴らし、敵に切り込む。

 赤い死神――レッドヘアー・リーパーならばジリ貧の状況を打破するかもしれん。
 事実、ショボンの目の追跡監視機能が分析する、彼女のその脚部機能は相当な物だ。
 脚部から鋭い駆動音――両脚部に搭載されたアクセラレータによる加速機能によって得る高速移動。
 彼女の耐G性能をぎりぎり下回る速度を発揮しているようだが、並みのセカンド相手ならば軽く凌駕出来る動きを生み出している。

 ショボンの援護射撃の中、赤い旋風が敵陣に切り込む――ヒートが対象の背後に回り込んだ。
 すかさず飛びまわし蹴りを繰り出し、2人の女兵士の首を刈りにかかる。
 だが高速の蹴りは空を切り裂くに終わる。シンプルなダッキングでかわしたのだ。

ノハ;゚听)「何ッ――――っがあ!?」

 一瞬の硬直を突かれ、逆に強烈な蹴りを背に浴びる。
 ヒートは地上へと吹っ飛ばされそうになるが、手すりに足を絡めて転落を免れ、再び戦地に舞い戻った。
 冷や汗などかかないが、ヒートの表情は焦りと疑問で歪んだ。
 解せない。いくら敵の身体能力は高いと言えど、直撃必死の一撃に違いなかった。
 なのに回避されたという事は、まだ敵は実力を発揮していないのか、あるいは何かトリックがあるのか――

(  〓 )「………………」

 集音レベルを最大にしても、彼女達が互いに指示し合っているような素振りは見当たらない。
 だというのにこの連携の見事さは何なのだ?
 ショボンの銃撃を尽く掻い潜り、私の近接攻撃も難なく回避する。
 IRON MAIDENという枷を付けられているジョルジュも、身体能力は彼女らと互角だというのに。

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:21:37.07 ID:wdWe/TBC0

ノハ#゚听)「一度体勢を立て直すぞ!」

 ヒートはジョルジュ、ショボン、ビロードの元へジャンプする。
 ショボンと共に2丁のマシンガンで弾幕を張り、敵に間合いを詰めさせぬようにしながら、
 ヒートはショボンに意見を求めた。

ノハ#゚听)「どう思う!? 何でこうも容易く攻撃を避けやがる!?」

(´・ω・`)「どうやら高度な情報シェアを行っているようだ!
      攻撃が当たらないのはそのせいだろう!
      彼女達は互いにナビゲートして我々の攻撃を対策してるんだ!」

( ゚∀゚)「なるほどね……見事に統制された動きを見りゃ、そう考えられる!
     しかも情報処理レベルはブーンと同格ってところか……どうする!?」

(´・ω・`)「アクセラレータのゲインってまだ上げられる!?」

ノハ#゚听)「いける! もって10秒ってとこだがな!」

(´・ω・`)「よし……10秒間、ヒートさんには彼女達の処理レベルを超えて行動してもらおう!
      合図は僕がビロード君を地上へとブン投げた時! ヒートさんは連中を攪乱させ、
      その隙にジョルジュさんが突破! ビロード君を空中でキャッチする!
      僕は援護しながら待機させているバイクを遠隔操作し、ジョルジュさんの下に向かわせる!」

( ><)

(;><)「へ?」

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:23:58.14 ID:wdWe/TBC0

( ゚∀゚)「お前らはどうする!?」

(´・ω・`)「何とかして突破しますよ!」

( ゚∀゚)「……いいだろう! 了解した! 何処で落ち合う!?」

(´・ω・`)「僕の店に向かってください! では決まりですね! いきますよ!?」

 ショボンはジョルジュに耳打ちした後、締りのない顔でビロードを見る。
 投げる事が楽しみ。そう伺える顔はビロードを真に恐怖させた。

(;><)「いやちょっと待っ」

(´・ω・`)「すまないが待てん! 男の子でしょッ!――――そおーいッ!!」

 襟をむんずと掴まれた直後、足が地から離れたと思えば視界が流転。
 この屋上も相当な高さなのだが更に空を行き、あっという間にジョルジュ達が豆粒のようになった。
 眼下には、虫眼鏡で通さなければ細部を見通せないようなジオラマが広がり、
 ビロードは恐怖を忘れ、そんな非現実的な感覚に酔いしれる……浮力を失うまでは。

(;><)「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 突然襲い掛かってきた重力がビロードに街を鮮明に見せた。
 塔が見える。鋭く尖った塔が遠くに――いや、すぐそこで待ち構えている。
 ボストンに居た頃、電子図書で知った東京タワーという日本の古い塔を何故か思い出した。
 向かう先の塔は全く赤くも無い、黒い塔だというのに。

(;><)「串刺しは嫌だあああああああああああああ!!」

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:26:47.51 ID:wdWe/TBC0
 もう間もなく激突。目を瞑るも塔の天辺に突き刺さった自分の姿を思い浮かべる。
 一瞬が永遠にも思えるほど時が長く感じる。もう間もなく死ぬのか、それともまだか……まだか……誰か、誰か!!

 そして腹に衝撃を受ける。
 ビロードは思考も息も止め、全身を強張らせた。


(;><)「…………って、あれ?」


 何ともない。そう知ったと同時に浮遊感が身を包んでいる事に気づく。
 風をごうごうと切る音は消え、代わりにもっと耳障りな高音が耳を劈いた。
 その中、マスクか何かでくぐもった声がビロードの旋毛の辺りにぶつけられた。


( ;゚∀゚)「もう少しで串刺しだったな」

(;><)「じょ、ジョルジュさん!」


 バイクのハンドルにぶらさがったジョルジュが、間一髪のところで拾い上げたのだ。
 ジョルジュは座席に飛び乗り、操作パネルに表示されたリモートコントロールが消え去ったのを確認した後、
 アクセルを捻ってバイクを飛ばした。

19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:29:53.53 ID:wdWe/TBC0

 マンションが一気に遠ざかる。もう肉眼では屋上の様子は分からない。
 しかし、目で見える範囲には恐ろしい白い兵隊の姿は無い。
 それにここは上空、おまけに高速飛行するバイクに乗っているのだ。
 流石にあの女兵士達も追いつけないだろう。

 ビロードは一先ず安堵を覚え、ジョルジュに尋ねた。

(;><)「ショボンさん達は大丈夫……ですよね……?」

( ゚∀゚)「あいつらの目的はお前の確保だ。躍起になってショボン達を逮捕しようとはしないだろう。
     それよりビロード、一先ず一難去ったが油断はできねえぞ」

(;><)「は、はい!」



 二人は、ここより6キロ離れたロケーション・ポイントを目指す。
 第4階層第18番アベニューに構える寂れたバー、バーボンハウスへ――――




22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:32:52.24 ID:wdWe/TBC0
   ※


(;´・ω・`)「ヒートさん! 大丈夫か!?」

ノハ; )「少し、無理が、たたった、らしい……」

 生命維持装置が緊急的に作動させた循環補助機能で、ヒートは辛うじて意識を保っていた。
 加速装置のゲインを限界以上に向上させた上、その間も限界以上に使用してしまった為、
 ヒートの肉体に残る毛細血管と臓器に深刻なダメージが与えられた。
 口に絡む鉄の味、頭の奥を突き続ける激痛……CGで描かれる右の視界には甚大な損傷状況が表示されている。

(  〓 )「3人がかりでショボン、ヒートの両名を逮捕する。
      残りはビロード・ハリス確保に向かえ」

 この場においてはリーダーを担当する女兵士がそう言った。
 彼女の背後では、ヒートの決死の攻撃で無力化したはず兵達が何事もないように立ち上がり、
 ワイヤーを手すりに掛けて屋上から降下していった。

(  〓 )「サイボーグなら聞こえていただろう? 観念しろ」

(;´・ω・`)「ああ。でも逮捕は嫌だな、逮捕は。
       店をほったらかしにしちゃあ、せっかく付いた常連客が離れちゃよ」

(  〓 )「我々に楯突く事自体が犯罪行為だと理解し覚悟しての行動のはずだ。
      銃を捨てて潔く投降しろ。さもなくば徹底的に貴様等を攻撃し、無力化させる」

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:35:35.66 ID:wdWe/TBC0

ノハ; )「……だそうだが、ショボン?」

(´・ω・`)「仕方あるまい……見逃してくれないんなら痛い目に遭ってもらうしかないね」


ノハ; )「フン、見逃してもらってもこうするつもりだったけどな……食らいな!」


 ヒートはコートの中に忍ばせていた“コントローラー”を取り出し、スイッチ押した。
 瞬間、女兵士達の全身に紫電が迸り、彼女達は激しく痙攣した後にばたりと倒れた。
 ぴくりとも動かぬその背の上で、役目を終えた小型のリモートスタンが煙を上げている。

 敵勢力の鎮圧を確認したショボンは、ヒートに肩を貸した。

(´・ω・`)「立てる?」

ノハ;゚听)「な、なんとか……」

(´・ω・`)「まさかあの速度の中でスタンを全員に取り付けるとはね、しかも気づかれずに。
      ここまでやれるとは流石は紅い死神だ。恐れ入ったよ」

ノハ;゚听)「いやあ、スネークさんに教えてもらったテクなんですけどね。
      久しぶりにやってみたんだけど、上手くいって良かったぁ」

(´・ω・`)「どっちが素なのか分からないが、とりあえず急に態度を変えるのはやめてくれ。
      どう接すればいいのか戸惑う」

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:38:38.27 ID:wdWe/TBC0

ノハ;゚听)「そ、それは置いといて……二人は無事にバーボンハウスへ?」

 尋ねられ、ショボンは携帯端末のモニターを見やる。
 ターゲットマークは依然高速で動いているが、市街地を低速で進んでいる事からバイクを捨てたと分かる。
 現在、第4階層の西は第18番アベニュー、監視の少ない半スラム街の中に隠れているらしい。
 目的地のバーボンハウスは目前である。

 しかしターゲットマークは突然止まり、進路を変更した。
 メインストリートを離れて細い路地に入ってゆく……バーボンハウスが、遠ざかってゆく。

ノハ;゚听)「もう追っ手が!?」

(´・ω・`)「らしいな。目的地を目前に控えて進路変更するなんて……嫌な予感がするな。まさか張られてたか?
      とにかくバイクを呼び戻して僕達も急行するぞ。街の中なら激しい攻撃は受けないはずだ」

ノハ;゚听)「だと良いですけど……」

(´・ω・`)「あとはツンが無事モナー氏と接触する事を祈るしかない」

(´・ω・`)「それはそうと」

 ショボンはコートの中から振動ブレードを引き出しながら、気を失っている女兵士に近づく。
 首元に刃をあてがうと、ヒートが思わず声を掛けた。

ノハ;゚听)「こ、殺すの……!?」

(´・ω・`)「顔を拝もうと思ってね。綺麗な声だ。美人かもしれない」

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:41:22.19 ID:wdWe/TBC0

 「まあ僕は女に興味ないんだけどね」。
 「ブーンの本の通り、ガチでモーホーだったんだんですね……」と引くヒートを無視し、
 ショボンは首周りのロックにブレードを切り込ませた。
 本来ならばスイッチを押してロックを解除できるようだが、スタンで機能が破壊されてしまっている。
 
 身体を傷つけぬよう丁重にロックを切除し、そしてマスクを剥ぎ取った。


川 − )「………………」


ノハ;゚听)「わっ、本当に綺麗。でも、どこかで見た事あるような……」

(´・ω・`)「去年のミスコン準優勝者だよ」

 ヒートがはっとした表情を浮かべる。
 「もっとも、このNo67だったか、これは本人ではないだろう」と補足し、ショボンは続ける。

(´・ω・`)「クー・ルーレイロは今年29歳になるチーム・スタンレーの構成員……だったと言うべきか。
      一年前に開催された第3回ミスコンで準優勝し脚光を浴びたが、
      その後メディアはおろか人目に触れるような経歴は無い。
      そしてラボ内で起きた事故に巻き込まれ死亡したと報告されているようだが……」

 ショボンはもう一人のマスクも剥いだ。

川 − )「………………」

ノハ;゚听)「同じ顔……クローン兵士の正体がミスコン準優勝者だったなんて……」

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:44:16.43 ID:wdWe/TBC0

ノハ;゚听)「……改造、されてますね」

 彼女の頭部をスキャンしたヒート。頭部に搭載されたサイバーウェアに見覚えは無い。
 ショボンも同様、改造された、という事くらいしか分からなかった。

(´・ω・`)(無声通信機器のようなものと、もう一つ何か搭載しているな……情報処理を行う機関か?)

(´・ω・`)「クローンのオリジナル、クー・ルーレイロはただの人間だね。元はミスコン準優勝者の科学者だ。
      そんなクーはモララー・スタンレーの手により強化されて、クローン兵の原型になったんだ。
      そして更に戦闘用に適化され、量産されたのが、この彼女達だ」

 ここで、呼び寄せたバイクが上空から到着した。
 ショボンがそれ以上彼女達に手を加えずにバイクへ向かおうとするところを、ヒートが止める。

ノハ;゚听)「ま、待って。拘束した方がいいのでは?」

(´・ω・`)「出来ることなら一人持ち帰りたいところなんだがね」

 髭を指先でくゆらせてショボンは言う。

(´・ω・`)「しかし彼女達の通信能力を考えるとリスクが大きい。
      拘束したところで、すぐに助けを呼ばれるだろうさ」

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:45:55.28 ID:wdWe/TBC0

 「なるほど……了解です」と気絶しているクー達を一瞥してヒートが返し、バイクの座席に跨る。
 彼女の落ち着きのない吐息がショボンの首筋に掛かった。
 ショボンはヒートを案じ、肩越しに尋ねる。

(´・ω・`)「戦えるか? 僕の分析でも深刻なダメージを負っていると分かるが」

ノハ;゚听)「……紅い死神を舐めんな。このくらいどうって事ねえ……です」

(´・ω・`)「……無理はするなよ。援護して貰えれば十分だ」

 バイクがホイールを内部に収納し、代わりにバーニアンを底部に展開させて浮力を得る。
 駆動音が鋭さとボリュームを増すにつれ屋上から遠ざかってゆく。
 ショボンはズームを起動する。屋上ではクー達がむくりと起き上がり、頭部の異変とバイクの音に気づいた。

川 ゚−∩「…………」

 マスクを失った顔を抑えながら、ショボンとヒートに冷たい目を向ける。
 顔を見られた事で表情を変えるかと思ったが、顔を覆っていたマスクのように形は変えぬらしい。
 ズーム越しに目が合う。目の色も変わらない。彼女の目は見るという機能以外を持たないようだ。

 この、あまりにも人間的でない彼女の無機質さは、ショボンに人形を思わせた。
 意思を持たず、誰かに操られなければ動かない、人形のようだと。

(´・ω・`)(ドクオ、お前の記憶と推測は正しいようだ。
      だが、彼女達を救うのは難しいかもしれないな……)

  __

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:48:22.27 ID:wdWe/TBC0
  ※

 
 暗闇の空へ姿を変えた天蓋と内壁が、星光と、大きく欠けた月を用い、
 第4階層の中心都市「ヴィッパ」の夜をロマンティックに演出する。

 夜の訪れに賑わう人々の喧騒が地上から届く。
 淫靡に輝くピンク街のネオンや目に眩しい広告を横切り、ツンを乗せたアクセサーは基幹たる中央エレベータに向かう。
 ラスベガスといったギャンブリングタウンを模した『セントラル』の夜は華々しく、
 アクセサーを走らせるレールも雰囲気を壊さないよう、複雑なパターンでイルミネーションを光らせていた。

 中央エレベータから流れる滝の如く、光り輝くレールが街に雪崩れ込んでいる。
 アクセサーのテールランプがどれも郊外か繁華街のターミナルへと消えてゆく中、
 ツン達の乗るアクセサーはその流れに反し滝を登り、第3階層へ向かっていた。
 オープンカーのように剥き出しのボディが搭乗者に風を強かに届ける。
 うるさく靡こうとする髪を手で押さえるツンは、どこか憂いを顔に浮かべていた。


ξ゚听)ξ「何年経っても変わらないわね、この街は……いえ、昔よりもっと華やかになったかしら?」

 ふと、ツンは隣のエクストに呟いた。


<_;プ−゚)フ「……ンだよ急に、思い耽ってよぉ」

ξ゚听)ξ「ちょっとね……さっきまで昔の事を思い出しててさ。
      アンタやビロードを見てたら、何だか昔のナイトウを……ブーンの事を思い出したわ」

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:50:59.26 ID:wdWe/TBC0

<_プ−゚)フ「俺を見て? 英雄の昔を?」

 英雄。ブーンの事をそう呼び称えたエクストに、ツンは微笑んだ。

ξ゚ー゚)ξ「へえ、ブーンの事は好きなんだ?」

<_;プ−゚)フ「す、好きじゃねえよ! ブーンがビロードを連れてきたんだ!
        だからこの前みたいなやばい事になったんだろ!?」

 頬を染めながら、エクストは英雄と呼んでしまった事を取り消したくて取り繕う。
 とはいえエクストの言い分は紛れもない事実だ。ブーンが危機を呼び込んだ張本人である。


ξ゚听)ξ「でもブーンにケンカ売ったって勝てやしない。
      だからビロードを調度いい標的に選んだ。そうでしょ?」

<_;プ−゚)フ「そ、それはぁ……」


ξ゚听)ξ「図星ね……エクスト君、ビロードに逆恨みするのは止しなさい」

<_;プ−゚)フ「なんでだよ!? ブーンとビロードのせいでトーチャンが死んだのは事実だろ!
        あいつらを恨むなって言われても……無理だよ!」

ξ゚听)ξ「確かに事実かもしれない。でも悪いのはセカンドウィルスだと思う。
      あのね、エクスト君……ブーンも、ビロードも、親をセカンドに殺されてるのよ」

<_;プ−゚)フ「え……?」

40 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:54:14.51 ID:wdWe/TBC0
ξ゚听)ξ「貴方の父親、リレントさんが貴方を守ろうと出撃したように、
      ブーンとビロードの親はセカンドに立ち向かって死んだのよ……アタシの両親もね」

<_;プ−゚)フ「……お姉ちゃんの親の事は知ってるよ。6年前のニュージャージー爆破作戦だろ?
        あの時にお姉ちゃんの両親は死んでしまって、お姉ちゃんとブーンは戦うって決めたんだよね?
        俺、ブーンの本読んでるから、知ってるよ」

ξ゚听)ξ「じゃあ、ブーンのお母さんが死んだのはアタシのせいだって、知ってる?」

<_;プ−゚)フ「お、お姉ちゃんのせいで……!?」

ξ゚听)ξ「……見殺しにしてしまったのよ。
      そしてアタシはブーンに恨まれた……アンタが逆恨みするようにね」

ξ゚听)ξ「ちょうどいいから、少し昔話をしてあげる。これは本には書かれていない事実よ」


( ^ω^)「――当時の地上の恐ろしさはドクオも身をもって体験した思うけど、
       ブロードウェイも勿論危険に満ちていたお。多くの感染者がそこにいた。
       軍はその状況を把握した上で別ルートから資材を運搬していたらしく、
       更にブロードウェイから橋へ侵攻する奴等の防衛に死力を尽くしていたんだお」


 場所は別に、時は同じくして、ツンとブーンは二人の少年の為に語る。
 忘れもしない、2054年1月の悪夢のような夜を――――


   第34話「LOG ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦」



42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:56:32.94 ID:wdWe/TBC0
 夜の帳。それは人間をこの恐ろしい世界から逃さぬよう落とされた蓋のよう。
 陽光を奪われた人間の視覚能力はひ弱であり、だから人間は己の手で光を作り、闇夜に灯してきた。
 だが、そんな当たり前の文明利器の使用は、病原体で変貌したこの世界では命取りにしかならない。
 街に取り残された非感染者、検疫で弾かれた感染者は行き場をなくし、
 自宅や空き家で一切明かりをつけずに、じっと夜明けをただ待つのだ。

 暗闇を隅々まで見抜き、自由に獲物を捜索する変異生命体の、その尋常ならざる咆哮に震えながら。
 あるいは、いつ訪れるか分からない、変異の開始に脅えて。

 日没直前、マンハッタン島とニュージャージーの居住区から明かりが、そうして一斉に消え失せた。
 一方で無人のオフィスビルは点灯と消灯を自動で繰り返していた。
 ハドソン川に隔たれたニュージャージー州民は、そんな摩天楼が生きているように見えたかもしれない。
 しかし、マンハッタン島も既に安息が約束される場所を失っていた。
 それは防護システムの構築途中であった『セントラル』にも言える事であった。

 建造物は電力供給が止められた順から異形の棲家と化した。
 オフィスビル、ミュージアム、ショッピングモール、アパート、駅……場所は様々である。
 寝床と食卓を一緒くたに済ます彼等は、その日捕獲した獲物の腹の中を貪り終えると、
 血にまみれた床を舌で啜りながら夜明けを待ち、日中を睡眠で過ごすのだ。

 未だ感染者の多くが陽光を嫌う理由は定かではないが、
 当時のこの習慣から鑑みれば、弱者たる人間を捕獲しやすかった為に、彼等の夜行の傾向が強まったのかもしれない。
 ともかく、夜の街は地獄だ。武装した軍人が束になろうとも無事に帰還するのは困難である。

(;゚ω゚)「はあ、はあ、」

 BlueBulletGunを持っていたとはいえ、
 単身で街を行こうとしたホライゾン・ナイトウの行動は、まさに自殺行為だったと言えよう。

45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 21:59:33.03 ID:wdWe/TBC0

( ;゚ω゚)「……橋まで辿り着けるのかお……?」

 ブロードウェイから漏れる血に飢えた叫びが、暗闇に隠された阿鼻叫喚を連想させる。
 だが、もはや引くことは出来ない……どんな顔をして戻れというのだ?

 意を決し、角を曲がってブロードウェイに侵入した。
 車のヘッドライトがブロードウェイのほんの一端を照らし、暴く。

 道端に、引っくり返った車と、原型を失った軍人や作業員が無残に転がっていた。
 緊張感を嫌でも覚える。ナイトウは目を凝らして辺りをよく伺った。
 すると、まだ生きていた人間達が劇場内から引きずりだされている現場を発見してしまう。

「嫌っ、嫌ぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 人の姿に近い異形に、人間の女が担がれていた。
 異形は女を地面に放り投げ、下卑た笑いを浴びせながら、近寄る。


( ;゚ω゚)(何を、しようと……)

 ナイトウはヘッドライトを消灯させる事を忘れ、彼等の奇行を知ろうとしてしまった。
 と言うより、恐怖に魅入られ、釘付けになってしまったのだ。

 女の悲鳴が街に反響する。
 次第に女の声だとは思えないような叫びへと色を変えて。

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:01:28.45 ID:wdWe/TBC0
 四肢を食い千切られ、露出した血染めの骨まで噛み砕かれる。
 達磨のような姿になった女はぐねぐねと動いてもがきながら、目鼻口から液体を流し、小水でズボンと地面を濡らした。
 次に、興奮した彼等は鋭い爪で顔面の皮を剥いだ。すると涙の代わりに目玉がぶらんと頬に伝った。

 彼女は皮膚ごと服を裂かれ、彼等の本能を満たす道具と化した。
 醜く肥大した男性器のような物を強引に挿入されて血潮を噴出し、
 しかし感染し強靭になった彼女は気絶を許されず、朦朧とした意識の中で快楽を得るようになり、嬌声を上げ始めたのだ。

 射精が終わると彼女は頭を噛み砕かれて、絶命によってその生き地獄から解放された。
 ナイトウは涙した。彼女を憐れんでの涙なのか、恐怖からなのか、
 嘔吐に付随した生理的な反応であったのか……ナイトウにも理解できなかった。

 滲む視界の中、そのような凄惨な殺戮と食事、異種間の性交が他でも行われている事に気づく。
 そして、今しがた事を終えたはずの、彼女の遺体に起こった異変にも。

( ;゚ω゚)「えっ――――」

 びくびくと痙攣している。腹が、下っ腹の方から急速に膨れ上がっている。
 ガス風船のように大きく膨れてゆく……まだ、膨れる。まだ、まだ。
 破裂しそうな厚皮の中で何かが蠢き始めた。
 それは次第に激しく暴れだし、そして、母体の腹を突き破り、そいつは生まれた。


「おぎゃあ、おんぎゃあ、おんぎゃあ」


 小さな赤子。女が身篭っていたのか? それとも、たった今受胎した生命なのだろうか?

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:04:47.63 ID:wdWe/TBC0
 何にせよ、異形の子は異形であった。
 紫色に染まる皮膚や、口や目をバラバラに配置した顔面、上半身から幾つも生えた腕と……
 人間の部位を持ちながらも人間とは呼びがたい外形を持った子である。

( ;゚ω゚)「あ……や、やば……」

 目が、合う。
 赤子は、顔の右半分を閉める大きな口からだらしなく血混じりの涎を垂らし、笑みを象った。
 母体から這いずり出て、多数の腕を駆使して素早く近づいてくる。
 ――――まずい! クソ、つい気を取られてしまった!

 一気に危機感がこみ上げ、アクセルペダルを踏み込む……が、進まない。
 “父親”が正面から車を押さえに掛かっていた。
 そして父親の肩から登ってきた赤子が、フロントボディに乗り出し、気味の悪い腕を器用に動かして近づいてきた。
 赤子が額をガラスに叩きつける――皹が走り、二撃目でガラスは音を立てて割れた。

 飛散するガラスを腕で塞ぐ。その隙を突いて赤子がナイトウの腕に飛びついた。
 噛み付かれるよりも早く、ナイトウはBlueBulletGunで頭部を射抜いた。
 とても、その小さな頭に内包されていたとは思えない程の血が噴出し、車内とナイトウを散々に汚して悪臭を放つ。
 
 しかしその悪臭を気に留める余裕は無い。今度は父親が車体に乗り出してきたのだ。
 父親が長い腕を振り上げた。その瞬間を狙って、ナイトウは銃撃し、肩から腕を撃ち飛ばす。
 抗体が流れる激痛に狂う父親が、フロントボディに何度も頭を打ち付ける。
 揺れる車体、定まらぬ照準。だが、的は大きい。次の射撃で父親の頭に風穴が開く。

 安堵と高揚、恐怖が一緒くたにナイトウの胸を埋めるが、一瞬の事。すぐに危機感と焦りで塗り替えられる。
 獲物を食い終えた他のセカンド達が、ヘッドライトに気づいて殺到し始めたのだ。
 ナイトウはBlueBulletGunで正面のセカンド達を正確に撃ち抜いてゆく。
 一先ず正面の脅威を排除したナイトウは、車を急発進させた。

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:06:31.43 ID:wdWe/TBC0
 来た道を戻る事など容易であった。
 それでもナイトウがハンドルを切らずに直進を選んだのは、
 復讐心と、使命感、芽生えつつある自信がそうさせたからであった。

 両親を殺害したセカンドへの報復。
 ツンを人質にとってしまった後悔と、彼女の為にも復讐を成し遂げるべきという使命感。
 そしてBlueBulletGunのクセを掴み、数回の戦闘で物とした自らの銃撃のセンスだ。

 高速で走行するナイトウの車に、張り付いた看板から飛びかかる感染者が二人。
 走行中故に車ごと視界は揺れるが、ナイトウは見事な手腕で空中の敵を一撃で撃ち落してゆく。
 目標に対し銃口をどう向ければ良いのかが分かると、ナイトウは気づいた。
 陸上くらいしか取り柄が無かった自分が、どうしてこんな芸当を?
 その疑問は母の顔の現れによって霧散する。

(  ω )(そうだったお……僕のカーチャンはプリンストンのガンマスターだお)

 銃撃センスは母譲りだ。
 ナイトウはそう決め込み、そして母に対し深い感謝を、誇りを抱いた。

( #゚ω゚)(僕だって出来る! やってやるお! トーチャン! カーチャン!)

 決意改めた時であった。
 突然、視界が急速に流転し、激しい衝撃と共に激痛が身を襲う。
 車はボンネットで地面を滑り重厚なビルの壁に激突する。エアーバッグが作動。

(;゚ω゚)「う、お……一体、何が……あ……あああ……!?」

 エアーバッグが役目を果たし収納され、遮蔽物が消えた視界に現れたのは、
 血みどろの巨大な二本足であった。

55 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:11:49.70 ID:wdWe/TBC0
 まだ生きているヘッドライトが黒く長い何かを一瞬映し出す。クレーンのように、ナイトウは見えた。
 寸時の後、不自然な風のうねりの発生がナイトウの肌を粟立たせた。
 咄嗟にシートベルトを外し、半壊して開きっぱなしのドアから身を投げ出した。
 強風がナイトウの長髪を乱暴に靡かせる。車が、巨人のクレーンのような長い手でビルに放られたのだ。
 爆破が上空で起こり、一帯を赤色に照らす炎がビルの中階に灯される。

 炎が映し出したのは人の四肢を持った巨大な変異生命体であった。
 未熟な皮膚は膨れ上がった筋肉を覆いきれず、だからこそナイトウを戦慄させ生理的な嫌悪感を抱かせる。
 しかし真に恐怖を与えたのは、腹の底まで響かせる咆哮を上げたその重ね口である。
 鋭い牙を揃えた口の中に同様の口を持ち、その中から長く伸びる舌が鞭のように撓っている。
 弱点たる脳は剥き出しの白骨で兜のように防護され、兜の縁に垣間見える三つ目の全てが震えるナイトウを睨み付けている。

 腕を振りあげ、どす黒い血で汚れた三指をビルに食い込ませる。
 降り注ぐ瓦礫の中、三指がナイトウに襲い掛かる。
 ナイトウは慌てて前方に飛んで地を転がった。すぐさま立ち上がり、巨人の股を潜って背後に回る。
 
(;゚ω゚)「うわああああああああああああああああああああああ!!」

 頭部は見えず、背のみが見える。
 しかし広大な背を一瞬見渡したところで心部を特定する事は出来ず、
 ナイトウは我武者羅にトリガーを引き続けるしかなかった――銃撃センスもクソも無い、撃つしかない!
 背に対し銃創の小ささに不安を覚えるが、頼みの綱たるブルーエネルギーは効力を発揮してくれた。
 幾つもの銃創から流れ出る泡立った血肉が地面に広がる。
 巨人は地団駄を踏み激痛に狂うが、次第に叫喚も止み、地響きを伴って地に付した。

 巨人は全身を痙攣させ、激しく呼吸し胸を上下させている。
 未だ生命活動しているようだが、ナイトウはトドメを刺さずに背を向けて走った。
 恐怖と、抗体の効力を過信するが故に――――しばらくし、重厚な響きが通りに伝わった。

58 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:14:17.75 ID:wdWe/TBC0

( ;゚ω゚)「何度も撃ちこんだのに……冗談だろ……!?」

 振り返り見た光景は、自身よりも遥かに大きなコンクリの塊を持ち上げて立つ、巨人の姿であった。

 巨人は怒りの限り叫び、狂気と殺意を闇夜に広げる。
 ナイトウは後退しながら銃撃するが、弾丸が奴に届かぬまま空中で消失したのを見ると、全力で足を動かした。
 前方上空から鳴る金切り声に顔を上げる。別勢力、二体の人型セカンドがこちらに飛び掛っていた。
 だが、彼等は巨大な瓦礫に押しつぶされ、ナイトウの足元に多量の血液を忍ばせるだけに至る。

 そしてナイトウは瓦礫――もはや半壊した劇場の一部が道に横たわるようだ――に逃路を閉ざされた。
 振り返る。敵がいない。周囲の暗闇がより濃く色を変えている。
 はと空を仰ぎ見ると同時、地面が跳ねてナイトウは尻餅をついた。
 およそ声だと思えぬ振動がナイトウの全身を襲う。

( ;゚ω゚)「はあ、あっ、ああ、あああああああああああああああああああああ!!」

 自分を飲み込もうとする重ね口の奥へ弾丸を放った。
 跳ね上がる頭部。だが、一瞬の硬直の後に再度首をこちらへと下げる。
 更に弾丸を厭うようになったか左腕で顔面への攻撃を塞ぎ、一方で右腕を振り上げている。

( ;゚ω゚)「クソオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 腕の軌道から逃れようと真横に走りながら腕を狙撃――――カシャ、と、頼り無い手応えが指先に走る。
 何度もトリガーを入れ続けるが、弾丸は射出されない。

( ;゚ω゚)「そんな……」

 エネルギー切れだ。
 冷静な機械のように動く三つ目に絶望するナイトウの顔が映る。腕が、正確に振り落とされた。

61 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:17:40.73 ID:wdWe/TBC0
 が、その木幹のように長く太い腕が血しぶきと共に宙を舞い、
 とある劇場の崩れかけた屋根に突き刺さった。
 巨人は底無しに溢れ出るドロドロの血肉を止めようと、肩口を残る手で押さえる。


 どろどろの、泡立った血肉を。


 暗闇に覆われた通りに硬質なスタッカートが鋭く響く――近づいてくる。
 ナイトウは目を凝らし遠く先の暗闇の中を探ると、蒼き閃光に一瞬視覚を奪われた。
 ばしゃばしゃと、熱い液体がナイトウの全身に降り注ぐ――巨人の胸に大穴が開いている。
 再び閃光が辺りを照らした。
 漆黒のスーツに身を纏った男が巨人の肩に乗っている。しかも彼は隻腕だ。
 機械仕掛けの左腕が持つのはハンドガンよりずっと大きい、まるで砲のような銃であった。
 砲が再び唸りを上げ、爆音がナイトウの耳を襲う――巨人の頭部が木っ端微塵に吹き飛んだ。

 巨人は膝を付き、首を失いながらも空を仰ぐような格好で沈黙した。
 しかし心臓の鼓動は続く。循環器は傷口から多量の血肉を放出し、辺り一帯をどす黒く汚すのだった。
 血だまりに着地する男。同じくして血だまりに立ち尽くすナイトウ。
 闇夜に慣れたはずの目がうまく見えないのは、涙で滲んでしまった為であった。

 そのシルエットは依然のように華奢ではなく、隆起した筋肉が見せるように分厚い。
 だが、声は酷く聞き覚えのあるものだった。
 ナイトウは、地上の街に繰り出してから初めて心の底から安堵した。


(‘_L’)「もう、大丈夫だ」


( ;ω;)「フィレン、クトさん……」

64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:20:51.59 ID:wdWe/TBC0

(‘_L’)「……すまなかった。君がこれほど思い詰めていたとは、私は……」


 「おーい! フィレンクトさん! 無事かぁ!? うわ、なんだこのデッケェの!?」

 そこへ、ナイトウの知らぬ男二人が近くの路地から出てきた。
 一人は如何にもひ弱そうな学生風の男、だらしなく伸びた髪が油っぽい。
 もう一人は米陸軍が抱えるサイボーグ部隊に見られる、合成ラバー製のコートに身を纏ったサイボーグ。

(‘_L’)「おお、私なら大丈夫だ。すまないな、助けるなり放ってしまって」

(;'A`)「いや、助けてもらって本当に感謝してますよ! ……えと、そっちの人はお知り合いで?」

(´・ω・`)「ドクオ、それ以上彼に近づくな! 奴等の血液を浴びている!
      地面もセカンドの血で汚れてるぞ。へたすると感染する」

(;'A`)「おおっと!? あぶねえ! っつー事はお前、感染者って事かよ!?」

 避難中のドクオ・アーランドソン、ショボン・トットマンだった。
 二人はブロンクス区の工業大学に2日間潜んでいたらしいが、
 次々に強力な変異を遂げた感染者に襲撃され、『セントラル』を目指すに至ったのだ。

 フィレンクトは、ドクオのナイトウに対する敵愾心に溜息を吐き、補足した。

(‘_L’)「ホライゾン・ナイトウ君は強力な免疫を持っているからセカンド化しないよ。
      もっとも、ドクオ君が今の彼に触ったらセカンドになってしまうけど」

67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:23:52.41 ID:wdWe/TBC0

(‘_L’)「それより君達は早く『セントラル』に向かいなさい。
      ブロードウェイは私がざっと掃除しておいたから差ほど危険ではないはずだ。
      ああ、ショボン君にはこいつ、BlueBulletGunを渡しておく。後で返してくれ」

 フィレンクトは腿のホルスターから、予備のBlueBulletGunを取り出してショボンに渡した。
 ナイトウは自分の持つ同名の銃と見比べ、あれはとてもGUNとは呼べない代物だと唖然とした。
 これが、フィレンクトの言う「銃ではなく砲」という事なのか。

(;'A`)「へえ……免疫持ちなんだな……羨ましいぜ。俺はドクオ・アーランドソン。
     握手は無事、生き延びてシャワーを浴びた後に交そう。さ、行こうぜ、ホライゾン」

(; ω )「いや、僕は……行かない」

(´・ω・`)「何? 『セントラル』に行かないで、何処に行く?」


(‘_L’)「この子は私と共にジョージ・ワシントン・ブリッジへ向かう」


(;^ω^)「え――――」


(‘_L’)「ショボン君とドクオ君は今のうちにブロードウェイを抜けるんだ。
      ショボン君の足なら遠くないだろう」

(;'A`)「うへえ……って事はまたお前にお姫様抱っこされるのかよ……」

(´・ω・`)「贅沢言うなよ。ま、僕は割りとまんざらでもないんだけどね」

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:25:06.82 ID:wdWe/TBC0

(;'A`)「あの、俺も橋の方に――――ひああああああああ!?」

 ショボンはドクオを抱え、背の低い建造物の屋根に飛び乗った。
 「健闘と無事を!」、ショボンはそう言い残し、
 屋根屋根を伝ってセントラルパークの方角へ向かっていった。

 同時に、同方角より一機のヘリが姿を現した。
 ヘリは二人の頭上で空中停止し、ワイヤーを垂らす。
 ナイトウはワイヤーの出先へ目を向ける。そこには、ツンと、デレの姿があった。
 どうして?――――その質問をするより早く、フィレンクトが答えた。

(‘_L’)「君を追って、戻ってきたツンが経緯を教えてくれた……ツンは、君の事が心配だと言って聞かなくてね。
      そうして私と共に君を追ってきた。それからデレは、君に謝りたいと」

( ; ω )「……そんな……ぼ、僕は、ツンを、」

(‘_L’)「ヘリに乗る前に覚悟しろよ。ツンは一発君を殴りたいらしい」

( ; ω )「フィレンクトさん……その……すみま、せんでした……。
      あんな事までしたのに僕は、僕は結局、僕一人じゃ橋にすら辿り着けずに――」

(# _L )「ツンに言え!!」

( ; ω )「う、うう……あ……ご、ごめんな、さい……」



73 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:28:07.51 ID:wdWe/TBC0


(‘_L’)「……だが、ここまでよく生き残れたな、たった一人で……頑張ったな」


 「流石は、ロマネスクとカーさんの子だ」


 「う、ううあ、」



( ;ω;)「うわあああああああああああああああああああああああ―――――!!」



 フィレンクトのその言葉は、ナイトウの胸に深く突き刺さった。


 彼の冷たく硬い胸の中。
 ナイトウは怒りを忘れ、恐怖と、安堵と、後悔を、異形蠢く暗黒の街に解き放った。



  __

76 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:31:06.01 ID:wdWe/TBC0
 米陸軍が兼ねてより誇る最強の武装ヘリ「アパッチ」。
 そのシリーズ第8世代はサイボーグやドロイドといった近代兵器との対戦を想定してアップグレード作業が行われ、
 高性能探索装置で空対地、空対空の両区域で目標を10秒以内に走査する事が可能だ。
 地形プロファイリング機能も性能向上し、目標に対し位置評定と移動速度などを精密に情報処理を行う事が出来るが、
 これら各機能はあくまで対サイボーグ、ドロイド用に開発されたレーダーシステムである。
 不明確な要素しか持たぬセカンドに対し同等の効力を発揮するかどうかは、この時点では不明であった。
 
 しかしながら、ヘリに搭載された毎秒30KB以上という高速データモデムと、
 フィレンクトが己に取り付けた情報処理システムがリンクした事でセカンド用の走査処理を可能とさせた。
 以降の事だが、武装ヘリを使用した作戦において、B00N-D1が同様の働きをした記録もある。

 試運転のシステム・ディレイクであるが、探知・識別・位置特定は迅速かつ正確に行われた。
 セカンドとの情報戦はこちらが圧倒し、BlueMachingunと30mm機関砲が先手を打って建造物ごと奴等を蜂の巣にしている。
 従って操縦者と攻撃手が操縦と射撃以外のワークロードをする手間が省け、
 ホログラムに表示された高解像度画像を見ながら桿を傾けることに集中している。
 
 フライトと対地戦が順調だという事を既に知っていたツンは、
 ワイヤーに引き上げられたナイトウに対し、強烈な平手で迎えてやる事ができた。
 事情を知らぬ者は、その乾いた音に肩を跳ねさせて驚いている。

 呆けたナイトウの横っ面に、もう一度ツンは張り手を浴びさせ、

ξ;凵G)ξ「馬鹿……死んだらどうしようもないじゃない……」

 血まみれのナイトウを抱きしめ、嗚咽した。

80 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:35:04.03 ID:wdWe/TBC0
 自分の無事に安堵しているツンを見て、ナイトウは酷く後悔した。
 僕は恨まれて当然の事をツンにしたというのに……。

 小さく震えるツンを抱きしめてやる力も出ないくらい、ナイトウは打ちのめされた。
 ただただ、泣きながら懺悔を繰り返した。

( ;ω;)「ツン…………僕が、悪かった……。
       僕一人じゃアイツに会う事すら出来なかった……酷い事して、ごめんお……」

 彼等の様子を見ていたデレが安心し、息を吐いた。
 彼はもう、無茶な行動を取る気は起こさないだろう。

 デレは綻んだ顔を正してナイトウに声を掛けた。

ξ(゚−゚ξ「ホライゾン君、ごめんなさい。病室での事を謝らせて。
      私は貴方の気持ちを考えずにツンとの再会を喜んでしまったわ……」

 ナイトウはハッとしてツンを身体から引き剥がし、デレの方に振り返る。

(;^ω^)「い、いや、そんな事気にしなくっていいんですお。
       それより僕が謝らなくちゃならない。
       ツンに酷い事をしてしまって、本当に申し訳ないですお……」

ξ#;凵G)ξ「そうよ! 殴り足りないわ! このっ! よくもあんな事!」

(;^ω^)「ぐわっ!? わ、悪かったお!
       気が済むまで殴れ……って、ちょっと待つお。なんか、聞こえない?」

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:37:53.07 ID:wdWe/TBC0

ξ(゚−゚;ξ「……何か……妙な音が聞こえるわね……」

 ツンが容赦なく拳を振り下ろした時、操縦座席とフィレンクト間で不穏が流れていると一同は気づく。

 なんだ?――――ヘリのブレードが風を切る中、一向は耳を傾けて妙な物音を探る。
 ……鳴き声だ。空を飛んでいるようだ。それも、そう遠くは無い場所を。
 フィレンクトが操縦席のほうから、険しい面持ちでやってきた。

(‘_L’)「大型飛行セカンドが接近している。他の大勢のセカンドもキャンプに向かっているようだ。
      私は単独で敵勢力を制圧しながらキャンプに向かう。君達は先に向かってくれ」

(‘_L’)「ああ、それとホライゾン。お前に銃のエネルギーカートリッジを渡しておく」

 フィレンクトは腰に下げたバックパックから小さな筒を取り、ナイトウに渡した。
 ナイトウは戸惑いながらBlueBulletGunのカートリッジを差し替える。

(‘_L’)「何かあった時は二人を守ってくれ」

(;^ω^)「お、おじさん……」

ξ(゚−゚;ξ「貴方……本当に一人で?」

(‘_L’)「不安か。まあ、そうだろうね。先日まで私は非力な人間だったからな。
     だけど、心配は無用だよ」

84 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:39:24.61 ID:wdWe/TBC0
 フィレンクトは壁に横たわるバイクを起こし、
 操縦部に埋め込まれたパネルに触ってエンジンを起動させる。
 座席に跨り、もう一度パネルを操作してフロントボディに内臓された武器庫を動かす。
 4つの柄。どれもトリガーを備え付けたそれらが銃と分かる。

 その内、一番長い獲物をフィレンクトは取り出し、更に己の手で伸ばし、広げ、本来の姿に戻す。


(‘_L’)「君が提案した、このSniperの性能も試したい。まあ、楽な狩りになるだろう」


 Sniperを背のホルダーに差し込み、フィレンクトはバイクに乗ってハッチから飛び出した。
 バーニアンが展開し上昇、アフターバーナーが急加速を誘い、暗闇の中に切り込んでゆく。
 ツン達の声が届かぬ位置へと瞬く間に飛んでいってしまった。


ξ(゚ー゚;ξ「まったく……クールなフリして浮かれてるわ、あの人」

(;^ω^)「で、でも、フィレンクトさんは凄いお。
       僕も、目の前で大型セカンドを瞬殺したのを見たし、心配は無用だと思うお」

ξ゚听)ξ「ふん、心配なんてしてないもの。お父さんは最強で最高なのよ!
      セカンドなんかに負けないわ! 殺したいなら5キロトンの核兵器でも持って来やがれって感じよ!」

88 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:41:21.04 ID:wdWe/TBC0
 頭部両脇に付けられたアンテナが発するミリ波。
 そのアンテナが根を張るヘッドフォンのような形の集音機能。
 赤い右瞳が持つ、サーモグラフィ、スキャニング、高解像度カメラ。
 受動的に、時として能動的に情報収集するそれらは、
 頭蓋骨の中の半分を占める機器――情報処理システムと入出力し続けるモジュールに過ぎない。 

 システムは当該目標の現在地、移動速度、移動方向、体温、体内外構造などのデータを、
 風向、風力、重力、地形、別脅威の活動状況と加えプロファイリングし、
 膨大な予測データをパーセンテージなどで順位付けし、提示。
 更にはこの情報処理システムの介助により、フィレンクトは手に取るようにそれらが理解出来る。

 バイクの爆音が摩天楼に響き渡る。
 推奨される軌道に沿い、フィレンクトは情報処理システムでリンクしたバイクを手放しで操作する。
 背からSniperを取り、Sniperの照準に目を合わせた。
 情報処理システムとSniperは互換性を得、相互して正確なロック機能が起動。

 敵大型飛行セカンド――ただのデカいだけの出来の悪いカラスに見える――がこちらに気づいた。
 嘴を開け、隠していた多量の舌を放出させる――戦術状況が更新される。
 瞬間的に作動する対物感知と脅威評価に基づきバイクを自動操縦、高速で飛び交う舌の中を掻い潜り、敵の下っ腹に回る。
 無防備な胸、腹の順に優先された予想ウィークポイントをロックし、トリガーを引いた。

 音速を勝る速度で射出された弾丸は暗雲をも射抜く。
 二つの風穴から黒血を撒き散らし、カラスは錐揉みして廃ビルに突っ込んだ。
 集音機能で敵の心肺機能停止を確認、フィレンクトはSniperを背のホルダーに差し、Sniperの試し撃ちを終了した。

(‘_L’)「よし、情報処理システムの調整も完璧だ。Sniperとの相性も抜群に良い」

 そう評価し、地上へバイクを降下させる。
 空中飛行モードのまま街を疾走し、BlueMachingunでセカンドどもを蹴散らしながらキャンプへ向かった。

93 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:45:20.67 ID:wdWe/TBC0
  ※


 世界一美しいと称えられる橋、ジョージ・ワシントン・ブリッジ。
 マンハッタンはワシントンハイツ、ニュージャージーはフォートリーを結ぶこの吊橋は全長1067mに及び、
 それぞれ8車線を有するアッパー、ロウアーの2層ロードで構成される。

 日が落ちれば数多のテールランプに彩られ美麗さに拍車を掛け、
 巨大に進化した摩天楼に埋もれる事無くランドマークとしての存在感を発揮してきた。
 しかし今ここを行き来するのはランプを消して走る軍用車とドロイド。
 慌しい走行音、駆動音のみが響く。

 更には2層のどちらも使わずに川の上を飛ぶ不届き者のドロイドも多数。
 彼等はシミレーション結果から算定された位置に爆薬を設置し、
 広大なハドソン川の底へ沈めることで100年以上に渡る橋の歴史に終止符を打とうとしているのである。
 
 そして橋の破壊状況は無傷に近い。
 暴れ狂うセカンドどもが橋を落としてくれれば楽なものだが、現実はそう上手くいかない。
 クイーンズ区から侵入したセカンドの多くがクイーンズボロウ橋を渡って来たという報告がある。

 ウォール街を襲ったセカンドもまた然り、侵入ルートはブルックリン橋であったという。
 軍はすかさず両橋を爆破し、更にはマンハッタンを結ぶトンネルを封鎖させて侵入を防いだが、
 ニュージャージーに限り多くの生存者と資材の存在が確認され、特に資材欲しさからこうした現状に至ったのだ。

「もう間もなく爆破が開始される! さあ早く乗って!」

 ナイトウ達は橋上で着陸してヘリを降りると、物のようにトラックに押し込められた。
 荒い運転で急な坂を下り、トラックはキャンプの入り口で急停止した。

97 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:46:50.17 ID:wdWe/TBC0
 ジョージ・ワシントン・ブリッジの麓には、赤いペンキで塗られた「リトルレッド」と名づけられた、
 灯台と呼ぶには小さすぎる灯台が誇らしげに立っている。
 このリトルレッド灯台を拠点に『セントラル』は爆破作戦のキャンプが置かれている。

 キャンプに用いられた照明やテントは少なく、だが数多の人員と物資、車で一帯は犇いている。
 ドロイドが忙しなく、且つ、粛々と物資運搬を続ける一方、作業員は爆破と防衛戦の準備を進めたり、
 ホログラムと睨み合ってドロイドへの指示と行動結果を再チェックする。

 皆が焦りを浮かべていた。ナイトウ達はキャンプに到着してようやく気づいたのだが、
 1キロメートル先の対岸から激しい銃撃音と叫喚が聞こえてくるのだ。
 どうやらフォートリーに敷いた防衛線を突破され、橋に感染者が入り込んでいるようだ。
 ナイトウ達がキャンプに到着した頃には爆破準備が整ったようだが、ドロイドやパワードスーツ隊の応戦は尚も続いている。

 更にそう遠くない場所で計3つの銃撃戦が繰り広げられていた。
 この物々しい喧騒をセカンドどもが聞き逃すはずは無く、活きの良い獲物に期待して殺到していたのだ。
 軍人と戦闘用ドロイドはマシンガン、ロケットランチャー、導入されたばかりのレーザーガンなどで脅威に応じるが、
 報告を受ける荒巻・スカルチノフ大佐の焦りのある表情を伺っても、状況の悪さが予想できる。
 事実、状況は秒単位で変化している。報告を受けるたびに荒巻は怒号で返していた。

 デレ・ディレイクの到着を聞くと、荒巻はすぐに彼女を呼びつけた。

ξ(゚ー゚;ξ「ちょっと行ってくる。貴方達は邪魔にならない所で作戦を見守ってなさい」

(;^ω^)「あ……うん、わかったお……」

 そうナイトウとツンに言い残し、デレは作戦本部へと走っていった。
 取り残されたナイトウとツンの間には、再び重苦しい空気が漂う。

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:49:09.67 ID:wdWe/TBC0

(;^ω^)「…………」

 散々殴られたが、あれで許して貰えたとはナイトウは思わなかった。

ξ゚听)ξ「……何よ?」

 しかし、ツンの目に怒りの色は無かった。何とも無い、普段通りの表情だ。
 張り手の一発くらい貰う覚悟だったナイトウは、拍子抜けると共に戸惑った。

(;^ω^)「つ、ツン……僕を……許してくれるの、かお……?」

ξ゚听)ξ「……怒っちゃいるけど、アタシはアンタを恨んでなんかいない。
      アタシがおばさんを見殺しにしたのは事実だもの……」

( ^ω^)「……それは違うお、ツン。それは、僕の逆恨みだ。
       カーチャンが死んだのはツンのせいなんかじゃない……あいつのせいだ。
       それに、僕がその気ならツンの運転を止める事だって出来たお」

(  ω )「僕はツンの弱みにつけ込んで憂さを晴らしたかっただけだったんだお。
      本当にごめん……僕は、最低だお……」

ξ )ξ「ナイトウ……」

 ツンは小さく嗚咽を漏らし、ナイトウの胸に顔を埋めた。


ξ;凵G)ξ「おじさんとおばさん、死んじゃった……もう、やだ……こんなの……」

(; ω )「つ、ツン……」

102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:51:44.54 ID:wdWe/TBC0
 ナイトウはようやく気づく。
 彼女もまた、ロマネスクとカーの死に深く悲しんでいた事を。
 だというのに自分はツンに恨みを突きつけてばかりで、そればかりか慰められて……。

 ナイトウはツンを強く抱きしめ、頭を不器用に撫でてやった。
 小さく震える彼女が堪らなく愛おしく感じる。
 自分はフィレンクトのような力は無い……だけど、何としてでもツンを守ってやりたい。

 今出来る事は、彼女に気の利いたセリフを聞かせてやる事くらいだ。

( ^ω^)「でも、もうきっと大丈夫だお……皆で早く『セントラル』に早く帰るお」

 正直、少し虚しい。安心させる為に根拠の無い事を都合の良いように吐いて。
 それでもツンは笑みを浮かべて、頷いてくれたのだった。



 「……ねえ、落ち着いたらさ、『セントラル』を一緒に回ろうよ」


 「……いいね、それ。行ってみたいところ、いっぱいあったお」



 二人は橋を見つめる。
 この世界でまだ美しく存在している思い出の橋を、目に焼き付けようと。


105 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:54:19.38 ID:wdWe/TBC0

/#,' 3「フィレンクトはどうした!? なぜ一緒じゃない!?」

 デレが作戦本部テントに赴くや、荒巻は泡を飛ばして問い詰めた。


 システム・ディレイクの不在が荒巻を苛立たせる原因でもあるようだ。
 周囲の人々が抱える不安も同様のようで、皆がデレの言葉を息を呑んで待った。

ξ(゚−゚;ξ「彼は既に防衛に加わっています! もう直ここに到着するかと――」

 「181番ストリートより通信! フィレンクト氏と合流!
  敵勢力の鎮圧に成功! フィレンクト氏は間もなくキャンプに到着するとの事!」

/;,' 3「焦らせおって……」

 深く息を吐き、汗で張り付いた髪を払う。
 老いても精悍さを保つ狡猾な老兵も、地上に出てものの数十分で激しく消耗したらしい。
 しかし荒巻だけでなく、キャンプ内の人間の顔は見るからに疲れていた。

/ ,' 3「爆薬とドロイドの最終チェックは終わっているな!?」

「完了しています! いつでもいけます!」


/ ,' 3「……よし! パワードスーツ隊を呼び戻せ! 爆破を実行する!」

/ ,' 3「十分、引きつけろよ。奴等を一網打尽にしてやるぞ……!」

108 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:56:51.89 ID:wdWe/TBC0
 全8車線全2層を物ともしない耐久度を持つこの橋も、今宵は震えていた。
 OSMインダストリアル社製のパワードスーツの、猛攻に次ぐ猛攻で辛うじて進行を塞き止めていたが、
 ただ一匹の巨大セカンドの登場により形勢は一気に逆転し、無数のセカンドが橋に雪崩れ込んだのだ。

【+曹長】;ゞ゚)「一体なんなんだアイツは!?」

 色の悪いグリーンカラーの、蛇を思わせる軟な体質は原型を持つようでそうではない。
 頭部であろう箇所に丸い核のような塊があり、塊に埋め込まれた赤い輝が光を増すと、全身の形は自在に変化するようだ。
 時には触手の如く細く伸び、時には塊を成し足元のセカンドを殴り潰す。
 何かを吸収する度に、そいつは肌を持ち、顔、手足、胴体、内臓、毛、声を持ち、
 そうして喰らった者の姿を一瞬だけ太い触手の上に反映させ、元の大蛇のような触手へと戻る。

 スーツに搭載されたランチャーが、大型セカンドに向かってミサイルを発射しようと動く。
 その動きを察知してか、瞬く間に変化して無数の触手を白塗りの巨躯に巻きつけた。

【+曹長】;ゞ゚)「うわああああああああああああああああああああ!!」

【+一等】;ゞ゚)「そ、曹長ォ――――!!」

 重厚な装甲に、みしみしと音を立てて亀裂が入り、紫電と共に血液が放出する。
 橋に墜落したパワードスーツを触手が包み、装甲の亀裂を食い破って内部へ忍ばせた。
 亀裂から血流が漏れ出る。誰もが、曹長が食われていると見取り、ぞっとする。
 肌、血、筋肉、脳、骨と、人体を余す事無く喰らい、空のスーツだけが場に残った。

 食事を終えた大型セカンドが、核を光らせる。

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 22:58:35.94 ID:wdWe/TBC0

 ただでさえ隙間無くまとまった触手が、更に密集する。更に、更に、互いを喰うように。
 するとバラつきのあった触手の全てが一つとなり、色を、形を、瞬く間に一新させ、全く別の姿へと変貌したのだ。

 それは、人間であった。

【+一等】;ゞ゚)「そ、曹長……!?」

 一部始終を傍らで見ていた一等兵は、目を疑いながらも触手が再現した物を曹長だと認めざるを得なかった。
 肌を作り、髪を生やし、目元の小さな皺まで一寸の違いもなく作り上げた様を、一等兵はカメラズームで確認してしまったのだ。
 ただ、人としては少し大きすぎるサイズだが。

 曹長、のような何かが、一等兵に手を伸ばす。一等兵は戸惑いながらも様子を伺う。
 しかし彼の視界は一瞬にして暗転した。
 曹長の指先が伸長し、一等兵の頭を貫いたのだ。同時、指は透明なグリーンカラーの触手に変わり、触手は波を打った。
 透明な触手の中、細い血流が曹長の肉体に向かって流れてゆく。

 空のパワードツーツは地に堕ち、再び触手の集合体と化した異物が進行する。

 他のセカンドも本能的に恐れをなしたか、群集はこの大型セカンドを先頭に立て、進行する。
 マシンガンが豪雨の如く弾丸を降らせるが、奴等は一向に怯もうとしない。
 特に触手の集合体は弾丸を物ともしない。その弾性に富んだ肉体は弾丸をも弾き返していた。

 再度ミサイルが飛ぶ。狙いは核だ。
 だが、“触手の集合体”は高速で飛来するミサイルを触手で絡め取り、中空で爆破させる。
 触手は飛び散り、辺りに肉片が付着するが、本体に苦しむ様子はまるで無い。
 それどころか減少した体積を秒を数える間もなく再生させ。
 進軍を妨害したパワードスーツを先ほどと同様の手段で取り込み、摂取した養分で更に一回り拡大する。

113 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:00:35.34 ID:wdWe/TBC0
 隊員達は慄然とした。こいつとの交戦は無意味に近いと。
 加え、状況が好転した事で群集もやはり歩を早め、橋の中腹に差し掛かった。

【+一等】;ゞ゚)「た、隊長! これ以上はもう!」

【+隊長】;ゞ゚)「分かっている! 撤退命令も出ている! 引け! 引くぞォ―――――ッ!」

 ミサイルもグレネードも大方撃ちつくし、潮時だった。
 パワードスーツ隊は背を向け、アフターバーナーの加速を伴いマンハッタン島へと一気に引き返す。



《あ゙あああああああああああああああ――――――――――!!!》



 妨害は無くなった。
 セカンド達が鬱憤を晴らすかのように爆発的に躍動し、マンハッタン島へ押し寄せる。
 異形が異形を押し、踏み、殺しながら。


114 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:02:24.25 ID:wdWe/TBC0


「あ、ひ…………」

 その様を、モニターで、肉眼で、それぞれ見ていたキャンプの人間達は揃って戦慄を覚える。
 レッドリトル灯台の傍らで、橋の下層で蠢く異形達を恨めしく見ていたナイトウとツンも。
 呆然とするナイトウ、ツンの手がデレに引かれてゆく。「危ないから下がって!」



/#,' 3 「「今だ! やれ!!」」(#‘_L’)


 唯一、冷静を保っていたフィレンクト、荒巻が同時に怒号を発する。

 我に返った作戦本部内の人員は、一斉にコントローラーを指で突いた。




115 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:04:02.58 ID:wdWe/TBC0

 上層、下層の、それぞれの裏にドロイド達は張り付き、身を隠していた。

 ドロイド達が多量に抱えた爆薬、そして橋の足に装着された爆薬は、
 遠隔操作による信号を受信して一瞬光を放ち――――爆発した。


 暗闇だけを漂わせる夜空が一変し、砕けた橋と炎がその暗黒を埋める。


 爆炎で夜は照らされ、本部に分厚い熱風が押し寄せ、人々の顔を熱く撫ぜる。
 その爆発音は遠方の『セントラル』のエントランスまで響き渡るほど。
 爆発が打ち上げた瓦礫に混じり、炎に焼かれ炭化し歪に形を変えた異形の姿がある。
 バラバラに吹き飛んだ者も多ければ、未だ激痛を訴え叫喚し存命する者も多い。

 しかしそれは一緒くたに広大なハドソン川の中腹へ堕ちてゆく。
 キャンプを照らしていた照明の幾つかが、川を照らす。現れたのは、赤い川で溺れる悪魔達の姿であった。
 中には泳ぎ回るセカンドもいるものの、彼等は突然襲った激痛で目的を忘れてか、マンハッタン島へ向かおうとはしない。
 当然、火傷を回復させ、人間の姿に気づき岸に上がろうとする者も多いが、
 フィレンクトを始めとする攻撃員の銃撃が、奴等を一匹たりとも寄せ付けさせなかった。

 次第に彼等の叫び声は川の中に消えていった。
 耳鳴りしている事に気づかず、誰もが川の水面を注視していた。
 橋の大部分が川底へ落ち、川に立つ荒い波はしばらく収まらないだろう。
 それでも水面をそれ以上揺らす何者かが出てくるような気配は感じられない。
 さしものセカンド達も酸素無くしては生きられないのだろう、そう誰もが怯えながら期待した。

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:07:03.12 ID:wdWe/TBC0

 波が漣へと戻る。
 静まり返る場に流れるのは壮絶な爆破の余韻のみ。
 
 誰しもが声を交そうとしないのは、やはり奴等を恐れてなのか、それとも爆破の成功が非現実的であったからなのか。
 今しがた殺害した感染者達が救えたかもしれない人間だった、からなのか。
 あるいは、これから渡島できたかもしれない人々の渡り橋と道を完全に絶ったからなのか。
 長年、我々の交通路として街を支えてきた橋を落とし、喪失感を覚えたからなのか。

 少なくとも、ナイトウとツンの胸を埋めるのは喪失と、罪悪感であった。


「や、やった……やったぞ! ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ともかく重苦しい場はやがて一人の歓声を切っ掛けに、一気に晴れる。

『ざまあみやがれ! クソどもが!』『せいぜい川の水で腹を満たしやがれてんだ! はっはっは!』

 皆が叫び、腕を組み、抱き合い、一時的な恐怖からの解放に涙し……、
 地獄のような夜の街の中だという事を忘れて一心に勝利を酔いしれた。

 作戦は、成功した。


/ ,' 3『諸君、作戦の成功を喜ぶのは地下へ戻ってからだ。
    橋を落としたところでマンハッタン島から脅威が消えた訳ではない。速やかに撤退するぞ』

 だがスピーカーが荒巻の声を拡大させて鳴らすと、
 作戦実行部隊の面々は表情を変えて撤退行動に移り、場は再び騒然とした。

121 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:08:24.88 ID:wdWe/TBC0
  ナイトウとツン、デレは彼らの仕事の邪魔になったり、翻弄されぬよう、
 レッドリトル灯台の傍らで静かに佇んでいた。
 彼等は、橋が消え見通しの良くなった光景の中、対岸のフォートリーをじっと見つめていた。

ξ;゚听)ξ「素直に作戦の成功を喜んでいいのかしら……?」

 ツンがぽつりと言うと、ナイトウは声を渋らせて返した。

( ^ω^)「……いいと、思うお。奴等が焼け死んだり溺れ死んでくれて僕はスカッとしたお。
       これから救えたかもしれない人達を見殺しにするようなマネをしたのは事実だけど、
       もっともそんな話、土台無理だったんだお」

(  ω )「そうだお……ムリだったんだお。僕があんな橋を渡って、ニュージャージーに戻るなんて……」

ξ;゚听)ξ「ナイトウ……」


 落ち込むナイトウにデレが声を掛ける。

ξ(゚−゚ξ「ホライゾン君、貴方はよくがんばったわ。それにね、そう悲観ばかりしちゃダメよ?
      貴方はこれから頑張らなきゃならないもの」


 「どういう意味?」、ナイトウはデレに怪訝な目を送る。

ξ(゚ー゚ξ「貴方が18才を迎えたらサイボーグにしてやってもいいと」

(;^ω^)「フィレンクトさんが!?」

 「そうよ」、デレはにっこりと笑って答えた。

122 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:10:22.71 ID:wdWe/TBC0

ξ(゚ー゚ξ「それまで一杯食べて遊んで、学んで、寝ろと、あの人が言ってたわ」

ξ゚ー゚)ξ「ナイトウ、よかったわね」

 ツンはナイトウの肩をぽんと叩いて言うが、内心複雑であった。
 システム・ディレイクに敵無しと言えど、幼馴染が再び夜の街に繰り出すのを想像すれば、
 ナイトウの復讐心を焚きつかせる父に反論してやりたい気持ちが芽生える。

(;^ω^)「まだ信じられないけど、これは本当に嬉しい知らせだお、ツン」


( ^ω^)「これで、僕でもアイツをぶっ殺せるって、現実味が帯びたお」


ξ )ξ「……そうだね」

 これでは、彼が復讐という希望に縋って生きてしまう……そうツンは案じるのだ。


 そこへ、何も知らぬ軍人が慌しい様子で駆け寄った。

「デレ、ツン・ディレイク、それからホライゾン・ナイトウですね?」

ξ(゚ー゚ξ「ええ。どうしました?」

124 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:12:48.07 ID:wdWe/TBC0

「貴方方を特別に護送しろと、荒巻大佐が。
 フィレンクト氏とパワードスーツ隊の護衛と共に、これからトラックで引き返します。
 さあ、急いでください」

ξ(゚ー゚;ξ「特別に、ですか……」


「貴方達は強力な免疫を持つ貴重な人間です。遠慮などは無用ですから。
 むしろこういう立場にあると理解して頂きたい。さあ、行きま―――」



ξ゚听)ξ「え?」

 ぶじゅ、と、汁気のある果肉に刃を入れたような音を伴い。

 穴の開いた軍人の顔から飛散した血や歯、目玉、脳漿がツンの顔を汚した。
 あまりにも突然起こった出来事に一同は呆然とし、
 軍人の顔面から伸びた触手のうねうねと波打つ様に釘付けになっていた。
 叫び声もあげず、恐怖すら覚えず、この光景を異様だとも思えずに。

126 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:15:10.71 ID:wdWe/TBC0

( ; ω )「こいつ……こいつは、」

 そんな中、ナイトウはすぐに我に返った。

 軍人の開いた顔面から一部見える滑りのある緑色の触手に、見覚えがある。
 この緑色の触手は、先端のその醜い口で、父と母を喰ったものだ。
 ゆらゆらと動く気色の悪い数多の触手を見つめながら、ナイトウは口の端を上げ、ぶつぶつと呟いた。

( ; ω )「ふ、は、ははは……生きてた、生きてやがったか……はは……はあ、はあ……はあ……」

ξ(゚−゚;ξ「――ホ、ホライゾン君!?」


( #゚ω゚)「ぶっ殺してやる!!」


 激昂し罵声をあげるが、反してナイトウの思考は冷静だ。 
 触手の出所を見やる……水面、不自然な波紋が広がっている。
 どうやら、そいつは狡猾に川底へと潜水し、人に悟られること無く岸に手をかけたようだ。
 そして奴の全容はまだあらわになっていない――――好機は今だ。

128 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:16:34.87 ID:wdWe/TBC0
 ナイトウが川べりに向かって走りながら、ベルトに差し込んでいたBlueBulletGunを抜く。
 もはや手元すら見ずとも流暢な手つきでセーフティを解除し、腰だめに構えた。

( #゚ω゚)「うおおオオオ――――――――ッ!!」

 雄たけびを上げ、触手の出所を狙って蒼い光弾を何度も撃ち放った。
 撤去されていない照明が川まで光を届けている――赤い飛沫派手に立った。しかし、それだけではない。
 荒れる水面から幾多の触手が湧き出てきた。
 ナイトウは我武者羅にトリガーを引き続け、千切れた触手を川に浮かべた。
 だが、触手の動きは怯まない。
 それどころか更に数を増し、巨大な壁の如くまとまってナイトウの全身を横殴りにしたのだ。

( ; ω )「あ゙……が……」

 ナイトウはレッドリトル灯台に強く打ち付けられ、赤い塗装を自分の頭が流す血で塗り換えなおす。 
 朦朧とする意識、定まらぬ視界、脱力し震える全身……とても立ち上がれなかった。

ξ; )ξ「あ、は、あ……あああ……」

 夥しい数の巨大蛇が水面を立つような、おぞましい光景が広がっているとツンは気づき、腰を抜かして尻餅をついた。
 壁の如くそそり立つ触手と顔を失った死体を交互に見やる。
 無意識に股から流れ出る小水の音すら気づかず、ツンはただ恐怖に震えた。

( ;゚ω゚)「ツ、ツン……逃げ……」

 無数の触手が緩慢な動きでツンに口を近づける。
 薄い唇に縁取られた触手の先端には鋭い牙がずらりと揃い、その隙間からは淀んだ液体が流れ出る。
 腐臭をはなつ吐息がツンの髪を揺らした後、鎌首をもたげて一気に襲い掛かった。

130 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:18:26.79 ID:wdWe/TBC0

 だが、触手は千切れはしなかったが、大きく跳ね飛んだ。
 異変に気づいた軍人達やパワードスーツ隊のマシンガンによる攻撃だった。
 ツンの傍らに立つデレも、諸手にサブマシンガンを抱えていた。

ξ(゚−゚;ξ「ツン! 逃げるわよ!」

ξ;凵G)ξ「お母さん!」

 デレはツンの手を引き、辛うじて膝を付いたナイトウの元に走った。

 川は激しく波紋を広げるが静寂している。しかし、この程度で怯んだとはデレは思わなかった。
 あの爆発を受けても尚生きていたのだ。
 という事は、他のセカンドも陸に上がってくる可能性は低くない。

 触手が再び水面を割った。
 今度は太くまとまり、まるで手のような形を作って岸を掴む。
 何とも巨大な手は、油断し接近していた軍人を叩き潰したのだ。
 軍隊が奴の手の甲に向けて一斉射撃する。
 一瞬は肉片が派手に吹き飛んだが、奴の体表に大きな変化が生じてからは、そうならなくなった。

「な、なんだ!?」

 一同は目を疑う。
 緑色の体表が僅かに発光性と透明感を持ち、まるでゼラチンのような性質へと変貌したのだ。
 なんとも非生物的な特異性を持つ生命体の姿に一同は後ずさりするも、銃口は絶対に下げなかった。
 再度、スコールよりも激しく撃たれた弾丸が岸を掴む手を襲う。
 弾丸は膜を破くも泥水のように重い体の中で浮き、そして溶けて消滅してゆく。

136 名前:お猿さんがやってきた ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:28:44.79 ID:wdWe/TBC0

【+隊長】;ゞ゚)「皆! 逃げろ! こいつは殺せない! 早く逃げ――」

 豪腕が隊長格のパワードスーツを丸呑みし、その手の中で跡形もなく消化した。
 もう一つ、ゼラチン質の巨大な腕が陸にかかる。ずしんと重く響き地は揺れる。
 這い蹲るような形で上陸しようとした為、逃げ遅れた軍人は腕の中に取り込まれて消え去った。
 一方で水面は山のように盛り上がっていた。水流の流れの中グリーンカラーが見え隠れする。
 
 被った水が全て流れ落ち、そいつの正体が薄明かりに照らされて暴かれる。
 その時にはゼラチン質の体質から、元の触手の塊のような姿に戻り、
 しかし頭部らしき箇所で光る赤い塊だけは変わらず、塊はちかちかと不規則に発光し、人々の顔を赤く照らした。
 ゆらゆら、くねくねと、大蛇を用いて繋いで作ったような全身が揺れている。

 そのおぞましい姿に戦く10数人の軍人へ振るわれる巨腕。
 3指を持つ手を広げ、掌に密集する無数の口が軍人の大半を一瞬で喰らった。
 血まみれの気味の悪いミンチが無造作に場に残り、運よく捕食から免れた軍人は悲鳴をあげて逃げ去った。

ξ(゚−゚;ξ「ホライゾン君! 早く!」

 デレは辛うじて膝を付くナイトウに肩を貸し、無理やり立たせる。
 そして走り出そうとしたが、ナイトウに全く足を動かそうという気配が無い事にデレは気づく。
 貸した肩をいからせて走らせようとするが、動かない。

ξ(゚−゚;ξ(……何?)
 
 何かぶつぶつと呟くナイトウの異変に気づく。

138 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:31:09.32 ID:wdWe/TBC0

(  ω )「……の仇」

ξ(゚−゚;ξ「え?」

ξ;゚听)ξ「ナイトウ! ダメ――」


( #゚ω゚)「あいつはトーチャンとカーチャンの仇だ! 離せ! 死んでもあいつを殺す!」

ξ;゚听)ξ「ナイトウ!!」

 デレの腕を振りほどき、ナイトウは走った。


( #゚ω゚)(狙うべき箇所は何となく分かる。脳が弱点なら、アイツの場合はあの核だ……!
      あそこさえ撃ち抜けば一撃でやれる!)

 BlueBulletGunで射撃するには目標は遠く、高い。接近する必要がある。
 ナイトウは川べりを走りぬける。

 しかし、突然上空から降下してきた者に道を阻まれた。


(‘_L’)「私にもロマネスクとカーの仇討ちを手伝わせてくれ」


 フィレンクトだ。飛行モードのバイクを手放しで操作している。
 川沿いは同じくして、別の箇所からの上陸を防いでいた彼だが、鎮圧に成功するや直ぐにここへ急行したのだ。

142 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:35:04.05 ID:wdWe/TBC0

( ;゚ω゚)「フィレンクトさん! なんでアイツが仇って!?」

 にやりと笑い、フィレンクトはコンコンと耳部のヘッドフォンを指先で叩き、

(‘_L’)「耳がずいぶんと良くなったからね。
      最近耳の聞こえが悪かったから……もっと早く自己改造しておけばよかったよ」

( ;゚ω゚)「……おじさん……」

 こんな時に冗談なんて。

 そう胸中でごち、たまらずナイトウは吹き出した。
 リラックスした様子のナイトウを見てフィレンクトは安堵し、共に笑い声をあげた。
 怒りで淀んでいたナイトウの目は、いつもの温和な目に戻っている。しかし、力強さを放って。

(#^ω^)「……分かったお! 一緒にあいつをやるお!」

(#‘_L’)「バイクに乗りなさい! 核を集中して撃つぞ!」


 フィレンクト操る漆黒のバイク、“NIGHTWISH”が高音を荒げ、空を切る。
 
 フィレンクトはBlueMachingunを、ナイトウは試作型BlueBulletGunをそれぞれ手に、
 親しき者達、弱き人々を喰らい巨大に成長したセカンド――“メデューサ”に立ち向かった。

                      第34話「ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦」終

145 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/28(日) 23:40:29.51 ID:wdWe/TBC0
おしまい!支援ありがとうございました〜

本当は今月中に回想全部終わらせたかったけどムリっぽい
次回は未定ですが、できるだけ早く来たいっす

ニューヨーク旅行は完結したら行きたいと思っている

それではまた次回!お疲れ様でしたー

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