内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第24話「激突」
2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:39:30.19 ID:7Gf019+K0
            ∩_
           〈〈〈 ヽ
          〈⊃  }
     /ニYニヽ  |   |
    /( ゚ )( ゚ )ヽ !   !
   /::::⌒`´⌒::::\  /
  | ,-)___(-、|/  こいつ最高にでっていうwwwwwwww
  | l   |-┬-|  l |
   \   `ー'´   /   ってことで24話投下します。
  / __     |    今回はオマケなしで・・・
  (___)   /   まとめは内藤エスカルゴさん ttp://www.geocities.jp/local_boon/

4 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:41:22.21 ID:7Gf019+K0
第24話「激突」


( ><)「出ない、ですね」

( ゚∀゚)「ああ」

ジョルジュとビロードは、ドクオから送られたマップを頼りに、
ブーンの部屋の前まで来ていた。
しかし、インターホンを何度鳴らそうが応答は無い。

とはいえ、居留守を使われている可能性も十分にある。
ジョルジュは小さく舌を鳴らし、

( ゚∀゚)「確認するまで他の場所を探しにも行けねえ。
     少し強引だが、仕方ない。ビロード、下がってろ……もっとだ」

バックパックに手を突っ込んだ。
取り出したのは、鋭い銀色を放つ拳銃である。

(;><)「ど、どうするんですか?」

( ゚∀゚)「ぶっ壊すんだ。大きくなった時にマネすんなよ」

ドアロックに3発の弾丸を撃ち込むと、バチバチと音を立てて煙を上げた。
ぼん、と小さく爆発した後、ドアは一人でに開いた。
「おおお!」と感嘆しているビロードを無視し、ジョルジュは家主に何も告げず上がりこむ。
ビロードは慌てて後を追った。

5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:43:19.62 ID:7Gf019+K0
部屋は一寸先も見えないほど、真っ暗である。
思わずビロードがジョルジュの腕を掴もうとするが、突然ライトアップされて肩を弾ませた。
夜目の利くジョルジュが、電灯のスイッチを入れたのだ。

しかし、

( ><)「ブーン……いないんです」

部屋には誰もいない。
特に隠れられそうなスペースなども見当たらない。


( ゚∀゚)「……どこに行きやがった……」

アテが外れると、ジョルジュは焦りを感じ始めた。
三千ものセカンドに加え、あのギコ・アモットが相手なのだ。

大量産型のAIロボやパワードスーツなどは大部隊であるが、
それらは対少数の状況でやっと力を発揮すると、ジョルジュは耳にしている。
頼みの綱であるバトルスーツは2機のみ……全滅は十分に有り得る。

(;゚∀゚)「……クソッ!」

ジョルジュは拳を壁に突きたてた。

  __

8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:47:08.55 ID:7Gf019+K0



(  〓 )「ごぼっ……あ、が……」

女兵士のフェイスカバーの亀裂から鮮血と呻き声が漏れ出す。
腹を縦に裂けられた彼女は、体の中から臓器が零れ落ちないように両手で懸命に押えていた。
しかし、努力の甲斐もなく、長い腸がびちゃびちゃと音を立てて地面を汚す。

また、ある女兵士は傷口を押える事も叶わなかった。
ギコに四肢を切断され、達磨のような姿に変えられた彼女は、
血を撒き散らして地面をぐねぐねと転げ回っているばかりである。

約100人で構成されたクローン兵隊全軍で、ギコに挑んだ結果。
その数を、5人にまで減らされてしまったのだ。

勝負が決したとも言える状況だ。
だがしかし、彼女達は臆する事無く、ギコに攻め続けていた。

(  〓 )「ッ!」

絶望すべき状況の中、奮起する叫び声もあげず、無機質に。
空から地へ滑走してくるギコを狙って、トリガーを何度も引く。

(//‰゚) 《フハハハハハハハ!!》

ギコは容易く蒼い光線を潜り、クローン兵士の間を抜けてゆく。
手の爪で喉を掻き、足の爪で強引に頭を引っ張り上げ、
更に1つ、2つ、3つと、クローン兵士の首を空に跳ね上げる。

10 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:51:35.74 ID:7Gf019+K0

(//‰゚) 《お前等モ人間ではナいよウだが、脆すギる。コノ程度か、『セントラル』》

呟き、ギコは手足の鉤爪に持った生首を握りつぶした。
爪を振り、こびりつく脳漿と髪の毛を落とす。

;:∵ -゚)「…………」

ヘルメットを割られた生首が一つ、地面を転がっている。
髪と肌が持つ元々の美しさが分からない程、割れた頭から血と肉が吹いていた。

ギコはその首を踏みつけ、赤と黒の内容物を派手に散らした。

(  〓 )「オオオオオオオオッ!!」

最後の一人が声を上げて銃を撃った。
瞬く間に帯状の光は一文字に放射され、ギコの胴体を両断するかに見えたが、
ギコの動きはそれ以上に軽捷であった。

地を蹴ってクローン兵士の頭上を華麗に舞うと、ギコは一瞬にして彼女の背後に。
右の爪を斜に振り下ろして、頭部を3つに斬り分けるのだった。



(;・∀・)「まさか……これほどの差とは……」

モララーは背を丸めてデスクに伏し、全身を震わせた。
隣に立つハインリッヒは、悔しがっているんだと同情する。

伏しているのに加え、彼の長い髪が、表情をちらりとも見せようとしない。

13 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:54:33.35 ID:7Gf019+K0
クローン兵士の凄惨な死体で埋め尽くされた通り、その上空。
2機のバトルスーツは、夥しい怪竜を相手に奮闘していた。


ガイル「ウォオオオオオァアアアッ!!」

両手の甲から伸ばした刃を振り、周囲の“でっていう”を蹴散らそうとする。
何匹かは鋭敏な刃の動きに巻き込まれ、首を落としたり腹を裂かれたりしたが、
大多数は毛筋ほどの傷を負う事無く回避している。

《でっていう! でっていう!!》

それどころか刃を掻い潜り、機体に喰らいついた。
装甲を容易く牙で貫き、強靭な顎を持って強引に装甲を剥がしてゆく。
ガイル機は、装甲が残る部分の方が少なくなっていた。

春麗「く……数が多すぎるわ!」

春麗機も、同様であった。
2機では到底、手に負えない数のセカンドに蹂躙され、
バトルスーツは急速に無力化の一途を辿っていた。


(//‰゚) 《次はデカブツ、貴様等ダ》

ギコは春麗機を見据え、屍の山から跳躍した。

14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 17:57:24.20 ID:7Gf019+K0
春麗機のカメラは“でっていう”に覆い尽くされ、
ギコの接近を捉えることが出来ていない。

ガイル『春麗!!』

春麗「ッ!?」

ガイルの声が耳を突いたかと思えば。
右脚部より伝わる強い衝撃が、何度も春麗を襲った。


(//‰゚) 《チィッ!》

春麗機を襲った連続的な衝撃は、ギコが引き起こしたものではない。
脚部に張り付くようにしていたギコを狙った、ガイルの射撃だった。
散弾して目標を捉えるレーザー攻撃が、春麗機の右脚部ごとギコを攻撃したのだ。

しかし、ギコの飛行速度はレーザーを上回り、容易く被弾を免れるのだった。

《でっていうwwwwwwwwwwwwwww》

援護射撃により硬直したガイル機、被弾によってバランスを欠いた春麗機を、
“でっていう”は見逃さなかった。
数百はいるであろう群れは一斉に両機を包み込み、装甲をべりべりと剥がし始める。
露になった駆動部分、兵器を尖った口で引っ張り、分解してゆく。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:00:19.70 ID:7Gf019+K0

ガイル「うおおおおおおおおお!?」

春麗「きゃあああああああああ!?」

メインカメラを司る頭部も、コクピットを守る胸部も破壊される。
両機の、コクピット内部のメインモニターに、ヒビが生じた。

ガイル「脱出だ! 春麗! 脱出するぞ!!」

春麗「う……了解!!」

2人は座席に備え付けられたレバーを引き上げた。
コクピット部の床や壁、座席が変形し、パイロットを守る長方形状の脱出ポッドに変貌する。
それと同時、怪竜の攻撃に耐え切れず、機体の随所が爆発を起こし始めた。

バトルスーツの背からポッドが射出される。
ポッドは、まとわりつく“でっていう”を跳ね飛ばし、
そしてバトルスーツの爆発に後押しされ、『セントラル』の方角に向けて飛んでいった。


(//‰゚) 《逃しタか……まぁイイ。機体は破壊しタ。
      それに、奴等の逃げル先ハ決マッている》

(//‰゚) 《サあ、次ハ『セントラル』だ》

  __

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:04:10.95 ID:7Gf019+K0


/;,' 3「……馬鹿な……」

前線部隊を滅ぼしたギコらセカンドに、荒巻は唖然としていた。
『セントラル』の総力を信じていた荒巻には、信じ難い戦況であった。


/;,' 3「第二防衛ラインをスタジアム付近まで上げろ……!
    残存する『セントラル』の兵数は……!?」

「前線部隊はほぼ壊滅! 第2防衛ラインには300が待機!!
 戦闘用ドロイド“C・PP”とチーム・KOSMのパワードスーツ隊、
 チーム・ダルシムのAIサイボーグ部隊がおよそ100ずつ!」

/;,' 3「ぬ……くう……」

残るは、前線で好きなように蹂躙されたチームばかりだった。
まるで頼りにならないラインナップに、苛立った荒巻は唇を強く噛む。


/;,' 3「クローン兵は!?」

( ・∀・)「……全滅、予備はございません」

/;,' 3「100人でギコにあたって全滅とは!
    大口叩いておいて所詮はその程度だったか!」

( ・∀・)「……返す言葉もございません」

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:06:38.12 ID:7Gf019+K0


(;´Д`)「迎撃システムを起動!」

「了解! 迎撃システム起動せよ! 第一階層に作業者はいるか!?」

「退避済みです! 迎撃システム、起動準備に入ります!
 起動完了まで約2分! 敵勢力、第二防衛ライン衝突までおよそ4分!」


(;・∀・)「焼け石に水だろうな……。
      『セントラル』に侵入されるような事があれば、防げんだろう」

(;´Д`)「一体どうすれば……」


从;゚∀从「……ブーンは何やってんだ!?
      ジョルジュはまだ見つけられねえのかよ!」

喧噪の中、ハインリッヒの声が皆の耳を突いた。
すると、それまで焦燥感で満たされていた喧噪は、
焦燥とは異なる質の物へと変わっていった。

「そうだ、ブーンがいるじゃないか!」

「ブーンなら……ブーンなら何とかしてくれるかも……!」

21 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:08:48.40 ID:7Gf019+K0


从;゚∀从「議会長! ツン・ディレイクを釈放してください!
      ツンとジョルジュ・ジグラードなら彼を説得できるかもしれません!
      そして『セントラル』を挙げてB00N-D1捜索にあたるのです!」

/;,' 3「……」

(;´Д`)「議会長。もはや、対抗できる戦力はB00N-D1を置いて他におりませんぞ」

( ・∀・)「議会長、私も目測を誤っておりました。
      敵は、特にギコ・アモットは手強い。
      奴と互角に戦ったB00N-D1ならば、勝機を見出せるやもしれません」


/;,' 3「……いいだろう。それに、敵の狙いはB00N-D1だ。
    彼を差し出せば『セントラル』に被害は及ばないかもしれん」

/;,' 3「市警に連絡しろ。ツン・ディレイクと話がしたい」


从;゚∀从(耄碌したクソジジイめ……)

お前もボストンの記録は見ただろう?
ハインリッヒはそう思ったが、口に出そうとはしなかった。

先ほどの「彼を差し出せば」という発言。
『セントラル』の指導者であり、最大の責任者である荒巻の立場からすれば、
市民と『セントラル』を守ろうとする姿勢と捉えられるからだ。

25 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:12:20.89 ID:7Gf019+K0
ふいに、司令部後方の出入り口が開いた。
開いた扉を抜けて入ってきたのは、


ξ#゚听)ξ「お呼びですか、議会長」


市警に留置されているはずのツン・ディレイクだった。
声は棘にまみれ、顔に怒りが張り付いている。


从;゚∀从「つ、ツンちゃん! 何でここに!?」

荒巻が聞きたかった事を、ハインリッヒが代わって聞いた。


ξ#゚ー゚)ξ「このオッチャン達は、ブーンが必要って分かってくれてたからね!
        アタシを留置所に連れてくなって、考えられないってさ」

背後に親指を向ける。
紹介されたのは、荒巻の命でツンを拘束した警察官4人だった。
4人とも、荒巻に咎められるのではないかと、怯えた表情を浮かべている。

/;,' 3「ツン・ディレイク、B00N-D1は、」

ξ#゚听)ξ「アンタはちょっと黙ってなさい!!」

ξ゚听)ξ「それで、オッチャン達。ブーンの居何処はまだ分からない?」

「いや、見つかったそうだ!」

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:15:18.35 ID:7Gf019+K0


何か巨大な物が蠢いているような。
そんな低い音が全階層を響かせながら、『セントラル』全体が震動する。
防衛システム起動に伴う、第一階層の変形開始である。

「な、なんだ!?」

「何だ!? 地震か!?」

「こんなデカい地震なんて有りえるかぁ!?」

警報を無視して悠長に立ち話を続けていた市民も、
流石にこれを無視するのは出来なかった。

『迎撃システムが起動中です。
 街に残っている市民は、ただちに自宅へ避難してください。
 なお、次の放送があるまで、自宅から離れないようお願いします。繰り返します……』


警告の直後、まるで封を切ったかのように、
市民の恐怖が街中に発散された。

「や、やべえ! やべえよ!!
 きっとセカンドがここまで来ているんだ!!」

「そんな……い、いやあああああああああああ!!」

29 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:18:40.67 ID:7Gf019+K0

「に、逃げろ! のんきに煙草吸ってる場合じゃねえ!!」

「逃げるっつったって何処に逃げるんだよ!?」

「奴等に見つからないように家に篭るしかねえだろ!」


悲鳴混じりの喧噪は、そう長続きしなかった。
家の外にいる者の方がずっと少なく、アクセサーも混み合わなかったので、
ジョルジュの想像よりも、市民の避難は遥かにスムーズだった。

( ><)「僕達しか居ないんです」

( ゚∀゚)「壮観だな。ブーン探すのもラクそうだ」

誰もいなくなった街を眺め、2人は言った。

ジョルジュとビロードは当てもなく市内を探索していた。
アクセサーで第5階層中を走り回っているのだが、行くところ全てブーンの影は無い。
人に尋ねても目撃情報を得られなかった。

( ゚∀゚)「ブーン……何処にいやがる……」

ジョルジュが呟いた時だった。
ピピピピピピ、ピピピピピピ……

拘束衣の左手首に付いている携帯端末が鳴り出す。
液晶にはツン・ディレイクと表示されている。

30 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:21:20.56 ID:7Gf019+K0

すかさずキーを押し、ホログラムを投影する。

( ゚∀゚)「議会長殿とは決着がついたか?」

ξ゚听)ξ『いえ! でも貴方が言ってた通り、下らない話だったわ!
       それより、ブーンの居何処が分かったの!
       市警の協力で、街中の監視カメラでブーンを発見してもらった!』

( ゚∀゚)「――ッ、何処に居る?」

ξ゚听)ξ『第4階層! 地図を送るわ!』

ホロの内容が切り替わる。

ツンの顔に変わり、第4階層の地図が映し出された。
地図には、赤い二重丸でマークされた箇所がある。
マークの横には、第4階層第5公園と記されている。

( ゚∀゚)「ビロード、ブーンに会いに行くぞ」

ジョルジュはアクセサーの行き先を変える。
アクセサーは階層中央に聳えるエレベータに向って、走り始めた。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:23:09.12 ID:7Gf019+K0
他に利用者がおらず、アクセサーは止まる事無く『セントラル』を走り抜け、
5分足らずで目的地へジョルジュ達を運んだ。

無人のアクセサー乗り場を抜け、やはり足音一つも無い第4階層の街を走る2人。
たまに地図を確認し、当該の公園までの道を外さずに行く。
気づけば、第1階層から伝わる震動が途絶えていた。


この曲がり角を曲がれば、ブーンのいる公園だ。
そう思うとジョルジュは、言いも知れぬ感情で胸を一杯にした。
怒りか、緊張か、はたまた喜びなのか。

言いたいことが多すぎて、感情を有耶無耶にしているのかもしれない。
ともかく、言うべき事は分かっている。


ビロードが居るにも拘らず、足が速まる。



( ゚∀゚)「……黄昏のヒーロー、ってか」


公園を入って一番奥のベンチ。
そこでただ独り、俯き、微動だにしないブーンの姿があった。

33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:25:42.52 ID:7Gf019+K0
公園の門に近づいてからは、足音を殺し、息も潜めた。
ジョルジュを無意識にそうさせたのは、ブーンの機械の目と耳の存在だ。
ビロードも、ブーンの姿を確認するや否や、ジョルジュと同じように歩いた。

しかしながら、距離が近い。
否応なく、気配がブーンの頭に入力されてしまう事を、ジョルジュは何となく理解していた。

だが、気配の主が誰なのか、それについてはブーンは知る術を所持していないらしい。
無言の姿勢を崩そうとせずに、ひたすらお互いの無視を祈っているかのようである。
ブーンと2メートルの距離まで近づいても、だ。


ブーンは顔を上げようとしない。
待ちきれず、ジョルジュは口を開いた。


( ゚∀゚)「……よう」

呟いたような、小さな声。
ブーンは体全体を跳ねらせて驚いた。

(  ω )「ジョルジュ、隊長……」

だが、俯いたままだ。

35 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:30:21.27 ID:7Gf019+K0
会話は、ジョルジュから静かに始められた。
両者の間を埋める緊張感に当てられ、ビロードもまた緊張を禁じえなかった

( ゚∀゚)「どうした……何故、戦いに行かない?
     迎撃システムまで起動したんだ、敵が近くまで来ているのは気づいたろう?」

穏やかな口調。しかし、声は低い。

(  ω )「僕はもう関係ないんですお。
      人を殺めた罪を贖わなければならないんですお」

髪一筋動かそうとせず、ブーンは黙々と喋った。


( ゚∀゚)「そうしてただ縮こまってるだけで、罪を贖えるとは思わないけどな」

(  ω )「貴方には関係ないでしょう、ジョルジュ隊長」

(  ω )「僕には人を守る力が無いお。
      僕が行ったところで何も変わらない。
      それに、僕以外にも戦える人は大勢、」

( ゚∀゚)「いいか、ブーン。よく聞け。
     『セントラル』を襲う数千のセカンドは、ボストンから来ているんだ」

ジョルジュが割って入る。
僅かに揺れ動いたブーンの髪は、動揺を弁しているのだろう。

36 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:32:28.50 ID:7Gf019+K0

( ゚∀゚)「何故、ニューヨーク『セントラル』に向って来たか。
     言わなくとも想像が出来るだろう?」

(; ω )「まさか……」

( ゚∀゚)「ああ。そのまさかだ。ギコ・アモットは生きていた。
     ギコ・アモットがお前を殺しに来た」

(; ω )「そんな……嘘だお、ギコさんは死んだはずだお……」

やっとブーンは項垂れるのをやめ、ジョルジュの面と向かって話す。
何を馬鹿なことを言っているんだと、そんな表情を浮かべるブーンに、

( ><)「生きてるんです。僕も見たんです」

(; ω )「ビロード……」

ビロードが、毅然と言った。
子供ながら、声色が厳しくなるように喉を絞っている。

( ゚∀゚)「ギコはボストンで宣言した通り、お前と『セントラル』の人間を殺すつもりだ。
     奴は『セントラル』の戦力を上回る規模のセカンドを引きつれ、
     復讐を果たす為に来たんだ」

( ゚∀゚)「ブーン、これでもお前に関係が無いと言えるのか?」

(; ω )「……でも、僕には――」

(#゚∀゚)「いい加減にしろ……!」

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:34:28.94 ID:7Gf019+K0

(#゚∀゚)「お前の為にどれだけの人間が死ぬと思ってやがんだ!?
      ガイルは迷わずに戦場に出て行った! 戦える奴は皆戦いに行ったんだ!」

(; ω )「……僕の、所為で? なら、やっぱり僕が殺されに――」

(#゚∀゚)「忘れたか? お前が死んだ所でギコは人間を皆殺しにする。
      奴の復讐はそれで果たされるんだ!」


(; ω )「あ……」


(#゚∀゚)「今頃、大勢の人間が戦って死んでいるはずだ!
     恐らくガイルも殺されるだろう」

(; ω )「ガイルさんが……」


( ゚∀゚)「……ギコは普通のセカンドじゃねえ。他にも手強いセカンドは大勢いるだろう。
     奴等とまともに戦えるのはお前しかいない。
     頼む。皆と……『セントラル』を守ってくれ」

柔らかな口調と声色。
しかし、どこか縋りつくような色もある。

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:37:18.64 ID:7Gf019+K0


(  ω )「…………ジョルジュ隊長」

( ゚∀゚)「……ギコとケリを付けて来い。今度こそ倒すんだ」

(  ω )「でも、僕は……」


( ゚∀゚)「復讐に燃えるのと、誰かを守る為に戦うのと」


( ゚∀゚)「……どっちが正しいか、皆分かっている。シーケルトだって分かってるはずだ」

(; ω )「――ッ!」


( ゚∀゚)「暴走したギコを止めろ。
    それが、今のお前に最もふさわしい罪滅ぼしなんだろうな……」


(; ω )「ジョルジュ、隊長……」


その場も、街の深い静寂に溶け込んだ。

42 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:39:40.95 ID:7Gf019+K0

「僕一人が、」

沈黙が絶たれる。


(  ω )「僕一人が行った所で勝てるのかどうか分かりませんお……でも」

言葉を切って、立ち上がり、


(  ω )「でも! っやって、みますお!命懸けで、皆を、守りますお!!」


撓ませていた身体をピンと張り、くしゃくしゃの泣き顔をジョルジュに向けた。


機械の目に涙は流れないが、ブーンは確かに泣いている。
止め処なく、嗚咽が溢れているのだから。


( ゚∀゚)「……頼む」

( ><)「ブーン!」

ジョルジュとビロードは、にっこりと笑った。

45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:43:06.96 ID:7Gf019+K0


( ゚∀゚)「ビロード、ブーンに渡す物があるんじゃないか?」

( ><)「はいなんです!!
      ブーン、しゃがんで欲しいんです!!」


(  ω )「何だおビロード?」

顔を顰めてながらも、言われるがままにビロードの前にしゃがみ込む。
ビロードはブーンの後ろに回り、自分のズボンのポケットに手を突っ込んだ。


( ><)「勇気100倍なんです!!」

小さな手が握るのは、くたびれた黒いバンダナだった。

49 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:45:53.68 ID:7Gf019+K0
ビロードは、ブーンの髪を手で上げ、額にバンダナを押し当てる。
端々を自分の手前に引き、ブーンの頭の後ろで力一杯、結んでやった。


(  ω )「これ……オッサンの……」


( ><)「これでスネークも一緒なんです」

(  ω )「……ビロード……」

ブーンには見せていないが、ビロードは寂しげな笑顔を浮かべていた。
目にはうっすらと、涙を溜めて。



(;><)「僕は、ブーンは悪くないと思ってます……だから!」


(  ω )「分かってるおビロード……ありがとうだお!」

ブーンは立ち上がり、ビロードの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:48:37.57 ID:7Gf019+K0


(  ω )「ジョルジュ隊長……貴方がいなかったら、
      僕は立ち直る事が出来ませんでしたお」

( ゚∀゚)「うるせえ。さっさと行け」



( ^ω^)「……行って来ますお!」



そう残し、部屋を飛び出て行ったブーン。
一切の迷いは、感じられなかった。


走ってゆくブーンの背を見つめ、ジョルジュは思う。

( ゚∀゚)(……ったく、とンだヒーローだ。生きて帰って来いよ)



  ___

51 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:50:50.15 ID:7Gf019+K0
携帯端末の電源を入れ、起動させる。
焦りからか、乱雑な操作で電話帳を開いてドクオのメモリにタッチした。

一秒と少しのコール音の後、スピーカーから割れんばかりの声が流れた。


『も、もも、ももももしもしブーンなのかああ――!?』

( ^ω^)「ドクオ、出撃するお! すぐに装備を用意して欲しいお!」


『おま、てめえ、ちくしょうバーロー……遅えんだよ!!
 で、でも、アタシは絶対に立ち直るって信じてたんだからっ!』

( ^ω^)「すまなかったお……」

『俺も悪かった……いや、積もる話は後にしよう」


ドクオは「それより」と思考の切り替えを促し、

『すぐにドッグに着てくれ! こっちはとっくに準備できてらあ!!』

( ^ω^)「着てくれって、ドクオもドッグにいるのかお?」

『ああ! ちょっと簡単にレクチャーしておきたい兵器がある!
 まぁ楽しみにしといてくれ!!』

54 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:54:00.28 ID:7Gf019+K0
レクチャーしておきたい兵器?
頭を捻っても、ブーンには検討が付かなかった。


とにかく、今は出撃の為にドッグへ向わなければ。

( ^ω^)「悠長にドライブしている暇なんか無いお!!」

アクセサー乗り場に到着したブーンは、
アクセサーに目もくれてやらず、それが走るべき道路に飛び出した。


アクセサーとは比較にならない速度で駆け抜けるブーン。
数十秒で中央エレベータの前に辿り着くと、思い切り跳躍した。

エレベータの中程で一蹴りし、途切れかけた推進力を取り戻す。
瞬く間に階層間を抜け、第3階層に躍り出ると、
今度はエレベータを真横に蹴って、道路に着地した。


足を絶対に止めようとせず、全速力で走り続ける。

ドッグまでの道は、脳がよく覚えている。
セカンドを倒しに行く為に、何度もアクセサーで通った道だ。

55 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:57:02.47 ID:7Gf019+K0


( ^ω^)「ギコさん……!」


ずっと頭に掛かっていた靄はすっかり晴れた。
胸の中で蓄積していた、鉛のような重みも無くなった。
どんなに寝起きが良い朝でも、こうまで頭がクリアになった事は無い。



――ジョルジュさんの言葉……、


「復讐に燃えるのと、誰かを守ろうと戦うのと。
 どっちが正しいか、皆分かっている。シーケルトだって分かってるはずだ」。


ジョルジュさんのあの言葉に、救われたような気がした。



ずっと僕は、誰かにああ言って欲しかったんじゃないかと思う。


 __

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 18:59:18.39 ID:7Gf019+K0



第3階層第2ドッグは割りとこじんまりしている。
バトルスーツのような巨大兵器は収容されておらず、
いくつかのチームが少量の兵器や乗り物を置いているくらいである。

( ^ω^)「ドクオ! 装備を!」

その為、ブーンがドクオの姿を発見する事は早かった。
もっとも、左目や右耳のセンサーを駆使すれば、直視で発見する必要も無いのだが。

('A`)「ブーン! 装備なら“ソイツ”に入ってるぜ!」

ドクオの方へ駆け寄ると。
ふと、ドクオの背後にある黒い物体に気づく。

( ^ω^)「それは……BLACK DOG?
      確か、ボストンに乗っていたのが最後だと思っていたけど」

('A`)「その通り! こいつは新型なんだ!
    俺が前から温めてた、とっておきのバイクだぜ」

BLACK DOGよりも、ずっと大きい。
バイクと呼ぶには大きすぎる車体は、跨るというよりも乗り込むといった具合で
乗車しなければならないだろう。

しかし、全体的なフォルムは旧型とあまり変わらず。
イヌ科の尖った口先をイメージするフロントボディが、相変わらず特徴的である。

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:02:33.32 ID:7Gf019+K0

( ^ω^)「いつの間に、こんな物を……」

('A`)「少しでもお前の力になってやりたかっくって、コツコツ作ってたんだ。
    コイツは俺の最高傑作……どんなセカンドにも負けやしねえよ!
    ……ボストンに行く前に完成させてやりたかったな……すまねえ」

( ^ω^)「ドクオ……」


('A`)「っと、ブーン、時間が無いそうだ!
    すぐに出撃してくれって司令部からの御達しがあった!」

( ^ω^)「分かったお。操作は前と同じかお!?」

ブーンは新型BLACK DOGに飛び乗った。

操縦座席部分は普通自動車に似た形状をしている。
ドアではないが両サイドにボディがあり、ブーンの肩から下を囲う形となっている。
円状のハンドルこそないが、伸ばした足の先にアクセルとブレーキのペダルがあった。

('A`)「中央のパネルに手をかざしてくれ! 認証が始まる!」

指示通りに手をかざすと、パネルがブーンの手と顔を蒼く照らした。
パネルに無数の英数字が羅列したかと思えば、画面が切り替わり、
プログラムのダウンロードを促す文字が表記された。

迷わず、ダウンロードをスタートさせると、
すぐさま、頭の中に何かが入り込んでくる感覚に襲われた。

60 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:06:25.42 ID:7Gf019+K0

('A`)「言わんでも把握してるだろうが、ダウンロードからインストールまで時間が少しかかる!
    操作は前と同じだが、インストールが終わるまでは全部マニュアル操作だ!」

( ^ω^)「把握したお!」

('A`)「BLACK DOGのプログラムの中には物凄いモンも入れたぜ!
    それこそが俺のとっておきだ!
    テストしてねーから誤動作とかあるかもしれねーが……お前の力になるのは間違いねえ!」


( ^ω^)「期待してるお! じゃあ行ってくるお!」

ブーンはアクセルを静かに吹かし始めた。
以前よりも、マフラーが鳴らす響きが深く聞こえる。

('A`)「ああ! それと!!」

劈くエンジン音に負けじと、ドクオはあらん限りに叫んで呼びかける。
気づき、ブーンはサイドブレーキに掛かった足を離す。

63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:10:19.11 ID:7Gf019+K0

(;'A`)「ショボンが戦いに行っちまった!
    見かけたら適当に保護してやってくれねーか!?」

(;^ω^)「ショボンが!? わ、分かったお!!」

彼が戦闘用のサイボーグであるのは、自分の機械の目を通して分かっていた。
しかし、今日の戦いに行くとは思っていなかった。

焦りと共に、今更の後悔が押し寄せる。
ガイルさん、ショボン、そして『セントラル』の大勢の人間……彼等は今、無事なのだろうか?
早く、ギコさんを止めなければ。


('A`)「絶対に生きて帰ってこいよ! 終わったらバーボンハウスで酒盛りだ!」


ブーンは親指で額の黒いバンダナを指し、
「誓うお」と言って、バイクを発進させた。

('∀`)「……ふふっ、ハッハッハ!!」

最後は、清々しいとまで思わせられた、吹っ切れた調子だった。
ドクオは何故か笑いがこみ上げ、笑うのを止められなかった。

黒い狩人を乗せた巨大な黒犬が、地上に向って駆けて往く――――

66 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:14:13.90 ID:7Gf019+K0
何本もの配管が通る無骨なドッグを抜けると、
一面がガラス張りのシャフトへ到達する。
第3階層の静かな街並みを横目に、ブースターを全開にさせて上昇してゆく。

誰かが歩いている気配は無い。
皆、家の中で怯えながら無事を祈り続けているのだろう。


( ^ω^)「…………」

一時の迷いといえば、そうである。
しかし、余りにも長すぎた。

僕がギコさんを殺しきれなかった所為で、皆に危害が及びかねない今。
僕以外の誰かも戦うべきだったなんて、主張する必要すら無かった。
しぃさんを殺したのは僕、それは揺るがない事実だ。
ギコさんの言うとおり、死んで贖うべきなのかもしれない。

ならば、命懸けで皆を守ってゆこう。

残る人生全てを戦いに費やし、セカンドから皆を守る。
それが、シーケルトさんを殺した僕に与えられた使命であり、唯一の贖罪の方法……、
そう、信じたい。いや、信じて戦うしかないんだ。

そして僕は、自分の弱さが故にスネークを死なせてしまった。

だから、ギコさんは僕の弱さそのものなんだ。
今度こそ、弱さに打ち克ってみせる。

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:18:27.65 ID:7Gf019+K0
迫るセカンドがギコさんと分かっていれば、迷わず出撃したか。
そう聞かれれば、答えは恐らくNO……いや。

迷わず、殺されに行っていただろう。

ジョルジュさん、貴方が居てくれて本当に良かった。
貴方の言葉は、いつだって僕に勇気をくれる。


ケリをつけてやる。自分の弱さに。
オットーと僕が引き起こしたウィルスの連鎖を、絶対に止めてみせる。



『ナイトウ、出撃してくれたのね』

ブーンの思考を断ち切ったのは、ツンの通信だった。
ツンらしかぬ低い声に、ブーンは彼女が怒っている事を悟る。
痛みを感じるほど心臓が跳ね上がったが、構いもせずにツンの言葉は頭で続いた。

『……殺してくれても構わないなんて、酷すぎるわよ』

( ^ω^)「……本当にすまなかったお……どうかしてたお」

73 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:22:53.65 ID:7Gf019+K0

『……アンタがこうして出撃してくれたんだから、
 アタシは何も言わないわ。でもね、』

一度言葉を切り、

『……いいこと!? 絶っっ対に帰ってくるのよ!
 死んだら絶対に許さないんだからね!?』

一際大きな声が、頭の中で響いた。
脳細胞一つ一つに澄み渡るような、ツンらしい声だ。


( ^ω^)「死んだオッサンとしぃさん、ハインさんのお兄さんに、誓うお。
      僕は死ぬまでずっと、皆を守る為にセカンドを狩り続ける。
      ツン、そうしようとしている僕は、間違っていないかお……?」

『ええ。貴方は間違っちゃいない。
 道を外れたのはギコ。シーケルトさんもビロード君も、彼を止めて欲しいと思ってるはず。
 ジョルジュさんに感謝しなさいよ?」

『……隣で聞いてるハインが泣いちゃったわ。
 今言ったこと、約束よ!?』

( ^ω^)「絶対に約束を守るお。僕は命を掛けて君達を守るお」

『……オペレート、するわよ』

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:25:11.14 ID:7Gf019+K0
シャフトのガラス張りが途切れ、灰色が四方に現れた。
地上まで、もうすぐだ。

『ナイトウ、ヤンキーススタジアムの方に向って!
 敵はそこで足止めを喰らってるけど、それもすぐ突破されそう!」

( ^ω^)「ガイルさんは無事かお?」

『バトルスーツは破壊されたけど、ガイルさんは脱出したわ。
 ハーレムの近くに落ちたから、危険ね……救助にあたれる人もいないし……』

( ^ω^)「すぐに向うお」


( ^ω^)「……ツン、勝算はあるのかお?
      数千ものセカンド相手じゃ、僕でも生き残るのは不可能だお」

『敵の残存勢力はざっと千ってところね……もはや絶望的な数字だわ。
 でも……ギコさんを倒せば、残存するセカンドは帰ってくれるかもしれない。
 殆どのセカンドが本能的にギコさんをボスと信じ込み、従っているだけだわ』

『ボスさえ倒せば、統率は乱れる。
 恐怖して巣に帰ってゆくかも……それに賭けるしかないわ』

( ^ω^)「……了解」

やはり、倒すべきはギコさん。
どうにかして、一対一に持ち込めば……。

77 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:30:18.68 ID:7Gf019+K0

地上付近に近づくと、暗い天井に一筋の光が走った。
ハッチがオープンしたのだ。

( ^ω^)「――行くおッ!」

ハッチが開き切る前に、ブーンは地上へ飛び出した。

吸い込まれそうな青空の中を、どこまでダイブする。
ブーンはハンドルを操作してブースターの角度を切り変え、有り余った慣性を殺す。
空中で静止し、戦場であるハーレムの方を見据える。

瞳をわざわざ遠方にフォーカスさせずとも、
ハーレムを少し行った先の上空の大きな動きに気づいた。
何かが大量に蠢いている……イナゴやカラス、椋鳥などの大量発生を想起させる光景だ。


(;^ω^)「急ぐお!!」

肌で感じ取った危機感に焦燥を煽られ、ブーンはアクセルを踏みつけた。


黒いバンダナが風を受け、靡く――――。

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/26(日) 20:29:16.93 ID:QQDSxB97O
守る決意をした男と「遺志」の支援
http://imepita.jp/20090726/735050
遺志

78 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:33:18.99 ID:7Gf019+K0


鼻の下と顎に、整った髭をこさえた男が一人。
静粛した大都市の中を、銃を片手に奔走している。
見上げては天辺を視認できない程の高層ビルや塔が乱立する、
巨大な広告都市ニューヨーク・マンハッタンに、人の気配は無い。

今となっては、この大都市に住むのは獣ならざる獣であったが、
彼等の低い唸りすら聞こえない。
それは、B00N-D1ら戦闘員の活躍によって得た、静か過ぎる閑静である。

約6年ぶりに街を歩き、ショボン・トットマンは振り返る。
非生物的な食欲や暴力を振り撒くセカンドどもに怯えながら、
若きドクオ・アーランドソンと共に『セントラル』を目指していた頃の記憶を。


(´・ω・`)「懐かしい、な……」

つい、遠き日の記憶を懐かしむ。
あの日は晴れ空であったが、満月が怪しく輝く夜だった。

ライオンに似た巨大なセカンドに追い詰められた時、
颯爽と現れて僕とドクオを救ってくれたのは、フィレンクトさんだった。

81 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:38:14.60 ID:7Gf019+K0
――彼に救われた命を何の為に費やそう。
『セントラル』での生活が安定した頃、そればかり考えるようになった。

セカンドに怯えつつものうのうと生きるのは、
戦って命を落としたフィレンクトさんに申し訳が立たない。
だからといって、免疫を持たない僕が街で戦うのは、みすみす化物になりに行くのと同義である。

ならば、せめて『セントラル』で何かしよう。
戦闘以外に学も無い僕は、独学で酒造りを始めた。

酒は良い。すぐに憂いを忘れさせてくれる。


そうして開店したバーボンハウスは、まだ数十人程の客の為のバーだ。
その殆どが常連で、暇があれば必ず飲みに来てくれている。

僕でも、誰かに何かを与えられる。
バーボンハウスと酒は、僕にとっても掛け替えの無い存在だ。


(´・ω・`)(抗体を持つ君は、セカンドと戦う使命がある……か)

なんて勝手な言い分だったろうと、今更ながら思う。

店とお客様を守るのは、ブーンの仕事ではない。
バーのマスターである僕の務めだ――――

82 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:40:06.06 ID:7Gf019+K0
40年代、中東を中心に起きた数々の戦争で活躍したのは、
ショボンのような戦闘用サイボーグだった。

知識は体系化され、システムとサイバーウェアは量産化された。
いつでも兵力不足に悩んでおり、申請して試験や検査に合格さえすれば
高性能なサイボーグになれる手術を受ける事が出来たのだ。

ショボンは、そのサイボーグの一人である。


(´・ω・`)「ふんっ!」

機械仕掛けの足で地を蹴り、高層ビルの壁に向って跳躍する。
上に上にと壁を蹴り上げて屋上に昇り、街を見渡す。

近辺で戦闘があった気配はおろか、痕跡は無い。
しかしながら遠くに見えるブロンクスでは、所々で煙が上がっている。
敵はまだ、ブロンクスに停滞しているようだ。

83 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:42:52.45 ID:7Gf019+K0
目的地に一番近いハーレムの総合病院に到達した。
白塗りの、端整な外観は記憶にあるが、所々が何かの血で黒ずんでいる。
崩れた壁から病室や手術室が垣間見えるが、いずれも血液で猟奇的にコーディネイトされていた。

何処に行こうがセカンドがいたのは、絶望以外の何物でもなかった。
思い返したくない、思い出だ。


(´・ω・`)(周囲にセカンドの気配は無いな……煙の付近も静かだ)

ズーム機能やサーモグラフィを持つ両眼、
集音機能を備えた耳を駆使し、情報を収集。
そうして安全を確認した後、ショボンは屋上を飛び降りた。

着地時にコンクリートが派手な音を立てて割れたが、
無論、足にダメージは無い。
すぐさまBlueBulletGunとBBBladeを構え、ゆっくりと煙の発生源へと近づく。

それは、巨大なポッドだった。


見覚えは無いが、その外見から恐らく脱出ポッドの類であろうと、ショボンは予想する。

85 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:45:59.86 ID:7Gf019+K0

(´・ω・`)(――ポッドが閉じている?)

中に人が入っている可能性が高い。
ポッドに外傷が無い事から、内部がウィルス汚染されたのは考え難い。

再度、気を張って周囲を警戒する。
……セカンドはいない、救出するなら今の内だ。


長方形状のポッドの周りをぐるりと周り、出入り口となるハッチを探すと、
四角く切れ目を付けられた壁を見つけた。
開く為のハンドルやスイッチの類は無く、ハッチ解除の手順は不明である。

(´・ω・`)「仕方ない」

ショボンは、BBBladeの先端を切れ目に刺しこみ、切れ目に沿って刃を動かした。
金属が赤くなって溶けてゆく。切れ目を一周し終えると、ハッチは独りでに外れて落ちた。

恐る恐る、中を覗き込む。
すると、5人はすし詰めに出来そうなポッドの奥に、
操縦席と思わしき座席でぐったりとしている人間を発見した。

同時に、これはバトルスーツの脱出ポッドだとショボンは確信する。

87 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:51:17.04 ID:7Gf019+K0

(´・ω・`)「おい! 大丈夫か!?」

中に入り込み、パイロットに近づいて呼びかける。
フルフェイスのメットから漏れたのは、女性の呻き声だった。

(´・ω・`)「しっかりしろ!」

「う、ん……っつう!」

パイロットは側頭部を手で押さえた。
どうやら、頭を強打してしまったらしい。

「た、隊長は……!?」

覚束無い呂律で尋ねるパイロット。
「隊長」がもう一機のポッドにいる人間だという事は、すぐに分かった。

(´・ω・`)「すぐ近くに落ちている。見てくるよ」

「わ、私も行く……私は春麗、チーム・アルドリッチ所属のバトルスーツ隊員です」

(´・ω・`)「僕はショ……サイボーグ・クソミソXだ」

春麗「く、くそみ……?」

頭は重たいだろうというのに、困惑させてしまったのは申し訳ないと思った。
しかし、軽はずみに名乗って上層部に伝わるのは面倒だったのだ。

  __

89 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:55:09.80 ID:7Gf019+K0

ガイル「お互い気を失ってたみたいだな……。
     春麗、怪我は無いか?」

春麗「はい、問題ありません。隊長こそ、大丈夫でしょうか?」

「ああ」と、何気なくガイルは返す。


从 ゚∀从『クソミソXとやら、感謝する。
      君が通りすがっていなければ、ガイルと春麗は奴等に喰われていたかもしれない』

ガイルの携帯端末を通し、ハインリッヒが顔に安堵を浮かべて言った。

(´・ω・`)「いや、礼には及びません。
      それより、ガイルさんと春麗さんは一刻も早く『セントラル』へ」

ガイル「しかし、前線の部隊は全滅してしまった。
     俺が奴等相手に白兵戦を挑もうとも無残な結果になるのは見えているが、
     それでもやらなければ……少しでも時間を稼ぐんだ」

春麗「馬鹿なことを言わないでください隊長!
    無謀な突撃は止せと仰っていたのは貴方でしょう!?」

ガイル「いいんだ。ブーンが立ち直るまで、少しでも時間を稼がなければ……」

春麗「しかし……」

ガイルの返答は無い。
そこに、ショボンが口を挟んだ。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 19:58:06.21 ID:7Gf019+K0

(´・ω・`)「彼女の言うとおりだと僕は思います、ガイルさん。
      無駄に命を散らすだけだ。
      それに、そんな事をしたらブーンは更に自分を追い詰めてしまうでしょう」

ガイル「クソミソX……アンタ、ブーンの知り合いか?」

怪訝な表情で、ガイルは尋ねた。

(´・ω・`)「い、いえ……一ファンです」


ガイルは目を閉じ、表情を強張らせて押し黙った。
しばらくして、ガイルは目を見開き、思い至ったような表情をした。

ガイル「分かった。春麗、撤退するぞ」

春麗「了解しました」

明るく応答する春麗。
声の色から、ずいぶん安堵しているのがショボンには分かった。

从 ゚∀从『クソミソX、アンタは?』


(´・ω・`)「僕は戦いに行きます……戦えますから」

94 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:01:45.09 ID:7Gf019+K0
ガイル「そうか……感染しないようにな」

ショボンは、こくりと頷いた。
ガイルと春麗もまた、頷いて返す。


ガイル「では、助かった! アンタもやばくなったら逃げ――」


耳を劈く音が、ガイルの言葉を掻き消した。

3人は反射的に、上空を一斉に見上げた。
そこには、口から涎を滝のように垂れ流す、醜悪な異形が3匹。


(;´・ω・`)「なっ……いつの間に……」

全く、セカンドの接近に気づけなかった。

会話してたとはいえ、妙な物音だけには敏感に反応しようと努めていた。
セカンドの身体的特徴が、接近を許した原因か?
それとも、感知できない高度から飛来してきたのか?

2通りの考えが浮上し、余計に頭を混乱させられる。
横の2人がマシンガンを構えると、その音はショボンに冷静さを取り戻させた。
深呼吸しながら、上空のセカンドを見据えてズームする。

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:04:15.78 ID:7Gf019+K0
懸命に薄い羽をはためかせている、その異形は。

尾は細長い形状を持ち、先端にぎらりと光を放つ針をこさえている。
箱型の胴体には、手を8対生やしている。
手には、細長い指が三本。その先端に、赤いマニキュアで彩られた爪が長く伸びている。

《キィキィッキィキィ》

小さな口で、きぃきぃと甲高い音を笛のように奏でている。

丸く小さい顔面には瞳があり、それは蜻蛉(トンボ)を彷彿させる複眼だ。
肌は無く、血管や臓器、筋肉などが剥き出しに。
そしてそれらを、太い毛がびっしりと覆っている。

ガイル「と、蜻蛉の化物か!?」

春麗「蜻蛉……蜻蛉は肉食の生物です。
    特に雄の縄張り意識は強く、非常に凶暴だと聞いた事があります」

(;´・ω・`)「顎は鋭いらしい……自分の体重の食料を30分で捕食するって
       昔ググって調べた事があるけど、このデカさだとどうなんだろうな……」

ガイル「想像、したくないな……」

半笑いを浮かべ、余裕のあるコメントを発言するガイルだが、
彼の手足と顎は大きく震えていた。

97 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:06:51.41 ID:7Gf019+K0
弓なりだった“蜻蛉”の尾が垂直に伸びる。
複眼をこちらに向け、明らかな攻撃態勢を整えた。

(;´・ω・`)「来るぞ!」

注意を促すショボンの言葉と同時、“蜻蛉”は腹の先端から水を勢いよく噴射した。
ジェット噴射の要領で吹き出た水は、“蜻蛉”の飛行に推進力を与え。
ガイルと春麗はおろか、ショボンの目でも捉えきれない速度の突撃を繰り出した。

3人の間を、3匹の“蜻蛉”がまるで一陣の風のようにすり抜ける。
まさに突風であり、風圧で3人をなぎ倒した。

从;゚∀从『ガイル! 春麗!』

尻餅をつかせただけではない。
交わった瞬間、ガイルと春麗は、足を膝から奪われていた。

ガイル「うああああああああアアアアッ!!」

春麗「ああっ……あ、うう……」

悲鳴を上げたのは、膝から血がびゅうびゅうと吹き出るのを
呆然と眺めていた数秒後だった。

98 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:08:32.53 ID:7Gf019+K0
強靭な顎で肉を千切り取った“蜻蛉”は、空中に戻っていた。
そして、体を歓喜に震わせて、美味そうに咀嚼している。

(;´・ω・`)「ガイルさん! 春麗さん!!」

ショボンは、かろうじて攻撃を回避していた。
倒れた2人に駆け寄り、容態を見る。


(;´・ω・`)「まずい……感染する!」

サーモグラフィで見る傷口は、特徴的な温度表示で覆われていた。
だが、赤色は全身に広がろうとはしていない。
彼等2人が多少の免疫を持っていることが幸いしているようだ。

ショボンはBBBladeの刃を、2人の腿に刺した。
痛烈な悲鳴がショボンに罪悪感を与えるが、構わず、腿を切断する。
抗体を送りながら接触面を切り落とせば、感染を免れると判断しての行動である。

ガイル「う、ああ……っつう……」

春麗「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

(;´゚ω゚`)「感染は防げたけど……まずいな……」

サーモグラフィから赤色が消えたが、安堵している状況ではない。
すぐに上空のセカンドを見据え、剣と銃を構える。

100 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:11:19.21 ID:7Gf019+K0
攻撃の対象を自分にと、ショボンは倒れる2人の前に陣取る。
腰だめに武器を構え、銃口を“蜻蛉”に向ける。

(;´゚ω゚`)「うおおおおおおおおおおおお!!!」

雄叫びをあげ、自分を奮い立たせてBlueBulletGunを連続して撃った。
ガウン、という重い響きと共に、6発の弾丸が“蜻蛉”に襲い掛かる。

が、僅か一匹の羽一枚を掠め取っただけ。

《きいいいいいいいきいいいいいいいいきいいいいいいいいいい》

怒り狂った“蜻蛉”が、先ほどと同じくジェット噴射で迫る。
激突間際、“蜻蛉”は口内から粘着力のある液体を発射し、
武器を使用し掛けていたショボンの腕から自由を奪い、更に。

液体は蜘蛛の糸のように変化を起こし、
そうして出来上がった糸を“蜻蛉”は吸い上げた。

右腕、左腕の肘が、2匹の顎に捕らわれると、空中に引っ張り上げらた。
猛スピードで流れる周囲の景色は、ただの灰色にしか見えず、
押し潰されるような空の青色だけが確かな映像である。

104 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:14:25.44 ID:7Gf019+K0
蹴りを入れようにも届かない。
両腕の出力を最大限まで上げようとも、肘は顎から外れようとしない

(;´゚ω゚`)「離――」

罵声が最後まで口から出る事は無かった。
“蜻蛉”どもの手の爪がショボンの腹を突き刺し、傷口を広げようと左右上下に引っ張り、
腹の中の内容物を露出させようと始めたのだ。

“蜻蛉”は、人間の腹の中に美味な肉が詰まっている事を学習している。
早く喰らおう、早く啜ろうと“蜻蛉”は焦り、乱暴にショボンの腹を突いた。

(;´゚ω゚`)「グウ、クッ―――!」

内臓を保護する装甲が、打突で大きく震える。
痛みは無く、今は感染の心配も無いが、装甲を突破されるのは時間の問題である。
このままでは感染……いや、腸を喰い尽されてしまう。

だが、ショボンはニヤリと口の端を尖らせ、

(;´゚ω゚`)「おいおい、喰ってる場合かな?」

“蜻蛉”を凌駕する速度で接近する「黒い影」に呟いた。

106 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:17:17.55 ID:7Gf019+K0

(#^ω^)「ショボン! 今助けるお!!」

ハーレムストリートの上空で、微弱ながらも熱反応を捉えていた。
誤感知かとも思ったが、ガイルはハーレムに落ちたと聞いていたブーンは、
脳裏に浮上する嫌な予感を無視できなかった。

予想は外れはしなかったが、想像より最悪だ。
唯一無二の友人ショボンが喰い殺されんとされている光景を見て、
ブーンの背筋を凍りつかした。

しかし、胸はめらめらと燃えた。

BLACK DOGのハンドル部中央のパネルを叩き、オートパイロットにさせる。
更にもう一打し、武器庫を開いた。
左右を挟むボディの一箇所が金属的な音を伴って開き、
生じた穴から“Sniper”の柄を突出させた。

柄を掴み、引き抜く。
すぐさま“Sniper”と脳に積載された処理システムをリンクさせ、

(#^ω^)「喰らえ!!」

ショボンにまとわりつく、3匹の蟲の腹や尾を弾いた。
被弾し、抗体を注入された“蜻蛉”は声もあげず、地へと引っ張られていった。

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:19:43.44 ID:7Gf019+K0
同じく落下してゆくショボンを、ブーンは空中で彼の腕を掴んで、拾い上げた。
そしてショボンが手に持っていたBBBladeを取りあげ、
ショボンの腹に引っかかっている蜻蛉の手を切断した。

どろどろに液状化した体が、地に落ちた。
赤い血と肉の溜まりが、コンクリで広がった。


BLACK DOGが着陸する。
ショボンは見た目の損傷からは想像できないほど、楽そうに立っている。

(´・ω・`)「助かった……ありがとう、ブーン」

( ^ω^)「……あまり無茶するなお、ショボン」

(´-ω-`)「それにしても、君を頼りにしてばかりだな……不甲斐ないよ」

(;^ω^)「ショボン……」

ショボンの弱弱しい声の理由を、言動から理解してしまった。
以前、ショボンが「抗体を持つ者はセカンドと戦う使命がある」と言っていたのを思い出した。
加え、今日の自分の愚行が、ドクオあたりから伝わっているとしたら――、

(´・ω・`)すまなかった」

……責任を感じて、街に飛び出してしまったんだろう。
ブーンは、そこまでショボンを追い詰めてしまった事に、胸を鋭く痛めた。

112 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:21:36.60 ID:7Gf019+K0

ガイル「ぶ、ブーンか……やっぱり来てくれたか……」

(;^ω^)「ッ! ガイルさん!!」

擦れた声が耳に入る。
聞き覚えの強い声の主もまた、危機的状況にあるのか。
ガイルを見ずとも、ブーンの心に罪悪感が重く圧し掛かる。


駆け寄って見たガイルと、見知らぬ女性のケガは酷かった。
2人とも足を一本失っているなんて。

ガイル「ふふ、そんな顔で……見るなよ。心配するな。
     足は、クローンかなんかで……きっと元に戻る」

春麗「それより……早くブロンクスに……。
    第2防衛ラインが突破される……」


(; ω )「……すみませんでしたお……」

それ以外、返す言葉が浮かばなかった。
彼等は命を賭して戦っていたというのに、戦いから背いていた自分を軽蔑する。

113 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:23:22.97 ID:7Gf019+K0

ガイル「謝る事無いさ……ブーン。
     人間は誰だって迷う……」

(´・ω・`)「それに、皆何かを守りたくて戦いに来たんだ。
       でも……奴等を倒せるのは、きっと君だけだ……。
      最後は結局、君に頼る事になってしまったね……本当にすまない」

(  ω )「ガイルさん……ショボン……」

機械の瞳じゃなければ、大滝のような涙で頬を濡らしているだろう。


( ^ω^)「……後は任せてくださいお」

(´・ω・`)「美味い酒を用意して待ってるよ」


『ブーン! 急いで! 防衛ラインが突破される!
 ショボン! 救助班を送ったわ! 到着までまでガイルさん達を頼んでもいいわね!?』

(´・ω・`)「任せろ小娘! って、外出してる事が筒抜けになってしまったじゃないか……。
      君からお上に上手く言っといてくれよ」


( ^ω^)「……行ってくるお! ショボン、2人を頼むお!」

  __

114 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:25:40.34 ID:7Gf019+K0



(*‘ω‘ *) 「CHIN……PO……PO……」

戦闘用AIロボ、C・PPの拉げた首が街中に転がっている。
ギコの尻尾に殴られ、爪で首を掻っ切られたC・PP達。
並のセカンド相手には優る性能であるが、ギコの前ではどんな武装も無力であった。

C・PPを、股間から尻尾を串刺して掲げるギコ。
体に、傷は一筋も無い。

(* ω‘ *) 《チイイイイイイイイイイイイイイイイヂイイイイイイイイイイイイイ!!》

尾の先端が脳天を破っている。
尾が太く、C・PPの細い体の随所が尾に破られていた。
臓器は無いが、配線や金属がバチバチと鳴らして
腹や胸、顔の亀裂から出ている様は、人間の猟奇的であろう。

発声器官か、それともAI部分を破壊された為か、
悲鳴とも似つかない奇声を、その場のどんな音よりも大きなボリュームで延々と上げている。


(* ω‘ *) 《チイイイイイイイイイイイイイイ、》

うるさい口に、ギコは使っていない尾を全て突っ込む。
入るはずがなく、大体の尾が顔面を突いて粉々に破壊した。
単純に声を発すという意味では、最後のC・PPだった。

129 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:35:36.68 ID:7Gf019+K0
チーム・OSMが誇るパワードスーツ部隊も、壊滅に差し掛かっていた。
速度、強度を自負していたOSMのパワードスーツも、
“でっていう”の圧倒的な機動と攻撃に淘汰されていた。

【+  】;ゞ゚) 「クソ!!」

腕部に沿って装着された重火器を、空にばら撒くようにして発射。
一面が爆炎に包まれるが、怪竜の鱗は焦げ目が付いた程度で、
戦闘開始から変わらぬ速度で兵士に突っ込んでゆく。

ブレードを伸ばすと同時、胸から上の部分を噛み千切られる。
背骨を支柱に付いた赤々とした内蔵の数々を一瞬見せると、
パワードスーツは爆発を起こし、内包する肉の塊を燃やした。


【+  】;ゞ゚)「た、退避! 退避ィ―――――!!」

銃を乱射しながら、足裏のブースターでマンハッタン区へ向おうとするが、


【+  】;ゞ゚) 「ぐ、があ、あああッああ……」

多少の金属を噛むはめになるが、セカンドにとっては新鮮な人間を味わう久方ぶりの機会だ。
そしてウィルスによって変化したDNAは知恵も求め、
宿主である“でっていう”に、獲物を逃す事を許さなかった。

132 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:38:07.02 ID:7Gf019+K0

(//‰゚) 《何人か逃げタようだが、どうデモいい。
      逃げタ先に安息ナど存在シない……生キたくば俺ヲ殺せ》

(//‰゚) 《トは言え、食いしン坊の“でっていう”は見過ごサないようダガな……
      ハッハッハッハッハッハ!! 喰らえ喰らえ! たらふく喰らうといい!
      こんなご馳走、もうお目にかかれないぞ!!》


【+  】;ゞ゚) 「ひ、あっ、うわあ、あああああああああ!!」

懸命に逃げるパワードスーツ隊員、数名。
追う“でっていう”数十匹。

空を裂く音すら置き去りにするかのような速度で。
怪竜は獲物を八方に囲み、退路を完全に絶った。

竦み上がる手足。
真っ白になった思考は神経をも切り離すのか、
トリガーを握っていた手すら緩んで離れてしまう。

【+  】;ゞ ) 「あああああああああああああああああああああああ!!!」

どれほどの声を出しているのか自分にも分からない。
目を開いているのか、閉じているのかも分からない程、意識は混濁している。
この一面が白い景色は、混濁した意識が見せる幻影なのか――。

刹那、彼等の視界は蒼に染まった。

139 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:41:50.63 ID:7Gf019+K0
蒼い光が地面を刺し、そうして爆ぜたコンクリが浮遊する。
岩盤が舞う中、液状化した体の飛沫を上げる怪竜の姿を見た。
予告無く行われた銃撃に戸惑う怪竜達は、術無く蒼い弾丸を浴び、体の輪郭を失う。

【+  】;ゞ゚) 「い、今だ! 撃て! 撃てェ――――!!」

【+  】;ゞ゚) 「ウ、うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

冷静さをいくらか取り戻した誰かが叫ぶと、それが皮切りとなった。
全員がマシンガンをもって、周囲を一斉に散弾する。

文字通り歯が立たない硬い怪竜だった。
しかし、今ではマシンガンの攻撃で体中の部位を散り散りにしている。
後続していた怪竜の群れは、その光景に恐れをなしたか、突撃をぴたりとやめてしまった。


【+  】;ゞ゚) 「撤退だ! 撤退するぞ!!」

その隙に、パワードスーツ隊の生き残りは戦場から離脱。
ぐうの音も上げられないほど、“でっていう”は悔しさと怒りに燃えた。

しかし、それも束の間だった。
空中に2つの小さなボールが2つ、立て続けに射出され。
それは蒼い炎と化し、酸素を次々に飲み込んで巨大なドーム状の波へと変貌したのだ。

多くの“でっていう”が蒼い炎に捕らわれ、そして塵も残す事を出来ずに、存在を消した。

141 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:45:06.48 ID:7Gf019+K0

(//‰゚) 《く、クク!》


(//‰゚) 《ハハハハハハハハハ! 待ってイた! 待ッテいタぞ!!》

鮮烈な蒼い光を操り、容易く怪竜を仕留めた。
そんな芸当が出来るのは只一人、憎きサイボーグB00N-D1。

我が最愛の人の仇の登場に、ギコは歓喜の声を大空に放つ。
そして、景色を全て置き去りにする速度で、ブーンに向かって飛んだ。



(#゚ω゚)「絶対に! お前を止めてみせる!!」

ガイルさん達を傷つけたのも、この凄惨な光景作り出したのも、全て貴方が……!

全身の血液が沸騰していると錯覚するほど、体の中が熱い。
ボストンで戦った時には決して感じなかった怒りに、体中が燃えているようだ。


――倒す、絶対にだ。

151 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:48:47.78 ID:7Gf019+K0


両者共に、瞳をズームして睨み合い、接近。


ブーンはBBBladeを構え。
ギコも右腕の砲から巨大なレーザーの刃を伸ばし、そして。



(#゚ω゚)「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

(//‰゚) 《おおおおおおオオオオオオオオオ!!》



各々の想いを乗せた刃を、交じらせた――――




                             第24話「激突」終

158 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/26(日) 20:52:26.96 ID:7Gf019+K0
以上で、24話は終わりです。
支援ありがとうございました&お疲れ様でした。

>>116
まさか投下中に絵をいただけるとは・・・嬉しすぎてケツが5センチくらい浮きました。
有難うございます! これはいいスネーク・・・! かっけえええええええ!!!!


次回はまだ書き終えていませんが、なるべく早く投下できるよう努力いたします。
8月初旬には投下したいです。

では、また次回!

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