第32話「B00N-D1の回想−地上へ−」
- 5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:33:10.61 ID:tzcqBK4F0
- 登場人物一覧
――― ホライゾン家 ―――
( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ、「システム・ディレイク」。
2054年のウィルス・パンデミックで、両親をセカンドに殺害される。
フィレンクトにサイボーグ化への転化を断られるが、危険を顧みず地上を目指した。
( ФωФ)ロマネスク・ホライゾン:享年43歳。プリンストン市警官。
2054年に死亡。フィレンクトから連絡を受けた彼は、ツンとブーンを連れて
ニュージャージー・プリンストンからマンハッタン島へ渡ろうとする。
しかし、道中で大型セカンドに遭遇し、命を落とす。
フィレンクトからはブルーエネルギー兵器の雛形BlueBulletGunを贈られていた。
J( 'ー`)しカー・ホライゾン:享年41歳。プリンストン市警官。
2054年に死亡。ブーンとツンを逃がす為に大型セカンドに立ち向かい、
夫の後を追った。彼女の尊い犠牲心がツン・ディレイクに行動させる。
プリンストンのガンマスターの異名を持つ、射撃の名手であった。
- 8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:35:04.92 ID:tzcqBK4F0
- ――― ディレイク家 ―――
ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
2054年のパンデミックにおいては、ブーンの両親の意思を尊重しようとマンハッタンへの渡島を敢行した。
地上に出向こうとするブーンの後を追う。
ξ(゚ー゚ξデレ・ディレイク:享年42歳。生物工学者。
ツンの実母である彼女は、夫、フィレンクトと共にセントラル改装工事を進める一方、
システム・ディレイクの完成と実現を危機的状況下で目指した。
(‘_L’)フィレンクト・ディレイク:享年46歳。生物工学者の権威的存在。
後に絶大な戦闘能力を有するサイボーグシステム「ディレイク」の基礎は、
彼自らがサイボーグ化し完成させられた。
更に人類最後の砦たる『セントラル』の工事も指揮し、完成を間近にして死亡する。
また、ブルーエネルギーの開発にも大きく関わるなど、セカンド対策の大部分に貢献。
- 10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:37:13.26 ID:tzcqBK4F0
- ――― 米軍残党、政治家など ―――
/ ,' 3 荒巻・スカルチノフ:享年63歳。元セントラル議会議会長。
2054年、米陸空両軍の残党では最高位であった大佐として、軍を指揮。
また、当時の重要会議でも大きな決定権と発言力を有していた。
ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦の指揮者でもある。
( ´∀`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。新セントラル議会議会長。
現在のセントラルにおいては独裁的な権限を持つ彼だが、
2054年当時は民主党所属のニューヨーク州司法長官として活躍していた人物。
爪'ー`)y‐フォックス・ラウンジ・オズボーン:年齢不明。
かつて一世を風靡したラウンジ社の社長。
2054年、ブーンの血液を手に入れた後、姿を消したようだ。
- 15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:42:26.95 ID:tzcqBK4F0
-
第32話「B00N-D1の回想−地上へ−」
当時、『セントラル』の出入り口は第1階層から発着されるエレベータのみだった。
樹林を抜けた者を歓迎する豪華絢爛なエントランス「デラコート劇場」も、
大小様々な大量の資材を搬入出する為に改装工事の初期に取り壊され、
シンプルな作業用照明のみが照らす飾り気の無い作業場のような姿へ改装された。
対セカンド用シェルターへの改装工事は、主に第1階層の迎撃システムの構築と、
第2階層のインフラを破壊されぬよう内壁を強固に仕上げる物であった。
その為、幾多の飛行ドロイドやトラックが中央エレベータへと集い、
アクセサーや運搬用リフターに荷物と共に乗り込み、上層へ向っていったのだ。
緊急用の非常階段が当時から現在に至るまで残っているが、
セカンドの侵入を懸念し、分厚い金属でシャットアウトされたという情報を、
僕は道中、耳にしていた。
( ^ω^)(となれば、やはり向う先は中央エレベータだお)
第3階層は今でこそ研究施設が密集する、娯楽とは無縁の区域であるが、
当時は外壁に沿ってドーナツ状に形成された広大なショッピングモールであった。
しかしシンプルな構造は実際に歩けば意外にも複雑で、
道は複数に分岐し、ただ歩いても一周する事は出来ないように作られていた。
僕は標識を見落とさないよう注意しつつ、街を駆け抜けた。
- 19 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:49:01.66 ID:tzcqBK4F0
- 本来なら、アクセサーに乗って目的地に向うのが、地下都市『セントラル』の醍醐味の一つでもあった。
しかし『セントラル』は緊急事態下にあり、アクセサーの使用に制限をかけていた。
軍人や警察、それと募られたボランティアによってターミナルに検問が敷かれ、
避難民、つまり一般人用のアクセサーは本数をぐっと減らされており、
どこのターミナルも搭乗まで一時間以上待つのが相場となっていた。
しかも第3階層より上の階層への一般運行は停止されており、
一般人が第2階層以上へ行く事は叶わなくなっていた。
もっとも、誰もが地上へ近づこうとはしていなかったようだが。
そうしてターミナルを巡り回っている内に僕は手の打ちようが無いと悟った。
(;^ω^)(どうする……どうしたらいいんだお!?)
ドーナツ状の第3階層にも公園はあり、そこで一旦落ち着くことにした僕は、
ベンチに腰を下ろして息と計画を整えた。
(;^ω^)「はぁ、はぁ、」
こうしている内にジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦が開始されてしまう。
良い打開策が頭に浮かばず、焦りばかりが募ってゆく。
(#^ω^)「クソッ!」
苛立ち、拳をベンチに思い切り叩きつけた。
皮が擦り剥けて血がじんわりと滲む。冷静でなくとも痛みが拳に広がる。
僕は自分の行いに後悔しながら、怪我した箇所を舌でなぞった。
苦い血の味が口に広がる。血の、味が……血、そうだ、血だ。
- 22 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:52:19.47 ID:tzcqBK4F0
-
( ^ω^)(そうだ……僕の血液は、特別だったんだお)
僕は一般人だが、僕という人物を特徴付ける物を持ち合わせている。
『セントラル』と人類の未来を左右するらしい“免疫”を持つ特別な存在だとは、
どうやらIDを提示すれば末端の兵士でも気づける事を、うろ覚えだが記憶している。
(;^ω^)(となれば、嘘ついて地上に出られるかも?)
我ながら良く閃いたものだ。そう思うと同時に、もっと自分の立場を理解すべきだと反省した。
BlueBulletGunという対セカンド兵器を持っていても、
僕はシステム・ディレイクでも無い非戦闘員、保護されるべき一般市民だ。
そんな僕が、この状況で立ち回る武器といったら、他でもない己の血。
更に僕は、作戦会議において重役を担うフィレンクト・ディレイクとは昔からの知人でもある。
なんだ、やりたい放題できるんじゃないのか、これは。
( ^ω^)「よし」
僕はすぐにベンチからケツを剥がし、最寄のアクセサーターミナルへ向った。
- 25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:55:50.00 ID:tzcqBK4F0
- アクセサーターミナルの一般用プラットホームは避難民でごった返ししている。
誰もが指定されたホテルへ向う途中であったのだ。
ぎゅうぎゅうと辛く押し合う中、幼子を抱えた母親の姿なども多く見られた。
彼等には申し訳ない気持ちもあったが、足取り軽く、僕は彼等の横を過ぎてゆく。
何気ない顔を取り繕って昇りのプラットホームへ向う者の列に混じった。
一般用のプラットホームに向う人々から一斉に怪訝な視線を受けたが、お構いなく無視した。
「君、こっちのアクセサーは利用できない。
すまないが、あっちの列に並び直してくれないか?」
当然、軍服による検問は、僕のような子供に対してID提示すら求めなかった。
僕は得意な顔をして、携帯端末の個人情報を提示してやった。
検問を務める軍服二人が顔を見合わせて呆れていた。
( ^ω^)「いいから、データを検索してみてください」
溜息をついて、仕方なしに軍服は自分の携帯端末を僕のとリンクさせる。
データベースで更に詳細な個人情報を検索しているようだ。
恐らく『セントラル』内での役職や担当なども登録されているか、
あるいはブリーフィングなどで僕や父の事は周知されているだろうと僕は予想していた。
- 30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/04(木) 23:58:31.31 ID:tzcqBK4F0
-
「ホライゾン・ナイトウ……き、君は、例の少年だったか!」
軍服が驚いてくれた。予想通りだ。
したり顔で僕は交渉に打って出る。
( ^ω^)「ええ。それでなんですが、僕は第一階層まで来るよう指示されているんです。
連絡は来ていませんか? その内、貴方達にも通知が来ると思うんですが……。
まあそれは置いておいて、どうも急ぎの用らしいので通して頂きたいのですが」
「し、しかし、君のIDはアクセサーの使用制限がかかったままだ。通す訳には――」
(#^ω^)「ですから! 緊急の用だと言っているでしょう!?
「わ、わかったよ」
軍服が慌ててコンソールを操作し、エスカレータを封鎖する重厚なゲートを上げた。
僕は気さくに礼を述べて、エスカレータに足を乗せた。
(;^ω^)(うまくいったお!)
彼等の姿が見えなくなったのを確認してから、僕は深く溜息をついた。
- 32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:01:33.88 ID:RCNoPGQe0
-
プラットホームは予想以上に慌しい喧噪に包まれていた。
ドロイドの駆動音はスマートだが、積み重なると耳障りだ。
作業員や軍人の怒号も少なくない。
ただ、僕を見て声を掛けるような者がいないのは有り難かった。
免疫を持つ少年として気づかれていないせいもあるが、
検問を抜けた後は特に気負いせずに歩き回っても平気であった。
とはいえ、僕は緊張していたし不安を抱えていた。
嘘が判明すれば無事では済まないだろうし、特に僕が地上へ出たとなれば大事だろう。
ここに来て悪い想像が駆け巡ったが、僕は何気ない顔を取り繕ってアクセサーの順を待った。
アクセサーに乗り込み、まずはシートベルトを締める。
一息つき、目の前のホロパネルを睨みつけた後、ゆっくりとした手付きでタッチした。
初めて乗るものだから少し操作に戸惑ったが、僕は無事に行き先を入力し終えた。
(;^ω^)「うおっと」
アクセサーが地面から離れ、スピーカーから軽快なポップスを奏でながら、僕を上層へ運んでゆく。
僕はこの時初めて、空を飛ぶ乗り物に乗ったのだ。
- 35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:03:37.91 ID:RCNoPGQe0
- 2040年初期には既に自動車の空中走行が一般的に普及されていた。
しかし交通省は、高速で走行する空中走行の危険性を配慮し、
飛行可能区域の殆どを郊外や田舎に指定した為、実用的にはならなかった。
その一方で主要都市は拡大し続け、内部は複雑に入り組み、
「脱出」に時間を要するようになると、遂に空中にチューブが掛けられるようになったのだ。
合衆国は科学都市ボストンで生まれ、同市では実用に及んだ技術、「スカイウェイ」である。
スカイウェイは透明感のある薄い青を基調としたチューブ状、トンネル状の道だ。
実用性もさることながら、日が沈んでもスカイウェイは夜の闇に埋もれぬよう美しい青色で発光し、
ボストンの新たなビューポイントとなった事でも注目を浴び、各国で導入が決定されるようになる。
しかし、ウィルス騒動が起こると、人々の夢半ばで一斉に工事は取り止められる。
ニューヨーク・マンハッタンでも空中で途切れたチューブが虚しく空に残っていた。
スカイウェイの開発と同時に世界的に進行していた地下都市開発。
ここではスカイウェイとは異なるが、自動車の空中走行を可能にして、
都市を上空から見物できるという売りを持たせるのが流行になっていた。
『セントラル』のアクセサーは、その流れを汲んだ移動手段であった。
( ^ω^)「おお、ここからの眺めも最高だお」
薄暗いプラットホームから発進したアクセサーは走行レールに従って進み、
ドーナツ状の構造を脱出して第3階層の上空へと出た。
解放感のある上空を行っていると思えば、超高層のビル群の間を縫って景色を変えてゆく。
時には巨大な広告に接近し、アクセサー用に合わせられたアニメーションなどを僕は楽しんだ。
- 42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:08:28.76 ID:RCNoPGQe0
- 中央エレベータに差し掛かると、レールが上方に向って緩やかに角度を変えてゆく。
他のレールがこの幹に密集し上昇あるいは下降してゆく様を横目に、
天蓋中心に幾つも開いている楕円の一つに、僕もゆっくり吸い込まれてゆく。
眼下の街が更に遠ざかる。
ここまで、実際の所要時間は10分を要したようだが、体感ではずっと短いように感じられた。
ただ、またあの景色を見たいとは思わなかった。
ここに戻ってこう、とか、願わくは、とか、そういう未練は無かった。
モニターによれば「第2階層、中央エレベータ第6ターミナル」というプラットホームに到着。
しかし僕の目的地はもっと上。地上だ。
そのまま上昇を続け、このプラットホームを過ぎてゆく。
そして第2階層の内部へと侵入した。
第2階層の景色は味気ないとも言えるが、
科学技術が集結した設備の数々には目を引かれた。
中央エレベータとは壁もそうは離れておらず、閉塞的な作りになっているので、
僕は壁の様子を眺める事が出来た。
壮大な機械の壁は不規則に光り輝いていた。
水門を制御しているのか水の流れる音が聞こえる。その他、大規模な駆動音が複数。
壁に張り付いてメンテ作業をしているドロイドや、リフトに乗った作業員も多く見られた。
しかし昇りのアクセサーを利用する者達の殆どが、
第2階層の各プラットホームを過ぎて第1階層へと向っている。
『セントラル』の要となるであろう、防衛システムを搭載した第1階層に人材と資材が集中しているからだ。
- 43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:10:07.34 ID:RCNoPGQe0
-
『第1階層、中央エレベータ第6ターミナル』、
激しい喧噪に掻き消されそうになりながら、女性の綺麗な音声が教えてくれた。
ここで前方を走る多くのアクセサーが停止し、搭乗者が降りていった。
僕のアクセサーは分岐点に差し掛かり、レールを変えようと速度を落とした。
その時である。
『IDト通行許可証ノ提示ヲ』
( ^ω^)「え?」
『IDト通行許可証ノ提示ヲ』
巨大な棒状のゲートが目の前に降り、アクセサーは進行を阻まれて一時停止した。
同時に、飛行ドロイドがやってくる。ドロイドによる検問だ。予想外だった。
顔の大部分を占めるモノアイが、僕の焦った顔を鏡のように映している。
『IDト通行許可証の提示ヲ。デナケレバ、通行デキナイ」
まるで心境を読んだかのように、ドロイドが念を押す。
まずい……僕は舌打ちしつつ、携帯端末でIDをとりあえず提示し、
(;^ω^)「ホライゾン・ナイトウ。軍部からの通達で、地上へ出るよう命令されてるお」
- 45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:11:41.75 ID:RCNoPGQe0
-
『デハ、地上ノ出入りを管轄スル管轄部に確認ヲす、』
(;^ω^)「待ってくれ! 間違えた! ここに用があったお!
確認なんてしなくっていいお。ここで降りるお」
急いでタッチパネルを操作してアクセサーを停止させる。
シートベルトのロックが外れると、僕は飛び出すようにアクセサーから降りた。
そのまま場を離れようとドロイドに背を向けるが、不気味なモノアイが僕の前に回りこむ。
『アクセサーの入力ヲ誤ラナイヨウニ。通行ノ妨ゲにナル』
(;^ω^)「わ、わかったわかった! 次から気をつけるお」
しつこく念を押すドロイドを適当にあしらって、その場から逃げだす。
人々の注目も集めてしまっていた。僕は一先ずプラットホームを出た。
作業員の邪魔にならぬよう道の端を行く事しばらく。
第1階層に降りるなど全く予定に無かったので頭の中は真っ白だった。
「――の積載を急げ! 作戦まで開始まで30分を切ったぞ!」
(;^ω^)(爆破作戦の事だお! まずいお……ニュージャージーへ戻る道が無くなっちまうお!)
例え飛行可能な自動車を見つけたところで、指紋と声紋のダブル認証でロックされている為、
ミラーをぶち破って乗り込んでも僕には操縦はできない事を思い出す。
バイクも同様だ。乗り捨てた乗り物は沢山あるだろうが、使い道はない。
- 50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:15:52.18 ID:RCNoPGQe0
-
それに、車でマンハッタンとニュージャージーに横たわる広大なハドソン川を渡れない理由がある。
ここらの区域はまだ飛行モード移行が出来る区域に指定されていない。
飛行モードへの移行は車に埋め込まれたマイクロチップが衛星通信で管理されており、
つまり指定区域内での飛行がロックされているのだ。
船で渡るという手もあるが、操縦技術なんてもたない僕には無理な話だ。
橋を落とされれば、完全にニュージャージーへの足がかりを失う事になるのだ。
いや今はそんな事はどうでもいい。まずは地上へどうやって出るかだ。
早急に作戦を立て直さなければならない。
僕は人目から逃れる為にも、ターミナル構内のトイレに逃げ込む。
個室に入り、カギを掛けて腰を下ろした。
( ; ω )(……どうするお……クソッ!)
バッグを静かに開き、ごつごつした感触を辿る。
トリガーに指をかけてBlueBulletGunを中から取り出し、額に銃身を押し当てる。
しばらくそうして集中してみるが何も策は浮かばない。焦りだけが頭に立ち込める。
( ; ω )(……どうしたらいいんだお……)
浮かばぬ策、次々と思い描かれる絶望的な結末。
地上へ出ぬまま、僕の敵討ちに幕が降ろされてしまうのか?
トーチャンとカーチャンの仇に一矢報いず、この街でのうのうと生きろというのか?
嫌だ、そんなこと、あってたまるか!――いらだってバッグをドアに投げつけた。
- 54 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:17:16.05 ID:RCNoPGQe0
-
( ; ω )(…………待てよ……?)
ドサリと落ちたバッグを見つめた。今は特に中身も無く、外見も変哲の無い皮のバッグ。
バッグの中身が見えなかったから、僕はこの銃を所有できていたのだ。
手に持って歩いていれば直ちに没収されていたはずだ。
(;^ω^)(コンテナ……資材を入れたコンテナか何かに身を隠せば……!
自動的に地上へ送り届けられるお! そこまで行けば何とかなるはずだお!)
すぐさまバッグを拾い上げて銃を隠し、トイレを出た。
まだ、脱出の希望はある。
( ;゚ω゚)「―――――なんで、」
だが、通路の角を曲がった時だ。
一番会いたくない、会ってはならない人物と鉢合わせしてしまったのだ。
- 56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:19:09.43 ID:RCNoPGQe0
-
( ;゚ω゚)「なんでお前がここにいるんだお!? まさか追ってきたのかお!?」
ξ#゚听)ξ「ええ、追ってきたのよ! アンタ、どういうつもりでこんな所まで来たのよ!?」
( #゚ω゚)「お前には関係ない! どけよ! 僕は地上へ――――」
頬を思いきり張られた。
僕は、その場で立ち尽くした。
ξ#;凵G)ξ「いい加減にしてよ……もうやめなよ……仇討ちなんて……」
( ; ω )「うるさい……放っておいてくれお……お前なんかに、何が……」
「そこ! 何やってる!? ……子供か!?」
ξ;゚听)ξ「……まずい! 一度どこかに身を隠しましょう!」
- 64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:22:20.60 ID:RCNoPGQe0
-
( ; ω )「あっ! お、おい――」
ξ#゚听)ξ「いいから!」
ツンに強引に手を引かれ、僕達は走った。
道も分からないのに行く当てなんか無い。
異常事態を聞きつけたか、周知されたのか、追っ手の声が増えてゆく。
「止まれーッ!」
相手は子供の悪さを叱るようではなく、本気のようだった。
捕まれば恐ろしい目に遭うと想像した僕は、いつの間にかツンの手を引いて必死に走っていた。
( ; ω )「何処に行けばいいんだお!?」
ξ; )ξ「知るかっての!」
随分と走った。誰も追ってくる気配が無い。というより、人気が無くなる。
どこかの倉庫へ僕達は逃げ込んだ。
暗いが、目を凝らせば近くの様子くらい伺える。
一つか二つ、遠くでドロイドの足音が聞こえてくる……近づいてくる!
咄嗟に僕達は息と足音を忍ばせる。
- 67 名前:>>62アッー ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:23:40.16 ID:RCNoPGQe0
-
近くにトラックがあるのを発見し、荷台に乗りこむ。
ツンが荷台の扉を静かに閉めたが、僕達は更に用心して、
荷台に積まれていたコンテナの中に身を隠した。
( ; ω )「はあ、はあ、」
ξ; )ξ「はあ、はあ、」
窮屈な四角い空間の中で、僕とツンは密着して座った。
僕はそれが落ち着かず、コンテナから出ようと身を乗り出したが、
ξ; )ξ「逃がさないわよ」
ツンは僕の手を握って離さなかった。
声を落として、僕達は少し話をした。
( ; ω )「疲れて、そんな気は、起きないお」
ξ; )ξ「じゃあ何? あ、こんな所で妙な気おこさないでよね? 大声で叫ぶわよ、アタシ」
( ; ω )「ふざけんな、バカ。んな事、間違ってもするかお」
ξ; )ξ「そう言われるのもイラッとすんだけど」
( ; ω )「うるさいな……黙れよ、ツン。
そもそもお前が追ってこなけりゃ、地上へ出れたんだお、クソッ」
ξ; )ξ「……まだそんな事言ってるの? もう、やめなよ」
- 71 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:26:56.14 ID:RCNoPGQe0
-
( ω )「僕は戦いたいんだお。生きていても、科学者どもの道具にされるだけだし……。
それに十分な量の血を採血すれば、僕の存在価値なんて無くなる」
( ω )「……カーチャンがコイツのセーフティの外し方を教えてくれたのは、
僕に戦えって言う意味で教えてくれたんだと思うんだお」
ξ; )ξ「そんな悲しい考え方やめてよ!
オバさんがそんな気持ちでその銃を渡す訳ない……!
アンタの身を案じて、奴等を倒せるその銃を渡したのよ?
じゃなけりゃあの時、おばさんはその銃を使ってたに決まって、」
( ;ω;)「分かってるおそんな事! くそぉ……!
どうしてフィレンクトさんもツンも、僕を止めようとするんだお……!?」
ξ; )ξ「アンタの気持ちはよくわかるわ。でも、無理よ!
こんな銃一つあっただけで、あいつを倒すのは絶対に、」
( ;ω;)「じゃあ復讐を忘れて暮らせって言うのかお!? そんな事僕には――」
突然、振動が僕達を襲った。エンジンの唸りと共に。
エンジン音に紛れてコンテナの蓋を開くと、運転席の方から男の声が聞こえた。
「こいつで地上への運搬は最後だな!」
「ああ! いよいよ作戦が始まるぜ! 終わったら第4階層のバーにでも忍びこんでみようぜ。
貸切で好きなだけ飲めるぞ」
- 72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:29:07.31 ID:RCNoPGQe0
-
トラックが走り出す。遠心力に翻弄され、コンテナから僕達は飛び出てしまう。
僕達の他に、ごろごろと何かが転がる。
倉庫を出て明かりのある場所へ出たらしく、隙間から光が射すと積荷が何なのか明らかになった。
( ;゚ω゚)「爆薬……かお?」
棒状の黒い物体を恐る恐る手にとり、誰に対してでもなく呟く。
この手の分野にも詳しいツンが補足してくれた。
ξ;゚听)ξ「……これ、爆弾よ。リモートコントロールで爆破させるタイプの……。
ドロイドにでも持たせて爆発させるつもりよ、きっと」
それより、とツンが傾聴を促す。
ξ;゚听)ξ「どうすんのよ!? このままじゃ地上に出ちゃうわよ!?」
( ^ω^)「好都合じゃないかお。これで検問を突破できるお。
当初の予定通り、これで地上に運んでもらえるお。
お前を巻き込んだのは予定外だったけど」
- 75 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:31:16.79 ID:RCNoPGQe0
-
僕の胸倉を掴み、ツンが喚く。
ξ#゚听)ξ「冗談じゃないわ! 何ふざけた事言ってんのよ!」
ξ#゚听)ξ「どうせ無理よ! そんなの!
トラックから積荷を降ろす時に見つか――」
( ω )「黙れ」
ξ;゚听)ξ「……ど、どういう、つもりよ……」
( ω )「どうもこうもない。人質だお」
顎に銃口を突きつけられ、ツンが黙る。
ヤケクソを通り越して冷静になったのか僕の頭から迷いは消え、やけに冴えていた。
( ω )「こうなったのも運の尽きだお、ツン。お前に僕は止められなかった。
もう諦めて、僕に協力しろ。エントランスに到着したら解放してやるから」
- 82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:33:27.19 ID:RCNoPGQe0
-
ξ; )ξ「ナイトウ……アンタ、おかしいわよ……」
( ω )「失う物が無くなると、こうなっちまうのかもね。
……ツンは生きるお。僕の事なんか忘れて」
ξ;凵G)ξ「やめて! やめてよ! このッ!」
ツンが銃の銃身を掴み、奪おうとする。
だが、ツンの非力な細腕では体力自慢の僕から銃を奪うのは無理だった。
それでもツンは諦めずに暴れる。僕は黙らせようと、ツンの腹を思い切り殴った。
ξ; )ξ「あ、は……」
ツンが腹を抱えて蹲る。そして、涙を流したまま動かなくなった。
( ^ω^)「ごめんよ。でも、僕はもう止まれない」
痛々しい姿のツンを一瞥しても、自分の行いに対し気分は滅入らなかった。
これで、いいんだ、と。そう言い聞かせて、自分を正当化させようとしていた。
浮遊感が襲う。エレベータに乗ったようだ――時間が無い。
僕は転がった爆弾を手当たり次第拾い集め、バッグやポケットに突っ込んだ。
最後に、慎重な手付きでBlueBulletGunのセーフティを教えられた通りに解除した。
- 85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:36:07.58 ID:RCNoPGQe0
-
エレベータが重厚な音を響かせて停止。再びトラックが走り出す。
少し身体と視界が斜めに傾く。爆薬が転がる。坂を昇っているらしい。
僕は荷台の扉の隙間から外の様子を窺った。
プラットホームが下のほうに見える。プラットホームの明かりが小さくなってゆく。
辺りは暗いトンネルのような構造をしているようだ。
しばらくして、急に平坦な道へトラックが出た。
隙間から覗く景色に黒いシャッターのような物が突然現れ、トンネルの出入り口が消える。
風に乗り、木々の香りが荷台に忍び込む。
月が見える。月の下、暗闇の中でうっすらと見える摩天楼も発見できた。
( ^ω^)「セントラルパーク……地上に出たお、ツン」
ξ; )ξ「やめて……やめて! 止めて!! トラックを止め――」
騒ごうとするから銃の底で頭を殴りつけた。
鳩尾を蹴り上げて、少しの間動きを止めてもらうようにした。
更に僕は、ツンの頭に銃口を押し当て、片手で口を塞いだ。
ξ; )ξ「んッ……ふうッ……ふうッ……」
( ω )「頼むから、静かにしてくれ。出来れば殴りたくないお……」
ξ;凵G)ξ「んー……んー……」
遠くで人々の喧噪が聞こえる。
その方へとトラックが進み、喧噪の中に入ると、停止した。
僕は急いで、力づくでツンを立たせた。
- 89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:38:18.71 ID:RCNoPGQe0
-
「これで最後か!?」
「ああ! 急いで積荷をおろすぞ! 時間が無い!」
運転席を降りながら、運転手が誰かと大声で話している。
荷台の扉に気配が近づく。ガチャ、と、外側からロックが外される音が鳴った。
「な、なんだ、お前ら……!?」
「そんなところで……何を……お、降りなさい!」
銃口を向けられる。同時に、何人もの人間が集まってくる。
向けられる銃口の数が一斉に増えたが、
暗がりから僕達の姿がはっきり現れると、彼等は唖然としながら銃口を下げた。
諸手を挙げたツンと、その後ろから頭に銃を突きつける僕。
僕のポケットから覗く爆弾。チャックの開いたバッグから覗く零れ落ちんほどの爆弾。
今思えば、眉間を正確に撃ち抜ける射撃の名手がいれば状況は一変しただろうが、
ここに軍服を着用する人間がいなかったのはラッキーだった。
堂々と僕は彼らに要求する。
( ^ω^)「絶対に撃つなお。ヘタしたら全員死ぬから。とっとと、トラックから離れろ」
頭から血を流してぐったりと項垂れるツンを見てか、彼等は僕が本気であると理解したようだ。
徐々にトラックから離れてゆく。僕はトラックを降りて、背中を向けずに彼等から離れてゆく。
頃合を見計って、ツンの背中を押した。
何人かがツンを救助しようと集まる。同時に、僕は全力で走り出した。
- 92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:41:05.17 ID:RCNoPGQe0
- 「ナイトウ! ナイト―――――ッ!!」
何度も僕の名前を呼ぶツンの叫び声が聞こえた。
何度も、何度も。ずっと叫んでいたのだろう。
あんな仕打ちをした僕を見捨てず、行くなと言ってくれたのだ。
幸せだった。心から僕を思ってくれる人が、まだいてくれた事に。
正直後ろ髪を引かれる気持ちが芽生えたが、それを上回る復讐心が僕の足を止めなかった。
いや、ツンの事を忘れようと我武者羅に走っていただけかもしれない……僕は冷静でなくなっていた。
段々とツンの声は聞こえなくなった……樹林を抜ける頃には、不気味なほど辺りは静かになった。
( ; ω )「はあ、はあ、」
上がった息を静めようと手を膝につく。
息を荒げたまま顔を上げる。朽ちた高層ビルが立ちはだかっている……セントラルパークの外だ。
ここは何処だ。周囲を見回し、地面に突き刺さった標識を発見する。
(;^ω^)「96番通り……ブロードウェイの近くかお。川沿いに出られたのはラッキーだお。
でもここからなら、リンカーン・トンネルのほうが近い……」
リンカーン・トンネル。僕にとっては両親を殺害された最も忌まわしい場所だ。
そこに奴が棲息している可能性は否定できないが、とうに封鎖されているはずだ。
ニュージャージーへ繋がっているのは、やはりジョージ・ワシントン・ブリッジの他ないだろう。
歩くともなれば実に果てしない道のりだ。
冷静なようで頭が差ほど回っていなかった……トラックを奪っておけばよかった。
だが、今更もう遅い。引き返す事など出来ない。道のりが果てしなかろうと行かなければ。
( ; ω )「行くしかな、」
意を決した時、通りの遠くの方から、何か、聞こえた。
- 98 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:46:41.80 ID:RCNoPGQe0
- 一寸先も闇。足元すらあまりよく見えぬ闇夜が恐怖を加速させる。
また物音が遠くから聞こえた……ゆっくりと不穏な気配が忍び寄ってきている。
人間が歩くような規則正しい足音ではない。ずる、ずる、と。
何だ、何だ、何だ。
全身に鳥肌が立つ。爆音で心臓が動く。
疲労から回復したばかりの身体が、何故か激しい呼吸を再開させる。
( ;゚ω゚)「はあ、はあ、」
BlueBulletGunを構えるが狙いが定まらない。全身が震えていたのだ。
どうやって立っているかも分からなかった。
心の準備もままならないのに、得体の知れない何かは構いなしに近づいてくる……影が見えた。
《ア、あああ、あああ、あああああ、あ》
両足を失った人間の感染者だ。
血塗れの、異様に長く伸びた両手で素早く這いずっている。
肥大して飛び出た目で、辺りを見回している。
頬は痛々しく亀裂し、だらしなく下がる顎から溢れる血と、それを啜る長い舌から、
獰猛な殺意と食欲を発散させた後のようだ……そして、次は僕の番……かもしれない。
奴はまだ僕に気づいていない。
- 103 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:51:24.77 ID:RCNoPGQe0
- ( ;゚ω゚)「…………」
僕は息を殺し、忍び足でゆっくりとそいつから遠ざかる。
まだ、こちらに気づいていない。
撃てる……でも、外したら、どうする。気づかれるぞ。
撃つか、撃たずにこのままやり過ごすか、判断に迷ってしまった。
様子を窺っている内に、ふと、目が、合った。
驚いた僕は、あろうことか銃を落としてしまった。
( ;゚ω゚)「しまっ――」
《あアアアッ、ああああッあああああ、がああああ》
気づくや、そいつは目の色を更におぞましく変え、僕の方へ這いずった。
足が無いのではなかった。下半身が無い。
下腹部から真っ二つに割れ、充血した腸をぶるぶると震わして、
まだ消化途中の肉を地面に撒き散らしながら接近する。
( ;゚ω゚)「クソッ!」
土壇場で震えが止まる。急いで銃を拾い上げて、トリガーを引いた。
強烈な手応えと同時に周囲が蒼く染まる―ー撃てた、やった!
だがしかし、弾丸はそいつの頭を撃ち抜かず、地面を抉っただけだ。
嘘だろ、こんな近くで、しっかり狙ったのに、何で。
- 106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:54:21.52 ID:RCNoPGQe0
-
《ああああああああああああああああああああああああああああああああ》
両手で地面を弾き、飛びつかれる。
僕は後頭部を固いアスファルトにたたきつけたが、気が動転していて痛みを感じなかった。
裂けた頬に残る筋繊維を動かし力強く口を開閉し、汚い歯をガチガチと鳴らす。
首筋に涎か血かが落ちて垂れる――その高熱を感じると同時に左手でそいつの額を抑える。
( ;゚ω゚)「うわああああああああああああ!! こ、のっ!」
そいつの首にBlueBulletGunの銃口を押し当て、トリガーを引いた。
弾丸が胴体から首を分離させる。首は、血を振り撒きながら宙を舞った。
《ウバラババアらばああばくぶすとばらばばるらあばぶららびゃあああ》
僕の目の前に転がった生首が滅茶苦茶に声を発していた。目もぎょろぎょろと動いている。
僕は叫びながら立ち上がり、頭を撃ち抜いた。
残る胴体はビクビクと痙攣し、打ち上げられた魚のようにのた打ち回っている。
( ;゚ω゚)「あ、あ、あああ、ああああああああっ」
僕は失禁しながら死体から離れた。
ふらふらとビルの壁に背を凭れ、力無く腰を落とす。
脅威を退けた実感は沸かず、恐怖と生理的な嫌悪感が僕の全てを浸した。
頭に内包されていた臭い臓器と血が目の前で飛び散った光景を思い出し、たまらず吐いた。
吐瀉物で口と上着を、漏らした尿でズボンを汚している事など意に介さず、
ただただ僕は恐怖で震えていた。
- 109 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 00:57:21.79 ID:RCNoPGQe0
-
警戒心を失った僕に接近する事など容易かったのだろう。
恰好の餌であったはずだ。
暖かい何かが僕の肩に落ちた。
反射的に振り向くと、人の頭を尻にした巨大な蜘蛛が、
今にも噛み付こうと涎を垂らしていたのだ。
蜘蛛の、大きく開いた口にBlueBulletGunを撃ち込んだ。
すると人間の頭の方が叫び声を上げた。
化物蜘蛛は「尻の頭の口」から出した糸を辿る事無く宙ずりになった。
錯乱した僕は道の中央まで這いずりながら、もう絶命していた蜘蛛に何度も引き金を引いた。
弾丸は尽く逸れたが、4発目にしてようやく命中し、そいつはドロドロになって溶けた。
( ;゚ω゚)「ああ、あああ、」
煙を立て液状化してゆく死骸に銃を向けたまま、僕はガタガタと震えた。
早くこの場から離れたい衝動に駆られたが、腰が抜けて立ち上がれない。
しかし地上の世界で安息を得るなど夢のような話。
また何処からか遠くで、人ならざる叫び声が摩天楼に木霊す。
ここから早く逃げなければ。だが、足が震えて言う事を聞かない。
震えた左手で震えた右手を掴み、BlueBulletGunの底を太腿に叩きつける。
- 112 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 01:00:01.40 ID:RCNoPGQe0
-
( ;゚ω゚)「動け、動け、動け、」
人の形をした何かが暗闇の中から走ってきた。
( ;゚ω゚)「動け!」
そいつに飛びつかれるのを転がって避け、着地時の硬直を狙って頭を吹き飛ばした。
首を失ってもそいつの胴体は地面を這い蹲って辺りを動き回り、
壁に激突しても尚突き進もうと手足を動かしていた。
その内、傷口からドロドロと脆くなった肉が流れ出て、動くのを止めた。
( ;゚ω゚)「――はっ! ははっ!」
大の字になり、摩天楼が囲う四角い空に向って笑った。
ようやく、まともに一人殺せたのだ。
言い様の無い達成感と高揚を、僕は味わったのだ。
- 115 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 01:01:26.06 ID:RCNoPGQe0
-
( ;゚ω゚)「やればできるじゃないかお! はははっ!」
妖しく輝くBlueBulletGunを、空に掲げる。
こいつさえあれば、奴等を殺せる。
先ほどの戦いで照準のクセも分かった……やれる、アイツを殺せる!
手足の震えが止まった。
力を確かめるよう、ゆっくりと身体を起こし、立ち上がる。
周囲を見回す。目も闇夜に慣れてきた。
(;^ω^)「あれは」
トラック。割れたガラスから力なく下がった腕は血が滴っている。
手首は繋がっている――しめた。僕は急いで車に駆け寄った。
銃を構え、慎重に運転席と運転手の様子を窺う……軍服だ。息が無い。完全に息絶えている。
指紋がはっきり浮かぶように汚れた彼の手を、自分の服で拭う。
ドアの外側に埋め込まれているロックセンサーに彼の手をかざす。
ロックが解除された。ドアを開き、まず彼の手をハンドルの中央に置いた。
轟音が静寂を掻き消す。
(;^ω^)「かかった! よし!」
急いで重たい彼の身体を車から引きずり出し、血だらけのシートに乗り込んだ。
ここからは父の見よう見まねだ。
僕は小さな時から車の運転をしてみたかったので、運転の際の父の一挙一動をよく覚えていた。
- 119 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 01:07:28.12 ID:RCNoPGQe0
- 操作パネルに従い、順を追ってタッチしてゆく。
ライトを点灯。ブレーキペダルを踏みながらサイドブレーキ解除をタッチ、
トランスミッション操作選択でオートマティックを押す。
恐る恐る、ブレーキから足を外す。ゆるりと車体が動いた。
ハンドルを回し、歩道から車道へと向きを変える。
車道に対し車を正面に向かせながらアクセルを踏む。
( ;゚ω゚)「う、上手いもんじゃないかお……イケる、イケるお!」
乗り物に対する勘が良かったらしく、車は思いのほか言う事をすんなり聞いてくれた。
それにもう、この世界では道路交通標識は意味を成さず、信号機は光を失って死んでいる。
無免許運転で補導する警察官だって、もういないのだ。
( ;゚ω゚)「……橋まで辿り着けるのかお……?」
だが、人と法と秩序が消えたのは奴等が現れたからだという事を、再三思い知る。
ハイビームが照らしたのは半壊したブロードウェイだった。
ネオンを失った劇場前に転がるトラックや装甲車。
運転手であろう見覚えのある軍服や作業服を相手に、異形が下卑た笑いを上げて踊っていた。
迂回も考えたが、きっとどこも同じような状況だっただろうと思った。
僕は覚悟してブロードウェイに突入した。
クラクションの代わりにBlueBulletGunを派手に鳴らして。
第32話「B00N-D1の回想−地上へ−」終
- 121 名前: ◆jVEgVW6U6s :2011/08/05(金) 01:10:49.48 ID:RCNoPGQe0
- 以上です。遅くからの投下にも関わらず、支援ありがとうございました&乙でした
VIPで投下するの5,6ヶ月ぶりだった
次は一週間後を予定してます。では、おやすみなさい。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/08/05(金) 00:22:07.39 ID:Q/OZmRayO
- 人物紹介んとこ停年じゃなくて享年じゃね?
退役したの?
- 00 名前:管理人:2011/08/05(金) 00:05:30.99 ID:G00dMoRn/nG
- >>62
というわけだったので修正しました。