第30話「ツン・ディレイクの回想 −復讐者−」
81 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:46:39 ID:O7pmKpCk0
リハビリというかウォーミングアップというか
とにかくそんなもんを兼ねて、短いですが書きあがったのでこっちで投下

82 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:47:24 ID:O7pmKpCk0
登場人物一覧

――― ホライゾン家 ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ、「システム・ディレイク」。
      2054年のウィルス・パンデミックで、両親をセカンドに殺害される。

( ФωФ)ロマネスク・ホライゾン:享年43歳。プリンストン市警官。
       2054年に死亡。フィレンクトから連絡を受けた彼は、ツンとブーンを連れて
       ニュージャージー・プリンストンからマンハッタン島へ渡ろうとする。
       しかし、道中で大型セカンドに遭遇し、命を落とす。
       フィレンクトからはブルーエネルギー兵器の雛形BlueBulletGunを贈られていた。

J( 'ー`)しカー・ホライゾン:享年41歳。プリンストン市警官。
     2054年に死亡。ブーンとツンを逃がす為に大型セカンドに立ち向かい、
     夫の後を追った。彼女の尊い犠牲心がツン・ディレイクに行動させる。
     プリンストンのガンマスターの異名を持つ、射撃の名手であった。

83 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:47:45 ID:O7pmKpCk0
――― ディレイク家 ―――

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
      2054年のパンデミックにおいては、ブーンの両親の意思を尊重しようと
     マンハッタンへの渡島を敢行した。

ξ(゚ー゚ξデレ・ディレイク:享年42歳。生物工学者。
     ツンの実母である彼女は、夫、フィレンクトと共にセントラル改装工事を進める一方、
     システム・ディレイクの完成と実現を危機的状況下で目指した。

(‘_L’)フィレンクト・ディレイク:享年46歳。生物工学者の権威的存在。
    後に絶大な戦闘能力を有するサイボーグシステム「ディレイク」の基礎は、
    彼自らがサイボーグ化し完成させられた。
    更に人類最後の砦たる『セントラル』の工事も指揮し、完成を間近にして死亡する。
    また、ブルーエネルギーの開発にも大きく関わるなど、セカンド対策の大部分に貢献。

84 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:49:39 ID:O7pmKpCk0

  LOG  ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破作戦 2054年 1月7日〜

 アメリカ政府による封鎖作戦は、ジョージ・ワシントン・ブリッジを
 広大なるハドソン川に落とした瞬間に完了したと言って過言ではないだろう。
 既に海上に移転していた政府機能は破壊されており、
 封鎖作戦を終えた事で、軍隊は完全独立した武力集団と化す事が出来たのだ。

 即ち、当時最も権限と行動力を有していたのはアメリカ軍残党である。
 数多に存在した閉鎖地区には各々政府要人がいただろうが、事実上の指揮者は軍人であった。
 マンハッタン・ニューヨークにおいては、『セントラル』防衛に務めていた
 荒巻・スカルチノフ大佐に指揮権が移ったのだ。

 後に、『セントラル』の中枢であるセントラル議会を衆愚政治に陥らせた張本人と
 一部に評される彼であるが、同時にパンデミック発生から2059年まで
 生存者と『セントラル』を防衛し続けてきた偉大なる功績者でもある。
 荒巻の行動原理が「自らの命と権力の死守」であったのかもしれないが、
 結果として彼の臆病でもあり勇敢な防衛指揮が『セントラル』を守る事に繋がったと言える。

 彼は実に冷酷であった。
 荒巻は人情に囚われる事無く、ジョージ・ワシントン・ブリッジ爆破を敢行し、
 渡島を試みる多くの生存者を見捨てたのだ。
 “マンハッタン島へのウィルス侵入を極力留める”という、尤もらしい建前を掲げて。

85 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:52:01 ID:O7pmKpCk0
 あるいは、荒巻は臆病故に無慈悲な政府の命令に従っただけかもしれない。
 しかしながら後に命令を遂行した功績者と讃えられるように、
 彼の行動が後の『セントラル』市民を救ったのも事実である。

 例えば、ジョージ・ワシントン・ブリッジの崩落を眼にして歓声を上げた者に罪を問う。
 これは正しい事であろうか?
 人道と宗教の両面から鑑みた場合、彼等は罰せられるべき悪とされるべきだろうが、
 未曾有の脅威に直面した人類は、そういった懲悪勧善という概念を捨てざるを得なかった。
 そして己の安全を手放しで喜んでいた。そして獰猛な化物達に怯えきっていた。
 生存者達が、ウィルスの渡島を防ごうとする荒巻を英雄視したのは、無理もない事であった。

 一方、その極限状態で倫理を捨てなかったフィレンクト・ディレイクだが、
 彼は意外にも荒巻を勇敢な遂行者と認めたのだ。
 フィレンクトは冷徹に事の成り行きを想定していた人物の1人であったのだ。

 荒巻・スカルチノフが、あるいは第三者が「ニュージャージーに残された生存者を救出する」、
 などという勇敢かつ人道的な救助作戦を立てたとしよう。
 マンハッタン島には更に多くのセカンドが流れ込み、
 『セントラル』の改装工事どころでは無くなっていただろう。そうフィレンクトは、考えた。

 フィレンクト・ディレイク、そして荒巻・スカルチノフ。

 勇敢なる行動を採った二人は英雄と称され、
 その名声は2059年現在でも多くの人々の記憶に輝かしく残されている。

86 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:52:28 ID:O7pmKpCk0

 第30話「ツン・ディレイクの回想 −復讐者−」


ξ;゚听)ξ「お、お母さん……?」

ξ(;−;ξ「ツン!」

 目覚めるなり、母が泣きじゃくってアタシを抱擁した。

 非現実的な逃走劇を演じた悪夢のような夜からの目覚めでは、
 こうして母に抱かれているのが、アタシには信じられなかった。
 呆然としていたアタシを、母は震えながら抱きしめながら
 母はロマネスクおじさんとカーおばさんへの感謝と謝罪の言葉を続けていた。

(  ω )「トーチャン……カーチャン……」

ξ;゚听)ξ「ブーン……」

 母の肩越しで、項垂れてぶつぶつと虚ろに呟くブーンの姿に気づく。
 そこでようやく現実に帰ったアタシだが、悪夢の続きを見ているような気分に陥る。
 事実、悪夢のように残酷な現実をアタシは目の当たりにしてきたのだ。

ξ;゚听)ξ「う、あ、あああっ………」

ξ;凵G)ξ「うわああああああああああああ!」

 そう、目の前でブーンのご両親は殺され、アタシ達だけが生き延びた。
 ……暖かいはずの母の抱擁が気持ち悪く感じた――これは自己嫌悪だ。
 喪失に暮れるブーンをよそに、母に泣きついていた自分に気づき、酷く嫌悪感を覚えたのだ。

 それでもアタシは、行き場の無い怒りと悲しみを吐き出すように、
 延々と母の胸の中で嗚咽を続けたのだった。

87 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:53:05 ID:O7pmKpCk0

 ……――泣き疲れ、気分は気だるくも吹っ切れていた。
 涙と鼻水で散々に汚した母の白衣から視線を移す。 

 四方形の白い部屋は実に閑散としていた。
 壁の隅には金属板の角を止めるビスが剥き出しで、
 継ぎ接ぎに広がる取って付けたような急ごしらえの部屋だとすぐに気づいた。

ξ(゚−゚ξ「ここは『セントラル』の第3階層に簡易的に設けられた病棟。
      感染者の治療を行っているわけじゃないわ。
      工事中の怪我だとかで運ばれる人ばかりで、死者はまだ出ていない」

 虚ろに部屋を見渡していると、母は抑揚の無い声で説明してくれた。
 じきにこの病棟も取り壊され、一貫した研究区画のほんの一部になる予定である事も。

 ここは、『セントラル』。『セントラル』に辿り着いたのだ。
 それだけを知りたく、特にこの部屋が何なのかという興味は元から無かった。
 「リンカーントンネルを抜けた貴方達は気絶し、軍がここまで運んでくれた」と、母は続けた。
 自分の置かれた状況を理解すると、ようやく安堵を覚えた。

 母との再会は奇跡的だと思った。
 悪夢の中の奇跡、光。摩天楼が宿していたのは無機質な明かりだけでなかった。
 川に隔たれたプリンストンから見えた、眩しいNYの光。
 あの輝かしい摩天楼の光を目指したのは何の為であったろうか?

88 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:53:38 ID:O7pmKpCk0
 それは両親との再会に他ならない。
 この広大な都市の中で母と出会え、アタシは父とも出会いたくなった。
 父に労いの言葉を掛けられたい。優しい言葉を聞かせて欲しい。
 頭でっかちの父の、痩せた腕に抱きしめられたかった。

ξ  )ξ「お父さんは? お父さんはどこ?」

 父もここにいる。この広大な施設の何処かで陣頭指揮を執っている。
 それをよく知っているであろう母に、アタシは脈絡なく尋ねた。

ξ(゚−゚ξ「この隣の区画にいるわ。部屋を出て、長いストリートを突き当たり右に。
      そこにあの人の研究室があるから」

 母の説明を聞いている内に、何故父は実の娘に会いに来ないのか、
 というような疑問が頭に浮かんだ。
 研究室、という言葉が、父に冷たい印象を持たした。
 お父さんはアタシに会う暇もなく、研究に没頭してるんだと、アタシは一人で思い込んだ。

89 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:54:00 ID:O7pmKpCk0

ξ(゚ー゚ξ「早く尋ねなさいな。会いたがっていたわよ?」

ξ  )ξ「……うん」

 母の言葉が嘘っぽく聞こえた。
 母がしてくれたような慰めを父には期待せず、会いに行こうとアタシは思った。

 だが、思い知る事になる。
 父の壮絶な決意と、アタシに会いに来なかった理由を――


ξ゚听)ξ「お母さん。ナイトウは何処に行ったの?」

 ナイトウがとっくに部屋を出て行ったのは知っていた。
 ただアタシは泣き喚いて、ナイトウが母に行き先を告げたかどうか知らなかった。
 それに知ろうとしなかったのだ。
 ナイトウと顔を合わすのが怖く思えて……会ったところで何と声を掛ければ良いか分からなかったから。

ξ(゚ー゚ξ「少し前にフィレンクトに会いに行ったけど」

ξ゚听)ξ「分かった。お父さんとナイトウに会ってくる」

 意を決し、アタシは父が待つ研究室へ向った。

90 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:54:22 ID:O7pmKpCk0

 初めて歩く『セントラル』内部。
 病棟で目覚めたアタシは、『セントラル』を病棟そのものの光景を想像していたのだが、


ξ;゚听)ξ「はあ……?」

 目の前には、大勢の人を一斉に歩かせられるストリートが広がっていた。

 ストリートは左右に様々なブティックや飲食店、
 CDショップに楽器屋――しかしその多くが取り壊された後で、残骸がそう物語る――
 を軒並みに揃えた高級ショッピングセンターという風貌を持ちながらも、
 幾つもの輸送車やリフターが忙しなく往来する、違和感を同時に併せ持っていた。

 戸惑うアタシの前に、天井に頭を擦りそうな建設用ドロイドが通過した。
 多くの資材を抱えた腕には「YOGA」とロゴされていたのを覚えている。


ダルシム「全ドロイドは急いで第一階層に迎うヨガ! 猶予は無いヨガ!!」


 ストリートの中心で、誰かが立体ホロを指先で操作しながら指示を飛ばしていた。
 横目で見た彼の表情は張り詰めていた。
 ストリートを歩いていると、他にも「猶予が」とか、「時間が」だとか、
 大声を上げて走り回る何人もの技術者とすれ違った。

91 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:55:30 ID:O7pmKpCk0

 物々しさに慣れ、ここが妙に明るい事に注目する。
 空気も綺麗なようだ。温度、湿度も程よく調整されている。
 インフラの整備は終えているのだろうと一瞬予想したが、アタシはここが元は何だったのかを思い出した。

ξ;゚听)ξ(そっか。元は完成間近のエンタメ施設を改装して……。
       だから完成度の高いインフラを既に実装していたのね)

 たかが一本のストリート。
 『セントラル』の極僅かな一部であるにも関わらず、歩けば歩くほど新たな発見があった。
 特に目を惹かれた一つは、ストリートの突き当りの手前に構えられたカフェテリア。
 背景には、左右に続く全面ガラス張りの別れ道。
 アタシはガラスの向こうに広がる光景に心を奪われ、思わず走り寄った。

ξ*゚听)ξ「わあッ」

 広漠とした空間の中軸を成す巨大エレベータ。
 機械仕掛けの内壁が描く美しき夜空。
 群青色のキャンバスを繊細に塗っては儚く消え去る、数多の花火。
 ニューヨークの何処よりも美しい夜景をバッグに聳えるホテルとカジノ。

ξ;゚听)ξ「テレビで建造工事の様子を見た事はあったけど……」

 数分、唖然として街並みを見下ろしたのを覚えている。
 まるでラスベガスの一部を切り抜いて設置したような、地下のギャンブリングリゾート。
 それが『セントラル』第4階層の元の姿であり、今日もその名残りを色濃く持っている。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:56:06 ID:O7pmKpCk0

ξ;゚听)ξ(はっ! 観光してる場合じゃない!)

 首を振って、優雅なネオンに奪われた心を取り戻す。

 父とナイトウに会わなくては。
 街など、後で幾らでも歩けるではないか。

 少しお金が掛かりそうな街だけど……営業なんてしてないか。
 でも、あの美しい街を歩けばナイトウの気も軽くなるかもしれないだろう。

 我ながらいいアイディアだ。
 行く人々に悟られぬよう口角が上がるのを堪えつつ、母の指示通り右の道を行った。
 この通りは内周を沿っていて、このまま一周する事も可能になっている。
 アタシはガラスの向こうで魅力的に輝く街と、相変わらず店が立ち並ぶ左手とに目を交互させた。

 程なくして店の姿が途絶え、先ほどの病室のような武骨な白壁が現れた。
 幾つか大きなドア――ゲートと言うべきだろうか――を発見し、
 中でも特に出入りの激しい部屋を見つけて、そこで立ち止まった。

 「フィレンクト・ディレイクの研究室」と描かれたパネルもある。
 父の部屋はここだ。

93 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:56:25 ID:O7pmKpCk0

ξ;゚听)ξ(お父さん……)

 あれほど会いたかったのに、アタシは緊張し始めたのだ。
 ここで、多くの技術者やお偉い方と話しているのだろうか、そう思った。

 日頃から大学の父の部屋に出入りしては、暇潰しと勉強を兼ねて
 サイバーウェアやソフトウェアの一つを作り、それを父は勿論、学生や来客に褒められていた。
 しかし、この先はアタシが慣れ親しんでいた世界とは全く異なるような気がし、
 入室するのが少し億劫になった。

 ドアのセンサーにタッチする事に戸惑った。
 そうして躊躇していると、不意にドアが開いたのだ。


ξ;゚听)ξ「ッ、ナイトウ……」


(  ω )「……ツン」

94 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:57:29 ID:O7pmKpCk0


ξ;゚听)ξ「ナイトウ、その、アタシ、」


(# ω )「黙れ! 放っておいてくれ!!」


ξ;゚听)ξ「あ……まっ……」

 彼の長い髪から垣間見えた目には怒りを孕んでいた。
 だが彼はその怒りの眼差しをアタシに向けること無く、無言で横を過ぎていった。

 アタシはナイトウに恨まれて当然の行動を取ったのだ。
 救えたかもしれないおばさんを見殺しにしたと思われて、仕方の無い事をしたのだ。
 幼馴染という間柄、長い年月を共にし作り上げた関係はもはや修復できないだろうと思った。
 アタシの両親も一緒に卓を囲み、他愛も無い会話をしながら食事をするなんて事は、
 二度と無いだろう。アタシはその時、そう覚悟した。

ξ; )ξ(お父さんとは、何を話したんだろう……)

 父と何を話したのか。父は何と答えたのか。
 それだけは知っておくべきだと、ブーンが後にした父の研究室へ恐る恐る入っていった。

95 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 04:59:32 ID:O7pmKpCk0

 その出入りから想像した通り、研究室は実に物々しい雰囲気に包まれていた。
 科学者や技術者風、それから政治家と思える男達が、
 デスクに埋め込まれたモニターに向って唾を飛ばし、何やら激しく物議を醸していた。
 
(#´Д`)「ジョージ・ワシントン・ブリッジの爆破は見送るべきだ!
      多くの物資が望めるニュージャージーとの架け橋を失うのは、大きな損失となるぞ!」

 そこにはモナーさんの姿もあった。

「尤もだが、同時に奴等をマンハッタンへ通す事になる!
 何の為に検問を敷いていると思っている!? ここにウィルスを蔓延させるつもりか!?
 そうなれば物資を調達する人員はおろか、技術者を失う事になるぞ!」

/ ,' 3「うむ。フィレンクト氏が仰った通り、今は目先の事だけを考えるべきだ。
    まずは第一階層の完成と防衛システムの起動を優先するのが得策だろう」

 そして、あの荒巻スカルチノフの姿も。

(#´Д`)「私が懸念しているのは武力整備についてだ!
      セントラルの改装工事は間もなく完了するが、
      ここの防衛システムだけで奴等の攻撃を防げるとは思えん!」

/ ,' 3「現段階で有効な戦力が無いから橋を落とすのだろう?
    十分な戦力を有するのは数年先になるのが見立てだ」

(#´Д`)「ニュージャージーへの道を失えばその計画も水泡へ帰すと言っている!
      政府機能が崩壊した今、封鎖作戦を実行する義務など無いのだぞ!?」

96 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:00:04 ID:O7pmKpCk0

(#´Д`)「フィレンクトの言い成りになって、本当に橋を落とすべきか再考する必要がある!
      まだ多くの人命を救える可能性も大いにあるはずだ!」

/ ,' 3「この状況下で可能性を追求するのは危険だ、モナー。今は穴倉で身を潜め、機を窺うべきだ。
   ジョージ・ワシントン・ブリッジを残せば、穴倉に多大なリスクを呼び込む事になるぞ」

(#´Д`)「分かっている! 分かっているが……見過ごせない!」

/ ,' 3「モナー……もはや感情や人情で動ける状況ではないのだ。
    フィレンクトも、私も、お前の気持ちはよく分かっているつもりだ。
    だが、やらなければならぬのだ。我々には一刻の猶予も無いのだからな」

(# Д )「くっ……ところん無力だな、私達は!」

97 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:00:40 ID:O7pmKpCk0

ξ;゚听)ξ(は、橋を落とす!? お父さんが提案したっていうの!?)

 我が耳を疑う発言だった。
 橋を落とし、トンネルを封じて『セントラル』を防衛するという「封鎖作戦」はあくまで政府の指示であり、
 モナーさんの言う通り政府機関を失った現状では、大統領のその発言も効力を失ったはずだ。
 
 しかし、“この穴倉”に到達した権力者の多くが人命を無視した封鎖作戦に乗り気であった。
 ウィルスの恐怖はアタシも身を持って体感した。
 皆が保身的になるのは無理もなかろう……。
 そして、武力という名の権力を有していた荒巻スカルチノフは、特にそうだったであろう。

ξ; )ξ(お父さんは、ニュージャージーの生存者を見殺しにしようとしているの……!?)

 アタシが疑念を持ったのは、そんな荒巻に対し父が同調しているであろうという事。
 「父に問い詰めねば。そして考えを改めさせなければ」。
 この時のアタシが愚直なまでに人命を尊重しようとしていた。

99 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:01:57 ID:O7pmKpCk0


  (  ω )


ξ;゚听)ξ「……ナイトウ……」

 父を探そうと、その場を後にしようとした時だ。
 ナイトウの暗い表情が脳裏を過ぎたのだ。

ξ; )ξ(……アタシも、おばさんを見殺しにしたじゃない……)

 そう。アタシも救えたかもしれない人命を見殺しにした張本人の一人であると気づき、
 父に説得できるような人間ではない事を思い出した。

 ナイトウは事の顛末を父に話しただろう。
 そう考えると、父に会わせる顔も無ければ、何を話すべきか言葉も見つからない。


( ´Д`)「……君はもしかして、フィレンクト氏の令嬢のツン君かね?」

 その場に立ち尽くして迷っていると、モナーさんがアタシの事に気づいた。

100 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:03:14 ID:O7pmKpCk0

ξ;゚听)ξ「あ、は、はい。そうです。ツン・ディレイクです」

( ´∀`)「やはりそうか。奥様に似てらっしゃるな。
      お父さんに会いに来たのだろう? お父さんは奥で待っているぞ」

 父と――正確にはフィレンクト派と言うべきだろう――対立しているにも関わらず、
 実の娘であるアタシに対して、モナーさんは隔てなく接してくれた。
 そもそもモナーさんは人命を優先して本気で白熱していたのだ。
 会議の傍に立っていたアタシは、モナーさんの味方になってやりたいとも思ったし。
 そのせいもあって、裏表の無い善良な大人、というのが第一印象であった。今現在もそう思う。

 軽く会釈し、モナーさんが手で示す通路へと歩む。
 狭く薄暗い通路にはアタシ以外の多くの足音が忙しなく響く。
 あらゆる対応に追われているであろう彼等の邪魔にならぬよう隅を行き、
 いよいよ父の待つ部屋へと辿り着いた。

 息を呑む。
 何より望んでいた父との対面なのに。
 犠牲を伴う作戦を指揮する父に対し、アタシは何をしてやれるだろう?
 何と声をかければよいのだろう?
 娘としてやれる事はないのか?――あれこれと考えを巡らせていた。

101 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:03:43 ID:O7pmKpCk0

ξ;゚听)ξ「あ」

 考えが纏まらぬ内に誰かが退出し、機械仕掛けの作業台に横たわる父と目が合う。


( _L゚)「ツンか。入りなさい」


ξ;゚听)ξ「お、お父さん……」


 ぎょろぎょろと動き回る赤い目、透明のカバーに覆われた左脳、
 体内に走り回る無数の配線、無機質に身体をいじり続けるドリルとカッター。
 
 施術半ばであるというのに、父の姿は変わり果てていた。
 アタシは冷たいものが身体に落ちるような感覚を覚えたが、
 なんとか足腰に力を入れ、父の元に駆け寄った。

ξ;凵G)ξ「お父さん……まさか、お父さんが、自分で自分を……」

( _L゚)「そうだ。今こそシステム・ディレイクを完成させなくてはならない」

102 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:04:09 ID:O7pmKpCk0

ξ;凵G)ξ「でも何でお父さんが!?」

( _L゚)「私自身でモニタリングすれば完成も早かろう。
    まだ理論の域を出ない情報処理システムを誰かに施術する訳にもいかんしな……」

( _L゚)「ホライゾン君は頑なに、私に改造を頼み込んだのだがね……」

ξ;凵G)ξ「ナイトウが!?」

( _L゚)「ああ。私の代わりに、今すぐ僕を改造しろとな。
    ロマネスクとカーさんの仇を討ちたいのだと」

( _L゚)「経緯は全て彼に聞かせてもらったよ。大変だったね、ツン」

 完成した右腕がアタシの頭を優しく撫でる。
 髪を通り越し、頭が冷たい感覚に覆われるのを感じて、
 父が人間の体温を失ったのだと実感した。

103 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:04:32 ID:O7pmKpCk0

 父の手を取る。
 そして、父に許しを乞った。


ξ;凵G)ξ「ごめんなさい……ごめんなさい……ああするしかなかったの……。
       ごめんなさい、アタシ、おばさんを犠牲にして……」


( _L゚)「お前は、おばさんに託されたホライゾン君をここに連れてこれたんだ。
    よくやった……胸を張りなさい」


 表情をまだ上手く作れない父は、ぎこちない笑顔を浮かべた。
 だが、まだ右目は生身のそれで、いつもの、アタシがよく知る穏やかな物であった。

 大声で泣きじゃくるアタシを、父は機械仕掛けの手で抱き寄せてくれたのだった――――。

104 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:05:07 ID:O7pmKpCk0

ξ゚听)ξ「お父さん、何でシステム・ディレイクになる必要が?」

 落ち着きを取り戻し、アタシは率直な疑問をぶつけていく事にした。
 橋を落とす事が決定されたようで、父も多忙から一時的に解放されたので、
 アタシとの時間を少しだけ作ってくれたのだ。

 父との会話の多くは生物工学に関する物ばかりだった。
 食卓でも、家族とのドライブの時でも。アタシにとって、それは楽しい一時であった。
 しかし、父の研究が実戦配備となると実例は意外にも少なく、
 特に今度はセカンドとの戦いに向けての研究開発だ。
 アタシはいつもの楽しさを感じず、緊張感を持って父と会話をした。

( _L゚)「そうだな……2点ある」

( _L゚)「奴等の生命反応を停止させるには、より火力のある銃器が必要となる。
    お前は既にプロトタイプを見ていると思うが、
    あのような生身の人間でも扱えるような物ではなく……そう、銃ではなく砲が必要となるからな」

( _L゚)「簡潔に説明すると、奴等の生命を絶つには体内のウィルスを根絶しなければならない。
    大火に対し少量の水を持っても鎮火する事は出来んだろう?
    少しの抗体を撃ち込んだところでウィルスは再び増殖すると私は予想している」

105 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:05:45 ID:O7pmKpCk0

( _L゚)「2点目。奴等の中には非生物的な速度を持つ者も存在する。
    そんな奴等に対応する為に、最高の駆動系統と情報処理システムが不可欠となる。
    故にシステム・ディレイクが最も有効な対抗手段となると踏んだのだ……現状ではな」

( _L゚)「ただコストが掛かりすぎる。資材を望めない現状で、
    常に最高の品質で量産する事は叶わないだろうし、これが最適とは程遠いだろう」

 「他に何か有効な対抗手段があればよいのだが」

 父は悩ましく息を吐いた。

ξ゚听)ξ「抗体を雨のように降らしたら?
      そのくらいの設備を得る資材はあるでしょう?」

( _L゚)「雨を降らした所では、奴等に軽度の火傷を負わすくらいだろう。
    奴等の頑強な肉体を貫かなければ、ウィルスは駆除できない」

( _L゚)「強力なブルーエネルギー兵器で街を一掃する手も考えてはいるが、
    やはり資材不足の今、それをやる事は叶わん。
    ブルーエネルギーの生産設備も作らねばならんし……課題は多いよ」

106 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:06:03 ID:O7pmKpCk0

( _L゚)「私はジョージ・ワシントン・ブリッジを落とす事に賛同しているが、
    何も先の事を考えていない訳ではないんだ、ツン。
    システム・ディレイクは危険な外界を探索する一つの手段とも成り得るし、
    そうなれば物資を発見できるし、現場までのルートを自ら確保する事だってできる」

 父のその期待は、数年を経て現実の物となっている。
 ナイトウ――B00N-D1の仕事の多くの大半が物資発見とルート確保であったし、
 今現在チーム・ディレイクで画作しているニュージャージー侵入の作戦も、まさにそれである。

ξ゚ー゚)ξ「お父さん一人でそこまで出来るの?
      お父さんだって偉い人たちと会議するんでしょ?」

( _L゚)「徐々にシステム・ディレイクに転化してくれる人を募っていくさ」

( _L゚)「だけど、ホライゾン君をサイボーグ化するつもりはないよ」

ξ;゚听)ξ「そりゃあ、まあ……嫌よ、アタシだって。
       でも何で、そう意固地になって?」

107 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:07:17 ID:O7pmKpCk0

( _L゚)「深い怒りと悲しみに囚われた彼が力を得るのが怖い。
    命を顧みずに奴等を追跡し、命を落としかねん……」

ξ;゚听)ξ「確かに……あいつ、もう普通じゃないものね……」


ξ;゚听)ξ「――お父さん! BlueBulletGun! あいつが持ったまま……!!」


(; _L゚)「何だって!? 今すぐに取り上げなさい! 何をしでかすか分からないぞ!」


ξ;゚听)ξ「わ、分かった! でも何処に行ったのか……」

(; _L゚)「……『セントラル』から地上へ出入り出来るのは第一階層だけだ 。
    上階に昇る為に中央エレベーターに向った可能性が高い」

ξ;゚听)ξ「中央エレベーターね!」


 ――気づくのが遅かった……気づける事だったというのに!
 ナイトウは、奴等を殺害できる武器を手にしていたのだ。おばさんの形見であるBlueBulletGunを。
 このまま放っておけば、ナイトウは無意味に命を落としてしまう。
 そうなれば、アタシはもはや生きていけないだろう――更なる罪悪に押し潰されてしまって。

ξ; )ξ(アイツも……アタシも! 何やってんのよ!!)

 ナイトウを死なせない事。
 それがご両親に託された使命なのだと再び戒め、暴走したナイトウの後を追った。


                     第30話「ツン・ディレイクの回想 −復讐者−」終

108 名前: ◆jVEgVW6U6s:2011/07/22(金) 05:11:08 ID:O7pmKpCk0

                 また書けたら来るお。いつになるかわからんけど。なんだかんだで結末が見たい

            ィ'ト―-イ、             /\  /ヽ
             以`゚益゚以         ヽ、 lヽ'  ` ´   \/l
          ,ノ      ヽ、_,,,      ヽ `'          /
       /´`''" '"´``Y'""``'j   ヽ     |     _ノ ̄/   l
      { ,ノ' i| ,. ,、 ,,|,,. 、_/´ ,-,,.;;l     .l   / ̄  /   |
      '、 ヾ ,`''-‐‐'''" ̄_{ ,ノi,、;;;ノ      l   ̄/ /     |
       ヽ、,  ,.- ,.,'/`''`,,_ ,,/     ヽ.    /__/     .|
        `''ゞ-‐'" `'ヽ、,,、,、,,r'       |.            レ

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