第33話「ビロードを守れ!」
5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 21:45:55.90 ID:3HpyInAK0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ、「システム・ディレイク」。
      ボストンでの失態から続く襲撃事件は、全て己の弱さが引き起こしたと考える。
      その唯一の贖罪方法が「セカンドを狩る事」だと信じる。
      ビロードを正しい道に進ませるのも、スネークに託された自分の責務であると考える。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
     ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
     孤立しようとするビロードに、6年前のホライゾン・ナイトウの姿を重ねた。 


('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ショボン、阿部と共に、「クー・ルーレイロ」なる人物とクローンシステムの真相を暴こうと企む。

( ><)ビロード・ハリス:年齢9歳。
     ウィルス騒動の孤児。セカンドに対する強力な免疫を持っている。
     小学校の入学を拒否され、誰にも頼らずに生きる事が正しいと考えるが、
     ツンに諭される。15歳になった時はサイボーグにしてもらう約束をした。

ノパ听)ヒート・バックダレル:年齢26歳。
    2048年にフィレンクト・ディレイクが手がけたサイボーグ。
    量産型システム・ディレイクのモニターに立候補する。
    なお、米陸軍に所属していた3年間の功績は目を張るものがある。


7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 21:47:48.05 ID:3HpyInAK0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
     新型バトルスーツ開発プロジェクトを着手している。
     ジョルジュに恋心を抱いている。


( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ隊隊長だったが、セカンドウィルスに感染してしまった。
    「IRON MAIDEN」と抗体によりセカンド化を抑えこむが、無情にも変異は始まろうとしている。
    しかし、もし人の心を保つ出来るのなら、人として生きていたいと考える。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
    バトルスーツ隊隊長。
    先の戦いでは数多のセカンドを駆逐した。
    お調子者の一面もあるが、正直で人情深い男。

春麗:年齢25才。戦闘員パイロット。
   バトルスーツ隊隊員。
   チーム内ではハインリッヒと双璧を成す美貌の持ち主である。

8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 21:49:41.18 ID:3HpyInAK0
――― 新旧セントラル議会議員 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:享年63歳。セントラル議会・議会長。
   白髪の男にウィルス実験の被験者にされる。 生死は不明。
   63歳で人としての人生に幕を閉じる事になった。

( ´Д`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。
      モララーと共に独裁制の「新セントラル議会」を設立し、独裁者となる。
      カリスマ性を発揮し、市民を一つにまとめた。
      しかし、強引な手段で軍の整備を進めている為、現在は批判の声を浴びている。


――― セントラルの人々 ―――

(´・ω・`)ショボン・トットマン:25歳。バーテンダー。
     現在は、不味いと不評のバー「バーボンハウス」の店主であるダンディな男。
     2040年代に量産された戦闘用サイボーグらしいが、詳しい経歴は不明。
     ドクオに仕事を依頼されるが単独では困難であると判断し、阿部さんに助力を頼む。

阿部さん 阿部高和:28歳。カレー屋の店長。
     ksmsカレー阿部というカレー屋を営むイイ男。
     その実態はサイボーグで、ショボン曰く高性能ガチホモ型インターフェースらしい。
     ハッキングなどに長けているようだ。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 21:53:13.26 ID:3HpyInAK0
――― ラウンジ ―――

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。
     バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
     自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。
     フォックスに従い、フォックスの為にモナーとセントラルをコントロールしようとする。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出されたデザインドクローン。
     量産され、部隊として編成された。
     ギコとの総力戦で全滅したかに見えたが、フォックスらの武力としてストックが残っていた。

( ^Д^)プギャー・ボンジョヴィ:年齢不明。プギャー総合病院の院長。
     フォックスに従事している模様。
     ビロード・ハリスの免疫について研究を進める。
     彼の使う医療器具がラウンジ社製であるが、社との関係は不明。

爪'ー`)y‐:フォックス・ラウンジ・オズボーン年齢不明。
      元ラウンジ社の男。クローンを用いた抗老処置を施しており、見た目は若い。
      人類の知恵と可能性に限界を感じ、セカンドウィルスをコントロールしようと考える。
      フォックスは、彼が思い描く新たな人類を「サード」と名づけ、
      人類サード化計画の障害「ビロード・ハリス」を己の手で管理しようと目論む。

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 21:58:12.89 ID:3HpyInAK0
  第33話「ビロードを守れ!」


( ^ω^)「ドクオ。タバコくれお」

(;'A`)「あ、ああ」

 ブーンの声に、気だるさと疲れが帯びているような気がした。
 無理も無いだろうとドクオは思う。我々に明かされていなかった暗い過去を赤裸々に告白したのだから。

 ドクオは無言でタバコに火をつけ、そのままブーンとは言葉を交わさず手術室を出た。
 手術室は勿論、全面禁煙指定されたディレイク・ラボである事など無視されている中、
 ドクオが用意した灰皿には、ドクオとガイルの吸殻で底がもう見えなくなっていた。

(;'A`)「……ツンとお前の間に、んな事があったなんてな」

 再度ブーンとガラスに隔てられてから、ドクオもタバコに火をつけてから、ヘッドセットに声を吹き込んだ。
 直接、ブーンに聞くのは何故か気まずく、だから壁に隔たれ、ヘッドセットで。
 動揺するドクオに対し、ブーンは恥ずかしそうに、だがフランクに返した。

(;^ω^)「話す事もないかなと思って今まで黙ってたんだけどね」

(;'A`)「正直耳を疑ったわ……まさかお前がツンを殴ったり人質にするなんてよ」

(;^ω^)「だから今まで黙ってたんだお。今だから話せる事なんだお」


18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:00:52.15 ID:3HpyInAK0

ガイル「だけどよ、おかげでビロードとの共通点みたいのが見えたな。
     ブーンのように危険な道には進ませたくないけどよ、自分の意思で成長していって欲しいなぁ」

('A`)「それは、免疫細胞で持て囃されると思ってそう言ってんですか?」

ガイル「ん? まあ、そうだよ。だってそうだじゃないか? まともに学校も通えねえ挙句、
     科学者達に身体をいじくりまわされたりしてみろ、たまったモンじゃねえ。
     俺はなんとしてでもビロードを守ってやりたいね」

( ^ω^)「今思うと迂闊だったかもしれないお。
      ビロードの免疫が僕より強力で、役に立つという報告をしたのは……」

('A`)「仕方ないだろう。夢のような話だからな。俺みたいにウィルスに全く抵抗の無い奴は、
    スネークさんやギコがしていたように、抗体でウィルスから身を守っていたのを憧れる」

( ^ω^)「ふーん……そういうもんなのかお。僕にゃちょっと分からない感覚だお」

ガイル「もう少し早くビロードに会えてりゃ、ジョルジュ隊長も助かったんだがな……」

( ^ω^)「……そうですね……」

('A`)「そういえばツンとビロード、遅いな。ちゃんと捕まえられたのか、あいつ」

 ドクオはツンに電話しようと携帯端末に触り、ホログラムパネルを宙に投影させる。

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:04:03.04 ID:3HpyInAK0

('A`)「あれ、通話不可能……なんで圏外になってんだ?」

ガイル「ちゃんと使用量払ってるのかよ?」

(;'A`)「払ってますよ月々5000セントラを!
    アンタ俺の見た目で判断したでしょ!? ずぼらな生活してるって思ったんでしょ!?
    失敬な! 僕の部屋は整頓されていて非常に機能性に富んだ快適な部屋なんですよ!?」

( ^ω^)「ドクオには似合わないほどオシャレな部屋だおね」

(;'A`)「お前が遊びに来てチップスとかピザ食い散らかすの本当は嫌なんだからな!
    この際カミングアウトさせてもらったわ! っつーかお前サイボーグのくせに食い方汚いの何で!?
    そういう時も精密に動いてくれよな!」

( ^ω^)「ごめん」

(;'A`)「これからあんまり汚さないでね! ってか携帯! どうなってんだよ!?」

ガイル「もしやと思ったんだが俺の携帯も圏外だ」 

('A`)「え、マジですか?」

ガイル「ああ。ここの固定端末でネットを見ようともしたんだが無理だ。
    通信制御センターでトラブルでもあったのかなぁ……」 

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:08:13.17 ID:3HpyInAK0

('A`)「テレビ見てみましょう」 ピッ

 『――制御センターの緊急的なメンテナンスの為、
  全ての携帯・固定端末の利用を停止しています。おおよそで2時間ほどでサービスを再開する見通しです―――
  これは先の騒動で一斉に携帯が使用された際に一部の端末で通信不良が発覚し、
  その改善の為――』

('A`)「ふーん……じゃあ、しょうがないな」

ガイル「その内ツン博士と一緒に戻ってくるだろうよ」

(;^ω^)「ええー……にしても遅くないかお?」

('A`)「大丈夫だろ。さ、続きを話してくれよ。スリリングで面白くなってきた」

ガイル「おい。なんか目的忘れてねーか?」

('A`)「そんな事ありません。っつーかガイルさんだって夢中で聞いてたじゃないですか」

ガイル「べ、別にそんな事ねえよ」

('A`)「そんな事ありましたっつーの」

(;^ω^)「……まあいいや。それでだお、時間も惜しかったし、
       僕はセカンドが棲みついたブロードウェイを突き進む事に――……」

  __

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:20:17.36 ID:3HpyInAK0
  ※

 彼女の義手は、生身のそれと同じように感覚的に温度を感じる事が出来る。
 冷たい物に触れれば冷気を感じ、逆もまた然り。

 この感覚は絶妙に制御されており、火傷と凍傷を負うレベルの温度に触れた場合ならば、
 これは神経伝達しないよう完全にシャットアウトされてしまう。
 痛覚においても、これと同様の現象が起きるのだ。

 義手の神経システムがこのように設計されている為、
 冷たいココア缶を手の中で転がすと快適さを感じられるようになっている。
 ドクオを殴った時の痛快な感触も、また然り。

ξ゚听)ξ「ふん!」

 ツンはココア缶の底に、2本の指を突き刺した。
 勿論、痛覚は瞬時にシャットアウトされ、ココアの冷たさのみ感じている。
 いやはや、我ながら便利な機能だ。
 と、ツンは自分の頭脳の出来に満足しつつ缶の底を口元に近づけ、指を引っこ抜いた。

ξ´゚听)ξゴキュゴキュゴキュゴキュ

 そして溢れ出るココアを、品なく一気飲みした。
 彼女が考案したココアの一気飲みのやり方である。

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:21:56.61 ID:3HpyInAK0

ξ*゚听)ξ「ぷはあっ! あーたまんない!
      やっぱり“一缶目”は一気飲みに限るわね!」

 ドクオはツンのココア好きっぷりを「重度のカカオ中毒」と指摘し、
 過去にはツンに通院を勧めたこともある。その時は言うまでも無く、ドクオを殴り飛ばして通院させてやったのだが。

 ビロードの為に買った飲み物も、押し付けがましくもココアである。
 運動の後の炭酸やスポーツドリンクが美味いと感じるように、
 ツンはココアでこの上ない口福を得るのだ。

ξ゚听)ξ「いっぱい買いすぎちゃったかしら。でも、ビロード君もいっぱい飲むわよね」

ξ*゚听)ξ「ココア飲んだ事あるかしらねぇ。
      ふふっ、ココアの中毒性についてお姉さんが教えてあげちゃうわ!」

 暗い思い出に耽る事を一時中断し、
 抱えたココア缶をガラガラと鳴らして、ツンは軽快な足取りでビロードの待つ公園へと向った。



38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:25:20.18 ID:3HpyInAK0
 
 一方、ツンの帰りを待つビロードの元には、不審な影が近づいていた。

( ><)「……?」

 初めてこの公園に誰かが入ってきた。
 自分と同じくらいか、少し上の少年。背がずっと高いから、きっと年上なのだろう。
 公園に遊びに来たのか、通り道かな、とビロードは思ったが、

(;><)「何ですか?」

 彼は物騒な眼つきを構え、ビロードの前に立ちはだかったのだ。


<_プ−゚)フ「よう。お前、ビロードだよな?」


( ><)「そうですけど、君は誰なんですか?」

<_#プ−゚)フ「やっぱりな。ニュースで見た奴かと思って来てみりゃあ……ツイてるぜ!」

 少年は、いきなりビロードの頬を殴りつけた。
 不意のパンチに身動きできず、ビロードは殴り飛ばされて尻餅をつく。

41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:28:31.64 ID:3HpyInAK0

(;><)「な……何するんで――」

<_#プ−゚)フ「うるせえ!!」
 
(;><)「ぎゃっ!?」

 無防備なビロードの腹に、少年の容赦無い蹴りが突き刺さる。
 運悪く鳩尾にめり込み、呼吸がままならなくなったビロードは涙を滲ませた。
 痛々しく悶絶するビロードを見た少年は、嘲笑を浮かべながら更に蹴りを横腹に浴びせた。

(;><)「うっ」

<_#プー゚)フ「いい気味だぜ! オラッ! 立てテメェ!」

 少年はビロードの胸倉を掴み、強引にビロードを立ち上がらせる。

<_#プ−゚)フ「言っとくがこんなんじゃ済まねえぞ。
       この程度で終わらせちゃあトーチャンが浮かばれねえから……なッ!!」

(;><)「がっ!」

 今度は横っ面を殴られ、ビロードは再び地面に伏した。
 口には血の苦い味を、顔面と腹部には激痛を感じる。

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:30:57.05 ID:3HpyInAK0

 しかしビロードは、少年が思うよりも落ち着いていた。

(;><)「どうして、僕を、殴るんです?」

 息絶え絶えに、だがはっきりと尋ねた。
 更に少年の反感を買う事になるだろうと予想していたが、意外にも少年はビロードの問いに耳を貸す。

<_プ−゚)フ「どうしてだと?」

 少年は一呼吸置き、表情を更に強張らせてビロードを罵倒した。


<_#プ−゚)フ「てめえが来たせいで俺のトーチャンが死んだんだよ!
         てめえさえ来なけりゃ、こんな事にならなかったんだよ!!」


<_#プ−゚)フ「俺のトーチャンはなあ! 『セントラル』を守ろうとして戦って死んじまった!
        お前のせいだ! 絶対に許せねえ!」


(;><)「僕の、せい……?」

 力なく呟き、ふらふらとビロードは立ち上がる。

46 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:34:06.93 ID:3HpyInAK0
<_#プ−゚)フ「そうだ! お前のせいだ! トーチャンが死んだのはお前のせいなんだよ!!」

 少年の拳がビロードを襲う。
 だが、ビロードは鋭い眼差しで拳を捉え、狂拳を払いのける。

<_;プ−゚)フ「て、てめぇ……!?」

(;><)(僕のせいじゃない……ブーンのせいでもない!
      ギコのせいでもない!! 悪いのは、悪いのは――!)

(#><)「……君の言うとおり、お父さんが死んだのは僕のせいかもしれない。
      でも、本当に悪いのは僕じゃない。全部悪いのはセカンドウィルスだ!」

 少年の鼻に思い切り拳を浴びせた。
 鼻から多量の血を流し出す、痛々しい少年の顔。
 ビロードは自分の行いにゾッとしたが、怖気づく訳にはいかなかった。

<_#プ−゚)フ「うっ……って……こ、このやろう!!」

 出鼻を一度挫いた程度では怯まないとは確信していた。
 より憎しみを掻き立て、少年が再び襲い掛かる。

 二人は取っ組み合い、互いを大きく振り回し始める。
 少年の身体は一回りも大きく、従って力もビロートよりずっと強い。
 それでもビロードは絶対に倒されんと、歯を食いしばって少年の肩を掴む手に力を込めた。

(;><)「うわあああああああああああああああ!!」

 頭を少年の鼻先にぶつける。
 ビロードは酷い痛みを頭頂で味わったが、少年も再び鼻に激痛と熱を感じた。

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:36:48.17 ID:3HpyInAK0

<_;プ−゚)フ「うわっ……い、いて……ぇ……」

 たまらず少年は手を離し、自分の鼻を恐る恐る手で確かめる。
 掌が赤く染まる。
 真っ赤な血が信じられないくらい鼻から溢れるのは体験に無い。
 ケンカ馴れしている風な少年も、これには強い恐怖を感じている。

<_;プ−゚)フ「ううう、血が、こんなに……クソ、クソオオオオオオオオオオオ!
       お前なんかに負けてたまるか――――ッ!」

 だが、少年も折れる訳にはいかなかった。
 念願とも言える、父の仇討ちの絶好の機会。
 なんとしてでもビロードを満足いくまでいたぶらなければ、気が済まなかった。

 少年から敵意が消えないと悟るや、ビロードは構えた。
 ビロードもまた、少年に負けられない理由があった。

(;><)(やるんです! このくらい、自分だけで何とかするんです!)

 ツンや皆の世話を焼くわけにはいかない。
 それに、彼の言い分を認めてしまえば、ブーンが悪者扱いされてしまう。
 
 ビロードにもプライドがあるのだ。
 ボストンの事を何も知らない奴に、悪い様に言われてはならないという、彼なりのプライドが。

51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:39:12.48 ID:3HpyInAK0
 ――――そこへ突如、上空から何者かが二人の間を割って入った。
 全身を、白いスーツで覆った、顔の窺えぬ者。
 シルエットから女性であるという事以外、何の情報も得られないシンプルな外見の者だ。


(  〓 )「…………」


 得体の知れない人物の闖入は、二人の激昂をもぴたりと止める。
 無言、無機質、人形のように完璧なプロポーション。
 それらが妙な威圧感を醸し出し、ビロードも少年も思わず後ずさりした。

 少年が勇気を出して、彼女にふっかける。

<_;プ−゚)フ「な、なんだよテメエ……何処からきやがっぎゃあ!?」

 が、言い切る前に、目にも止まらぬ速さで白色の線が少年の顔を横切った。
 モララー・スタンレー直属の女兵士の右手が赤く汚れている。
 少年は派手に転がり、ビロードへの体面すら忘れて激痛を訴えた。

<_フ;Д;)フ「い、いてえ……痛いよお……」

(;><)「だ、大丈夫――」

 ビロードが少年に駆け寄ろうとするが、
 くるりと振り向いた彼女の不意の行動に、また動きをぴたりと止める。

55 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:42:01.56 ID:3HpyInAK0

(  〓 )「ビロード・ハリス」

 抑揚、起伏の無い、無機質な声を発して彼女が近づいた。

 ビロードは逃げ出したい気分に駆られたが、しかし恐怖で足が動こうとしない。
 まるで地面に太い根を下ろしたかのように、びくともしない。
 彼女の黒いフェイスカバーには、今にも泣き出しそうな自分の表情が写っている。
 一方で彼女の顔はカバーに隠されて全く窺えない。それが、ビロードに不気味さを味あわせていた。

(  〓 )「ビロード・ハリス。新セントラル議会の決定により、君を――」


 「ちょっとそこ! 何やってンの!?」


 甲高い声が、遠くから割って入る。
 そしてココア缶を捨て、猛スピードで駆けつけた。

(;><)「ツンさん!!」
 
 ツンさんだ! 鬼のような怖さを誇るツンさんがやってきた!
 これ以上無いタイミングで登場した頼もしき仲間に、ビロードの顔は一転し明るくなる。

 ツンはビロードの手を引いて、倒れている少年の方に駆け寄る。
 少年を抱きかかえて傷の具合を見るや、見た目ほど深刻ではないと知る。
 鼻の骨は折れてない。ただ、頬は酷く腫れている……歯が折れている。

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:44:44.12 ID:3HpyInAK0

ξ#゚听)ξ「アンタ、モララー直属の部隊よね?
      どんな理由があろうと、子供をいたぶったのは許せない!」

(;><)「ツンさん! 違うんです! 僕はこの人に殴られてないんです!
      僕と、この……この子は、ケンカしてたんです! そうしたらいきなりこの人が……」

ξ;゚听)ξ「ケンカぁ? なんでまた? アンタがこの子、こんなになるまでぶちのめしたの?」

(;><)「いや、えっと、それは……」

(  〓 )「私がご説明致します、ディレイク博士」

 遠慮無く割り込んできた女兵士をツンは睨みつけた。

 女兵士に動揺は無い。
 むしろ落ち着きすぎている。
 彼女の丁寧な口調は機械のような正確さを感じさせ、
 返って胡散臭いとツンは思ったが、耳を貸す事にした。

(  〓 )「先の演説を終えた今、B00N-D1を始めとするディレイク一派は、
      市民に認められ、許されつつあります。しかし、貴方方を恨む者もまだ多い。
      特にビロード君は、問題の彼の地、ボストンからやってきました」

(  〓 )「ビロード君とは、B00N-D1がボストンより持ち出した災厄のタネと、
      一部の市民は思い込んでいるのです。
      各ネットワークを調査し、そういった世論が目立つ事を我々は知りました」

63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:46:50.35 ID:3HpyInAK0

ξ゚听)ξ「ふん。知ってるわよ、んな事」

(  〓 )「……さて、今回ビロードを襲ったこの少年ですが。
       総力戦で死亡したKOSMチーム第2隊副隊長、
       リレント・プラズマン氏の実子、エクスト・プラズマンです」

<_;フ− )フ「…………」

ξ;゚听)ξ(プラズマン副隊長……彼の部隊と4年程前に作戦を共にした事があったわね。
       子供がいたなんて知らなかったけど……)

(  〓 )「この少年のように先の戦闘で父親を亡くした少年は多く、
      その多くがビロード君を恨んでいます。
      特に彼のような孤児にその傾向があるようです」

ξ#゚听)ξ「……そう。それでアンタは、相手が少年であろうと容赦なく攻撃し、
       ビロードを保護しろと命令されたの?」

(  〓 )「その通りです」

ξ#゚听)ξ「ふざけないで!」

(  〓 )「ふざけてなどおりません。むしろ、貴方達に危機意識を持つべきだと指摘をさせて頂きたい」

67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:48:17.78 ID:3HpyInAK0

ξ#゚听)ξ「危機意識ぃ? こんな子供に対して?」

 粗方、事情を予想できるが、ツンはあえて多く質問する事にした。
 彼女の情報を事細かに知りたいという理由もあるが、時間を得るのが目的だ。

(;><)(ツンさん、携帯で……助けを!?)

 抱えたエクスト少年を利用し、女兵士に対し作った死角で携帯端末を取り出していた。
 ビロードは咄嗟に視線を女兵士に向けなおす。助けを求めていると悟られてはダメだ。
 ホロパネルを展開し、タイプしやすい空間へゆっくり移動させる。
 素早い手付きで「ブーンがいた公園、いますぐきて。ビロード、あぶない」と記述し、メールを送信する。


ξ;゚听)ξ(…………気づかれて無い、わよね)
 
 そっと携帯端末を切る。


 女兵士に悟られた様子は無い。
 胸中で、ほっと息をつく。

 女兵士が、続ける。

79 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:55:14.42 ID:3HpyInAK0





(  〓 )「そう言い逃れるように指示されているかもしれません」

 しかし、女兵士は無情な言葉を冷徹な態度で投げた。

ξ#゚听)ξ「ちょっと! アンタ!!」

(  〓 )「殺されてからでは遅いのです、ツン博士。
      ビロード君は『セントラル』にとってB00N-D1より重要な存在になるかもしれない。
      “抗体”よりも個人の恨み晴らしを優先したり、あるいは、
      現政権を強請る人質として扱われてしまう前に、保護しなければなりません」

ξ#゚听)ξ(現政権を強請る……ふん、そういう事か)

(  〓 )「先ほど、議会は緊急的に『セントラル』全域をカメラで捜索し、ビロード君を発見した。
      私はモナー総統とモララー総統補佐にビロード君の保護を言い渡され、馳せ参じたのです」

ξ#゚听)ξ「保護……この後、ビロード君をどうするつもり?
      ビロード君の細胞が重要な事くらい、アタシだって理解してるわ」

(  〓 )「これからの予定ですが、彼をプギャー医師の医療施設へ私が護送します。
      その後、24時間体勢で我々スタンレー隊が施設を厳重に警備し、
      テロリストや市民からビロード君を保護致します」

(;><)「……じゃ、じゃあ、ツンさんやブーン達とは離ればなれに?」

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:57:26.37 ID:3HpyInAK0

(  〓 )「君が望めば博士達との面会は許可されるでしょう」

 無感動に、女兵士は返した。

ξ#゚听)ξ「保護……保護ね。アンタらの事だからお勉強も上手に教えてくれるんでしょうよ」

(  〓 )「学習環境に不自由はしないでしょう。快適に教養から専門学を学べるはずです。
      彼がB00N-D1のようなサイボーグや、ガイル隊長のようなパイロットになりたいと望むなら、
      適正年齢を経た後に最適な処置を受けられるはずです」

(  〓 )「我々新セントラル議会は、ビロード君の将来を輝かしい物にすると、約束します」

 ディレイク一派の誰が聞いても、素晴らしい条件だと思うはずだ。
 ビロードに対し抱える悩みを全て解決してくれるのだ。
 
 だが、そうではない。
 ツンは、このように用意された道をビロードに歩ませてよいものかと、疑った。

 「君は重要な存在だ。だから、『セントラル』に来た以上、
 君は我々の用意した道を往く義務があるのだ」。
 
 理由としてはこんなところだろう。
 
 なるほど、的を得た完璧な意見だ。ツンはそう思った。 

85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 22:59:02.73 ID:3HpyInAK0

 違う。そうじゃない。
 敷かれたレールの先に、本当に輝かしい未来があるのだろうか?


 違う。そうじゃないはずだ。
 私達はいつだって自分の意思でここまでやってきた。
 自分の力で道を切り開いてきたのだ!


ξ゚听)ξ「……ビロード君」

 静かに、ツンは尋ねる。

ξ゚听)ξ「アンタは、どうしたい?」


( ><)「……僕は」


(#><)「僕は自分の力で何とかしてみせるんです!
     それにツンさん達と離れ離れなんて嫌だ! ツンさん達から学びたいんです!!」


ξ゚ー゚)ξ「よーし! よく言った!!」

88 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:01:34.72 ID:3HpyInAK0


(  〓 )「そう望むなら、議会はビロード君の意思も考慮してそのような学習環境を――」


ξ#゚听)ξ「あああああもう! この機械女! まるで話になんないわ!
      もう帰って! ビロード君はアタシ達で保護するからって議会に伝えて頂戴!
      モナーさんにも、見損なった! って伝えてもらえる!?」

 ツンは女兵士から視線を外し、エクストに肩を貸した。

ξ;゚听)ξ「君、立てる?」

<_;プ−゚)フ「だ、大丈夫だぜ、おばさん!」

ξ;゚∀゚)ξ「お、おお、おば、おばさんですって!?
      生意気なクッソガキ、後で研究室で嫌というほど可愛がったるわ!!」

 ツンは立ち上がり、ビロードとエクストを手で寄せる。 

(  〓 )「ツン・ディレイク博士。ビロード君を引き渡さないつもりか?」

ξ;゚∀゚)ξ「ビロードが嫌っつってんでしょ? 彼の意思を尊重しなさい。
      この子の血が欲しいってんなら、明日アタシがこの子をプギャー先生の病院に連れてく予定だから、
      後でプギャー先生に頼みなさいよ?」

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:04:40.14 ID:3HpyInAK0

(  〓 )「血液なら既にプギャー氏から受け取っている。
      重ね重ね言うが、ビロード・ハリスは現政権を脅かす存在になり得るのだ。
      厳重に保護せねばならない。何故、貴方ほどの人がそれを理解できん?」

 ずいと、女兵士が出る。起伏が無かった声に怒気を僅かに混ぜ。
 合わせ、ツン達は一歩引く。ツンはビロードを隠すようにして抱いた。

ξ;゚∀゚)ξ「ふーん。やっぱりそれが本音のようね。
      そういえばアンタらのテーマって一致団結でしょ?
      こんな小さな子に縋ってないで、アンタらで脅威を排除してみなさいよ?」

(  〓 )「貴方との交渉など端から予定に無い。
       こうなってしまったのは成り行きだが、当初の予定通り、
       ビロード・ハリスを強制連行す――」

 ――鈍い打撃音が鳴る。
 不意を突かれ、側頭部に強烈な打撃を受けた女兵士が吹き飛ぶ。
 彼女は受身を取ってすぐに立ち上がり、迎撃体勢を取る。

(  〓 )「…………」

 黒いフェイスカバー越しに、闖入者の顔を見る――――黒いフェイスカバーに覆われている。

ξ;゚∀゚)ξ「ナイスタイミング!」

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:08:01.11 ID:3HpyInAK0


( ゚∀゚)「病人だってのに酷い人使いだな、ツン博士? 本くらいゆっくり読ませてくれ」


<_;プ−゚)フ「わっ!? また真っ白いのが!?」

(;><)「安心するんです! この人は味方です!」

<_;プ−゚)フ「バカにしてんのか!? 見りゃわかるっつーの!」

 先ほどメールを飛ばして呼び寄せたのは、ジョルジュ・ジグラード。
 日頃からツンからのメールを何よりも優先して目を通すよう心がけている事が幸いし、
 緊急事態と知るや、部屋を飛び出してアクセサーに劣らぬ速さで駆けつけたのだ。

( ゚∀゚)(チッ……変異が進行してるのは正直落ち込むが、
     こうして役に立つ事もあるようだな……自分の身体とは、思えん。
     もっとも、あの女にダメージは無いようだが)

 劇的な身体能力の向上。認めたくないものだが、認めざるを得ない。
 屈強な女兵士をも殴り飛ばす筋力、空をも飛べる瞬発性、敏捷性、鋭い五感。
 抗体を持っても成りを潜めぬセカンドウィルスは、ジョルジュに恐るべき力を与えていたのだ。

ξ;゚听)ξ(やっぱり……もはや抗体の抑えが効かないくらい、
      ジョルジュさんの身体は強靭に変異しつつある……でも……!)

 ツンも、それを見越してジョルジュに救助を求めたのだ。
 それにもう一つ理由がある。

98 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:10:50.51 ID:3HpyInAK0
 ジョルジュを攻撃するのは危険だという事。銃撃など持っての他だ。
 例え彼女がブルーエネルギー兵器を所有していたとしても、
 IRON MAIDENが故障すれば『セントラル』にウィルスがばらまかれる可能性はゼロでなくなる。

 ジョルジュを感染者として、また、ウィルスをこうして利用するのは重罪に値するだろう。
 それに、特にハインリッヒには、とても話せない事だ。だが、事態が事態だ。

 ジョルジュ自身、のっぴきならぬ状況なのだろうと悟っている。
 ツンを責めようとは微塵にも思っていない。

 女兵士を見据えつつ、ジョルジュはツンに尋ねる。

( ゚∀゚)「で? いきなり殴っちまったが、こいつは何の用で来た?」

ξ;゚听)ξ「ビロードを強制連行しに来た議会のエージェント!
      実力行使に出ようとしたところだから助かったわ!」

( ゚∀゚)「ほう、強制連行ね。何やら双方、事情があるようだが……」

 ジョルジュは、ビロードを一瞥する。

(;><)「…………」

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:11:55.53 ID:3HpyInAK0


( ゚∀゚)「事態は把握した――――逃げるぞ! ビロード!」

(;><)「は、はい!」

 ツンからビロードを奪い、ジョルジュはビロードを片手で抱えた。


ξ;゚听)ξ「後で連絡して!」

 「了解!」、ジョルジュが叫んで応える。
 すぐさま地を蹴り付け、公園を照らす街灯に着地。街灯を蹴り、更に上空へ。
 瞬く間に、近隣に聳える高層マンションの内部へと二人は逃げ込む。


(  〓 )「打撃から……したジョル……ジグラードの総合……体能力……データ……に送信。
      増援を……請……議会管理下の監……カメラのコント……ルの譲渡……可。
      了解……ビロー……確保……同時進行しジョル……ードのデータを……」

ξ;゚听)ξ「……何、ぶつぶつ言ってるの?」

 女兵士に、すぐジョルジュを追いかける様子が見受けられない。
 何か呟いているらしいが、声は非常に小さく、速く、とても聞き取れない。

102 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:14:15.06 ID:3HpyInAK0


(  〓 )「――行動を開始する」


 ひん曲がった街灯に飛び乗り、しなる街灯のバネを利用して女兵士は高速で飛翔した。
 目標のマンションの壁に到達すると、壁を蹴り――いや、壁を走り、内部へ侵入していった。
 身体能力はジョルジュと互角か、それ以上と見える。

ξ;゚听)ξ「まずい……わね……応援が必要ね」

 ツンは携帯端末を取り出す。
 チャット機能を立ち上げ、複数のアカウントに交信を呼びかける。
 数回のコール音の後、対照的なトーンと表情を持つ二人の通信相手が応じる。

(´・ω・`)「飲み会の準備で忙しいんだけど……と、ヒートさんって?」

ノハ*゚听)「何でありますか博士ッ!? あっ! 私! ヒート・ダイムバッグと申しますッ!
     ショボンさん!? ショボンさんて、あのショボンんさんですよね!?
     ブーンの小説に登場する超まずいバーの店長さん! 私も今晩の飲み会に――」

(´・ω・`)「是非参加してくれ。その桁違いな礼儀知らずを一晩かけて修正してやる」

 ショボンとヒートの2人だ。

105 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:16:17.34 ID:3HpyInAK0

ξ;゚听)ξ「面白トークしてる場合か!
      ビロードとジョルジュさんが危ないの! 議会に追われてるわ!」

ノハ;゚听)「ぎ、議会でありますか!?」

(´・ω・`)「議会の誰にだ?」

ξ;゚听)ξ「白い女兵士!」

 追っ手は議会からの刺客。
 だとすると予想は付いていたのだが、さすがに的中してしまうとショボンは動揺を隠せなかった。
 まさか例のターゲット本人に接近できる機会が突然舞い込んでくるとは、
 今しがた料理の味加減を見ていた彼には全く頭に無かった事だからだ。

 ショボンは表情を崩さぬよう努める為、鍋のスープを一口含む。
 だめだ、やっぱりマズい。
 どこをどう間違えたのか、味も喉越しも匂いも過去最悪の出来に仕上がってしまった。

 ショボンは顔を強烈に強張らせ、実に渋い声色で尋ねた。

(´゚ω゚`)「何処へ向えばいい?」

ξ;゚听)ξ「ジョルジュさんのIRON MAIDENが発する信号を受信できるソフトウェアを送ったわ!
      これで現在地が分かるはず! っつーかアンタ、んなまずいもん食わせようとすんな!」

::(´゚ω゚`)::「すまない。いくつかの料理はデリバリーで穴埋めするよ」

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:19:20.72 ID:3HpyInAK0
 ショボン、ヒートの携帯端末が、プログラム受信の許可を尋ねた。
 勿論許可し、ソフトウェアを受け取る。そのままインストールし、プログラムを立ち上げた。
 すると新たにホログラムが起動し、そこに3Dのマップが描かれた。第4階層の全マップだ。
 そしてマップ上では「ジョルジュ」と打たれたターゲットマークが動いている。
 かなり素早く移動しているようだ。

 ヒートはジョルジュとビロードとの面識が無いが、ツンの頼みとなれば話は別であるし、
 それにジョルジュの移動速度から緊迫した状況である事は理解できる。
 とはいえヒートも考え無しにツンの頼みを聞く事は出来ない。何しろ相手は、独裁権を持つ議会なのだ。

ノハ;゚听)「で、でも、議会に反抗していいのですか?」

 ツンの怒りを買うのも気が引けるが、ヒートは正直に尋ねた。
 ホログラム上のツンが眼つきを鋭くする。
 ヒートは反射的に目を背けようとしたが、その前にツンが檄を飛ばした。

ξ#゚听)ξ「人道に反する行いをしてるのよ! アタシ達が正しい!
      だから力を貸して! ヒートさん! ビロードを守って!」

 ツンに見損なわれた、と、ツンの表情からそう思ったが、違った。
 果たして独裁的に政治と行政が行われる中で反抗する事が正しいか、
 正否を問われれば答えは難しい……だが。

ノハ;゚听)「……ツンさん……」

 一人の人間としてツンの言葉を信じてやりたいし、
 何より、必死に助けを求めている彼女を見捨てるのは、やはり人道に反する事だとヒートは思う。

112 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:22:17.65 ID:3HpyInAK0
 意を決し、ヒートは応える。

ノパ听)「……了解しました。ジョルジュ・ジグラード氏を追跡し、援護します。
    ツン博士は我々の避難場所を検討してください。全員でそこに向います」

 集合地点の検討を任されたツンが悩み始めると同時、ショボンが声を挟む。

(´・ω・`)「それなら僕の店がいいんじゃないかな? この地区は監視が薄いよ」

ξ;゚听)ξ「ちょうど第4階層だし……わかったわ! バーボンハウスで落ち合いましょう!」

 集合は、奇しくも今晩の酒盛りが予定されていた場所、
 現階層の西端の寂れた街に構えるショボンの店「ショボンのバーボンハウス」に決定される。
 だが、確かに身を隠すには打って付けなのかもしれない。

(´・ω・`)「ああ、それとツン。君はモナー氏に彼女達の攻撃停止を呼びかけてくれ。
       恐らく、モナー氏は今回の行動に関与していないはずだ」

ξ;゚听)ξ「はあ? モナーさんは総統よ? 関わってないはずが――」

 突拍子も無いショボンの提案にツンは混乱するが、

(´・ω・`)「僕を……それからドクオを信じてくれ。モララーには不審な点がある。
       モララーが単独で行動している可能性が高い。
       ツン、きっとモナー氏は力を貸してくれるはずだ」

117 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:24:20.57 ID:3HpyInAK0
 モララーの不審な点、モララーの単独行動、という言葉に妙な説得力を感じた。
 そして何より「ドクオを信じてくれ」というショボンの願いに。

 なにか、自分やブーンの知らぬ疑惑や容疑をドクオとショボンは握っているのか……?
 そんな想像が、一瞬で頭に描かれたが、今は単純に友人達を信じてみる事にした。
 ショボンの言う通り、モナーを尋ねよう、と。

ξ;゚听)ξ「……わかった! でも、ブーンには伝えないで!
       修理が終わってないのに無茶苦茶な事やりかねないから!」

 言われなくともショボンはそのつもりだった。
 だが、ドクオはどうする? いや、彼が修理を担当しているのか……いや、しかし……。

(´・ω・`)「……了解。では後で、何事も無くグラスを交わそうじゃないか」

ξ;゚听)ξ「くれぐれも気をつけて! あの女兵士! とんでもなく強い!」

(´・ω・`)「ご忠告、どうも」

ノパ听)「必ず二人をバーボンハウスに届けます!」


 チャットが、閉ざされる。

119 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:26:33.75 ID:3HpyInAK0

(´・ω・`)「さて……久しぶりだな、対人戦は。実に6年ぶりか」

 ホログラムが消えたと同時、ショボンはキッチンから自室へと駆け込む。
 かつて戦闘用に好んで来ていた特殊ラバーのロングコートを羽織り、次は店の一番奥にある物置へ。
 そこの木樽に隠していた銃器を数本取り、弾丸の有無を確認した後、コートの中にしまいこんだ。

ノハ;゚听)「昔の装備を売ッ払わなくてよかった!
      まさか、また人に向ける事になるとは思わなかったけどね……!」

 ヒートもまた、自室に隠していた銃器を装備する。
 戦闘態勢を整えた風貌はショボンと似通っている。

(´・ω・`)「ヒートさん。分かっていると思うが、非常事態以外での銃器携帯は違法行為になる」

 『承知してます! ショボンさんも警察やカメラには気をつけて!』

 銃器の所有は旧議会の時に全市民に認められている事であったが、
 議会から発令される非常事態宣言と武器の携帯許可がされていない状況で
 これを携帯する事は違法行為であり、発覚すれば半年以上の刑務を務めなければならない。

 否応無く二人は緊張する。
 だが、二人も元は戦闘と潜入のプロフェッショナル。
 そして高水準のサイボーグである事は今も昔も変わらぬ事である。

 特にヒートは久方ぶりに、光学機器や対物感知センサーなどのサイバーウェアを起動し、
 二人は『セントラル』の街に出た。内壁と天蓋の星々が、今日ははっきりと偽物だと分かる。

122 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:29:08.98 ID:3HpyInAK0
 一方ツンは、チャットを終えてすぐにモナーとの通話を試みていた。

ξ;゚听)ξ「あれ? おっかしい……なっ……て、ええっ!?」

 が、妙だ。突然、携帯端末の通信状況が圏外と表示された。
 ツンは焦りを浮かべて携帯端末の不具合をチェックするが、どうにも正常に動作している。
 嫌な予感が頭を過ぎた。

ξ;゚听)ξ「まさか、敵に携帯端末の使用を制限された……!?」

<_;プ−゚)フ「あっ! 俺の携帯もダメんなってるぜ!?」

 エクストの携帯の使用状況が、ツンの予感を確定させる。ツンは舌を打った。

ξ;゚听)ξ「通信制御センターに侵入して、個人端末に使用制限をかけたのよ!
       やりたい放題しやがって! でもまずいわねこりゃ! どうしようどうしよう!?」

 ツンはエクスト少年が見ているにも関わらずうろたえ、その場を往復する。

<_;プ−゚)フ「あ、あのさぁ、おばさん」

 その様子をしばらく眺めていたエクスト少年が突然、自信なさそうにツンに話しかけた。

ξ´゚听)ξ「ああん!? 今なんつったよ!? お姉ちゃん聞こえなかった!」

 鬼の形相でツンが睨む。
 エクストは「おばさん」というワードを封印しようと心に決める。

127 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:32:03.01 ID:3HpyInAK0


<_;プ−゚)フ「あ、い、いや、えっと、お、お姉ちゃん!
        俺思ったんだけどさ、直接モナー総統に会いに行けばいいんじゃない?
        だってお姉ちゃんって会議に出たりする偉い人なんだろ?
        この前だってモナー総統と一緒に演説台に上ったんだし、直接会えるでしょ?」


ξ´゚听)ξ「あったりめーでしょ。お姉ちゃんを誰だと思ってんのよ?
      『セントラル』最高の頭脳と容姿を持つ天才科学者とはこのアタ……」


ξ;゚听)9m「それだあああああああああああああああ!!
       君! ナイスアイディア! ってかアタシはバカか!? 何でそれを思いつかない!?」


 錯乱したツンは自分を自分で殴るが、すぐに後悔した。
 激痛走る頭を抱え、涙目になりながらエクストの方へ振り返る。

ξ;゚听)ξ「そうとなれば、議会堂に行くわよ!」

<_;プ−゚)フ「へ? お、俺も!?」

131 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:33:52.07 ID:3HpyInAK0

ξ#゚听)ξ「証人として一応ね! アンタだってあの女に殴られて腹立ってんでしょ!?
      それにビロード君を殴ったバツよ! 協力しなさい!」

<_;プ−゚)フ「俺だってアイツに殴られたんだけど」

ξ#゚听)ξ「あとでココアでも何でも奢ってあげるから言う事聞け!
      鼻血止まってるわよね!? 行くわよ!!」

<_;プ−゚)フ「ああもう! わかったよチクショウ!」

ξ#゚听)ξ「ありがとう! じゃ、アクセサーまで走るわよ!」

 エクストの手を引き、ツンはアクセサーターミナルへと向った。
 遠方に見える中央エレベータを見やる。
 第3階層から4階層、5階層へと、下層に向うアクセサーでエレベータは隙間無く彩られている。
 時刻はもう17時半を回り、本格的な帰宅ラッシュが始まった頃だ。
 ターミナルは混雑しているだろうが、上層へ向う利用者が少ないのは救いだ。
 

<_フ− )フ(帰っても、どうせ誰もいねえんだし……)

 何やら緊迫した事態に巻き込まれたが、ツンに言ったほど面倒だと思わなかった。
 それよりも、父も、誰も出迎えてくれない静寂な部屋に戻る事が恐ろしかった。

 エクストは流されるまま、ツンに引かれてゆく。


  __

137 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:38:45.53 ID:3HpyInAK0
  ※

 ここ『セントラル』でも富裕層と貧困層の差は歴然。
 「働かざるもの食うべからず」とまで言われないが、
 美味い飯と快適な部屋を得るには相応の労働と努力を要する社会が形成されてきた。
 24時間体制の監視と厳重なセキリティシステムで守れた、ここ“シベリアンマンション”は、
 そんな富裕層のステータスを知らしめるマークの一つとして、第4階層に静かに聳え立つ。
 安全なシベリアンマンションの精悍な雰囲気は、先の騒動を除き、建造以来乱されることは無い。

 液体化食料ではなく手作りの温もりが漂う妻の料理を楽しむ者、
 労働で疲弊しきった身をソファに落として安らぐ者、
 ようやく趣味に没頭できる時間を迎えホログラムと睨みあう者……と、住民達は今日も習慣的に一日の締めくくりに入っていた。
 
 特に昨今は『セントラル』の政治体制が激変した為、
 彼らにとって自室とは以前と変わらぬ安らぎを感じられる場所であり、
 荒巻スカルチノフが齎した安寧の一部であるとも言えるのだ。
 
 『――そこで俺はピザ屋に言ってやったのさ!
  6つにカットされちゃ一人で食いきれねえから、2つにカットして持ってこいってな!』

 「HAHAHAHA!! 俺なら12にカットしろ!って頼むかな! ま、今日は4つにして貰ったんだけど!」

 テレビ番組の放送規制が解かれ、数日振りにくだらぬバラエティ番組を楽しむ者、ボブ。
 シベリアンマンションの17階に住まう独身貴族だ。

 彼はチーム・アルドリッチに所属するメカニックであり、
 今日もハインリッヒの指揮下に行われた新兵器開発に関する仕事を終え、
 毎日の楽しみである宅配ピザにありつけていたところだ。

145 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:43:41.83 ID:3HpyInAK0
 「ふふ、ピザはコーラに限るぜ」

 コップに注いだダイエット・コーラでピザを流し込んでいる時、
 突然、ガラスが割れた甲高い音が部屋に響き渡った。

 「ぶふぉッ! ほ、ホワッツ!?」

 コーラを噴出し、音の鳴り所、テレビとは間逆に位置する後方のベランダを見やる。
 派手に散ったガラスに着地した白いスーツと、それが抱える黒髪の少年。
 見覚えがあるどころか、闖入者はボブのかつての間接的な上司であった。

 「み、ミスタージョルジュ!?」

( ゚∀゚)「あ? ボブか。適当に突っ込んだのがお前の家だったのはラッキーだな」

(;><)「ご、ごめんなさいなんです!」

 「……Oh、Shit……君はビロード・ハリス! い、一体何事なんですか!?」

( ゚∀゚)「クレイジーなチェイスをちょいとね。悪いが話してる暇がねえ。
     ハインに事情を話して修理費出してやッから勘弁しろ」

 割れたガラスに吹き込む風のように、ジョルジュは玄関から消え去った。
 突然の出来事に茫然自失するボブは、何を思ったか、ピザのやけ食いに打って出ようとした。

147 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:45:51.59 ID:3HpyInAK0
 しかしその瞬間である。新たな闖入者がまたしてもガラスをぶち割って登場する。
 驚いたボブはピザを落とした挙句、自分の足で踏み潰してしまった。

 「ノォオオオオ! マ、マイピッツァアアアアアア! な、なんて最悪な日なんだ!
  お、おい! 俺の貴重な時間をどうしてくれんだよ! お前が良い事してくれるってんなら別だけどよぉ!?」

 白いスーツに身を纏った女の登場に既視感を覚えながら怒鳴り散らす。
 だが、彼女はまるで聞く耳持たず、そのまま驚くべき行動に出た。
 ピザとコークの置かれたテーブルを軽々と手で払い飛ばし、更には玄関のドアを蹴り飛ばして出て行ったのだ。

 「…………Oh」

 しかし去り際、くるりと振り返って彼女はボブに対し、

(  〓 )「ガラスとドアの修理費、家具、それからピザ代は新セントラル議会が支払う」

 と、残すと、ジョルジュの後を追いに行った。
 取り残されたボブを嘲笑うように、テレビの男が乾いた笑い声を上げた。

 「ガッデェ――――――ムッ!!」

 怒り狂ったボブは、テレビモニターも新品に変えてもらおうと、ダイエット・コークの瓶をブン投げた。

 モニターの放電でカーテンや絨毯が燃え、煙が生じてスプリンクラーが働く。

 「……オーケー。部屋も家具も全部買わせてやる。
  明日は仕事を休ませて貰って、不動産屋に行くとしよう」

 勢い良く降り注ぐ冷たい水に混じり、ボブは静かに涙した。

150 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:50:00.40 ID:3HpyInAK0
 長い通路を駆けながら行き先を模索していたジョルジュは、「エレベータ」を見つけるや足を止めた。

( ゚∀゚)「ふん……ッ」

 ジョルジュは力任せにエレベータの扉をこじ開ける。
 現れたのは天井も底も見えぬ、見つめていては飲み込まれそうな暗闇。
 まさか……とビロードは悪い予感を感じてジョルジュの顔を仰いだが、遅かった。

(;><)「ぎゃああああああああああああああああああ!!」

 問答無用と言わんばかりにジョルジュは無言で暗闇の中に身を投じた。
 ビロードの叫び声が空間に木霊すが、ジョルジュが壁と壁を飛び交って上階を目指すと知ると、
 飛び降りるとばかりに想像していたビロードはほっと息を吐いて、しがみつく力を少し弱めた。

(;><)「飛び降りるかと思ったんです!」
 
( ゚∀゚)「飛び降りる事もあるかもな。
     いつ攻撃されるかわからねえから、しっかり捕まっと……」

( ゚∀゚)「悪い、ちょっと手を離してくれ」

( ><)「へ?」

( ゚∀゚)「少しの間飛んでろッ!」

 言われるがままに手の力を緩めれば、突然ジョルジュが眼下に見えた。そして更に距離が広がってゆく。
 このまま天井にぶつかるのではないか、と思えるほどの速度とパワーで投げ飛ばされたようだ。
 しかしビロードは、眼下に見える“もう一つ白色の存在”を発見し、ジョルジュの意図を理解した。

153 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:53:15.98 ID:3HpyInAK0

(  〓 )「No67、目標と接触。戦闘を開始する」

( ゚∀゚)「もうおいでなすったか。仕事熱心なようでッ――!」

 背後に回ってきた女兵士に対し、渾身の力で回し蹴りを放つ。
 腹部に直撃し、女兵士は壁に叩きつけられる。
 凹んだ金属の壁を見てノックアウトを期待しつつ、ジョルジュは蹴りで得た反動を利用してビロードを追う。

 が、女兵士は何事も無かったかのように壁を蹴り、ジョルジュを追う。
 ジョルジュの両足を掴み取り、地へ向けて投げ飛ばす。
 その細身の何処にこんな力があろうか? ジョルジュは驚愕しつつも冷静に彼女の身体能力を改める。

( ゚∀゚)(こいつはマジでケツの穴を絞めてかからねえと、まずいな)

 咄嗟に腕を伸ばし、エレベータのワイヤーを掴む。
 腕力のみで身を空に飛び立たせ、そして壁を蹴って上空の女兵士を追いかける。
 今度は自分が彼女の両足を掴んで同じように下方へ投げ飛ばしてやった。
 だが、彼女は投げられた瞬間にジョルジュの足首を掴む。一緒くたに墜落してゆく二人。
 足を強引に動かし、振りほどこうとするジョルジュ。抵抗する女兵士No67。

( #゚∀゚)「離しやがれ!」

(  〓 )「では望み通り」

 女兵士はジョルジュを壁に投げつける。
 直後、投げの遠心力を利用し、ワイヤーを軸に足で回転、壁に叩きつけられたジョルジュに追撃。
 強烈なタックルをジョルジュの全身に浴びせる。

159 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:57:22.52 ID:3HpyInAK0

( ゚∀゚)「効かねえな。ダイエットのしすぎだぜ姉ちゃんッ」

 しかしジョルジュは物ともせずせせら笑い、両手を振り上げ、無防備な彼女の背中を打撃。
 彼女の細身はくの字に折れ曲がって、威力に従い今度こそ落下を始める。
 抗おうと手をワイヤーに伸ばしたが、突然急上昇していたエレベータの天井に全身を強打する。

(  〓 )「があッ!」

 そして後頭部を踏み込まれ、上半身をエレベータ内部にめり込ませられる。
 間抜けな彼女の尻に右足を置き、軋むワイヤーを左手に。
 羽のように軽いビロードを右肩に乗せ、ジョルジュはフェイスカバーの中で口の端を上げた。


( ゚∀゚)「中々楽しめたぜ、じゃあな」


 ジョルジュは彼女の尻を踏み台に、天井へ向かってジャンプした。
 踏み台になった彼女は全身をエレベータ内部へ蹴り込まれる。
 追おうとすぐに起き上がるが、引力に襲われる。エレベータのランプは降下を示している。

 17階にて停止。扉が開き、記憶に新しい顔が現れた。

 「あ、て、テメエ!」

 このマンションの住人にしてチーム・アルドリッチ所属のメカニック、ボブである。

164 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/12(金) 23:59:53.00 ID:3HpyInAK0

 「……ははーん、さてはミスタージョルジュに返り討ちに遭ったな?
  いい気味だぜビッチ! 今度は俺がベッドでヒィヒィ言わせてやペプシッ!?」

(  〓 )「強姦の容疑あり、故に正当防衛は成り立つ。逮捕はしないでやる」

 近づいてきたボブを一蹴し、ジャンプしてエレベータ天井に開いた穴を抜ける。
 エレベータの真上に着地して上方を仰ぐ。
 遠方に外の光、どうやら最上階の扉からこの空間を脱出したようだ。


(  〓 )「戦闘データ更新……データベースに送信。
      現在、目標はシベリアンマンション最上階にいる。屋上から脱出すると思われる」


 何者かに話しかけるようにNo67は呟き、エレベータを蹴ってジョルジュの後を追う。



 「……がはあ……う、動けねえ……きゅ、救急車を……って、携帯つながんねえんだった!
  Shit……明日は不動産じゃなくて病院行きだぜ……しばらく、病室で綺麗なナースに囲まれるのも、悪く、ねえ……」

 そして人知れず、ボブは意識を失うのであった。

167 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:03:10.14 ID:xjrg2u8e0


(;><)「死ぬかと思ったんです!」

 屋上。
 広大な第4階層を一望できる超高層の頂点、そこの中心にてビロードは大の字になって夕空に叫んだ。
 ジョルジュは癖で後頭部を掻き、ビロードを宥める。

( ゚∀゚)「悪い悪い。でも覚悟しとけよ? もっと荒っぽくなるかもしれねえ。
     連中は何が何でもお前を連行するつもりのようだ」

(;><)「投げ飛ばされるのはこりごりなんです」

 「わかったわかった」と、適当にあしらうジョルジュには少し不満を覚えるが、
 ジョルジュの強さは本物だと、ビロードはすっかり信頼していた。
 何度投げ飛ばそうが、その度に彼はキャッチしてくれるだろう。

( ゚∀゚)「それにしても目的は何だ? ツンに言われたままにお前を助けてるが」

(;><)「あ、そういえばジョルジュさん、何も事情を知らないのに……」

( ゚∀゚)「気にするな。ツンには借りがあるしな。で、どういう状況だよこりゃ?」

 ビロードはジョルジュの為に、先ほどのツンと女兵士のやり取りを辿って行く。

(;><)「……僕が議会を覆す存在だから、らしいです。
      それからテロリストから僕を保護する為で……ええっと、その」

170 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:04:42.08 ID:xjrg2u8e0

( ゚∀゚)「現議会に反する元チームと企業がテロリストの正体、ってとこだろう。
     そしてお前は議会との交渉を有利に進める上での重要な人質になる、って訳か。
     なるほど、連中が躍起になるのも無理ねえな」

 情報が断片的だというのに的確に言い当てるジョルジュに、ビロードはホッとした。
 フェイスカバーで顔は見えないが、鼻で笑う彼が何とも頼もしく見える。

(;><)「は、はい、そうなんです!
      あの女の人は僕に不自由の無い生活を約束するって条件をツンさんに出したんですけど、
      でも僕はそれが嫌で、議会に保護されるのを断ってしまったんです」

( ゚∀゚)「へえ。どうして? いいじゃねえか、勉強だって出来るだろうに」

( ><)「……それじゃあダメだと思ったんです。意味が無いんです。
      それに僕、ツンさん達やブーンと一緒にいたいんです」

(;><)「でも、迷惑なんですかね……? 僕のせいで皆を巻き込んじゃって……」

( ゚∀゚)「ったく、ガキのくせに生意気言いやがる。気にするんじゃねえ、ビロード。
     好きにすりゃあいいのさ。お前は俺達の、その、なんだ……仲間、だからな」

( ><)「ジョルジュさん……」

 慣れぬ言葉を口にし、ジョルジュは歯が浮く気分を味わう。
 照れ隠しに再び後頭部を掻き、そして話題を転換させた。

174 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:06:58.10 ID:xjrg2u8e0

( ゚∀゚)「それにモララー・スタンレーの荒巻暗殺の容疑が晴れてる訳ではない。
     ドクオじゃねえが、胡散臭ぇ……今回も何か裏があるような気がしてならん。
     モララーの言いなりになるのは危険だったかもしれないぞ、ビロード」

(;><)「あの、モララー・スタンレーって、どんな人なんですか?」

( ゚∀゚)「世間的には『セントラル』を第一に考える善良な政治家であり科学者だ。
     事実、クローン技術で我々の食糧問題を解決した多大な実績もあるからな。
     しかし実態はマッドサイエンティストだと、特にドクオは言ってるようだが」

( ><)「……マッドサイエンティスト、ですか」

 マッドサイエンティスト。その言葉で、ビロードはオットーを思い出した。
 許しがたい所業をしたオットーから、モララーという人物を悪い人間だと印象づける。
 ならば、信用してはだめだ。ビロードは僅かに震えた。

( ゚∀゚)「さて、悠長にお喋りするのもここまでだ。一度ツンと連絡する。
     どこか身を隠す場所を探してもらわねえと……」

 ジョルジュは左手に着けている携帯端末を休止状態から解く。
 しかしツンに通信を試みる直前、左上に表示された通信状況に気づいた。

( ><)「どうしたんですか?」

175 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:08:59.43 ID:xjrg2u8e0

( ゚∀゚)「まずいな。敵が通信を妨害しているようだ。連絡が取れねえ。
     固定端末も同様だろうな……クソ、どうするか……」

 ジョルジュは答えを探すかのように周囲を見回す。

( ;゚∀゚)「なッ――――」

 その視界に突如、一斉に白いスーツ姿の者達が現れた。

 周囲を見回すジョルジュ。行き場は無い。
 四方を女兵士達に囲まれてしまった。

(  〓 )「ジョルジュ・ジグラード、ビロード・ハリスを引き渡せ」

(  〓 )「ジョルジュ・ジグラード。貴様は公務執行妨害で逮捕する」

(  〓 )「ビロード・ハリス、大人しくこちらへ来るんだ。決して悪いようにはせん」

 「ビローさあこちらにジョルジュ貴様の処罰はビロード君には輝かしい未来がジョルジュ・ジグラー」

 中央に向かって投げ込まれる温かみの無い言葉。
 どれもこれも台本を読まされているかのような口調。
 そのせいか、ジョルジュは彼女達を通し、モララー・スタンレーに対する疑惑を更に強める。
 ビロードを、絶対に引き渡してはならない。

( ;゚∀゚)(チッ……とはいったものの……)

 互角の身体能力を持つ多数を相手に、突破できるものだろうか。

178 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:11:32.10 ID:xjrg2u8e0

(;><)「ジョルジュさん……投げ飛ばすのも飛び降りるのも、お任せしますんで」

(;゚∀゚)「そうしたいところだが、連中が許しちゃくれそうにないな……クソッタレ!」

 じりじりと間を詰めるクローン兵士、その数6。
 一点突破を図ろうにも、しかしその一点が強靭。

 どうすればいい? どうすれば――――――



 「おおおおおおおおおおおおッ!」

 「だりゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 そこへ、上空から闖入してきた者二人。遥か上空には一機のバイクが待機している。
 彼らはマシンガンで彼女達の足元へ威嚇射撃を行いつつ、降下したのだ。
 女兵士達は弾痕で線を引かれ、そこから越えようとせず慎重に闖入者を伺う。


(´・ω・`)「クソミソX、推参」


(  〓 )「声紋よりデータを照合。ショボン・トットマン。第4階層18番アヴェニュー5−56に住居し――」

 全女兵士が参照したデータを口にしようとしたが、銃撃音がかき消す。

182 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:15:44.58 ID:xjrg2u8e0


ノハ#゚听)「うるせえよ議会の犬どもがぁ……痛い目に遭いたくなかったら
      くっちゃべってないで、とっとと回れ右して帰んな……!」


(;´・ω・`)「ちょっと待てアンタ誰だ? 戦闘になると人が変わっちゃうの?」


(;><)「ショボンさん!」

( ;゚∀゚)「ショボン、おかげで助かるが、どうしてここに?」

(´・ω・`)「通信が妨害される前に小娘が連絡を寄越してくれましてね。
      彼女達の手前、今は詳しく話せないが僕も疑念を抱いておりまして、
      ビロード君の救助に馳せ参じました。ああ、それとこちらの御方は――」


ノハ#゚听)「ヒート・ダイムバァーッグ! かつて戦場の紅い死神とか恐れられたサイボーグだ!
     てめえら、こんなガキに縋ってまで権力を守りてえらしいな……容赦しねえぞォ……」


(;´・ω・`)「……だそうです……って、レッドヘアー・リーパー!?
        その赤髪、敵の返り血を浴びて染まったって伝説の……アンタがあの鬼女なの!?」

ノハ´゚听)「誰が鬼女だ! 解体すんぞ!?」

(;´・ω・`)「あ、すいません。こりゃ失言でしたか。でも死神はいいんだね」

185 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/13(土) 00:20:22.48 ID:xjrg2u8e0

( ゚∀゚)「中東で行われた二足歩行型核兵器の破壊作戦を、
     伝説の傭兵ソリッド・スネークと共に完璧なスニーキングでやってのけたっていう、あの死神か。
     へえ、こんな可愛らしい姉ちゃんだとは思ってなかったが、頼もしい援軍だ」

( ><)「お姉ちゃん! スネークの昔の仲間だったんですか!?」

ノハ*゚听)「よくぞ聞いてくれましたビロード君! そうなんですそうなんですそうなんですうううう!
     私、7年くらい前にですね、渋い感じのオジサンと一緒に恐ろしい核兵器をですねえ、」

( ゚∀゚)「後でブーンも一緒に聞かせてやれ!……さて、突破するぞ」

ノパ听)「チッ、了解……それにしても久々の実戦だ……腕が鳴るぜェ……!」

(  〓 )「作戦変更。敵勢力を無力化した後、ジョルジュ、ショボン、ヒート3名を逮捕。
      ビロード・ハリスには傷一つつけるな――――作戦開始」


ノハ#゚听)「行くぞぉおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」




                      第33話「ビロードを守れ!」終

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