内藤エスカルゴ - 現行作品一覧 - ( ^ω^)は街で狩りをするようです - 第23話「チーム・ディレイクにかけられた責任」
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 15:29:06.39 ID:p9vyOHR/0
________
\ /川‖‖| ‖| /
  \        /
  │个 个 ヘ |  アアアアッー!! アアアアアアアッー!!
  │┌−   )/  またガイルの超必殺技ゲージ溜まっちゃったー!!!
   ヽヽ 丿//    オリジナルコンボ発動しちゃうううううう!!!

    , '´  ̄ ̄ ` 、
    i r-ー-┬-‐、i
     | |,,_   _,{|
    N| "゚'` {"゚`lリ おいおい、2週間ぶりだってのに、物凄いオリジナルコンボだな。
     ト.i   ,__''_  !
   /i/ l\ ー .イ|、

  (~)
γ´⌒`ヽ 
{i:i:i:i:i:i:i:i:}
( ´・ω・) おらおら! まだまだイカねえぞ!!

(//‰ ゚)「あ、あ、あ、あ、」


::(ヽ゚ω゚)::「ここは地獄かお……イボ太郎すまんお……」

2 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:30:27.59 ID:p9vyOHR/0


::(ヽ゚ω゚)::「こうなったら、なんとかしてガイルだけでも正気に戻ってもらうお!!」


::(ヽ゚ω゚)::(あの人がくれば、きっと正気に戻るはずだお……!!)


がちゃっ!

「はーいブーン! 来たアルよー……」

「って、ぎゃああああ変態だらけえええええええ!!
 祖国に帰るアルー! 早くチャイナ行きのシートを手配するアルー!!」

::(ヽ゚ω゚)::「きゅ、救世主様! どうかお帰りにならないでください!!
       貴方様を登場させなければ、永遠にオマケがこのままになるお!!」

「はっ……あ、あれはも、もしかしてガイル!? い、いやああああ!!!」


( ^ω^)は街で狩りをするようです 第23話

まとめ 内藤エスカルゴ様 ttp://www.geocities.jp/local_boon/

3 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:32:27.74 ID:p9vyOHR/0
登場人物一覧

――― チーム・ディレイク ―――

( ^ω^)B00N-D1:通称ブーン。本名ホライゾン・ナイトウ。年齢20歳。戦闘員。
      セカンドに対する強い免疫を持つサイボーグ「システム・ディレイク」。
      ギコに完膚なきまでに破壊されたが、ツン達が修復し、目覚める。
      しかし、ボストンの人々を救えなかったと自分を責め立て、もはや自分には誰も救えないと
      思い込むようになってしまった。そして戦いと、仲間にすら背を向けて逃げ出してしまう。

ξ゚听)ξツン・ディレイク:年齢19歳。チームリーダー。
       ブーンを改造した弱冠19歳の天才科学少女。
       過去セカンドに襲われ両腕を失い、義手を着用。貧乳。嫌煙家。
      絶望するブーンに生きる理由を持たせようと説得する。

('A`)ドクオ・アーランドソン:年齢21歳。武器開発担当。
   豊富なアイディアで強力な武器や乗り物を開発し、ブーンの戦闘をサポートする。
   ツンをからかうお調子者の変態。空気を読まない。
   戦う事が叶わないドクオにとって、ブーンは自己投影の対象でもあり、ヒーローなのである。


( ><)ビロード・ハリス:年齢9歳。
     ウィルス騒動の孤児。セカンドに対する強力な免疫を持っている。
     治療を終え、ツンに引き取られる。

5 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:34:18.56 ID:p9vyOHR/0
――― チーム・アルドリッチ ―――

从 ゚∀从ハインリッヒ・アルドリッチ:年齢23歳。チームリーダー。
     対セカンド人型戦闘兵器「バトルスーツ」の理論提唱者であり、開発者である。
     新型バトルスーツ開発プロジェクトを着手している。本格的な開発は予算会後。


( ゚∀゚)ジョルジュ・ジグラード:年齢35歳。戦闘員パイロット。
    深紅の機体を操るバトルスーツ部隊隊長だが、セカンドウィルスに感染してしまった。
    「IRON MAIDEN」と抗体によりセカンド化を抑えていたが、いよいよ変異が始まる。
    しかし、もしも人の心を保つ出来るのなら、人として生きていたと考える。

ガイル:年齢33歳。戦闘員パイロット。
     バトルスーツ部隊副隊長としてジョルジュをサポート。
     ハインリッヒに、バトルスーツ隊隊長に任命される。

7 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:36:27.03 ID:p9vyOHR/0
――― その他 ―――

/ ,' 3荒巻・スカルチノフ:年齢63歳。セントラル議会・議会長。
   現議会長、元アメリカ空軍大佐。
   任務と「セントラル」の為には非情になる男。

( ・∀・)モララー・スタンレー:年齢30歳。セントラル議会・議会長補佐
     バイオテクノロジーの権威「ラウンジ社」の元社員で、優れた科学者。
     自身の研究成果である「Hollow Soldier」を従える。

(  〓 )Hollow Soldier(虚ろな兵士):年齢不明
     モララーにより生み出された超人。
     クローンテクノロジーにより量産され、部隊として編成された。

( ´∀`)モナー・ヴァンヘイレン:年齢不明。セントラル議会、人類保護委員会会長。
      衛星アルドボールを所有し、様々なミッションを各チームに与える。

8 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:39:32.87 ID:p9vyOHR/0

第23話「チーム・ディレイクにかけられた責任」


『緊急事態発生。多量のセカンドがマンハッタンに接近中。
 市民の皆様は慌てず、すみやかに自宅にお戻りください。
 繰り返します。緊急事態発生。多量のセカンドがマンハッタンに接近中……』

無機質な警報が地下都市全域に鳴り響く。
たとえ分厚い金属の壁に四方を囲まれていようとも、
『セントラル』市民全員の耳に、それは届いた。


人々は網膜に、脳裏に刷り込まれている……
街中に蔓延った醜悪な異形どもが起こした、蹂躙の限りを。

それは、二度と見る事を願わない悪夢だ。


会社、教育、食、風俗、エンターテイメント。
地上に存在した文化を地下世界に再現しようと励んだのは、
人々が悪夢からの脱却を望んだからでもある。

そして、人々は刷り込まれた恐怖を思い出さぬよう、
『セントラル』と、そして自らが作り出した仮初の平穏と安全の中でじっとしているのだった。
勇敢な者達が地上のセカンド達を滅ぼすのを、ただ、じっと――――

11 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:41:55.14 ID:p9vyOHR/0



「せ、セカンドだってぇ!?」

警報に従って自室へ向おうとする市民達だが、
決して早くはない足取りが彼等の緊張感の欠如を物語っていた。
中には、悠長に煙草を吸い、まるで普段の世間話の続きをしているかのような者までいる。

「なんてこった……どうしてここに向っているんだ?」

「でもまぁ、別に慌てること無いさ。バトルスーツやAIロボが倒してくれるよ。
 それに! 俺達には英雄B00N-D1が付いているじゃないか!」

「そうだ! ブーンは無敗の最強のサイボーグ!
 今回だって奴等を蹴散らしてくれるに違いねえ! 慌てるこたぁねーぜ」

市民をスムーズに誘導させる為に出動した警察官すらも、
職務を疎かにしている始末である。
モナー・ヴァンヘイレンの想像よりも、市民の混乱や同様は遥かに小さい。

それは、B00N-D1というヒーローの存在が原因であった。
市民達が祭り上げて作ったB00N-D1のヒーロー像は、
如何なる時でさえ彼等に多大な安心感を与えているのである。

だが肝心のブーンは完全に戦意を喪失し、
そして想像を越えた危険に直面しているとは、市民の頭には無かった。

 __

12 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:44:52.68 ID:p9vyOHR/0



(;´Д`)「二千を優に越えている……」

从;゚∀从「に、二千体だって……!?」

敵の数を知って戦慄したのはハインリッヒだけではなかった。
単純に物量だけで言えば、『セントラル』の総力を挙げても足元に及ばない。
兵器開発チームスタッフである皆だからこそ、よく理解している事だった。

(;'A`)「……ブーンと、俺達を殺しに来たのかよ。逆恨みにも程があるぜ畜生……」

モニター内で薄ら笑うギコ・アモットに、怖気づきながらも精一杯の悪態を吐くドクオ。
握り拳を、わなわなと震わしている。


(;><)「ど、どうして……」

ガイル「ああ、ビロード、俺も信じられん……俺もあの光を見たんだ……!」

“あの爆発”を目撃しているビロードとガイルが、か細く言った。

いや、ビロードにとっては“バイクの停止”こそが、スネークとギコの死と強く結びついていた。
だから、自分とブーンを乗せたバイクが止まったあの時、
2人は死んでしまったのだと、ビロードは直感的に感じ取っていたのだ。

14 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:47:17.60 ID:p9vyOHR/0

(;><)「どうしてギコが……そんな……嘘なんです……」

だから、モニターに映っている光景を信じようとしなかった。
子供ながらの無邪気さは関係なく、ビロードは自分を信じて疑わず、
ギコが何故生きているのかなんて考えたくもなかった。

( ´Д`)「ビロード君、だったね。
      私も信じたくない……だが、彼は現に生きているのだ」

(;><)「そんな……」


( ´Д`)「ツン君、ハインリッヒ博士。
      戦闘準備を終え次第、すぐに第1司令部に来てくれ。
      議会長は『セントラル』の総力をもって迎撃すると宣言している。急ぐように」


ξ;゚听)ξ「でも、あの、モナーさん! ブーンは――」

( ´Д`)「急いでくれ!」

ツンが言い切る前に、通信が切れる。
モニターがブラックアウトすると同時、室内は形容し難い緊張感で一気に満たされた。

ギコは、ブーンから『セントラル』の情報を得ている。
奴等の進撃を食い止めなければ、一人残らず食い殺されてしまうだろう。
全面衝突は、避けようがないのだ。

15 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:49:24.79 ID:p9vyOHR/0

ξ; )ξ「……こんな時に!!」

傍らのデスクを思い切り殴るツン。

確かに、『セントラル』は多くの兵器や戦闘員を有するが、たかが知れているのだ。
AIを搭載した戦闘ロボットの多くは、さしたる戦果を挙げていない。
強化外骨格に身を纏った人間兵士などもいるが、いずれも変わり映えしない。

他のセカンドとならばいざ知らず、あのギコとは渡り合えるとは誰も思いはしなかった。


頼みの綱であるバトルスーツは現在2機しか残っておらず。
やはり、高い戦闘力と経験を持つB00N-D1がいなければ、太刀打ちは難しいと、
このラボの誰しもがそのように戦況を予見している。


(;'A`)「ツン! なんとかしてブーンを!」

ドクオもそれを懸念しているのか、言動は忙しい。

ξ; )ξ「でも……」

素直にうんと言えないツンに、皆同情を禁じえなかったが、

(;'A`)「分かってる。けど、アイツがいないとマズいって!」

16 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:51:24.61 ID:p9vyOHR/0


ドクオの必死さに、ツンの心が大きく揺れる。
ツンは渋い顔で唇を噛んだ後、「分かったわ」と気だるそうな声で皆に伝えた。

ξ゚听)ξ「……とりあえず、アイツの携帯に、」

左腕の携帯端末に触れようとした時、着信が入る。
巻き毛が跳ね上がるほど、ツンは驚く。

液晶に映る送信者の名はブーンではなく、匿名だ。
こんな時に、一体誰が何の用で電話を掛けたのだろうと、
ツンは怪訝に思いながらも着信を取った。

「ツン・ディレイク。荒巻スカルチノフ議会長がお呼びだ。
 直ちに第一司令部前、作戦会議室に出頭せよ」

顔を表示しない音声のみの通信だ。

ξ;゚听)ξ「は? いや、ちょっと待って!
       今は悠長に話してる場合じゃないでしょーが!」


「問答無用との事である。すぐに来るように」

返事をする間も与えられず、通話を切られた。

18 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:54:35.06 ID:p9vyOHR/0


ξ;゚听)ξ「一体何なのよ! アタシなんかしたっけ!?」

ツンが声を大にして周囲に求めると、

( ゚∀゚)「まぁ恐らく、責任問題を問われるんだろうな」

真っ先にジョルジュが答えた。


ξ;゚听)ξ「責任問題ぃ?」

( ゚∀゚)「このような事態を引き起こしたのがブーンだとすれば、
     責任はリーダーであるお前にも問われるだろう?
     お宅のブーンが大量のセカンドを呼んじまった、どーすんだ? ってな」

ξ;゚听)ξ「後ですれば済むことじゃない…………」

( ゚∀゚)「ああ。まるで軍規違反を問うてるようだ」

ジョルジュが呆れたように溜息を吐く。

( ゚∀゚)「元空軍大佐らしく強気に振舞おうとしているが、
     一皮剥いて見りゃ、高い地位がお好きな臆病極まりない老人だよ。
     クイーンズでのミッションで、俺は荒巻をそう評価した」

20 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 15:58:49.89 ID:p9vyOHR/0


ξ゚听)ξ「ふん、無視してやるわ」

( ゚∀゚)「馬鹿を言うな。奴等を撃退した後に牢獄にぶち込まれるかもしれんぞ?
     それに、ブーンの現状も説明した方がいい」

ξ;゚听)ξ「でも!!」


( ゚∀゚)「ブーンなら俺に任せろ」

ツンには視認できないが、ジョルジュはフェイスカバーの中で穏やかな顔を浮かべる。
カバーを通して若干曇っても、ツンを促す声には頼もしさが篭っていた。

ξ;゚听)ξ「ジョルジュさん……」


('A`)「さっさとケリ着けて来い!
    んで、お前もブーンのもとに行ってくれ!」

ξ;゚听)ξ「ドクオ……」


ξ゚听)ξ「……わかったわ! ちょっくら行ってくる!」

それまで不安そうだった表情に、輝きが戻る。
沈んでいた肩を弾ませ、ツンは駆け足で部屋を出て行った。

23 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:02:45.87 ID:p9vyOHR/0

从 ゚∀从「ガイル! 格納庫に向え!
      それと、有望な隊員候補を一人出撃させろ!」

ガイル「おう!!」

そうして各々がすべき事を理解し終えると、ハインリッヒが第一声を発した。
バトルスーツ隊員のガイルは、待っていたと言わんばかりに腕を振り上げる。


( ゚∀゚)「ガイル!」

ジョルジュは部屋を出て行こうとする同チームの仲間を呼び止める。
フェイスカバーを見せようとしていなかったが、隠さずに顔を上げた。

ジョルジュの顔が見えない事に気づき、2人は一瞬ぎょっとする。
しかし、2人とも何も聞こうとせず、黙ってジョルジュの続きを待った。

( ゚∀゚)「頼んだぞ。今、頼りになるのはお前だけだ。
     いいか、決して焦るんじゃない。冷静にチャンスを窺って、」


ガイル「――カミカゼアタック、だろ? 分かってるぜ隊長!」

( ゚∀゚)「……今は、お前が隊長だろう」

ガイル「俺にとっちゃあ、ずっと隊長はアンタなんだよ! 行ってくるぜ隊長!」

26 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:04:40.95 ID:p9vyOHR/0

駆けて行く2人を見送り、

( ゚∀゚)「ドクオ。俺はビロードを連れてブーンを探しに行く。
     お前も一緒に来るだろう?」

部屋に残っていたチーム・ディレイクのサブリーダー、ドクオに尋ねた。
初めて、しかも急に名前を呼ばれたドクオは動揺して「あ、ああ、俺は、」と声をどもらせ、

('A`)「俺は、ブーンをアンタに任せようと思う。
    ここでちょっと、やりたい事があってな」

( ゚∀゚)「そうか。じゃあアイツの家を教えてくれ。
     部屋から出ないとか言ってやがったからな」

('A`)「分かった。ジョルジュさんのアドレスは控えてあるから、すぐに地図を送るよ。
    ブーンのこと、頼んだぜ!」

ジョルジュは軽く頷き、彼なりに感謝の意を示した。
すっかり蟠りが解けた両チーム間に、以前のような刺々しさは生まれない。

( ゚∀゚)「ビロード、俺達も走ろう。時間が無い」

( ><)「はいなんです!」

ツン、ハインらに続き、ジョルジュとビロードも駆けて出て行った。

27 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:06:18.76 ID:p9vyOHR/0


「ドクオさん、我々はどうすれば……」

取り残されて行き場に困ったスタッフ。
彼等の一人が心細そうな眼差しを持って、ドクオに尋ねた。

('A`)「ブーンが戻ってくる事を信じて、出来ることをやろう」

ツンがいない今、チームを指揮するのはサブリーダーのドクオだ。
それを意識しているのか、ドクオは毅然とした声音で続ける。

稀に見る珍しい態度である。
ドクオの毅然とした態度は、質問したスタッフは緊張感を煽った。

ドクオはコンピュータを操作しながら、続ける。

('A`)「何人か、武器の点検を。
    残りは俺と一緒に、アーマーシステムの最終チェックをやってもらう」


ドクオのその指示に、スタッフはぎょっと驚く。

31 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:09:41.11 ID:p9vyOHR/0


「れ、例の新兵器を実戦投入するつもりですか!?
 まだテストもしていないのですよ!?」

('A`)「分かっている。しかし、BLACK DOGの予備はアレしかねえ。
    それに、セカンドと渡り合うには“足”が必要だろう?」

「まぁ、そうですが。しかし、まだデバック作業は残って――」


('A`)「今のブーンじゃギコとは五分五分か、それ以下だ。
    アーマーシステムさえありゃ、絶対にブーンは負けやしねぇ。
    時間は全然無いって分かっているなら、さっさと手を動かそうぜ」

「は、はい!」

('A`)「大丈夫。殆ど出来上がってるんだ。
    後はバグの有無をチェックするだけ……俺達なら1時間もありゃ出来るさ」



 ___

32 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:11:34.73 ID:p9vyOHR/0


ニューヨークに大勢の人間が隠れられる施設があると、ギコは風の噂で耳にしていた。
もう、5年も前の話だ。

それは今は亡きオットー、シーケルト、スネークも知っていた情報であった。
だが、日に日に猛威を増してゆくセカンドとウィルスは、
ギコ達をハーバード地下研究施設から出す事を許さなかったのである。


しかしながら、ニューヨークで人間は生きているという確信は不思議とあった。

学生2人が改造した――学生2人とも言っても、天才2人だが――秘密基地のような施設より、
大勢の科学者と技術者が集結して作った地下施設の方が、ずっと堅強である。
ギコ達には、そう思えたのだ。

(//‰゚) (『セントラル』、か)

だから、初めてブーンと出会った時も、彼らは然程驚きはしなかった。
やっぱり人間は滅んじゃいなかった!とシーケルトは喜んだのかもしれないが。

33 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:12:45.98 ID:p9vyOHR/0
地下施設の名を『セントラル』と知ったのも、ブーンと出会った時である。
ギコは、『セントラル』の場所を聞いた事は無かったが、
“名前”から位置を特定するのは容易であった。

(//‰゚) (いつだったか、聞いた事があった。
      セントラルパークの下にエンターテイメント施設を開発していたって話。
      なるほど……そこを隠れ蓑に改装したのが『セントラル』だったか)

ギコは翼をはためかせ、大西洋に面したニューヨーク州の全貌を眺めて思う。

州の中でも取り分け小さなマンハッタン区の、緑がかった一部。
「セントラルパーク」と呼ばれていた公園は、今ではジャングルのように濃い。
その下に、生き残った人類が息を潜めている。


――殺す、一人残らず殺してやる。
湧き上がる殺意を振り撒くように、ギコは6枚の翼をより大きく動かした。

翼……怪竜“でっていう”の象徴とも言える翼は健在していた。
体の殆どはブーンと戦った時と同じままなのである。

唯一異なるのは右腕。
カルシウムとウィルスで精製した硬骨の長槍は無く、
代わりに巨大な機械の砲が黒々と輝いている。

(//‰゚) 「ククク、もウすぐ会えルなァブーン。お前との再会楽シミだ」

37 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:16:33.70 ID:p9vyOHR/0

大群を引き連れしばらく飛び進むと、ギコは敵の存在に気づいた。
健在している機械の目が捉えたのは、

(//‰゚) (あレが迎撃部隊か……ブーンはいないナ)

黒色と、白色の2色が、それぞれ別々に纏まって動いている状況。
人間の形である事しか分からず、どんな能力を持つのかは見当がつかない。
しかし、単純な兵数ではこちらが圧倒している。

(//‰゚) (その程度の数デ敵うカな?
      思ってイたよリも、大シタ事ナサそうだ……まぁ、)

(//‰゚) 「セいぜイ、ブーンを苦しメる餌になってモらおう」


飛行する野獣達も気づくなり、貪欲な食欲を滾らせて空を疾駆する。
つられ、街を往くセカンドもグロテスクな足や羽を早めた。

 ___

38 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:19:43.63 ID:p9vyOHR/0


(;´Д`)「な、何という速さだ……」

大陸を不自然な動きをもって縦断する塊を見て、モナーは一人呟いた。
敵の進行速度は、衛星が捉えた映像で十分に分かる。


( ・∀・)「状況は?」

荒巻に代わり、指揮を取るモララー・スタンレーが、
他チームから派遣されたオペレーションスタッフに尋ねる。

「ハッ! 間もなく全チームの戦闘員がポイントに到着します!
 先行しているクローン兵隊はブロンクス北東にて待機中!
 90秒後にAIロボ隊、パワードスーツ隊が到着予定!」

「セカンドは現在コネティカット州中部を進行中!」


( ´Д`)「何分後に到達する?」

「5分後にウェストチェスター郡に到達!
 その10分後にブロンクス区に侵入予定!」

( ・∀・)「兵力を少しばかり割くとしよう。
      マンハッタン北東で兵力の2割を待機させるように」

39 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:22:26.11 ID:p9vyOHR/0

( ・∀・)「……」

こみ上げるのは、セカンドに対する好奇心、それから研究成果の期待だった。
全員が焦燥しきった顔を浮かべる中、モララーは口の端が上がるのを何とか堪えていた。

激突が待ち遠しい。
刻々と時間が経過するのでさえ、モララーにとっては心地良かった。


( ´Д`)「モララー君、随分と落ち着いている様子だな」

( ・∀・) 「いえ、そんな事は……そうでしょうか?」

( ´Д`)「まぁ……私もクローン部隊の活躍は聞いている。信頼しているがね」


( ・∀・)「優秀な部隊である事は自負致しましょう」

( ・∀・) 「100程度の兵ですが、クローン兵士個々の能力値は高い。
      AIとは比べ物にならない学習力がある上、コンビネーションも抜群です」

( ´Д`)「なるほど……クローンか。君は確か、ラウンジの社員だったと聞くが?」

( ・∀・)「ええ。それが何か?」

( ´Д`)「いや……何でもない」

41 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:26:49.24 ID:p9vyOHR/0



ξ゚听)ξ「失礼します」

緊張した面持ちで作戦会議室に入ると。
広々とした部屋の一番奥の長机に、荒巻が厳しい表情で座っていた。
それからツンの入ってきた出入り口側の壁、その両隅に、
屈強な男――恐らくセントラルポリスの者――が二名ずつ。

そんな息苦しい部屋の中央に向って、ツンは静かに歩む。
立ち止まり、荒巻の言葉を待った。


/ ,' 3「このような事態を引き起こしたのは何故か、理解しているかね?」

荒巻は、厳格な声で問い質した。
対し、ツンはキッと睨んで、

ξ゚听)ξ「私達に責任がございましょうか?」

強気に質問で返した。

/ ,' 3「君は勘違いしている」

43 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:29:20.56 ID:p9vyOHR/0

/ ,' 3「B00N-D1がギコ・アモットを殺害出来なかったのは、
    君の監督不届きが原因ではないのかね?
    B00N-D1がギコを殺しきれなかったのは、何故だ?」

ξ゚听)ξ「ブーンは……いえ、ホライゾン・ナイトウは機械ではありません。
       彼には人を殺める事など、出来なかったんです」

/ ,' 3「あれが人間だと? 馬鹿な。どう見てもセカンドではないか」

呆れ返った様子で言い放つ荒巻に、ツンは蔑んだ目を向けた。
ツンの態度に構わず、荒巻は続ける。

/ ,' 3「感情と理性を持っていようが、我々を脅かす存在であった事には相違あるまい。
    アルドリッチの実兄をセカンドとして処理できた彼に、何故同じ事が出来なかった?」

ξ゚听)ξ「感情と理性、つまりギコに心を持っていたからこそです。
       シーケルトという人間を誤って殺害した彼は、
      戦闘の最中で人殺しの罪に苦しみ始めたのです」

ξ゚听)ξ「だからナイトウは最後まで、ギコをセカンドとして見れなかったんです」

/ ,' 3「その結果、この事態を引き起こしたという訳か」

まるでブーンの心情を汲み取ろうとはしない言いぶり。
ツンは無意識に握り拳を作り、歯をぎりりとすり合わせた。

45 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:32:47.92 ID:p9vyOHR/0

/ ,' 3「B00N-D1が確実にギコを仕留めて置けば、
    『セントラル』はこのような危険に晒される事は無かった」

/ ,' 3「ツン君。君達に掛かる責任は、思っている以上に重大なのだよ」


ξ#゚听)ξ「ナイトウは懸命に戦いました!
       最後までギコを説得しようとしました! 貴方も見たでしょう!?」

/ ,' 3「それがどうしたと言うのだね?
    何度も言うが、その結果がこの事態を引き起こしたのだ」


/ ,' 3「セカンドは我々人類にとって最大の敵であり、抹殺すべき存在である。
    認識の甘さ故に事態を引き起こした諸君らチームに責を果たす理由で、
    ラボと戦闘許可を作戦終了と共に剥奪する」

/ ,' 3「同時に、君とB00N-D1を無期限で拘束する事を、議会長の権限を持って決定した。
    なお、ツン・ディレイク。君は今すぐセントラル市警に連行させる」

ξ#゚听)ξ「何を馬鹿な事を――」

/ ,' 3「全市民に示しをつける為にも、責任は取ってもらわなければならないのだよ。
    仮にB00N-D1がギコを撃破しようとも、撤回はしない」

48 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:37:37.87 ID:p9vyOHR/0

ξ#゚ー゚)ξ「あーら、一応ナイトウを戦力として考慮してくれてたのね?」

荒巻の苦渋の表情が、ツンの質問を肯定していた。
ツンは形勢逆転の好機が舞い込んだと判断し、

ξ゚∀゚)ξ「フルピッチで修復してたんですけどね。
      でもアタシが連行されるんじゃ、ナイトウは直りませんよねぇ……」

なんとも意地悪そうに言った。
しかし、修復など嘘である。これは駆け引きだ。
荒巻の顔がますます苦渋に歪むのを見て、ツンはしたり顔を強める。

だが、

/;,' 3「……軍人でもなかった諸君らに、元より然したる期待は求めていなかった。
    再び戦場に出ようとも、B00N-D1は恐らく戦力外であろう」

意地なのか、荒巻も下手に出ようとはしなかった。
想定外の発言に、ツンは内心で焦り始める。

49 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:40:59.56 ID:p9vyOHR/0

ξ;゚∀゚)ξ「あまり強情なさらずに、議会長?」

/;,' 3「もうよい、出て行きたまえ。
    君達は本作戦に一切関わるな…… おい……」

荒巻が警官に会釈する。
その指示を待っていたかのように、警官が素早くツンに近づいた。
計4名の警官は4人がかりで、ツンを取り押さえる。

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと! 離しなさいって!
       議会長! ナイトウでなければギコに太刀打ち出来ませんよ!?」

/;,' 3「たかがサイボーグ一人いなくとも変わるまい!」

ξ;゚听)ξ「離しなさいよアンタ達! 離せってばっ――!!」

暴れるツンに、手錠が掛けられる。
機械の腕を力任せに動かすが、特殊な金属で作られた手錠は断ち切れようとしない。

部屋を響かせる、ツンの必死な声が消えた――――

50 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:44:16.00 ID:p9vyOHR/0



ガイルは、武装整備を終えたバトルスーツのコクピットの中に居た。
あとは最終点検の完了を待ち、ハインリッヒの出撃宣言を聞くだけの状態である。

コンソールに指を走らせ、サブモニターに僚機とのチャットを展開させた。

ガイル「春麗、君はこれが初陣だったな」

春麗『はっ! 『セントラル』を守るべく、日々トレーニングを積んできました!
    私は市民を守る為ならば、命を惜しみません!』

春麗(チュンリー)と呼ばれた東洋系の
女の凛とした声が、ガイルのインカムに流れる。

美しいのは黒髪だけでなく、顔立ちも整っている彼女は、
チーム・アルドリッチでハインリッヒと人気を二分している存在である。
端麗な容姿とは裏腹に、操縦の腕前はジョルジュ・ジグラードに一目置かれる程らしい。

ガイル「良い心がけだ。君は女性だが、
     ジョルジュ隊長のような命知らずの勇敢なパイロットだ」

「だがな、春麗」と一度切り、ガイルは続ける。

53 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:48:22.62 ID:p9vyOHR/0

ガイル「焦り、無駄に命を投げ出そうとするな。
     命知らずとは、自ら危険に身を投じる者を指す言葉ではない。
     冷静に勝機を見出し、死ぬ気でそれを遂行する事を言うのだ」

春麗『冷静に勝機を……』

噛み締めるように復唱する春麗。


ガイル「簡単に言やあ、無謀な突撃はすんな、って事だ。
     敵は圧倒的に多い。春麗、平常心を忘れるなよ」

春麗『了解しました』

ガイル「あとアドバイスはそうだな……君の実力と、神を信じるんだ」

春麗『隊長も、気をつけてくださいね』

「ああ」と一言返し、ガイルはチャットを切る。
胸元に下げた銀のクロスをぎゅっと握り、出撃タイミングを待った。

アルドリッチ砲は春麗機のみに搭載されている。
二機に搭載されていない事が、ガイルに心細さを植えつけていた。

56 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:52:27.52 ID:p9vyOHR/0

サブモニターに一枚のウィンドウが開く。
司令部にいるハインリッヒからだ。

从 ゚∀从『バトルスーツ全システム、オールグリーン!
      全コントロールを委譲する! ガイル、必ず帰って来い」

宣言と同時、両機のコクピット内に散りばめている機器の多くに光が灯る。
バトルスーツの両肩、両足を固定するアームロックが解除される。

ガイル「了解した」

数多のレバー、スイッチを次々と操作しながら、ガイルは応答した。
手元のコンソールを素早くタイプし、そして足元のペダルの位置を確認する。
発進準備が整ったや否や、深く息を吸い込み、

ガイル「バトルスーツ隊、出るぞ!!」

春麗『ラジャ』

操縦桿を力強く握り締めて、声高らかに出撃を宣言した。

ガイル、春麗の両名はペダルを踏み、操縦桿を前に倒した。
地上へ抜けるシャフトへと、2機の機体がドッグを駆け抜く。
ブースターが陽炎を昇らせ、ボディが漆黒の煌きを振り撒きながら――――

57 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:55:57.18 ID:p9vyOHR/0
ニューヨーク市はアッパーイーストサイド。
高級アパートメントが犇く住宅街である。

そこの大通りに一筋の長い割れ目が生じる。
地鳴りにも似た響きを立て、住宅街やブティックを乗せたコンクリが
スライドし、それに内包されていたシャフトが露になると。

立て続けにジェット音が、2つ。
2機の巨大兵器が、シャフトから飛び出した。

直後、両機のパイロットに通信が入る。

( ・∀・)『両機共にブロンクス区へ向え。
      敵の大多数はブロンクスから攻めて来る。
      迎撃せよ。1匹たりともマンハッタン区に通すな』

モララーからの指示だった。
パイロット両名が同時に『了解』と返すと、モララーから通信を切った。

ガイル「チッ、偉そうに言いやがって。
     あの量を相手に1匹も通すなってよ」

春麗『だけど、絶対に撃ち漏らせません』

ガイル「ああ。やるしかない、ってこった」

足腰のブースターをコントロールし、地面すれすれを往く2機。
人口ではなく、紛れもない太陽に照らされた大都市を、バトルスーツは針を縫うように闊歩した。
太さのある巨体を、建造物に擦りもせずに移動させてゆく様は、2人の操縦技術の高さを物語っている。

59 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 16:59:56.70 ID:p9vyOHR/0

ガイル「博士、敵の様子は?」

複雑な操縦を続けながらも、ガイルは余裕ある口調で尋ねた。
それについて当然のように、ハインリッヒはいつもの調子で返す。

从 ゚∀从『進行速度が速まった。500秒後にはポイントに到着する』

ガイル「大型セカンドは?』

从 ゚∀从『いる。とはいっても、数はそこまででもねえ。
      しかも、小型どもと小競り合いしている奴までいる。
      セカンド同士で喰らいあってるぜ。少しラッキーかもな』

ガイル「ギコが統率している訳じゃないのか?」

ガイルは低く唸りを立てた。
一瞬間が空き、その間に浮上した推測をハインリッヒは述べる。

从 ゚∀从『さあね……でも、尾のようにギコに着いて行くセカンドばかりだ。
      それが本能的な行動なのだとしたら、それは恐らく“服従本能”ってやつだろうな』

春麗『犬が飼い主に従うような?』

ハインリッヒは「そうだ」と肯定。

60 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:01:37.17 ID:p9vyOHR/0

从 ゚∀从『犬というのは、群れを作って生活する動物の子孫らしい。
      他の動物や人間にも、ボスになろうとする権勢本能や服従本能があるだろう?
      何らかの遺伝子を取り込み、そういう習性が身に付いてるのかもな』

从 ゚∀从『反して、ネコなんかは単独で行動する習性があるらしいな。
      敵味方関係なく暴れまわるセカンドが、それに当ると思う』

ガイル「ふむ……つまりギコは、
     マサチューセッツ中のセカンドを屈服させ、従えたのか……」

十字路に沿って旋回する。
ブースターが瓦礫と半壊した車などを一掃した。

从 ゚∀从『そうかもね……。
      でも、ギコを討ったところで奴等が大人しくなるかどうか……』

通信自体は切れないが、2人とハインリッヒのやり取りが途切れた。
すっかり『セントラル』との距離が開いたにも拘らず、両者は同様の緊張感を共通している。
そしてインカムに流れる雨音に似たノイズ音は、ガイルと春麗の緊張を増長させた。

静かなフライトが続いた。

61 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:03:58.65 ID:p9vyOHR/0
87番という数字を付けられた、巨大な道路が見えてきた。
この道路は、マンハッタンとブロンクスの境界線である。
両機はその境界線を越え、ブロンクスの観光スポットの一つであった
ヤンキーススタジアムを横目に、街を進み続ける。

かつては連日に渡り大勢の人々を賑わしたスタジアム。
ここに逃げ込み、そしてここで命を落とし、或いはセカンドへ変貌した者も多くいるだろう事を、
壁面につけられた無数の爪痕と血痕が無人の街に語りかけている。

ふと、春麗は機体を上昇させた。
彼女にとっては、それこそ久方ぶりの外なのである。
しかし、彼女の目に映るのは、いずれも記憶とは懸け離れた街の姿であった。

春麗「酷い…………」

上空から見たスタジアムは、反対側が大きく崩れていた。
まるで三日月を見下ろしているかのような、
不思議な感覚を覚えつつも、春麗はぞっとした。

これほど大規模な破壊行為が出来るセカンドは、どんな奴なのだろうか。
複数による破壊だったのか――……。

何にせよ、これから我々が戦う相手というのは、そういう奴等なのである。
操縦桿を握る手が震えている事に、春麗は気がつかなかった。

63 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:07:47.11 ID:p9vyOHR/0

『――麗!』

从;゚∀从『春麗! 聞こえてたら応答しろ!』

春麗「あ、は、はい!」

何度呼び掛けられたのか、恐怖に苛まれていた春麗には分からなかった。


ガイル『どうした? 君らしくもない』

春麗「すみません。久しぶりの街に見とれていました。任務に集中します」

額と、手にじんわりと汗が滲んでいるのが分かる。
ある程度の緊張感を持つのは正しい事であるが、これは恐怖から感じる悪い緊張感だ。
春麗はゆっくりと深呼吸し、胸に痞える心地悪さを吐き出そうとした。

从 ゚∀从『春麗、北東方向にジャングルが見える?』

一息ついてすぐに、ハインリッヒから通信が入る。

64 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:12:10.91 ID:p9vyOHR/0

春麗「ジャングル、ですか? ――ええ、確認しました」

スタジアム上空にいるまま、北東方向にカメラを向けてみると、
街に似つかわしくない陰鬱な森が広がっていた。

春麗「あの位置はマップによると……ブロンクス動物園跡地のようですね」

春麗の言うとおり、そこは265エーカーという広大な敷地を誇る動物園である。
2000年始めに4000匹の動物が飼育されていたが、
クローンなどの遺伝子工学の発達によって動物の数は5000までに増えた。

言うまでも無く、ここもセカンドウィルスに汚染されている。
B00N-D1が両親の仇を探している内に、殆どのセカンドは命を亡くしたが。


从 ゚∀从『春麗はジャングルに機体を隠して、
      アルドリッチ砲の発射準備を進めてくれ』

ガイル『確かに、機体を隠すには木の高さも丁度良いな。
     俺は前線に向う……春麗、気をつけろよ』

春麗「了解しました。アルドリッチ砲を発射次第、私もすぐに前線へ向います」


  __

66 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:16:17.55 ID:p9vyOHR/0

( ・∀・)「敵の現在位置はウェストチェスターモールか。
      前線部隊と接触するまでの残り時間は?」

「残り3分!」

( ´Д`)「全軍、配置したか!?」

「はい……し、しかしB00N-D1がまだ現れておりませんが……」

(;´Д`)「何だと!? チーム・ディレイクは何をやっている!?」

モナーは見開いた目で、司令部内を隈なく見渡した。
しかし、目線を何度往復させてもツンの姿を見つけられず。
そこで彼は、先ほどツンと一緒にいたハインリッヒ・アルドリッチを思い出す。

ハインリッヒはモナーと目が合うなり、先に口を開く。

从;゚∀从「ブーンはボストンでの一件で戦意喪失し、行方をくらましてしまったのです。
      皆が説得しているので、もう少し待ってください!」

(;´Д`)「そんなまさか……彼がいないなんて、そんな、」


「――B00N-D1一人いなくとも問題あるまい!」

司令部に響き渡る厳格な声色。
皆が一斉に声を辿ると、出入り口から毅然と歩く荒巻スカルチノフを見た。

67 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:18:43.48 ID:p9vyOHR/0

/ ,' 3「モララー・スタンレーに代わり、私が総指揮を取る」

威厳に満ち溢れた宣言を終え、司令部中央に位置する席に着いた荒巻。
軍服に身を包んだ彼は、誰の目にも歴戦の戦士のように見えるだろう。
荒巻が指揮を取る事に誰も異論は無い。

だが、司令部の人々は一途の不安を持っていた。

(;´Д`)「しかし議会長! ブーンがいなければ!」

皆を代弁するかのように、モナーの口から出た英雄の名。
しかし、荒巻は揺るごうとしない。

/ ,' 3「いなければ何だというのだね?
    にしてもツン・ディレイクめ……修理中というのは嘘だったか」

从;゚∀从「修理中?」

思わずハインリッヒは疑問してしまった。
声はマイクロフォンを通し、荒巻にも伝わる。

/ ,' 3「戦意喪失とは聞いていなかったのでね。
    危うくツン・ディレイクに欺かれる所だったか……」

从;゚∀从「ツンは今! 何処にいるのですか!?」

/ ,' 3「ツン・ディレイクは作戦終了までセントラル市警にて留置させる。
    また、チーム・ディレイクには本作戦の参加を禁じた」

68 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:24:30.16 ID:p9vyOHR/0

从;゚∀从「りゅ、留置ぃ……? 何を血迷ってんだテメエ!!
       んな事しても意味ねーだろうが!!」

/ ,' 3「慎みたまえ、アルドリッチ。
    これは示しだよ。市民に対しても責任を取らねばあるまい、アルドリッチ?
    彼等が脅威を呼び込んだのは事実であろう?」

从;゚∀从「ッ……」

(;´Д`)「しかし議会長、同意しかねます!
      彼はニューヨーク中のセカンドを滅ぼしてきた英雄です!
      彼なしでボストンの強力なセカンドに太刀打ちできるとは思いません!」

/ ,' 3「何度も言わせるな、モナー。彼一人いたところで戦況は変わるまい。
    それに、彼は戦意喪失しているのだろう? でなければとうに出撃しているはずだ。
    ……モララー君、君の意見を聞きたい」

( ・∀・)「『セントラル』の総兵力は、およそ千。いずれも強力な部隊が編成されております。
      セカンドを滅ぼさんが為に日々苦闘し作り上げた科学の結晶……、
      決してヒケは取らないでしょう」

/ ,' 3「その通りだ」

椅子を立ち、空気を吸い上げ、

/ ,' 3「諸君! 『セントラル』は強い! 臆する事は無い!
    全隊に告ぐ! 何としても奴等を叩きのめせ! 『セントラル』を守るのだ!!」

高らかに謳う宣言は、全員に演説を思わせた。

70 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:28:16.13 ID:p9vyOHR/0



チーム・ディレイク、ラボ。
パネルをタッチする音で埋め尽くされたメインルームに、一人の来客が訪れた。

(´・ω・`)「やあ。大変な事になったね……。
      にしても、さっきの電話、本当かい?」

('A`)「ああ……」

メインルームが迎えたのは、バーボンハウスの店主ショボン・トットマンである。

ブーン自身が「部屋から出ない」と言っていたが、ドクオは念のためにバーボンハウスに連絡したのだ。
しかしブーンは店に来ておらず、おまけにこの状況だ。
連絡を受けたショボンは居ても立ってもいられなくなり、ラボまで来たのだ。

('A`)「アイツ、自分を人殺しだって思い込んじまってる……。
    それに、誰一人守れなかったって、自分を責めてるんだ……」

(´・ω・`)「僕の店には来てなかったから、やっぱり自宅かな……。
      ジョルジュさんを頼りにするしかないね」

('A`)「ああ……ところでよ、見ての通り俺は凄く忙しい。
    悪いんだけど、お前と話してる暇はねーんだ」

(´・ω・`)「僕も話しにやって来た訳じゃない」

疑問し、眉を顰めるドクオ。
ショボンは周囲を見渡し、ドクオに耳打ちした。

72 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:31:12.27 ID:p9vyOHR/0

(´・ω・`)「ブーンの装備を寄こしてくれ」

(;'A`)「お、おいおい! お前まで出るつも――」

問題に発展しかねない発言だから耳打ちしたというのに。
ドクオが思い切り声を荒げようとすると、

(´^ω^`)「しゃぶれ」

ショボンは咄嗟に股間をドクオの顔に押し当て、声を消した。
「んごおおおおお!!」と悶絶を示す絶叫と、ショボンの尻を弾くタップ。
ぐりぐりと腰をニ、三回して股間を擦り付けた後、やっとドクオを解放した。

(´・ω・`)「じっとしてられなくってね」

(;'A`)「ごほっ! ごほっ! だ、ダメだ……危険すぎる」

息を切らし、青ざめた顔を顰めながらドクオは述べた。


(´・ω・`)「彼を追い込んでしまったのは僕にも責任があると思うんだ」

今度は生理的な苦痛ではなく、疑問で顔を顰めたドクオ。
「こちらの話さ」とショボンは言い、続ける。

74 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:34:55.68 ID:p9vyOHR/0

(´・ω・`)「店とお客様を守るのは、店主である僕の務めだ。
      ドクオ、装備を貸してくれ」

('A`)「しかし……」

パネルに置いた手を顎にやり、ドクオは顔を渋らせる。
ショボンを見ると、ショボンは決意めいた顔を浮かべていた。
恐らく、テコでも動かないだろう。

(;'A`)「…………しょうがねえな」

これ以上、ショボンの真剣な眼差しと目を合わせるのも辛くなり、
ドクオは渋々折れる。

(;'A`)「わかったよ! ただし、無茶はするなよ!
    お前が死んじまったら、まともな酒が飲めなくなっちまう!」

(´・ω・`)「ああ。帰ってきたら飛び切りに美味い酒を振舞ってやるさ」

  __

75 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:40:46.31 ID:p9vyOHR/0


『全隊に告ぐ。間もなく目視可能な範囲に敵が到達する。
 攻撃合図と共に一斉射撃せよ。
 なお、攻撃合図は諸君らの目にも分かりやすく行うつもりだ。期待してくれ』


【+  】ゞ゚) 「……いよいよか」

白塗りの重厚なパワードスーツに全身を包んだ男が、ぼそりと呟いた。
外部スピーカーから電子的な声色が流れる。
それを聞いた隣の男――呟いた男と同じ格好――が口を開く。

【+  】ゞ゚) 「ビビってんのかよ?」

【+  】ゞ゚) 「いや……我らKOSMチームのパワードスーツの真価を知らしめる時が来た。
        そう思うと、武者震いが止まらなくてな」

【+  】ゞ゚) 「はは、俺もだ……」


やがて、遠くの空が色を濁らせ、
地の僅かな震動が人々の足に伝わると。

周囲の話し声は突然途絶え、
まるで、5年前から時間が止まった街の一部と化したかの如く、皆静まり返る。

76 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:42:11.29 ID:p9vyOHR/0
叫喚に次ぐ叫喚。

天に轟く、稲妻のような高い鳴き声。
街の間を抜けてゆく、下水道のような低い唸り。
徐々に高鳴る、地鳴りのような踏み鳴らし。


二千体のセカンドは、遂に姿を現した。


【+  】;ゞ゚) 「ひ……そ、そんな……」

【+  】;ゞ゚) 「あ、あんな数……なのかよ……」

描いていた想像と現実のギャップが多大な恐怖を生み。
そこにいる多くの者が、両膝をぶるぶると震わせた。

先刻から感じていたのも、実は武者震いなどではなかった。
恐怖を忘れようとしていた単なる虚勢だ。
しかし、いざ圧倒的な光景を目にすると、一瞬にして奮起は吹き飛んでしまった。

偽の自分を覆い隠すヴェールは無くなり、恐怖心が露になる。
そして次第に喉奥から悲鳴にも似た声が漏れ出し、
凶悪なウィルスが感染してゆくように、同じ心理的現象が後方の者まで伝わっていった。

80 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:47:22.31 ID:p9vyOHR/0
――突然の、轟音。
思考する事を忘れてしまう程の、巨大な音と光が、前触れも無く空を割った。

眩い白き光を発する極大のレーザー攻撃。
ブロンクス動物園跡地から放たれたアルドリッチ砲だ。


【+  】;ゞ゚) 「あ……」

我に返り、レーザーの軌跡を追うKOSMチームの面々。

十秒近くに渡るレーザー攻撃は、
空を埋めていた滲んだ黒色にすっぽりと穴を開け、そこのみに鮮烈な青色を戻していた。

痛快な攻撃であったが、地上を行く敵も考えれば、敵戦力を削れていないだろう。
アルドボールを通した目測では、敵の総数の6分の一を減らしたというところである。

ガイル「行くぞ! 蹴散らしてやる!」

それでも、戦の狼煙としては相応しい初撃であった。
アルドリッチ砲を皮切りに、まず黒色のバトルスーツが単独で飛び出していった。
続き、同じ背丈と格好をした白色の女部隊、C・PPと呼ばれる女性型ドロイドが駆ける。

『作戦開始! 1匹たりともマンハッタンに通すな!!』

震える足に力が戻り。
パワードスーツ隊KOSMらも、街の中へ走っていった――――

86 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:53:04.18 ID:p9vyOHR/0

ガイル「おおおおおおオオオッ!!」

バトルスーツは、最もセカンドの侵入が激しいと予想された大通りを陣取った。
その予想の通り、大通りには多量のセカンドが雪崩れ込んできた。

実弾で滅多打ちするバトルスーツ。
いくら再生力と耐久力を誇るセカンドであろうとも、
超口径のマシンガンを浴びれば跡形も無くなってしまう。

行き詰ったセカンドは道を迂回し始めた。
どうやら、得体の知れない巨人を恐れているらしい。

しかし、ガイルは逃さなかった。
空に急上昇し、建造物を越えてセカンドの逃げた先に先回りする。
降下しながら両腕に搭載されたマシンガンを放ち、肉塊へと変えていった。

ガイル「ヘッ! 空軍時代から撃ち漏らした敵はいねえんだぜ!!」


周囲にセカンドの姿は無い。

そう思いきや、上空から翼を持つセカンドが多数で襲来してきた。
右腕で弾丸をばら撒いて弾幕を張るが、地に堕ちたセカンドは1匹もいない。
だが、セカンドは出鼻を挫かれ、襲い掛かれずにいる。

その一瞬の躊躇を突くようにバトルスーツの胸部が開き、5本の光を放つ。

88 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 17:56:32.21 ID:p9vyOHR/0

ガイル「予想はしていたが本当にキリが無いな!」


レーザーに撃たれたセカンドは影も残らず消滅したが、
ガイルに休みを与える事無く、次なるセカンドが空と地両方から殺到する。

メインモニターとサブモニターに映る、何枚ものウィンドウ。
バトルスーツを中心に360度で撮影されている映像には、
夥しい量の怪物で埋め尽くされていた。

自分の両眼球をぎょろぎょろと動かして。
まず撃つべき敵を判断し、迷わずにトリガーを入れる。
そしてモニター一面に血液が広がれば、コンソールを叩いてロックオンを切り返る。

そうして近くの敵から順に撃ち落とし、
敵に接近を許さない立ち回りを続けるガイル機には、まだ傷一つ無い。

しかし、周囲はそうもいかなかった。

カメラが捉えるのは、セカンドに八つ裂きにされて、喰われている人間。
どのカメラにも、同じような映像ばかり映っているではないか。

戦いが始まり、それほど時間は経過していなかった。

91 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:00:18.71 ID:p9vyOHR/0
日の影になった薄暗い道端で。
返り血を全身で浴びながら、恍惚な表情でピンク色の新鮮な臓物をむしゃぶる。
喉から腹に掛けて内容物が無くなるまで喰らい尽くすと、
今度はパワードスーツの頭部装甲ごと頭蓋をかち割り、脳を啜った。

空では燦々と輝く日の光を浴びながら、
爪で捉えた獲物の腹を嘴で啄ばんでいる虫が飛んでいた。
1匹が獲物を捕らえると、見せびらかすように上空を飛び回り、
それに気づいた同種の虫達が餌に群がるのだ。

また、ある者は訳も分からず機械をばらばらに破壊し。
そうして、セカンドは内に秘めた狂気を、街中で爆発させた。

ガイル「クソ……だけど同じ数を撃ち落してるはずだ……!」

――突然、「ずん」という巨大な物音を、マイクが拾った。
建造物が崩れ落ちたのか? と思うが、しかし物音は断続的に鳴り響いている。

从;゚∀从『ガイル! 右から!!』

ハインリッヒの叫び声の直後、傍らのビルが木っ端微塵に。
発生した粉塵をまとった何かが、ガイル機に激突する。
強烈な一撃を貰ったガイル機は派手に転び、

ガイル「う、動かん!?」

パイロットが操縦桿とペダルを駆使するが、機体が思うように動かない。
何故だ!? と疑問したと同時、サブモニターに映像が出る。

92 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:02:51.38 ID:p9vyOHR/0

从;゚∀从『アルドボールに撮影させた!
       どうにか攻撃して引っぺがすんだ!!』

映るは、巨大なカブトムシの化物だ。
小汚い甲冑と、長く太い角を持っているのだから、甲虫には違いない。
しかし、開かれた羽から覗く背は、生物を逸していた。

人間によく似た巨大な顔が、背中にあるのだ。
文字通りの血眼が瞬きする事無く動き、大きく開かれた口には歯が揃っている。
唇と歯が成す門から伸びるのは「奇怪な舌」……いや、男性器の形状に似た何かの器官だ。

「舌」が伸び、ぶるぶると震える。
先端の割れ目から花が開くように肉が裂けると、
幾千もの細い触手が白い液体を振り撒きながら現れた。

液体が掛かった建造物や人間、セカンドが見る見る溶けてゆく。
強力な酸のようだ。


ガイル「う、動けねえ……!」

機体の両腕脚を掴まれてしまっている。
ブースターを最大噴射させているが、熱に強いのか、呻き声一つ上げない。
その上、ぴくりとも機体が動こうとしないのだ。

“カブト虫”の口が開かれる。
後頭部カメラのモニター一杯に、セカンドのおぞましい口内が映し出された。

93 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:06:40.95 ID:p9vyOHR/0
――ビルに挟まれた大通りを、巨大な黒い塊が駆け抜ける。
その機体はアスファルトを思い切り踏みつけ、錐揉みしながら“甲虫”に突っ込んでいった。

春麗『隊長――――!!』

右腕で砲門を展開して、「舌」目掛けて特殊なクラスターボムを撃ち出す。
爆弾は直撃し、連鎖的な爆発を生じて「舌」と「羽」を木っ端微塵にした。
背部の口から、この世のものとは思えない叫び声が発せられる。

抑え付けていた力が緩む。
ガイル機は敵の足を振り払い、腕部のブレードを頭部に突き刺した。
飛翔する春麗機は機体を回転させて、左腕部のブレードを背に何度も叩き込み、

《ぎぃいいいいいいいあああアアアアアアああああアアアアアアアアアッ!!》

断末魔は、上がった。
春麗機が甲虫の角を引っ張って、ガイル機から退かした。

ガイル「助かった!」

春麗『話している暇はありません! 来ます!!』

メインモニターに映ったのは、猛スピードで接近する怪竜“でっていう”。
ブーンと5分に渡り合った強敵である事がフラッシュバックし、ガイルは戦慄した。

94 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:11:09.78 ID:p9vyOHR/0
百はいそうな大群だ。
装甲が奴等の牙に耐えうるかどうか、自信が無い。

ガイル「春麗! 一度引くぞ!!」

ガイルは勝ち目が無いと判断し、指示を飛ばしつつ退避を始める。
しかし、春麗機はその場から動こうとせず、

春麗『小さなタイプです、倒せます!』

左腕部と胸部から、レーザー砲門を開いた。
即、帯状のレーザーを数本発射するが、

《でっていうwwwwwwwwwwwwwwwwwww》

一斉に憎たらしい声を上げながら、軽々と回避した。
一群は左右に展開した後、硬直するバトルスーツ目掛け飛び掛る。


ガイル「春麗――――――!!」

後進を前進に切り替え、最大速度で春麗機に体当たりするガイル機。
春麗機は前のめりになって吹き飛び、地に伏した。
入れ替わり、敵の目の前に立ったガイル機は、“でっていう”の大群に飲み込まれてゆく。

95 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:13:45.90 ID:p9vyOHR/0

ガイル『あ、わ、そ、装甲が!』

その強靭な顎を持ち、硬い牙を機体に突き刺す怪竜。
爪を突きたて、引掻き、強烈な酸性の涎を垂れ流し、次第に装甲を剥がしてゆく。
こうも獰猛に攻撃するのは、巨大とはいえど人型の故に人間と認知したからだろうか。

数多の怪竜に覆われたガイル機は、ブーストを最大噴射させて振り解こうとしているが、
“でっていう”は爪や牙を深々と刺して、離れようとしない。

春麗「た、隊長!!」

春麗はすぐに機体を起き上がらせ、両腕を武装させる。
だが、撃つべきかどうか、判断に迷う。

ガイル『構わん! 撃ってくれ!!』

春麗「し、しかし!」

ガイル『多少のダメージは構わん!』

指示を受けた春麗はすぐにマシンガンを起動し、ガイル機に弾丸を放とうとする。
が、突然の衝撃に機体が襲われ、照準は大きく外れてしまう。

《グゥォオォオオォオオオオォオオオォオ!》

先ほどの“甲虫”に、まだ息があった。
春麗機は右脚部の根元を角で突かれ、脚を切り離されてしまう。
再び地に伏した春麗機に、“甲虫”が覆いかぶさる。

96 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:16:32.29 ID:p9vyOHR/0


从;゚∀从「ああ! ど、どうしたら……」

遠く離れた自分には、指示を飛ばすことくらいしか出来ない。
2人の機体が破壊される様を、ただ見るしかないのか?

何も出来ない自分に怒りを覚えたハインリッヒは、
デスクを思い切り殴りつけようと拳を振り上げた。
しかし、その手首を掴まれて、制される。

( ・∀・)「安心したまえ」

从;゚∀从「も、モララー博士?」

モララーは、そっとハインリッヒの手首を離した。
そして司令部のメインモニターに目を向け、話し始める。

( ・∀・)「セカンドは目立つバトルスーツに集中し始めていたんだ。
      私の部隊を援護に向わせた」

从;゚∀从「クローン兵を?」


  __

99 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:22:13.36 ID:p9vyOHR/0


(  〓 )「…………」

白い女兵士達が、人間とはかけ離れた動きで街を走り抜ける。
息を弾ませず、声一つ交わさず、ひたすら四肢を動かし続け、
道中に見かけたセカンドには容赦なくトリガーを引き。
蒼い光線に撃たれたセカンドは、体をどろどろと溶かして絶命する。

休み無く街を奔走する兵士達。
時には跳躍し、小さな建造物なら軽々と飛び越えた。


そうして50名ほどの部隊は、バトルスーツのもとへ到着する。

怪竜に憑りつかれたガイル機と、巨大な蟲に捕まった春麗機を囲み、
一斉にトリガーに掛かる指に力を込めた。

アンテナのような形状の先端にエネルギーが収束。
耳鳴りのような高鳴りが最高点に達すと、帯状の蒼い光線が放出された。

蒼い光に、セカンドが包まれてゆく。
攻撃に気づいた一部の“でっていう”は空へ逃れようとするが、
兵士達は一寸違わずに狙い打ちする。
セカンドは総じて体を液状化させ、アスファルトの上を流れていった。

101 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:27:29.64 ID:p9vyOHR/0


ガイル『た、助かった……アンタ達に助けられたのは二度目だな……』

春麗『もうダメかと思った……感謝します』

ぼろぼろのバトルスーツが、外部スピーカーで息絶え絶えな声を発した。
塗装はおろか、装甲そのものを綺麗に剥がされた部分もある。
特にガイル機は酷く、腕部の間接部分の一部を啄ばまれた為、攻撃力が低下している状態だ。

損傷は、“でっていう”の攻撃によるものが殆どであるが、
クローン兵らの射撃が拍車を掛けたのだった。
とはいえ、撃たねばパイロットも喰い尽されなかった状況であったのは、
数値と映像のみで状況把握するハインリッヒも、十分に理解していた。

当の白い女兵士達はガイルらに何の言葉も投げようとしない。
淡々と、銃器のリロード作業をしているばかりである。

しかし、その静寂は束の間。

(  〓 )「――ッ!」

唐突に、クローン兵隊全員が一斉に銃口を空に向ける。
空には、先ほどとは比較にならない数の“でっていう”が群がっていた。

104 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:31:51.54 ID:p9vyOHR/0
しかしながら、彼女達の銃口と一直線上に結ばれたのは、
怪竜の群れではない。あくまで怪竜は背景である。

奴等を背景に、空中で佇むのは、
10の尾と6の翼を持つ悪魔のような生物だった。


(//‰゚) 《遠くから見物さセて貰ッたが、中々手強イじゃないか。
     貴様等ハ放ってオケン……邪魔ダ……喰い殺シてやる》


ガイル「ギコ……アモット……」

人間だったとは思えない、狂気に満ちた形相と眼差し。
怪竜を従えし鬼の登場に、ガイルは戦慄する。
歯を食いしばっていなければ、奥歯が鳴るのを止められなかった。



                        第23話「チーム・ディレイクにかけられた責任」終

108 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:36:10.46 ID:p9vyOHR/0

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\ /川‖‖| ‖| /
  \        /
  │个 个 ヘ |  アアアアッー!! アアアアアアアッー!!
  │┌−   )/
   ヽヽ 丿//


波状的に押しよせる快楽の中。
俺は滲んだ視界の中で、信じられない光景を目にした。


――馬鹿な。何故、何故、版権ものキャラが登場しているのだ。
ブーンは宣言したはずだ。今後は版権キャラを出さないと。

なのに、何故。何故、チュンリーがいるのだ。

いや、そんなことはどうでもよい。
あのクールで真摯なチュンリーのキャラ・・・まずい。
あれは間違いなく人気が出るだろう。俺の知名度、ガイル系小説の夢が危ぶむ。


い、いや! そんなことだっていいんだ!!
だって、春麗は俺の――最愛の人だから。

109 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:39:13.08 ID:p9vyOHR/0
          _,,..::ー-'`^゙ー―‐..、
        .,,.. '"      i     ゙`>、
      ,/      ,._」_、 i / /  (
     /__   _ /    `"´-、 ,.-‐゙‐
     'ー-、     ,)  ,...,.,,,,) (  V"
        \   /  _'ー‐'ノ゙`セ'}〕   うおおおおお!!
          )=、!、  .    ・ノ  |
          f"ゴ.    ,. ----、 !   俺は目覚めたぞ―――――!!!
          !、(っj    レ―'‐'‐! !
          `'ィ゙ヽ_    " ̄`''./|
           .!  r‐-r.、  ,,. -! l

阿部さん「お、おいおい暴れるなよ」

ガイル「うるせえ! け、ケツからチチチチンコを抜きやがれ!!」


(ヽ゚ω゚)「にやり、計画通りお」

ブーンの仕業か……。
おおよそ、新たな版権キャラを引き入れて俺の冷静さを取り戻そうといったところか。

ありがたい。感謝するよ、ブーン。
俺は、このまま性欲に溺れて一生を終えるところだった。



春麗「け、汚らわしいアル! うぎゃああああ近寄るなアル! 死ねじゃなくて死ね!!!」

110 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:41:49.35 ID:p9vyOHR/0

          _,,..::ー-'`^゙ー―‐..、
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     /__   _ /    `"´-、 ,.-‐゙‐
     'ー-、     ,)  ,...,.,,,,) (  V"
        \   /  _'ー‐'ノ゙`セ'}〕
          )=、!、  .    ・ノ  | チュ、チュン…………
          f"ゴ.    ,. ----、 !
          !、(っj    レ―'‐'‐! !
          `'ィ゙ヽ_    " ̄`''./|
           .!  r‐-r.、  ,,. -! l




_________
\ /川‖‖| ‖| /
  \        /
  │个 个 ヘ |  阿部さん、ホモセックスしよう
  │┌−   )/
   ヽヽ 丿//

――俺の恋は、終わった。
   もうどうでもいい。快楽に溺れ、全てを忘れてしまおう。

                                     〜続く・・・?〜

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 16:31:10.80 ID:F31CPLrCO
若干てにをはが怪しいとこあるな

113 名前: ◆jVEgVW6U6s :2009/07/21(火) 18:47:02.07 ID:p9vyOHR/0
ということで23話終了です。
24話は出来上がってますが、今週末から来週火曜日の間に投下したいと思います。
書き溜めて投下ペースを安定させたいのです。

支援お疲れ様でした&ありがとうございました!
ということで、また次回。


>>44
ご指摘有難うございます。
なるべく改善にむけて努力いたします。

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